ここは惑星ネイバーフッドにおける惑星守備隊が駐屯するオーバーゼアー城、その指令室発令所である。ここでは何人ものオペレーターが、忙しく働いている。そんな中、一段高い位置に設えられた司令席で、惑星守備隊司令官であり混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令でもあるキースは、部下からの報告を聞いていた。
報告の内容は、気圏戦闘機による高高度偵察の結果判明した、小隊規模の敵部隊の迎撃に出向いた第1中隊火力小隊からの戦闘結果である。キースはその報告を、あからさまに不機嫌そうな難しい顔で聞いていた。報告している火力小隊小隊長のケネス中尉もまた、難しい顔をしている。
「……と言うわけで、敵戦車部隊の撃滅に成功いたしました。鹵獲した戦車も持ち帰っております。ですが……。」
「貴官もそう思うか。敵が繰り出してくるのが戦車や歩兵のみで、バトルメックが出て来ていない、と。」
「はい……。副隊長のジョシュア少尉も同意見であります。ドロテア軍曹とマイケル軍曹は、単純に毎回の勝利を喜んでおりますが、それが微笑ましくも、歯がゆくもありまして……。」
「それは仕方あるまい。士官としての教育を受けたわけでも、実戦経験が豊富なわけでも無いのだからな。しかし、実戦経験が無いに等しい貴官らの小隊に実戦経験を積ませる目的で、第1中隊の火力小隊しか出していなかったのは、こうなると幸いだったかも知れんな。」
このキースの台詞に、ケネス中尉は頷く。
「敵の目的は、新たに駐屯することになった我々に対する、挑発を兼ねた威力偵察でしょう。ですが第1中隊の火力小隊の編成しか、敵には具体的な情報がもれていないことになります。
更にこれはおまけではありますが、私ども第1中隊火力小隊も、実戦経験を積むことができております。最初のうちはぎこちなかった互いの連携も、ある程度は物になっております。」
「うむ。だが……。歩兵や戦車を使い捨てにしての威力偵察か……。」
不快そうに、キースは呟く。ケネス中尉も同じく不快そうだ。
「バトルメックに乗るメック戦士が先陣を切って戦わないで、どうすると言うのでしょう。メック戦士が様々な特権を持つのは、戦いにおいて率先して前に立つ義務があるからではありませんか。
……確かに戦術的に有効なのはわかります。もし戦車10輛の犠牲で、1機のバトルメックを行動不能にできるのであれば、と言う誘惑にかられるのも、わからないでもありません。敵の情報を得るためだけにコストが安い歩兵を使い捨てにするのも、理屈の上からは理解できます。
しかしそれをやってしまっては、メック戦士としての資格が疑われることになると、奴らは気付かないのでしょうか?メック戦士が自らの命を的にせずに、その責務を弱者に押し付けて、自らは美味しいところだけを盗み取ろうなどと……。恥知らずにもほどがあります。」
「……憤懣遣る方ないのは良くわかる。俺も奴らのやり口には腹立たしさを感じる。だが少し落ち着け。歩兵や戦車を弱者と侮る愚を犯しているぞ?
歩兵の持つレーザー銃や短距離ミサイルランチャー、インフェルノ焼夷弾などは、バトルメックに対しても脅威となり得る。そして戦車はダメージコントロール的に脆いとは言え、その装備している武器はバトルメックの物と同じだけ致命的な威力を持つ。」
「……!!し、失礼いたしました!我が身の未熟を恥じるばかりであります!」
「いや、そこまで恐縮しなくとも良い。わかってもらえた様だしな。反省は必要だが、過度のそれは毒にもなるぞ。」
そしてキースは2通の書類を引っ張り出す。彼はその両者に書かれたデータを比較して見た。
「やはり多い、な。」
「は?」
「今までに貴官らの小隊が破壊、もしくは鹵獲した戦車の数と、前惑星守備隊の『エフシュコフ剛腕隊』が残して行った敵の情報を比較した結果だ。」
そう言ってキースは、2通の書類をケネス中尉の前に差し出す。それを受け取ったケネス中尉は、目を見張った。
「これは……!」
「そうだ。今回の貴官らの小隊の勝利で、破壊もしくは鹵獲した敵戦車の数が、元々敵が持っていたはずの戦車の数を超えてしまった。明らかに敵は何処からか戦力供給を受けている。おそらくはこちらのエアカバーを掻い潜って、降下船を降ろしたのだろうな。
