鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-036 機兵狩人の名』

 惑星ペリディドは、自然と都市とが調和した風光明媚なところだった。今の日付は3026年3月1日、『SOTS』の4隻の降下船は、ペリディドの首都トリオムの宇宙港、トリオムポートに着陸していた。ちなみにここの首都は、珍しく惑星名とはかけ離れた都市名を持っている。

 なお、『SOTS』に同行している『機兵狩人小隊』所有降下船であるゴダード号は、この惑星上には着陸していない。ゴダード号は損傷を修理するために、この惑星がある星系に存在していたゼロG乾ドックへ入渠している。

 そのため、『機兵狩人小隊』の面々は自分たちのバトルメックと共に、『SOTS』所属のフォートレス級降下船ディファイアント号に同乗していた。

 いつものジャスティン・コールマン伍長が、宇宙港周辺の大手レンタカーチェーンの店舗よりレンタルしてきた14人乗りのミニバスを、船倉に直結しているメック・重車両用の傾斜路を使ってディファイアント号の内部に乗り入れて来た。彼は船倉内で待機していたキースたちに報告する。

 

「手配していた車輛を受領して参りました!レンタル期間は本日を含め、1週間であります!」

「ご苦労、ジャスティン伍長。アーリン中尉、サラ少尉たち、それにパオロさん、乗車を。」

「「「「「「はい!」」」」」」

「はい、ご苦労さまです。」

 

 最後に言葉を発したパオロと言う人物は、MRBより派遣された『機兵狩人小隊』担当の任務管理人、パオロ・アブルッツィ氏のことである。本来であれば『機兵狩人小隊』の任務が終了した以上、惑星ガラテアに帰還しているはずであるのだが、特に請われて共に惑星ペリディドへとやって来ていた。余談ではあるが、『SOTS』担当の任務管理人ウォーレン・ジャーマン氏もまた、一緒にこの惑星へとやって来ていたりする。

 彼らは次々にミニバスへ乗り込む。キースはジャスティン伍長に軽く謝罪する。

 

「すまんな、ジャスティン伍長。せっかくの休暇中に駆り出す真似をして。本当ならば俺の郎党であるサイモン少尉を運転手にする予定だったんだが、少尉は嬉々として休暇返上で、ゴダード号の修理の手伝いに行ってしまったもんでな。」

「いえ!わざわざ呼んでいただき、光栄であります!」

 

 ジャスティン伍長は、本気で光栄だと思っている様子だ。サイモン老が居ないのは、キースが言った通りに嬉々としてゴダード号の修理に行ってしまったためである。ただし修理の手伝いと言うよりは、おそらくは彼自身が修理の指揮を取ることになるであろう。

 更には彼の愛弟子とでも言うべきジェレミー・ゲイル軍曹と、コンピュータ及び艦船整備のエキスパートたるパメラ・ポメット軍曹、そして彼らやサイモン老の技術の幾ばくかなりとも修得せんとする数名の整備兵に、彼ら付きの助整兵たちまでもが付いていってしまった。

 たぶん間違いなくゴダード号の修理に関しては、人員を借りる必要なしに行われるであろう。いやゼロG乾ドックの作業員たちの方で、サイモン老に教えを請うことになるやも知れない。かなりの費用の節約になるはずだ。まあ設備の使用料や資材の購入費用は取られるだろうが。

 

「では発車いたします!ヴァランティーヌ曹長、ナビゲーションをお願いします!」

「わかりましたわ。まず中央幹線道路に入って南下してくださいませ。」

 

 キースたちを乗せたミニバスは、ゆっくりとデファイアント号の船倉を出て、しだいに速度を上げた。目的地は、アルバート中尉が家族のため、この惑星に借りている家である。

 ちなみに借家人名義はアルバート中尉本人ではなく、彼の妻になっているため、彼の戦死によって借家人変更などの手間がかかることは無い。財産もそのかなりの部分が妻と娘に生前贈与されており、故人が万一の場合にあらかじめ備えていたことが察せられる。

 ミニバスは幹線道路を南下し、首都郊外へと向かった。

 

 

 

 今キースたちは、やや小さ目の品が良い住宅の前に立っていた。もっとも前世が21世紀の日本人で、今世も降下船暮らしとメック戦士養成校の学生寮住まいだったキースからすれば、充分立派な家だと感じる。

