連盟標準時3026年5月13日、この日キースはオーバーゼアー城の司令執務室にて、エルンスト曹長からの報告を受けていた。何の報告かと言うと、以前スパイ網の拠点にて偵察小隊編成の敵メック部隊を壊滅させた際に、敵が残して行った書類の精査結果についてであった。
「いやはや、大変でした。この書類ですが、周到な暗号化が施されていまして。解読に随分と時間を取られてしまいましたよ。パメラ軍曹にも協力を仰いで、城の主コンピュータ時間を借りてようやっと解読に成功しました。」
「すると、内容はかなり重要な物だったのか?」
「はい。この惑星も当然のことながら、昔は星間連盟の支配下にありました。それ故に、星間連盟時代の遺跡がこの惑星にあっても、なんらおかしくは無いわけですね。で、簡単に言うと、それがあったわけです。敵偵察小隊は、この遺跡を奪うための奇襲攻撃をかける準備をしていたんです。」
エルンスト曹長は、暗号化されていたと言う書類の解析結果をキースに手渡す。キースはそれを一読する。
「なるほど、たしかに星間連盟期の遺跡らしいが……。どういう物かは書かれていないな?規模もそれほど大きくは無い様だ。場所は……現在の第11海軍基地の真下、か。海軍基地とは言っても、シャトル発着場でしか無く、碌な防備も無い……。偵察小隊が1個小隊で、充分に奪える物だったろうな。
なるほど、この基地の離着床と滑走路は、元々遺跡の一部だったんだな。だが遺されていたのが離着床と滑走路だけだと考えられていたのが、まだ地下があったと言うわけか。となると、この遺跡も元々は宇宙船関係の物である可能性が高いのかもな。」
「ただ、規模が大きくなくとも、これだけの暗号化がかけられていた代物です。相当重要な物が隠されているのは間違いないかと。」
「確かにな。この件は、すぐに惑星政府に報告しよう。対処は惑星政府の反応次第だ。遺跡の所有権は、基本的には惑星公もしくは、その直下にあることに形式上なっている惑星政府の物だからな。」
そう言うキースの表情は優れない。エルンスト曹長は怪訝な顔をする。
「いったいどうしたんですか、キース少佐。あまりご機嫌がよろしくない様子ですが。」
「いや、俺はこの書類ができれば敵のスパイ活動その物を洗い出す手がかりになってくれることも、期待していたんだ。無論、敵偵察小隊の作戦目的がわかることも期待はしていたが、それによってスパイ組織の活動の糸口なりとも掴めれば、と思っていたんだが……。」
「なるほど、そうでしたな……。この書類の内容では、敵のスパイ組織の糸口は掴めませんな。……ところで、奴らはこの情報を、何処から手に入れたのでしょうな。」
キースは少し考えてから、口を開いた。
「それも惑星政府の反応しだいかも知れんな。惑星政府がまったくこの遺跡について知らなければ、惑星外に遺されていた古文書などからの情報かも知れん。知っていたなら、惑星政府の内側から漏れた情報であるやも知れんな。後者なら、惑星政府の内懐にスパイが潜り込んでいる傍証になるかもな。」
「ほほう、確かにそうですな。さて、では私はこの辺で失礼をさせていただきたく思いますが。」
「うむ、下がってよろしい。」
エルンスト曹長は敬礼をする。キースも答礼を返した。エルンスト曹長は踵を返し、そのまま司令執務室を出て行く。キースは机上の電話機を取り、外線電話をかけた。電話した先は、首相官邸である。なお、電話で遺跡関係の話をするつもりはない。単に向こうに出向くためのアポイントメントを取りつけるために電話をかけただけであった。
そしてキースは今、首相官邸までやって来ていた。運転手はいつものジャスティン伍長である。もっともジャスティン伍長はジープの運転席で、じっとキースの帰りを待っているのだが。さすがにキースのお供とは言え、惑星政府首班である首相などと言う偉いさんとは、差し向かいで会いたくは無いだろう。
トゥール・メランダー首相は、キースと1対1で首相官邸の中の小さな応接室に入った。応接室と言うよりは、尋問室とでも言いたいぐらいの狭い部屋である。ただし、調度の類は豪華な物であった。メランダー首相はにこやかな笑みを崩さずに言う。
「すまんな、ハワード少佐。こんな部屋に通してしまって。ただ、今のところ100%確実に盗聴器などの掃除ができている部屋がここだけなのだよ。他の部屋でも90%以上は確かだと思われるのだが、なにぶん敵ドラコ連合のスパイの技術は、我々のそれを超越している模様なのでな。」
