混成傭兵大隊『SOTS』のバトルメック11機が、地雷原の手前に展開する。敵ドラコ連合軍のバトルメック部隊は、80tのデモリッシャー戦車を横一線に並べて前進してくる。デモリッシャー戦車を使い潰して、地雷原に道を開くつもりだ。
地雷原のあるおおまかな位置は、今までの『エフシュコフ剛腕隊』との戦いでわかっているのだろう。しかしこの布陣、戦車を弾除け程度にしか考えていないのが良くわかる。
キースは不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「……だが、そうはさせんよ。スナイパー砲0番、1番、2番、各々照準済みポイントA-0、A-1、A-2に対し射撃せよ。そして直後、照準済みポイントB-0、B-1、B-2へ各々続けざまに叩き込め。その次はC-0、C-1、C-2だ。
フォートレス級デファイアント号ロングトムⅢ、サイモン少尉。CSL-ES-596300ポイント、CSL-ES-596901ポイント、CSL-ES-595903ポイントに連続で撃ち込んでくれ。風向はNWに3単位。」
『『『了解!』』』
『了解ですわ、お任せあれ。』
スナイパー砲が3門に増えているが、うち1番砲と2番砲はこの城に備え付けの物である。射撃している砲手もこの城の砲手であり、『SOTS』が連れて来た人員ではない。残念ながら彼らは若干腕が悪く、あらかじめ照準済みである場所以外に命中させることは困難だ。しかしこのオーバーゼアー城の周囲は、それこそあらかじめ照準済みである地点がかなりの多数に上る。
そして1輛のデモリッシャー戦車の真下で、振動爆弾が爆発する。ドラコ連合軍のバトルメック部隊は、動揺して一瞬だけ動きを止めた。キースは心の中で呟く。
(地雷原が以前のままの位置のわけないだろ?自前で持ってきた振動爆弾を使って、以前より少し地雷原を広げているんだよね。惑星政府に届けなくても対メック地雷原の配置の変更程度は、惑星守備隊司令官の権限で可能なんだよ。)
ドラコ連合軍のメックとデモリッシャー戦車群の驚きは一瞬だけで、どうせ戦車を使い潰すのは当たり前とばかりに前進して来た。デモリッシャー戦車の前方で、そして至近距離で、あるいは真下で振動爆弾が爆発する。ついに1輛がキャタピラを切断され、擱座する。そしてもう1輛もまたキャタピラを破壊されて動きを止めた。
『そろそろデモリッシャー戦車、限界ですかね。』
「そうあって欲しい物だ、ヒューバート大尉。あれは最大口径のオートキャノン2門を搭載しているからな。まったく勿体ない使い方をしてくれて、嬉しいよ。
スナイパー砲0番、1番、2番。各々E-0、E-1、E-2に射撃。その後続けて各々G-0、G-1、G-2に撃て。ディファイアント号ロングトムⅢ、CSL-ES-593701に射撃後、CSL-ES-592671に射撃だ。」
『『『了解!』』』
『了解ですわ。』
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そうして、スナイパー砲の第1射が着弾する。それはデモリッシャー戦車の後方に続いて来た、60tライフルマン2機と75tマローダーに直撃し、その周囲に密集していたメックにも損害を与えた。
そして敵がようやく長射程武器の射程圏内に入る。まだ遠射程であるが、キースたち第1中隊指揮小隊の面々ならば命中を与えることは容易だ。キースは叫ぶ様に命令を下す。
「第1中隊指揮小隊、射撃用意!目標は俺が後方の、他は前方のライフルマン!3、2、1、撃て!!」
『『了解!』』
キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを、マテュー少尉のサンダーボルトが15連長距離ミサイルを、エリーザ曹長のウォーハンマーが両腕の粒子ビーム砲を、それぞれライフルマン2機に撃ち込む。
後方のライフルマンは当たり所が悪く、先ほどのスナイパー砲で削られていた胴体の前面装甲をあっさりと撃ち抜かれ、中口径オートキャノンの弾薬に引火して爆散した。メック戦士はかろうじて脱出したのが見える。
一方前方のライフルマンは、比較的全身に命中弾が散ったものの、それでも左脚を吹き飛ばされてその場に倒れ伏す。それを見て取ったキースが、気圏戦闘機隊に命令を下した。
「アロー1、2、3、ビートル1、2、出番が来たぞ!ライフルマンは潰したから、敵が密集しているところに地上掃射を叩き込んでやれ!目標選定は任せる!」
『アロー3、了解!各機、アロー1を先頭にトレール(縦一線)隊形で地上掃射!目標は敵マローダーからグラスホッパーにかけて!』
『『『『了解!!』』』』
戦いに先だって高高度偵察を行っていたため、推進剤が多少心許ないアロー4のライトニング戦闘機4番機を上空に残し、他の機体が一斉に敵バトルメックが密集している場所に地上掃射を行った。
次々に地上のバトルメックがエネルギー兵器の命中を受け、ダメージを負って行く。特に軽量級の機体は、嵐の様な地上掃射に耐えきれず、爆散するものや擱座するものが続出した。また軽量級だけでなく、重量級である75tのマローダーも打ちどころが悪かったのか、片脚を吹き飛ばされて動けなくなっていた。
だが敵バトルメックもただやられていたわけではない。必死の応射がライトニング戦闘機3機とトランスグレッサー戦闘機2機に襲いかかる。ライトニング戦闘機1番機と2番機は無事に済んだが、ライトニング戦闘機3番機とトランスグレッサー戦闘機1番機、2番機はかなりのダメージを負ったのが見えた。キースは離脱指示を叫ぶ。
「アロー3、ビートル1、2、離脱しろ!」
『了解、アロー3離脱します!後の気圏戦闘機隊指揮は、アロー1に移譲します!』
『了解、ビートル1、離脱します。』
『了解、ビートル2、離脱しますっ!』
『こちらアロー1、了解!指揮権移譲、受けたっす!』
「以後気圏戦闘機隊は地上掃射を行わず、弱った獲物を狩る様にしてくれ。」
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そしてスナイパー砲の2射目が着弾する。3発各々の砲弾が3機のK型アーチャーに見事に着弾し、その分厚い装甲板の破片を撒き散らした。そしてとうとう全てのデモリッシャー戦車が擱座する。だがここで、敵バトルメックからも長射程兵器の命中が見込める距離になったと見えて、砲撃が始まった。
70tK型アーチャー4機から15連長距離ミサイルが、65tK型クルセイダー2機と60tドラゴン2機、55tグリフィン2機から10連長距離ミサイルが、70tグラスホッパーとK型シャドウホーク2機から5連長距離ミサイルが、一斉に撃ち上げられる。キースは叫ぶ。
「各機、機動回避開始!第2中隊指揮小隊、第1中隊火力小隊、機甲部隊、砲撃開始!目標はK型アーチャー!特にスナイパー砲の直撃を受けた機体を狙い撃ちにしろ!第1中隊指揮小隊はスナイパー砲を受けなかったK型アーチャーを狙え!」
敵が狙い撃ったのは、比較的狙いやすい場所に位置していた第2中隊の指揮小隊と、第1中隊の火力小隊、それにマテュー少尉のサンダーボルトであった。長距離ミサイルの乱舞が次々に着弾し、半数は地面を抉り、半数はバトルメックの装甲を削る。
