巨大な球体状の降下船を背景に、2名の人物がキースの前に立って敬礼を送って来る。ユニオン級降下船ゾディアック号と同級レパルス号の船長、アリー・イブン・ハーリド中尉とオーレリア・レヴィン中尉だ。キースも彼らに答礼を返す。両船長は、キースに帰還の挨拶をした。
「ユニオン級ゾディアック号!」
「同じくレパルス号!」
「「1ヶ月の商用航宙より、ただいま『SOTS』本隊に帰還いたしました!」」
キースは頷く。
「ご苦労だった、アリー船長、オーレリア船長。収支報告は、インベーダー級航宙艦ズーコフ号のヨハン艦長が、深宇宙通信施設を介してデータ通信で送ってくれた。貴官らのおかげで、健全な部隊経営ができる。心より感謝する。」
「……やれやれ、これであと何事も無ければ、10月14日まではこの船は飛ばないってわけですな。」
「ま、それもあと1ヶ月無いのよね。今日が……9月23日だったかしら?」
そう、オーレリア船長の言う通りに、あとちょうど3週間で『SOTS』は惑星ネイバーフッドを撤退するのである。そろそろその準備などを開始した方が良い時期であった。キースはふっと小さく笑う。
「まあ、そうだな。そろそろ少しずつメックの予備部品や修理作業台などを降下船に積み込み始めた方が良いな。……まだ半年足らずしか居なかったんだがな。何か色々苦労したせいか、すっかり自分のホームの様な気になってしまった。」
「ではまた荷積み作業の監督が待っておりますな。」
「まあ、まだ3週間もあるんだし、そこまで急がなくてもいいわよ。」
船長2人の会話を聞きつつ、キースは他の惑星からの商品を荷降ろしする2隻のユニオン級降下船を眺めていた。
オーバーゼアー城の司令執務室でキースは、1通の通信文を眺めていた。これはコムスターのHPG通信で、ライラ共和国首都惑星ターカッドから送られてきた物である。
(……「チュウトンニンムカンリョウシダイ、キンリンワクセイへノキュウエンニンム、カノウセイタカシ。ソノツモリデ、ジュンビサレタシ。」か、ふむ。駐屯任務完了しだい、近隣惑星への救援任務、可能性高し。そのつもりで、準備されたし。……とはねえ?やれやれ、恒星連邦へ帰るのは、もっと先になりそうだな、こりゃ。)
キースはおもむろに部隊編成表を取り出す。
(……救援任務となると、場合によってはメックでの強襲降下をしなくちゃならないけどな。だけどなあ……。第1中隊は技量の程から言って、充分間違いなしに降りられる。第2、第3中隊も練度は上がって来てるから、そう心配は無い。万が一降下に失敗しても、目標地点からずれた場所に降下してしまう程度で済むだろう。……オーバーゼアー城のシミュレーターが使えるうちに、みっちり大気圏への強襲降下を練習させとこう。
問題は第4中隊か。指揮小隊は全く問題ないが、火力、偵察の両小隊は未だ技量が不安だな。第4中隊は、レパード級で降ろそう。……となると、この惑星を出る時からレパード級に載せておいた方がいいよな。第4中隊は各小隊毎にレパード級3隻に分乗だ。
第1中隊は、フォートレス級ディファイアント号、第2中隊はユニオン級ゾディアック号、第3中隊は同級エンデバー号、訓練生部隊はメックだけユニオン級レパルス号に載せて、訓練生たち本人はディファイアント号に乗せて旅の間もみっちり教育と訓練しないと。)
そしてキースは、傍らで仕事をしているジャスティン少尉に声を掛ける。
「ジャスティン少尉、城外演習場及び城内シミュレーター設備の、今後の使用予定を見せてくれ。」
「はっ。了解です、少々お待ちください。」
ジャスティン少尉はすぐさま要求された書類を集めて、司令執務机まで持ってくる。キースはそれを精読し、少し考えた後で言う。
「あと2週間そこらで我々はこの惑星を撤退することになる。だがその直後に急な任務が入る可能性があるらしい。今後の城外演習場とシミュレーターの使用予定を押さえてくれ。
城外演習場はできる限り第4中隊の訓練に使う。第2、第3中隊の面々にはシミュレーター室を占領させて、強襲降下の模擬演習をみっちりとやらせる事にする。……第1中隊が訓練不足になるか。第1中隊は、数は少ないが降下船に乗せてあるシミュレーターを交代で使わせよう。今は第2から第4中隊の練度を上げる事が大事だ。
