鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-052 部隊再編』

 連盟標準時の3026年6月15日正午過ぎ、轟音と共にオーバーゼアー城付属の離着床に、1隻のユニオン級降下船が着陸する。この船……ゾディアック号は、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……略称『SOTS』の新規隊員を募集するために、星系外への1ヶ月半のスカウト旅行に出かけていたのだ。

 着陸した降下船に、冷却剤――未精製の、安物の水――を満載した冷却トラックや、推進剤のタンクローリーが群がって行く。キースはオーバーゼアー城司令執務室の窓からその様子を見て、感慨に耽る。

 

(アリー船長とレオニード副長がジャンプポイントから送って来たデータ通信だと、今回のスカウト旅行は大成功だったって話だが……。まあ、本気で大成功だよな。メック戦士12名、航空兵6名、整備兵20名、偵察兵4名、武器担当官1名、教育担当官1名……。

 その内メック戦士6名は、メックを持たないロビンソン戦闘士官学校卒業の俺たちの後輩。更にもう1名のメック戦士が、これまたレオ・ファーニバル教官の推薦の、メックを嫡男である弟に譲り渡して、自分はメック無しになった俺たちの1期先輩……。先輩を部下として使う事になるのかぁ……。)

 

 キースは溜息を吐く。

 

(後のメック戦士や航空兵は、4名がメックを継げなかった2男やら3女やら、長女でも女だったって事で差別されてメックを継げなかったり、傍系の出で本家嫡男が成人したからメックを譲り渡した人物だったり、か。でもって、残りのメック戦士1名と航空兵6名が問題だよなあ……。)

 

 そう、その残り7名が問題であった。その7名はいずれもメックもしくは気圏戦闘機を所有している。所有しているのだが……、全機がブチ壊れているのだった。ブチ壊れたメックや気圏戦闘機を、我が部隊の技術者ならば完全修理可能であるとの売り文句で、ゾディアック号のアリー船長やレオニード副長は、彼らのスカウトに成功したのである。

 キースの隣で、収支報告に来ていた自由執事のライナー・ファーベルクも溜息を吐く。彼は机上に電卓を置き、動く右手でそのボタンを叩いて言った。

 

「やはりこれは……。航宙艦を商用降下船運送業に出すだけじゃなしに、ユニオン級降下船をもう1隻ぐらいは不定期貨客船として、商用航宙に出さなきゃやってられませんな。中破から大破状態のメック1機に気圏戦闘機6機の修理となりますと……。」

「それは次回だな。とりあえず明日に商用航宙出立予定のレパルス号を送り出してから検討する。一緒にエンデバー号も再度のスカウト旅行に送り出さないといけないから、余裕が無い。レパルス号とエンデバー号がそれぞれ戻って来てからだな、商用航宙に駆り出す船を増やすのは。

 しかし……。うちの貯金は、大半がDHビルだからなあ。ライラ共和国内部で使うために両替すると、10%手数料による目減りは痛すぎる。Cビルは本当にいざと言う時のために大事に取っておきたいしな。SHビルの残りは……。ジャスティン少尉?」

「はっ!」

 

 先日、士官任用試験に合格して少尉に昇進し、大隊副官に異動したジャスティン・コールマン少尉が書類を差し出す。キースはそれに目を通し、肩を落とす。

 

「余裕がまったく無いとは言わないが……。少しばかり厳しいな。若干のDHビル両替も、已む無しかも知れん。」

 

 先ほどから話に出ているDHビル、SHビル、Cビルとは、以前にも述べた事があるがそれぞれ恒星連邦ダヴィオン家発行の通貨、ライラ共和国シュタイナー家発行の通貨、そしてこの世界……中心領域の超光速通信を牛耳っている宗教組織コムスターが発行している通貨である。相対的価値はSHビルが最も高いが、通貨の信用度自体はCビルが一番上である。

 キースは首を振りつつ言った。

 

「まあ幸いなことに、バトルメックは45tのD型フェニックスホーク、気圏戦闘機のうち2機は50tのライトニング戦闘機だ。一応部隊の備蓄部品でなんとかなる可能性も高い。現物をサイモン中尉が見てみないと、最終判断はできないがな。

