道程の途中で1回仮眠と食事のための休憩を挟んで、キースたち『SOTS』第1、第3、第4中隊とそれに随伴する車輛群は行軍を続けていた。キースは外部スピーカーを繋ぎ、指揮車輛のジャスティン少尉に問いかける。何故外部スピーカーを使うかと言うと、無線封鎖しているからだ。もっと用心するのであれば、メックのハンドサインで済ませるところなのだが、掌が無いマローダーではあまり複雑なハンドサインは送れない。
「ジャスティン少尉、指揮車輛の通信装置であれば、そろそろネイサン軍曹が発信しているであろう、敵の居場所の報告を受信できないか?」
『はい、いいえ先ほどから試みてはいるのですが……。車載タイプや野戦用据え置きタイプであればともかく、スキマーのネイサン軍曹が持っている手持ちタイプの小型通信機の出力では、ノイズに紛れてしまい拾う事はできません。』
「そうか……。拾えたら、報告してくれ。」
同じく外部スピーカーで返してくるジャスティン少尉の返答に、キースは眉を顰めながら応える。彼は自分を慰める様に、内心で呟いた。
(……何にせよ、敵にオストスカウトが無くて良かったよな。もし奴らがオストスカウトを持っていたら、ネイサン軍曹が発見されてしまっただろうからなー。)
キースたちは出せる最大限の速度、64.8km/hでバトルメックを走行させる。これは大半の重量級メックの、普通の状態での最高速度だ。中量級のグリフィンやウルバリーン、シャドウホークであれば86.4km/h、フェニックスホークであれば97.2km/hまで出すことができる。またキースら第1中隊指揮小隊の操縦技量をもってすれば、動きの鈍い重量級メックでも全力疾走状態に置くことにより、86.4km/hでの移動が可能だ。
しかし機体を全力疾走の状態に置いて確実にコントロール可能な腕前を持つのは、第1中隊指揮小隊ぐらいであり、他の大半の重量級や強襲メックはそれに付いてこられない。正確にはアーリン大尉など、どうにかこうにか可能な技量の者もいることはいるが、流石に安定して全力疾走を維持できるとは言い難い。それ故に、部隊として出せる最大の速度が64.8km/hなのである。
だが遺跡都市を目指している敵の主力部隊は、その存在を隠蔽しているつもりであるため、より一層動きが鈍い。まず間違いなく追い付く事ができるはずと、キースは予想していた。そしてその予想は、外れることは無かった。指揮車輛のジャスティン少尉が外部スピーカーで叫ぶ。
『キース中佐!ネイサン軍曹よりの報告を受信しました!『敵集団現在地XA-445地点、SSE方向へ21.6km/hで移動中。』との事です!』
「進行方向を11時方向に変更!」
キースも外部スピーカーで指示を下した。彼は考えを纏める。
(予定していたXA-447地点より手前の、XA-446地点で会敵になりそうだな。となればそろそろこの辺で、スナイパー砲車輛、指揮車輛、歩兵たちの兵員輸送車は待機させておくべきだろうなあ。)
そしてキースは再度外部スピーカーで命令を叫ぶ。
「車輛群はここで停止!指示を待て!メック部隊はそのまま前進を続けろ!第1中隊偵察小隊ヤコフ少尉、索敵に集中せよ!」
『『『『『『了解!』』』』』』
その後しばらく、無言での進軍が続く。だがヤコフ少尉の声が、彼のオストスカウトの外部スピーカーから響いて来た。
『……発見しました!目標XA-446地点!IR偽装網のおかげで、動いてさえいなければこの機体でも見つけるのは難しかったでしょうが、のろのろとは言え動いていますからね。なんとか発見できました。
それと……。センサーのレンジぎりぎりに、『SOTS』第2中隊のバトルメックが引っ掛かりました!こちらの部隊の会敵後、10分以内に現地到着する模様です。』