「いえ、自分もあまり広い部屋は落ち着きませんので。」
「ならば良かったが……。まあそれよりも、だ。何やら重要な案件があると言う話だったが?電話で話すのは危険なことなのかね?」
おもむろにキースは、首を左右に振る。
「危険、とまでは申しません。今回の件は、敵スパイが拠点から逃走する際に、始末し損ねて残して行った書類の暗号を解読し、得られた情報による物です。ですので、敵にもこの情報がこちら側の手に渡ったことは、充分に推察できるでしょう。ですので、この件自体はそれほど秘密にする意味はありません。」
「ふむ……。何か考えがありそうだね?で、その情報とは何かね?」
「惑星軍の第11海軍基地の真下の地中に、星間連盟時代の遺跡が存在している、との情報です。規模は大きく無く、どのような遺跡であるかの種別も判明しておりませんが、ドラコ連合軍はこの遺跡を押さえるために1個メック小隊による奇襲攻撃を計画しておりました。
幸いにも事前にそのメック小隊は壊滅させることができましたが……。」
メランダー首相は表情に驚きの色を浮かべる。キースはメランダー首相を問い質す。
「首相、貴方が今驚かれたのは、そんなところに星間連盟時代の遺跡があったからですか?それとも秘密にしていた遺跡のことをドラコ連合が知っていたからですか?」
「ハワード少佐、それは穿ち過ぎな見方だよ。私はそこに星間連盟時代の遺跡があることなど、まったく知らなかった。この惑星の星間連盟時代の遺跡は、すべて調査済みで大したものは無いはずだったのだが……。しかし敵はどうやってその情報を知り得たのだろう。」
「それは流石に、わかりかねます。この惑星外に、古文書でも残存していたのやも知れません。……首相、惑星政府としてはこの遺跡の処置を、どうなされますか?」
キースの言葉に、メランダー首相は頷く。
「うむ。ハワード少佐、この惑星の技術者たちではおそらく手が出せん代物だろうと思われる。君の部隊に調査依頼を出したいのだが、かまわんかね?無論、戦闘任務扱いで報酬を出そう。」
「了解いたしました。ついてはその調査において、少しお願いしたいことがあるのですが……。」
「何かね?」
キースはざっと自分の考えを話す。メランダー首相は少しの間眉を寄せて考えていたが、やがて確固たる口調で言った。
「わかった。やってみよう。なるほど、それで電話ではなく、わざわざ来てくれたのか。」
「ありがとうございます。」
「いや、これは本来こちら側の問題である側面が大きいからね。上手く行ってくれると助かるのだが。」
メランダー首相はにやりと悪党っぽく笑った。キースもにやりと人の悪い笑みを返す。2人は固く握手を交わした。
マローダーの操縦席で、キースはライトニング戦闘機4番機からの報告を受けていた。ちなみに通信回線は、レパード級降下船ヴァリアント号の通信装置とオーバーゼアー城の通信設備を介して構築してある。
『こちらアロー4。キース少佐、オーバーゼアー城に2個小隊の戦車による機甲部隊と、それに追随して兵員輸送車と見られる車輛が多数向かっています。』
「予想通りだな。タカハタ少佐の性格から、戦車と歩兵を足止めにするのではないかと思っていた。戦車に重戦車は含まれているか?」
『いえ、重戦車は含まれていません。ただしこちらは高高度のため、個別の車種の判別は難しいです。航空写真は撮影して城の指令室に送りましたので、解析が終わりしだい判明するとは思います。』
と、ここでライトニング戦闘機3番機からの報告が、キースのマローダーに入る。
『こちらアロー3!キース少佐の予測通りです!1個中隊強のバトルメックが、第11海軍基地に向かって進攻中です!』
「こちらも予想通りか。しかもおおよその時間まで的中とはな。ただ戦力はいささか大きかった様だが。……ヒューバート大尉!聞こえるか!」
『こちらオーバーゼアー城、ヒューバート大尉です。』
キースはヒューバート大尉に指示を下す。
「そちらに足止め目的と思われる戦車部隊と歩兵部隊が向かっている。第2中隊は発進準備できているな?」
『ええ、既に全員メックに搭乗済みです。機甲部隊の戦車も全車輛準備整ってます。』
「城の手前で待ち構えて迎撃してくれ。細かいところは任せる。ただ、歩兵には注意してくれ。対メック歩兵を侮ると、痛い目を見るからな。」
