ソリッドというG5Ⅳ型の恒星を廻る星系の、天の北極方向に存在するジャンプポイントたるゼニス点に、今3隻の航宙艦がジャンプアウトして来た。1隻目はマーチャント級航宙艦クレメント号、2隻目はインベーダー級航宙艦イントレピッド号、3隻目が同級ズーコフ号である。この3隻は、キース率いる混成傭兵大隊『SOTS』と専属契約を交わしている航宙艦だ。事実上、『SOTS』所属艦と言って良いだろう。
イントレピッド号にはユニオン級降下船が3隻、ズーコフ号にはレパード級降下船が3隻、そしてクレメント号にはフォートレス級降下船1隻がドッキングし、この星系に運ばれて来ていた。しばらく時間が経過した後、各降下船は各々の航宙艦からドッキングアウトし、この星系の人類居住惑星であるソリッドⅢへと降下を開始する。ジャンプポイントからソリッドⅢへの行程は、おおよそ連盟標準時で6日間であった。
そして降下開始後4日が経過した頃、その降下船のうち1隻であるフォートレス級ディファイアント号では、キースとアンドリュー曹長、エリーザ曹長の3名が、この船に2台しかないシミュレーターで弟子たちを絞っていた。ちなみに訓練生たちも見学を命じられ、脇に控えている。訓練生たちの面倒を見るのは、マテュー少尉が買って出てくれた。
キースの怒鳴り声が響く。
「馬鹿野郎、惑星の大気圏上層の乱流を甘く見るな!そんなことでは目標地点への降下は不可能だぞ!」
『はいっ!!申し訳ありません!!』
イヴリン軍曹が、叫ぶように返事をする。キースは眉を顰めつつ言った。
「これではもはや、目標地点への降下は不可能だ。今回の模擬演習では離れた地点に、せめて無事に降下して見せろ。む、誤差は450kmほどにもなるか……。」
『了解!!』
「あえて厳しい事を言うが、本番でこの様な事になったら、頼れるのは自分だけだぞ。迎えを出す余裕がこちらにあるとは限らんし、貴様の現在位置が判るかどうかすらも不明だからな。」
『はいっ!!』
続けてキースは、イヴリン軍曹に指示を出す。
「イヴリン軍曹、地上に着陸するところまでやったら、エドウィン伍長とアンドリュー曹長の組と交代だ。シミュレーターは2台しか無いからな。他の者がやっている間、今回の何が悪かったのか検討しておけ。」
『はいっ!!』
キースは自身の乗ったシミュレーター筐体で、見本として見事な腕前を見せて惑星への降下を成功させた。そして彼はシミュレーターの筐体を降りる。と、ここで壁のインターホンが大きな音を立てて鳴った。ブリッジからの通信だ。エリーザ曹長が、インターホンのスイッチを入れる。
「はい、こちら船倉のシミュレーター置き場。エリーザ・ファーバー曹長です。」
『エリーザ曹長、こちらブリッジのマシュー副長。キース部隊司令はいらっしゃるかな?』
「今替わります。」
エリーザ曹長に頷いて、キースは壁のインターホンに歩み寄る。
「キースだ。」
『部隊司令、ジャンプポイントの補給ステーションにいる我々の航宙艦イントレピッド号からデータ通信が入りました。惑星ソリッドⅢの地上にある深宇宙通信施設から通信が入ったそうなので、それを転送してきたそうです。データ先頭に、あらかじめ決められた符丁が付けられていますので、まず間違いなく『アリオト金剛軍団』よりの通信だと思われます。』
「『アリオト金剛軍団』は籠城中だったはずだが……。本当に友軍からの通信だろうな?」
マシュー副長ではなく、マンフレート船長がキースの疑念に答えた。
『友軍、つまり我々が来援する予定期日に合わせて偵察兵を単独で脱出させ、深宇宙通信施設に送り込んだ様ですな。符丁の事もありますし、一応辻褄は合っておりますが……。』
「……なんでわざわざウチの降下船にじゃなく、ジャンプポイントの航宙艦経由で通信送ってきたんだろうな。」
