鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-050 根拠地奇襲』

 今、キースはインターリアー城を囲む包囲網の一角に設えられた仮設指揮所で、インターリアー城の図面や航空写真を見ながら考えていた。

 

(敵には今、降下船はいない。それは以前からの偵察で明らかになっている。ここへ敵を送って来た降下船は、物資輸送かなにかの目的でトンボ返りしたらしいからな。

 さて、今敵陣の地雷原に、エリーザ曹長を着弾観測員にしてサイモン爺さんが砲手になって、スナイパー砲を撃ち込んでいるけど……。地雷処理は順調だけど、何か気になるんだよなあ。敵バトルメックと敵戦車が出てこない。

 敵スナイパー砲も、かなり前から撃ってこなくなった。命中しないから、運用を諦めたとも考え難いが……。俺が何か見逃してると言われてる様なもんだよなあ。何だ?俺は何を見逃してる?)

 

 深呼吸をすると、キースはプレハブ仕立ての仮設指揮所の窓に歩み寄り、インターリアー城を見遣った。インターリアー城は一見オーバーゼアー城に似ており、ただの城と言うよりは城塞と言った雰囲気を醸し出している。いや、この城は正しく城塞なのだが。

 インターリアー城の上空を、万が一のときのために手配した、爆装した味方の気圏戦闘機6機が、編隊を組んで低速巡航モードで飛翔していた。それを眺めながら、キースは思う。

 

(城か……。城攻めで思い出すのは、惑星タンタールズⅣのマルボルク城だよなあ……。そこからの脱出時に、アルバート中尉が瀕死の重傷を負って、結局助からなかったんだ。アルバート中尉は地下道を通って……。地下道?)

 

 キースはインターリアー城の図面のところに駆け戻ると、その図面を子細に検める。

 

(……インターリアー城は構造的に不自然な点がある。特に内部の建物の配置が変だ。何処となく似ているのは、あのマルボルク城だ。まさかインターリアー城にも外部脱出用の地下道があるのか?バトルメックと戦車が出てこないのは、脱出準備をしている?いやまさか、もう脱出したかも?

 しばらくスナイパー間接砲を撃ってこないと言うことは、間接砲撃の技能者がいなくなったってことだろ?この局面で城を捨てたとして、いったいどうする?

 ……とりあえずは、だ。)

 

 やおら立ち上がったキースは、エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の偵察兵3名を呼び出した。

 

 

 

 一時的にスナイパー砲による砲撃が中断したインターリアー城前で、3ヶ所で同時に高性能爆薬が爆発し、微弱な人工地震が発生する。爆薬を仕掛けたのは、エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の3名だ。その波形を観測した結果を、整備兵であるパメラ軍曹が解析した。彼女は言う。

 

「……ありますね。地下に北東へと長く延びた人工的な構造物が存在します。大きさから言って、バトルメックが余裕を持って通れるぐらいですね。」

「出口はわかるか?」

「いえ、残念ですが解析できた構造は、この近辺の地下だけです。けっこう遠くまで延びてますから、先がどこに通じてるかはわかりかねます。」

 

 パメラ軍曹の言葉に、キースは考え込む。

 

(奴らが城を捨てたとして、どこへ行く?どこか辺地にでも籠ってゲリラ化するか?援軍が来るまでなんとしても生き延びるために……。

 まて、援軍が来るとしたら、俺ならば城を捨てないでなんとか保持する方法を考えるよな。どこかで考え違いをしてる可能性があるぞ?奴らがドラコ連合本国と連絡を取れるとしたら、コムスターのHPG施設使ってだよなあ。自分で出向くわけにいかないから、一般人に偽装したスパイでも使ってメッセージ送信と受け取りでもやったかな?

 ドラコ連合側で、この惑星に固執する必要があるか?辺境ぎりぎりで、戦略的にそれほど美味しいわけでもない。某エニウェアみたくメック工場が隠されてるわけでもなさそうだ。あとはもう面子的な問題しか無いけど、面子だけでこの惑星に固執するほどドラコ連合に余裕あるか?無いよな?

