鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-044 闖入者』

 ヒューバート大尉の機嫌が良い。彼はこの間のボーナスで、ついに部隊への借金を完済したのだ。しかも借金を支払った残金で、かなりの貯金もできている。

 

「いや、他人の不幸を喜ぶ趣味は無いんだが……。こうやって借金を綺麗にできると、助かったとしか言えないし、嬉しさがこみあげるのは止められんよ。うん、後ろめたさも多少あるけどな。」

「まあ俺たち傭兵は、ある意味で他人の不幸が飯の種だからなあ。その辺は割り切るしかあるまいさ。」

「ま、そうだな。」

 

 自分自身に言い聞かせるようなキースの言葉に、ヒューバート大尉は頷いた。今彼らは、惑星ネイバーフッドはオーバーゼアー城の司令執務室にて、激務の合間にぽっかり空いた時間で駄弁っていた。まあ根を詰め過ぎると、何事も上手く行かなくなる物だ。

 ちなみに今は休憩中だと言うことで、彼ら2人の口調は上司と部下の物では無く、4年間のメック戦士養成校就学期間を共に寮の同室で過ごした、友人同士の物になっている。

 キースは笑いながら、ヒューバート大尉に言う。

 

「ヒューバートは、これでしばらくアーリン中尉に頭が上がらないわけだ。仕事上でならともかく、個人対個人としてはな。」

「確かに。第2中隊の中隊長になるのを譲ってもらった恩があるからなあ……。彼女は、小隊規模までならともかく、中隊規模の指揮には自信がないって言って第2中隊中隊長への就任を断ってたが……。ありゃ方便だよなあ。」

「ああ。部隊の「経営」ならともかく、部隊の「運用」に関しては、アーリン中尉の技量や知識は充分だ。下手すれば、お前も凌ぐよ。たぶん彼女はお前さんの事情を鑑みて、報酬が多大なメック中隊中隊長の座を譲ったんだろうなあ。

 次に第3中隊を新設する際には、今度こそアーリン中尉に大尉に昇進してもらい、中隊長になってもらわにゃ困る。まあ先に、第2中隊の偵察小隊を新設せにゃならんけどなあ。

 レオ・ファーニバル教官が送り出してくれる約束になってる、俺たちの後輩がやって来るのは、最速でも6月半ばだ。士官が足りないし、平のメック戦士も足りないし……。」

 

 キースは執務机にだらーっとのびる。他の部隊員には見せられない姿だ。いや、『SOTS』が小隊規模であった頃からの最初期メンバーにならば、見せても構わないかも知れないが。少なくともそれ以外の部隊員たちに見られたら、最低でもぎょっとされるだろう。

 ヒューバート大尉は苦笑する。

 

「ははは。そう言えばキース、例の訓練生たちはどうなんだ?噂を聞く限りでは随分腕前も上がってきたみたいじゃないか。第2中隊の偵察小隊要員としては使えないのか?」

「考えてはいるんだよ。ただなあ……。

 第1に、小隊長にする士官がいない。イヴリン訓練生は、下手すると戦術能力や指揮能力は新任少尉に匹敵するんだけど、あの娘は火力小隊である『機兵狩人小隊』の補充にすることが、サラ中尉待遇少尉との約束で決まってるからなあ。それにまだ12歳だし初陣には早いかな。

 あと、数学や物理、化学、生物、地学と言った自然科学分野では、驚くべきことにシニア・ハイスクールのレベルまで行ってるけど、その他の社会科学分野や人文科学分野は歳相応でしかない。いきなり士官待遇にするのは無茶というもんだろ。

 第2に、あいつらの初陣と任官の時期をどうするか、まだ悩んでるんだよな。今言った通り、イヴリン訓練生はまだ早いんじゃないか、と思ってる。で、だ。エドウィン訓練生にエルフリーデ訓練生は、イヴリン訓練生の後輩だからな。下手に先に初陣させるのもちょっとなあ。