更にキースのマローダーの通信回線に、ネイサン軍曹の声が飛び込んで来る。
『敵集団現在地XA-446地点、SSE方向へ21.6km/hで移動中。』
ネイサン軍曹は送信を最低限に切り上げて、通信を終える。傍受され、発見される可能性をわずかでも減らすためだ。ここでキースは決断する。
「もういい頃合いだ、無線封鎖解除!指揮車輛ジャスティン少尉、アル・カサス城に『SOTS』気圏戦闘機隊の出撃命令を出せ!目標地点はマップ上のXA-446地点!」
『こちらジャスティン少尉、了解!』
そしてキースは、第2中隊の中隊長機であるオリオンとの間に通信回線のリンクが成立している事を確認すると、声を張り上げる。マローダーの通信装置でも、この距離まで近づけば充分に通信が可能なのだ。
「第2中隊ヒューバート大尉、聞こえるか!?」
『こちらヒューバート大尉、感度良好です。』
「移動速度を少しばかり上げてくれ。敵の移動速度が予定よりちょっとばかり遅かった。今のままでは、挟撃ではなく逐次投入になる。戦場はXA-446地点だ。」
『了解です。第2中隊、XA-446地点へ急ぎます。』
キースは続けて、現場で偵察中のネイサン軍曹に通信を送る。
「ネイサン軍曹!こちらでも敵集団を確認した!現場を離脱し、XA-434地点の味方車輛群と合流してくれ!」
『こちらネイサン軍曹です、了解しました。』
にやりと獰猛な笑みを浮かべつつ、キースはマローダーを走らせた。
やがて緑色をしたIR偽装網をかぶったメックの隊列が、キースたちの視界に入って来る。キースらはメックを走らせながら、既に隊列を整えていた。万全、否、鉄壁の構えである。敵は泡を食ってIR偽装網を脱ぎ捨て始めた。
前衛にバトルマスター、ウォーハンマー、サンダーボルト、ウルバリーン、ハンチバック等を置き、中衛にグリフィン、シャドウホーク、エンフォーサー、ヴィンディケイターを並べる。マローダー、アーチャー、クルセイダー、ライフルマンは後衛で、フェニックスホークとD型フェニックスホークは遊撃だ。ちなみにオストスカウトは、後衛の更に後ろでセンサー担当として、キースのマローダーに情報を送っている。
キースはサイモン老のスナイパー砲車輛に回線を繋ぐ。
「サイモン中尉。XA-446-56に一撃頼む。風向はW、風力は3単位。その次はそこよりNに150mの位置に砲撃だ。
さて、気圏戦闘機隊がやって来る前に、敵のライフルマン2機を潰しておくぞ?第1中隊指揮小隊は向かって右の、それ以外で当たり目がありそうだと思った者は左のライフルマンを狙え。次点の目標はドラゴン3機だ。中口径オートキャノン搭載機を真っ先に潰して、気圏戦闘機の安全度を上げておく。ライフルマンを狙っても当たりそうにない奴は、ドラゴンのどれかを狙え。では射撃用意……撃て!!」
2機の敵ライフルマンは、一瞬でずたずたになって腕や脚を失い、大地に倒れ伏す。それでも必死で応射したが、前衛に立つバトルマスターやサンダーボルトと言う分厚い壁には、いかほどの事も無かった。
一方の敵ドラゴン3機は、散発的な攻撃を受けただけだったが、運悪く1機が損傷が直り切っていなかった左脚に直撃を受けてその脚が崩壊し、これも大地に倒れる。優秀な遠距離兵装を持つドラゴンからの応射は、後衛にいるキース機を狙って来た。おそらくはこれまでの戦闘で、キースが指揮官だと目星を付けていたのだろう。しかし距離がありすぎたのと、キース機の機動回避によって、命中弾は無かった。
他の敵機は必死で陣形を立て直そうとするついでに、散発的に攻撃を仕掛けて来た。だがほとんどまぐれ当たり的に、アマデオ軍曹のシャドウホークが左腕に、敵のK型シャドウホークの粒子ビーム砲を浴びた他は、ダメージらしいダメージは無かった。