所詮こちらの気圏戦闘機は6機に過ぎん。無いよりマシ程度の対宙監視網しか敷けん。しかも敵の地上の動きを監視するのにも使っているからな。ますますエアカバーがザル同然にもなると言う物だ。」
「し、しかし惑星軍の対宙監視レーダー基地からは何も……。」
ケネス中尉は驚きを露わにする。キースは苦笑して言った。
「この星系には、ゼニス点のジャンプポイントに補給ステーションが1つあるが、そこには深探査レーダーは無い。地上の海軍基地にも無い。だから反対側のジャンプポイントであるナディール点に敵航宙艦が出現しても、わかりはしないんだ。そして通常のレーダーをジャミングすることは、決して不可能ではない。もっとも……。」
「もっとも?」
「いや、まだ想像に過ぎん。確証ができてからにしよう。では下がって良い。」
「はっ!それでは失礼いたします!」
敬礼をするケネス中尉に、キースも答礼する。ケネス中尉は指令室の発令所を出て行った。キースは心の中だけで呟く。
(それに、こんなオペレーターたちが居る中で話せる内容でもないしなあ……。このオペレーターたちはこの惑星の人間であって、うちの部隊が連れてきたわけじゃないから、気心が知れてないし。さて、でも早目に手を打っておかないとな。敵戦力がどれだけ膨れ上がるか、わかったもんじゃない。
さて、そろそろイヴリン訓練生の座学の時間か。指揮官教育があるから、イヴリン訓練生だけ座学の時間が多いんだよな。ヒューバートかアーリン中尉を呼んで、ここの監督の代わりを頼まないと。ああ、ヒューバートは今第2中隊の連携を図るための図上演習中か。ならアーリン中尉だな。)
キースは司令席の卓上に設置された通信設備を使って、アーリン中尉を呼び出した。
イヴリン訓練生が、キースに向かい敬礼をする。キースもまた、答礼をした。
「本日の教導、ありがとうございました!」
「うむ。しっかりと復習しておくように。ああそれと、オーバーゼアー城のバトルメックシミュレーターが使える様になったからと言って、疲労を残す様ではいかんな。」
「えっ……。」
キースは笑って言った。だがその目は笑っていない。
「デファイアント号には2台しかシミュレーターが無かったからな。訓練生3人の他に、正規のメック戦士たちも使いたがって、シミュレーターでの自習に使える時間が短かったのはわかる。
だからシミュレーターの筐体の数が多いこの城に来て、好きなだけ……とまではいかんか。まあ、かなり自由にシミュレーターを使える様になったので、喜んでたくさんシミュレーターに乗っているのも、わかる。
だがな、授業や座学に支障が出るほど乗るのは、あまり勧められんな。今日の戦闘指揮の座学中、ときどき目が死んでいたぞ。
……俺の本音を少し話してやろう。貴様の本領は、単なるメック戦士ではなく、指揮官適性にあると俺は見ている。無論、メック戦闘の技量が高いに越したことはない。だが、だからと言って座学を蔑ろにする様ではな。」
「も……申し訳ありません!!今後、注意いたします!!」
「うむ、いい返事だ。だが、言ったからには実践して見せろ。体調管理ができん様ではいかんぞ。次に座学や基礎教養の授業中に目が死んでいるのを見つけたら、容赦なく罰を与えるから、そう思え。そうなったら、正規の訓練時間以外にシミュレーターに乗るのも禁じなければならなくなるぞ。
警告はこの1度だけだ。次からは即、罰する。わかったな。」
そう言ってキースは、イヴリン訓練生の頭にぽん、と掌を置いてわしゃわしゃと撫で、手を放した。イヴリン訓練生は顔を赤くして、叫ぶ様に応える。
「りょ、了解!!ご指摘、ありがとうございます!」
「うむ?……ああ、わかれば良い。では解散!」
「はっ!失礼いたします!」
イヴリン訓練生は、そそくさと立ち去る。その様子を見て、キースは内心独り言ちる。
(……撫でたのは、まずかったかな?子ども扱いしたかと思われたかも知れないなあ。そんな意図は無かったんだけど……。いや、内心で無意識に子ども扱いした可能性も無くも無いのか?注意しないとな。