 もしかしてタカハタ少佐、見捨てられたか?それでヤケになった?援軍が来ないと決めつけるのもまずいけれど、この想像が当たってたら……。)

 

 キースは、ぽつりと呟く。

 

「まずい……か?」

「え?」

 

 その呟きが聞こえたのか、パメラ軍曹が訊き返す。

 

「ん?ああ、いや……。特になんでもなく……はない、か。」

「何かご心配ごとですか?」

「ああ。ちょっとな。……うむ、やらんで後悔するよりはマシだな。すまん、失礼する。」

 

 キースは踵を返し、そのまま仮設指揮所の隣に停車してあるスィフトウィンド偵察車輛へと向かう。この車輛には、強力な通信システムが装備されており、ここからでも楽にオーバーゼアー城へ連絡が取れるのだ。キースはスィフトウィンド偵察車輛に乗り込むと、通信システムを起動する。

 

「こちらキース・ハワード少佐、こちらキース・ハワード少佐。オーバーゼアー城指令室、応答せよ。」

『こちらオーバーゼアー城指令室、エリオット・グラハム中尉。キース少佐、いかがなされましたか?』

「エリオット中尉、俺はこれより惑星軍戦車部隊の了解が取れしだい、メック部隊のうち第1中隊を率いて一時そちらへ帰還しようと思う。そして、だ。エリオット中尉、貴官に俺がそちらへ帰還するまでの全権を、改めて委ねたい。万が一、オーバーゼアー城が襲撃を受けた場合、貴官が取り得るあらゆる手段をもって城を守れ。」

 

 エリオット中尉は、即座に承諾の意を返す。

 

『はっ!了解であります!しかし……。こちらが襲撃を受ける兆候でもあるのですか?』

「こちらのインターリアー城は、下手をするともはや、もぬけの殻になっている可能性が出て来たんだ。その戦力が、もしそちらに向かえばまずいことになる。」

『わかりました。万が一の際には、あらゆる手段を講じて城を守ります。』

「頼んだぞ。以上だ。」

 

 通信を閉じてスィフトウィンド偵察車輛を降りると、キースは惑星軍の士官と連絡を取るために仮設指揮所へと入って行った。

 

 

 

 キースはマローダーの操縦席から、ヒューバート大尉のオリオンへと通信回線を繋いだ。おもむろに彼は口を開く。

 

「ヒューバート大尉、インターリアー城の方は頼んだぞ。もしかしたら俺の推測は大外れで、まだ城内に敵メック部隊がいるかも知れんのだ。ただし敵が脱出していたら、他の拠点同様に下手をするとこの城も爆破される可能性もある。うかつに踏み込むなよ?」

『了解です、キース少佐。地雷原の掃除が終わっても、とりあえず遠巻きにしてますよ。しかし地下の抜け穴とは……。』

「城とはそう言うものらしいからな。それほど珍しい代物でも無い様だぞ。では。」

 

 マローダーに一歩目を踏み出させながら、キースは言う。混成傭兵大隊『SOTS』メック部隊第1中隊のバトルメックが、マローダーの後に続いた。と、アンドリュー曹長が通信回線を繋いでキースに質問をぶつけてくる。

 

『隊長、どうしてオーバーゼアー城が狙われる可能性があるなんて、思ったんだ?』

「ん?いや、な。敵の指揮官タカハタ少佐の気持ちになって考えてみたんだがな。敵手である俺に対する最大の嫌がらせ、俺自身が最も嫌がることは何だろうか、と考えてみただけだ。

 そして俺たちがインターリアー城を囲んでいる間に包囲網の外へ脱出することが叶うなら、できることが1つある。俺たちの根拠地であるオーバーゼアー城の破壊だ。占拠なぞする必要は無い。徹底的に壊してしまえば、それだけで俺に対する意趣返しができる。

 無論、確証は無い。そのまま逃げてしまうことも充分あり得るからな。だがわずかでも可能性があるのならば、オーバーゼアー城を放って置くわけにはいかん。」

『だけど隊長、オーバーゼアー城の周りにある地雷原は、どう突破するつもりなのかしら。』

 

 今度はエリーザ曹長が訊ねてきた。キースはマローダーを走行移動に移行させつつ答える。

 

「地雷を突破する方法は、いくつかあるな。手っ取り早いのは、奴らのメックの中で最大重量のグラスホッパーを前に押し立てて前進する方法だ。ざっと計算してみたが、軽中量級用に重量設定をしてある地雷の場所ばかりを通れば、あまりダメージを負わずに地雷原を突破できる可能性も無くも無い。逆に最大限のダメージを喰らって、両脚を破壊される可能性もあるんだがな。」