「深宇宙通信アンテナは基本的に高指向性だから、相手の位置がわかってないと照準が合わないはずですよ。距離が近ければ、無指向性アンテナでも低速通信なら届くはずですけどね。……だったかな?」
アンドリュー曹長の疑問に、マテュー少尉が答える。それを横目に見ながら、キースはインターホンに向かって言葉を発した。
「今からブリッジに上がる。データ通信の内容をプリントアウトしておいてくれ。」
『了解です。マシュー副長、頼むよ。』
『はい。では通信終わります。』
インターホンから、接続を切るブツンと言う音が聞こえる。キースは振り向いた。
「マテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長、俺はブリッジに上がる。後は頼めるか?」
「了解です、隊長。」
「まかせとけよ。」
「了解よ、隊長。いってらっしゃい。」
そしてマテュー少尉の号令で、その場の全員がキースに敬礼をする。
「隊長に敬礼!」
「「「「「「敬礼!」」」」」」
「うむ、ではな。」
キースは答礼をしてその場を辞し、ブリッジへ上がった。
キースは結局、その地上からの情報を信頼性が高い物と判断した。と言うより、そう判断して行動せざるを得ない状況であった。『アリオト金剛軍団』の継戦能力はほぼ限界を迎えており、なおかつ『アリオト金剛軍団』が籠城しているアル・カサス城には、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が逃げ込んでいると言うのだ。そして情報には、アル・カサス城を包囲している敵の大まかな布陣やメック構成なども含まれていた。
これが敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』が送って来た偽情報であるのならば、その意図はおそらく『SOTS』の降下位置をその情報によりコントロールし、自軍にとって有利な場所に降下させる事であろう。
だが送られて来た情報を信じなかったとしよう。その場合、普通に降下地点を確保してそこに降下船を降下させ、その後アル・カサス城へ進軍する事になる。その場合、情報が真実であったら下手をすれば時間がかかり過ぎてアル・カサス城は陥落し、惑星公爵は捕虜となるか、あるいは『アリオト金剛軍団』の降下船で惑星脱出する事になるだろう。そうすればこの惑星は敵の物になってしまう。キース達『SOTS』の責任問題にもなりかねない。それは避けたいところだった。
そして今、『SOTS』の降下船群は惑星ソリッドⅢの軌道上に到達していた。キースは自機である75tの重量級メック、マローダーの操縦席で、考えに沈んでいる。それは軌道到達1日前に行われた作戦会議で、彼が隊員たちに語った事の繰り返しであった。
(序盤の軌道上における気圏戦闘機による戦いが重要だな。ここで敵気圏戦闘機を圧倒できれば、地上に降下しても推進剤が無くなるまでは、気圏戦闘機の傘の下で戦う事ができる。そうすれば、もし不利な地点に降下させられても優位を保てる。であれば比較的安心してプランAの賭けに出られるな。
プランAの賭けは、通信による情報が真実であったと仮定して行動して、アル・カサス城を攻めている敵の総指揮官近傍に強襲降下する手だ。そして電撃的に敵司令部を叩いて、敵全軍を一時アル・カサス城から撤退させてしまおうと言う物。……上手く撤退してくれるかなあ。
気圏戦闘機が辛勝であったなら、余裕が無くなるよなー。その場合は難しいところだけど……。この場合もプランAで賭けに出ざるを得ないだろうなあ。当初の降下予定地点を強襲降下で占拠してから降下船を降下させ、第4中隊と戦車部隊を降ろして隊列を整えて進軍なんてしてられない。アル・カサス城が陥落したら、どうにもならないんだ。
