3026年2月2日、キースたち傭兵部隊『SOTS』の降下船群は惑星タンタールズⅣの近傍まで接近していた。この惑星は、恒星連邦のドラコ境界域X+方向に寄った位置に存在している。比較的近場には惑星タンクレディⅡや惑星カサイがあるが、だからと言ってさほど軍事的には重要な位置にも無く、ジャンプポイントに補給ステーションも無い価値の少ない惑星だ。人口は2,000万人強の人間が居住している。
この惑星は、かつては工業惑星であったが、今は3度に渡る継承権戦争で荒廃し、見る影も無くなっている。しかし工業を縮小したために公害が減り、自然が回復しつつあるのはある意味で皮肉な話だろう。今ではこの惑星は、軽工業と農業の惑星となっているが、ときたま価値ある物品が発見されることもあり、品漁りに歴史学者を自称する遺跡掘りがやって来ることも時々ある。
ただ、軍事的な要衝ではないとは言っても、橋頭堡として使えなくもない場所であり、そうでなくともドラコ連合に奪われると多少は痛い惑星でもあった。それ故、たった1個小隊であっても部隊を駐屯させていたのだ。そんな惑星に、2個中隊もの敵が攻めてくるとは誰も思っても見なかったのだが。
「ここまでは問題なく来れたな。」
キースは乗機であるマローダー――現在降下殻に収容されており、降下準備は整っている――の操縦席で、誰に聞かせるともなく呟いた。この惑星には大型レーダー基地の類は存在していない。というか昔にはあったのだが、故障して直せる者も存在せずに放置されているざまだと言う。
ジャンプしてくる航宙艦を発見するための深探査レーダー設備も、海軍基地に昔はあったそうだが今は壊れて使えない。ちなみにこの時代の海軍とは、海の上の軍隊のことではなく宇宙船の軍隊のことを指す。海の上の部隊は水軍とか水上部隊とか呼ばれている。
閑話休題、まあ敵がそれらの施設を占拠していたとしても、問題なしに接近できると言う物だ。逆に敵からすれば、それらに悩まされずにこの惑星を襲撃できたと言う話でもあるが。
(深探査レーダー設備も対宙監視用大型レーダーも無いなら、あと注意すべきは衛星による監視網と気圏戦闘機によるCAP(戦闘空中哨戒)だよな。)
『キース少佐、こちらブリッジのマシュー副長。お客さんです。80tのスレイヤー戦闘機が1機。IFFの反応は敵です。曰く、「所属を明らかにして、停船せよ」だそうです。他にもあと3機こちらに向け急行していますが、それらの機種はまだ判別できません。』
「了解した。レパード級ヴァリアント号、ユニオン級ゾディアック号、同級エンデバー号に通達し、気圏戦闘機隊に対し発進と敵機の迎撃を命じる様に。それと全降下船は気圏戦闘機隊を砲撃で支援。」
『了解。……マイク少尉が張り切って、ジョアナ少尉に突っ込まれてますな。』
苦笑しつつキースは、通信回線をサイモン老に繋ぐ。サイモン老は現在、地上における無線通信や放送電波を傍受し、できる限りの情報を集めようとしていた。
「サイモン少尉、何か有益な情報は拾えたか?」
『はい、隊長。敵の通信は暗号化されていて、復号は今のところ無理ですのう。ただし発信源は惑星守備部隊の拠点、マルボルク城ですわい。
つまり城は敵の手に落ちており、惑星守備部隊は既に敗退したか、さもなくば城を守り切れないと見て脱出したことになりますの。なおマルボルク城の上は厚く雲がかかっており、直接の観測は不可能ですわい。
……ちょっと待ってくださいな、隊長。一般人向けの放送で、逃走したタンタールズ公爵ノーマン・ディーコン閣下と、実際に惑星政府の政治を主導しているルッジェーロ・ルケッティ議長の行方を、賞金付きで探しておりますな。そしてそれを連れて逃げたと見られる恒星連邦の傭兵たちの行方も……。』
「なるほど、となると想定Bだな。できれば想定Aで行きたかったが、流石に6倍の戦力差で気圏戦闘機4機付きではアルバート中尉も持ちこたえるのは無理だったか……。」
