タンタールズⅣ海軍基地の周辺で、蠢動する影があった。20t級のバトルメック、スティンガーとK型ワスプ、45t級のK型フェニックスホーク、そして60t級のライフルマンからなる偵察小隊編成のバトルメック小隊である。このメック小隊は、一昨日からこの海軍基地周辺に出没していた。今までは海軍基地を拠点としている惑星守備隊の救援部隊は、このメック小隊を無視していたのだが、この日初めてこれを迎え撃つために基地から出撃して来た。
出撃して来たのは、キース率いる指揮小隊と、アーリン中尉率いる偵察小隊である。キースは各隊員に指示を下す。
「地雷原の抜け道Bを使って、地雷原の外へ出るぞ。地雷原に踏み込まない様に気を付けるんだ。それとスティンガーだけは逃がせ。わざと逃がしたと思われない様に、1~2発レーザーでも撃って、ぎりぎりで外してやれ。逆に逃がしてはいかんのがライフルマンだ。あれを逃がすと、気圏戦闘機が自由に動けない。サラ少尉たちの情報では、敵編成のライフルマンは2機。俺たちが1機既に潰しているから、あとはあの1機だけだ。」
『『『『『『了解!』』』』』』
キースたちの隊は、地雷原を不自然にじぐざぐに走行して敵小隊に迫る。これで敵小隊にも、地雷原の存在とそこを抜ける道の存在とがわかったことだろう。敵小隊は、急いで撤退しようとした。出撃してきた敵の編成他の情報がわかった以上、無駄に損害を被りたくないと言ったところだろうか。だがキースとアンドリュー軍曹の射撃技量は、尋常では無かった。既に敵は粒子ビーム砲と中口径オートキャノンの遠射程に入っていたのだ。
「アンドリュー軍曹、K型ワスプを!俺はK型フェニックスホークをやる!」
『了解っ!まかせろ隊長!』
アンドリュー軍曹機のライフルマンが放った2発の中口径オートキャノンの砲弾は、見事にK型ワスプの左胴に集中して命中した。その部位の装甲を全て剥がされてマシンガンの弾薬に直撃をくらい、K型ワスプは爆散する。メック戦士は脱出したものの、弾薬爆発の際の負傷で気絶した模様だ。
一方キースのマローダーが撃った粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門は、それぞれK型フェニックスホークの右胴、胴体真ん中、左胴に分散して当たる。普通のフェニックスホークよりも装甲の厚いK型フェニックスホークは、なんとか致命傷は避けられたものの、衝撃で転倒してしまった。
敵方のライフルマンは、キースたちの方を向いて後退しつつ、当たらない中口径オートキャノンを撃ちまくっている。どうやら自分に注意を引き付けて、スティンガーだけでも逃がそうとしているかの様だ。おそらく情報を、なんとしても味方の元に届けるつもりだ。偵察小隊の鑑と言える。
キースが偵察小隊に向けて叫んだ。
「アーリン中尉!そちらの小隊の機動力で、ライフルマンの後ろに回り込め!余裕があったらスティンガーの方に1発ほど無駄射ちを!」
『了解!』
過熱のため動きが鈍ったキース機は、それでも粒子ビーム砲を1門だけ、起き上ったばかりのK型フェニックスホークへ撃ち込む。アンドリュー軍曹機のライフルマンもまた、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を、敵の同型機へと発射。エリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトも、各々距離的に届く武装を敵機に発射しつつ距離を詰める。更にアーリン中尉麾下の偵察小隊の高機動メックが、ライフルマンの退路を塞ぐ。敵のメック小隊には勝ち目はもはや無かったが、それでもスティンガーを逃がすため、最後まで戦い抜いた。
「さて、第1段階は終了だ。ヴァリアント号とゴダード号は、各々早速火力小隊と『機兵狩人小隊』、および2個歩兵小隊を乗せて臨時基地へ向かってくれ。その後の行動方針とタイムスケジュールは、打ち合わせの通りに。」