同時に『SOTS』側からの応射が放たれる。K型アーチャー4機は、火だるまになった。1機は左胴の装甲を突き破られて弾薬に直撃を喰らい、爆散。1機は片脚と片腕を吹き飛ばされて転倒する。1機は着弾の衝撃で操縦を誤り、これも転倒した。最後の1機は、キースたちから狙われた機体であったが、最も運が悪く、頭部に粒子ビーム砲の直撃を受けてメック戦士が死亡してしまう。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
そしてスナイパー砲の3射目とともに、ロングトムⅢ間接砲の第1射目が着弾する。3基のスナイパー砲は65tK型クルセイダー、55tK型ウルバリーン、45tK型フェニックスホークをそれぞれ打ち据え、ロングトムⅢは50tハンチバックの至近弾となった。それらの砲撃の余波に巻き込まれた機体も数多い。キースは内心で舌打ちする。
(ロングトムⅢの着弾がずれた。砲手の問題じゃなく、俺の指示した地点が悪かったんだよな、これは。指示した地点にはちゃんと着弾してるし。敵の動きを読み切れなかったなあ。さすがに撃ってから着弾までに50秒の時間差があると、敵の動きを読み切るのにも限界があるしなあ。
それにデモリッシャー戦車を横一列に並べて地雷処理をやられたのも影響してるし。けっこう広い範囲の地雷を処理されちゃったから、敵がかなり自由に動けるんだよな。
となると、ロングトムⅢの着弾は、これから先どんどんずれが大きくなるぞ。今回は敵をダメージ圏内に収められたけど……。)
キースは大声で指示を叫びつつ、自機に砲撃させる。
「気圏戦闘機隊!敵指揮官機と見ゆるグラスホッパーを狙え!敵の指揮系統を潰すんだ!メック部隊は第1中隊機が向かって右の、第2中隊機が向かって左のK型クルセイダーを潰せ!俺は転んだだけのK型アーチャーにとどめを刺す!機甲部隊、そろそろ命中が狙える距離だ!近い敵から好き放題に撃て!」
『『『『『『了解!』』』』』』
敵は擱座したデモリッシャー戦車を置き去りに、今度は70tのウォーハンマーを先頭にして地雷原を突破にかかる。グラスホッパーも70tの重量があるのだが、動きからキースが判断した様に指揮官機らしいため、先頭には立たない様だ。ウォーハンマーの前方や左右、時折足元で振動爆弾が爆発する。
そのウォーハンマーには機甲部隊の戦車から、中口径オートキャノン、粒子ビーム砲、10連と20連の長距離ミサイルによる集中砲火が向けられた。機甲部隊の戦車兵たちの射撃技量はさほどでは無いが、これだけ撃てばそこそこの命中弾は出る。ウォーハンマーはたまらず粒子ビーム砲を撃ちながら後退せざるをえなかった。
ウォーハンマーの脚部は、地雷原により大きくダメージを被っている。これ以上前に立てば脚が折れる可能性があった。
敵のウォーハンマーの放った粒子ビームを躱しながら、キースのマローダーは粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンを、転倒から起き上がったばかりのK型アーチャーに見舞う。
K型アーチャーは、鼬の最後っ屁とばかりに15連長距離ミサイル2門と大口径レーザー2門を撃ち返して来た。そのうち大口径レーザー1門が、キース機の頭部にまぐれ当たりをする。だがマローダーの頭部装甲は、なんとかキースを守り通した。着弾の衝撃でダメージを負う物の、キースはまだまだ元気である。一方K型アーチャーはと言えば、右脚を吹き飛ばされて再び転倒してしまった。
ここでライトニング戦闘機3機が、敵の指揮官機であるらしいグラスホッパーに攻撃を仕掛ける。合計3門の最大口径オートキャノンが火を吹き、グラスホッパーの右腕、右の胴体、胴体の真ん中にそれぞれ命中する。グラスホッパーは、相当に泡を喰った様だ。一応応射するが、アロー4の機体に若干のかすり傷をつけた程度に終わる。
