鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-065 『アリオト金剛軍団』との別れ』

 惑星ソリッドⅢに侵攻してきたドラコ連合軍『第25ラサルハグ連隊C大隊』が惑星を撤退してから、キースたち『SOTS』は3ヶ所の拠点に部隊を分散させなくてはならず、けっこう大変だった。

 1つ目の拠点は、言わずと知れたアル・カサス城で、惑星守備隊の本部基地となっている場所である。ここにはキース直卒の第1中隊と第1、第5歩兵小隊、それに機甲部隊戦車中隊が常駐し、第2、第3中隊も基本的にはここが本拠地だ。他に『アリオト金剛軍団』の面々もまたここに駐留している。

 2つ目の拠点は、遺跡都市に設営した、仮設遺跡基地である。仮設基地であるため設備が悪く、そのためここに常駐部隊はいない。第2中隊及び第2、第6歩兵小隊と、第3中隊及び第3、第7歩兵小隊が、1週間交代でここに派遣されて遺跡都市の防衛を受け持っている。

 3つ目の拠点は、『第25ラサルハグ連隊C大隊』に占拠されていたサンタンジェロ城だ。奪還したこの城に、『SOTS』は第4中隊と第4、第8歩兵小隊を置き、守らせていた。またこの城はこれまでドラコ連合軍に使用されていた事もあり、ブービートラップなどが無いか確認するために、『SOTS』から偵察兵の多くが派遣されている。しかし調査もそろそろ終わる頃合いであるし、偵察兵たちはそろそろアル・カサス城に戻される予定だ。

 『アリオト金剛軍団』にも手分けして手伝ってもらえれば話は楽なのだろうが、『アリオト金剛軍団』は今月の末にはライラ共和国との契約を満了し、惑星ソリッドⅢを撤退する予定だ。その準備と壊れたバトルメックの修理に、彼らは忙しい。無理に手伝ってもらうのも気がひけるし、近々いなくなる者を頼る体制にしてはその後が大変になるだけだろう。

 そんなある日、司令執務室のキースに外線電話が入る。相手は惑星公爵家の執事、ウィリアム・フロックハート氏だった。

 

「……そうですか、戦勝記念パレードとパーティーの日取りが決まりましたか。」

『はい、12月20日の昼間にパレードを行い、その同日夕刻より年末パーティーを兼ねて戦勝祝賀パーティーを開く事になりました。』

「となりますと、当日仮設遺跡基地に派遣中の第3中隊および第3、第7歩兵小隊、それと交代すべく移動中になるであろう第2中隊および第2、第6歩兵小隊はパレード参加不可能ですね。それらのメック戦士も、パーティーへの参加はできませんね。

 『SOTS』からはアル・カサス城常駐の第1中隊と機甲部隊戦車中隊、第1、第5歩兵小隊、サンタンジェロ城に常駐している第4中隊と第4、第8歩兵小隊を首都に送り、パレードに参加させましょう。

 『アリオト金剛軍団』はメックが動かない者を除いて、パレード参加可能です。パーティーにはメックが動かないメック戦士も参加可能ですね。」

 

 ウィリアム氏は電話口の向こうで追加の要望を出す。

 

『できますれば、気圏戦闘機隊もパレードの際に派手に飛ばしてはいただけませんかな。推進剤はこちらで用意いたしますので。惑星政府から、なるべく派手な祭典にしたい、と要望が上がって来ておりましてな。』

「重量物輸送車輛に載せて、メックと共に主要幹線道路を行進させるつもりだったのですが……。気圏戦闘機隊の指揮官と相談してみます。前向きに検討いたしますが、お返事は少々お待ちいただければ……。」

『わかりました。正式なタイムスケジュールは、後ほど書類にしてお届けいたしますので、今のお返事もその際にいただけますと……。』

「了解です。それまでに、お返事を用意しておきます。」

 

 その後2、3の用件を話し合い、キースは電話を切った。副官のジャスティン少尉が、コーヒーを淹れてくれる。

 

