鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-051 訓練生卒業』

 司令執務室で、キースは1人考えに没頭している。今、彼は1つの悩みを抱えていた。

 

(……「初陣を済ませたら、訓練生卒業として適切な階級をくれてやる」って約束したんだよな。約束を破るわけにはいけない。

 だけど、適切な階級ってどの辺りだろ?二等兵や一等兵、上等兵とかの一兵卒は無いよな。あれだけの能力だし。んじゃあ伍長?軍曹?曹長?准尉?まさか少尉以上の尉官は無いな。

 うーん、単純な能力的には新任少尉に匹敵するんだよなあ、あの娘は。けど軍事知識の座学も基礎教養も中途半端だから、今すぐ士官任用試験受けさせて合格するわけない。それに早く偉くさせすぎると、悪い影響が出るかもしれないしなあ。

 となると下士官待遇が適切かなあ。)

 

 そう、先日なし崩しに初陣を迎えてしまった訓練生たち、特にイヴリン訓練生に正式な階級を与える件について、どの階級を与えるか、それで悩んでいたのである。

 

(でも、正式にメック戦士として任官させたら、あの娘は『機兵狩人小隊』にメックごと配属になるんだよなあ。下士官にするとして、今『機兵狩人小隊』にいるのはサラ中尉待遇少尉、ギリアム伍長、アマデオ伍長……。

 いきなり軍曹にしてあの小隊に送り込んだら、先輩であるギリアム伍長とアマデオ伍長の顔が潰れないかな?いや、かつての隊長の娘さんで、サラ中尉待遇少尉が「将来彼女が中尉になったら小隊長を譲る」って公言して、中尉への昇進を拒んでるから、案外すんなり受け入れるかな?)

 

 ここでキースは、『機兵狩人小隊』について、あることに気付く。それはギリアム伍長とアマデオ伍長の階級についてだ。

 

(待て待て、なんでギリアム伍長とアマデオ伍長が伍長なんだ?ええと、2人のファイルは……。ああ、やっぱりだ。既に軍曹になるに充分な実績も実力もあるぞ。実績の半分以上が『SOTS』との合併前だったんで目立ってなかったんだ。

 合併前だからと言って、それが一切評価されないなんてのは、あんまりだろ。だいたいウチが『機兵狩人小隊』を吸収合併したんだから、合併前の『機兵狩人小隊』に対する貢献もウチへの物として扱うべきだよな。

 よし!2人を軍曹に昇進させよう!それとついでだ、この際昇進に相応しいやつは昇進させよう。あと、メック戦士じゃない士官が1人欲しいな。いいかげん、副官が欲しい。)

 

 だがふとキースは、最初の目的を思い出す。そう、訓練生たちの階級である。

 

(ギリアム伍長とアマデオ伍長の両伍長を軍曹に昇進させるとして、そうなるとイヴリン訓練生の階級は伍長から曹長までのどれにするかだよな。准尉はやりすぎだから考えないとして……。曹長もいきなり偉すぎだよなあ。

 伍長にした場合……。後の小隊長になる相手に対し、どう接して良いかわからなくならないか?かと言って、2人より偉くするのはやはり問題がある。

 先にギリアム伍長とアマデオ伍長の2人を軍曹にして、その後でイヴリン訓練生を軍曹にすればどうだ?2人の方が先任だから、若干だが上官扱いになる。だが同階級だから感覚的にはそれほどでもないだろう。2人には、イヴリン訓練生は後輩だから、先達として色々教えてやる様に、と言っておけば……。この線で行くか。

 エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生は、あまり迷わずに伍長でいいだろう。とりあえず第2中隊の指揮小隊と火力小隊を一時的にメック5機の増強小隊にして、そこに配属させておこう。そして第2中隊の偵察小隊が発足したら、偵察小隊員と言うことで。)

 

 とりあえずの方針が決まったところで、キースは全部隊員の人事書類を取り出す。昇進させるべき者たちのリストアップが目的だった。

 

 

 

 部隊員の人事問題以外にも、キースにはやるべきことがあった。それは姿を消した、敵バトルメック2機と、戦車9輛の捜索である。とは言っても、基本的にメック戦士であるキース自身がやることは少ない。単に偵察兵たちを、旧ドラコ連合制圧区域へと送り出すだけである。