 

「さて……、と。ヴァランティーヌ曹長。」

「はい。サラ少尉、申し訳ありませんがアルバートさまを……。」

「わかりました。」

 

 サラ少尉が、ヴァランティーヌ曹長が持っていたアルバート中尉の遺骨その他遺品の類を受け取る。ヴァランティーヌ曹長はドアの前に立つと、ドアホンの呼び出しボタンを押した。ドアホンからは、すぐに返事が戻ってくる。

 

『はい、イェーガーです。どちらさま?』

「わたくしです、奥様。ヴァランティーヌですわ。」

『あら!ヴァランティーヌさん!今、開けますね。』

 

 そしてドアが開く。そこには小柄で清楚な、どこか可愛らしい雰囲気を持つ女性が立っていた。ヴァランティーヌ曹長が挨拶をする。

 

「お久しぶりでございます、奥様。……この度は、わたくしどもの力不足でアルバートさまを……。」

「ううん、言わないでちょうだい。貴女たちが力を尽くさなかったわけが無いわ。……こちらの方たちは?MRBの管理人のパオロさんや、あの人の部隊の人たちが大半ですけど、お会いしたことが無い人も3人ほどいらっしゃるわね?」

「この方たちは、アルバートさまの最後の戦友ですわ。」

 

 キースとアーリン中尉は、1歩前に出て敬礼を送る。ジャスティン伍長も1歩前へ出るが、歩兵なので敬礼は送らない。

 

「自分はキース・ハワード大尉です。傭兵中隊『SOTS』部隊司令をしています。生前のアルバート・イェーガー中尉には、自分が中尉だった時分に色々と世話になりました。

 こちらは部下のアーリン・デヴィッドソン中尉です。彼女はサラ少尉、ヴァランティーヌ曹長と共に、イェーガー中尉の最期を看取りました。」

「アーリン・デヴィッドソン中尉です。傭兵中隊『SOTS』偵察小隊の小隊長です。同じくイェーガー中尉には、多分にお世話になりました。」

「自分はジャスティン・コールマン伍長であります!自分はただの運転手なので、お気づかい無く願います!」

 

 アルバート中尉の奥方の顔が、「最後」「生前」「最期」などの言葉に、ふっと曇る。戦死の知らせが届いてから2週間以上経つはずだが、やはりまだ辛いのだろう。だが奥方は、それでもにっこり微笑むと、自己紹介する。

 

「私はケイト・チェンバレン=イェーガーと申します、ハワード大尉、デヴィッドソン中尉、コールマン伍長。よろしければケイトと呼んでください。あの人のことも、他人行儀ではなくアルバートでけっこうですのよ?」

「了解……。いえ、はい、わかりました。ケイトさん、よろしくお願いします。こちらの事も、ファーストネームでかまいません。」

「私もアーリンでかまいません、ケイトさん。」

「はっ!自分も同様に願います!」

「あら、いけない。お客様をこんなところでお待たせしてしまって。中へお入りになって。今、お茶をお出しします。」

 

 キースとアーリン中尉、『機兵狩人小隊』の面々は、家の中に招き入れられる。狭くも無いが広くも無い応接間が、いっぱいになった。サラ少尉が、手に持っていた物をヴァランティーヌ曹長に手渡す。ヴァランティーヌ曹長はそれを更にケイトに手渡した。

 

「これがアルバートさまのお骨と、遺品ですわ……。」

「そう……。これがあの人の……。うっ……。く……。」

 

 お骨が収められた小さな金属容器を受け取り、悲しみがぶり返したのかケイトは、我慢しきれずに涙を零す。誰も口を開かない。静かな部屋の中に、小さな嗚咽だけが響いていた。サラ少尉が懐からハンカチを取り出し、ケイトに渡す。

 

「……ありがとうございます。よろしければ、あの人のお話を……。」

 

 その時、ドアホンの音が鳴る。そしてドアホンの親機から少女の声が聞こえた。

 

『ママ、ただいま。』

「あら、ちょうど良かったわ。……お待たせ、イヴリン。今開けるわ。」

 