これで敵の指揮官は、オーバーゼアー城の攻略を断念した模様だ。率いて来たバトルメックの約半数が地に這わされ、戦車は全て擱座している。敵バトルメックは、一斉に退却して行った。キースたちは長距離兵器を用い、撤退して行く敵バトルメックに追い打ちをかける。
本音を言えば追撃したいところであったが、動けなくなったデモリッシャー戦車は文字通り動けないだけであり、砲火力は未だ生きている。その射程内に入れば、脅威の破壊力を誇る最大口径オートキャノンの嵐に見舞われる可能性が高かった。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
敵がいなくなった場所へ、スナイパー砲とロングトムⅢ間接砲の砲弾が落ちる。あくまで敵が向かってくることを想定した位置に向けて射撃したためだ。スナイパー砲の弾もロングトムⅢの弾も飛びぬけて高いわけではないが、正直勿体なかった。
マテュー少尉のサンダーボルトが放った15連長距離ミサイルが、逃げるドラゴンの背面にばらばらと命中し、右腕を吹き飛ばしたのを最後にして、敵は射程外へ出てしまう。キースはマローダーの外部スピーカーと通常回線とを使い、動けなくなったがまだ生きている敵に降伏を勧告する。
「お前たちの指揮官は撤退した。お前たち自身にも、もはや勝機はあるまい。降伏しろ。アレス条約に則った扱いを約束する。」
『……ドラコ連合、第25ラサルハグ連隊B大隊、第2中隊中隊長ヤイーシュ・ワーフィル・ウサーマ大尉だ。降伏しよう。欲しければ俺の首をやっても良い。だから部下たちには寛大な扱いをお願いする。』
「……アレス条約に則った扱いをすると言っているだろうに。貴殿の首などいらんよ。それと、しばらくそこを動くなよ。既に撃ってしまった間接砲の砲弾が落ちて来るからな。」
キースは少し不思議に思う。部下のために自分の首を差し出そうとする人物が上の方にいるのに、その人物が所属する軍隊が歩兵や戦車を平気で使い捨てにしている。それともメック戦士と戦車兵や歩兵は違う、と言うことなのだろうか。
ヤイーシュ大尉が説得でもしたのか、次から次へ敵メックから降伏の信号弾が打ち上がる。それを見て、デモリッシャー戦車からも同じく降伏信号弾が打ち上がった。だが誰一人としてメックや戦車から降りてくる者はいない。まだ間接砲の砲弾が、全て落ちて来たわけでは無いからだ。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
間接砲の砲弾が落ちて来る。敵メックや敵戦車の中の者たちにとってはかなり恐ろしかっただろう。だが一番恐ろしかったのは、既に脱出していたメック戦士たちだったはずだ。彼らには装甲板の守りは無く、衝撃波の余波に晒されただけで、絶命必至だからだ。やがて全ての砲弾が落着し、オーバーゼアー城から出動した歩兵たちが、メック戦士や戦車兵たちを捕虜に取っていった。
「そうか、アイラ軍曹は無事か。」
『おう、隊長に俺の活躍を見せたかったぜ!』
「アンドリュー曹長と、『機兵狩人小隊』の面々は無事だな?」
『はい、全員無事です。メックも致命的損傷はありません。』
「ならば良かった。」
今キースは、オーバーゼアー城の指令室の設備を使い、レパード級降下船ヴァリアント号と通信を行っていた。より正確に言うならば、それに乗り込んでいたアンドリュー曹長とサラ中尉待遇少尉からの報告を受けていたのだ。キースはもう2名の「お客」について聞く。
「ラヴィニア嬢と、スパイと見られる薬物の売人はどうだ?」
『お嬢さんの方はちょっと無事とは言い難いぜ。たぶん薬の禁断症状だと思うんだけどよ。ちょっとまともな状態とは言い難いんだわ、これが。医療は専門外だからまったくの勘だけど、かなり強い薬を使ってたんじゃねーかな。