 問題は残り4機の気圏戦闘機だ。全機揃って60tのスティングレイ戦闘機だからなあ。うちの部隊には部品が一切無い。注文しないと手に入らん。」

「レパルス号が、商用航宙でどれだけ稼いで来てくれるか、ですなあ……。さて、では私はそろそろ仕事に戻りますので。退出してよろしいでしょうか、隊長。」

「ああ、ご苦労ライナー。退出を許可する。」

 

 ライナーは敬礼をする。キースも答礼を返す。ジャスティン少尉は、歩兵であったときの敬礼をしないと言う癖が抜けず、やや遅れて答礼を返した。ライナーは小脇に挟んでいた杖を右手に持つと、それを突きつつ司令執務室を後にする。

 やがておもむろに、キースは口を開く。

 

「……さて、ジャスティン少尉。我々も新隊員を迎えに出るとしようか。ヒューバート大尉、アーリン中尉、ケネス中尉、サラ中尉待遇少尉、それに気圏戦闘機隊のマイク中尉に連絡を入れてくれ、ジャスティン少尉。新隊員の出迎えに付き合うように、とな。」

「了解であります!」

「……あー、ジャスティン少尉。貴官は既に少尉なんだ。もう少し口調をそれらしく改めたまえ。それではまるで兵卒だぞ?」

「は、はいっ!了解……です!」

 

 キースは、前にも誰かにこんな事言ったなあ、と思いながら、内線電話をあちこちにかけるジャスティン少尉を眺めた。

 

 

 

 そして場所は、再び司令執務室に戻る。今この部屋にいるのは、キースの他に第2中隊中隊長ヒューバート・イーガン大尉と大隊副官のジャスティン少尉、そして今回のスカウトで雇用されたばかりのメック戦士、ジーン・ファーニバル女史である。キースはジャスティン少尉に向かって言った。

 

「あー、すまんがジャスティン少尉。少々外してくれるか?」

「はっ、了解です。では指令室にて待機しています。御用がお済み次第ご連絡下さい。」

「すまんな。」

 

 ジャスティン少尉はぎこちなく敬礼して来る。キース、ヒューバート大尉、ジーン女史は、答礼をする。ジャスティン少尉は退室して行った。

 部屋の空気が、多少柔らかくなる。ヒューバート大尉が苦笑しつつ言った。

 

「しっかし……。ジーン先輩がレオ・ファーニバル教官の推薦で、うち『SOTS』に入って来るとは思いませんでしたよ。有名人でしたからね、教官と同じ姓だって事もあって。」

「俺もびっくりしましたよ。ジャンプポイントから送られて来た圧縮データ通信に、ジーン先輩の書類と教官の推薦書が含まれてた時は。思わず飲んでた茶を吹きましたよ。」

 

 キースも、笑顔で語る。ジーン女史もまた、苦笑して口を開く。

 

「私も後輩の世話になるとは、ついぞ思っていなかったな。だが正直、本当に困っていた所だったんだ。家の本来の後継ぎである弟が18になったので、家伝のワスプを弟に譲り渡し、お家騒動の原因にならない様に家を出たまでは良かったんだがな……。

 実際、展望も何も無い状況でな。メックを降りた自分が、ここまで役立たずだったとは思っても見なかったよ。正直、家を普通に出るのではなしに、コムスターにでも入信するべきでは無かったかとさえ思ったな。」

「「はは、ははは……。」」

 

 キースもヒューバート大尉も、この台詞には乾いた笑いを上げた。だがすぐにキースは真面目な顔になる。

 

「ところで先輩。先輩には俺直属の第1中隊で、偵察小隊を率いてもらいたいと思っているんですが、かまいませんか?」

「おや?たしか先ほど紹介をされたアーリン・デヴィッドソン中尉が、第1中隊の偵察小隊長じゃなかったかな?」

「いえ、今回予想以上にメック戦士の大量増員が叶いましたからね。第3中隊を新設するつもりなんですよ。アーリン中尉には、大尉昇進してもらってその中隊長になってもらう予定なんです。」