 ケイトは玄関へと向かい、そして1人の小柄な少女を連れて戻ってきた。学校帰りらしく、少女は鞄を持っている。ケイトは彼女を紹介した。

 

「あの人の部隊の人たちはもう知っているでしょうけれど、キース大尉とアーリン中尉、ジャスティン伍長がいらっしゃるから、あらためて紹介いたしますわね。これが娘のイヴリンです。イヴリン、ご挨拶なさい。」

「……はじめまして、イヴリン・イェーガーです。メック戦士、アルバート・イェーガーの娘です。」

 

 少女イヴリンは、真っ直ぐにキースたちの方を見て力強く言った。キースは思わず内心で関心する。彼女はキースの迫力に怯えたり気圧されたりしていない。大物の素質を持っているやも知れなかった。いや、よく考えれば母親であるケイトも、キースに対し驚いたりした様子を見せなかった。遺伝なのかもしれない。

 キースとアーリン中尉は頷くと、自分たちも自己紹介する。ちなみにジャスティン伍長も、それに追随した。

 

「傭兵中隊『SOTS』部隊司令、メック戦士キース・ハワード大尉だ。よろしくな、お嬢さん。自分のことはキースでかまわない。」

「同じく『SOTS』偵察小隊小隊長、メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉よ。わたしのことはアーリンでいいわよ。」

「自分は『SOTS』所属歩兵中隊の歩兵下士官、ジャスティン・コールマン伍長であります!どうかお好きにお呼びください!」

「よろしくお願いします、キース大尉、アーリン中尉、ジャスティン伍長。私もお嬢さんではなしに、イヴリンと呼んでください。今日はパパ……父のことで?」

 

 キースはイヴリンの目に一瞬悲しみがよぎるのを見て、彼女が既に父の死を知らされていることを確信する。戦死の報せが届いて2週間も経っているのだ、当たり前のことではあるだろうが。

 

「ああ。今日は君のお父上のお骨と遺品をお返しに伺った。今しがた、ケイトさんにお渡ししたところだよ。」

「パ、父の……。」

「無理する事は無い、イヴリン。パパでかまわないよ。」

 

 キースは自分に可能な限り、優しく微笑んで言う。イヴリンは頷いて、お骨の入った金属容器を手に取る。

 

「これがパパの……。随分……ちっちゃくなっちゃった。」

 

 イヴリンは天井を見上げる。その目は涙ぐんでいた。おそらく涙を零すまいとしているのだろう。ケイトは優しく言う。

 

「……泣きたかったら、泣いてもかまわないのよ?」

「ううん。泣かない。もう、たくさん泣いたもの。それにいつまでも泣いてたら、きっとパパが困るもの。」

 

 イヴリンの言葉に、キースはかすかに微笑む。その後は、生前のアルバート中尉について色々と話しながらのお茶になった。キースは自分が知る限りのアルバート中尉の思い出を話したし、アーリン中尉はアルバート中尉のいまわの際の様子について事細かに話した。

 そしてMRB管理人のパオロ氏、サラ少尉やギリアム伍長、アマデオ伍長、エルンスト曹長にヴァランティーヌ曹長、更には整備兵たちに至るまでもが、アルバート中尉との思い出を自分に可能な範囲で語る。まあお約束としてサラ少尉の言葉が足りず、ギリアム伍長に突っ込まれていたりするのだが。キースはしみじみと思う。

 

(アルバート中尉は、本当に慕われていたんだなあ……。そう言えば、ゴダード号の修理のため来られなかったヴォルフ船長やオーレリア副長、ゴダード号機関士たちも来たがってたっけ。ゴダード号が壊れてなければって、悔しがってたなあ。)

「これがパパの遺品ね?ママ、2つ3つ、貰ってもいいかな?」

「ええ、いいわよ?」

 

 イヴリンは遺品の入った袋から品物を取り出して、テーブルの上に並べた。キースはその中の物品に見覚えがあるのに気付き、わずかに目を見開く。

 

「この腕時計、なんかアンティーク趣味のパパっぽく無いけど、多機能な上に頑丈そう。こっちの電卓も、パパっぽく無いかな、女の人が使う物みたい。」

「ああ、その関数電卓は、私がアルバート中尉と一緒に仕事をした記念にって、万年筆と交換したのよ。そっちの腕時計は、たしかキース大尉が同じくアルバート中尉の懐中時計と交換したんじゃなかったかしら?」