ここで言っている想定Aは、『機兵狩人小隊』が持ちこたえてマルボルク城を保持できていた場合のことで、このときはマルボルク城に直接降下船を降下させ、共に追加の増援が来るまで籠城する予定であった。
想定Bは今の様に『機兵狩人小隊』が拠点を脱出し、何処かに隠れ潜んでいた場合である。こうなっていたときは、あらかじめ入手しておいた惑星上の地図から割り出した降下ポイントをバトルメックによる強襲降下で確保し、そこに降下船を降ろして地上での活動拠点とし、惑星守備部隊を救出して合流することになっていた。
ちなみに最悪の場合を意味する、想定Cと言うのも存在する。これは惑星守備部隊が完全敗北を喫していた場合のことであり、この場合は救援部隊である『SOTS』そのものが惑星守備隊の代わりとなり抗戦しつつ追加の増援を待つか、あるいは「悪いメックの後に、よいメックを投入する」のを避ける意味で撤退するかをキースの判断で決定することになっていた。
と、ここでマンフレート船長かマシュー副長のどちらかが、船の通信システムを介して送ってくれた気圏戦闘機隊からの戦果報告が入る。
『こちらライトニング戦闘機1番機、マイク少尉っす!敵スレイヤー戦闘機を撃墜!』
『ライトニング戦闘機2番機、ジョアナ少尉機です!敵シロネ戦闘機を撃墜しました!』
『ライトニング戦闘機3番機、ミケーレ少尉。敵シロネ戦闘機をライトニング戦闘機4番機と共に協同撃墜。』
『トランスグレッサー戦闘機1番機、ヘルガ少尉。敵スレイヤー戦闘機をトランスグレッサー戦闘機2番機、アードリアン少尉機と共に協同撃墜!』
キースは気圏戦闘機隊へ向かい、称賛の言葉と同時に指示を送る。
「気圏戦闘機隊、見事だ!想定敵戦力の気圏戦闘機は、これで全て撃墜したはずだ。敵の目は潰したも同然だ。これより指揮小隊は惑星上の予定ポイントBに強襲降下し、降下船の着陸地点を確保する。降下地点確保に成功後、全降下船はポイントBへ降下。ライトニング戦闘機1番機2番機は指揮小隊の、ライトニング戦闘機3番機4番機は降下船の降下を支援せよ。
トランスグレッサー戦闘機1番機2番機は、軌道上で野暮用を済ませてから降りてくれ。目標は軌道上にある偵察衛星だ。元からある物も、敵が降下前にばら撒いた物もあるだろうが、かまわんから全部撃墜しろ。上の許可は取ってある。この際だから、敵の目になり得る物は徹底的に潰しておく。」
『『『『『『了解!』』』』』』
キースが指揮小隊バトルメックの射出を命じようとしたとき、それに先んじてブリッジより通信が入る。
『キース少佐、MRB管理人ウォーレン氏が作戦前のご挨拶を、と。』
「了解だ。代わってくれ。」
『……キース・ハワード大尉、いや乗船中ですから少佐とお呼びすべきですな?』
「……かえって混乱するなら、隊長でも部隊司令でもかまいませんよ。」
『はは、では隊長で。隊長、今回はちょっとばかり大変そうですな。』
ウォーレン氏の声音はいつも通り飄々としていたが、キースはその中に隠しきれない緊張を感じ取っていた。いい加減この人との付き合いも長い。そう言うことがわかる様になって来て、おかしくは無いだろう。
「たしかに大変ですが、まだ最悪と言うには遠いでしょう。どうやら『機兵狩人小隊』は、なんとか逃げ延びている様ですし、惑星公爵や政治指導者も脱出させた模様です。合流までには手間がかかりそうですがね。」
『そうですな。では隊長、頑張ってください。地上で合流しましょう。』
「はい、地上で。ではまた後ほど。……指揮小隊、降下準備は!」
キースの声に応え、指揮小隊のメンバーが通信回線にがなる声が聞こえる。
『こちらマテュー少尉!降下準備よろし!』
『こちらアンドリュー軍曹!いつでもオッケーだぜ、隊長!』
『こちらエリーザ軍曹!こちらも準備OKよ!』
「よし!ブリッジ……マンフレート船長、マシュー副長、指揮小隊バトルメックを射出せよ!」
ブリッジからの返答が聞こえる。
『了解、少佐!副長!』
『了解!カウントダウン開始!60秒前!……30秒前!……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』