『他の方法って?』

「俺たちがインターリアー城でやった様に、スナイパー砲だ。やつらはある時からスナイパー砲を撃たなくなった。俺は最初、その時点で脱出したのではないかと考えた。だがスナイパー砲を基地施設から取り外して、持って行ったとしたらどうだ?奴らは地雷原を破壊する効率的な道具を持参していることになる。

 無論、確証は無い。第一、敵がオーバーゼアー城を攻めると言うこと自体が推測に推測を重ねた結果でしかないのだからな。ただ俺だったら、城を逃げ出すときには、スナイパー砲は持っていくだろうな。」

 

 エリーザ曹長は笑った。

 

『あはは、流石に考え過ぎだと思うんだけどなあ。』

「考え過ぎならば、その方が良い。百倍も千倍も良い。」

『……。』

 

 キースの真剣な声音に、エリーザ曹長は黙る。その後彼らは、ほとんど無言で道を急いだ。マローダーの最高速度、64.8km/hで、キースは先陣を切る。『SOTS』第1中隊のバトルメックが、それに追随する。やがて彼らは、オーバーゼアー城とインターリアー城の中間地点までやって来た。

 と、そこでマローダーの通信装置に回線接続要求が来る。キースは回線を接続して叫ぶ様に言葉を発する。

 

「こちらキース・ハワード少佐!」

『こちらカイル・カークランド船長!隊長、今どこかね!』

「カイル船長!?今はちょうどオーバーゼアー城とインターリアー城の中間地点だ!」

 

 カイル船長は、まくし立てる様に事情を話す。

 

『隊長の予想が当たったんだよ!敵のメック部隊がオーバーゼアー城を攻めて来た!2門のスナイパー砲で、今頃は城の地雷原は吹き飛ばされてる最中だよ!

 今、私のヴァリアント号とヴォルフ船長のゴダード号、イングヴェ副ちょ、じゃない、もう船長だ……そのスペードフィッシュ号3隻のレパード級で、隊長たちを迎えに来たんだよ!近場に着陸するんで、目印に真上に粒子ビーム砲でも撃ってくれんかね!』

「わかった!エリーザ曹長!ウォーハンマーも粒子ビーム砲を撃て!」

『了解っ!!』

 

 キースのマローダーと、エリーザ曹長のウォーハンマーが、真上に向けて何度か粒子ビーム砲を撃ち上げる。すぐにカイル船長から通信が来る。

 

『見えた!今すぐ行くから、そこで待っていてくれ!』

「わかった!全メック、停止せよ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 やがて3隻のレパード級降下船が、キースたちの眼前に垂直着陸するや、メックベイのハッチを開いた。キースら指揮小隊がヴァリアント号に、ケネス中尉の火力小隊がゴダード号に、アーリン中尉の偵察小隊がスペードフィッシュ号にそれぞれ乗り込む。と、ここでアンドリュー曹長が、誰に訊ねるともなく疑問を洩らす。

 

『あー、そう言やうちの部隊には今、降下船が7隻、星系外に出てるゾディアック号除いても6隻あるんだよな。その降下船担ぎ出せば、敵メックに勝てるんじゃねえの?降下船を危険に晒すのは資金的な問題でまずいって言ったってよ、緊急事態じゃあ仕方ねえんじゃね?』

『いや、それはあまり得策じゃないですね。』

 

 答えたのはマテュー少尉だ。彼は説明を続ける。

 

『元々うちの部隊の降下船は、操船は一流の人材をスカウトして揃えてますが、砲手・火器管制は素人の船員を鍛えてました。だから元からあまり射撃が上手くないんですが、先日ユニオン級レパルス号とレパード級スペードフィッシュ号を海賊から手に入れましたよね。それで、その船に他の船から船員を割り振ったんです。

 足りなくなった人材は、新人をこの惑星から雇い入れて充足しました。だからなおさら射撃の腕は平均して新兵の下程度に落ちてるんですよ。

 はっきり言って、命中しないんですよ。1発も。最初の1発を撃つまでは、はったり程度の意味合いはあるでしょうが、それ以上の意味は無いですね。しかも1発撃てば化けの皮が剥がれます。』

『ありゃ……。そりゃ酷えな。』

『機体は固定したかね?では発進するぞ!』

 

 カイル船長の言葉が、指揮小隊各機の操縦席に響く。そしてレパード級ヴァリアント号は、普段めったにやらない垂直上昇で一気に発進した。ゴダード号、スペードフィッシュ号も後に続く。3隻のレパード級降下船は、超高速でオーバーゼアー城へと帰還の途についた。