 

 アーリン中尉が説明する。イヴリンは、納得した模様だ。そこへヴァランティーヌ曹長が口を挟んだ。

 

「アルバートさまは、それらを大切に愛用なさっていらっしゃいましたわ。大事な戦友との記念の品だと……。特に腕時計の多機能ぶりには、たいそう助けられた模様でしたわ。電卓についていた占い機能には、時折閉口していた様でしたけれど……。いったいどんな占い結果が出たのかは、お教えいただけませんでしたけれど。」

「あう……。」

 

 アーリン中尉が凹む。やがてイヴリンは、3つの品を選んで残りを袋に仕舞う。1つは使い古した様に見受けられるアンティークっぽい十得ナイフ、1つはアーリン中尉からアルバート中尉に渡った関数電卓、最後は元キースの物だった腕時計である。キースはイヴリンに尋ねた。

 

「その時計と電卓は、お父上とそう長い間一緒にあった品物では無いが、いいのかね?」

「うん、じゃない。はい、キース大尉。私やママは、パパと違ってアンティーク趣味はあまり無いんです。なのでできるだけ実用品として使える物を、と思いまして。思い出の品としてだけ死蔵するのなら、それでもいいんでしょうけど、それではなんとなく……。その……。パパに申し訳なくて。

 それに、パパが大事に愛用してたって……。ちゃんとパパの匂いって言うか、想いって言うかは、宿ってる様に感じるので。」

「そうか……。」

 

 ふとキースは、自分の軍服の懐に手をやる。そこにはあの腕時計と交換した、アルバート中尉の物だった懐中時計が入っている。キースはそこにもアルバート中尉の想いが宿っている様に感じた。

 同時に彼は、自分の胸元も強く意識する。そこにはかつて自らの父、ウォルト・ハワード大尉の乗機であった65tバトルメックのエクスターミネーター、個体名デスサイズの装甲板から削り出した、『SOTS』の部隊エンブレムを象ったペンダントが下がっていた。キースはそこに、自分の父の想いが残っているような気持ちになる。

 

(死んだ人の居場所は墓の中やあの世じゃない、残された者の心の中だって言ったのは、誰だったかなあ。なんかの小説かドラマであった台詞かも知れない。……死んで生まれ変わった経験を持つ俺の言うことじゃないかも知れないけど、残された者にとっては真実かもなあ。)

 

 やがて思い出話も終わった頃合いに、サラ少尉が話を切り出した。バトルメックの継承に関する話である。

 

「サンダーボルトは修理完了です。いつでもお引渡し可能です。」

「ですが、まだこの子は12歳ですし……。」

「サラ少尉、また言葉が足りませんよ!」

「あ……。で、ですのでイヴリンさん成人を待ってメックを継承するということで……。」

 

 ところが、当のイヴリンがサラ少尉の言葉に異を唱える。

 

「まってください、サラ少尉!それでは遅すぎます!」

「「え?」」

 

 サラ少尉とケイトは思わず点目になる。イヴリンは更に言いつのった。

 

「うちは爵位も無いし、権威も無いわ。そう言う意味では逆にメック戦士としての責任も薄い一族だとは思う。けれど、成人までの間メック戦士の義務を果たせないとなると、必ず後ろ指を刺されることになるわ。」

「だ、だけどイヴリンあなた……。」

「そ、それでは16歳からと言うことでは……。」

「16歳からでも同じことだと思います、サラ少尉。4年もの間、イェーガー家のバトルメックが戦場に出られないって評判は、うちの家にとって致命的だわ。」

 

 そしてイヴリンは、今度は母親に向き直る。

 

「ママ、それにバトルメックを動態保存の状態で維持するには、大金が必要なのはわかってるでしょ?月平均、5,000Cビル、ダヴィオン家発行のお金に換算して5,500DHビル。パパがいくらお金を遺してくれたかわからないけれど、16歳までだと47ヶ月だから258,500DHビル。

 これは何事もなかった場合のことだから、動かさないで放置しておいた間に、何か具合が悪くなったり、万が一致命的な故障でも起きれば、更に莫大な修理費用がかかっちゃうのよ?静態保存ならそこまでお金かからないだろうけど、もしものこと考えると動かせる状態にしておく必要があるわ。だから静態保存って手は絶対取れないのよ?」

「あうあう……。」

「……イヴリン。」

 

 おもむろにキースは、イヴリンに話しかける。

 

「メック戦士養成校に入学するのはどうだ?君の年齢では難しいかもしれないが、前例が無いわけではない。それにすぐ合格できなくとも、1~2年ならば待てなくもないのでは?

