痩身の若い……行っていても30を1つ2つ過ぎた程度だろうか、その様な風体の学者風と言うか書生にしか見えない男性がやつれた笑顔で、敬礼するキースたちを迎えた。周囲にはいかにも執事然とした初老の人物や、強面のSPたちが立っている。そこから察するに、この書生の様な若い男性が、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下と言う可能性が高い。そう言えば、着ている衣服も目立たないが良い物だ。
その男性が疲れた調子で、それでも可能な限り普通に聞こえる様に言葉を発する。
「楽にしてくれていいよ。貴官が救援部隊の司令官、キース・ハワード中佐かい?ああいや、もう指揮権移譲を受けたんだったね。惑星守備隊新司令官、来援を感謝するよ。私がターカッドから、惑星公爵などと言う不相応な地位を頂いている、オスニエル・クウォークだ。」
「公爵閣下、不相応などと……。その様なお言葉、公言は差し控えください。」
「事実だよ、ウィリアム……。」
オスニエル公爵は、諫言する執事らしき人物に向かって言った。キースはこの惑星に『SOTS』が救援に差し向けられる事が分かってから、この惑星の事を急ぎ調べた事がある。その情報の中に、このオスニエル公爵の事も入っていた。オスニエル公爵は先代公爵の3男であり、本来は公爵位を継ぐ人間では無かったのだ。しかしある時、先代公爵と嫡男、2男が事故に巻き込まれて同時に死亡し、彼に公爵位が回って来たのである。
ちなみに彼は気圏戦闘機パイロットの家系で、かつ気圏戦闘機大隊の隊長の家柄でもある。なお、家の気圏戦闘機と隊長の座は、彼の妹が継いでいる。
「私は本当は、のんきに三流学者をやっていたかったんだがね……。妹に後継ぎが出来て、あの娘が気圏戦闘機から降りる日が来るまでは、仕方ないさ。」
「オスニエルさま……。」
「皆だって、武勲や功績から言って、ミシュリーヌの方が公爵に相応しいと噂してるのを、私が知らないとでも思っていたかい?ミシュリーヌを公爵に頂いて、惑星は代官に任せればいい、そうじゃないかい?……いや、所詮繰り言だ。流してくれるとありがたい。」
「……。」
そしてオスニエル公爵は、あらためてキースに向き直る。キースはウィリアム執事の諫言で中断されていた挨拶を再開した。
「自分は、この度惑星ソリッドⅢの惑星守備隊新司令官に就任いたしました、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……略称『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐です公爵閣下。この者は、大隊副官のジャスティン・コールマン少尉です。」
「ジャスティン・コールマン少尉であります!」
「改めて言うけど、楽にしてくれていいよ。コールマン少尉も。さて、ハワード中佐……。そこにいる『アリオト金剛軍団』のペイジ大尉には、もう話したんだけどね……。君に知らせておかなければならない事がある。」
オスニエル公爵は、厳しい顔つきになった。さっきから何だかんだ言っていたが、その迫力から見ると、やはり公爵と言うのは伊達では無い。
「この惑星には、ヘスペラスⅡほどまでと残念ながらいかないが、それでも決して小さいとは言い難い規模の、封印されたバトルメック倉庫がある。」
「「!?」」
キースは何とか驚きを顔に出さずに済んだ。しかしジャスティン少尉はそうは行かず、あからさまに驚愕を面に表わす。
「それは……。秘中の秘、では無いのですか?」
「うん、そうだよ。我が公爵家の、秘中の秘だ。しかし、ね……それをクリタ家の奴らが知っているとあれば、そうも言っていられない。」
「なんですって?」
沈痛な表情を作りながら、オスニエル公爵は語る。
