鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-056 古文書の謎』

 来客を司令執務室の応接セットへ誘うと、キースはその来客に向かい口を開いた。

 

「いやお待たせして申し訳ありません、ボールドウィンさん。」

「いえいえ、とんでもない。」

 

 そう、来客とは突然キースに面会を申し込んで来た、歴史学者ジョエル・ボールドウィンである。この時代、歴史学者とは普通の学者を指す言葉ではなく、一般に星間連盟時代の遺跡を発掘し、発掘した高度文明の産物をあちこちに売り払って生計を立てている者たちの事であった。

 キースはボールドウィン氏をソファにかけさせ、自分も腰かけると単刀直入に用件に入る。

 

「で、本日はこの一介の傭兵部隊の指揮官である自分に、いったい何の御用でしょうか?」

「……実は、私がこれまで蒐集してきた古文書一式を、買っていただきたく思いましてな。」

「古文書ですか?」

「とは言いましても、それは星間連盟期かその近辺の物でこそありますが、その内容は詩歌などを始めとしました文学に属する文献でありましてな。」

 

 眉を顰めつつ、キースはボールドウィン氏に問う。

 

「何故その様な物を自分の部隊に?いくらなんでも傭兵部隊と詩歌では、畑違いも過ぎると言う物でしょう。」

「いえ、これを売り込みに来たのは貴部隊にではなく、ハワード中佐個人にです。」

「それならばなおの事です。自分に詩歌を愛好する趣味はありません。」

「ですが、中佐にはそれを価値ある物に変える術を持っておられます。」

 

 自信満々に言うボールドウィン氏。キースはとりあえず話を全部聞いてみようと考える。まあ、半分はこの会見が無駄だった様な気もして来ていたのだが。

 

「ハワード中佐は、私が聞き及んだところによると、恒星連邦中枢へ通じる伝手を持っておられますな。」

「!?……まあ、それなりには。」

「そして貴部隊は、恒星連邦から戦力交換でライラ共和国に来てはおりますが、将来的には恒星連邦へ帰還なさる。帰還なされる際にその古文書を持ち帰り、恒星連邦の王室、ダヴィオン家に献上なさればいかがかと思いましてな。」

 

 恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンが、個人的な趣味として詩歌への深い愛好を示している事は、周知の事実である。有名なホールステッド・ステーション事件は、ドラコ連合クリタ家の鼻先から貴重な書物を奪うため、ハンス・ダヴィオンが自ら行った襲撃作戦である。その書物には貴重な技術文書も多く含まれてはいたが、内容の大半は文学、経済学、心理学などであったと言われている。

 なるほど、ボールドウィン氏の話は一見筋が通っている。だがキースは、どうも胡散臭さを感じてしまう。とりあえずキースは、不機嫌そうに黙り込む演技をする。ボールドウィン氏は焦った様子を見せる。

 

「私がその古文書を発掘いたしたところ、内容や作者はこれまで知られていない物でしてな!希少価値は高いかと思われます!」

「それは碌に売れなかった詩人の作品であったと言う事にはなりはしませんか?下手をすると、素人作家の同人作品であった可能性すら。これが著名作家や著名詩人の同人時代の作品であったとか言う話であらばともかくとして……。」

「あ、あうう……。」

「……何か隠してらっしゃいますね?」

「む……。うぐ……。」

 

 キースはにっこりと笑った。ボールドウィン氏は引き攣った笑顔を返して来る。キースは笑顔を崩さない。だがその眼は笑っていなかった。ボールドウィン氏は肩を落とす。

 ボールドウィン氏が渋々ながら話したところによると、この惑星のとある遺跡――星間連盟時代もしくは第1次継承権戦争時代の物と思われる――から、大量の詩歌や小説の書かれた古文書を発見したのは本当であったらしい。なお発掘したのは、キース達『SOTS』がこの惑星に来るよりもずっと前だ。だが同時期に、それとは別の遺跡から、別の星間連盟期の遺跡があると思われる惑星の情報を発見したのだそうだ。彼はそれを発掘しに行きたいらしい。しかしそのための資金が足りなかった。

 

「それで自分に、その古文書を売りつけようと考えた、と。なんと、まあ……。」

「で、ですが詩歌の書かれた古文書をダヴィオン王家に献上すればと考えたのは、嘘ではありません!」

「嘘では無いでしょうが、だからと言ってハンス・ダヴィオン国王は無目的に無差別に蒐集しているわけではありませんよ?それに惑星上の遺跡の所有権は、この惑星の場合は基本的に惑星公爵と惑星政府にあるんですが。そこからの発掘物を勝手に売っても良い物ですか?