 メック戦士養成校在学中はメック戦士の扱いの上、基本的に学費も要らんし給与も出る。学校によってはメックの面倒も無償で見てもらえる。そうでない学校でも、卒業後に費用を返還する契約を結べば良いだろう。」

「それも考えたわ、いえ考えました、キース大尉……。でも今年はもう願書や推薦書などの問題で受験資格が無いですから、最短で来年6月末……。16ヶ月で88,000DHビルは最低でもかかります。それで不合格になったらもう1年……。

 そこまでしても確実に合格できるとは限らない……。入学志願に必要な推薦書も書いてもらえる相手のあては無い……。そしてもし入試に何度か失敗したなら、最初に言った問題に突き当たっちゃいます。

 それに……。」

「それに?」

 

 イヴリンはその顔を、再びサラ少尉へ向ける。

 

「サラ少尉、サンダーボルト無しで『機兵狩人小隊』の維持は可能なんですか?」

「……!!」

「聞いた話では、部隊の持ち物だったレパード級降下船も、大きく壊れちゃったみたいですね。その修理費の払いで、『機兵狩人小隊』は今大変だと思います。そんな時に1機メックが欠けたら、受けられる仕事も受けられないんじゃないかな、と思うんです。」

「……。」

 

 サラ少尉は言葉に詰まる。だが、応えないことで『機兵狩人小隊』の内情は明らかだった。ギリアム伍長やアマデオ伍長も、顔が引き攣って焦りを満面に浮かべている。隊の財布を握っているヴァランティーヌ曹長もまた、何か言おうと口をぱくぱくさせているが、言葉が出ない。

 

「……私を入隊させて隊長にしろ、なんて馬鹿なことは言わない。でも、パパの部隊だった『機兵狩人小隊』が、私が子供だからって、戦えないからって、無くなっちゃうのは、絶対にイヤ!」

 

 イヴリンは立ち上がり、必死に涙を堪えて叫ぶ様に言った。だがその声は嗚咽の様に震えている。そこへ感情を押し殺した冷静な声が響いた。キースの声である。

 

「……なら君に何ができる?イヴリン。」

「え?」

 

 キースは冷静な、冷たいとさえ言える声音でイヴリンに問う。

 

「君にできることは、あるのか?と聞いている。」

「……ほとんど無いわ。けれど、最低限動かす程度のメック操縦ならできるわ。パパがたまに帰ってきたときとかに、動かし方を教わって、いない間も独習してたの。

 前回パパが帰ってきたときにサンダーボルトに乗せてもらったときは、歩かせるのとレーザーを撃つのまでは、なんとかできたの。」

「最低限動かせる程度で、戦場で役に立てるとでも?」

 

 キースの顔は、能面の様だ。だがその発する気配は、まるでそこに鬼でもいるかの如くである。キースの2mを超える巨体が、周囲の者からは更に大きく見える。ソファに座っていたケイトが、思わず娘をかばわんと中腰になった。だがアーリン中尉がケイトと視線を合わせ、首を小さく左右に振る。ケイトは自分でも理由がわからず、すとんとソファに腰を下ろしてしまう。

 キースは続けてイヴリンに問うた。

 

「技量だけの問題じゃない。君に覚悟はあるのか?戦場で人殺しになる覚悟が?戦場で殺されても文句を言わない覚悟が?そして何よりも、戦場で敵味方の死を背負って、それでも生きて行く覚悟、安易に死を選ばず、生命に意地汚いまでに執着し、生き足掻く覚悟が……君にあるのか、イヴリン?」

「……まだ無いわ。でも、必ず身に付けてみせる!!」

 

 イヴリンは、キースの発する圧力に負けずに言い返した。実際のところ、脚は生まれたての小鹿の様に震えている。しかしその両手は固く握りしめられており、強固な意志の存在を表していた。キースはにやりと笑う。