キースは自分の機体を近場にある小高い丘に登らせようか、と一瞬考える。だが彼はその考えをすぐ放棄した。高地に登る事には、ここら辺一帯すべてに対して射線が通る、と言う意味がある。そして着弾観測をするには、目標地点に対して射線が通っている必要があるのだ。着弾観測員としてのキースにしてみれば、是非とも登りたいところである。
だがしかし、今回長距離兵器を持つメックがキース機を狙って来た。明らかに、キース機を指揮官機と認識しての行為だ。他にも狙いやすいメックはたくさんあると言うのに、キース機をわざわざ狙って来たからには、間違いはないだろう。敵にアーチャーやK型アーチャー、クルセイダー、K型クルセイダーなどの、長射程を誇る長距離ミサイル発射筒を備えたメックが数多く残っている状況で丘陵に登れば、目立ってしまい集中砲火を受けるだろう。
ふとキースは、敵K型アーチャーの1機がうかつにも、自機やアンドリュー曹長機から見て部分遮蔽になる位置にいる事に気付く。敵は以前の戦いでの惨状にこりて、可能な限りこちらの機体から部分遮蔽にならない位置取りをしていた。だが今、敵K型アーチャーはうっかりと、よりにもよって一番射撃技量が高い2人から部分遮蔽になる位置にいたのだ。
「アンドリュー曹長、左のK型アーチャーだ。ありがたく頂こう。」
『おう、隊長!』
「サイモン中尉、次はさっきの位置からS方向に90m地点に砲撃を頼む。他の者は生き残ったドラゴン2機を優先して、叩きやすい敵を叩け。だがあまり欲張るな。相手の後ろから第2中隊が襲い掛かるまでは、慎重に行け。」
『『『『『『了解!』』』』』』
キースとアンドリュー曹長の機体から発した射線が、敵K型アーチャーの上半身を滅多打ちにする。敵K型アーチャーは、キースの粒子ビーム砲に頭部を貫かれ、メック戦士を焼かれて動きを止めた。だが鼬の最後っ屁か、その敵K型アーチャーの放った15連長距離ミサイルがキースのマローダーに降り注ぐ。9本のミサイルがマローダーの右腕と左腕に命中し、装甲板を0.5tと少しばかり削った。
ほぼ同時に、前衛の更に一番前に立っていた、アーリン大尉のバトルマスターとマテュー少尉のサンダーボルトが、各々敵のドラゴン2機にレーザーを放ちながら格闘戦を挑む。先ほどの交戦で傷ついていた敵ドラゴン2機は、1機が右胴の装甲を突き破られ、中口径オートキャノンの弾薬に引火して爆散、もう1機がバトルマスターに左脚を蹴り潰されて地面に倒れた。相手の反撃は、バトルマスターとサンダーボルトの絶望的なほどに厚い装甲に阻まれて、なんら効果を上げていない。
遊撃に回っていたフェニックスホーク達が、前に出て来た敵ジェンナー3機を袋叩きにして爆散あるいは行動不能にさせる。ジーン中尉のグリフィンが、敵パンサーの脚を撃ち抜いて転倒させる。アーチャー2機とクルセイダーが、粒子ビーム砲の届かない位置から敵のウォーハンマー2機に長距離ミサイルの雨を降らせる。いずれも味方の損害は軽微だ。
ここでキース機の通信回線に、軽いお調子者だが信頼できる仲間の声が入る。
『隊長!来たっすよ!『SOTS』気圏戦闘機隊、アロー中隊6機、ビートル中隊6機、ただいま参上っす!』
「待っていたぞ、マイク中尉!目障りなライフルマンを始め、中口径オートキャノン装備機は潰してある!アロー中隊は各個にその最大口径オートキャノンで、弱った獲物を狩ってくれ!ビートル中隊は地上掃射!目標は任せる!」
『了解っす!アロー中隊ブレイク!各個に敵を狩れ!ビートル中隊はトレールを組んで、敵陣後衛に地上掃射を繰り返せ!