『『『『『『了解!』』』』』』
戦利品の回収を仲間達に任せると、キースは一足先に海軍基地へ戻って、管制塔管制室から指示を出し始めた。
「サイモン少尉、指揮小隊と偵察小隊のバトルメックが戻りしだい、今回のメック戦闘で受けた損傷の修理と弾薬補充に入ってくれ。」
『了解ですわ。ジェレミー軍曹はヴァリアント号、ヴァランティーヌ曹長はゴダード号について行かせますんで手伝ってもらえませんがの。メックの修理に関してならばキャスリン軍曹にも叩き込んでありますでのう。装甲板の換装はわしら2人が主にやって、弾薬補給は他の整備兵に任せたとして、ざっと……。長くても120分後には再出撃可能ですわい。既に戻ってる、隊長のマローダーから始めますでの。』
「充分だ、そちらは任せたぞ。……オペレーター、先発させた偵察兵3名、およびライトニング戦闘機4番機からの報告は?」
キースは管制室のオペレーターに問う。問われたオペレーターは即座に返答した。
「はい、偵察兵3名からの報告は、未だありません。ライトニング戦闘機4番機、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉機ですが、こちらへ向かう敵バトルメックの1群を確認、総数は15機。先ほど逃走したスティンガーは、おそらくこの部隊と合流するものと思われます。なおゲルステンビュッテル少尉機は現在帰還中、推進剤補充の準備を要請しています。」
「了解した、とコルネリア少尉機には伝える様に。滑走路脇に推進剤のタンクローリーを準備させて、いつでも補充できる様にさせろ。」
「了解です。各所に通達します。」
そしてオペレーターがあちこちへの通達を終えた頃合いを見計らい、キースは再度質問する。
「敵バトルメック部隊のこちらへの到着予定時刻は?」
「現状のままの速度を維持したとして、今から8時間後の連盟標準時で09:00ちょうど頃、この惑星の当地域時間で夕刻の18:15頃です。」
「タイムスケジュール的にはほぼ計算通りだな。」
その時、基地滑走路の方から轟音が響く。レパード級降下船、ゴダード号が発進したのだ。その外装には大きな傷跡が走っているものの、ここ海軍基地にあった資材を活用したことと、サイモン老、ジェレミー軍曹、パメラ軍曹の3名の艦船に関するエキスパートが一致協力したことにより、当面運用するには問題ないレベルに修復されていた。勿論のこと、後できちんとしたドックに入り、修理を受けなければならないのは当然なのだが。
続いて、レパード級降下船ヴァリアント号もまた発進して行く。これだけ贅沢に降下船を輸送機代わりに使えるのは、推進剤の補給が潤沢であるからこそだ。今回の作戦も、推進剤が足りなければ実行不可能である。推進剤を快く提供してくれた海軍基地司令官ビアンカ・キルンベルガー中佐には、感謝することしきりであった。ともあれ、2隻のレパード級は山間部に設けられた臨時基地の方へと飛んで行った。
しばらくキースは、オペレーターたちと黙々と作業に励んだ。と、ここでオペレーターの1人がキースを呼ぶ。
「ハワード大尉、外線電話が入っております。ジェンキンス軍曹からです。」
「アイラ軍曹から?こちらの卓に繋いでくれ。」
キースは手近な卓の電話機に通話を繋いでもらうと、受話器を手に取る。
「こちらキース・ハワード大尉。アイラ軍曹か?」
『はい、こちらアイラ・ジェンキンス軍曹です。』
「無線通信機ではなく、惑星上の電話回線を使う、か。よく考えれば、通信傍受の可能性を考えれば理に適った手法だな。で、地下通路は使えそうか?」
地下通路とは、今は敵の拠点になっているマルボルク城から延びる、万が一のための緊急脱出路として造られた地下トンネルのことである。かろうじてバトルメックが通れるだけの広さがあるが、『機兵狩人小隊』脱出時に爆破され、半ば埋まっているはずであった。