 ……発掘したい遺跡のあるらしい惑星は、ドラコ連合領域内のラサルハグ軍管区、惑星カーチバッハでしたね。」

 

 キースは顎に右手をやり、考え込む。

 

(惑星カーチバッハは、後のラサルハグ自由共和国、つまりは氏族が攻め込んでくる領域だ。……惑星ジ・エッジと同じく。惑星ジ・エッジはメックウォリアーRPGのリプレイ本で、惑星エニウェアのメック工場と同型の工場が隠されていた惑星の1つだ。

 上手くすれば、惑星エニウェアの物と同型工場とまでは行かずとも、ケレンスキー将軍の帰還に備えてメック倉庫なりなんなり隠してある可能性は無きにしもあらず、だな。)

「そ、それは大丈夫です!きちんと惑星政府から許可を受けての発掘です!発掘された貴重品の6割を惑星政府に納めた上で、残りの物を受け取ったのです!

 お願いです、どうか古文書を買っていただけませんか!歴史的資料としての価値は、少なからずあると思うのです!惑星カーチバッハまでの渡航費用と、発掘費用が賄えればいいのです!不定期貨客船の運賃に装備の輸送費用2,000Cビルと、現地での発掘にかかる費用が3,000Cビルも見込めれば!いえ、総額で4,000Cビルでも構いませんのです!」

 

 じろりとボールドウィン氏を睨み付けて、キースは彼を黙らせると、おもむろに言った。

 

「……10,000DHビルです。それでその古文書を買い取りましょう。これだけあれば、CビルやKHビルに両替したとしても、充分余裕が出るでしょう。これは私個人の貯蓄であり、部隊の金ではありません。」

「は?」

「その代わりに……。現地で発掘した物の権利を一部認めてもらいます。いえ、物品が欲しいわけではありません。星間連盟期の技術資料を発掘した場合に、そのコピーを当部隊に対し、一切合切余すところなく譲渡していただきたい。繰り返しになりますが、コピーで結構です。原本を貴方がどう始末なされようが構いません。売り捌こうが、どうしようが。ですが、その内容は全てコピーして引き渡していただく。

 引き渡しの方法は、船便で送ってください。その時点での当部隊の所在地が判らない場合は、傭兵たちの星ガラテアの、当部隊の借りている貸金庫を介して取引を行います。決してコムスターのHPG通信などは使わない様に。……かまいませんね?」

 

 ボールドウィン氏は、慌てて頷く。

 

「は、はいっ!」

「契約書を作りましょう。万が一違反した場合の罰則は、厳しく付けますよ?」

「はい、わかりました!もし技術資料などを発見したら、必ずやその写しをお届けします!」

 

 キース達は細々した契約条件を話し合った。そしてボールドウィン氏は契約書にサインをする。

 

(ボールドウィン氏か……。そう言や整備中隊に、整備兵のボールドウィン・アクロイド軍曹がいたな。混同しないようにしないとな。……これだけ部隊の人数が増えると、名前や姓がかぶるのも珍しく無くなってくるなあ。)

「あ、サイン終わりました。」

「では現金は、古文書の現物と引き替えにお渡しします。何時現物は持ってこられますか?」

「は。貸金庫に収めてありますので、2~3日中にはお届けに上がります。」

「了解です。」

 

 その日は、キースとボールドウィン氏はこれで別れた。だが明後日にボールドウィン氏が古文書を持って再度現れた時、その古文書の量にキースはあきれ返るのだった。古文書は少なく見積もっても、スチール本棚に3つ程度は余裕で有ったのである。とりあえずキースはそれを司令執務室の片隅に置いておく事にした。