さて、と。次はネイサン軍曹とパメラ軍曹と例の件について相談しないとな。結構忙しいなあ。……イヴリン訓練生にあんなこと言っておいて、俺自身が休みちゃんと取れてるか?体力的に余裕があるからと言って、いざという時に体幹に溜まってた疲労が表面化でもしたら、まずいよなー。少佐になったことだし、手伝ってくれる副官でも置くかね。……副官の人材を探さにゃならんのかよ、一時的には逆に仕事が増えちまうな。どうするかねー。)
ちなみによく誤解されるのだが、副官と副長は意味が違う。副長はNo.2だが、副官は軍事的な事物を扱う秘書的な役割の軍人を指す。つまりキースは、「秘書でも置くかね」と考えたことになるわけだ。まあそれはともかくとして、キースはいったん指令室に出向くと小会議室を1つ押さえ、そこに偵察兵ネイサン軍曹と、整備兵パメラ軍曹を呼び出した。
「……と言うわけだ。できる限り隠密裏に事を運びたい。可能か?」
「自分は大丈夫ですな。変装は得意とするところです。ただ問題は、肝心のパメラ軍曹ですが……。」
「私もなんとか大丈夫かと。ただ、変装の出来栄えをネイサン軍曹に見てもらった方がいいとは思います。」
キースの質問に、ネイサン軍曹とパメラ軍曹が答える。キースは頷いた。
「ならば頼みたい。おそらく俺の予想は間違っていないだろう。間違っていて欲しいがね。もしも予想が当たっていたなら、これまでどれだけの敵降下船の敵地への降下を見過ごして来たやら怖くなる。」
「残念ながら、キース少佐の予想は当たっていると自分も思いますよ。」
「私もそう思います。ああも簡単に戦車を使い捨てにできるとなると、相当潤沢に補給を受けたんじゃないかと考えられますから。つまり降下船が降りて来たのは1回やそこらじゃ無いんじゃないかと……。
その降下船が全て揃って、高度なジャミングを行えていたと考える方が変です。それにザルなCAP(戦闘空中哨戒)であっても、1回も引っかからないのは、やはり変です。」
揃って溜息を吐く3人。キースは頭を振りつつ言った。
「本当なら、筋を通して真正面から調べさせてもらうのが正しいやり方なんだが、今回は時間が無い。正確に言えば、どれだけ時間があるのかわからん。そして敵の戦力増強を黙って見ているわけにはいかん。
正式な手順を通して、書類審査などにかかる時間すら惜しい。そして正式に申し込めば、それが相手の顔を潰す結果になりかねない。……誰にもばれない様に、こっそりと隠密裏に頼む。」
「了解です。ご心配なく、パメラ軍曹はちゃんと目的の場所まで届けて、そして連れ帰ります。」
「こちらも了解です。細工は流々仕上げを御覧じろ、ですね。」
ネイサン軍曹とパメラ軍曹は、悪い顔をして笑う。キースも苦笑しつつ、頷いた。
そして3日後、キースはオーバーゼアー城の小会議室にてイヴリン訓練生、エドウィン訓練生、エルフリーデ訓練生の3名に基礎教養の授業を行っていた。科目は連盟共通語である。最近はイヴリン訓練生も、この苦手科目を克服せんと必死に頑張った甲斐あって、なんとか合格点を取れる様になって来ていた。
そのとき、突然インターホンから電子音が鳴り響く。キースは急ぎ、インターホンのスイッチを入れた。そして彼はインターホンに向けて言葉を発する。
「こちら第2小会議室、キース・ハワード少佐。」
『こちら指令室、ヒューバート大尉です。キース少佐、例の「裏データ」に敵ドラコ連合の物と思われる降下船位置が表示されました。今現在、全気圏戦闘機をそちらに急行させています。』
「了解だ。ヒューバート大尉、そこはオペレーターに任せて、第1、第2メック中隊及び歩兵中隊の全力出撃の準備を。俺も直接格納庫へ向かう。ああ、忘れるところだった。気圏戦闘機隊と俺のマローダー間に、城の通信設備を介して通信回線を構築する様オペレーターたちに命じておいてくれ。」
『了解しました。』
キースは驚き慌てる訓練生たちの方を向き、言い放った。
「緊急出撃だ。貴様たちは自習していろ。戻ったら、きちんと自習していたか確認のため、小テストしてやる。では行ってくる。」
「ご無事のお戻りをお待ちしています!」
そう言ったのは、イヴリン訓練生である。彼女は敬礼をキースに送る。エドウィン訓練生と、エルフリーデ訓練生もまた、それに倣う。キースは答礼し、そして衣類の襟元を緩めながら格納庫へと走り出した。
Tシャツとトランクスだけになったキースは、マローダーの操縦席に飛び込んで、マローダーを起動する。そしてすかさず彼は指令室との通信回線を開き、司令室のシステムを介して気圏戦闘機隊との通信回線を構築した。気圏戦闘機隊からの報告が、次々に入って来る。