それと推進剤の手配を。気圏戦闘機隊の訓練密度を上げる。アロー中隊はさほど心配は無いが、ビートル中隊が未だ不安だ。徹底的な模擬空戦を繰り返し行わせる。」
「はっ。即刻手配します。」
「それと……。ああ、いやいい。今言った事を即刻頼む。こっちは自分でやる。」
キースは内線電話機に手を伸ばし、指令室へ電話を掛けた。すぐに相手が出る。
『はい、こちら指令室。』
「こちら司令執務室、キース中佐。アーリン大尉か。ヒューバート大尉とケネス大尉、マイク中尉にヘルガ中尉を呼び出して、一緒にこっちまで来てくれ。今後の訓練計画について話がある。その間、指令室は他の士官に任せてくれ。」
『了解です。館内放送で皆を呼び出したら、すぐに向かいます。』
「頼んだ。」
そして各メック部隊中隊長、気圏戦闘機隊中隊長を呼び出す館内放送が鳴り響き、しばらくした後で机上の内線電話機がインターホンモードで鳴った。
「誰か?」
『アーリン大尉です。ヒューバート大尉、ケネス大尉、マイク中尉、ヘルガ中尉も一緒です。』
「待っていた、入室を許可する。」
アーリン大尉たちが入室し、敬礼をよこして来る。キースとジャスティン少尉も答礼を返した。キースは早速、本題に入る。
「ライラ共和国首都惑星ターカッドよりHPG通信によるメッセージが来た。まだ可能性の段階だが、この駐屯任務が終了しだいに『SOTS』には近隣星系への救援任務が割り振られるらしい。可能性とは言っても、ごく高い模様だがな。
そこでそれに備え、第2、第3中隊の面々にはシミュレーターで大気圏への強襲降下訓練を時間の許す限り、何度も行って欲しい。シミュレーター室はジャスティン少尉に押さえてもらっている。……少尉?」
「はっ。問題無くシミュレーター設備の空き時間を押さえました。」
「了解です。第2中隊は惑星への強襲降下訓練を行います。」
「同じく了解です。第3中隊はシミュレーターにて、強襲降下の訓練を行います。」
ケネス大尉がキースに質問を投げかける。
「第4中隊は未だ練度が低く、大気圏への強襲降下は不安が残りますが……。」
「うむ、第4中隊はレパード級3隻で降下してもらうつもりだ。だから第4中隊には降下の訓練ではなしに、通常の実機訓練を徹底的に行って欲しい。これもジャスティン少尉が、城外演習場を押さえてくれている。後ほど訓練計画を提出してくれ。
ああ、第4中隊はだから本来予定していたユニオン級レパルス号ではなしに、レパード級3隻に乗ってもらう事になるからな。この惑星からの撤退準備をそろそろ開始していると思うが、各自の荷物はレパード級3隻に積む様に通達してくれ。どの小隊がどのレパード級を使うかの選択は貴官に任せる。」
「はっ!了解です!」
次にキースは、マイク中尉とヘルガ中尉に向き直った。
「マイク中尉、ヘルガ中尉。気圏戦闘機隊の調子はどうか?特にアロー5とアロー6、ビートル3からビートル6の事を聞きたいんだが。」
「アロー5のフョードル少尉も、アロー6のバウマン少尉も、今のところ何とか俺たち先任の機動にくらいついて来れる程度っす。だけど、何とか、でしか無いっすね。ミケーレ少尉のアロー3、コルネリア少尉のアロー4と各々ペアを組ませて、フォローしてもらう事を考えてるっす。」
「オーギュスト、ユーリー、キアーラ、アンジェル各少尉は、並より多少マシな技量です。ですが逆に言えばその程度でしかありません。変則的な3機編隊を組み、自分とアードリアン少尉を各々の編隊長として、彼らをカバーする事を提案します。」
キースは頷く。そして彼は、マイク中尉とヘルガ中尉に命じる。
「その方針でやってもらって構わない。それと今ジャスティン少尉が、追加の推進剤を手配してくれている。たっぷり使って構わないから、模擬空戦を何度も繰り返して、少しでも彼らの技量を上げる様にしてくれ。後ほど訓練計画を提出する様に。」
「「了解!!」」
「では諸君、行動に移ってくれ。では解散!」
「「「「「了解!!」」」」」