いいいやああぁぁっほおおおぉぉぉ!!』
マイク少尉のライトニング戦闘機が、敵に2機あるサンダーボルトのうち、損傷が目立つ方に最大口径オートキャノンの一撃を叩き込む。敵のサンダーボルトは応射するが、気圏戦闘機の速さに命中させられない。なんとマイク中尉機のその一撃は、敵サンダーボルトの頭に中り吹き飛ばした。敵メック戦士の脱出は確認できない。他のアロー中隊機も、各個に敵を撃ち崩している。
そして敵後衛に固まっていた、アーチャーやK型アーチャー、クルセイダー、K型クルセイダー、グリフィン等支援を得意とするメックの群れに、ヘルガ中尉率いるビートル中隊が一直線に並んで地上掃射を行う。応射でビートル4、ビートル6が損傷した。だが相手はそれ以上に大ダメージを負っている。特にアーチャーは、片脚を折り取られてひっくり返った。
『こちらヘルガ中尉。ビートル4とビートル6が損傷。離脱させたく。』
「了解だ。ビートル4とビートル6、離脱しろ!以後は上空にて監視に移れ!」
『『了解!!』』
キースの命令に従い、ビートル4とビートル6がいったん空域を離脱してから、はるか上昇してここの上空に戻って来る。と、ここでサイモン老の撃ったスナイパー砲の第1射が降り注いだ。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
この一撃は、今しがた地上掃射を受けた敵支援メックのど真ん中に落着する。敵のK型アーチャーとクルセイダーが1機ずつ、大地に倒れ伏した。K型アーチャーは胴の真ん中の装甲板を吹き飛ばされて、ジャイロを破壊された模様だ。一方クルセイダーは、右脚を根元から吹き飛ばされている。
気圏戦闘機隊の参加で、戦力比は大きく『SOTS』側に傾いた。もはや逆転することは不可能だと踏んだのであろう、敵部隊……『第25ラサルハグ連隊C大隊』は、できる限り整然と後退を試みる。だがその後ろから、幾条もの火線が彼らに突き刺さった。最後尾にいた支援機たちが、その餌食になる。ある機体は弾薬に火が回り爆散、ある機体はジャイロに大ダメージを受けて転倒し立ち上がれなくなり、ある機体は両腕両脚を吹き飛ばされて達磨になった。
『パーティーには間に合いましたかね?キース中佐。』
「絶妙なタイミングで間に合ったぞ、ヒューバート大尉。」
そう、ヒューバート大尉の第2中隊が参戦したのだ。キースは考える。
(乱戦気味になってきてるから、これから先はスナイパー砲を砲撃するのは危ないな。今撃ち終わった残り2発で終わりにしておこう。)
『キース中佐?』
「ヒューバート大尉、スナイパー砲の砲弾が落ちて来るから、あと20秒突入は待ってくれ。……撃たなければ、勝負をここで決められたかも知れんな。」
『いや、うちの第2中隊がいつ到着するか、正確なタイミングは分からなかったんです。おおよその時刻は分かっても。仕方ないでしょう。』
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
言っているうちに、2発目の砲弾が降り注いだ。それは味方の後退を支援するために高地に登っていた、敵ウォーハンマーに直撃する。その機体は、慌てて高地を降りて来た。そこへキースのマローダーとアンドリュー曹長のライフルマン、そしてエリーザ曹長のウォーハンマーからも砲撃が集中する。この機体は、全身の装甲板を綺麗に剥がされた。だが未だ立って動いている。
キースは嘆息する。
「どこで読んだんだったかな……。メックは壊れるのは簡単だが、壊すのは難しい、って……。」
『言い得て妙ですね。でも、これで終わりです。』