『わかってます。任せてください。対メック歩兵の怖さはわかってます。』
ヒューバート大尉は、しっかりと請け合う。この会話でわかる通り、キースたちの第1中隊は今オーバーゼアー城にはいなかった。ではどこにいるかと言うと、キースたちは第11海軍基地に出向き、既に発掘調査を開始していたのである。
偵察兵であるエルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹が、整備兵たちの支援を受けつつ現在地下施設を探索中であった。その間メック部隊は、海軍基地のシャトル格納庫内に機体を隠して敵が来るのを待ち構えていたのである。
何故キースが敵が来る時間を予測していたのかと言うと、それには次のようなわけがある。キースは首相と会談した際に、発掘調査開始の日付を本来の実施日時よりも後にずらして周囲の者に伝える様に頼んだのだ。また同時に、発掘にメック戦力を付けて出すことは伏せておくようにも頼んだ。もし惑星政府内にドラコ連合スパイ網の手が伸びているとしたら、そして元国防大臣スティーグ・ブラックバーン氏の線以外にスパイがいるとしたら、敵にはこの間違った情報が伝わるはずなのである。
わざわざメック1個小隊を用意してまで確保したがった遺跡である。それが発掘されるとあらば、相手は遺跡を奪取しに来るとキースは考えたのだ。そして敵が情報入手後に可能な限り急いで行動した場合に備えて、こちらも可能な限り早く第11海軍基地にメック戦力を配置した。
先日入手したばかりのスペードフィッシュ号を含めた、『SOTS』所有の3隻のレパード級降下船を全て投入しての、バトルメック1個中隊とスナイパー砲車輛1台の戦力輸送である。もっとも、敵はそこまで急がずに行動したため、多少待ちぼうけになったのは仕方のないところだが。
(時間は公表された時間の3時間前か……。こちらの発掘隊が到着するより前にこの遺跡を押さえておこうとしたんだろう。ここまでは予想通りだけど、敵戦力が1個中隊強だと言うのが予想以上だったなあ。おそらく動かせる戦力の限界に近い数のはずだよな。
ここまで思い切ることができる人物だとは……。見誤ったかな?いや、前回の大敗で思いつめていたのかも知れない。万が一に備え、こちらも1個中隊を出しておいて良かったよ。)
もしかしたら、スパイがいなかったり、タカハタ少佐まで情報が伝わらないかもしれなかったが、それならそれで良かった。その場合は、普通に発掘調査を終わらせるだけである。だがしかし、敵はやって来た。やはり惑星政府内には、まだドラコ連合のスパイに通じている――本人が自覚しているしていないに関わらず――者が存在しているのだ。
やがて敵のバトルメック部隊が姿を現した。キースたち『SOTS』メック部隊第1中隊も海軍基地の南側に展開し、敵を待ち受ける。敵はこちらが既に、バトルメック戦力を目標の海軍基地に送り込んでいたことに、動揺する様子を見せていた。だがそれでも戦意は失わず、前進してくる。キースはスナイパー砲車輛のサイモン老に砲撃指示を下した。
「サイモン少尉!スナイパー砲をBA-S-14058ポイントに撃ち込め!その次はそこからNEに150m地点!更にその次は120mNWにずれた地点だ!風向と風力は、Wより3単位!」
『了解ですわい!』
「指揮小隊は先頭のウォーハンマーに攻撃を集中しろ!まずはあれを脱落させるぞ!」
『『『了解!』』』
指揮小隊のバトルメックはキースの指示に従い、その長射程火器をもって敵のウォーハンマーに火力を集中した。キースのマローダーより粒子ビーム砲2門、中口径オートキャノンが1門放たれる。アンドリュー曹長のライフルマンからは中口径オートキャノン2門が発射された。大口径レーザーは、まだ届かない距離である。エリーザ曹長のウォーハンマーからは粒子ビーム砲が2門、マテュー少尉のサンダーボルトより15連長距離ミサイル1門が、各々射撃された。
いきなり遠距離射程ぎりぎりで集中砲火を浴びた敵のウォーハンマーは、唯一かろうじて届く粒子ビーム砲での応射を試みるが、命中は覚束ない。逆にキースの指揮小隊からの砲火は、その全てが吸い込まれる様に命中した。その攻撃のうち、粒子ビーム砲2発と中口径オートキャノン1発が胴中央に集中し、敵のウォーハンマーはジャイロを破壊されて転倒してしまう。これでこの機体は戦力外になった。