「ふう……。ありがとう、ジャスティン少尉。」

「いえ、どういたしまして。」

 

 と、ここで机上の内線電話機がインターホンモードで鳴った。キースはそのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『ユニオン級ゾディアック号船長、アリー・イブン・ハーリド中尉です。同級レパルス号船長オーレリア・レヴィン中尉もいます。』

「そうか、明日だったな。入室を許可する。」

 

 ジャスティン少尉が、アリー船長とオーレリア船長の分もコーヒーを淹れる。2人の船長が入室してきて、敬礼をした。キースとジャスティン少尉は答礼を返す。アリー船長とオーレリア船長が口を開いた。

 

「キース中佐、明日の商用航宙出発に際し、積み荷の詳細と航宙の予定表を持ってまいりました。」

「同じく、出発前に書類を持ってきましたよ、キース中佐。」

「ご苦労。見せてくれ。」

 

 キースは書類を受け取り、検め始める。

 

「鉄鋼、鉄道用レール、鋼線、ボルト、ナット、ネジなどの金属工業製品全般……。ほう?精密ベアリングが製造できるのか、この惑星は。」

「しかもその精度は非常に高い様で。近隣ではこの惑星の特産品ですな。ごく一部、残っている昔の工場が稼働している模様です。それが生きていて高値で輸出できているおかげで、継承権戦争の痛手からもある程度ですが復興できたらしいですな、この惑星は。」

「これらを他の工業惑星……。エンジンなり車輛なり軽飛行機なり造ってる惑星に運んで売り捌いて、そこからはコンバインとかトラクターとかディーゼル機関車とか農薬散布ヘリとかを買い付けて、今度は農業惑星へ行って売りつけて、そこの商社から農産物を買い取って惑星ソリッドⅢに戻って来る……。これでおおまかに1ヶ月ですわね。」

 

 オーレリア船長の頬が緩んでいる。どうやら試算ではけっこう儲かりそうだと踏んでいる様だ。だがとりあえず、キースは釘を刺す。

 

「事故には気を付けてくれよ。降下船事故だけじゃない、商品相場の急落事故に対してもだ。リスクの高い商品は避けて、地味に堅実に儲けられる物にしてくれ。む、なんか前にもどこかで似たような話をしたか聞いたかした覚えが……。」

「わ、わかってます。気を付けますわ。」

「委細承知ですな。大丈夫ですとも。」

 

 オーレリア船長はたどたどしく、アリー船長は自信満々に請け負う。キースは彼らに頷いて見せた。

 

「うむ、頼むぞアリー船長、オーレリア船長。貴官らの働きが、我々の財政状況に直結しているんだ。」

「はい、ではそろそろ我々は……。」

「そうね、明日の出発準備に戻らないと。」

「そうだな。おっと、せっかくジャスティン少尉がコーヒーを淹れてくれたんだ。飲んで行きたまえ。」

 

 船長2人はジャスティン少尉からコーヒーを受け取って、香りを楽しみながらそれを飲む。飲み終わった彼らはキースたちに敬礼をし、キースとジャスティン少尉は答礼をした。そしてアリー船長とオーレリア船長は司令執務室を出て行く。

 

「商用航宙でたくさん稼げるとありがたいが、今の状況はそれほど切羽詰まっていない。ほどほどの儲けでも良いから、無事に帰ってくる事を祈ろう。ところでジャスティン少尉、気圏戦闘機隊のマイク中尉とヘルガ中尉を呼んでくれるか?