もし惜敗以下だったなら、メックによる強襲降下はできないなあ。敵気圏戦闘機を掻い潜って、降下船で地上に降下せねばならないし。降下ポイントはプランBの、敵拠点やアル・カサス城から離れた比較的安全な地点にせざるを得ないよな。アル・カサス城が持ちこたえてくれる事を願って、ゆっくり長距離を進軍するしか無いかあ……。)
『キース部隊司令!こちらブリッジのマシュー副長!敵気圏戦闘機2機が接近中!更に後続として8機が接近中です!』
「ありがとうマシュー副長。ユニオン級降下船ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号、レパード級降下船ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号に通達。気圏戦闘機隊の発進と敵機の迎撃を、俺の名で命じる様に。
降下船群は、砲撃で味方気圏戦闘機を支援せよ。それと気圏戦闘機隊と俺のマローダー間に、通信回線を構築してくれ。」
『了解!』
そしてキースはしばし待つ。宇宙空間での戦いは、気圏戦闘機の独擅場なのだ。ここではマイク中尉やヘルガ中尉に一切を任せるしか無い。やがて戦果報告が上がって来る。
『こちらアロー1、マイク中尉っす!スレイヤー戦闘機を撃墜したっす!』
『アロー2、ジョアナ少尉!スレイヤー戦闘機1機撃墜!』
『こちらアロー3、ミケーレ少尉です!敵シロネ戦闘機をアロー5と共同撃墜!』
『あ、アロー6、バウマン少尉機!敵スレイヤー戦闘機をアロー4と共同撃墜しました!』
戦果報告はまだ続く。
『ビートル1、ヘルガ少尉機。敵スレイヤー戦闘機をビートル3、ビートル4と共同撃墜。ビートル3が損傷、被害は軽微。』
『ビートル2のアードリアン少尉です!敵シロネ戦闘機をビートル5、ビートル6と共同撃墜!ビートル6が若干損傷、帰還させる許可を!』
「ビートル6は降下船に帰還せよ!」
キースはすかさず命を下す。そして更に報告が入る。
『こちらレパード級スペードフィッシュ号イングヴェ船長!いやっほおおぉぉ!シロネ戦闘機1機撃墜!』
『こちらレパード級ヴァリアント号カイル船長だ!負けんよ!シロネ戦闘機を撃墜だ!』
『び、ビートル3のオーギュスト少尉!もう一発食らいました!り、離脱許可を!』
「ビートル3、ただちに離脱!降下船へ戻れ!」
これで残る敵気圏戦闘機は、スレイヤー戦闘機が2機だ。だがそれも間もなく撃墜される。
『アロー4、コルネリア少尉。スレイヤー戦闘機をアロー6と共同撃墜。アロー6が被弾、帰還させたく思います。』
「アロー6、帰還せよ!」
『アロー1、マイク中尉っす!最後のスレイヤー戦闘機をアロー2と共同撃墜したっす!ただ、俺とジョアナは火消し役として飛び回ってたんで、推進剤に余裕ないっす。以後の気圏戦闘機隊の指揮をビートル1、ヘルガ中尉に移譲して、アロー1、2は帰還したいっす隊長!』
「了解だ、アロー1、アロー2、降下船に戻れ!」
キースはヘルガ中尉に命じる。
「ビートル1、ヘルガ中尉。気圏戦闘機隊は第1、第2、第3メック中隊の降下を支援。降下後は推進剤に余裕のある間だけ、メック部隊を支援して地上攻撃を行ってくれ。」
『ビートル1、了解。』
気圏戦闘機隊は、アロー6、ビートル3、ビートル6が被弾による帰還で脱落、アロー1とアロー2が推進剤切れで脱落した。しかしまだ、アローが3機、ビートルが4機の計7機残っている。航空支援戦力として使うには、充分だった。キースは決断する。
「降下地点はプランAの通りで最終決定だ!第1、第2、第3中隊は敵第1中隊近傍の予定地点A、B、Cにそれぞれ強襲降下、第4中隊を乗せたレパード級3隻は予定地点Dに降下し、フォートレス級ディファイアント号とユニオン級3隻の降下地点を押さえろ!