ちなみにアルバート中尉が瀕死の傷を負ったのも、地下通路で脱出する羽目に陥ったからである。彼らは惑星公爵と惑星政府首班の議長をできるだけ安全に脱出させるため、レパード級ゴダード号を最初に囮として空荷で発進させて、敵気圏戦闘機とメック部隊の目を引き付けた。そして公爵と議長一行を城にあった兵員輸送車で先行させ、自分たちは殿として地下通路を通って脱出を図ったのだ。だが敵の偵察兵に地下通路の入り口を発見されてしまい、追って来た敵と地下通路内で戦闘になったのである。
最後尾に立っていたアルバート中尉のサンダーボルトは、カタパルト、ドラゴン、K型ウルバリーンの3機を擱座させたが自機も大きく損傷し、やむなくアマデオ伍長のシャドウホークと位置を交代しようとした。だがそれは間に合わず、敵のマローダーからの粒子ビーム砲を頭部に受けることとなった。緊急脱出したアルバート中尉は地下通路の天井に叩きつけられたのである。
そこをサラ少尉のD型フェニックスホークが拾い上げ、全力後退。アマデオ伍長のシャドウホークと、ギリアム伍長のエンフォーサーが必死で交戦しつつ後退して時間と距離を稼ぎ、偵察兵のエルンスト曹長と整備兵のヴァランティーヌ曹長があらかじめ仕掛けてあった爆薬を発見して起爆。地下通路は半ば埋まり、メックでの通り抜けは不可能となって『機兵狩人小隊』は逃げ延びることに成功したのだ。アルバート中尉と言う、尊い犠牲を払うことにはなったが。その後彼らは、何とか気圏戦闘機を振りきって不時着していたゴダード号と合流したのである。
電話口の向こうで、アイラ伍長はキースの問いに答えた。
『はい、バトルメックや車両での通り抜けは不可能ですが、歩兵であれば通行可能です。ジャンプ歩兵であれば、もっと楽に通り抜けできたんですけどね。』
「少し、歩兵全員に与えるには高い装備なんでな。うちの経済状況ではまだジャンプ歩兵の維持は難しい。で?出口付近の警備はどうだ?」
『甘い、の一言ですね。地下通路に突入する際無茶をしたんでしょう。メック用の扉自体が破壊されていて、歩兵2名が歩哨に立っているだけです。私とネイサン軍曹の2人で無力化できます。歩兵戦力は少ない模様ですね。作戦直前に実行する予定ですが……?』
少し考えて、キースは指示を下す。
「そうだな。作戦直前に実行し、目標周辺に歩兵部隊を進入させてくれ。」
『了解です。目標の位置はおそらく……?』
「ああ、事前の航空写真の解析結果からすれば、マルボルク城の離着床から動いてはいまい。それに、動かす理由も無い。相手が傭兵部隊だと判明した以上、目標を下手に危険にさらすことは経済的な理由から忌避するのは当然だ。では頼んだぞ。ネイサン軍曹とエルンスト曹長にも、よろしく言っておいてくれ。以上だ。」
『はい、では失礼します。』
電話は切れた。キースは受話器を置きながら考える。今のところ状況は想定通りに推移している。後の不安は、敵バトルメック部隊のここ海軍基地への到着予定時刻がずれる可能性だ。特になんらかの原因で遅れられると、作戦にとってかなり痛い。
(だけど、その辺は信頼しても良いだろうな。なんせアルバート中尉を追い詰めて倒した奴らだ。偵察小隊の士気や練度から言っても、悪くないどころかなかなかの強敵だと思う。情報を持って帰らせるスティンガーを逃がすために、俺たち相手にあれだけ粘れるんだからなあ。若干早まる可能性はあっても、遅れることは考えなくて良いだろうさ。)
そしてその予想は外れることは無かった。
連盟標準時で、3026年2月11日午前8時50分、惑星タンタールズⅣの現地時間で夕方18時4分、キースたち傭兵中隊『SOTS』の指揮小隊と偵察小隊は、自分たちが敷設した地雷原のかなり手前に展開し、敵がやって来るのを待ち受けていた。キースは呟く。
「来たな、予定通りだ。予定時間の少し前に来ると言うのは、紳士だな。……ふむ?なるほど。」