 ああ、そうだ。『アリオト金剛軍団』のペイジ大尉と、コルセア戦闘機乗りのゴルトフ少尉も呼んでくれ。戦勝記念パレードの事で、打ち合わせをせねばならん。」

「了解です。少々お待ちください。」

 

 ジャスティン少尉はさっそく机上の内線電話の受話器を手に取り、指令室に電話をかけ始める。キースはやや冷めたコーヒーを啜りつつ、戦勝記念パレードとその後の戦勝祝賀パーティーについて考えていた。

 

 

 

 色とりどりのスモークの尾を引きながら、13機の気圏戦闘機が大空を翔る。内12機が『SOTS』所属のライトニング戦闘機、トランスグレッサー戦闘機、スティングレイ戦闘機であり、残り1機が『アリオト金剛軍団』所属のコルセア戦闘機であった。キースは地上からそれを見上げつつ、パレードの先頭に立ってマローダーをゆっくりと歩かせる。

 キースたちがパレードをしている首都の主要幹線道路の脇には、無数とも見える市民たちが小さな旗を振り、歓声を上げている。やがて惑星政府の政庁の建物が見えて来た。政庁の建造物の美麗に飾り付けられたバルコニーから、着飾った惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が上品に手を振って来る。キース機及び麾下のバトルメックは、政庁前を通過する際に惑星公爵に対し、その巨大な鋼鉄の腕で敬礼を送った。

 そしてパレードが終了した後の連盟標準時で18:00時より、惑星公爵私邸にて年末パーティーを兼ねた戦勝祝賀パーティーが開かれる。

 

「……そして不届きなるドラコ連合の軍勢は、惑星守備隊の手により撃退された!この燦然たる成果をもたらしたのは、前線の軍人たち兵士たち1人1人、そしてそれを支えた後方の市民1人1人の努力と協調である!諸君らの功績と栄光を、わたし惑星公爵オスニエル・クウォークは永く心に刻み、けして忘れはしないだろう!諸君!今宵わたしと共に、この喜びを分かち合って……。」

 

 惑星公爵による開式の辞と言うよりも演説は、実際の所それほど長くもなく、しかして短すぎもせず、見事な物だった。あまり長ければ退屈してしまうし、短すぎれば威厳に関わる。そう言った点から見て、オスニエル公爵の話は極めて計算され尽した物であったと言えよう。

 ちなみにキースも来賓の1人、惑星守備隊司令官として祝辞を述べたが、とりあえず公爵閣下の演説より目立たない様にいくつか内容を削ったりもした。他の来賓、惑星政府の要人などは空気を読まず、長々と話をする者もいたりしたが、概ねは無難に話を終えた。

 パーティー本番が始まると、キースの周りには人の輪ができた。文字通りキースを中心にして、まるでドーナツか何かの様に一定距離を置いて、人々が輪になっている。ドラコ連合軍『第25ラサルハグ連隊C大隊』を見事撃破し撃退したヒーローと話をしようとやって来たものの、その醸し出す威圧感に飲まれて話し掛けられない人々だ。

 キースは困った。先に駐屯していた惑星ネイバーフッドでは、それでも彼の威圧感によるバリアーを貫いて、話しかけて来る剛の者が幾人もいたものだ。だがここ惑星ソリッドⅢでは、動物園の猛獣でも見る様に遠巻きにされて、話しかけてくる人がいない。だがだからと言って、立ち去ろうと言う者もいないのである。キースは内心で愚痴る。

 

(やれやれ、食べ物を取りに行くこともできんよなー、こりゃ。誰か適当な人物に、俺から話し掛けなきゃ駄目かなあ?)

 

 とりあえずキースは、テレビ放送で顔を見たことのあるアーヴァイン・アドコック軍務大臣に話し掛けてみようかと近寄った。キースを囲む人の輪は、キースが移動しただけそのまま位置をずらし、相変わらずキースを中心にした円環を形作っている。無論、アーヴァイン軍務大臣との距離は、彼が後ずさりしたために縮まっていない。キースは内心でぼやく。

 

(どないしろっちゅーんだ。)

 

 キースは自分の放つ迫力が強烈なことは、既に理解してはいる。だが、だからと言ってそれを自在にオン、オフできるわけではない。と言うかキースからすれば、この惑星ソリッドⅢの要人たちは根性が無さすぎる。惑星ネイバーフッドの要人たちの中には、キースが「使える」と見れば誼を通じるために、強靭な意志力で接触を図って来た者も多くいたと言うのに。

 と、ここでパンパン、と掌を叩く音がした。ざざっと人の輪が左右に分かれる。掌を叩いた人物が、柔らかい口調で言った。

 