 

「エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹、頼んだぞ。」

「了解です。なんとか手がかりを掴んで来るとしますよ。」

「任せておいて下さい。流石にすぐにとは確約できませんが、なんとかしましょう。」

「とりあえず、旧ドラコ連合制圧区域方面に逃走したらしいのは判明しています。ですから、そこから先の足取りが問題なんですよね。まあ、現地住民たちの惑星政府への感情も悪くはないですから、協力的になってくれると思います。」

 

 アイラ軍曹が言った通り、旧ドラコ連合制圧区域の住民の、惑星政府への感情は悪くない。ドラコ連合軍がばらまいたKHビルを、本来この惑星で流通している通貨であるSHビルに、格安の手数料で両替するなどの救済措置を取ったことも、影響していると見られる。まあ、あからさまな人気取りの政策ではあるが。

 ただしあくまでこれは、この惑星の旧ドラコ連合制圧区域住民への、時期と地域限定の救済措置である。他所からKHビルを持ち込んで、他の両替商や銀行との差額を利用して儲けようとする不心得者は、既に何人も摘発されていた。まあそう言った者たちの大半が、モグリの両替商や金貸しだったりするのだが。

 まあそれはともかく、3人の偵察兵は各々スキマーに乗って出立して行った。

 

 

 

 キースはメック部隊の各中隊及び小隊指揮官、気圏戦闘機隊指揮官らを司令執務室へ呼び出した。目的は、彼らの部下のうち昇進させるべき者について、意見を聞くためである。

 キースは彼らの意見にしばし耳を傾けると、第1中隊火力小隊指揮官ケネス中尉に向かい、口を開く。

 

「ふむ、となると第1中隊の火力小隊員は、まだ昇進させるべきでは無い、か。」

「はっ!ドロテア、マイケルの両軍曹は既に軍曹でありますし、これ以上の昇進は未だ時期尚早かと存じます!」

「ふむ、なるほど。彼らを今昇進させて、更なる職責を課すべきでは無いな。わかった。」

 

 次にキースは偵察小隊長、アーリン中尉に顔を向ける。

 

「そして第1中隊偵察小隊もまた、昇進させるべきでない、と。先日昇進させたばかりであるヴェラ軍曹はともかく、ヴィルフリート軍曹を昇進させたくない理由は何だ?彼は俺の考えでは、曹長あたりに昇進させようと考えていたのだが。」

「はい。これはヴィルフリート軍曹が昇進を拒んでいることによります。彼は今の自分の階級でも過分な物だと感じています。私としては能力的には充分やっていけるはずだと思うのですが……。」

「む、そこまで固く固辞されては無理に昇進させるのも何だな。むう……。わかった、昇進は見送ろう。ただ内々に、士官任用試験を受けてみてはどうかと尋ねておいてくれるか?ヴィルフリート軍曹だけでなく、ヴェラ軍曹にもだ。」

 

 アーリン中尉は、難しい顔で頷いた。

 

「了解しました。ただヴェラ軍曹はともかく、ヴィルフリート軍曹は性格的に難しいかと思いますが……。」

「一応聞くだけで良い。頼んだぞ。」

 

 キースは視線をアーリン中尉から、ヒューバート大尉とサラ中尉待遇少尉の方へ向ける。

 

「第2中隊の方は、火力小隊『機兵狩人小隊』のギリアム伍長とアマデオ伍長について、軍曹に昇進させることに異存は無いんだな?ただしロタール軍曹とカーリン軍曹については違う意見がある、と。カーリン軍曹については先日昇進させたばかりだからわかるが……。」

「いえ、ロタール軍曹とカーリン軍曹については、単なる昇進よりもその適性から言って、士官任用試験を受けさせてはどうかと考えたしだいです。まだ本人たちには言っておりませんが。」

 

 ヒューバートの言葉に、キースは頷く。ちなみにサラ中尉待遇少尉は、黙ったままであるが、何となく同意している様な雰囲気がわかる。

 