「ふむ……。」

 

 ジーン女史は少し考え込む。だがすぐに、にやりと不敵な笑いを見せる。

 

「いいだろう。1期下で、稀に見る秀才と評判だったキース・ハワード候補生の成長した姿、その指揮ぶりを、直下で見せてもらうとしようか。」

「ははは、お手柔らかに……。」

「大変だな、キース。」

 

 ヒューバート大尉は、お気楽に言う。それを睨み付けるキースに向かい、ジーン女史は真面目な顔になって言葉を発した。

 

「……キース少佐。これからよろしくお願いします。ヒューバート大尉も。」

「……うむ。正式な任官は、後ほど全員を再度集めて行うが……。ジーン・ファーニバル中尉、こちらこそよろしく頼むぞ。」

「よろしく頼む、ジーン・ファーニバル中尉。」

 

 キースとヒューバート大尉もまた、真面目な顔と口調でそれに応えた。

 

 

 

 キースが第3小会議室に入室した時、そこでは喧々諤々の議論が交わされていた。思わず彼は唖然とするが、すぐになるほど、と思う。

 

「えーっと、となるとこの歩兵から上がって来たばかりの娘、アナ・アルフォンソ伍長は第3中隊でもらっていいわけね?」

「メック戦ではないにせよ、実戦経験者は貴重だろうからな。第2中隊の偵察小隊には、もう1人の歩兵出身者、レノーレ・シュトックバウアー伍長を貰うから大丈夫だ。」

 

 そこではアーリン中尉とヒューバート大尉が、今回の新規入隊者から自分の中隊の隊員を選び出すので大忙しだったのである。自分の部隊の隊員を選ぶと言うのは、確かに大事な事だ。議論が活発になってもおかしく無い。

 ちなみに、今台詞に上がった2名は今回の新規入隊者では無い。惑星ネイバーフッドで募集した歩兵の中に、メック戦士としての適性が高い者が2名ばかり見つかったのである。訓練成績も上々、実機に乗せてみた所かなりの技量を示したため、急遽伍長に任じてメック戦士に取り立てたのである。

 とは言っても、2人はメック戦士とまったく関係の無い人間では無い。実はアナ伍長は失機者の家系の人間であり、親から厳しすぎるメック搭乗訓練――と言っても何処からか手に入れて来たボロボロのシミュレーターによる物だけだが――を受けて来ていた。もっともその親に反発して家を出てしまっていたのだが。そんな彼女だが、歩兵として入った傭兵部隊でメック戦士として取り立てられるとは、運命とはわからない物である。

 そしてレノーレ伍長は某メック戦士家系の傍系の人間で、シミュレーター訓練はしっかりと、そして実機にも1回だけだが搭乗経験があった。ただし傍系の人間であるために、いかに才能があっても認められる事は無く、本当に万一の際のために訓練を受けさせられただけであった。『SOTS』で拾い上げられたのは、彼女にとって幸運以外の何物でも無かっただろう。

 

「……っと。じゃあこんな物かな。第2中隊の偵察小隊は、隊長にアラン・ボーマン氏、副隊長にエリーザベト・メリン女史、平隊員にアロルド・エリクソン氏とレノーレ・シュトックバウアー伍長。」

「第3中隊の火力小隊は隊長がジェラルド・ハルフォード氏、副隊長がハーマン・カムデン氏、平隊員がアナ・アルフォンソ伍長、メアリー・キャンベル女史。

 偵察小隊は小隊長にアルマ・キルヒホフ女史、副隊長ルートヴィヒ・フローベルガー氏、マキシーン・ウィンターズ女史とアドルファス・マコーマック氏が平隊員ね。

 残ったヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン氏は?」

「ああ、彼は……。」

 

 キースはそこに割り込む。

 