 

 

 

 3026年8月10日、司令執務室でコムスター配信のニュース・ネットを見ながら、キースはボールドウィン氏から買った古文書を1冊引っ張り出して弄んでいた。ちょうどぽっかりと空いた時間があったのだが、何かするには中途半端な時間だったのだ。トレーニングするにも微妙であるし、シミュレーター訓練をするには筐体の使用予定が埋まっていたのである。

 

(恒星連邦ドラコ境界域及びカペラ境界域において、ガラハド作戦開始、か。ガラハド作戦か……。10個メック連隊と、100個歩兵・装甲車両連隊の参加する総合防衛演習なんだけど……。)

 

 ニュース・ネットのプリントアウトをファイルに仕舞い込み、キースは古文書を広げた。

 

(なんだこりゃ?アスキーアートか?この本はアスキーアートを集めた物じゃないか。詩歌じゃないし、文学でもなんでもないじゃんか。しっかし、下手なアスキーアートだな。動物っぽいのは理解できるけど、何の動物かはわからんなこりゃ。ああ、下に書いてある。「a raccoon dog」か……。タヌキじゃん。そうは見えないって。

 こっちは「a hairy caterpillar」……毛虫か。これはなんだ?「a kokeshi doll」……コケシ。アスキーアートにしても分からないってばよ。)

 

 ここでキースは、ふと変な事に気付く。

 

(なんかこのアスキーアート、どうも出来が良く無いと思ったら変な字を無理に使ってやがるよ。ここにある「TA」とか……。「TA」……「た」?タヌキのアスキーアートで「た」?あはは、まさか「た」を抜けって意味じゃないよなあ。)

 

 キースは、そのアスキーアートから「TA」の文字を抜いて見た。

 

「ま、そうだよな。」

 

 そのアスキーアートから「TA」を抜いてみた所、まったく意味の無い文字の羅列になっただけだった。キースは馬鹿なことをした、と苦笑する。

 だがどうせやりかけた事だ、次に彼は毛虫のアスキーアートから「KE」(け)を無視して見た。更にコケシのアスキーアートから「KO」(こ)を消す。栓抜きから「SEN」(せん)や「1,000」(千)を抜く。ミミズから「MI」(み)を見ない。小鳥から「KO」(こ)を取る。

 何枚ものアスキーアートを、そうやって意味の無い文字の羅列に変換していった時である。キースはふと、その出来上がった文字の羅列の最初の文字だけを、順番に読んで見た。

 

(コ・ノ・ブ・ン・ショ・ウ・ヲ・ハッ・ケ・ン・シ・タ・モ・ノ・ニ・ツ・グ……「この文章を発見した者に告ぐ」!?)

 

 キースはしばし呆然とする。

 

「こ、こんな馬鹿な暗号があるのか……?これ作ったのは日本人……ドラコ人だよな、絶対。文章が日本語だし。タヌキ暗号と、アクロスティック暗号の組み合わせかよ。」

 

 アクロスティック暗号とは、文章の先頭の文字だけを連ねて読むと意味が通じる様になると言う簡単な暗号である。それはともかく、キースは先頭の文字の次は、2番目の文字を連ねて読んで見る。やはり意味は通じた。更に彼は3番目の文字、4番目の文字と続けて読んでいく。

 

(……これはドラコ人が作った物らしいけど、クリタ家に対し批判的な人物が作ったっぽいなあ。「いつの日かクリタ家を打倒する力にならん事を祈って、この発見を暗号化して遺す」だってさ。時期的には、第1次継承権戦争が始まった直後あたりらしいなあ。ドラコ連合からライラ共和国のタマラー協定領まで逃げて来たのかな?