地雷原の向こう側に、敵のバトルメック部隊が姿を現す。キースはその数を数え、何やら納得の言葉を漏らした。アーリン中尉がその言葉を聞き、尋ねて来る。
『何が「なるほど」なんですか?キース大尉。』
「いや、な。あのとき逃げたスティンガーが戦列に加わり、しかも堂々と先頭に立って案内しているからな。勇敢だ、と思っただけだ。士気は高い物と見える。偵察小隊の仇討のつもりかな?まあ捕虜にしただけで死んではいないんだが。」
『確かに。最初の狙い目は?』
その言葉に、キースはにやりと笑って答えた。
「奴らはうちの指揮小隊の腕前を知っているはずだからな。2番手にいるK型ウルバリーンが遠距離射程に入りしだい、撃たせてもらおう。撃たない方が不自然だし、撃っても逃げんだろう。アーリン中尉たちも、当たり目があると思ったらいつでも撃ってかまわんぞ。ただしフェニックスホークはあくまでヒットアンドウェイを心がけること。」
『了解です。』
そうこう言っている間にも、敵部隊はできるだけ細い隊列を組み、道案内のスティンガーが歩いた後を正確に辿ってやって来る。それはキースたちがわざと教えた、地雷原の抜け道だった。普通ならばここでドカドカと間接砲撃を撃ち込むところだ。だがあえてキースはその手段を取らなかった。万一逃げ出されて降下船を呼ばれ、惑星を逃げ出されては困る。キースはここで相手を撃滅するつもりだったのだ。
そしてキースは指揮小隊に射撃開始を命じる。
「指揮小隊、射撃準備。目標、敵2番手のK型ウルバリーン。用意……撃て!」
『『『了解!』』』
キースのマローダーが、アンドリュー軍曹のライフルマンが、エリーザ軍曹のウォーハンマーが、マテュー少尉のサンダーボルトが、それぞれの長距離射程武器をもってK型ウルバリーンを狙い、射撃開始する。K型ウルバリーンは、一瞬で胴体真ん中の装甲板を突き破られてジャイロを破壊され、更に着弾の衝撃でその場で転倒してしまった。
先頭に立って歩いていたスティンガーが、全力走行に移行して地雷原の抜け道を走り抜ける。どうやら懐に飛び込んで囮となり、味方の突入を助けるつもりらしい。その後に続いたのは、これもまたスティンガー2機、そしてK型フェニックスホーク2機にジェンナー、ジャベリンである。更にその後ろに、もう1機のK型ウルバリーンとK型シャドウホークが続く。
だがここで、6機の気圏戦闘機による地上掃射が行われる。それは前衛に出て来た中軽量級ではなく、後方で固まって支援射撃の準備をしていたマローダー、ウォーハンマー、カタパルト、グリフィン、K型アーチャー2機に対して行われた。マローダー、ウォーハンマー、グリフィンと、味方側と同じ機体が3機も存在しているため、ちょっとややこしい。幸いなことにカラーリングが違うため、誤射は避けられそうである。
気圏戦闘機隊は、6機が縦一線隊形を取って連続で地上掃射を行った。ライトニング戦闘機1機あたり3門の中口径レーザー、トランスグレッサー戦闘機1機あたり3門ずつの大口径レーザーと中口径レーザーが降り注ぐ。敵の各バトルメックは、必死に応射を行った。
『こちらライトニング戦闘機3番機、ミケーレ・チェスティ少尉!装甲が限界です、離脱許可を!』
『同じくライトニング戦闘機4番機、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉です!こちらも喰らいました!離脱許可願います!』
『トランスグレッサー戦闘機2番機、アードリアン・ブリーゼマイスター少尉です!自分もやられました、離脱許可を!』
「ライトニング戦闘機3番機、4番機!トランスグレッサー戦闘機2番機!離脱しろ!」
『『『了解!』』』
敵の後衛にけっこうなダメージを与えたものの、味方気圏戦闘機の半数が戦力外になった。キースは思わず妙な考えを浮かべる。
(いちいち戦闘機名を叫ぶのは長くて、下手するといざという時に間に合わなくなるかも知れないな。何か適切なコードネームでも考えておこう。
……っと、もらった!)