 

「吼えたな。ならその思い、通してみせろ。サラ少尉!ヴァランティーヌ曹長!」

「「はっ!」」

 

 サラ少尉とヴァランティーヌ曹長は、キースに対し思わず敬礼する。その2人に対し、キースは厳しい声で言った。

 

「今現在の『機兵狩人小隊』の経営状況はどうか!?我が『SOTS』は、場合によっては『機兵狩人小隊』に対して経済的支援を行う用意がある!」

「「!!」」

 

 キースが言っていたことは本当である。彼はサイモン老や自由執事のライナー、アーリン中尉、ヒューバート中尉らと語らって、指揮官を喪った上に降下船にも大打撃を受けた『機兵狩人小隊』に対し、どれだけの支援が可能か相談していたのだ。結果は優、良、可、不可の4段階評価で可……。なんとか相手しだいでは持ち直せる程度の支援が可能、と言うものであった。

 ただし持ち直すかどうかは、あくまで「相手しだい」である。現状の暫定指揮官であるサラ少尉は、指揮官としては優秀と言える。だがその能力は、戦闘指揮に偏っており、部隊経営においてはアルバート中尉の足元にも及ばない、と言うのがサイモン老とアーリン中尉の評価であった。それにはキースも同意見である。

 もう1つ、『機兵狩人小隊』を救う方法があるにはあった。ただしあくまでそれは、相手がその手段を望んでいなければ不可能である。強制的にその手段を取るのは、キースたちも望むところでは無かった。

 サラ少尉とヴァランティーヌ曹長は目を見合わせ、ヴァランティーヌ曹長が話し始める。

 

「現在、最後の戦闘にて鹵獲した敵ユニオン級降下船2隻の報奨金を『SOTS』側のご厚意で分配していただけましたおかげで、レパード級降下船ゴダード号の修理には今までの貯蓄と合わせてなんとか目処が付きましたわ。

 ただし予備費まで含めて貯蓄が全て尽きますので、早急に仕事を受けなければ隊員の給与、バトルメックの維持費の支払いにも事欠くことになりますわね。しかも3機のメックで仕事を受けられれば、の話ですわ。受けられたとしても、当分は自転車操業が続くはずですの。」

「そんな!じゃあやっぱり……。」

「静かにしていろ、イヴリン。まだ話は終わっていない。続きを。」

 

 キースが続きを促す。すると今度はサラ少尉が口を開いた。

 

「我々は考えました。……隊を残す方法を。」

「うむ。で?」

「はい。これは『機兵狩人小隊』の現メック戦士の総意です。『SOTS』……『鋼鉄の魂』にて我々の部隊を吸収合併していただけないでしょうか。我々の隊の通称として『機兵狩人』の名を残すことを条件に。」

 

 キースの耳に、アーリン中尉のかすかな呟きが届く。

 

「……やっぱりその結論になるわよね。」

「ふむ……。了解した。貴官らは、本日ただいまをもって、俺の部下だ。よろしく頼む。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

 その場にいた『機兵狩人小隊』のメック戦士たちだけでなく、偵察兵エルンスト曹長、ヴァランティーヌ曹長を始めとする整備兵たちまでもが、一斉に敬礼をする。MRB管理人のパオロ氏が、溜息を吐いた。

 

「やれやれ、となると私はお役御免ですなあ。まあ、別の傭兵部隊の担当になるんでしょうが……。サラ少尉たち、今後は私の同僚のウォーレンと仲良くしてやってくださいな。」

「……はい。」

「え?あ?え?」

 

 イヴリンは、話の急展開についていけていない。キースはそんな彼女に問いを投げ掛ける。

 

「これで『機兵狩人小隊』の消滅は、うちの『SOTS』が無くならない限り避けられることになったわけだが……。まだ決意は変わらないかね?」

「え?あ……。は、はい!たしかに『機兵狩人』の名も小隊も残ることになったけど……。サンダーボルトを維持する上でのうちの経済危機は去ったわけじゃないし、私がメック戦士にならないとイェーガー家の評価や評判が地に落ちるのは違いないんだから!いえ、ですから!」