「なるほど、理解した。ならばその方針で、彼らに話を通しておいてくれ。さて、ミケーレ少尉。」

 

 おもむろにキースは、現状気圏戦闘機隊を率いているミケーレ少尉に話を振る。

 

「当初俺は、貴官を中尉に昇進させようと考えていたのだが、それを固辞してマイク少尉を推薦するのには、理由があるのかね?」

「はい、私の入隊当時であればともかくとして、今現在の部隊指揮能力はマイク少尉の方が圧倒しております。また単純な操縦技量でもマイク少尉が圧倒しており、戦場における生残性は遥かに彼が高いです。現に先日の戦闘において、私が彼に戦闘指揮権を移譲して戦域離脱する場面がありました。

 正直な話、自分はさほど戦闘指揮が得手と言うわけではありません。できるならば、私の気圏戦闘機隊暫定隊長の任を解いていただき、一介の航空兵の扱いに戻していただきたいのです。そしてマイク少尉を中尉に昇進させて、正式に気圏戦闘機隊の指揮を任せるべきです。多少お調子者のところはありますが、ジョアナ少尉がいればその辺は大丈夫でしょう。」

「……わかった、貴官の望み通りにしよう。だがミケーレ少尉、貴官のおかげで今まで随分と助かったことは確かだ。それは心の中に留め置いて欲しい。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 キースは内心独り言ちる。

 

(メック部隊と気圏戦闘機隊は、一応片が付いたか……。結局今回昇進させるのは、ギリアム伍長とアマデオ伍長、それにマイク少尉の3名か。さて、他の部隊についても各々の指揮官と相談しないとな。)

 

 キースは部下たちに退出を命じると、メック部隊や気圏戦闘機隊以外の人事関係書類を捲りはじめた。

 

 

 

 キースが練兵場に顔を出すと、歩兵部隊を率いているエリオット中尉が驚いた顔をした。彼は泡を喰った口調で言う。

 

「こんなところにまで、おいで頂かなくとも、御用があればこちらから出向きましたものを……。」

「いや歩兵部隊の練兵の様子を、一度きちんと見ておきたかったのもある。ところでエリオット中尉、歩兵部隊で昇進させるに足る者は、どれだけいる?」

「は、はい……。二等兵の歩兵たちの中で、一等兵あるいは上等兵に昇進させたい者が3割ほどおります。特に各分隊の分隊長をやっている者や、各班の班長を務めている者は、昇進させて他の兵との区別をつけておきたく思います。」

「ふむ。現在伍長以上の者たちの中には?」

 

 キースの言葉に、エリオット中尉は難しい顔をする。

 

「伍長以上の者たちは、少し前に昇進したばかりですので……。昇進させたい者もいることはいるのですが、少し早すぎるかと……。」

「むむむ、そうか……。普通の昇進ではなしに、士官任用試験を受けさせて合格できそうな者はいるか?エリオット中尉の見立てで良い。」

「士官任用ですか。まずは第3歩兵小隊を任せているヴィクトル軍曹なら確実ですな。第4歩兵小隊を指揮しているジェームズ軍曹待遇伍長は……残念ながら難しいですな。小隊を指揮する上で、もう少し階級を上げたいのは山々なのですが。

 あとは……最近、色々と勉強しているらしいジャスティン伍長ですかな。頑張れば、と言うところですが、合格の可能性は充分にあります。

 ……何かお考えで?」

 

 エリオット中尉の問いに、キースは一瞬考え込むが、素直に答える。

 

「エリオット中尉には悪いが、1人ばかり俺の副官として引き抜かせてもらいたくてな。メック戦士ではない士官を欲していたんだ。歩兵上がりであるならば、護衛としても頼もしいしな。勿論士官任用後と言うことになるが……。

 そうか、ジャスティン伍長か……。」

「なるほど、副官ですか。キース少佐も既に大隊長ですからな。副官は必要でしょう。ではジャスティン伍長の尻を叩いて来ますか。今のままでは合格の可能性は充分あるとは言え、確実ではありませんからな。」

「済まんな、歩兵部隊としても貴重な人材だろうに。」

「お気になさらず。敬愛するキース少佐の副官になることが叶えば、奴も喜ぶでありましょう。」

 