そして指揮小隊のバトルメックは、大気圏上層部へと向けて射出される。ライトニング戦闘機1番機と2番機が、それに追随した。
ここは人口密集地から離れた、山間の盆地である。キースたちの降下船4隻は、この盆地に着陸して周囲からその姿を隠していた。ちなみに万が一を考えて、念のために降下船の降下に先んじて指揮小隊を降下させたのだが、とりあえず周辺に敵影は無かった。
サンダーボルト、ウルバリーン、クルセイダー、グリフィン、フェニックスホーク等々、手が使えるバトルメックが、周辺の木々を根元から引っこ抜いて脇に積み上げ、マローダー、ライフルマン、ウォーハンマー、オリオンと言った手が無い機体が木を抜いた後の地面を踏んづけて平らに固めて行く。彼らは今、ここに急造の滑走路を作成しているのだ。この後適当な面積と距離が確保できたら、この地面の上に鉄板を敷いて完成である。滑走路が出来上がれば、気圏戦闘機やレパード級降下船の運用が楽になるのだ。
やがて地面を踏み固め終えたキースのマローダーが、フォートレス級降下船ディファイアント号のところへ戻って来る。そこには2台のスキマーに乗った、偵察兵のネイサン軍曹とアイラ軍曹がいた。キースは通信回線を開き、彼らに尋ねる。
「やはりスィフトウィンド偵察車輛や指揮車輛では、林道は通れないか?」
『はい、ちょっとばかり大きすぎますな。まあ目立つのはまずい任務ですんで、スキマーで行ってきますよ、隊長。』
『必ず『機兵狩人小隊』の手がかりを掴んできますね。手がかりを掴むか、あるいは接触できたなら、連絡します。』
そう、キースは彼ら偵察兵を派遣して、『機兵狩人小隊』の居場所を探そうとしていたのだ。とりあえず偵察兵2人は、ここから南にあるバーデナルと言う街に向かうことになっている。
「頼んだぞ。向こうの居場所がわかったら、レパード級ヴァリアント号で偵察小隊を送る。そしてその間、陽動として指揮小隊と火力小隊で一番近い敵部隊に攻撃をかける予定だ。ただし敵に『機兵狩人小隊』の場所がばれる様なことは、なんとしても避けてくれ。」
『了解です。まかせてください。』
『では行ってまいります。』
ネイサン軍曹が先にスキマーを発進させたが、アイラ軍曹がそれを追い抜いて車列の先頭に立つ。運転の技量はアイラ軍曹の方が高い様だ。キースはマローダーで彼らを見送りつつ、心の中で呟く。
(頼んだぞー。アルバート中尉たち、無事だといいんだけどなあ。さて、滑走路が完成したら、気圏戦闘機を偵察に飛ばさないとな。しかしこうなるんだったら、フェレット偵察ヘリコプターの搭乗員を早目に養成しておくんだったよ。気圏戦闘機より手軽に飛ばせるからなあ……。「後悔先に立たず」だよなあ。できれば「備えあれば憂いなし」の方を使いたかったなあ。はぁ……。)
キース、アーリン中尉、ヒューバート中尉、マテュー少尉、リシャール少尉、グレーティア少尉の6名は、作戦会議を開いていた。
「……と言うわけで、『機兵狩人小隊』の位置が判明したならば支援に偵察小隊と歩兵1個小隊をレパード級ヴァリアント号にて送り込む。その間、敵の注意を惹く陽動を兼ねて、近場の敵部隊に指揮小隊と火力小隊で攻撃をかけるわけだが……。アーリン中尉、航空写真は?」
「はい。気圏戦闘機の高高度偵察の結果、近場の敵バトルメック戦力は2ヶ所ありますね。バーデナルの更に南にある大きめの街、ギュンドタウンを押さえている小隊と、こちらの海軍基地に居座っている小隊。
航空写真の解析結果からは、前者がスティンガー、ワスプ、フェニックスホーク、ライフルマンの偵察小隊で、後者がハンチバック、ウルバリーン、ライフルマン、クルセイダーの火力小隊か指揮小隊的な編成ですね。ただし航空写真の解像度からは、機種自体は判別できますがそのバリエーションは判別できませんでした。もしかしたらK型が混じっている可能性も、おおいにあります。」
「で、どうします?陽動攻撃のお相手は。楽な方を取るならば、前者の偵察小隊ですが。」
ヒューバート中尉の意見に、グレーティア少尉が頷く。