キースは続けざまに命令を下す。
「敵が遠いうちに、できるだけ数を減らすぞ!次の目標は向かって右のK型クルセイダーだ!……撃て!!」
そのK型クルセイダーもまた、指揮小隊の集中砲火を浴びる。K型クルセイダーは2基の10連長距離ミサイル発射筒で応射を試みた。かろうじて、マテュー少尉のサンダーボルト右腕に4発だけ、長距離ミサイルが命中する。だがそれと引き替えにして、K型クルセイダーの右脚は火力の集中により折り取られてしまう。K型クルセイダーは派手に転倒した。
味方の尊い犠牲の下、向かって左に位置するもう1機のK型クルセイダーおよび2機のグリフィンは、丘陵地帯を盾にした絶好の射撃位置を奪うことに成功する。またK型ウルバリーン、K型シャドウホーク2機、ハンチバック、K型フェニックスホーク2機は全力で前進してきた。キースは偵察小隊機と火力小隊機を投入する。
「アーリン中尉、偵察小隊でK型フェニックスホーク2機とK型ウルバリーンを抑えてくれ。ケネス中尉、そちらはK型シャドウホーク2機を、味方のアーチャーの支援下で叩いてくれ。マテュー少尉は全力で前進し、敵のハンチバックを潰してしまうんだ。残りの指揮小隊機は、俺がK型クルセイダー、アンドリュー曹長機が右のグリフィン、エリーザ曹長機はマテュー少尉機の陰に隠れつつ前進して左のグリフィンを撃て。」
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ここでスナイパー砲の第1射が着弾する。巻き込まれたのは、K型フェニックスホーク2機である。そのK型フェニックスホークに、偵察小隊の通常型フェニックスホーク2機、D型フェニックスホーク1機、グリフィン1機から火力が集中する。K型フェニックスホークも応戦する。
機動力が高い機体同士だけあって、命中率はさほど高くないが、それでも両者の装甲は少しずつ削れて行った。なお敵のK型ウルバリーンは、いまだ戦場の中心からは離れた場所を走っている。
一方火力小隊もまた、K型シャドウホークめがけて2機のアーチャーが20連長距離ミサイルの雨を降らせる。味方のハンチバックとウルバリーンは、まだ戦線に到着していない。だが20連長距離ミサイル合計4門の破壊力は凄まじく、K型シャドウホークはかなり大きなダメージを喰らっていた。
指揮小隊のメックは、マテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ軍曹のウォーハンマーを前衛にして、基本的に敵の後衛を潰す行動に出ていた。アンドリュー曹長のライフルマンが、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を撃ち放つ。その砲撃は、丘陵を盾にしたグリフィンの頭部を見事に捉え、吹き飛ばしていた。メック戦士はなんとか緊急脱出に成功した様だった。
エリーザ―軍曹のウォーハンマーは粒子ビーム砲2門でもう1機のグリフィンを攻撃し、その右腕を吹き飛ばしてしまう。キースのマローダーも、粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を過熱覚悟で射撃、うち1門の粒子ビーム砲がK型クルセイダーの頭部を貫いてメック戦士を死亡させた。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
スナイパー砲の第2射が着弾する。今度砲撃を受けたのは、K型シャドウホーク2機だ。先ほどのアーチャーからのミサイル攻撃と合わせ、かなりのダメージを被っている。ここで、粒子ビーム砲も届かない最後尾から指揮を取っていたグラスホッパーから、なんらかの指示があったと見えて、全敵機が牽制の射撃を放ちながら、一斉に後退を始める。キースは通信回線に向けて叫んだ。
「追い撃ちの遠距離射撃は行え、だが追撃は避けろ。敵が逃げると言うなら逃がしてやれ。ただし遠距離射撃で倒せそうな相手は潰してしまえよ。」
『『『『『『了解!』』』』』』
エリーザ曹長のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトが、攻撃が届く火器の斉射を敵のハンチバックに浴びせる。ハンチバックは後退しつつ最大口径オートキャノンの一撃をサンダーボルトへ撃って命中させるが、サンダーボルトの分厚い装甲はそれに耐えきる。逆にハンチバック側は一瞬で装甲をずたずたにされ、左脚を折られてしまった。