「ああ、彼ならば俺の第1中隊偵察小隊に、副隊長として貰う予定だ。」

「「キース少佐!」」

「……そこまで驚くか?俺はちゃんとインターホン鳴らしたし、「どうぞ」って返事ももらったぞ?」

 

 アーリン中尉もヒューバート大尉も、あれ?と言う顔をする。

 

「……そう言えば、なんか生返事をした記憶も。」

「と、ところで少佐。何か御用ですか?」

「いや、第2第3中隊のメンバーは諸君らに選抜を任せたが、結果がどうなったか、と思ってな。」

「それなら丁度今、結論が出た所です。」

 

 アーリン中尉の言葉に、キースは机上の編成表を見る。

 

「ふむ……。人員配置は問題無いんだが……。第3中隊の偵察小隊だが、貸与する全機をフェニックスホークで固めるのはどうかな。機動性が無い機体だが、1機は45tのヴィンディケイターにした方がいいと思うぞ。

 高速打撃部隊であれば全機フェニックスホークで構わないんだが、偵察小隊は小隊単体で活動する事も多いからな。1機は支援型メックを入れて置いた方が、安心は安心だ。小隊全体の生残性もその方が高まるだろう。」

「……なるほど、了解です。ならば副隊長のフローベルガー氏にヴィンディケイターを貸与しましょう。まだ実際の腕前は見てないけれど、メック戦士養成校教官の推薦書では、メックでの射撃技量が高いそうだから。」

 

 ここでヒューバート大尉が、人事書類の束を見遣りつつ言う。

 

「しかしうちの部隊の士官、俺たちの母校出身者ばかり多くなったなあ。なんか学閥っぽいな。」

「まあそれは仕方ないでしょう。わたしもうちの母校、フィルトヴェルト軍士官学校は、卒業生の大半が恒星連邦装甲軍の辺境部隊に入隊するもの。わたしみたいな例外は数少ないから、恩師に卒業生の紹介を頼んでも、まず無駄なのよ。」

「あと、当初予想してたより女性の新入隊員が多いなあ。」

 

 そのヒューバート大尉の疑問に答えたのは、キースだった。

 

「それも仕方あるまいよ。メックを持っていなくとも構わない、と言う条件で人員を集めたからにはな。一族の予備メック戦士であっても、万が一の際にメックが回って来るのはやはり男性の方が優先される。だから、メックにあぶれるのも、自分の家のメックを諦めて外に出るのも、女性の割合が高くなるのは当然の結果だからなあ……。」

「なるほど……。」

「まあ、わたしが独立小隊を率いていた時も、わたしが女だからって舐められる事も多かったわね……。やっぱり軍隊は男性社会の側面が大きいですからね。」

 

 アーリン中尉が少しすねた様に言う。キースとヒューバート大尉は、慰める様に言った。

 

「アーリン中尉の実力は、俺がよく知っている。」

「ああ。中尉の能力は、俺より優秀かも知れんからな。」

 

 アーリン中尉は、くすくすと笑った。どうやら冗談半分だった様だ。キースとヒューバート大尉は、ほっと息を吐いた。

 

 

 

 日付が変わって、翌日である。ちなみに惑星ネイバーフッドの1日は連盟標準時の2日ちょっとにあたる48.8時間であるため、丸一日明るい日があるかと思えば、丸一日真っ暗闇の日もある。今日は丸一日暗い日だ。この惑星の一般人の様に惑星時間で生活していればともかく、連盟標準時で生活している惑星守備隊からすれば、ちょっと調子が狂う。

 それはともかく、キースは司令執務室にメック戦士と航空兵の一部を呼び出していた。理由は彼らの昇進の通達や、任官の通達である。副官のジャスティン少尉が、書類と襟章……階級章をキースに手渡してくれた。キースは大きな声で、はっきりと告げる。

 

「アーリン中尉、本日ただ今をもって貴官を大尉とし、第3中隊中隊長に任ずる。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

「これが辞令と新しい階級章だ。それと同時に、以前から内示していた通り、貴官の小隊をそのまま第3中隊の指揮小隊とする。このため、貴官の小隊のバトルメックを交換する事になる。この場が解散しだい、即座に機種転換訓練に入ってくれ。」