アーリン大尉のバトルマスターが、裸になった敵ウォーハンマーの脚を蹴り折った。反撃で胴装備武器の一斉発射を食らったが、さすがバトルマスターと言うところを見せて、耐えきった。だが戦闘開始時点から、彼女のバトルマスターとマテュー少尉のサンダーボルトは、『SOTS』が受ける被害のほとんどを肩代わりしている。そろそろさすがに装甲が危うかった。
キースは叫ぶ様に指示を出す。
「アーリン大尉。マテュー少尉、下がれ!イヴリン軍曹、ヴェラ軍曹、2人と交代して前に立つんだ!できるな!?」
『『了解!!』』
『了解です、やれます!』
『自分もできます!』
2人のサンダーボルトが、最前衛に立つ。そしてそのすぐ後ろに続いていたジョシュア少尉のハンチバックの最大口径オートキャノンが火を噴いた。敵K型ウルバリーンの1機が大地に沈む。もう1機の敵K型ウルバリーンも、エリーザ曹長とリシャール少尉の2機のウォーハンマーより胴装備武器の一斉発射を受けて、四肢をすべてもぎ取られ、地面に転がった。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
3射目のスナイパー砲砲弾が落着する。敵のK型シャドウホーク3機を綺麗に巻き込んで着弾したその砲撃は、敵の装甲板を容赦なく削り取った。一旦飛びぬけて旋回した、アロー各機とビートル残り4機の気圏戦闘機隊が戻って来る。敵バトルメックたちは、整然とした退却ではなく、とうとう算を乱して逃げに入った。その最後尾には敵指揮官機と見ゆるサンダーボルトが、味方を逃がすべく必死で応戦している。キースは、そのサンダーボルトに狙いを定めた。
と、照準の中へ敵のグランドドラゴンが割り込んで来る。何やら揉めていた様だが、やがて敵のサンダーボルトは、グランドドラゴンに位置を譲り、背を向けて逃走に入った。敵グランドドラゴンはただ1機残り、脇を通り抜けようとする遊撃のフェニックスホークの群れに粒子ビーム砲や10連長距離ミサイルを放って牽制する。
(あー、死兵となって指揮官を逃がす気か……。だが、なんと言うか……位置取りが絶妙だな。あのグランドドラゴンを放っておいて敵を追いたいのは山々なんだけど、そう言うわけにも行かないなあ。貴重なグランドドラゴンを与えられるだけあって、技量も確かだよ。参ったね、これは。)
キースは内心で愚痴る。だが彼はすぐに気を取り直し、気圏戦闘機隊に命じた。
「気圏戦闘機隊マイク中尉!逃走する敵を追撃しろ!ただし推進剤が危うい機体や敵の応射で打撃を受けた機体は即座に離脱させるんだ!」
『マイク中尉、了解っす!野郎ども、それにお嬢さん方!これより敵を追撃するっすよ!』
『『『『『『了解!!』』』』』』
上空を気圏戦闘機が編隊を組んで飛び過ぎる。敵グランドドラゴンは、少しでもそれを妨害しようと、粒子ビーム砲と長距離ミサイル、中口径レーザーを必死に撃ち上げた。そのグランドドラゴンに、キースたち『SOTS』メック部隊の砲火が集中する。
「『SOTS』全機、目標グランドドラゴン!斉射開始!」
『『『『『『了解!』』』』』』
敵グランドドラゴンは火達磨になった。だがしかし乗り手の執念が乗り移ったか、そのグランドドラゴンはほぼ全ての装甲を引き剥がされ、内部構造にもいくらかのダメージを負いつつ、それでも立ち尽くして粒子ビームを発砲して来る。業を煮やしたエリーザ曹長のウォーハンマーが駆け寄って、その戦鎚の様な両腕で頭部を叩き潰した。メック戦士は脱出せず、機体は頽れる。
キースは後方の指揮車輛に回線を繋ぐ。
「ジャスティン少尉、気圏戦闘機隊との回線を中継しろ。」