「まず、間違いなく今回の奴らの惑星ソリッドⅢ襲撃の目的は、その倉庫だろうさ。どこからその情報を入手したのやら。公爵家の者から漏れたはずは無いからね、惑星外に古文書なり伝承なり残っていたのかも……。
奴らは、惑星に降下してきたときに、真っ先にここより東にある遺跡の廃墟都市を制圧した。そこにこそ、その封印バトルメック倉庫の入り口があるんだよ。そこに倉庫がある事は極秘だったからね、家臣団の殆どにも教えていないほどの。それ故に、そこには極わずかな兵……選ばれた、特別な兵士でこそあったが、それしか兵力を置いていなかったんだ。」
「それは……。間違いなく、知っていたのでしょうな。そこにメック倉庫がある事を。」
「奴らがメック倉庫の封印を解除できるかどうか分からない。だが、解除できるかも知れない。クリタ家の技術者たちが倉庫の封印を解除する前に、なんとかして都市の遺跡を取り戻して欲しい。」
『アリオト金剛軍団』のクリフ大尉が、説明を付け加える。
「当部隊の偵察兵が確認いたしましたところ、敵は遺跡都市に1個中隊――敵第4中隊と思われます――を置いて、防衛に当たらせている模様です。その編制は後ほど、こちらが知りうる限りの敵メック部隊編制と共にお知らせします。」
「うむ、頼む。」
「はっ!」
そしてキースはオスニエル公爵に向かい、口を開く。
「公爵閣下、一刻も早くその遺跡都市を奪還せんがため、即刻メック部隊及び気圏戦闘機隊の修復を急がせます。修理が完了しだいに、遺跡都市の奪還作戦を発動いたしましょう。」
「そうか……。頼むよ、ハワード中佐。」
オスニエル公爵は、頷いて言った。
今キースはアル・カサス城司令執務室にて、『アリオト金剛軍団』の偵察兵が掴んだり、実際に『アリオト金剛軍団』が戦って得たりした情報について、クリフ大尉から報告を受けていた。もちろん同時に、『SOTS』の気圏戦闘機が行った高高度偵察の結果や、『SOTS』の偵察兵からの情報なども、副官のジャスティン少尉のもとに集積されてキースに報告されている。
「……なるほど。敵は現状、メック部隊1個中隊を遺跡都市に置いて、残りの部隊を北東にあるサンタンジェロ城に置いている、か。」
「我が『SOTS』の攻撃により、1個中隊近い数が破壊もしくは鹵獲されたため、サンタンジェロ城には概算で、1個大隊弱のバトルメック戦力がいる事になります。」
「単純に数では、我が『SOTS』に加えて『アリオト金剛軍団』の第2メック中隊、惑星軍の戦車1個中隊弱があるから、圧倒してはいるが……。城攻めとなると、可能ならば3倍の数が欲しいんだがな。ここアル・カサス城から真北にある惑星首都、ソリッド・シティも敵の制圧下にあるんだったな?」
キースの疑問に、クリフ大尉が答える。
「ええ。当時敵は遺跡都市に一個中隊置き、『アリオト金剛軍団』に対し1個大隊で相対し、大胆にも奪ったばかりの根拠地サンタンジェロ城を空にして、残った半個中隊を首都に差し向けたのです。迎え撃った惑星軍戦車部隊2個中隊と歩兵部隊3個中隊は惨敗し、その一部が公爵閣下を護衛して、ここアル・カサス城へ逃げ延びたわけですね。
その後、敵は歩兵1個中隊を首都に置き、メック部隊はサンタンジェロ城に帰還しました。」
「現状において惑星軍の戦力は?」
「戦車部隊がヴァデット哨戒戦車8輛、コンドル戦車3輛の1個中隊弱、歩兵部隊がライフル装備機械化歩兵1個中隊、マシンガン装備機械化歩兵が2個小隊、レーザー装備機械化歩兵が1個小隊です。」
少し考え、キースは口を開く。
「士気の問題もある。首都をあまり長いこと敵の手に渡しておきたくは無いな。『SOTS』の機甲部隊……戦車中隊を出すから、惑星軍が主力になって首都を奪還してもらおう。いや、『SOTS』からは歩兵部隊も支援に出させよう。」
「サンタンジェロ城から敵がメック戦力を出したなら、どう対処なされるのですか?」