 ええと、「バルバラ・ガイセの詩集」全10巻、「カナコ・カナザワの和歌集」全5巻、「ザカリー・アッカースン著作集」全20巻の内容に、別の暗号化を施して隠してあるのか。どれどれ……。うん、全部あるな。コンピューターのエキスパート、パメラ軍曹に頼んで、解読してもらうかね。)

 

 机上の内線電話に、キースは手を伸ばす。整備兵パメラ・ポネット軍曹を呼び出して、古文書の精査と暗号解読を依頼するのだ。キースがほんの気まぐれで購入した古文書は、下手をすると偉い代物である可能性が出て来たのである。

 

 

 

 3026年8月20日、ユニオン級降下船、ゾディアック号と同級エンデバー号が、1ヶ月の商用航宙から帰還した。このうちゾディアック号は、3日後には同級レパルス号と共に再度1ヶ月の商用航宙に出立する。そのため、大至急船体の整備と貨物の積み降ろし、推進剤の補充などが行われた。

 ゾディアック号とエンデバー号から、大量の機械類……大型コンバイン、大型トラクター、農薬散布用のヘリコプターや軽飛行機など、各種農作業機器が運び出されて行く。珍しい所では、ディーゼル機関車や貨車、客車などもある。だが農業用ロボットや林業用メックなどは、整備できる技術者の数が極端に少ないため、1体も含まれてはいない。

 レパルス号にはこちらはこちらで多数のトレーラーが、多数のコンテナを積み込んで行く。その積み荷は、穀物を始めとした農産物だ。ゾディアック号にも荷降ろしが完了次第、同様に農産物が積み込まれる予定である。

 実のところ、キースがサイモン老の伝手を使い、ライラ共和国に航宙艦と商用降下船多数の派遣を依頼したために、この惑星から他の工業惑星や鉱業惑星への食糧輸出はかつての好調を取り戻していた。それがために、『SOTS』の降下船を商用航宙に出すにあたって、商品として農産物を積み込むのは正直な話、利益的にあまり美味しく無い。しかしこの惑星には、他に輸出する物が無いので、空荷で降下船を飛ばすよりは多少はマシであった。

 

「ふむ……。順調だな。」

「ですなあ。ですが今度の商用航宙は、前回ほど儲かるかはわかりませんな。」

「しかし、軍用降下船を商用に使うのは何か物悲しい気がするわね。もう慣れたけど。」

「傭兵隊が戦うばかりでやっていけるなんてのは、幻想よね。」

 

 貨物の積み降ろし作業を眺めているキースの横には、ゾディアック号のアリー船長、エンデバー号のエルゼ船長、レパルス号のオーレリア船長が立っていた。無論大隊副官のジャスティン少尉も、ほぼ常にキースに影の様に付き従っている。

 キースは溜息を吐いて言った。

 

「ふぅ……。アリー船長、エルゼ船長、オーレリア船長。この駐屯任務中での不定期貨客船としての商用航宙は、次の便で終了だ。次の航宙は1ヶ月間、8月23日から9月23日までだ。10月14日には惑星ネイバーフッドを撤退するのでな。次に戻ってきてからは、1ヶ月無いので商用航宙は行わない。」

「10月は商用航宙無しで、資金繰りは大丈夫ですかな?」

 

 アリー船長が少々心配そうに言う。キースはくっくっと笑うと、安心させるように言葉を掛ける。

 

「うむ、大丈夫だ。駐屯任務が終了次第、ライラ共和国政府より契約金の残金が入金される。ぶっちゃけた話、かなり莫大な金額がな。それが入り次第、アーリン大尉のバトルマスターと、部隊のフェニックスホーク16機のための予備部品を確保に走らねばならんが。

 それに万が一の事があっても、いざとなればDHビルを10%の手数料覚悟で両替するから、首が回らなくなる恐れは無いとも。」

「DHビル貯金は、取り崩したく無いわね。」

「10%手数料は高いわよね。」

「敵対国間の通貨の両替手数料が高いのはわかりますが、恒星連邦とライラ共和国の様に友好的な国の間での両替手数料まで一律10%なのは、腹立たしいですな。」

 

 船長3名は、口々に通貨の交換レートに不満を漏らす。キースは苦笑した。

 

「しかし、そろそろCビルも欲しい所だな。うちは契約によって契約王家の備蓄から交換部品を正規の値段で売ってもらっているから、恒星連邦ではDH払い、ライラ共和国ではSHビル払いで部品が手に入ったが……。ライラ共和国ではエンフォーサーやヴァルキリー、ヴィンディケイター等の部品備蓄が無い。そう言った機体は、民間の業者から部品を買うしかないんだが……。