『了解!……繋がりました!』
「気圏戦闘機隊、マイク中尉。追撃の結果を報告せよ。」
マイク中尉の悔し気な声が入電する。
『こちらマイク中尉。追い付いて追撃を加えて、2機ばかり擱座させたっすけど……。そこで推進剤が危なくなって、残りの敵機には逃げられたっす。最初に被弾して高高度よりの監視任務に移ったビートル4、ビートル6の報告では、奴らサンタンジェロ城に逃げ帰るみたいっすね。』
「ふむ、となると……。残敵の数は1個中隊規模か。……。」
『キース中佐!敵別働隊を攻撃していた『アリオト金剛軍団』より入電です!『当方、敵別働隊を撃滅。敵メックの半数を鹵獲し、当方の損害は軽微。残敵はサンタンジェロ城へ逃走中。』との事です!』
ジャスティン少尉からの報告に、キースはしばし考える。そして彼は重要な決定を下す。
「マイク中尉。ビートル6のみを監視に残し、他の気圏戦闘機はアル・カサス城に帰還して推進剤の補給と、損傷機は修理を受けろ。そしてアロー中隊機は通常装備で、ビートル中隊機は爆装させて再出撃だ。目標はサンタンジェロ城。ただし陸上部隊の準備が整うまでは、対空砲火の届かない超高空で、推進剤を極力使わない低速巡航で待機。その時点でビートル6は帰還させ、修理と爆装の上、再度出撃し本隊と合流だ。」
『了解っす!……このままサンタンジェロ城を攻めるおつもりで?』
「うむ。敵戦力は低下している。この機を逃して敵メックが修理されてしまうと、敵は増援が来るまで籠城で持ちこたえるやも知れん。だが今ここで敵戦力を撃破してしまえれば、クリタ家も増援を送り込むのには躊躇するだろうよ。再度攻め込んで来るにしても、それは万全の準備を整えてからで、それには時間がかかる。
……ジャスティン少尉、アル・カサス城へ回線を中継してくれ。」
『はっ!了解です。』
キースはアル・カサス城の指令室に、指揮車輛の通信装置を介して通信を繋ぐ。今アル・カサス城の指令室は、メック部隊や気圏戦闘機隊が全て出撃しているため、『SOTS』機甲部隊戦車中隊指揮官であるイスマエル・ミラン大尉待遇中尉が預かっている。
「イスマエル中尉、こちらキース・ハワード中佐。ミン・ハオサン博士の部屋に繋いでくれ。」
『こちらイスマエル中尉、了解しました。オペレーター、中佐からの回線をハオサン博士の部屋に繋ぐんだ。』
わずかな時間の後、『SOTS』の誇る惑星学者、ミン・ハオサン博士が通信に出る。
『こちら、ミン・ハオサン。中佐、何か御用かね?』
「ハオサン博士、作戦上の事で至急お聞きしたい事がある。地下の構造が岩盤質の平地は、サンタンジェロ城近郊に何処か無いかね?降下船を降ろしたいのだが。」
『少し待っていてくれたまえ。……XC-236地点に1つ、XC-239地点に1つあるね。』
「……XC-236地点だと、敵の城からのスナイパー砲が届いてしまうな。XC-239地点ならば相手からは攻撃不能な上に、フォートレス級ディファイアント号のロングトムⅢがぎりぎり届く。そちらにしよう。ありがとう、ハオサン博士。では。」
『いやいや、かまわんとも。では無事でな、中佐。』
キースは再び、指令室のイスマエル中尉に回線を戻す。
「指令室、イスマエル中尉。推進剤の確保は惑星公爵閣下がお約束くださっている。手持ちのなけなしの推進剤に手を付けることになるが、フォートレス級ディファイアント号をXC-239地点の平地まで発進させてくれ。バトルメックの整備拠点、および間接砲の砲台として使用する。装甲板と弾薬を、大量に積み込むのを忘れん様にしてくれ。整備兵と助整兵も乗せる様に。