 キースはその他2、3の事柄についてエリオット中尉と話した後、練兵場を離れた。どうやら待望の副官は、なんとかなりそうである。しかも気心が知れている人物だ。新しく雇う人材を、副官という重要な役割に充てずに済みそうなのは、幸運である。まあ、ジャスティン伍長が士官任用試験に合格してくれることが大前提なのだが。

 

 

 

 そしてキースは、整備棟へとやって来た。彼は一番手前に置いてある1機のサンダーボルトを見遣る。その機体は、イヴリン訓練生の愛機であった。そのサンダーボルトは、吹き飛んだ左腕の再接続作業を行っている途中である。

 サンダーボルトの修理の指揮を取っているのは、驚くべきことにイヴリン訓練生の郎党たるヴァランティーヌ曹長でもサイモン老でもなければ、サイモン老の愛弟子たるジェレミー軍曹でもない。なんとそれは、軍医キャスリン軍曹であった。

 

(ああ、そう言えば彼女は軍医であると同時に、一応は整備兵でもあったなあ。最近上がってきた書類によれば、彼女もサイモン爺さんの薫陶を受けて、バトルメックに関しては相当な腕前になってるってことだったっけ。)

「キース少佐、どうかしましたかの?こんなところまで。」

「ああ、サイモン少尉。貴官に会いに来たんだ。ちょっとばかり近くまで来る用事があったんでな。そのついでで、相談したいことがあってな。

 来月半ばにも、事が上手く運べばメック戦士の大幅増員が成る。だがそれを支える整備兵が足りなくなりそうだ。そこでだ、最初期に雇った助整兵のうちで、整備兵に昇格させてもかまわない知識と技量を持った者をリストアップして欲しい。サイモン少尉のことだ、しっかり教育はやってるんだろう?」

 

 キースの問いに、サイモン老は少し首を傾げる。

 

「適格者は、あまり多くはありませんのう。無論教育はしっかりやっておりますわい。ただ、最初期に雇った者となるとドリステラⅢ出身者になるますのう……。あそこには大学はありませんでしたでの。せいぜいがシニア・ハイスクール卒業程度の学歴の者が最高ですわ。

 そんな中から可能な限り高い素養を持つ者を選びだし、なんとか並ちょっと上の整備兵として育て上げたのがラモン伍長、モードリン伍長、ケーテ伍長、フィリップ伍長、キム伍長、ウルズラ伍長、ヤニク伍長の7名ですのう。そしてこの間、イヴリン訓練生以外の訓練生が加わったときに2名、第1中隊の火力小隊が加わったときに4名、それぞれのメック戦士付き専属整備兵として助整兵から昇格させて配しましたでの。その連中でも、なんとか並の技量ですわ。整備兵昇格後も、教育は厳しく続けておりますがの。

 あとの者は、数人目を付けておる者がいないわけでは無いですがのう……。正直、もう少し時間が欲しいところですわ。ちなみにドリステラⅢ以外で雇った者にも見込みのある者は何名かおりますが、そいつらも整備兵に昇格させるのは時期尚早ですわい。」

「むむ……、そうか。となると何処で技術者を雇い入れるか、改めて考えなければならんな。あとは、新規雇用するメック戦士が郎党の整備兵を連れて来てくれることを祈るしかないか……。だがメックを持たない者でもかまわない、と言う条件で来てもらうことにしてあるからな。メックを持たない者が、整備兵を連れて来ることは期待するべきではないな。」

「ですのう。申し訳ありませんが、もう少し時間が欲しいですわ。」

「わかった。こうなったら腰を据えて、じっくり人材を育て上げてくれ。」

 

 内心でキースは溜息を吐く。

 

(はあ……。なんとかしないといかんなあ。あと、ここの駐屯任務が終わるまでに、航宙艦ももう1隻専属契約できるといいんだけどな。それと教育担当官かあ。本当にそろそろ、なんとかせんといかん。教育担当官と即戦力の整備兵は、星系外に人材を求めた方がいいな、うん。ゾディアック号が戻って来たら、今度はエンデバー号あたりにスカウト旅行に出てもらうか?)