「了解!」

 

 キースはアーリン大尉が襟の階級章を付け替えるのを見届けると、次に航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉に向き直る。

 

「ヘルガ少尉、貴官を中尉とし、新たに分割された気圏戦闘機隊第2中隊、『ビートル中隊』の指揮官に任ずる。これが辞令と新しい階級章だ。」

「謹んで拝命いたします。」

 

 気圏戦闘機隊は、今までもライトニング戦闘機のアロー、トランスグレッサー戦闘機のビートルに分かれていたと言えば言える。だが今回、気圏戦闘機隊の大幅増員が成った事により、ライトニング戦闘機6機の『アロー中隊』、それ以外の機種6機による重戦闘機中隊『ビートル中隊』に正式に分割する事になったのだ。

 最初は以前気圏戦闘機隊の指揮を執っていたミケーレ・チェスティ少尉を中尉昇進させて2つ目の中隊を任せる意見もあった。だが他ならぬミケーレ少尉自身が、昇進および機体の交換を固辞した事により、ヘルガ中尉にお鉢が回って来たのだった。

 キースは次に、その場に一塊になって屹立している新入隊員たちの方へ顔を向ける。まずは第1中隊の偵察小隊予定者からだ。

 

「ジーン・ファーニバル、今日この時より君を中尉とし、第1中隊偵察小隊小隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。受け取りたまえ。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

「ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン、ただ今より君を少尉とし、第1中隊偵察小隊副隊長に任ずる!辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解しました!謹んで拝命いたします!」

 

 次は第2中隊の偵察小隊である。キースはガチガチに硬くなっている後輩たちに、声をかける。

 

「アラン・ボーマン、君を中尉とし、第2中隊偵察小隊小隊長に任ずる!辞令と階級章を受け取る様に。」

「は、はい!せんぱ、いえ少佐!謹んで拝命します!」

「うむ。プライベート以外では、先輩とは呼ばん様に。では……エリーザベト・メリン、君を少尉とし、第2中隊偵察小隊副隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。」

「ありがとうございます!謹んで拝命します!」

 

 そして第3中隊の火力小隊と偵察小隊である。こちらの者たちも、ガチガチに緊張しているのが見て取れる。

 

「ジェラルド・ハルフォード、君を中尉とし、第3中隊火力小隊小隊長に任ずる!辞令と階級章を。」

「はっ!謹んで、拝命いたします!」

「ハーマン・カムデン、君を少尉とし、第3中隊火力小隊副隊長に任ずる!この辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解!謹んで拝命します!」

 

 火力小隊が終わったので、次が偵察小隊だ。

 

「アルマ・キルヒホフ、君を中尉とし、第3中隊偵察小隊小隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。」

「はい!謹んで拝命いたします!」

「ルートヴィヒ・フローベルガー、君を少尉とし、第3中隊偵察小隊副隊長に任ずる!辞令と階級章がこれだ。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

 

 メック戦士たちが一通り終わったので、次に控えている航空兵たちの番が来た。彼らは流石に新前であるキースの後輩たちとは違い、幾ばくかなりの余裕を見せていた。ただし、キースの迫力に若干腰砕けになっている者もいる。

 

「オーギュスト・セゼール、君を少尉とし、気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員とする。辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解です。謹んで拝命します。」

「ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー、君を少尉とする。これより気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員として頑張ってくれたまえ。これが辞令と階級章だ。」

「は、はい。了解です、拝命いたします。」

「キアーラ・コッポラ、君を少尉とし、気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員とする。今後ともよろしく頼むぞ。辞令と階級章を。」

「はいっ!謹んで拝命しますっ!」

「アンジェル・デュピュイトラン、ただ今より君を少尉とする。気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員として頑張る様に。辞令と階級章だ。」

「お任せ下さい。謹んで拝命いたします。」

 

 まあ、この航空兵たちはそこそこ頼りになりそうな人材だった。ただし、彼らの乗機は一様に故障機、損傷機であり、修理が済むまでは戦力化はできないのだが。

 キースはその場の新入隊員全員に向かって語り掛ける。

 