 他の業者では、Cビル払いでなければ部品を売ってくれない所も多いからな。今のところはそれらの機体は、部隊の備蓄部品に余裕があるから良いが。」

 

 普通、中心領域の継承王家5大国家では、自分の王家が発行した通貨でしか傭兵部隊に報酬を支払わないことが殆どだ。Cビルで支払えば、その報酬はどこの王家の領域に行っても過不足なく使う事ができる。だが各王家のHビルで支払えば、その報酬はその王家の領域でしか満足に使えなくなるのだ。結果として、傭兵部隊は契約した王家の領域に縛り付けられる傾向にある。

 『SOTS』が何度となく直面したSHビル不足も、これに類する問題である。『SOTS』は決して仕える国家を恒星連邦からライラ共和国に変えたわけでは無い。戦力交換でライラ共和国に来ただけであるのだ。だがこのために、今まで稼ぎ貯めたDHビルの貯金が直接に使えなくなり、乏しいSHビルの現金で遣り繰りしなくてはならなくなったのだ。

 ちなみにキースは、恒星連邦に帰還したらSHビルを最低限だけ残して、10%の手数料を払ってでもCビルに両替しようかとも考えている。基本的に彼は今回の様な例外事項が起こらなければ、恒星連邦の領域から出るつもりは無いのだ。

 キースはしばらくの間、降下船の貨物積み降ろしを監督していたが、ジャスティン少尉から「学生たち」への講義の時間が迫っている事を伝えられ、各船長たちに後を任せてその場を後にするのだった。

 

 

 

 オーバーゼアー城第1中会議室で、キースは最近増えた「学生たち」に、バトルメックの機種についての講義を行っていた。今回は、各王家の特製メックについてである。

 

「次はドラコ連合、クリタ家特有のバトルメック、ドラゴン及びグランドドラゴン、そしてパンサーについてだ。まず60tのドラゴンからだな。これは原型機が2754年にロールアウトしている、名実ともにクリタ家の特製メックだ。このクラスにしては充分な装甲と、このクラスにしては圧倒的な機動力を持つ。まあ、ジャンプしないシャドウホークと同等の機動性を持つと言えば分かるか?武装は10連長距離ミサイル、中口径オートキャノン、全面と背面に1門ずつ計2門の中口径レーザーを装備している。

 このメックは、背面の装甲がかなり厚い。しかも後ろにも火器を装備している。後ろを取ったからと言って、油断はできんぞ。

 グランドドラゴンは、このドラゴンの発展機だ。つい先頃の3025年に初めて実戦参加した事が確認されたばかりの新しい機体だ……との事だ。あまり詳しい事は分かっておらんが、中口径オートキャノンを撤去して粒子ビーム砲を装備、前面胴体右側に中口径レーザーを1門増設し、追加放熱器を加えた……らしい。」

 

 キースはOHPに映し出されたドラゴンの映像をマーカーで指しながら、黒板代わりのホワイトボードに説明内容を板書して行く。「学生たち」は、急いでノートに要点を書きこんで行った。

 

「パンサーは少々趣が違う。この35tの機体のロールアウトは2739年なのだが、別にクリタ家専用ではなかったらしい。だが今現在、パンサーを製造できるメック工場はクリタ家の領域にしか無いため、クリタ家専用の様になっている物と思われる。

 パンサーの装甲はこのクラスでは厚い方だが、それでも決して重厚では無い。だが軽メック同士であれば充分だろうな。火力も近距離用に4連短距離ミサイル、長距離用に粒子ビーム砲を装備している。機動性は低いが、ジャンプ移動が可能なので軽量級の支援メックとして使われると少々面倒だな。

 ……次はリャオ家特有のバトルメックだが。そうだな、誰かリャオ家の標準型ヴィンディケイターについて説明してみろ!分かる者は挙手せよ!」

 

 ぱらぱらと手が挙がる。キースは1人のメック戦士を指名した。

 