 キースはヴァリアント号の通信システムを介し、マローダーの通信回線をオーバーゼアー城の指令室に繋ぐ。彼は指揮を取っているエリオット中尉を呼んだ。

 

「エリオット中尉、こちらキース少佐だ。今、カイル船長と合流して帰還中だ。」

『こちらエリオット中尉です。申し訳ありません。自分の命令で、訓練生たちをメックに乗せて時間稼ぎをさせております。』

 

 一瞬、キースの表情が強張る。だが、それも誰にも言ってはいなかったが、キースの想定内ではあった。キースはエリオット中尉を宥める。

 

「いや、気にすることはない。そうしなければ、城が守れなかったのだろう。貴官には俺が戻るまで、全権を委任している。その権限内の事項だ。繰り返しになるが、気にするな。」

『はっ!ありがとうございます!』

「それで訓練生たちの様子はどうだ?」

 

 エリオット中尉は、キースの質問に答える。

 

『たいした物です。特にサンダーボルトに乗ったイヴリン・イェーガー訓練生は、その指揮ぶりも個人としての戦闘能力も、かなりの物です。ですが多勢に無勢で……。今のままではそう遠からず撃墜されるでしょう。一刻も早いお戻りをお願いいたします。』

「到着まで、あと分単位だ。それぐらいは保つか?」

『わかりません、微妙なところです。』

「わかった。こちらからは以上だ。」

 

 キースは今度はカイル船長と通話する。

 

「カイル船長、少し頼みがある。」

『なんだね、隊長。今必死でかっ飛ばしているところなのだがね。』

「着陸寸前に、当たらなくてもいいから敵機に向けて4、5発ぶっ放してくれないか?1回限りのはったりでいいんだ。」

 

 キースの頼みに、カイル船長は一瞬考え込むかの様に黙る。だがすぐに彼は応えてきた。

 

『わかった、まかせたまえ。』

「助かる、船長。」

『それよりしっかり何かに掴まっていたまえ。少々荒っぽく行くからね。』

 

 そしてキースたちの身体を、物凄い横Gが襲う。アンドリュー曹長が愚痴を漏らした。

 

『でえーっ!船長いったい何やってんだい!荒っぽいってレベルかよ!』

『荒っぽいってレベルだよ。ちなみに今しがた、敵メックの頭上すれすれを掠めて飛んでみただけなんだがね。』

『うっわ、とんでもねえ。』

『着陸するよ、揺れるからしっかり何かに掴まりたまえ!』

 

 再度Gと衝撃が、今度は縦方向に襲った。だがキースの頑健な身体は、それにあっさりと耐え抜く。そしてメックベイのハッチが開いた。キースはマローダーの固定を解くと、機体を急発進させた。

 

「……!」

 

 そこには、彼が鍛えている訓練生たちのバトルメックが立っていた。全ての機体が満身創痍で、しかしそれでもなお戦おうとしている。ミサイルを撃ち尽くした2機のウィットワースを庇おうと、サンダーボルトが壁となってK型ウルバリーンの前に立ちはだかっていた。

 サンダーボルトの左胴から3条のレーザー光が迸り、K型ウルバリーンに命中した。同時に2連短距離ミサイル発射筒が火を吹き、しかしこれは外れる。K型ウルバリーンは6連短距離ミサイルをサンダーボルトめがけて撃ち放つ。それはサンダーボルトの左腕に命中し、根本から腕を吹き飛ばした。イヴリン訓練生の悲鳴が聞こえる。

 

『きゃああっ!?ま、まだまだ!』

「いや、良く頑張った。後は任せておけ。」

 

 キースのマローダーからの粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門が、K型ウルバリーンを打ち据える。胴体真ん中の装甲板を全て破壊され、ジャイロを破壊されたK型ウルバリーンは無様に転倒する。イヴリン訓練生が叫んだ。

 

『キース少佐!』

「もう大丈夫だ、下がっていろ。」

 

 よく見れば、K型シャドウホークが頭部を潰されて擱座している。おそらくはイヴリン訓練生のサンダーボルトによる戦果であろう。他にもK型クルセイダーが機体のあちこちに長距離ミサイルによる物と見られる損傷を受けている。これはウィットワースの2人、エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生が頑張ったものと思われる。