キースのマローダーとアンドリュー曹長のライフルマンは、それぞれアーリン中尉の偵察小隊とケネス中尉の火力小隊を支援している。その射撃に外れはまったく無い。恐ろしいまでの命中精度であった。
アーリン中尉の偵察小隊も、K型フェニックスホークの1機を、ケネス中尉の火力小隊も、K型シャドウホークの1機を行動不能にしている。ここで残りの敵は、後ろを向くと全力疾走で逃走した。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
敵が未だ抗戦していたとの想定下で撃たれたスナイパー砲の砲弾が、誰もいない場所に着弾する。第11海軍基地の攻防戦は、終わりを告げた。なお、オーバーゼアー城方面も、足止め部隊の機甲部隊と歩兵部隊を壊滅させ、撤退に追い込んだと後に報告があった。
「……そうですか。上の人間には逃げられましたか、残念です。」
『だが、惑星政府内はこれでかなり綺麗にすることができたよ。』
今キースは、オーバーゼアー城の司令執務室で、メランダー首相と電話で話していた。そう、今回の件ではもう1つ仕込みがあったのだ。惑星政府内に存在している可能性が高かったスパイを通じ、偽情報を流すというよくある手段の他、その情報が流れる経路を確認してスパイを洗い出し、摘発するという目的があったのである。
ただ、官憲が捕らえることに成功したのは実際に情報収集を行っていた下っ端ばかりであり、スパイ網の上位に位置する者は下っ端が捕らえられている間にドラコ領域への逃亡を完了していた。
『しかし、遺跡に隠されていた物がまさか深探査レーダーと収束赤外線装置他の対宙監視レーダー設備一式だったとはね。ドラコ連合が焦って押さえようとするわけだね。』
「ええ。このシステムが稼働状態になれば、この星系の星系保安システムは1段階も2段階も強力になります。今までの様に、隠密裏に降下船を送り込むことなど不可能になるでしょう。それと星間連盟期の施設としては量が少ないですが、幾ばくかの物資も発見されております。」
『うむ、物資自体はこの惑星では役に立たん原料状態だが、他の星系に売り払えばかなりの儲けになるね。君たちに支払う報酬も、そこそこの額が出せそうだよ。』
深探査レーダーとは、星間連盟時代後期に開発された試験型の装置であり、航宙艦のジャンプポイントへの出現をあらかじめ察知できる。また収束赤外線装置は、ジャンプポイントに到着した艦船の「熱影」を検出することが可能であり、既に到着している艦船しか判別できないものの、より高い精度の解析結果を与えてくれる物である。この惑星ネイバーフッドを守る上で、より一層の力になることは間違いない。
メランダー首相はいったん言葉を切ると、おもむろに話し始める。
『ところでライラ共和国から君たちの部隊宛てに通達が来ているらしいよ。内容はこちらでは知ることはできんが、共和国政府の友人からの話では、「防戦ばかりではなく、攻勢に出よ」と言うことらしいね。まあ、拠点の1つも奪還すれば文句は言ってこんだろうとは思うが。この通達の正式な書類は、すぐにそちらに届くはずだ。』
「お知らせいただき、ありがとうございます。早速検討いたします。」
『うむ、ではこの辺で失礼するよ。今回の報酬は、できるだけ早く支払う様にする。ではな。』
電話は切れた。キースは少々思い悩む。
(うちの部隊って、防衛戦が主で攻勢の任務はあまり無かったよな。指揮小隊の面々は大丈夫だと思うけど。まあ、やらなけりゃ経験ができるわけも無し。……正式な書類が届いたら、部隊内での意思統一をしておかなきゃな。何処を攻めるかとか、攻め取ったあとの維持の方法とか。書類が来たらすぐに士官を集めて会議をしよう。
と、その前に訓練生たちの座学の時間だな。今日は戦史とそれに関連した戦術の講義か。場所は第1小会議室だったな。)
キースはてきぱきと講義に使う資料を集めると立ち上がり、司令執務室を後にした。
とりあえず、海軍基地の情報を使って、敵スパイ組織の情報網をお掃除しました。残して置いて、偽情報を流したりするのに使った方がいい、と言う話も聞きますが、首相たちの精神衛生のためにはソレは厳しかったのです。