『こちらアロー1、敵ユニオン級は必死に抗戦してるっす!ただ気圏戦闘機は載せてないみたいっす!』
『こちらアロー3より全機へ、アロー1を先頭にトレール(縦一線隊形)を組んで1ヶ所を集中攻撃!』
『『『『『了解!』』』』』
アローと言うのは、いちいち気圏戦闘機名を叫ぶのが時間の無駄になるため、最近決められたコードネームだ。アロー1からアロー4がライトニング戦闘機1番機から4番機、ビートル1とビートル2がトランスグレッサー戦闘機1番機と2番機である。
『こちらアロー3、当機とアロー4、ビートル2が敵ユニオン級の攻撃を受け損傷!離脱許可を求めます!なお敵ユニオン級は強引に降下を試みています!ですがあの角度では、ドラコ連合制圧地域には降りられないものと思われます!』
「アロー3、アロー4、ビートル2は離脱し、遠距離からの観測にうつれ。アロー1、アロー2、ビートル1は敵ユニオン級に攻撃を続行し、できるかぎり予定地点A、B、Cのいずれかに降りる様に誘導しろ。指令室、「裏データ」を参照し、敵の予測降下位置を割り出せ。判明したなら、こちらにデータ転送しろ。」
そしてキースは、マローダーを格納庫の外へと歩き出させた。
今、キースたち『SOTS』のメック部隊全機――訓練生除く――は、IR偽装網で姿を隠し、敵ユニオン級降下船が降りて来るのを待っていた。「裏データ」から割り出された敵降下地点は、さすがにキースたちの予定通りにはいかず、予定B地点から南西に20km離れた場所だった。ちなみに予定B地点は、オーバーゼアー城から真北に25km地点である。
アーリン中尉が感慨深げに言った。
『けど、惑星軍の対宙監視レーダー基地、やっぱり細工されていたのね。』
「ああ、そうであって欲しく無かったんだがな。ネイサン軍曹とパメラ軍曹が変装してレーダー基地に潜り込んで、パメラ軍曹が細工を発見した。そしてその細工の上から更に細工をしたんだ。」
『いったいどの様な細工であったのでありますか?』
ケネス中尉が、キースに問いかける。キースは頭を振りながら答えた。
「敵降下船の出している信号を受信したら、レーダーからその降下船の影を消す様にしてあったのが1つ。そしてこちらの気圏戦闘機の位置情報を地上のドラコ連合軍に送るのが1つ。
惑星軍の対宙監視大型レーダーは、敵の目として利用されていたのさ。地上のドラコ連合軍は、高指向性の通信で降下船にこちらの気圏戦闘機の位置情報を送り、CAPの隙間を掻い潜らせたんだ。
だからこちらはこちらで、消したはずの敵降下船のレーダー映像をオーバーゼアー城に送る様な細工と、味方の気圏戦闘機の位置情報を書き換える細工を施したんだ。パメラ軍曹によれば、単にコンピュータのプログラムによる細工であって、こちらからの遠隔操作でいつでも元々の敵が施した細工ごと破棄できるらしい。こちらの足跡は残さずに、敵の足跡だけは残してな。専門的な説明はちんぷんかんぷんだったが。
……だが、この様な細工が為されていると言うことは、だ。」
『ドラコ連合の工作員が、そんな深いところまで潜り込んでいるってことですね。』
「ああ、その通りだ。」
ヒューバート大尉の言葉を、キースは肯定する。ちなみに指令室のオペレーターたちには、「裏データ」をどうやって入手したかは説明していない。コンピュータや通信機器の表面的な扱いのみしか知らないオペレーターたちは、どこからどうやって持ってきた情報なのか、わかっていないのだ。
ケネス中尉は絶句した。
『なんと……。』
「ケネス中尉、呆けている場合じゃないぞ。なんとかしてドラコ連合のスパイ網の尻尾を掴んで、惑星政府に警告せねばならん。だからこそ、1回限りの様な手を使って、敵降下船を撃沈せずにこちらに追い込んだんだ。
なんとしても船長クラスの人間を捕虜にせねばならん。船長クラスの人間であれば、スパイ網から情報を受け取る以上、なにがしかの情報は持っている可能性が高いからな。」
『りょ、了解であります!』
言っている間にも、やがて空の彼方からこちらへ向けて降りてくる、西瓜の様な球体の影が見えた。それに纏わりつく様にして、味方の気圏戦闘機の影が見える。球体の影……敵のユニオン級降下船は、ふらふらと頼りない飛び方をしていた。どうやら、かなりの損傷を被っているらしい。