「そうか……。ケイトさん、お子さんを自分に預けてくれませんか?アルバート中尉の御霊の手前、殺す事はしませんから。せいぜい、その1歩手前まで絞るだけです。必ずや、お子さんを一流のメック戦士、一流の指揮官にして見せます。」

「え゛。」

 

 物騒なことを言うキースに、イヴリンの顔が一瞬引き攣る。アーリン中尉が半ば呆れた様に言った。

 

「キース大尉、そんな言い方じゃあ、安心できませんよ。ケイトさん、大尉は教官としても充分な能力の持ち主です。ちょっとどころじゃなくスパルタですけれどね。これまでも、半素人の少年少女メック戦士たちを、わずかな日数で一応戦えるまでにした実績があります。大尉の教えを受ければ、必ずや生き延びる能力を身につけることができるでしょう。ちょっとどころじゃなくスパルタですが。」

 

 アーリン中尉は、2度繰り返してスパルタであることを強調した。ケイトは少し考えると、キースに質問をする。

 

「キース大尉、それにお答えする前に、お聞きしたいことがあるのですが。大尉の部隊に、私ができる仕事はありますでしょうか?一応、簿記や経理の資格は2級まで持っておりますが。」

「……うちの部隊の自由執事を補佐する、総務担当が1名もおらず、困っているところでして。自由執事に相談してみないとわかりませんが、おそらく二つ返事でOKが貰えるものと思いますよ。ただ、一応履歴書や職務経歴書などは提出してください。」

「あら、よかったわ。ちょうどパートの仕事でも探そうかと思いまして、作っていたところでしたのよ。私が一緒に行けるなら、イヴリンのこともお願いいたしますわ。」

 

 キースはにこやかな笑みを浮かべてイヴリンに向き直る。

 

「……と言うわけだ、イヴリン。君を……いや、貴様を我が『SOTS』のメック戦士訓練生として受け入れる。階級は訓練生のうちは無し、最下級の兵の扱いだ。初陣を済ませたら、訓練生卒業として適切な階級をくれてやる。

 そうそう、学校は通信教育に切り替わるからな。普段は部隊の教育担当官から通信教育用教材を用いて授業を受けることになるぞ。最低でも、最終的にシニア・ハイスクール卒業資格は取ってもらうからな。可能であれば大学レベルまで学んでもらう。メックの操縦や砲術だけ学べばいいだなんて考えは、捨ててもらうぞ。ちゃんと社会に通用する学歴を身に付けてもらうからな。

 ああ、部隊の教育担当官か?今のところは人材がいなくてな。俺が兼任する。嬉しいだろう?」

「は、はいぃ……。」

 

 キースの表情は相変わらず、にこやかな笑みを浮かべたままだ。だがイヴリンの腰は退けている。先ほど鬼のような気配を出していたキースに啖呵を切ったときの勢いは何処にも無い。キースは一喝する。

 

「声が小さい!」

「は、はいっ!」

「聞こえん!!もっと大きな声で!!」

「はいっ!!」

 

 アーリン中尉とサラ少尉、おまけにジャスティン伍長は、思わず背筋が伸びる。彼女らと彼は、小さな声で呟く。

 

「……何か、私が卒業したメック戦士養成校の教官を思い出したわ。」

「……私もです。」

「……一瞬エリオット軍曹、いやエリオット中尉かと思った。」

 

 ふとキースは、テーブルの上に置かれているアルバート中尉のお骨を収めた金属容器に目を留める。

 

(アルバート中尉、何と言うか成り行きですが、娘さんのことは任せておいてください。俺が『ロビンソン戦闘士官学校』で教わったこと、学んだこと、全部余さず叩き込みますから。一通り終われば、きっと士官任用試験もあっさりパスできるぐらいにはなるでしょう。たぶん。おそらく。だといいなー。……まあ、そうすれば中尉程度に任じて、『機兵狩人小隊』を任せることも可能でしょう。

 だから、安心してゆっくり眠ってください、戦友。)

 

 そしてキースは、頭の中でイヴリンの訓練メニュー、教育カリキュラムを色々と考え始めた。




さて、Arcadia様で連載中に、相当物議をかもしたキャラ、イヴリン・イェーガーの登場です。イヴリン、どんな活躍をするのでしょうか。
そしてアルバート中尉、ゆっくりとお休みください……。
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