第1から第3中隊の各小隊長は隊員の降下準備を確認し、直属の中隊長に報告せよ!その後第2、第3中隊中隊長は俺に降下の可否を報告!第1中隊指揮小隊、降下準備は!」
『こちらマテュー少尉、降下準備よろし!』
『こちらはアンドリュー曹長、いつでも降下オッケーだ、隊長!』
『こちらエリーザ曹長、あたしも準備OK!』
第1中隊の指揮小隊は準備万端整っている。その報告から僅かに間を置いて、第1中隊の火力、偵察両小隊小隊長より報告が入った。
『こちらサラ中尉待遇少尉。火力小隊『機兵狩人小隊』降下準備よろし。』
『こちらジーン中尉。偵察小隊、降下準備よし!』
更に船の通信設備を介して、ユニオン級ゾディアック号と同級エンデバー号より、第2中隊と第3中隊からの報告が来る。
『こちらヒューバート大尉。第2中隊降下準備よし。』
『こちらアーリン大尉。第3中隊も降下準備よろし。』
「よし……。ゾディアック号アリー船長、エンデバー号エルゼ船長!第2、第3中隊の射出を任せる!ブリッジ、マンフレート船長!マシュー副長!第1中隊の射出は任せた!」
一斉に各船長、副長らの応答が聞こえる。
『『『『了解!部隊司令!』』』』
『副長、射出のカウントダウン開始だ!』
『了解!カウントダウン開始します!60秒前!……30秒前!……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』
次々に、降下殻に包まれた『SOTS』のバトルメックが、大気圏上層部に向けて射出される。気圏戦闘機隊がその後に続いて、大気圏突入を開始した。更にその後をレパード級3隻が追う。フォートレス級ディファイアント号と、ユニオン級3隻は、その更に後をゆっくりと大気圏に突入して行った。
キースのマローダーは、機体に取り付けられた制動ジェットを噴かして目標地点へ着陸するや、制動ジェットをパージして身軽になる。彼の機体から600m弱の距離に、敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』の第1中隊が集結しているのが見えた。敵はキース達の強襲降下に慌てふためき、長距離ミサイルを打ち上げて来るが1発も命中弾は無い。
敵は1個大隊プラス1個半中隊の増強大隊であったが、そのうち1個半中隊を別の拠点に置き、1個大隊でアル・カサス城を包囲していたのである。そしてその1個大隊だが、アル・カサス城の間接砲の照準を散らす目的もあり、1個中隊ごとに分散して東、西、北の3方向から城を攻めていたのだ。ちなみに敵の第1中隊は東に位置している。
キースは機体のセンサーで、『SOTS』第1中隊が全機無事に降下完了している事を確認すると、大声で叫ぶ。
「各中隊!降下の成否や如何に!?」
『第2中隊、全員無事です!』
『第3中隊も全員無事降下完了!』
2つの意味で、キースは安堵した。1つは降下に失敗した者が出なかった事、もう1つは敵の配置が情報通りであった事だ。これでジャンプポイントから惑星ソリッドⅢへの移動中に受け取った情報が、敵のミスディレクションである可能性はまず無くなった。
そして『SOTS』第1から第3中隊は、敵第1中隊を……敵の総指揮官を今現在、半包囲の状態に置いているのである。あえて完全包囲下に置かなかったのは、敵に逃げ道を用意してやる事で、心理的に逃走し易くしてやる意図がある。
キースは再度叫んだ。
「第1、第2、第3中隊前進!訓練通りにフォーメーションを組みつつ、包囲の輪を縮めろ!」
そう言いつつ、キースは機体を前進させる。それを追い抜いて、マテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ曹長のウォーハンマーが前に出る。キース機の横には、アンドリュー曹長のライフルマンが並んだ。キースは直下の指揮小隊に、命令を下す。
「この距離で当たり目があるのは俺たちぐらいだろう。第1中隊指揮小隊、目標敵指揮官機と見ゆるマローダー!射撃開始!」
そしてキースのマローダーから、粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門が同時に発射される。アンドリュー曹長のライフルマンからも、中口径オートキャノンの砲弾が2発撃ち放たれた。エリーザ曹長のウォーハンマーは、両腕の粒子ビーム砲を発砲する。マテュー少尉のサンダーボルトは、15連長距離ミサイル発射筒から盛大にミサイルを打ち上げた。