「敵の視線を集めるだけならば、無理に強い敵と当たることは無いと思います。」
「うむ……。だが、今回はあえて二兎を追ってみたいと思っているんだ。」
キースの台詞に、アーリン中尉、マテュー少尉、リシャール少尉が苦笑する。だいたいこの答えを想像できていた様だ。意見を否定されたはずのヒューバート中尉すら、笑みを浮かべている。グレーティア少尉は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。キースは彼女にわかる様に説明する。
「この作戦は陽動攻撃であるからして、『機兵狩人小隊』から敵の目をそらし、こちらの存在に引き付けるのが最大の目的だ。もっとも、この降下船の着陸場所がばれるのは避けたいがな。であるならば、どちらに攻撃をかけても良いことになる。最悪、敵の撃破自体は失敗しても良い。攻撃を仕掛けたことが大事なのだから。
で、だ。二兎を追うと言うのは、この海軍基地の設備だ。ここには降下船や気圏戦闘機に必要な推進剤のタンクが設置されている。可能ならばこれを手に入れたい。これは元々恒星連邦に所属するこの惑星の資産であるからして、我々が緊急避難的に接収して使用するにあたっての法的抜け道もたくさん用意できる。
まあ、後々で使った推進剤の費用を支払う必要が出るかも知れんが。それにこれが敵の手にあると、敵がその気になれば自由に戦術的に降下船を使えると言うことでもある。
ここの海軍基地を奪取して、ここを拠点の1つとして使える様になれば……。戦略上の選択肢も増えるしな。」
「他にも理由はあるんでしょう?キース大尉。」
ヒューバート中尉が笑みを浮かべたまま言う。キースは重々しく頷いた。
「あとは偵察小隊らしき奴らが、街に陣取っていると言うことだ。都市への攻撃はアレス条約違反だからな。下手に都市に立て籠もられたりして、市街戦になりでもしたら敵味方双方にとってまずい事態になりかねん。普通の敵なら、こちらが近づけば街から出て来て対峙してくれるんだが、何せケンタレス大虐殺のドラコ連合だからなあ……。
それに正規軍ではないらしい敵だから、その辺は部隊のモラルしだいだ。傭兵部隊であるならば、逆に傭兵同士の仁義と言った機微を理解する相手かもしれんが……。万が一、ドラコ連合の暗部に属する不正規部隊だったりしたら目もあてられん。」
グレーティア少尉は納得した模様だった。
「了解しました。海軍基地ならば軍事施設ですから、もし戦いで破壊することになっても問題は無いわけですね。」
「まあ、あまり壊すと後から文句を言われるやも知れんがな。
と言うわけで、だ。第1目標は敵戦力の誘引、第2目標が海軍基地施設の奪還だ。敵戦力の撃破はその手段でしかない。まあ、バトルメック数や重量比から言って撃破も容易だとは思うが。それと、推進剤タンクは可能であれば無傷で入手したいが、いざとなったら破壊も許可する。敵の手に残しておいて、使い放題されるよりかはマシだ。」
「「「「「了解!」」」」」
とりあえずの方針は決まった。後は偵察兵たちからの連絡を待つだけだった。
彼らが惑星タンタールズⅣに降下してから、5日が過ぎていた。彼らは時折気圏戦闘機を飛ばす以外は、できる限り隠れ潜んでいた。無論彼らが臨時の基地を設営した盆地周辺の山地には、迷彩服を着た歩兵たちが警戒線を張っている。その警戒線から連絡が入ったのは、連盟標準時で午前11時頃、惑星の現地時間ではとっぷりと日が暮れた頃合いであった。
「こちらデファイアント号、部隊司令室。キースだ。」
『こちら歩兵中隊中隊長、エリオット中尉であります。大尉、ネイサン軍曹とアイラ軍曹が客人を連れて帰還しました。客人はエルンスト・デルブリュック曹長であります。』
「エルンスト曹長だと!?そうか、接触に成功したんだな。こちらに通してくれ、失礼の無い様にな。待ちわびたお客様だ。」
『了解です。』
キースはしばらく待つ。やがてインターホンが鳴り、客人の来訪を彼に知らせた。
「誰か?」