キースはマテュー少尉のサンダーボルトの背後に回り込もうとしたジェンナーとジャベリンに、マローダー両手の粒子ビーム砲を1発ずつ撃ち込む。ジェンナーは右脚に、ジャベリンは胴中央にダメージを受けて、共に動きを止める。ジェンナーは腰骨に重いダメージを受けて移動できなくなった様で、ジャベリンはジャイロを破壊されたらしい。だが各々の機体は、同時にマテュー少尉機に対し全開で射撃をしていた。幸いにも着弾は機体各所にばらけた様で、サンダーボルトは依然として健在である。
そのマテュー少尉機は、K型フェニックスホークに対して胸に装備された中口径レーザー3基と2連短距離ミサイル発射筒を一斉に撃ち放ち、同時に両手でパンチを見舞っていた。K型フェニックスホークは射撃は各部にダメージが分散した様であったが、サンダーボルトの重い拳を2発まともに受けて、頭部が破壊されてしまう。メック戦士は無事に脱出した様だった。
一方でエリーザ軍曹のウォーハンマーは、もう1機のK型フェニックスホークに胴装備武器の一斉射撃を浴びせていた。K型フェニックスホークは、45t級にしては分厚い装甲をあっさりと剥がされて、あまつさえ転倒してしまう。そこにウォーハンマーの蹴りが振るわれ、K型フェニックスホークは左脚が完全崩壊して立ち上がれなくなった。
アーリン中尉麾下の偵察小隊は、グリフィンの援護のもと、2機のフェニックスホークと1機のD型フェニックスホークが、K型ウルバリーン、K型シャドウホーク、スティンガー3機を相手に翻弄している。ここでアンドリュー軍曹が叫んだ。
『隊長!例の「流星」が4つ!こっちに降りてくるぜ!もうぶっぱなしちまって、いいんじゃね!?』
「そうだな!サイモン少尉、ボールドウィン伍長、ロングトムⅢとスナイパー砲の出番だ!ロングトムⅢはBASE-OE-030060に、スナイパー砲はBASE-OE-030063に!風向と風力は事前の調査通り!機甲部隊、出番だ!戦車による支援砲撃を開始せよ!」
その台詞とともに、海軍基地の敷地内から一斉に『SOTS』所属の戦車部隊が出現する。そして適切な位置取りを行うと、中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル発射筒、10連長距離ミサイル発射筒、粒子ビーム砲などで一斉に援護射撃を開始した。敵のバトルメックは、慌てふためく。一切情報に無かった戦車12輛が、突然登場してキースたちのメックを支援し始めたのだ。泡を喰った1機のK型アーチャーが、2基の15連長距離ミサイル発射筒からミサイルを撃ち上げつつ、射撃を回避すべく横に移動する。と、その機体の足元で振動爆弾が爆発し、K型アーチャーは気圏戦闘機から受けた傷と合わせて左脚を吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。
敵は流石にまずいと感じたのだろう。どうやら敵の指揮官は、一時撤退を決めたらしい。前衛に出て来ていたK型ウルバリーンとK型シャドウホーク、スティンガー3機が下がり、後方にいた支援メック部隊もまた後ずさる。無論それらの敵からの射撃は行われ、主に前線に立っているマテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ軍曹のウォーハンマーに、時折命中弾が発生している。キースは熱くなった機体を冷却させるために粒子ビーム砲1門のみを撃ちながら、間接砲隊に命令した。
「サイモン少尉、ロングトムⅢを先ほどの地点からEに90m!その次はそこからNEに30mだ!ボールドウィン伍長はスナイパー砲を最終地点からEに60m、更にそこからEに30mへと順に撃ち込め!」
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そして敵の真上に、先ほど指示した最初のスナイパー砲弾が落ちる。命中したのはもう1機残っていたK型アーチャーだ。K型アーチャーは弱っていた胴中央の装甲板を吹き飛ばされ、エンジンの鎧装を2層まで破壊される。エンジンの異常発熱をもたらすそのダメージは、放熱器の数が少ないアーチャー系の機体には致命的だ。もはや装甲が残っていない前面よりも背面を敵に向けた方がましだと言うつもりか、K型アーチャーは後ろを向いた。