「その際は、メック部隊のうち損傷を負っていないメックだけで、東の遺跡都市を目指す「ふり」だけして見せる。遅かれ早かれその報はやつらに届くだろう。そうすれば、奴らは出したメック部隊を戻して遺跡都市に向かわせねばならん。
奴らにとっては、首都よりも大事な目標であるらしいからな、その遺跡都市は。」
クリフ大尉は頷いた。
「了解しました。」
「……貴隊のメックのうち、メック戦士が負傷していない機体で、稼働不能なほど損傷している機体は無いんだったな?」
「はい、しかし弾薬が尽きていたので、継戦能力は限界に達していました。今回『SOTS』からお貸しいただいた弾薬のおかげで、なんとかなりましたが……。」
「気にしなくていい。いずれ返してもらうからな。となると、後当面はうちのメックとうちの気圏戦闘機の修理がなんとかなれば、本格的に遺跡都市攻略作戦を開始できるな。
……ちょっと、整備棟を見て来るか。」
キースの言葉に、クリフ大尉は驚く。
「わざわざ部隊司令が整備棟に赴きなさるんですか!?報告が聞きたければ相手を呼びつけるべきでは……。」
「ペイジ大尉、中佐は合理的なんです。普段、平時であれば上級整備兵を呼び出したりもします。中佐自身が忙しくて動けない場合も、ですね。ですが、相手が持ち場を離れられないほど忙しい時には、こちらから出向く事も珍しくありません。今は整備兵の時間を1秒たりとも無駄にさせるわけには行きませんからね。」
ジャスティン少尉の台詞に、あんぐりと口を開けるクリフ大尉。キースは卓上の内線電話機を留守電モードにすると、彼に訊ねる。
「ペイジ大尉は、ここで待っているかね?……まあ、部隊ごとのやり方は、それこそ部隊それぞれで違う。あまりうちのやり方に染まらない方が良いかも知れん。」
「あ、いえ!ご一緒させていただきます!」
「了解だ。一緒に来たまえ。」
ジャスティン少尉、クリフ大尉を従えて、キースは司令執務室の扉を出る。彼は扉の外のメッセージボードに「外出中・整備棟」と書き付けて、その場を立ち去った。
整備等へやって来たキースは、サイモン老を探す。果たしてサイモン老は、すぐに見つかる。彼は1人の整備兵に対し、叱りつけるでもなく、懇々と粘り強く、教え諭す様に説教をしていた。
キースはクリフ大尉に目を遣る。
「見覚えが無いな……。と言う事は、あれは『アリオト金剛軍団』の整備兵では?」
「え?は、はい。私の郎党の、専属整備兵です……。」
「あー。そうか、すまんな。あのサイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉……俺の郎党で、うちの部隊の上級整備兵なんだが。少し待つとしようか。サイモン中尉は、整備に関しては絶対に間違った事は言わん。そちら方面に関しては、神様みたいなもんだからな。」
「えっ!?上級整備兵と言う事は……。以前おっしゃっておられた、NAIS級人材ですか!?」
「うむ。」
やがてサイモン老は『アリオト金剛軍団』の整備兵を解放すると、キースに気付いた。彼は敬礼をする。キース、ジャスティン少尉、クリフ大尉も答礼を行う。サイモン老はキースたちの方へ歩いて来た。
「ぼっ……隊長!どうしましたかの、こんな場所まで?」
「各メック及び気圏戦闘機の修理状況を聞きに来たんだ。」
「そうですかの。了解ですわ。それでは、まずはメックから……。」
サイモン老は、各メック、各気圏戦闘機の損傷の度合いと修復状況を解りやすく説明して行く。キースは頷いた。
「なるほど、となると現時点でメック戦士が負傷のため動けないメックは置いておくとして、それ以外のメック、気圏戦闘機による全力出撃が可能になるのは、6日後なんだな?」
「はい。『アリオト金剛軍団』の第2中隊火力小隊小隊長機であるサンダーボルト、これがちょっと厄介でしてな。ですがメック戦士であるフランクリン・チャイルズ中尉が、軍医キャスリン軍曹の見立てでは4日後には退院できるそうですからのう。なんとか乗機も直さねばならんと、頑張っておるところですわ。」