「それでは此度のヒーローたるハワード中佐に失礼と言うものだよ?ハワード中佐、少し話がしたくてね。よろしいかな?」

「……無論ですとも、公爵閣下。」

 

 そう、それは惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下だった。キースは内心ほっと安堵した。

 

 

 

 オスニエル公爵に連れられて、キースは会談用の小部屋へとやって来た。執事のウィリアム氏が、こちらの部屋にも飲み物や料理を運ばせてくれている。オスニエル公爵は言った。

 

「まずは今回の輝かしい成果を祝して、乾杯と行こう。何を飲まれるかな?」

「は、ではスパークリング・ワインを……。」

「そうかね。では私も同じ物にしようかな。」

 

 キースは驚いた。惑星公爵閣下当人が、グラスにスパークリング・ワインを手ずから注いでいるのである。普通は執事か何かを呼んでやらせる物だが。

 

「こ、これは恐縮にございます。」

「何、元々は家を出て、市井の三流学者をやっていた身だし、後々にはその身分に戻りたいと思っているからね。これぐらいはやるさ。それにこの部屋には我々の他には誰もいないから、惑星公爵の威厳に傷が……とか騒ぐ者もいない。じゃあ乾杯しようかね。

 ……此度の勝利と、取り戻した民の平和に。」

「……此度の勝利と、民の安寧に。」

 

 2人はグラスを打ち合わせ、それを呷った。一息ついた後、オスニエル公爵は口を開く。

 

「先ほどは惑星政府の者が、失礼をしたね。まあ、ハワード中佐の迫力は凄いし、気持ちは分からないでもないんだけれど、もう少し何とかならない物かとも思ってしまうよ。あれでミシュリーヌ……妹を惑星公爵に推して、その代官に納まろうなどと言う考えを持つのは不相応だと思わないのかな。

 もし妹が気圏戦闘機を降りる前に公爵位を譲るはめになったとしても、もう少しちゃんと代官なりを任せられる人物を探すか育てるかしないと、兄として安心できないね。……と、こんな話をされても中佐は困るだけか。ははは。」

「は。あ、いえ……。」

「……本題に入ろう。単刀直入に話をするけどね、例の遺跡都市の事だよ。来月半ば、新年早々にも、ライラ共和国はターカッドから技術者やら偵察兵やら歴史学者やらを派遣してもらう事になった。封印されてる遺跡の、その封印を解除するためにね。」

「!!」

 

 キースの眉が顰められる。オスニエル公爵は続けた。

 

「その作業に、君の部隊からも人材を貸して欲しいんだ。君の所の技術者は、NAIS級の人材がいると聞いているよ。是非に助力が欲しい……。いや、公爵家でも、今までその遺跡を解放しようとしなかったわけでは無いんだよ。ただ、封印が堅すぎて手が出なかっただけでね。ターカッドの技術者でも、手が出るかどうかは怪しいと思っているんだ。

 無論、報酬は考える。遺跡……メック倉庫の中身次第になるから、確約はできないけれどね。いや、中身はちゃんと存在すると確信してるけれど、もしも遺失技術を扱ったメックとかばかりだったら、ターカッドの判断を仰がないと譲渡はできないんだ。もし倉庫の中身の一部なりとても譲渡できない場合、金銭で報酬を出すよ。」

「今までは惑星公爵家独自で調査を行って来たものと思われますが、今回共和国本体に……ターカッドに技術者の派遣を求めたのは?」

「クリタ家にメック倉庫の事が知られてしまった以上、こうなったら一刻も早く発掘してしまった方が良いからね。量が量、規模が規模だから、全部運び出すには全く至らないだろうけれど、仮に遺失技術のバトルメックなどがあった場合、それだけでもさっさとターカッドに送ってしまわないと。クリタ家に奪われるよりは、シュタイナー家への貸しにした方が、ずっとましさ。」

 

 キースは頷く。

 