なまじ見た目が美少女だけに、ちょいと何て言っていいのか……。正直、怖い。今は自傷行為をさせないために拘束してる。
売人の男は、こいつはこいつで何か駄目っぽい。別に尋問とかは後回しにするって言ってるのに、なんかベラベラ訊きもしないこと喋りまくってる。だから本当かどうかは全然わからんし、言ってる事も支離滅裂で纏まりが無い。
……って言うか、もしかしてこいつも自分の売り物の薬に手ぇ出したんじゃねーのか?たぶんお嬢さんに売ったやつよりはソフトな代物だと思うけどよ。尋問より先に、診察が必要かも知れねー。』
キースは頭痛を覚えた。だがそのラヴィニア嬢と売人の男のせいで、惑星守備隊の情報がドラコ連合に洩れたのは、ほぼ間違いの無いことである。
「……そうか。とりあえず、早目に戻って来い。」
『あ、戦利品を船に乗せるから、俺たちは歩いて帰ることになるぜ?』
「そうか、それがあったな。まあ、できるだけ早くでかまわん。」
とりあえずキースは、可能な限り戦力を纏めておきたかった。今の様にばらばらになったままで、万一各個撃破などされたりしてはとてもではないが、たまった物では無い。無論、敵戦力はかなり痛めつけたので、その心配は低いのだが、絶対と言う事はないのだ。
一方で、アーリン中尉たちからもしばし後に連絡が入った。
『キース少佐、敵戦力を全機倒し、ローカストを破壊、残り3機を鹵獲しました。エルンスト曹長も無事です。彼は敵が残した書類を漁っています。こちらには、重度の損傷を被ったメックはありません。全機、軽傷です。ただ、敵の徒歩の戦力は全員逃がしてしまいました。』
「それは仕方が無い、アーリン中尉。そちらには味方の歩兵戦力がいないのだからな。メック戦士は全員降伏させたのだろう?」
『4名全員を降伏させました。ローカストのメック戦士は、今にも死にそうな顔になっていますが……。』
「それも仕方あるまい……。戦えば必ずと言って良いほど、メックの破壊は起きる事象だ。こちらでも、何機か敵のバトルメックを爆散させている。」
キースは思わず敵に同情しかけている自らに気付く。キース自身、父親ウォルト・ハワードが予備機のグリフィンを『ロビンソン戦闘士官学校』入学に際して持たせてくれなかったら、今頃は失機者になっていた身分であるのだ。
(だけど敵さんも、同情なんて欲しくないだろな。かと言って、同情しちまうのは仕方ないよなあ。人間、感情をそこまで自由自在にコントロールできるもんじゃなし。できるとすれば、同情を表に出さないことぐらいだよな。でも、それもけっこう難しいけどな。)
『とりあえず、エルンスト曹長の作業が終わりしだい、パメラ軍曹、ジャスティン伍長とも合流して帰還します。』
「うむ、そうしてくれ。しかしそこにいた小隊が、何処に奇襲攻撃をかけようとしていたのが程度はわかると良いのだが。エルンスト曹長の調査しだいだな。では帰還を待っている。」
通信を終えると、キースは考えに沈んだ。
(さて、惑星政府から依頼を受けた1件目は、完全に達成だよな。しかもドラコ連合軍との戦闘もあったから、正規の戦闘行動と認められれば……いや、まず認められないなんてことは無いんだけど。
まあ、認められれば、今回の惑星政府から出る報酬とは別に、基本戦闘報酬が入る上、鹵獲や破壊したメックの数によってのボーナスも、戦闘勝利によるボーナスも入るな。スキマー1台分の損失を補って余りあるどころじゃない。……ただし、後味は悪い事件だよな。まだ子供と言ってよい少女が薬漬けになってて、しかもその父親はまず失脚が確実だ。その前途に光明は見えないし……。
2件目は、一応達成はできたし、報酬も入るだろうけど……。ドラコ連合のスパイ網を探ると言う意味では失敗に近い……よな。メック戦士4人を捕らえたって言っても、徒歩の人間には逃げられちゃったし……。