「……混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』にようこそ諸君。貴官らは本日ただ今をもって、俺の部下だ。多くは言わん。俺の背中は貴官らに任せたぞ。貴官らの背中は、俺が護る。……よろしく頼むぞ。」

「「「「「「了解!!」」」」」」

「同じことは、アーリン大尉とヘルガ中尉にも言える。これまでと同じく、いや、これまで以上によろしく頼んだぞ。」

「了解しました!」

「了解です。」

 

 キースは満足げに頷くと、口を開く。

 

「では各員、平常業務に戻れ!機種転換訓練が必要な者、及び機体を貸与される者は訓練に入る様に!では解散!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 その場の全員が敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼を行った。キースとジャスティン少尉を残し、他の全員が司令執務室から退出して行く。キースは息を吐いた。

 

「はあ~~~っ。ようやく最初の組が終わったか。小休止したら、次の組を呼ぶとしよう。」

「了解です、少佐殿。……コーヒーを淹れます。」

「菓子も出そう。甘い物がいいな。」

 

 そう、新入隊員はまだまだいるのである。さすがに助整兵や歩兵の1人1人にまで、キース自ら辞令と階級章を手渡してやったりするのは不可能だ。だが士官や幹部クラス、メック戦士、航空兵、整備兵などにはそう言ったことをやってやろうと思っている。まあ部隊規模が更に拡大すれば、それも出来なくなって来るのだろうが。

 それはともかくとして、キースは次の新入隊員たちを司令執務室へと呼び出す前に、若干の休憩を取る。ちなみにジャスティン少尉の淹れたコーヒーは、軍隊の常識に反してなかなかの美味だった。

 

 

 

 今日も今日とて、キースは城の第1小会議室を占領して、イヴリン・イェーガー軍曹ら部隊の年少メック戦士たちに対し、基礎教養の授業を行っていた。

 

「……数学は単に基礎教養と言うだけでは無い。軍事上も、極めて大事な学問だ。敵を攻撃した際の効果、戦果、それに自軍の被害など、極めて冷徹な数字の下に表わされる。事前の戦術、戦略シミュレーション……模擬演習なども、数学の結果成立している。

 まあ、以前知り合いから聞いた話なのだが……。何処かの水軍……当時は地球しか世界が無かった頃だから、水上の軍隊も海軍と呼んでいた頃の話だがな。そこでは作戦前の模擬演習において、撃沈と結果が出た物を、「我が軍の軍艦がこんなに簡単に沈むなど馬鹿げている」とか言って、こともあろうに「これは中破と見なす」などとシミュレーションの結果を曲げたそうだが……。馬鹿な話だ。惨敗したそうだよ。

 ……っと、余談が過ぎたな。そろそろ時間だ。だが今日は終わる前に、紹介しておく人物がいる。」

「「「?」」」

 

 イヴリン軍曹、エドウィン・ダーリング伍長、エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長の3名は怪訝そうな顔になる。だがイヴリン軍曹だけは、すぐに事情を察した様だ。ほんの僅かだが、彼女の表情が残念そうな物に変わる。しかし彼女はすぐに表情を引き締めた。

 それを見て取ったキースは、一寸だけ自分でもよくわからない感慨を覚える。だが彼はすぐに我に返ると、壁に据え付けてあるインターホンに歩み寄り、スイッチを入れた。

 

「少尉、そこにいるかね?」

『はっ。10分前に到着しておりました。』

「そうか、待たせて済まなかったな。入りたまえ。」

『了解です。』

 

 そして1人の長身の中年女性が、会議室に入室して来る。そこそこの美人ではあるが、それ以上に理知的な雰囲気を纏った眼鏡の人物だ。ちなみにそれが伊達眼鏡であることを、キースは知っている。

 生徒たちに向かい、キースは大きな声で彼女を紹介した。

 