「そうか。……ところで、先ほどの整備兵を説教していたのは?」
それを訊かれたサイモン老は、溜息を吐く。
「ふぅ……。まあ、仕方ないんですがのう。あの整備兵は、愛用しておったレンチが折れて、もう駄目だと凹んでしまっておったんですわ。レンチなんて、ナンバーが合えばどれでも同じなんですがのう……。
当人は、そのレンチが何やら神秘的な力が宿っていると信じている様でしての。そのレンチならば、どんな修理も上手く行く、そのレンチで無くば、どんな簡単な修理も不可能だと……。」
「あー、そうか……。はぁ……。」
キースも思わず溜息を吐く。彼は内心で思った。
(そっか……。サイモン爺さんの様な卓越した技術者が身近にいるんで、すっかり忘れてたや……。この時代の技術者って、そんなもんだっけなあ……。)
「そんで、わしが他の普通のレンチで『アリオト金剛軍団』のマローダーの問題個所を修理して、動作確認できちんと動作するところを見せてやったんですがのう。今度はそのレンチが以前のレンチを超越した神秘の力を秘めていると思い込みましてな。なんとか譲ってくれと……。
レンチセットは譲ってやりましたがの、奴のレンチが折れて無くなってるのは確かなんですし。ですが機械が直るのはレンチではなく、奴の技量によればこそだ、と言い諭しておったんですわい。」
「そ、それはもしや、私のマローダーの事かね!?」
泡を食った様子で、サイモン老に訊ねるクリフ大尉。サイモン老は頷いて言った。
「クリフ・ペイジ大尉でしたな?大尉のマローダー、右腕の粒子ビーム砲が発射不能だったのは直ってますわい。それと右脚の放熱器2基、調子が悪かったのは接続の不具合でしたでのう。きちんと接続したから、もう大丈夫ですわ。それと頭部装甲、装甲板再成型のミスで弱ってましたんで、新しい装甲板に付け替えておきましたでの。」
(あー……。不完全修理って奴か。うちの部隊では、まず起きないからなあ。サイモン爺さんがいるから。)
「た、試してみて良いかね!?」
「どうぞどうぞ。」
クリフ大尉は、慌てた様子でキースに許可を求める。
「ちゅ、中佐!ハワード中佐!自分のマローダーの具合を試してみて、よろしいでしょうか!?」
「行ってきたまえ、ペイジ大尉。終わったら、司令執務室に戻ってきてくれよ?先に俺とジャスティン少尉は戻っているから。」
「は、はいっ!!」
クリフ大尉は衣服の襟元を緩めながら、自分のマローダーの方へすっ飛んで行った。『アリオト金剛軍団』にも、冷却チョッキや冷却パイロットスーツを持っているブルジョアは存在しない。ちなみに捕虜にした『第25ラサルハグ連隊C大隊』のメック戦士たちは、流石にドラコ連合軍の正規軍だけあって、全員が冷却パイロットスーツを着用していた。キースらはちょっとだけ殺意が湧いたらしい。
何はともあれキースとジャスティン少尉は、背後で動き始めた焦げ茶色のマローダーを尻目に、司令執務室へと帰って行った。
今、キース達はアル・カサス城の指令室で、惑星軍が主力となっている首都解放部隊からの報告を待っていた。と、そこへ別口の報告が入る。オペレーターの1人が、キースに向かって言った。
「ハワード中佐、サンタンジェロ城を監視中のノーランド軍曹以下3名より定時連絡です。」
「司令席に回線を回せ。……ネイサン軍曹か?」
『はい、隊長。現在サンタンジェロ城には動きはありませんな。』
キースは内心、安堵する。彼はネイサン軍曹に向け、命じる。
「そうか、監視を続けてくれ。ただし発見されたなら、機材を放棄しても良いからとっとと逃げろよ?」
『了解です。以上、交信終わり。』
通信回線を閉じると、キースは椅子の背もたれに寄りかかる。キースの巨体を受け止めて、背もたれがギリギリと悲鳴を上げた。キースは内心慌てて自分の重心の位置をずらす。
と、そこへヒューバート大尉が声を掛けて来る。