 だがそれと引き替えに、イヴリン訓練生のサンダーボルトは全身の装甲板を剥がされて左腕を吹き飛ばされ、右胴の15連長距離ミサイル発射筒が破壊されている。ウィットワース2機は後方からの支援射撃に集中していたのか、そこまで酷くは無いが、それでもエドウィン訓練生機は頭部にダメージを負い、エルフリーデ訓練生機は全身の装甲板を均等に剥がされていた。自機の頭部に攻撃を受けたエドウィン訓練生当人も、おそらくは負傷していることだろう。

 キースは獰猛な笑みを浮かべて外部スピーカーと一般回線で言い放つ。

 

「俺たちの愛弟子を、可愛がってくれた様だな。礼をしなければならんな!」

 

 そしてキースは、やや後方に位置しているグラスホッパーに照準を合わせる。相変わらず前には出て来ていないが、それでも今回は攻撃が届く距離だ。隣にアンドリュー曹長のライフルマンもやって来て、同じくグラスホッパーに狙いを定めた。

 

『隊長、今日はあいつ、弾の届くところまで出て来てるんだな。』

「ああ、ありがたいことだ。感謝して撃たせてもらおう。」

 

 キースのマローダーと、アンドリュー曹長のライフルマンは、敵指揮官機に過熱覚悟の集中砲火を浴びせる。そのグラスホッパーは、分厚い装甲をあっと言う間に半分近く削り飛ばされた。だがグラスホッパーは、これまでとは違う行動に出る。他のメックをそのままの位置に留め、全力で前に出て来たのだ。キースは過熱により蒸し風呂状態になったマローダーの操縦席で、考える。

 

(どうやら本当にヤケになっている様だな。)

『隊長、すみませんがあの敵、貰ってもかまいませんか?』

『あたしたちにも、出番ちょうだい?』

「ああ、かまわん。俺とアンドリュー曹長は機体に溜まった熱を放熱してるから、後は頼んだ。」

 

 彼らのメックベイの出口がレパード級ヴァリアント号の反対側だったため、船体を大きく回り込んでこなければならなかったマテュー少尉機とエリーザ曹長機がようやく位置に着いた。見ると、火力小隊や偵察小隊の機体も射撃位置に着いた様だ。キースは檄を飛ばす。

 

「俺たちの留守を狙って来たコソ泥どもに、教訓をくれてやれ!第1中隊、射撃開始!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 エリーザ曹長のウォーハンマーが、胴装備武器の一斉発射でグラスホッパーの装甲板を更に削り取る。偵察小隊の集中砲火がK型フェニックスホークを追い詰める。火力小隊の狙いはK型クルセイダーだ。そしてマテュー少尉のサンダーボルトが、最前線に出てグラスホッパーに近接火力を集中した上で、パンチ2発を放った。グラスホッパーは頭部にパンチを1発喰らうが、必死に応射してくる。だがサンダーボルトの厚い装甲は、その程度では貫くことができない。

 ここで驚いたことに、グラスホッパーを除いた敵バトルメック残り4機が、一斉に逃亡を図った。グラスホッパーの動きに動揺が見られないところから、タカハタ少佐が離脱命令でも出したのだろうか。機動力の高い偵察小隊のバトルメックが後を追おうとするが、その前にグラスホッパーが立ち塞がり、味方を逃がそうとする。

 

(タカハタ少佐らしくない……。いや、逆にタカハタ少佐らしいのか?歩兵や戦車兵とは違って、メック戦士は大事に温存したりしてたもんな。だが逃がすと色々と後から面倒だ。後ろからで悪いが撃たせてもらおう。)

 

 キースは、そろそろ放熱の終わった頃合いのアンドリュー曹長に向かい、一言叫ぶ。

 

「撃て、アンドリュー曹長!」

『了解!俺はK型フェニックスホークな。隊長は?』

「俺はK型クルセイダーだ!」

 

 アンドリュー曹長のライフルマンから、射程距離ぎりぎりのK型フェニックスホークに向けて、再度過熱覚悟の全開射撃が見舞われる。キースのマローダーからもK型クルセイダーの背中めがけて届く武装全てが撃ち放たれた。

 K型フェニックスホークは、背面から装甲を貫かれてエンジンに致命打を浴び、大爆発を起こす。K型クルセイダーも、背後からの一撃にジャイロを破壊されて転倒した。だが元から後方にいたドラゴン2機は、なんとか戦場からの離脱に成功する。キースは内心で舌打ちをした。彼は1機残ったグラスホッパーに向かい、外部スピーカーと一般回線で降伏勧告を行う。