「タッチの差で貴様が早かったな、ロタール軍曹。貴様が答えろ。」

「はっ!たしか2826年にリャオ家により独自開発された45tバトルメックです!堅牢な装甲を持ち、機動性は低い物のジャンプ能力も持っております!主兵装は右手の粒子ビーム砲で、他に5連長距離ミサイル、中口径レーザー、小口径レーザーを装備しております!」

「「たしか」は、いらん馬鹿者!だが概ねその通りだ。防衛戦が主となるカペラ大連邦国では非常に頼りになるバトルメックだな。なおうちの部隊にも、標準型が1機だけだが保有されている。ちなみにこの機種にはバリエーションがあってな。『Avenging Angel』と呼ばれるタイプだが、装甲を減らして機動性をウルバリーンかグリフィン並に高めた機体だ。これは予備機もしくは訓練機として用いられる事が多い。」

 

 ふとキースは、ちょっとの差で指名されなかったイヴリン軍曹を一瞬だけ見遣る。彼女は答える自信があったのだろう、少々つまらなそうな顔をしていた。まあ、まだ幼いと言う事だろう。

 その時、屋外から轟音が響いて来る。キースや「学生たち」が目を向けると、オーバーゼアー城の離着床からユニオン級降下船ゾディアック号とレパルス号の2隻が、その推進機から激しい炎を噴いて上昇して行く所だった。

 キースは小さく頷く。

 

「そうか、出発は今日だったな。さて、そろそろ時間だな。本日の講義はこれまでとする。次回は有名な気圏戦闘機とそのバリエーションについて、だ。今日の復習と次回の予習を忘れない様に。イヴリン軍曹!」

「はっ!!起立!!敬礼!!本日のご教導、ありがとうございました!!」

「「「「「「本日のご教導、ありがとうございました!!」」」」」」

 

 敬礼をしてくる一同に答礼を返し、キースは使った資料などを纏めて退室する。彼の後ろで、何名か……おそらくは階級無しの訓練生たちが、OHPなどの機器を片付け、ホワイトボードを掃除している気配がした。

 

 

 

 規則正しい重い足音と、軽い足音が響く。重い足音はキースの、軽い足音はイヴリン軍曹の物だ。彼らは今、朝早くからオーバーゼアー城の外壁内周をランニングしていた。やがて終点と決めていた、本部棟前まで彼らは辿り着く。彼らはクールダウンのストレッチを行う。と、キースが口を開いた。

 

「しかし本当に、随分体力が付いたな、イヴリン軍曹。もはや単純な持久力だけで言うならば、歴戦のメックウォリアーにも負けん物があるぞ?」

「え、あ、ありがとうございます!」

(いやホント、たぶん「タフ」の生得能力があるんだと思うけどさ。本当に成長早いよなあ。いや背は伸びてないけど。能力的な面で。後は知識面とか、戦術学とかだよなあ。必要なのは。)

 

 その時、本部棟からトレーニングウェア姿のアンドリュー曹長とアイラ軍曹にエドウィン伍長、エリーザ曹長とエルフリーデ伍長の5人が現れる。どうやら彼らも外壁内周のランニングをするために出て来たらしかった。エリーザ曹長がチェシャ猫笑いをしながら訊いて来る。

 

「あら隊長?今上がり?」

「ああ。今城壁の内側を適当に流して周回してきたところだ。」

「何周してきたんだ?」

 

 アンドリュー軍曹に、キースは答える。

 

「む、ざっと5周かな。」

「「「「「ぶっ!?」」」」」

 

 5人が吹いた。キースはイヴリン軍曹と顔を見合わせる。

 

「……そんなに驚かれる事か?」

「どうでしょうか。」

「長ぇよ隊長!!いや、それよかイヴリン軍曹にもその距離走らせたのかよ!?」

 

 咆哮するアンドリュー曹長。だがキースもイヴリンも、きょとんとしている。

 

「む、だがイヴリン軍曹に合わせた速度で走ったしなあ。」

「じ、自分もオーバートレーニングにはなってないと思います。体調も良いですし。」

「今までほんの少しずつ距離を伸ばして来たからな。水分やミネラル補給もちゃんとやってるぞ?」

 