メック戦士4人は何処かへの奇襲作戦のためにスパイ網の拠点の1つを基地代わりに使っていただけだろうし、スパイ網そのものについて知識を持っているとは思えないもんな。まあ、敵の奇襲攻撃を事前に防いだと言うことだし、正規の戦闘と認められるだろうから、これも報酬面では大儲けだけどなー。
……エルンスト曹長が漁っている書類とやらに、何か重要な手がかりがあれば良いんだけどな。)
キースは指令室発令所を見回す。ケネス中尉が手持無沙汰の様な雰囲気で、それでも真面目な顔を崩さずに、夜番オペレーターたちの様子を見守っていた。
まあ夜番とは言っても、この惑星の1日は48.8時間である。連盟標準時とは大きくずれが生じる。連盟標準時で夜だからと言っても、外は全然明るかったりするし、また逆に昼間も真っ暗だったりする。ただし惑星時に身体を慣らしてしまうのも色々と体調などの面で問題が出てきたりする。軍人や政府筋の人間、他の惑星と行き来する人間は連盟標準時を使って生活していた。
それはともかく、キースはケネス中尉に声をかける。
「ケネス中尉。俺は司令執務室で書類仕事がある。この場の監督を任せていいか?」
「はっ!了解であります!」
「……ケネス中尉、もう少し口調が柔らかくても良いぞ?それではまるで兵卒だ。中尉は士官なのだから、階級や職分に相応しい口調があると思うのだが……。」
「はっ!了解……いたしました!!……申し訳ありません、鋭意努力いたします。」
「……いや、無理を言うつもりは無かった。慣れそうにないなら、忘れてくれ。ではここを頼むぞ。」
キースは指令室を出て、司令執務室へ向かう。その足取りは重い。
(うーん、どうしたんだ?もしかして疲れてるのか?いや戦闘をしたんだ。疲れてないわけじゃない。だけど疲れによるものとは、ちょっと違うなあ。
……ああ、そうか。例のラヴィニア嬢のことが気にかかってるのか。薬物はなあ……。まずいよなあ……。いや、俺に責任のあることじゃないけどさ。でもなあ……。
いかん。あまりの後味の悪さに、落ち込んでるぞ。何か美味い物でも食べて、元気出すかね。それともちょっとばかりトレーニングでもして汗流すか?……ん?)
そのときキースの目に、司令執務室の前を行ったり来たりする少女の姿が留まった。その手には、ノートやらプリントやら参考書やら筆記用具やらが握られている。言わずと知れたイヴリン訓練生だった。キースは声をかける。
「何をやっている?イヴリン訓練生。」
「きゃ!あ、き、キース少佐!あの、その……。」
「……イヴリン訓練生!!物事ははっきりと喋れと言ったはずだ!!」
「はいっ!!宿題の疑問点を訊きにお伺いしたのですが!!途中で少佐が本日実戦を行われたことを思い出しまして!!それで、お疲れでご迷惑かと思い、宿舎の自室に戻ろうとしたところであります!!」
思わずキースの顔に、笑みが浮かぶ。
「……いいだろう。最近は貴様も随分勉強している様だしな。教え甲斐が出て来たと思っていたところだ。最初の頃の様に、どこがわからないかわからない、などと言うことも無くなってきたからな。入室を許可する、イヴリン訓練生。
……どうした、早く入れ。あまり遅くなると、明日に差し支えるぞ。」
「は、はいっ!!」
その後キースは、イヴリン訓練生に懇切丁寧に宿題を教える。そのために書類仕事を始める時間が遅くなり、夜なべ仕事になってしまった。だがそれでも何故か彼の機嫌は良くなり、かえって仕事の効率も上がったらしかった。
まだそこまで意識してはいないけれど、イヴリン訓練生との時間は主人公にとっても癒しになってます。家族的と言うか妹的な感じで。