「首都を押さえている歩兵部隊からは、サンタンジェロ城には連絡が行ってないんでしょうか?」
「そんなはずはあるまい。こちらの首都解放部隊は、姿を隠したりしてないんだ。堂々と進軍している。……まあ、市街戦を避けるためなんだがな。」
「相手がアレス条約を守る相手なら、出戦に応じるか、あるいは市街戦を避けて撤退するわね。首都に立て籠もられたらどうしますか?」
アーリン大尉の言葉に、キースは答えた。
「その時は、戦車部隊で首都を包囲下に置いて、歩兵で掃討戦を行うしかない。メックや戦車だと、民間目標を避けて軍事目標だけを攻撃するのは、不可能に近いからな。だが戦力に大差があるから、よほど無様をしなければなんとかなるだろう。その辺は、『SOTS』のエリオット大尉がいるからな。心配はしていないんだ。」
「万一敵がメックを隠し持っていたら?」
「その時は、一目散に逃げろと伝えてある。だがそれについても、さほど心配していないんだ。『アリオト金剛軍団』の偵察兵の技量は確かだ。あの重囲を抜けて深宇宙通信施設まで出向き、うちの航宙艦までデータ通信を届けるぐらいだからな。その目を掻い潜ってメックを隠し持つことは難しいだろう。」
ヒューバート大尉が冗談半分に言う。
「偵察兵不足の『SOTS』に引き抜きたいぐらいですね。うちは能力的には極めて高いですが、残念ながら数が少ないですからねえ。」
「そ、それはご勘弁願います!」
「安心したまえペイジ大尉。ヒューバート大尉、ペイジ大尉の前で冗談が過ぎるぞ。」
「失礼した、ペイジ大尉。無論冗談だ、ご寛恕願いたい。」
クリフ大尉は安堵の息を吐き、ヒューバート大尉は彼に見えない角度でにやりと笑う。おそらくは半分は冗談であろうが、半分は本気だったのではないだろうか。
その時、オペレーターが叫ぶ様に言った。
「ハワード中佐!首都攻略中のエリオット大尉から連絡が入って……。」
「司令席に回線を回せ!」
「りょ、了解!」
司令卓備え付けの通信設備より、エリオット大尉の声が聞こえて来る。
『キース中佐、首都を占拠しておりました敵歩兵部隊は、現在首都を放棄して撤退中です。こちらが攻撃態勢に入るより前に、です。惑星軍戦車部隊指揮官は追撃をかけたがっておりますが……。』
「いや、それは許可できんと、そう伝えるんだ。俺は惑星公爵閣下より、惑星軍に対する命令権も預かっている。万一追い詰め過ぎて、バンザイ突撃などで惑星軍にとって貴重な戦車を失っては、目も当てられん。ドラコ歩兵を甘く見るな。首都を無血で解放できただけで、満足しておくんだ。
ああ、それと敵の置き土産には注意を払う様に。ブービートラップなぞに引っ掛かっては、たまらん。それと撤退する敵歩兵部隊を、そちらに随伴させていたフェレット偵察ヘリコプター、アレクセイ伍長に追跡させて、行先を突き止めさせてくれ。ただし攻撃を受けそうであれば、さっさと逃げ帰る様に伝えておく様に。」
『了解です。これより首都ソリッド・シティに部隊を展開いたします。交信終わり。』
エリオット大尉との交信を終えたキースは、オペレーターに命令を下す。
「サンタンジェロ城を監視中のネイサン軍曹に回線を繋げ。」
「了解です!少しお待ちください。……繋がりました、司令席に回線を回します。」
「ネイサン軍曹。聞こえるか?」
ネイサン軍曹の声が、司令卓の通信設備から響く。
『こちらネイサン軍曹です。隊長、何かありましたか?先ほど定時連絡をしたばかりだと言うのに。』
「済まんな。そちらのサンタンジェロ城には未だ動きは無いか?」
『まったくありませんな。静かなもんです。ああいや、メックを修理したりしている音は、集音機で拾えてますけどね。』
敵の拠点となっているサンタンジェロ城には、まったく動きが無いと言う。キースは呟く様に言葉を紡ぐ。
「そうか……。まったく動きが無いと言う事は、本気で首都は諦めたか?監視は継続してくれ。」