 奴らがイヴリン訓練生よりも圧倒的に実力があるなら、奴らの初陣を先にしてもいいんだが、今のところ戦術能力や指揮能力も含めた総合力で、イヴリン訓練生がトップだし。単純な戦闘技量は、並んで来たんだが、やはり総合力ではな。

 エドウィン訓練生もエルフリーデ訓練生も、そのことはしっかり自覚してるし。」

「……イヴリン訓練生の初陣と正規メック戦士への任官、早めてもいいんじゃないか?そうすりゃ偵察小隊はともかく、火力小隊が定数を満たす。それにイヴリン訓練生が初陣を済ませれば、他の2名の訓練生も初陣させて正規メック戦士にするのに問題無くなるんじゃ?後は1人か2人、士官さえいれば偵察小隊も編成できるし。」

 

 ヒューバート大尉は、キースの悩みを切って落とした。キースは目を丸くする。

 

「だが……。」

「まあ、気持ちはわかるさ。まだあの娘は幼いよな。でも、数こそ少ないが例が無いわけじゃあない。……悲しいことだがな。

 メック戦士を失ったメック戦士家系の人間にゃ、本来逃げ道なんて無いのさ。老若男女問わず、バトルメックの操縦席に座らにゃならん。そうしなけりゃあ、全てを失う。

 あの娘は、お前さんが一時退避先を作ってくれたおかげで、本来受けられなかった高度なメック戦士教育を受けられてる。そして才能を開花させつつある。」

「……。」

 

 キースは押し黙る。ヒューバート大尉は、悲しげな瞳で小さく笑った。

 

「お前さん、あの訓練生どもが正規メック戦士になったとしても、基礎教養の教育とメック訓練をやめるつもりは無いんだろ?」

「ああ、それは勿論だとも。あいつらには、最低限シニア・ハイスクール卒業資格、可能ならば大学卒業資格を取らせるつもりなんだ。それにメック訓練の方も、まだまだ鍛え足りないし教えていないことが沢山あるんだよ。」

「だったら後は、あいつらを実戦に出せるか否かの判断だけだな。その辺、どうなんだ?」

 

 少し考えた後に、キースは言った。

 

「いや……。まだ実戦には出せない。少なくとも来週から予定している実機訓練で、ある程度の実機での勘を身に付けさせるまでは。シミュレーターでの動きが実機でも即座に可能なんて、希望的観測に縋るわけにはいかないよ。

 ただ……イヴリン訓練生の初陣時期を早める可能性については、サラ中尉待遇少尉やケイト総務課長とも、前向きな方向性で話し合うつもりだ。だが正直……。あんな若いうちに、人殺しに慣れさせたくは無い気もするんだけどな。……贅沢、か?」

「ああ、贅沢だ。」

 

 ヒューバート大尉は、悲しげな笑顔のまま言った。が、すぐに無理矢理と言った風情で、満面の笑顔を作ると言葉を紡ぐ。

 

「……ここはライラ共和国だよな。つまり飲酒が認められる年齢は低いわけだ。たしかアルコール分15%以下の酒なら、16歳から飲めるはずだよな。お前さん17歳だろ?よし!今度飲もう!」

「……付き合うとするか。」

「よし!そうと決まれば仕事に戻ろう!時間ひねりだして、飲むぞ!」

 

 ちょうどその時、インターホンが鳴る。アーリン中尉が入室許可を求めて来たのだ。

 

『アーリン中尉です、入室許可願います。』

「入室を許可する。入りたまえ。」

 

 ドアが開くと、アーリン中尉は大型の台車に山の様な書類を載せて入って来る。その重さに、彼女は閉口している様だった。

 

「んしょ!はぁ~、台車に載せてさえ重いって、どういうことよ……。キース少佐、先日の戦闘および惑星政府からの依頼に関わる書類、それとバトルメックおよび気圏戦闘機、戦車等々の損傷、消耗関係でライラ共和国に請求できる装甲板と弾薬に関わる書類、あとは、えーと、えーと。まあとにかく、先日の一件に関連した書類全部持ってきました。」