一同は敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼をした。そして彼らは、早速行動に移ったのである。
キース達第1中隊の面々は、城外演習場にて実機による連携訓練を行っていた。城外演習場は、第4中隊に優先的に使わせる事が決まっていたが、さすがにずっと機体に乗りっぱなしと言うわけでも無い。だいたい、精鋭である第1中隊も腕を鈍らせないための定期的な訓練は必要であるのだ。それ故に演習場の空き時間を利用して、第1中隊も実機訓練を行っていた。
偵察小隊のD型フェニックスホークの動きが遅れた。キースの怒声が響く。
「偵察小隊!エドウィン伍長の動きが鈍いぞ!」
『了解!エドウィン伍長、貴様何をやっているか!』
『も、申し訳ありません!!』
偵察小隊は、第1中隊の内で最も練度が低い。特に訓練生から昇格してさほどの時が経っていないエドウィン伍長とエルフリーデ伍長は、命令通りに動くことは出来ても、命令無しに指揮官の意図を読んで動く事は、未だ不得手だ。小隊長のジーン中尉も、少々苦労している。だがしかし、単純な技量その物であれば彼らもなかなかの物になって来ていた。
その時、大空を12機の気圏戦闘機が舞う。A中隊アローとB中隊ビートルに分かれて、模擬空戦をやっているのだ。アローは3個の2機編隊に、ビートルは2個の3機編隊に分かれて丁々発止の戦いを繰り広げる。ただし、やはりビートル側は技量で劣るため、不利な様だ。
キースは第1中隊全機に回線を繋ぎ、通信を入れた。
「……本日の訓練はこれで終了とする。だが火力小隊『機兵狩人小隊』のイヴリン軍曹はディファイアント号の、偵察小隊のエドウィン伍長、エルフリーデ伍長はゾディアック号のバトルメックシミュレーターを用い、大気圏への強襲降下訓練を積んで置く様に。」
『『『『『『了解!!』』』』』』
「ではメックを整備棟に戻す。各員速やかに整備兵に機体を引き渡すように。」
キースはマローダーの機体を城門に向けて歩かせる。と、城門が開いて第4中隊のバトルメックが歩み出て来た。先頭に立っていたウルバリーンがキース機に向かい、敬礼を行う。残りの機体も、それに倣った。キース以下、第1中隊の機体も答礼を返す。
『訓練お疲れ様でした、キース中佐!』
「うむ、貴官もこれからだろう。ご苦労、ケネス大尉。では俺は戻る、頑張ってくれ。」
『はっ!ではこれにて失礼します!』
ケネス大尉のウルバリーンと、それに続いて第4中隊のバトルメックが、城外演習場に向けて進んで行く。キースは入れ替わりで城内に乗機を歩み入らせた。
ここはオーバーゼアー城の司令執務室。惑星撤退に備え、ここの荷物も少しづつ運び出され、フォートレス級ディファイアント号へと移されている。そんな中、キースはそこそこ大量の書類に取り組んでいた。ライラ共和国からのHPG通信メッセージを受け取ってから、訓練スケジュールを詰めたために、訓練関係の書類が増えたのである。
そんな中、内線電話が鳴る。副官ジャスティン少尉が受話器を取った。
「こちら司令執務室。……了解。キース中佐、外線電話が入っております。トゥール・メランダー首相からです。お繋ぎしますか?」
「む、こちらの卓に繋いでもらってくれ。」
「はっ。……了解が取れた。こちらに外線を繋いでくれ。」
程なく電話が繋がり、呼び出し音が鳴る。キースは受話器を取った。
「お待たせしました。こちらキース・ハワード中佐です。」
『おお、ハワード中佐。いつぞやぶりだね。この前は、航宙艦と商用降下船の派遣の件で、ずいぶん手間をかけさせてしまったね。』
「いえ、この惑星のためになる事ですので。」
『はっはっは、そう言ってくれるとありがたいよ。』
メランダー首相は上機嫌だ。それはそうだろう、農産物の星系外への輸出が好調なおかげで惑星の経済が上手く回る様になり、一般庶民の暮らしも上向きなのだ。それは巡り巡って、惑星政府や首相の懐を潤す結果にもなる。首相も結局の話、先祖代々から頭首が首相を務める家系であり、貴族階級なのだ。惑星政府の財布と首相の財産の境目は、ぶっちゃけ曖昧である。その他にも彼は個人で、農産物の星系外への輸出を請け負う商社を持っている事でもあるし。