 

 人材不足の脅威は、しばらくは去りそうになかった。

 

 

 

「これが辞令と新しい襟章……階級章だ、受け取れ。これからもよろしく頼むぞ、ギリアム軍曹、アマデオ軍曹。」

「「はっ!!」」

「それともうすぐ貴様たちの『機兵狩人小隊』に、新しいメンバーが加わることになる。階級は貴様らと同じく軍曹になる予定だが、貴様らが僅かとは言え先達なのだ。先達として後進をきちんと教え導く様に。」

 

 キースは司令執務室で、『機兵狩人小隊』の下士官2人に辞令と新しい階級章を手渡していた。軍曹に昇進した2人は、何やら緊張していた模様だったが、キースの台詞を聞くと驚いた顔をする。

 

「き、キース少佐!」

「もしかしてそれは……。」

「もしかしなくても、イヴリン訓練生のことだ。初陣を済ませたら訓練生卒業として、階級をやると約束していたのでな。先日、なし崩しにとは言えど初陣を済ませてしまったのだ。きちんとした階級をやって、正規のメック戦士として任官させることにした。

 実を言えば、本当はもっと後を考えていたのだが……。しかも、とんでもなく厳しい初陣になってしまった様だしな。更に実力的にも、予期していたより高くなっていたからな。軍曹の階級をやることにした。」

「「はあ……。」」

 

 ギリアム軍曹とアマデオ軍曹2人の反応に、キースは苦笑する。彼は付け加える様に言った。

 

「更に第2中隊の各小隊には、イヴリン訓練生同様に初陣を果した訓練生2名が1名ずつ、伍長として一時的に配属されるはずだ。彼らは第2中隊の偵察小隊要員なのだが、まだ偵察小隊の指揮官にする士官がおらんのでな。とりあえず指揮小隊と、火力小隊である『機兵狩人小隊』を一時的に増強小隊5機編成にする。貴様らの隊にはエルフリーデ訓練生が行く予定だ。イヴリン訓練生と共に、後輩として可愛がってやれ。いいな?」

「「はっ!」」

「それでは下がってよろしい。」

「「はっ!失礼します!」」

 

 ギリアム軍曹とアマデオ軍曹は、キースに対し敬礼する。キースもまた答礼し、退室する2人を見送った。彼らが退室すると、キースは内線電話をかける。電話先は隣室のアンドリュー曹長だ。

 

「こちらキース少佐。アンドリュー曹長か?」

『こちらアンドリュー曹長。隊長、終わったのか?』

「ああ、こちらは終わった。待たせておいた訓練生を、こちらへよこしてくれ。」

『了解、隊長。』

 

 待つことわずかで、インターホンが鳴った。キースはインターホンのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『エリーザ曹長です、隊長。アンドリューと訓練生が一緒よ。』

「そうか、入室を許可する。」

 

 ドアが開き、エリーザ曹長、アンドリュー軍曹、そしてイヴリン訓練生、エルフリーデ訓練生、エドウィン訓練生が入室して来る。彼らは揃って敬礼をした。キースも答礼すると口を開く。

 

「楽にしろ。」

「「「「「了解!」」」」」

 

 入室して来た全員が、休めの姿勢を取って身体から力を抜く。だが訓練生たちは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長ほどには力を抜けないでいる。キースは微笑を浮かべた。彼はおもむろに言葉を発する。

 

「さて、貴様ら訓練生は先日こちらが意図しない状況で、ついに初陣を迎えてしまったわけだが……。」

「「「……。」」」

 

 訓練生たちは、緊張した表情を浮かべる。キースはにやりと笑い、言葉を続けた。

 

「よくやった。貴様らの頑張りでこのオーバーゼアー城は守られた。俺たち第1中隊の帰還まで、よく保たせた。……よく頑張った。」

「は、はい!ありがとうございます!!」

「「ありがとうございます!!」」

 

 にやり笑いを崩さずに、キースは釘を刺す。

 

「しかし同時に、未だ貴様らが未熟であるのも事実。この成果に驕ることなく、今後とも一層精進せよ。いいな?」

「「「了解!!」」」

「まあ、だが貴様らが素晴らしい結果を出したのも事実。そこで、だ。貴様らに祝いと褒美を兼ねてプレゼントをやろうと思う。」

「!」

 