「なるほど、納得いたしました。実際の発掘の際には、当方の部隊より技術者、偵察兵などを派遣いたしましょう。」

「本当かい!?いやあ、これで肩の荷が降りたよ。さ、さ、何でも好きな物食べてくれ、飲んでくれ。」

「は。では頂きます。……おお、大変美味しゅうございますな。」

「うん、うちの料理人は超一流だからねえ。家に戻って良かったと思った、数少ない事だよ。」

 

 その後、2、3の話をした後、キースとオスニエル公爵はパーティー会場へと戻った。キースは溜息を吐く。

 

「ふぅ……。さて困ったぞ。どう時間を潰したものか。」

 

 向こうを見遣ると、『アリオト金剛軍団』のクリフ・ペイジ大尉が麗しき御令嬢たちに囲まれていたりする。彼はなかなかの美形であり、人気者になっているらしい。御令嬢たちを失礼の無いようにあしらってはいる様だが、彼の顔は引き攣っていた。

 

「助けに行った方が、いいかな?」

「いいんじゃないかな。別に死ぬわけでもないでしょうし。」

 

 話し掛けて来たのは、エリーザ曹長である。彼女の脇には、イヴリン軍曹が所在なさげに立っていた。キースには以前、こう言うパーティーの席上では、エリーザ曹長がイヴリン軍曹を預かってくれるとの約束をした覚えがあった。

 

「ところで隊長。ちょっとイヴリン軍曹を預かって欲しいんだけど。ちょっとあたしは食べる物取ってくるから。」

「む。わかった。今日は偉いさんたちとの話も、できない様だしな。……今度、ライナーに頼んで正式に紹介してもらうか。そうすれば逃げたりできないだろう。」

「逃げる……ですか?」

 

 イヴリン軍曹が、怪訝そうな顔で問う。キースは苦笑しつつ答えた。

 

「ああ。俺は見た目が怖いからなあ。遠巻きにされて、こちらから話し掛けようとしても退かれてしまった。もう少し時間が経って、こちらと仲良くするメリットなりなんなりが分かれば、状況は変わると思うのだが。偉いさんとは情報収集の意味も含め、仲良くしておきたいんだがな。」

「前の惑星では、向こう側から色々と接触をとって来た様に思われますが。」

「どうもこの惑星では、そうもいかん模様だ。……軍務関係者ぐらいは来そうなものなのだがなあ。」

 

 キースは内心で思う。

 

(この程度の事で寄って来れない臆病者など、いらん!と切り捨ててしまえれば話は楽なんだけどなあ。そうもいかないのが、辛いところだよね。やはりライナーを通じて惑星の有力者と伝手を作っておこう。次は1月の新年パーティーだな。それまでに何とか……。

 ああ、でも惑星の有力者とオスニエル公爵閣下とは、関係が微妙そうだな。下手な相手と関係強化するわけにも行かないなあ。所詮は来年4月下旬までの事だしな。情報収集のためだけだったら、別の手段もあるだろ。これもライナーと相談しておこう。)

「無理にそう言う方々と関係を構築しなくても、良いのではないでしょうか。」

「む?」

 

 イヴリン軍曹の言葉に、キースはふと我に返った。イヴリン軍曹は続ける。

 

「キース中佐の真価を知らずに、その様な態度をとる人たちです。関係を繋いで得られる利益より、不利益の方が大きいかと自分は思います。」

「ふむ、そうかもな……。まあ、敵対関係に陥らない様にだけは、しておく必要はあるがな。背後に……内懐に敵を抱えては、動きが取れなくなり前面の敵に負けかねん。」

「も、申し訳ありません!出過ぎた事を言いました!」

「ああ、いや構わん。順当な、妥当な意見であるしな。それに俺は怒ったわけじゃない。気にするな。そうか……利益よりも不利益が多いか。そうかもな。……何か飲むか?」

「え……。」

 

 急に訊かれて、イヴリン軍曹は一瞬驚いた様に目を瞬かせる。だが彼女は慌てて言った。

 

「で、ではジンジャーエールを。」

「では、取りに行くとしよう。一緒に行くか?」

「はい!」

 