 

「降伏しろ、ジョー・タカハタ少佐。もはや勝機はあるまい。その機体ももはや限界だろう。」

『否……。降伏はせん……。わしはこれでも、クリタ家に仕える身だ……。此度は武運拙く、主家の顔に泥、を塗って、しまう羽目に、なった、が……。せめて敵手たる、貴官に、最後に痛手を、与えて、逝かんとした、が……。そ、それも、叶わなんだ、か……。』

 

 段々と苦しげな様子になるタカハタ少佐の声に、キースは思い当たることがあった。

 

「タカハタ少佐、まさか貴官、陰腹を!?」

『く、くくく。もはやメックを、動かす力、すらも、残って、おらぬわ……。もはや、これまで、よ。だが、降伏、は、せん!』

「……タカハタ少佐、介錯つかまつる。」

『……感謝、する。』

 

 グラスホッパーは、亀の這う様な速度でキースのマローダーに向けて歩いて来る。キースはマローダーの両腕を振り上げ、グラスホッパーの頭部に向けて振り下ろした。タカハタ少佐の血煙が舞い、グラスホッパーの頭部は完全に叩き潰される。キースは、心の中で思う。

 

(歩兵や戦車兵を使い捨てにしたり、色々となんか間違ってる人物だとは思っていたけど……。タカハタ少佐なりの信念と言うか、クリタ家への忠義と言うか、そう言うのはあったんだなあ。色々と思い違いしていたよ。今回のオーバーゼアー城襲撃にしても、ヤケになったあげくの報復行為だと思ってたもんなあ。)

『キース少佐、こちら指令室。インターリアー城のヒューバート大尉から通信が入っております。そちらのマローダーにお繋ぎしますか?』

「繋いでくれ。」

 

 通信回線がオーバーゼアー城の通信システムを介して繋がると、向こうに置いてあったスィフトウィンド偵察車輛を使用した、ヒューバート大尉の声が飛び込んで来た。

 

『こちらヒューバート大尉、キース少佐、応答願います。』

「こちらキース少佐。どうした、ヒューバート大尉?」

『キース少佐の思った通りでした。インターリアー城の動力区画と弾薬庫が爆発を起こしました。城壁は一部が壊れた程度で、外に展開していた我々の部隊には影響はありませんでしたが、城内の施設は全て吹き飛んでいます。ここはもう使えませんね。』

 

 キースは思わず溜息を吐いた。これで旧ドラコ連合制圧区域内に、拠点として使える施設は無くなってしまった。タカハタ少佐は、こちらに痛手を与えていないとでも思っていた様だが、あちら側に部隊の一部なりとも置けないことは充分に痛い。

 そのとき、マローダーの後ろから声がした。

 

『キース少佐……。』

「イヴリン訓練生か。エドウィン訓練生に、エルフリーデ訓練生も。貴様たち、よく生き残った。よく生き残ってくれた。しかもよく城を守り通した。……頑張ったな、貴様たち。」

『は、はいっ!』

『ありがとうございます!』

『ありがとうござ、痛ててて……。』

 

 最後のはエドウィン訓練生だ。やはり頭に命中弾を喰らったため、負傷しているらしい。キースは息を吐いた。

 

(ふう……。まあ、なんとか訓練生たちが無事だったから、とりあえず喜んでおくか。ああ、そうだ。動けなくなっているだけの敵メックがあったな。それをどうにかしないとな。)

 

 キースは降伏勧告を行うために、敵メックにマローダーを歩み寄らせた。こうして敵の戦力はほぼ壊滅した。残るは今回戦闘に参加しなかった戦車が10輛足らずと、逃げ延びたバトルメック、ドラゴン2機である。いずれはこれらの掃討も考えなくてはならない。だがとりあえず、事態は一段落ついたのであった。




はてさて、なんとか敵の主力を壊滅させ、一部は逃がしてしまったものの、一段落つけることができました。しかし主人公、今回はちょっと冴えません。色々と思い違いが重なってます。
前にも書いた気がしますが、これは主人公も無謬ではない事を示す描写だったのですが、ちょっとやり過ぎたかもしれませんね。あと、ストーリー中の時期もまずかったかも。
なんにせよ、この主人公は超強力ではありますが無謬ではありません。無敵でも無いです。あくまでその凄まじい力量は、人間的なレベルの範疇に収まっております。
……なんか凄まじく幸運ではありますけれどね。
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