「こ、これ全部!?自由執事さんや整備兵小隊長のサイモンさんに回せる分、回したのか!?」

「全部回した残りがコレです、ヒューバート大尉。前回は3ヶ所でばらばらに戦闘した上、1ヶ所はそこそこ大きな戦いだったので、必要書類が増えたんです。しかも惑星政府の依頼と、正規の戦闘行動が重なったために、惑星政府とライラ共和国の当局の両方に書類を出さないといけなくなったんです。

 ただ、この中に私やヒューバート大尉で決済できる書類も入ってます。サラ中尉待遇少尉やケネス中尉には既に回せる物は回してありますので。ただし提出期限には余裕がありますので、少しづつやればいいかも知れませんが……。」

 

 キースは、思わず笑った。

 

「くっくっく……。提出期限が先だと言っても、その間に何かあればまた書類の山がやって来るのは間違いない。となれば、余裕がある今のうちに可能な限り終わらせておくに越したことは無いという物だな。やれやれ、飲み会はしばらくお預けの様だな、ヒューバート大尉。」

「そうですね……。まあ頑張るとしましょう、キース少佐。」

「え?飲み会ですか?」

「ああ、ヒューバート大尉の発案でな。ここはライラ共和国だから、俺も軽い酒なら飲んでもいいんだ。だがそれよりもまず、この書類の山を片付けないとな。」

 

 おもむろにキースは、猛スピードで書類を検め始める。ヒューバート大尉もまた、それに追随し、必死に書類を読み進めてサインしていく。アーリン中尉は一瞬呆けた顔になった。

 

「……そう言えば、17歳だったわね。ついつい忘れちゃうわ。かなり年下だってのは、一応頭にはあるんだけど……。」

 

 アーリン中尉も気を取り直して、書類に取り組み始める。書類の山は、見る見るうちに……とまではいかないものの、それなりの速度で減っていった。

 

 

 

 やがてキースは、1通の書類に行き当たる。それは先の戦いで捕虜にした、ドラコ連合軍のヤイーシュ・ワーフィル・ウサーマ大尉の取り調べ調書だった。キースはそれを一読する。

 

(……ヤイーシュ大尉は、流石としか言いようが無い、か。あれだけの覚悟を持った人物だからなー。氏名、生年月日、階級、認識番号以外の情報は頑として話さなかった、か。)

 

 そしてキースは次の書類や、その次の書類、そして続く一連の書類に連続して目を通して行く。それはその他の捕虜になったドラコ軍メック戦士や戦車兵たちの取り調べ調書である。

 

(……ヤイーシュ大尉の直属の部下は、流石なもんだよな。ヤイーシュ大尉と同様、ほとんど喋っていないじゃないか。ただ、ヤイーシュ大尉の上に立つ大隊長と、その腰巾着であるらしい第3中隊中隊長に対する不満があるみたいだね。だがその名前などを洩らしたりはしない、か。洩らしてくれてもいいのになあ。まあ、既に知ってるけど。

 前に鹵獲した降下船アタゴ号に載せられてた当の第3中隊の指揮官、ヴァレール・セスブロン・ヴィズール大尉が吐いたんだよね。自分の直属の上官は、第25ラサルハグ連隊B大隊大隊長ジョー・タカハタ少佐だって。まあ流石に断片的な情報しか吐かなかったけどね。

 ヤイーシュ大尉直属でないメック戦士や、戦車兵たちからもその裏付け情報は取れてるな。タカハタ少佐はアレス条約は守るお方だが、その範囲内でできる限りのことをやるお方でもある、か。なるほど、戦車兵や歩兵を使い捨てにするのはアレス条約違反ではない、か。後はアレス条約の拡大解釈も、タカハタ少佐はお得意みたいだな。