敵の無意味に森林迷彩で塗られたマローダーと、その周囲の同じく森林迷彩のウォーハンマーにドラゴン2機が、長距離兵器を射撃して来る。狙いは先頭で走っているマテュー少尉のサンダーボルトだろう。だが遠すぎる事と、マテュー少尉が機体を全力で走らせている事もあり、1発も命中弾は無い。
逆に、『SOTS』側の射撃は、その全弾が敵マローダーに命中した。そのうち致命的だったのは、頭部に中ったキース機の撃った中口径オートキャノンと、マテュー少尉機の撃った長距離ミサイルのうち2本、左脇腹に中ったエリーザ曹長機の撃った粒子ビーム砲1発と、マテュー少尉機の撃った長距離ミサイルのうち10本だろう。
頭部に中った攻撃は、衝撃でメック戦士を負傷させ、左脇腹に中った攻撃は、装甲を食い破って中に収められていた中口径オートキャノンの弾薬に引火した。爆炎が吹き上がる。メック戦士……『第25ラサルハグ連隊C大隊』大隊長と思しき人物は、かろうじて吹き飛ぶ寸前の機体から脱出した。だが彼は、頭から地面に落着する。その首が明後日の方角を向き、彼はぴくりとも動かなくなった。
マテュー少尉が小さく言葉を漏らす。
『……やり過ぎましたかね。退却命令を出す人物がいなくなりましたよ。徹底抗戦されるかも知れませんね。』
「事故はいつも起こり得るものだ。それより次はあのウォーハンマーを狙え!こうなったら、徹底的に叩いて潰走させるぞ!」
キースの檄に、気を取り直した第1中隊指揮小隊は砲火を敵のウォーハンマーに集中させる。その機体は、片足が折り取られて地面に崩れ落ちた。更にキースは叫んだ。
「『機兵狩人小隊』!!敵の火力小隊のK型アーチャーを狙え!2機いるから、どちらか片方に攻撃を集中させろよ!どちらを狙うかは、任せる!」
『『『『了解!!』』』』
「偵察小隊!敵偵察小隊のグリフィンを狙え!敵は混乱して、隊列を乱している!後方に下がられる前に潰してしまえ!」
『『『『了解!!』』』』
見ると、第2中隊も第3中隊も、そろそろ良い距離まで接近しており、砲火を撃ち放っている。特に凄腕の各指揮小隊は、既に1機ずつ敵メックを倒している。敵の応射で若干のダメージを受けた機体もいる様だが、それらの損傷も軽度だ。
キースは気圏戦闘機隊を投入すべきか考えた。だが気圏戦闘機隊の残存推進剤量には不安がある。その戦力は、ここぞと言う時に投入する様にしたい。と、その気圏戦闘機隊ヘルガ中尉から報告が入る。
『こちらビートル1、敵の第2、第3中隊がそちらに向かっています。城攻めを中断し、敵第1中隊を救援に向かっている物と思われます。敵第3中隊が先に到着します。』
「了解だヘルガ中尉。いったん合流せずに、中隊毎にばらばらに来るか。各個撃破の危険よりも、時間を取ったのか。
こちらは……。いや、今残敵が包囲をわざと開けていた場所から逃走を図っている。追い撃ちはするが、とりあえず逃がしてやるとしよう。
全機に告ぐ!逃げる敵の背に、追い撃ちの一撃を与えたら陣形を再編する!」
『SOTS』のメックが、逃げる敵第1中隊の残存兵力を撃つ。また1機のK型ウルバリーンが擱座したが、残りはなんとか逃げていった。
ここで第4中隊から報告が入る。
『こちらケネス大尉。第4中隊は指定D地点に、レパード級3隻により降下完了しました。現在『SOTS』の降下船を降下させるため、D地点周辺を確保しております。』
「ケネス大尉、フォートレス級ディファイアント号が降下完了したら、それに載っている戦車部隊と交代して第4中隊はこちらと合流する様に。」
『了解です。』
そう言っている間にも第1、第2、第3中隊は、城の北側から回り込んで来る敵第3中隊を迎え撃つ態勢を整える。城の西側に配置されていた敵第2中隊は、未だ到着まで若干の時間がかかる物と思われる。敵第3中隊が全速力で向かって来るのが見えた。だが既に自分たちの味方が敗退しているのを見て取るや、敵は動きを止める。双方の距離は未だ遠い。
「来るか?いや……。こちらから行く!各機、前進!攻撃再開だ!気圏戦闘機隊は敵中央指揮小隊らしきやつらの、K型アーチャー2機を潰せ!第1中隊指揮小隊、敵中隊指揮官機と見ゆるサンダーボルトを狙うぞ!」