 イヴリン訓練生が目を見開く。彼女には予想が付いた様だ。キースは彼女に頷く。

 

「初陣を果したら、やると約束していたからな……。まあ変則的ではあったが、初陣には違いない。イヴリン・イェーガー訓練生!貴様を本日ただ今より、軍曹に任ずる!……この辞令と階級章を受け取れ。今日この日、この時をもって、貴様は正規のメック戦士だ。ただしだからと言って基礎教養や座学、日々の訓練が無くなるわけでは無いぞ。その上に様々な任務まで加わる。その責任は、訓練生の比では無い。覚悟して、これを受け取れ。」

「……はっ!了解いたしました!」

 

 辞令と階級章を受け取り、イヴリン訓練生……否、イヴリン軍曹は、その貰ったばかりの階級章を襟に着ける。そして彼女は、胸を張ってその場に立つ。

 キースは続けてエルフリーデ訓練生とエドウィン訓練生に対して言う。

 

「エルフリーデ訓練生!貴様を本日ただ今より伍長に任じ、正規のメック戦士とする!同じくエドウィン訓練生!貴様を本日ただ今より伍長に任じ、正規のメック戦士とする!両名、この辞令と階級章を受け取れ。ただし貴様らも、今までと同じく基礎教養や座学、日々の訓練が無くなったりはせんからな。そこを履き違えるなよ?」

「はっ!了解であります!」

「了解いたしました!」

 

 2人も辞令と階級章を受け取り、早速その階級章を襟に着ける。キースはイヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の顔を順番に眺めると、頷いて時計を確認した。

 

「む、そろそろシミュレーター訓練の時間だな。よし、今日は貴様らの任官祝いを兼ねて、3on3で絞ってやろう。アンドリュー曹長、エリーザ曹長、手伝え。」

「「了解!」」

「「「!!」」」

 

 新任軍曹1名と新任伍長2名の顔が、引き攣り笑いになる。3人掛かりで1人を相手にしても勝てないのに、3対3ではもはやどうしようも無い。キースは慈愛すら感じられるような笑顔で問う。だが目だけは笑っていない。

 

「嬉しいだろう?」

「「「はいっ!!」」」

 

 イヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の3名は、条件反射で肯定の返事を叫ぶ。キースは頷いて言った。

 

「よし、貴様たちはアンドリュー、エリーザ両曹長と共にシミュレーター室へ急げ。俺も野暮用を済ませたらすぐ向かう。

 アンドリュー曹長、エリーザ曹長、俺が行くまでに新任どものウォーミングアップを済ませておけ。内容は任せる。」

「「了解、隊長!」」

「では全員、下がってよろしい。」

 

 その場の全員が、キースに向かい敬礼する。キースもまた、答礼を返す。そして新任下士官たちは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長に連れられて、シミュレーター室へと向かった。キースはその後姿を見送りつつ、顔にこそ出さないが感慨に浸っていた。

 

(イヴリン「軍曹」か……。こんなに早く正規のメック戦士にすることになるとは思わなかったよなあ……。だけど今後も、きちんと教育していかないとな。死なせるわけには……いかない。

 それだけじゃない、あの娘のためにも、他の隊員たちのためにも、俺自身のためにも、この部隊をきちんと維持していかなくちゃあな。万が一にも『BMCOS』の様なことにはさせられないし、破産して空中分解なんて以ての外だ。)

 

 キースは、自分の顔を両掌で挟む様に叩いた。ぱん!と景気のいい音がする。気合の入ったキースは、先ほど言っていた野暮用……イヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の配属書類書きを始めた。




『ついに』というか、『もう』というか、訓練生たちが正式任官してしまいました。イヴリン訓練生が軍曹、エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生が伍長です。いやあ、時のたつのは早いもんですねえ。え?違う?
そしてジャスティン伍長にいきなりの試練。士官任用試験を受けて合格すれば栄光ある主人公の副官任務に就く事が叶いますが……。さて、どうなる!
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