それと、貴官が指揮する機甲部隊戦車中隊も、それに同乗して来てもらうぞ?今回は『SOTS』の全力で当たる。無論、『アリオト金剛軍団』にも働いてもらう。」
『了解です。我々が出撃中、ここの指令室はいかがいたしましょうや?』
「レパード級ヴァリアント号のカイル船長に頼むとしよう。以上、交信終わり。」
そしてキースは、指揮車輛のジャスティン少尉へもう2つばかり命令を出した。
「ジャスティン少尉、第1、第5、第6歩兵小隊に俺の命令を伝達してくれ。ここに来て、擱座させた敵バトルメックのメック戦士を捕虜に取ってもらう。その後、『SOTS』メック部隊は戦利品の回収をせずに放置してサンタンジェロ城に向かうので、第5歩兵小隊にはこの場の、第6歩兵小隊には少し離れた場所にて擱座している2機の敵バトルメックの警備をしてもらう。第1歩兵小隊は、捕虜をアル・カサス城まで護送してもらおう。ああ、指揮車輛とスナイパー砲車輛は、勿論メック部隊に随伴してもらうぞ。
それと、『アリオト金剛軍団』残敵指揮官、クリフ・ペイジ大尉のマローダーに、向こうに随伴させたスィフトウィンド偵察車輌を介して回線を繋いでくれ。」
『はっ!了解です。少々お待ちください……。繋がりました。』
マローダーの通信装置から、クリフ大尉の声が聞こえて来る。
『こちら『アリオト金剛軍団』暫定指揮官、クリフ・ペイジ大尉です。どうなさいましたか、ハワード中佐?』
「ペイジ大尉、『アリオト金剛軍団』は擱座した敵メックのメック戦士を捕虜にしたら、戦利品の回収を一時中止して最大速度でサンタンジェロ城に向かってくれ。現場に残す敵メックは、第7、第8歩兵小隊に警備をさせて、後々に回収しよう。第3歩兵小隊は捕虜をアル・カサス城まで護送させ、スィフトウィンド偵察車輌はメック部隊に随伴させる様に。
それと、そうだな……。ボリス・ヤロスラヴォヴィチ・ゴルトフ少尉のコルセア戦闘機はいったんアル・カサス城に帰還させて、修理が必要なら修理と、推進剤を補給させてからサンタンジェロ城に差し向けてくれ。その後は『SOTS』気圏戦闘機隊と共に、低速巡航で高高度待機だ。」
『了解いたしました。しかし……このままサンタンジェロ城を攻めるのですか?』
クリフ大尉の意外そうな声に、キースは苦笑しつつ言った。
「うむ。今が千載一遇の機会であると共に、今を逃しては後々面倒だからな。一応最低限の補給と、損傷が大きめの機体の修理は、XC-239地点に『SOTS』の降下船を呼び寄せて、そこで行う。貴官らとこちらの合流も、XC-239地点で行おう。」
『了解です。では移動準備にかかります。』
「頼んだ。交信終わり。」
最後にキースは、ヒューバート大尉のオリオンに、回線を繋ぐ。
「ヒューバート大尉、貴官の第2中隊は、現時点で最もダメージが無い。先行して進発し、途中で気圏戦闘機隊が擱座させた2機の敵メックのメック戦士を降伏させてくれ。我々もすぐに追いつく。」
『了解です。ではお先に行かせてもらいます、キース中佐。』
第2中隊は、急ぎサンタンジェロ城の方角へ走り出した。それを横目で見つつ、キースはそこら中に転倒しているか、あるいは擱座して動けなくなっている『第25ラサルハグ連隊C大隊』のバトルメックに、マローダーを歩み寄らせる。彼は敵に対し降伏勧告を行うため、外部スピーカーの回線と一般回線とを開いた。
戦闘では勝利しましたが、敵の指揮官機はグランドドラゴンのメック戦士が自身を捨てて、死兵となって逃がしてしまいました。
主人公たちは、この機会を逃さじと敵本陣を攻める事を決意。急ぎ、サンタンジェロ城へと向かいます。はたしてそこで待っているのは!