 現地の麻薬組織を使うのも、そうなのかな?麻薬はアレス条約以前に、大方の惑星の法律で製造・販売どころか所持も違法なんだけどな。スパイ活動の指揮を取ってるのはタカハタ少佐なのかな?それともスパイ組織とタカハタ少佐の部隊は別系統で、協力し合ってるだけ?今はまだわからないなー。

 いかん、麻薬のこと考えたら、ラヴィニア嬢のこと思い出して腹立ってきた。落ち着け、落ち着け。よし、落ち着いた。)

 

 ヤイーシュ大尉直属以外のメック戦士や戦車兵たちによると、タカハタ少佐の機体こそが、あの時逃げ切った70tグラスホッパーだと言う。

 

(なんと……。逃がすんじゃなかった。最大限優先して攻撃をかけるべきだったか。ああ、でもタカハタ少佐を捕らえたかわりにヤイーシュ大尉を逃がしてたりしたら、なんか敵が強化されそうな気がするのは気のせいか?

 まあそれに、相手は近接戦が得意のグラスホッパーのくせに、自陣の奥に引っ込んで前に出て来なかったからな。あの場合、後回しになるのは仕方ないか。

 あー、いや。タカハタ少佐は戦術面では、せっかくのデモリッシャー戦車を捨て駒にしたりとか、あまり評価できる存在ではない。だけど、陰謀や謀略に関してはどうかわからない。

 スパイ網がタカハタ少佐の指揮下にあるのか、そうでないのかは未だわかってないんだ。少なくとも最低限、協力関係にあるのは間違いないだろ。やっぱり逃がしたのは惜しかったな。)

 

 キースはこの件について考えるのを一時中断し、別の書類へと意識を向ける。処理すべき書類は、まだまだ大量に残っているのであった。

 

 

 

「……というわけで、ライフルマンはD2J照準/索敵システムによって飛行目標に対し非常に高い射撃命中率を誇る。貴様たちが気圏戦闘機隊と連携を取っていた場合、最も注意をはらうべきバトルメックだ。また単純に支援機としても高い能力を持っており……。」

 

 訓練生たちを相手に、キースは今日も軍事知識の座学を教え込んでいた。今日教えているのは、有名なバトルメックの機種とその特徴である。ちなみに書類仕事は、一応なんとか一段落つくところまで終わらせてある。

 エルフリーデ訓練生が、右手を上げた。どうやら質問があるらしい。

 

「はい!質問です!」

「うむ。許可する、エルフリーデ訓練生。」

「はっ!少佐はライフルマンが支援機として高い能力を持つと仰られました。確かに中口径オートキャノン、大口径レーザーを2門ずつ装備しており、更には万一近寄られた際の中口径レーザーも2門装備しており、その火力は絶大です。ですが……。追加放熱器を1つも持っておらず、その火力を活かせないのではないでしょうか。」

 

 キースは質問に答えようとして、以前にもこの質問を受けたことを思い出す。彼は話をイヴリン訓練生に振った。

 

「イヴリン訓練生、お前も以前ライフルマンについて教えたとき、同じ質問をしてきたな。ちゃんと覚えているかテストしてやる。今のエルフリーデ訓練生の質問に、答えてみろ。」

「はっ!ライフルマンの両腕に1門ずつ装備されている大口径レーザーは、一度に両方射撃するための物ではありません。機体の上体を捻ることと合わせて、歩行して機体の向きを変える必要なしに、どの方向にいる敵でも最低限中口径オートキャノン1門と大口径レーザー1門は撃てる様にするために、両手に1門ずつ付いているのです。

 両方の大口径レーザーを同時に撃つ可能性を最初から除外すれば、追加放熱器の無いこの機体でも十全な運用が可能となります。」

「その通りだ。機体の向きを変えようと足を踏み変えれば、機体の震動でどうしても射撃の命中率は落ちる。機体の上体を捻るだけでどの方向の敵でも撃てるならば、その心配も無用となる。