若干の損傷機があるとは言え、こちらは敵の3倍の戦力である。ましてや敵にも損傷機は多数見て取れる。おそらくは城攻めでダメージを負ったのだろう。今のうちにできるだけ敵を叩き、戦果を拡大すべきであった。
敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』の第3中隊が、必死になって逃げていく。『SOTS』は一応追い撃ちとして、長距離兵器で砲撃を加えているが、確実な命中が見込めるのは第1中隊指揮小隊ぐらいだ。同中隊の火力小隊である『機兵狩人小隊』に、第2、第3中隊の指揮小隊まではなんとか時おり命中弾を与えているが、残りの面々は流石に遠距離で全力走行している敵には命中の目が無い。
敵の指揮官機であるサンダーボルトが、最後方で殿を務めていたが、それまで散々にキース達から狙われて、自慢の装甲もあらかた剥がされている。その機体で持ちこたえようと言う方が間違いだ。ついに右腕と左脚を吹き飛ばされて、大地に倒れ伏す。
ここで城中より、焦げ茶色の塗装を施された、『アリオト金剛軍団』の部隊エンブレムを付けた1個中隊弱のバトルメックが出撃して来た。だが少しばかりタイミングが遅い。そしてそれと時を同じくして、『SOTS』の第4中隊も、左手にある丘の稜線を越えて来るのが見える。
推進剤が足りなくなり、離脱して高高度に退避した気圏戦闘機隊のヘルガ中尉から、報告が来た。
『敵第2中隊はそちらへの移動を中止し、撤退を開始。おそらく目的地は、敵占拠下にある『サンタンジェロ城』と思われます。』
「了解だ、ヘルガ中尉。」
キースは隊内回線だけでなく、一般回線も繋ぐと、『SOTS』全機に向けて命令を下す。一般回線も繋いだのは、『アリオト金剛軍団』にも聞かせるためだ。
「撃ち方止め!脚が折れただけで、戦闘能力を残している敵に充分注意せよ!ヒューバート大尉、取り残された敵に対し降伏勧告を。フォートレス級ディファイアント号マンフレート船長、歩兵中隊をこちらに寄越してくれ。捕虜を取る。」
『了解、キース中佐。』
『了解です、部隊司令。』
キースは『アリオト金剛軍団』の焦げ茶色のマローダーに、ゆっくりと自機を歩み寄らせた。同型機ではあるが、キース機は他の『SOTS』機同様、今回の作戦では砂漠迷彩にしている。塗装の違いもあってか、その雰囲気は随分と違う。キースは一般回線を使って相手のマローダーに話し掛ける。
「自分はライラ共和国より派遣された救援部隊の部隊司令、キース・ハワード中佐。貴官は『アリオト金剛軍団』指揮官で間違い無いか?」
『間違いありません。傭兵大隊『アリオト金剛軍団』第2中隊中隊長、クリフ・ペイジ大尉です。現状、小官が『アリオト金剛軍団』の指揮を暫定的に執っております。』
そう、彼クリフ・ペイジ大尉は暫定的ではあるが、『アリオト金剛軍団』の指揮官だ。だが暫定的と言う事は、本来の指揮官ではない事になる。実際、彼の階級は大尉だ。大隊指揮官は少佐から中佐である。では本来の指揮官はどうしたのかと言うと、その答えも『SOTS』が惑星ソリッドⅢへの旅路の途中で受け取ったデータ通信に記されていた。
沈痛な声音で、キースはクリフ大尉に話し掛ける。
「そうか……。ダライアス・ノードリー少佐の件は残念だった。」
『いえ、機体がかろうじて修理可能な状況で残っただけでも……。オートキャノン、長距離ミサイル、短距離ミサイルをいずれも殆ど撃ち尽くしていた事が、幸いしました。弾薬が爆発して、原型が残ったのは奇跡的です。少佐のご家族を、失機者にしなくて済みますからね。』
そう、本来の『アリオト金剛軍団』指揮官ダライアス・ノードリー少佐は、この惑星をめぐる戦いが始まった直後、戦死していた。ダライアス少佐の駆る90t級強襲メックたるサイクロプスは、乱戦に巻き込まれて獅子奮迅、八面六臂の活躍をしたあげく、集中砲火を浴びて弾薬爆発した。その結果、乗っていたダライアス少佐は致命傷を受け、死亡したのである。『アリオト金剛軍団』がここまで追い詰められたのも、指揮官喪失に原因が無いとは言えない。
クリフ大尉は話を続ける。