 キースはドリンクのコーナーに向かい、イヴリン軍曹を連れて歩き出す。視界の端に、エリーザ曹長が両手いっぱいの食べ物の皿を抱えたまま、にやりとチェシャ猫笑いを浮かべてこちらを眺めているのが見えた。

 

 

 

 パーティーの翌日、『SOTS』『アリオト金剛軍団』の整備兵たちは、わたわたと整備棟の中を駆けまわっていた。所用があって整備棟に顔を出したキースは、目を丸くする。と、そこへサイモン老が顔を出した。彼らは敬礼と答礼を交わし、会話を始める。

 

「隊長、どうなさいましたかの?」

「いや、注文したバトルマスターとフェニックスホークの予備部品の、最後の便が昨夜遅く届いたと聞いたんで、サイモン中尉に話を聞きに来たんだが。何の騒ぎだ?」

「ありゃ?隊長にお話は行ってませんでしたかの?それらの予備部品といっしょに、『アリオト金剛軍団』のサイクロプスの修理用部品が届いたんですわ。それで昨夜から部品が足りてるかどうか、部品が不良じゃないかの検品作業と、サイクロプスの修理準備で整備兵が皆で駆け回ってるんですわい。」

 

 それを聞き、キースは整備棟の奥に目を遣る。そこには半ばガラクタ同然になった90tの強襲メック、サイクロプスの哀れな姿があった。キースはサイモン老に訊ねる。

 

「『アリオト金剛軍団』がこの惑星を撤退する28日まで、あと1週間だが……。間に合うか?」

「右胴が完全破壊されてますんで、これはわしが自分でやり申す。その他中枢部まで損傷を受けている部分へのマイアマー移植もわしですな。エンジンの鎧装が2層まで壊れてますからの。これの修理はジェレミー少尉が。ジャイロはパメラ軍曹が。その他の細々としたところは、キャスリン軍曹に任せる予定ですわい。

 『SOTS』の腕利きが4人がかりですからのう。あっと言う間に、とまでは行きませんがの。期日までにはしっかり全部直してみせますわい。」

「……キャスリン軍曹は、軍医ではあるが整備兵でもあったんだったな。軍医として八面六臂の活躍をしてくれているんで、ついつい忘れがちになるが。」

 

 このサイモン老以外の整備兵3名は、サイモン老の薫陶を受けて非常に優秀な技術者となっている。特にジェレミー・ゲイル少尉は、他の者の様に尋問官を兼ねていたり軍医だったりしないため、純粋に技術者として最高峰の域に達している。

 この最高レベルの整備兵4人が力を合わせるのだ。まず間違いなく、『アリオト金剛軍団』大隊長機のサイクロプスは、完璧に仕上がるだろう。おそらくは壊される前よりも調子が良くなることは間違い無い。

 

「そうか……。では俺はペイジ大尉にその事を伝えるとしよう。きっと喜ぶだろうな。」

「ですのう。ではわしは、仕事に戻りますでの。」

「うむ、頑張ってくれ。」

 

 サイモン老とキースは、敬礼と答礼を交わしてその場は分かれた。2日後には機体修理が完了し動作試験に入ったと言う話を聞いて、流石のキースも驚いたが、4人がかりだと言う事を思い出して思わず失笑するにとどまった。ちなみにクリフ大尉は唖然として、しばらく声が出なかった模様である。

 

 

 

 そして3026年12月28日、『アリオト金剛軍団』が、惑星ソリッドⅢを撤退する日がついにやって来た。キースは司令執務室で、『アリオト金剛軍団』暫定指揮官であり第2中隊中隊長たるクリフ・ペイジ大尉、及び第3中隊中隊長であるテレンス・モグリッジ大尉と会談していた。

 

「ついに惑星撤退か。寂しくなるな。」

「はい。ですが『SOTS』のおかげで、『アリオト金剛軍団』はあれほどの打撃から、なんとか立ち直れそうなところまで持ってくることができました。前部隊司令、ダライアス・ノードリー大隊長の御妹様も、部隊司令を継ぐことに前向きだとの返事を貰っております。心より御礼申し上げます、ハワード中佐。」