 ライフルマンの特徴を絶大な火力だと認識している者は多いが、実はそうではない。極めて広く取れる射界と、その射撃命中率こそがライフルマンを特徴づける物である。理解できたか?エルフリーデ訓練生。」

「はいっ!」

 

 キースは満足げに頷く。そして彼は次の機体解説に移る。

 

「では次に解説するのは、お前たちもシミュレーターでよく敵機として遭遇したことのあるシャドウホークだ。このバトルメックは、全ての能力にほどほどに優れており、なおかつ排熱に不安がない優れた機体だ。パンチ力に不足していると言うやつも多いがな。

 だがある程度以上技量が優れたメック戦士に運用されたこの機体は、突然化けるぞ。オートキャノンの近接射程ぎりぎり、中口径レーザーと2連短距離ミサイルの中距離射程ぎりぎり、5連長距離ミサイルの最低射程をわずかに割り込んだ距離と言える、約180mの距離。この距離での全弾発射を喰らうと、びっくりするほど痛い。

 ……ん?」

 

 そのとき突然、内線電話が鳴った。キースは一瞬眉を顰めるが、その受話器を取る。

 

「こちら第2小会議室。キース・ハワード少佐だ。」

『講義中失礼します、キース少佐。こちら指令室、ヒューバート大尉です。』

「ヒューバート大尉、何があった?」

 

 ヒューバート大尉の声は、緊迫感に溢れていた。キースは彼を問い質す。

 

『所属不明の降下船が惑星に降下しました。至急指令室へお戻りください。こちらの気圏戦闘機が修理中で、アロー1とアロー2のライトニング戦闘機2機しか飛んでいない隙を突かれた形です。』

「!!……了解した。そちらへ戻るまでに、情報を少しでも整理しておいてくれ。」

『了解です。』

 

 受話器を置くと、キースは訓練生たちに向かい、言葉を発する。

 

「俺は指令室へ戻らねばならん。イヴリン訓練生、貴様に以前教えたところまでで良い。エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生に有名なバトルメックとその主なバリエーションについて教えてやれ。」

「はっ!!了解しました!!」

「では俺は行く。今日やるはずだったところは、後日続きをやるが、一応自習しておけ。ではな。」

「敬礼!!ありがとうございました!!」

「「ありがとうございました!!」」

 

 訓練生たちが、イヴリン訓練生の号令で一斉に敬礼する。キースも答礼を返すと、踵を返して小会議室を出て、指令室まで急いだ。

 

 

 

 指令室にキースが辿り着いたとき、そこはかなりの騒ぎになっていた。ヒューバート大尉とアーリン中尉が、キースを見つけて走り寄ってくる。ケネス中尉とサラ中尉待遇少尉も、一拍子遅れて走って来た。ヒューバート大尉がキースを呼ぶ。

 

「キース少佐!」

「報告を!」

「はい!アロー2を高高度偵察に飛ばしました。所属不明降下船は、レパード級1隻とユニオン級1隻です。受信されたID信号は商用降下船の物でしたので、まったく警戒していませんでした。ですが念のためにアロー1を近くまで飛ばしたところ……。」

「商用降下船どころか、軍用のレパード級とユニオン級だったわけだな。」

 

 ヒューバート大尉は頷く。彼は首を傾げながら言葉を発した。

 

「その時点で、危険だったのでアロー1は帰還させました。部隊マークなどは残念ながら確認できませんでした。ただドラコ連合の船かと言うと、少し疑問が……。ドラコ連合制圧地域内に降りていないんです。」

「もしや……。いや、今は下手な推測は危険だな。今修理完了している戦力は!」

「第1中隊の指揮小隊は完全に修理完了しています。また第1中隊偵察小隊も、あと1時間で修理完了です。気圏戦闘機隊も、あと1時間で全機飛べる様になるそうです。機甲部隊の戦車は全車輛行けます。」

 

 アーリン中尉の報告に頷き、キースは少々考え込む。そこへオペレーターの1人が声をかけてきた。

 