『ネイサン軍曹です、大尉。アイラ軍曹と、お客人も一緒です。』
「入室を許可する。」
ドアが開き、ネイサン軍曹とアイラ軍曹、それにエルンスト曹長が入室してきた。彼らはキースに敬礼を送る。キースもまた、答礼を送った。
「「ただいま戻りました、大尉。」」
「おひさしぶりです、キース大尉。大尉になられたのですね。」
「楽にしてくれ。曹長、軍曹たち。……4ヶ月には少し足りないか、エルンスト曹長。まあ短いとは言わんが、それでもこんなに早く再会するとは思わなかったな。」
「確かに……。」
エルンスト曹長は、ふっと自嘲気味に笑う。怪訝そうな顔をしたキースに、エルンスト曹長は今笑った理由を説明する。
「笑って済みません。これは自分を嗤ったんです……。自分の隊の危機に際し、情報収集のために隠れ潜んだ渓谷を出て来たと言うのに……。いつの間にか自分が尾行されていたことにも気付かなかったんですよ。変装はしていたんですが、何処で怪しいと思われたのやら。偵察兵の誇りが粉々ですよ。
路地裏に入ったときに、襲い掛かってきたそいつの更に後ろから、ネイサン軍曹が高速振動剣でそいつの心臓を一突きにして助けてくれたんです。」
ネイサン軍曹が変装したエルンスト曹長を助けられたと言う事は、ネイサン軍曹にもエルンスト曹長の変装はバレバレだったことになる。ネイサン軍曹は、エルンスト曹長を傷つけまいとしてか、沈黙を守ったままだった。
ふとキースは、エルンスト曹長の顔に暗い影が差しているのに気付く。キースは当初、変装に失敗したことを悔いているのかと思ったが、彼の勘はそれだけではない事を教えていた。その勘は、何かもっと悪いことがあると告げている。その事について尋ねようとしたとき、先んじてエルンスト曹長が口を開いた。
「キース大尉、貴部隊には腕の良い医者がいましたな。」
キースは、悪い予感が当たったのを知った。
夜闇の中、レパード級降下船ヴァリアント号が急造滑走路を疾走し、星ひとつない曇り空へと飛翔する。ヴァリアント号には偵察小隊および歩兵1個小隊の他、道案内のエルンスト曹長、サイモン老の一番弟子とも言える才長けた整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹と、医療のエキスパートであるキャスリン・バークレー軍曹が、先頃出物があったため財布に無理をして購入した機動病院車MASHと共に乗り込んでいた。キースはマローダーの操縦席で、溜息を吐く。
「はぁ……。「備えあれば憂いなし」の言葉を使いたいとは思ったが……。MASHの出番でその言葉を使いたくは無かったな。しかも本当に「憂いなし」で終われば良いんだが……。頼むから、間に合ってくれよ。」
急造滑走路からは、ライトニング戦闘機3番機と4番機がヴァリアント号の護衛のため、次々と飛び立って行く。キースは両手で自分の顔をパン!と叩く様に挟んで気合を入れると、麾下の部隊に命を下した。
「眠いところ済まんが、これより敵占領下にある海軍基地に夜襲攻撃を行う!これは陽動作戦だ!派手にやるぞ!できれば推進剤タンクは無傷で手に入れたいが、あくまで可能ならば、だ!もし撤退しなければならない場合は、行きがけの駄賃とばかりに吹き飛ばしてしまえ!指揮小隊、火力小隊、ライトニング戦闘機1番機2番機、トランスグレッサー戦闘機1番機2番機、出撃!」
『『『『『『了解!』』』』』』
指揮小隊と火力小隊のバトルメックが、盆地の外輪山を乗り越えて外界へと歩み出す。ライトニング戦闘機2機とトランスグレッサー戦闘機2機が、低速巡航モードで上空を飛翔する。キースはマローダーを歩ませつつ、心の中で祈る。
(頼むから、間に合ってくれよ……。軍医、キャスリン軍曹!)
キースたちのバトルメックは、闇の中に突進して行った。
主人公たちは、まず問題なく救援すべき惑星へとたどり着きました。ですが、そこで接触する事ができた『機兵狩人小隊』偵察兵、エルンスト曹長の言葉……。MASHの出番で、「備えあればなんとやら」とは、どういう事態か。待て次回!!