「この者は、ヴァーリア・グーテンベルク少尉……。この度、我が部隊の教育担当官として着任した。俺は基礎教養については専門では無いのでな。それ故に彼女が来てくれた。今後、貴様たちの基礎教養における教官になってくれる。敬意を払って授業を受ける様に。では少尉……。」

「はっ……。ただいまご紹介に預かった、ヴァーリア・グーテンベルク少尉だ。あらかじめ言っておくが、自分が女だからと言って甘く見てもらっては困る。自分が受け持つのは基礎教養だが、厳しくいくつもりなので覚悟しておく様に。……返事は!」

「「「了解!!」」」

 

 生徒たちは、背筋を伸ばし大声で応える。キースとヴァーリア少尉は満足げに頷く。キースは生徒たちに向かい、命令する。

 

「よし、1名ずつ自己紹介を。少尉は既にお前たちの顔も名前も知ってはいるが、一応の礼儀だからな。イヴリン軍曹からだ。」

「はっ!自分はイヴリン・イェーガー軍曹であります!第2中隊火力小隊『機兵狩人小隊』に所属しております!少尉殿、よろしくご教導ご鞭撻のほどを!」

「じ、自分はエドウィン・ダーリング伍長であります!本日つい先ほど、第1中隊偵察小隊に異動いたしました!」

「自分はエルフリーデ・ブルンスマイアー伍長であります!エドウィン伍長同様に、先ほど第1中隊偵察小隊に異動いたしました!」

 

 ヴァーリア少尉は頷く。キースは生徒たちに言った。

 

「さて、この小会議室はあと1時間確保してある。少尉、この者たちと親睦を深めておきたまえ。貴官のやり方で、な。

 貴様たち、基礎教養はヴァーリア少尉にバトンタッチするが、軍事関係の座学やシミュレーター訓練、実機訓練の教官は変わらずに俺が務める。貴様たちの成績については少尉から報告を受けるから、もし万一手抜きでもしてみろ、訓練が倍増すると思っておけ。

 それでは俺は司令執務室に戻る。」

「一同、敬礼!」

 

 ヴァーリア少尉の掛け声に、イヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長がびしっと敬礼をする。無論ヴァーリア少尉も敬礼をしている。キースは答礼を返すと、退室した。

 ちなみに後で報告を受けたところによると、その後の1時間でヴァーリア少尉は、生徒たちがどこまで基礎教養を理解しているか測るために、小テストの山を彼らにプレゼントしたそうだ。彼女の厳しさに、当初美人の女教師が来たと鼻の下を伸ばしていたエドウィン伍長は、夢も希望も打ち砕かれたらしかった。

 

 

 

 イヴリン軍曹たちを教育担当官ヴァーリア少尉に任せたキースは、司令執務室で歩兵部隊指揮官のエリオット・グラハム大尉、機甲部隊戦車中隊中隊長イスマエル・ミラン大尉待遇中尉、整備中隊中隊長サイモン大尉待遇中尉の3名を呼び出し、今回新規採用した武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹との顔合わせを行っていた。ちなみにエリオット大尉も、イスマエル中尉も、サイモン老も、この機会に各々職責に合った階級に昇進している。元歩兵部隊の大隊副官ジャスティン少尉は、元直属の上官だったエリオット大尉を前にして、ちょっとガチガチに緊張している。

 

「彼が今回新規採用された武器担当官、ペーター・アーベントロート軍曹だ。元いた隊では経験豊富な武器担当官だったそうだ。だがこの部隊では最初の内はわからない事が多いだろうから、特にサイモン大尉待遇中尉、色々と教えてやってくれ。

 ペーター軍曹。サイモン中尉はこの部隊の上級整備兵で、一応今まで武器担当官も兼任してきた。ただ彼の仕事は色々と多くてな……整備の仕事の他に、若い整備兵や助整兵の教育、戦闘任務においては砲兵としても働いている。正直、武器担当官としての仕事はあまり出来ていなかったんだ。だから歩兵部隊指揮官であるエリオット大尉や戦車部隊指揮官であるイスマエル中尉にも色々手伝ってもらっていた。