「キース少佐!アロー2のジョアナ少尉から入電です!」

「回線を繋げ!……ジョアナ少尉、報告を!」

『こちらアロー2、レパード級降下船からバトルメック1個小隊が発進。ユニオン級からもバトルメック1個小隊発進しました。航空写真をデータ転送します。』

「送られてきた航空写真を解析し、バトルメックの機種判別を急げ!」

 

 ヒューバート大尉が、オペレーターたちに指示を飛ばした。キースは別のオペレーターに質問を発する。

 

「ユニオン級とレパード級の着陸地点の地質概略図はどこかに無いか!?」

「え!?あ、少々お待ちください!」

「あの辺りは、確か硬い岩盤のはずだよ。農地開拓のための地質調査結果が、惑星政府の資料に残っていたよ。」

 

 そう言ったのは、いつの間にかやって来ていた惑星学者のミン・ハオサン博士だった。アーリン中尉が驚く。

 

「ハオサン博士、何時の間に!」

「いや、最初からいたんだが。オペレーターに、惑星政府の持つこの惑星の資料を集めてもらうために来てたんだがね。そしたら突然大騒ぎになって……。」

「いや助かりました、ハオサン博士。……となると、爆撃で穴を掘って降下船を傾ける戦術は使えんな。ふむ……。よし、レパード級降下船ヴァリアント号とゴダード号で第1中隊の指揮小隊と偵察小隊、それに2個歩兵小隊を送り込む。修理が完了する1時間後に発進だ。同時に気圏戦闘機隊を全力出撃させる。

 船舶のIDを偽造して降下して来たんだ、敵性存在であることは間違いない。叩いておかなければ、我々としてはまずいだろうしな。」

 

 ケネス中尉が不思議そうに尋ねる。

 

「フォートレス級ディファイアント号は使わないのでありますか?」

「今回は速度重視だ。ただでさえ修理で1時間の遅れを出してしまうんだ。長球型降下船であるディファイアント号でのんびり飛んで行っては、敵が目的を達成してしまうやも知れん。だからレパード級で一気に飛んで行く。」

「了解です。連れて行く歩兵小隊は?」

 

 訊ねるヒューバート大尉に、キースはにやりと笑って言った。

 

「エリオット中尉率いる第1歩兵小隊と、テリー少尉率いる第2歩兵小隊だ。この2つの小隊は、降下船突入作戦の経験も多い。我々のメック部隊は敵メック部隊を相手にするが、我々を降ろした後のレパード級2隻と気圏戦闘機6機には、囮として敵降下船の目を引き付けてもらう。その間に、敵の降下船2隻に迷彩服を着せた歩兵部隊を突入させる。

 ……以前、良くやった手だ。降下船が陥落すれば、メック部隊の士気も落ちるだろうよ。」

 

 アーリン中尉は、ぽん、と右拳を左掌に落とす。またサラ中尉待遇少尉も、何やら頷いている。彼女たちはエリオット中尉率いる歩兵部隊たちが何度か降下船を陥としているところを見ているのだ。その信頼感は、半端ではない。

 一方ヒューバート大尉とケネス中尉は、エリオット中尉の歩兵部隊の力量を知らない。ヒューバート中尉は引き攣った笑顔で、キースとアーリン中尉の顔を見ている。ケネス中尉も困惑している様子だ。その2人に、キースは「大丈夫だ」と言う様に頷いてやる。2人も、完全に納得はしていないのだろうが、頷きを返した。

 キースはおもむろに口を開く。

 

「何処の誰だか知らんが、余計な真似をされる前に叩き潰すぞ。ただでさえクリタ家の連中に面倒事を引き起こされているんだ。これ以上面倒を増やされてたまるか。」

「「「「了解!」」」」

 

 不敵な笑みを浮かべ、キースは頷いた。




色々と部隊の日常風景を描写していたら、そこに無粋な闖入者が。はてさて、この闖入者は、いったいぜんたい何者なのか!
……まあ、みんな想像が付くとは思いますけどね(笑)。
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