そして、そこには絶望が待っていた。
『お待たせしました、キース大尉!こいつらを逃がさなければいいんですね?』
「待っていたぞ、ヒューバート中尉。」
地雷原の外側、海軍基地とは反対側に、4機のバトルメックが次々と着陸する。その機体には、制動ジェットが装着されていた。無論のこと、『SOTS』火力小隊のバトルメックたちである。火力小隊の機体は、制動ジェットをパージし、身軽になると敵部隊の背後から砲火を浴びせる。
そう、彼ら火力小隊はユニオン級降下船ゾディアック号を用いて大気圏外へ出て、そこから敵陣の後ろに強襲降下したのである。作戦の初期案では、敵を逃がさないためにIR偽装網を使って地雷原の外側に伏兵しておく予定だったのだが、敵の能力しだいでは伏兵が見破られる、との意見が偵察小隊のリシャール少尉から出たのだ。そこで代替案として浮上したのが、この敵陣後方への強襲降下であった。ちなみにこんな無茶な案を出したのは、ヒューバート中尉自身である。敵が出現するタイミングが遅れていれば、敵がやって来る前に敵の眼前に降下しているという間抜けな事態になっていたかも知れない。
キースはヒューバート中尉の部下に声をかける。
「ロタール軍曹、カーリン軍曹、2人はシミュレーターでしか強襲降下はやったことが無かったな。大丈夫か?」
『は、はい!だ、だい、大丈夫です!』
『おえっぷ……。いえ、無事、です!』
あまり大丈夫そうでも無かったが、空元気も元気のうち、やせ我慢でもやってもらわねば困るのだ。ここは踏ん張ってもらおうと、キースはあえて騙されてやる。
「そうか、なら大丈夫だな!よし、サイモン少尉、ロングトムⅢを最終地点からSに60m、ボールドウィン伍長はスナイパー砲を最終地点からSに30mだ!」
スナイパー砲の第2弾が着弾する。今度は敵指揮官機の1機、ウォーハンマーの頭上だった。敵のウォーハンマーは、左腕の粒子ビーム砲を折り取られる。そこにヒューバート機の大口径オートキャノンが背後より炸裂し、右胴に装備された6連短距離ミサイル発射筒を目茶目茶にした。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
そしてスナイパー砲の第3弾と共に、ようやくここでロングトムⅢの初弾が敵の真上に降り注いだ。これは前衛に出ていたK型ウルバリーン、K型シャドウホーク、スティンガー3機が集まっていた場所に着弾し、各々を吹き飛ばす。特に装甲の薄いスティンガー3機は、あっさりとその動きを止めていた。かろうじて形は残っているから、おそらく修復は可能であろう。だがこの戦闘中には動ける様には見えなかった。
敵機を叩きのめしているのは間接砲だけではない。アンドリュー軍曹のライフルマン、エリーザ軍曹のウォーハンマー、マテュー少尉のサンダーボルトからの攻撃も、次から次へと命中している。キース自身の機体であるマローダーも、遠距離射程だと言うのに非常に高い命中率を誇っていた。
それに加え、偵察小隊の4機のバトルメック、機甲部隊の戦車12輛、敵陣の後ろには4機の火力小隊機までおり、上空からは散発的にまだ無事な気圏戦闘機が攻撃を仕掛けてくる。あげくに敵機がいるのは、地雷原の只中に空いた狭い空間でしかない。敵機は次々に倒れ、あるいは行動不能になって行く。
と、ここで敵のマローダーとウォーハンマーが降伏の信号弾を打ち上げた。その他の生き残っている敵のメックも、次々に降伏信号を打ち上げる。同時に一般回線と敵機の外部スピーカーから、マローダーに乗る敵指揮官の悔しげな声が聞こえた。
『降伏する……。これ以上やれば、必ず部下が死ぬからな……。これだけやってくれたんだ、逃がすつもりも無いのだろう?』
「降伏を認めよう。それと急いでこっちに来い。撃ってしまった間接砲の弾は、止めようがないからな。」
『わかった。おい!急いで移動するぞ!』
降伏した敵バトルメックたちが、慌ててそそくさと場所を移動する。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