ここでメランダー首相は本題に入る。
『ところで、ハワード中佐に借りを返しておかねばならんと思っておったのだが、中々良い機会が無くてなあ。だがつい最近、丁度良さそうな話が舞い込んで来たのだよ。私の星系外の友人がな、破産して解散した傭兵部隊の装備一式を、安く買い叩……ごほん、おほん、まあリーズナブルな値段で入手できたそうなのだ。で、その装備品の中から、メックや戦車以外の物ならば安価に譲ってくれると言うのだよ。何やら希少な品もあるらしくてな。その仲介をすると言う事で、どうかね?借りを返す事にはなるかね?』
「ほう?それは興味深いお話ですね。希少な品と言うのは何でしょうか?」
『うむ、目録には色々あるが……。メック修理用の機材はそのままその友人が所有しておきたいそうで、目録には載っておらんが、他にも色々あるよ。たとえば……。』
メランダー首相は電話口で目録を読み上げる。メランダー首相の言葉のある所で、キースの眼が光った。
「MASH?機動病院車があるのですか?」
『む?おお、そう書いてあるね。ええと、完動品、程度上、核融合エンジンタイプ、手術台数7、武装取り外し済み、とある。価格は……。』
MASHは既にキースの部隊では1台保有しているが、部隊を分割して戦う場合など、2か所にMASHを置けると言うのは非常に安心できる。それに軍医であるキャスリン軍曹が教育した結果、今部隊には彼女の他にキム・バスカヴィル軍曹など、高い医療技術の持ち主が複数名存在する。
キースは頭の中で、現状自由に使える資金を計算する。先月に2隻の降下船が商用航宙から帰還しているため、一応余裕は充分だ。
「その機動病院車、うちの部隊で購入しましょう。その価格であれば、充分購入可能です。貸しとは思っておりませんでしたが、充分に返していただいた事になりますよ。」
『おお、そうかね!やれ、これで肩の荷が降りたよ。……中佐の部隊がここの惑星を撤退するまで、そう日が無いからね。借りを作ったまま行かれてしまうのでは無いかと思っておったんだ。近日中に秘書をそちらに向かわせるよ。契約書を作ろう。』
「お願いいたします。」
『では今回はこの辺で失礼するよ。ではな、ハワード中佐。』
「はっ。メランダー首相。」
電話は切れた。キースは考える。
(1台目はキャスリン軍曹に任せるとして、2台目はどうするかな。やっぱりキム軍曹あたりの専属とするか。小口径レーザーを取り外している非武装車だと言う事だが、MASHならば問題はあるまい。)
キースはジャスティン少尉に、自由執事ライナーを呼ぶように伝えた。部隊の財布を預かるライナーには、今回ちょっと余計な買い物をした事を話しておかなければならない。まあ買った物がMASHだから、怒られはしないだろう。たぶん、きっと。
司令執務室に各メック中隊の中隊長と気圏戦闘機隊の各中隊長、整備中隊中隊長に機甲部隊戦車中隊中隊長、歩兵中隊中隊長、偵察兵分隊暫定隊長、自由執事など部隊の幹部+αを集め、キースはおもむろに口を開いた。
「ライラ共和国首都惑星ターカッドより、正式な通達が船便で送られて来た。これによると、我が『SOTS』との契約を更に半年更新、延長し、今度は近隣惑星のソリッドⅢに味方増援部隊として救援に向かって欲しい、との事だ。敵を撃退できたなら、残りの期間は惑星守備隊としてソリッドⅢに駐屯する事になる。
ただし、この惑星を空けるわけにもいかん。予定通りに後任の『エフシュコフ剛腕隊』が惑星に到着したら任を引継ぎ、この惑星を出立する。なおライラ共和国と恒星連邦の間での調整と話し合いはちゃんとついているとの事だ。恒星連邦への帰還は、半年かそれ以上先になる、と言う事だな。
現在ソリッドⅢに駐屯している味方部隊は傭兵大隊『アリオト金剛軍団』だが、現状1個中隊ほどに討ち減らされているらしい。しかしなんとか籠城して、持ちこたえているとの事だ。敵は『第25ラサルハグ連隊C大隊』……。増強大隊で、1個大隊と1個半中隊の戦力を持っているらしい。」
「『エフシュコフ剛腕隊』ですか?戻って来るんですね。」
第2中隊中隊長、ヒューバート大尉が感慨深げに言う。キースは頷いた。