 キースとイヴリン軍曹は、腰の後ろに下げたドリンクのポリ製ポットを見せる。走りながら飲めるように、ストローが付いているタイプだ。アンドリュー曹長は頭を抱える。

 

「いや、そう言う問題じゃねえって……。いやちょっと無理すりゃ、俺もそれぐらいは走れるけどよ。流してその距離って、なんだよその体力……。」

「あー、も、目標は遠いなフリーデ……。」

「エド、あ、諦めたら駄目よ……。」

 

 エドウィン伍長とエルフリーデ伍長も、うつろな瞳で話し合っている。キースは彼らに声を掛けた。

 

「あー、俺たちはもう行く。エドウィン伍長、エルフリーデ伍長、これから走るのは構わんが、午前にある基礎教養の授業には遅れない様にな。」

「は、はい!!」

「分かってます!!……教育担当官グーテンベルク少尉の怖さは、既に身に染みました。」

 

 と、キースはエリーザ曹長がイヴリン軍曹に何やら耳打ちしているのを見た。イヴリン軍曹の顔が紅潮する。キースは怪訝に思ったが、とりあえず彼女らに声を掛けた。

 

「エリーザ曹長、そろそろイヴリン軍曹を放してやってくれんか?基礎教養の授業の前に、俺が戦闘指揮概論を教える予定になっているんだ。」

「あ、はーい了解。じゃ、がんばってね、イヴリン軍曹。」

「は、はい!お気遣いありがとうございます!」

 

 5人が敬礼をしてくる。キースとイヴリン軍曹は答礼を返し、本部棟のシャワールームへ急いだ。

 

 

 

「……と言うわけで、暗号文の解読は遅々として進んでいません。ですが、1つの座標は読み取れました。その座標の事で第3中隊指揮小隊のヴィルフリート軍曹に助力を頼んだのですが、星間連盟座標である事がはっきりいたしました。これにより、解法が間違っていないとの確信が持てましたので、今後は解読速度が上がる物と思われます。」

 

 コンピューターの専門家であるパメラ・ポネット軍曹が、司令執務室にてキースに例の古文書の、暗号解読の中間報告を行っていた。キースはパメラ軍曹に訊ねる。

 

「星間連盟座標?そう言えばヴィルフリート軍曹は、航宙艦関連技術を習得しているんだったな。中心領域のどの辺だ?」

「中心領域内部ではありません。ほんのわずかですが、現在の領域の外側です。恒星連邦ドラコ境界域をX+方向にわずかに外れたところを指していると思われます。」

「ほう?そこに恒星はあるのだろう?」

 

 パメラ軍曹は首を縦に振る。

 

「はい、パールクというG0Ⅴ型の恒星があるのが判っています。」

 

 キースは少々考え込む。だがやがて顔を上げた。

 

「そこに何があるにしても、恒星連邦ドラコ境界域X+方面であるならば、この部隊が恒星連邦に帰還してからだな。それまでに解読を進めていてくれれば良い。」

「はい。では退出してよろしいでしょうか。」

「うむ。」

 

 パメラ軍曹は敬礼をし、キースは答礼を返す。司令執務室を退室して行くパメラ軍曹を見送りながら、キースは今聞いた事について考えを巡らせていた。

 

(恒星連邦ドラコ境界域X+方面と言う事は、中心領域マップを広げて、かなり右の方だよなー。ちょうど外世界同盟から見て、すぐ右下の辺りだろ。一体何がそこに……。ま、今考えても仕方ないか。解読も完了してないし、第一恒星連邦に帰ってからじゃないとな。ここはライラ共和国はトレル州、あまりに遠すぎる。中心領域マップだと真ん中の上の方だもんな。)

 

 現在駐屯中の任地を放り出して中心領域を半ば横断するわけにもいかない。キースは疼く好奇心を噛み殺し、日常業務に戻った。




なんと、買い取った古文書には秘密の暗号が!(お約束)
はたして暗号が示す先には、何が隠されているのだろうか。
そして平然と、一流メック戦士でも躊躇する距離を流して走る、年端もいかない美少女イヴリン!!(マテ
いやそこは関係なかったね。
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