さっきまで敵バトルメックがいた場所に、スナイパー砲とロングトムⅢの砲弾が着弾して火柱を上げた。それを眺めながら、マローダーの敵指揮官が悄然として言葉を発する。
『……しかし各個撃破の千載一遇の機会だと思っていたのだがな。1個大隊規模の増援を送り込んでおきながら、わずか2個航空小隊でこの基地を奪い返したと聞いたときには、大戦力に溺れて戦力分散の愚を犯してくれたとばかり思っていたが……。流石にそう甘くはなかったか。
こちらの雇い主であるクリタ家は傭兵に厳しいからな。作戦目的を達成せずにただ戻ったとあらば、もうどうしようも無くなるのは目に見えていたしな。ある程度の戦術的勝利でも得られれば言いわけ程度には、と思ったが……。だが結局は無謀な賭けだったか。』
キースは「1個大隊規模の増援」と言う言葉を聞き、この敵指揮官が勘違いしていることに気付く。まあ普通、1隻がレパード級とは言え4隻の降下船を持って来て、中身が1個増強中隊だなどと言うことは思わないだろう。いや、厳密に言えば増強中隊と言うよりは混成大隊なのだが、キースが偉くなるのを嫌がり、増強中隊と言い張っているのだが。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
誰もいない場所に、再びスナイパー砲とロングトムⅢの砲弾が着弾する。味方歩兵部隊は今別任務に出払っているので、海軍基地の軍人たちが降伏した敵メック戦士たちを拘束していった。
そして海軍基地での戦闘が終了して1時間もしないうちに、サラ少尉からマルボルク城の通信施設を使って連絡があった。曰く、敵のユニオン級降下船ハタカゼ号とシマカゼ号を制圧し、鹵獲されたアルバート中尉のサンダーボルトを取り戻したそうである。
その方法はと言えば、こちらも軌道上からの強襲降下であった。『機兵狩人小隊』の3名のメック戦士は、ユニオン級降下船エンデバー号に乗り一度大気圏外へ出て、そこからマルボルク城の降下船離着床へと直接降下したのである。地上から城壁を破るよりは、確実に城内へ入ることができる手段であった。
そして彼らが降下船および降下船から出撃した修理半ばの60tメック、ドラゴンの相手をして気を引いている間に、忍び寄った『SOTS』の歩兵部隊が2隻のユニオン級を制圧し、ドラゴンのメック戦士を観念させて降伏に追い込んだのである。
通信に出たサラ少尉は、キースに礼を言う。
『お礼申し上げます。』
『サラ少尉!それじゃわかりませんて!ちゃんとエンデバー号や、俺たち、いえ自分たちの損傷したバトルメックの代わりや歩兵戦力まで貸してくれて、どうもありがとうございましたって言わなきゃ!』
ギリアム伍長の言った通り、キースは彼らに『SOTS』の予備メックを一時貸与していた。しかもD型フェニックスホークの乗り手であるサラ少尉には同じくD型フェニックスホークを、エンフォーサーの使い手であるギリアム伍長には同型機たるエンフォーサーを、シャドウホークを駆るアマデオ伍長にはまったく同じシャドウホークを、と言った具合である。
これらの機体を貸した理由は単純で、『機兵狩人小隊』の酷く損傷したバトルメックを修復する時間的余裕が無かったのと、キースが奪還した元『BMCOS』のバトルメックの中で修理完了していた機体に、彼らの乗機と同じ機体が存在していたからである。これがもし違う機体を貸していたとしたら、機種転換訓練を経ていない状態で乗らざるを得ないので、『機兵狩人小隊』のメック戦士たちの疲労は著しかっただろうし、満足に機体を扱えない可能性も高かった。しかし貸した機体がそれまで乗っていた機体と同じであったことで、彼らはその能力を十全に発揮することができたのである。
ちなみに貸した機体は、さすがに無傷とは行かなかった。特に機動性の低いエンフォーサーが、いくつか直撃を受けており、装甲がかなりやられていた。だがキースが笑って許したため、エンフォーサーに乗っていたギリアム伍長はひどく恐縮した物だ。ちなみにキースからすれば、装甲板がやられただけなら契約によって恒星連邦から装甲板代が支給されるから、そこまで気にすることでは無いのだが。