「ああ。後方での休養、補充と再編成を終えて戻って来る。と言うか、もうこの星系のジャンプポイントにはとっくに到着して、現在こちらに向けて降下中だ。2、3日中には降りて来る。……オーバーゼアー城の離着床はうちの降下船で満杯だから、うちの降下船が発進するまでは民間の宇宙港に降りてもらう事になるな。」
「半年の契約延長と言う事ですが、契約終了時に支払われるはずの契約報酬の残金はどうなりますか?」
「それは大丈夫だ。この惑星ネイバーフッド撤退時に、いったんきちんと支払われる。予定通り、バトルマスターやフェニックスホークの予備部品も注文できるから、上手くすればちょうどソリッドⅢ到着からさほど間を置かずに、向こうの惑星に部品が着く事になるな。……それまでに惑星の制宙権、制空権を取っておかねばならないと言う事でもあるが。」
自由執事ライナーの質問に、キースは答える。付け加えられた言葉に、上級整備兵であり整備中隊中隊長であるサイモン老も、安堵の様子を見せた。補充部品の充実は、大事な案件であるからだ。ここで気圏戦闘機隊の最先任である、マイク中尉が質問を投げかける。
「隊長、制宙権、制空権は完全に敵に取られてるんすか?」
「残念ながら、な。確認されているのはシロネ戦闘機4、スレイヤー戦闘機6だそうだ。敵の降下船はユニオン級が5隻だそうだから、おそらくはこの10機以外いないと思われるが……。『アリオト金剛軍団』からの報告では、保有していた気圏戦闘機5機が倍の敵に果敢に立ち向かったが、4機が撃墜され、1機が降伏して敵の捕虜になったとの事だ。」
「ボロボロっすね。敵機は1機も欠けてないんすね?」
「そうらしい。気圏戦闘機隊の新入りたちは大丈夫か?」
マイク中尉は少しばかり考えたが、顔を上げて頷く。
「腕前のほどは、最近の扱きで上がってるっす。ちゃんと先任たちの機動にも付いてこれるようになってるっすよ。後はベテラン連中がどれだけフォローしてやれるかですが、A中隊……アロー中隊は新入りの数が少ないからまず大丈夫っす。B中隊は……ヘルガ中尉?」
「ビートル……B中隊は新入りの数が多いのですが、今のところの例外的3機編隊2組による運用を続ければ、自分とアードリアン少尉共々なんとかフォローしてやれる自信はあります。」
「了解した。予定通りメック部隊が強襲降下する前に、可能であれば敵の全気圏戦闘機を排除しておきたい。マイク中尉、ヘルガ中尉、頼んだぞ。」
「「了解!!」」
その後キースは、『アリオト金剛軍団』の報告をもとに、各員と検討を行った。だがしかし航宙には時間がかかるため、惑星ソリッドⅢに到着するのは約半月後である。今のところは大まかな戦いの方針を決めるぐらいしかできなかった。
民間宇宙港ファーポートに、2隻のユニオン級降下船が着陸していた。半年前、この惑星を離れた『エフシュコフ剛腕隊』の所有降下船である。キースはジープで、『エフシュコフ剛腕隊』に対する挨拶に出向いていた。運転手は無論、副官のジャスティン少尉である。
キースは宇宙港の建物にある喫茶店で、『エフシュコフ剛腕隊』部隊司令ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐を待っていた。やがて半年前にわずかだけ見覚えのある、ヴィクトール少佐ともう1名の姿が喫茶店に入って来るのが見えた。キースとジャスティン少尉は立ち上がる。ヴィクトール少佐ともう1名は、キースたちに敬礼を送る。キースたちも答礼を返した。
ヴィクトール少佐は口を開く。
「久しい、ああいや、お久しぶりですな、ハワード中佐。昇進なさったのでしたな。」
「ああ、エフシュコフ少佐、久しぶりだ。貴官も壮健そうで何よりだ。……以前、敬語で話していた人物に、逆に敬語を向けられると何やらこそばゆいな。こちらが敬語を使わないのも、気がひける。」
「いや、こう言う事はきちんとしておかんといけませんからな。ああ、こちらはうちの次席指揮官、第2中隊中隊長のザカライア・ファイアストン大尉です。」
「ザカライア・ファイアストン大尉です。お見知りおきください。」
ザカライア大尉は生真面目そうな顔で挨拶する。キースも挨拶と、ジャスティン少尉の紹介をした。