『了解です。』
「頼んだ。交信終わり。」
ケネス大尉がキースに質問して来る。
「敵の目的は、戦力の保全と回復でしょうか?あえて首都ソリッド・シティを放棄してまで戦闘を避けたと言う事は。損傷機も一生懸命に修理している様ですし。」
「決めつけるのは危険だが、その可能性が高いと俺も思う。ただ……。」
キースはここで声を低める。遺跡都市のバトルメック倉庫の事は、中隊長クラスの部隊幹部や大隊副官の様な要職にある者にこそ開示する許可は貰っているが、それ以外に対しては未だ秘密なのだ。
「ただ例のモノの調査と発掘に必要な時間を稼ぎたいと言う可能性も、除外するわけにはいかんがな。その時間稼ぎに使うために、戦力を保全したいのだろう……。」
「「「「!!」」」」
ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉、そしてクリフ大尉が表情を厳しくする。キースは声のボリュームを元の大きさに戻して、彼らに向かい言った。
「何にせよ、こちらの方針は変わらない。連盟標準時で明後日、3026年11月2日に再度の反攻作戦を開始する。」
「「「「了解!!」」」」
「ペイジ大尉、貴官の中隊の火力小隊小隊長、フランクリン・チャイルズ中尉の負傷はどうか?」
クリフ大尉は力強く頷いて答える。
「はっ!おかげ様をもちまして、作戦への参加は可能であります!」
「うむ。病み上がりだ、あまり無理はさせない様に気を付けてやってくれ。」
「はっ!了解です!」
その後、しばらくして首都に敵勢力が残っていない事が判明した。またフェレット偵察ヘリコプターで追跡させた敵歩兵部隊は、サンタンジェロ城の方角へ向かった事が確認される。まあ、途中でフェレット偵察ヘリコプターの燃料が怪しくなったので、首都ソリッド・シティへと帰還させたのだが。
こうして首都ソリッド・シティの解放は成った。ただし首都には惑星軍の戦車部隊と歩兵部隊だけを置いて、『SOTS』の戦車中隊と歩兵中隊はアル・カサス城へ帰還させる。惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、早速首都の邸宅に帰還し、テレビ演説を行って市民を慰撫した。テレビ演説を見つつ、キースは溜息交じりに口を開く。
「ふうむ……。立派な公爵閣下だと思うのだがね。」
「自分もそう思いますが……。何分、武勲が無いのが内外から問題視されている様でして。」
クリフ大尉も眉を顰めつつ、言葉を発した。それに応える形で、再度キースが言う。
「ご自分で三流学者と言っておられたが……この方の書かれた、星間連盟時代の植物学や農学を研究した学術論文は、かなりの評価を得ているんだがなあ。その論文により、とある惑星では飢えから救われた者も多い。下手な武勲よりも、よほど価値がある。
それになあ……。領地を統治し、運営し、経営する能力は、武勲とは関係ないんだがな。妹様を公爵に押したところで、妹様やその代官が、この方ほどに上手く惑星を治めていけるかどうか。今回は運悪くドラコ連合の侵略に遭ったが……。
ま、俺が言ったところで、仕方ないか。」
キースは口元に小さく苦笑を浮かべる。彼は頭を振りつつ、テレビ演説が終わったスクリーンのスイッチを切る。
「さて、それでは作戦会議だ。各員、言いたい事を言って構わない。俺は貴官らの知恵を必要としている。荒唐無稽なアイディアとて構わんから、遠慮なしに発言しろ。」
キースの台詞に、その場にいた『SOTS』士官たちと、クリフ大尉を始めとする『アリオト金剛軍団』の士官たちが、一斉に頷きを返した。
いよいよ逆襲開始です。手始めに、惑星首都を奪回しました。そして……。
この惑星には、なんとバトルメックの倉庫が!!敵はそれを狙って攻勢を!!
『SOTS』、『アリオト金剛軍団』を従えて、戦いに挑む!
でもまずは、作戦会議~。