『まだ先の話ですが、この惑星を守り通して我が部隊が惑星撤退の暁には、小官が少佐のご家族にご遺骨と、可能であれば修理なった状態のメックをお届けします。お子様がおられませんので、御妹様に大隊長の地位を引き継いでいただかなければなりませんからね。ただ、部隊が維持できれば、ですが……。』
「難しいのかね?」
『残念ながら、わからない、と言うのが現状です。ですが経済的に危険な状況には違いありません。少なくとも、今回の契約が満了できなければ……。契約金が満額支払われなければ、碌な結果は待っていないでしょうね。』
『アリオト金剛軍団』は、1個大隊が稼働メック1個中隊弱になるまで撃ち減らされている。第3中隊などは、5機ものメックが完全破壊されて失われ、残りのメックもメック戦士ごと鹵獲されてしまった。第1中隊も2機が敵に鹵獲され、残りも損傷を負ってメック戦士も負傷者ばかりだ。これでは仮にメックを修理できたとしても、運用する事ができない。
唯一万全に近い第2中隊だが、これは運が良かったからに過ぎない。しかもそれでも1機のメック、よりによって火力小隊小隊長機のサンダーボルトが大きな損傷を受けて、メック戦士も負傷中であった。
これほどまでに大被害を受けた以上、部隊を復旧させるのに必要な費用は莫大な物であろう。また契約条件にもよるが、鹵獲されたメック及び捕虜にされたメック戦士の身代金の支払いが、雇い主ではなく部隊に課せられたりすれば、もう身動きが取れなくなること間違いない。
キースはクリフ大尉に向かい、言葉をかける。
「まあ、とりあえず捕虜を取り終えたら鹵獲メックを城内に運び入れよう。味方の捕虜や鹵獲されたメックよりも敵の捕虜、鹵獲したメックが多ければ、等価交換の様な形で身代金も支払わんでも良いかも知れん。まあその辺は交渉しだいだろうが。」
『はい、ありがとうございます。』
クリフ大尉は、通信用の小スクリーンの中で、キースに向かい頭を下げた。
アル・カサス城の司令執務室にて、キースとクリフ大尉が向かい合っていた。無論、キースの副官ジャスティン少尉も脇に控えている。クリフ大尉がキースに向かって口を開いた。
「ハワード中佐、アル・カサス城及び惑星ソリッドⅢ惑星守備隊の指揮権を、お願いいたします。」
「了解した。指揮権移譲を受ける。」
「ありがとうございます、惑星ソリッドⅢ惑星守備隊新司令官、キース・ハワード中佐。今後、我が『アリオト金剛軍団』も、契約期限の切れる3026年12月28日まで、ハワード中佐の指揮下に入らせていただきます。」
キースは口元だけで笑うと、クリフ大尉に向かって言う。
「ペイジ大尉、大変だとは思うが、可能な限りこき使うからそう思っていてくれ。そうしなければ契約上も体面上も、戦闘報酬をそちらに分配してやれないからな。貴部隊の復興費用を稼ぐ意味もある。そう考えて、頑張ってくれ。
代わりと言っては何だが、うちの部隊の整備兵に、そちらの機体の修理を手伝わせよう。うちの整備兵は優秀だぞ?何せNAIS級の人材がそのトップを張っている。貴部隊の整備兵にも、うちの整備兵から盗める技術は盗み取る様に、言ってやってくれ。」
「了解です。お任せ下さいハワード中佐。我が『アリオト金剛軍団』のためでもあるのです。全力で任に当たらせていただきます。それと整備兵の件、ありがとうございます。凄いですね、NAIS級の人材とは……。
あ、それとハワード中佐。」
クリフ大尉は付け加える様に言う。キースは何事かと片眉を上げた。
「このアル・カサス城に脱出して参られました惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が、指揮権限の委譲が終了しだいハワード中佐に面会を希望しておられます。」
「!!……了解だ。急いで貴賓室へ向かおう。」
結構大事なことだった。キースはクリフ大尉、ジャスティン少尉を従えて、急ぎアル・カサス城の貴賓室へと向かったのである。
『SOTS』の強襲降下による救援がかろうじて間に合い、『アリオト金剛軍団』と惑星ソリッドⅢ、そして惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下の首は、それこそ首の皮一枚で助かりました。でも、これから大変です。そう、これからが大変なのです。