「短い間だが、よろしくお願いする、ファイアストン大尉。こちらは大隊副官のジャスティン・コールマン少尉。」
「ジャスティン・コールマン少尉です!よろしくお願いします!」
「よろしくの、コールマン少尉。」
ヴィクトール少佐は、にこやかにジャスティン少尉に笑いかける。キースはジャスティン少尉に、用件を話す様に促した。
「ジャスティン少尉、そろそろ頼む。」
「はっ!エフシュコフ少佐、ファイアストン大尉、これからの事をご説明申し上げます。」
「うむ。」
「了解だ。」
ジャスティン少尉は内ポケットから手帳を取り出して、読み上げる。
「明日の朝08:00時、『SOTS』のユニオン級降下船ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号が先んじて発進いたしますので、空いたオーバーゼアー城付属の離着床に、『エフシュコフ剛腕隊』のユニオン級降下船モンタナ号、同級テネシー号を移動願います。
その後、惑星守備隊の指揮権を『SOTS』部隊司令ハワード中佐より『エフシュコフ剛腕隊』部隊司令エフシュコフ少佐に移譲。12:00時、残りの『SOTS』全降下船が発進。『SOTS』は惑星ネイバーフッドを撤退いたします。
なおその日の夕刻18:00時より『エフシュコフ剛腕隊』の歓迎パーティーが、トゥール・メランダー首相主催で首都ディスプレイスのマグニフィシェント・ホテル第1ホールで行われます。士官級メック戦士は可能な限り出席が望ましいとの事です。」
「パーティーか……。正直苦手なんですが……。」
「そうもいくまい、ザカライア大尉。クリタ家の奴らと戦っておった間はパーティーどころでは無かったがの、今後は惑星政府とのこう言う付き合いもずっと増えるであろうよ。」
ヴィクトール少佐の言葉に、ザカライア大尉は苦虫を噛み潰した様な顔になる。キースは同情心を覚えるが、実の所他人ごとでは無いのだった。まあキース自身は、ある程度割り切ってもいるのだが。
そして翌日、キースは司令執務室でヴィクトール少佐と対面していた。
「……半年前とは、立場が逆になったな。」
「そうですな。自分としては、自身の手でクリタ家の奴らをこの星から追い出せなかったのが残念でもあり、奴らを撃滅してくださった事がありがたくもあり……。正直複雑ですなあ。」
「いや、エフシュコフ少佐と『エフシュコフ剛腕隊』の薫陶が行き届いていたおかげで、ドラコ連合のスパイがこのオーバーゼアー城に入り込む隙が無かった。それ無くばこの成果は無かったとも。」
ヴィクトール少佐は笑う。
「ははは。そう言っていただけると、やはり嬉しい物ですなあ。」
「さて……。そろそろ時間だ。着任を歓迎する、惑星守備隊新司令官、ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐。」
「ありがとうございます、『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。」
2人は、半年前の様に固く握手を交わした。
「執務机の鍵や引継ぎ書類は、執務机の一番上の引き出しの中だ。……貴官とその部隊に武運のあらん事を。」
「自分もハワード中佐と『SOTS』の武運を祈っております。」
そして2人は互いに敬礼を交わす。ヴィクトール少佐はそのまま執務机に着き、キースは扉を開けるとそのまま降下船ディファイアント号へ向かった。今ここに、キースと『SOTS』の惑星ネイバーフッドにおける戦いは終わった。
次なる舞台は、惑星ソリッドⅢ……惑星ネイバーフッドよりもドラコ連合の領域に近い、かつての工業惑星であり、継承権戦争における破壊からの復興途上に、再度ドラコ連合クリタ家の軍勢に襲われた惑星であった。
これにて、惑星ネイバーフッド、著者渾身のオリジナル星系のオリジナル惑星上での戦いは終了いたしました。主人公たちは、次なる星での戦いに身を投じます。
その星の名は……。
惑星ソリッドⅢ!!著者渾身のオリジナル星系のオリジナル惑星です!(爆)……主人公、頑張ります。よろしく応援のほどを。