 ペーター軍曹、サイモン中尉から一刻も、いや一分一秒でも早く、仕事を奪えるぐらいに部隊に慣れて欲しい。サイモン中尉には他にも山の様な仕事が待っているんだ。」

「はっ!ご期待に沿える様、鋭意努力いたします!」

「こちらも了解ですわ。で……ペーター軍曹、だったかの?」

「はっ!自分はペーター・アーベントロート軍曹であります、サイモン中尉!原隊が壊滅による解散で路頭に迷っていた所を拾っていただき、『SOTS』にはこの上なく感謝しております!」

 

 ペーター軍曹は、生真面目に答える。その規律正しい様子は、エリオット大尉、イスマエル中尉らに好印象を与えた様だ。特に、同じく部隊解散で路頭に迷っていた所を『SOTS』に助けられたエリオット大尉には、かなりの共感を与えた模様だ。

 丁度その時、2隻のユニオン級降下船……エンデバー号とレパルス号がオーバーゼアー城の離着床から飛び立って行くのが、司令執務室の窓から見えた。エンデバー号は、更なる人員確保のためのスカウト旅行に、レパルス号は資金稼ぎのために不定期貨客船としての商用航宙に出るのである。

 キースは内心で思った。

 

(うーん……。ついでに60tスティングレイ戦闘機の部品、買って来てくれる様に頼んだけど……。4機分だからなあ……。高く付くよなあ……。このままじゃあ、10%の手数料による目減りを覚悟してDHビルの貯金をSHビルに両替しなきゃならなくなるぞ。

 ……レパルス号の商用航宙で、どれだけ稼げるかで決まるな。)

「あー、今度のスカウト便はエンデバー号でしたのう。」

「以前とは違い、『SOTS』の名も知れ渡る様になって来ている。キース少佐の令名と共にな。以前の様に、まともな奴が来ないと言う様な事態は、確実に避けられるだろう。今回も大丈夫だった様だしな。」

 

 サイモン老の言葉に、エリオット大尉が応える。心の内で頷きつつ、キースは話を戻そうと口を開いた。

 

「あー、今はまずペーター軍曹の事だ。3人とも、ペーター軍曹に早速仕事を教えてやってくれ。」

「了解ですわ。」

「自分も了解いたしました。」

「了解であります。」

「では下がってよろしい。後は頼んだ。」

 

 歩兵であるエリオット大尉以外の面々は、各々敬礼をする。キースとジャスティン少尉が答礼をすると、4人は退室していった。キースは再度窓の外、降下船離着床の方に目を遣る。ジャスティン少尉が言葉を発した。

 

「……少佐。レパルス号が儲けてくれるといいですね。」

「流石に気付くか。いや、たぶんサイモン中尉も言葉や態度に出さないだけで気付いてたんだろうけどな。」

「自分も、少佐のお手伝いをして書類仕事をする様になりましたから……。」

「ああ。破産する様な事は確実に無いんだが、レパルス号が儲けてくれないと、ライラ共和国で使えるSHビルが尽きる。契約満了時に報酬の残金が入って来るはずだから、帳簿上は余裕があるんだが……。その報酬の残金を担保にした約束手形の発行は絶対に避けたい。

 あとは貯金のDHビルをSHビルに両替すれば、まだまだ余裕はある。が、できれば避けたい事態なんだけどな。……なんで契約先の国家を変える傭兵がいるんだろうな。前の雇い主からの報酬による貯金が、両替手数料で目減りするじゃないか。」

 

 第3中隊指揮小隊のバトルメックになった元海賊のメックの修理費、及び新規雇用したメック戦士や航空兵たちの持ち込みメック、持ち込み気圏戦闘機の部品代は、微妙なボディーブローとして『SOTS』の経営に対し、効果を発揮してきていた。




『SOTS』は大幅増員が叶い、ようやく第3中隊が編制可能になりました。これでメック部隊は1個大隊規模になります。
でも、現金のストックががが。経済危機、と言うほどでは無いのですが。でもボディーブローの様に、徐々に効いてきてます。これも1つのピンチ!
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