「ですが、これから『アリオト金剛軍団』は試練の時を迎えます。乏しい部隊の予備費、未だ4機もある不稼働メック、予備部品の欠乏、定数を大きく割って失機者を多く出した第3中隊……。更に前部隊長の喪失……。これらの事情から鑑み、次以降の仕事は、多少条件が悪くとも受ける必要性があります。また今後は自転車操業が続く事になるでしょう。」

 

 暗い声で、テレンス大尉が言葉を紡ぐ。しかしクリフ大尉は明るい表情を崩さない。

 

「何、それでも最悪の時点と比べれば、文字通り天国と地獄だ。稼働メックは『SOTS』技術陣のお力を借りられた事で、今までに無く絶好調だ。うちの整備士たちもその技量は桁違いに上がっている。希望を捨てなければ、なんとでもなるさ、テレンス大尉。」

「そう、だな、クリフ大尉……。」

「これからの予定はどうなっているのかな?」

 

 キースの問いに、クリフ大尉は答える。

 

「惑星チャックチーⅢに、前大隊長の御一族が居住されています。まずはそこで1週間の短期休暇を取り、サイクロプスの引き渡しと御妹様の大隊長就任を行う予定です。本当はもっと長期休暇を取りたいのですが、部隊の予備費が尽きるので……。

 その後は仕事探しですね。MRB仲介が一番安心なのですが、あそこは一部例外を除いて前金なしの全額後払いが殆どですから。おそらくは伝手を頼って、シュタイナー家と直接に契約を結ぶ事になるでしょうね。前金を貰える代わりに、総額が低かったり手取りが少なかったりする仕事を。前金が無いと、隊員の給与も支払えなくなりますから。」

「そうか……。大変だろうが、頑張ってくれ。……そろそろ時間かな?」

「そうですね、降下船の離床準備もありますし。ではこれにて失礼いたします。ハワード中佐と『SOTS』には、本当にお世話になりました。」

 

 クリフ大尉とテレンス大尉が、敬礼を送って来る。キースはジャスティン少尉と共に答礼を返しつつ、口を開いた。

 

「貴官らに、武運のあらんことを。いつか、宇宙のどこかでまた肩を並べて戦えることを祈っている。元気で、戦友。」

「!!……こちらこそ、戦友。」

 

 クリフ大尉たちが司令執務室を出て行くや、キースはジャスティン少尉に頷く。ジャスティン少尉は内線電話の受話器を手に取り、指令室へと電話をかけた。

 

 

 

 キースはマローダーの操縦席で、息を吐いた。

 

「ふう、間に合ったな。」

 

 周囲には、今アル・カサス城にいるメック部隊第1中隊と、機甲部隊戦車中隊がいる。キースは号令を発した。

 

「礼砲撃て!『アリオト金剛軍団』に対し、敬礼!」

 

 エネルギー兵器、もしくは空砲による礼砲が、大空へ向けて打ち上げられる。そしてキースは自機マローダーに敬礼をさせると、自分も操縦席で敬礼を行う。メック部隊第1中隊のメックも、敬礼の姿勢を取る。戦車中隊の戦車ハッチからは、車長が身を乗り出して敬礼を行う。敬礼を送る先は、『アリオト金剛軍団』の3隻のユニオン級降下船だ。

 3隻のユニオン級降下船は、轟音と共にアル・カサス城の離着床を離床して行く。キースはふと、見えるはずもないのに、こちらに敬礼を送っているクリフ・ペイジ大尉の姿を見た気がした。




『アリオト金剛軍団』は、『SOTS』のおかげで当初の絶望的な状況から、随分と希望のもてる状況にまで持ち直して惑星撤退する事ができました。まあそれでも、完全に部隊が持ち直すかどうかは、前大隊長の御妹様の手腕によるのですが。
それであっても、全く希望が持てなかった最初よりは随分と良い状況です。90tサイクロプスも直りましたし。
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