2日後、キース含む『SOTS』の面々は、『機兵狩人小隊』メンバーと共にマルボルク城に滞在していた。コムスターのHPG施設を介して送られてきたメッセージによれば、恒星連邦政府は、指揮官を喪い契約遂行能力を失った『機兵狩人小隊』との契約を、メッセージ到着時点で解除することが記されていた。
ただし報酬は契約満了時点までの分支払われるし、戦闘報酬も全て支払われることが明記されていた。おそらくこれは、惑星政府首班であるルッジェーロ議長の何らかの上申や、ノーマン公爵による宮廷での友人などを介した工作が行われた結果であろう。
ちなみにそのメッセージには、キースたちに対する指示も含まれていた。キースたち『SOTS』は、連盟標準時で3026年2月18日までこの惑星に滞在して惑星守備隊の代理を務め、その前日に惑星タンタールズⅣ到着予定の第2次救援部隊改め新規の駐屯部隊に駐屯任務を引き継ぐこと、となっていた。本日は連盟標準時で2月13日であるからして、既にジャンプポイントには新規の駐屯部隊がやって来ているはずである。
今マルボルク城の司令室で、キースはサラ少尉と向き合っていた。彼の隣にはアーリン中尉が控えており、サラ少尉は彼の目の前で直立不動の姿勢を取っている。空気の読める男ヒューバート中尉は、自分だけがアルバート中尉と無関係だからと席を外していた。キースはサラ少尉に尋ねる。
「これからどうするつもりだね?連盟標準時で18日まで待ってくれれば、『SOTS』が専属契約している航宙艦で何処へなりと送るが……。」
「はい。ありがとうございます。惑星ペリディドまでお願いいたします。」
惑星ペリディドは、恒星連邦の南十字星境界域に属する、いわゆる後方惑星だ。だがその惑星が何なのか、キースとアーリン中尉は説明を待った。サラ少尉は何も話さずにただ立ち尽くしている。アーリン中尉は思わず呟いた。
「……え?それだけ?」
「……あ。」
サラ少尉は、自分が何の説明もしていなかったことにようやく気付いたらしい。今ここには、突っ込み役のギリアム伍長はいない。サラ少尉はうろたえる様に目を泳がせた。何とはなしに小動物の様で可愛らしい。まあ実はこの3名中で、一番年上であったりするのだが。
「そ、その惑星にはアルバート中尉の家があるのです。中尉のお骨と遺品をお返ししなければなりません。」
「なるほど。アルバート中尉がお亡くなりになった事は、伝わっているのか?誰かがコムスターのHPG施設か商用降下船にメッセージなり手紙なり託したのかな?」
「ヴァランティーヌ曹長がHPG施設に出向きました。」
「そうか……。彼女はアルバート中尉の郎党だし、それ以外にいないか。」
ちなみにお骨は、火葬した後散骨するか、家族の家に安置されるのが普通である。土葬の習慣もあるし、この時代宇宙葬も多いが、アルバート中尉はこの件について遺言を残さなかったため、とりあえず輸送し易い火葬にしてその後の処置は家族の意見を聞くことになったのである。おそらくは散骨の場所に宇宙を選ぶ、宇宙葬を望まれるのではないか、と思われるが。
キースは、頷く。
「うん、いいだろう。ついでだし、惑星ペリディドで隊員の短期の休暇を取ろう。」
「それは良いですね。隊員たち、まともに休暇を取ってませんでしたからね、最近。まあドリステラⅢでの駐屯任務は終わりの方は何事も無かったから、休暇みたいなものだって言う人もいましたけど。」
「本当は長期の休暇をやりたいところなんだが、あまり休んでいると部隊の予備費が尽きる。……ん?サラ少尉、どうした?」
未だ挙動不審なサラ少尉に、キースはその態度の理由を尋ねる。サラ少尉はしばし悩んでいた様だが、思い切った様子で口を開いた。
「キース大尉とアーリン中尉にお願いです。私やヴァランティーヌ曹長と共に、アルバート中尉のご家族にお会いしてください。」
「「え?」」
唐突な願いに、キースとアーリン中尉は固まる。サラ少尉は、自分頑張りました、と言う雰囲気を漂わせつつ、ただそのまま立っていた。
ちょっとこの回は、作戦に凝り過ぎた感がありますね。いえ、凝り過ぎたと言うよりは、無理があったなあ、と。劇的に見せるために、強襲降下作戦を選んだのです。選んだのですが……。敵を逃がさないためなら、何か他にも……方法が……。
まあ、でも。ノリと勢いで書いていた部分も多いですし……。ですがやはり、内容自体は改定せずに、旧作のまま出す事にいたしました。