「各員、招待したお客がやって来たぞ。せいぜい歓迎してさしあげるとしよう。……アロー1、アロー2、ビートル1、そろそろ推進剤がやばいだろう。もういいから、オーバーゼアー城に帰還せよ。」
『『『了解!』』』
敵ユニオン級降下船は、気圏戦闘機が離れて行くのを待っていたかの様に、大地にその船体を降ろして行く。だがあとわずかで着陸すると言うその時、突然推進器の1つが小爆発を起こした。敵ユニオン級降下船は、斜めに傾いで地面に落着する。キースは叫んだ。
「全機、IR偽装網排除!敵ユニオン級降下船を包囲下に置け!歩兵部隊は突入準備!」
『『『『『『了解!』』』』』』
キースたち『SOTS』のバトルメックはIR偽装網を引きちぎりつつ立ち上がり、時折あちこちから煙を噴き上げる敵ユニオン級降下船を包囲した。と、その時ユニオン級降下船の上部ハッチ……気圏戦闘機ベイのハッチが開く。キースたちは武装をそちらへ向ける。
だがそのハッチから出て来たのは気圏戦闘機ではなく、どうやら上級船員と思しき制服を着用した人間であった。そしてその人間は、鉄筋とシーツで作られた、赤いS字が描かれた白旗を大きく振り回した。この赤いS字が描かれた白旗は、アレス条約で定められた万国共通の標準降伏旗である。キースは外部スピーカーを使い、その人間に呼びかけた。
「降伏を認める。ハッチを開き、下船せよ。」
「下部ハッチが、壊れて開かないんだ!降りられない!脱出用の機材も壊れて動かない!なんとかしてくれ!」
「……今、こちらの城からフェレット偵察ヘリコプターで整備兵を呼ぶ。その者たちがハッチを外部から解放できればよし、できなければフェレット偵察ヘリコプターで数名ずつ運ぶしかないな。それまで待てるか?」
「できるだけ急いでくれ!重傷者が出ているんだ!」
「わかった。軍医も一緒に呼ぶ。」
キースはオーバーゼアー城に連絡し、フェレット偵察ヘリコプター2機を呼び寄せた。以前の教訓に従い、既に搭乗員を養成していたのである。無論のこと、整備兵であるサイモン老、ジェレミー軍曹、そして軍医キャスリン軍曹もそれに乗り、やって来ていた。
キャスリン軍曹の診察の結果、重傷者2名はこのままでは命が危ないとのことで、フェレット偵察ヘリコプターのうち1機を使い、機動病院車MASHが待っているオーバーゼアー城へと運ばれていった。そしてサイモン老とジェレミー軍曹の働きにより、敵ユニオン級降下船の人間用ハッチの1つを解放することに成功、乗員たちを救助することができた。もっとも彼らは、そのまま捕虜となるのであるが。
最初に降伏旗を振っていた上級船員らしき男が、キースのマローダーに向かい口を開く。
「船員の命を助けてくれて礼を言う。」
「捕虜の人権は、条約で認められているからな。ただし、所属や氏名、認識番号などきちんと申告してもらうぞ。それと、若干の尋問も覚悟してもらおうか。まあ無茶なことはするつもりは無いが。」
「わかっているさ。それでも礼を言わせてもらう。船員の命を預かる船長としては……。船長、か。ここまで壊れてしまっては、もう駄目かもな、とほほ……。」
キースは内心で少々驚く。この威厳の無い男が、船長だと言うのだ。何と言うか、それらしい雰囲気が全く無い。
「船長?貴官がこの降下船の船長なのか?」
「ああ、そうだ。ユニオン級降下船アタゴ号船長、ヨシロウ・ハヤシ中尉だ。らしさが無いのは自分でもわかってる。先代から船を受け継いだばかりだからな。」
「……そうか。聞かせてもらいたいことが、色々ある。」
「はは、お手柔らかに……。」
こうしてキースは、敵降下船の船長を捕虜にすると言う、目的の第1段階を達した。だがこのらしくない船長が、必要な情報を持っているのか、持っているとして話させることができるのか、それは今のところまったくの不明であった。
今度の敵は、今のところ戦車や歩兵ばかりを使ってメック部隊にぶつけております。ちょっとばかり「?」と思いますが、小説内でも触れられていますが徴発を兼ねた威力偵察なのですよねー。
そして不幸中の幸い的に、今まで第1中隊の火力小隊しか戦闘に出してなかったため、味方の戦力はばれていない事になります。