3027年1月1日、惑星公爵私邸にて年始のパーティーが開催された。これには、『SOTS』の高級士官……中隊長以上のメック戦士たちや、気圏戦闘機隊の指揮を執っているマイク中尉が、招待と言う名の出席命令を受けていた。このため、今現在仮設遺跡基地に出向いている第3中隊中隊長アーリン大尉もまた、自分のメックを仮設遺跡基地に置いたまま、増槽を着けたフェレット偵察ヘリコプターでの送迎を受けて、惑星首都へとやって来ていた。
そのアーリン大尉だが、この惑星の貴族階級のボンボンらのお誘いと言う襲撃をなんとかかんとか退けて、キースの元へと退避して来ていた。なおキースの元には、既にヒューバート大尉、ケネス大尉、マイク中尉らの青年士官らが、令嬢方のお誘いから逃げて来ている。キースの周りには、そう言った軽佻浮薄の輩はまるで壁があるかの様に近づいて来ない。
ちなみにマイク中尉には既に恋人がいるし、ケネス大尉も自分では鈍感さ故に気付いていないが、部下のドロテア・レーディン軍曹よりアタックを受けている身だ。完全フリーなのはヒューバート大尉とアーリン大尉だけである。ああ、いやキースもまたフリーではあるのだが、彼にそう言った方面でお誘いをかけようとする強者は、このパーティー会場には存在しない。
「……相変わらず貴官ら、俺をむ……人除けに使うんだな。」
「今一瞬、「虫除け」って言いそうになったでしょう、キース中佐。」
「人を虫よばわりするのがまずいと思って言わなかったんだ。わざわざバラさんでくれんか、アーリン大尉。……まあ、貴官らが色々責任を取るはめになって、この惑星に残られでもしたら『SOTS』にとって大変な事態だからな。文句は言わんでおこう。
ああ、だが嫁取りをして部隊に連れて来るのであれば、一向にかまわんぞ。」
アーリン大尉が唇を尖らせる。
「むー、わたしは嫁なんか取りませんよー。」
「あ、いやヒューバート大尉に言ったつもりだったんだ。アーリン大尉なら婿取りだな。」
「どうせ嫁を取るなら、可能ならばメック戦士の嫁がいいですね。そうすれば、上手くすればイーガン家で2機のメックを保有しておける。万が一どちらかが失機しても、一族にメックが残っていれば安心感が違う。」
軽い調子で重い事を言うヒューバート大尉に、アーリン大尉とマイク中尉は引く。一方ケネス大尉は、なるほどと頷いた。かつて自分の一族の予備メック戦士であった彼には、何かしら思う所があったのだろう。
ヒューバート大尉は軽い口調で、重い話を続けた。
「ま、でもそろそろ嫁が欲しいのも事実ではありますね。と言うか、イーガン家にはメック戦士は当主である俺しかいませんし。俺が死んだら隠居した親父とお袋が困ります。子供儲けて育てて、後継ぎをしっかり作らないと……。親父はもうメック乗れる身体じゃないし、お袋は元からメック戦士じゃないからなあ。両親が弟妹を作ってくれてれば、もう少し安心できたんですが。」
「おいおい、そう簡単に死なせるつもりは無いんだがな。」
「だから、もしもの話ですよ。ですが、万一に備えておくことは必要です。」
キースは軽い調子のヒューバート大尉の言葉に、真剣な物を感じ取る。だから彼も、冗談めかしてはいるが、心の奥底では真面目に応えた。
「部隊内でのナンパは注意してくれよ?それを止めるつもりは無いが、隊内での修羅場は御免だからな。だがしかし、部隊内で問題が片付いてくれるのならば、歓迎すべきでもあるな。幸い『SOTS』には女性隊員が多い。」
「はぁ~……。わたしもそろそろ旦那を探した方が良いのかしら……。ヒューバート大尉の言う様に、できることならばメック戦士で……。でも、それならなおさら、この惑星の男性に引っ掛かるわけにはいきませんね。」
アーリン大尉が思い悩む。メック戦士にとって、嫁取り婿取りは決して綺麗事では無いのだった。一方メック戦士と事情がほぼ同じ、気圏戦闘機を駆る航空兵であるマイク中尉は、自分の恋人が同じく気圏戦闘機乗りである事に安堵する。と同時に彼は、人知れず半ば本気でプロポーズを考え始めたりしたのだった。
と、ここで突然、キースに話し掛けて来るパーティーの客がいた。キースは内心驚く。だがその人物の顔を見て、ある意味納得した。
「……突然失礼いたします。惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐でいらっしゃいますか?」
「はい、その通りです。……そう言う貴方は、自分の記憶違いでなければ、惑星ソリッドⅢ陸軍情報2課長、デイモン・レイトン大佐では?」
「おお、自分の事を見知り置いていただけておりましたか。はじめまして、自分はデイモン・レイトン大佐です。先日の戦勝記念パーティーの際には仕事がありましたので、お会いできなかったのが残念でしてね。今日こそは、と意気込んでおりましたよ。」
キースは軽く気圧される物を感じる。デイモン・レイトン大佐は、なかなかできる人物の様だ。だが同時に自分も相手に圧迫感を与えているのは間違い無い。デイモン大佐の額に光る汗が、その事を物語っている。
このデイモン大佐は、自由執事ライナーに相談したところ、顔を繋ぐのに適した人物と言う事で教えられた相手だ。現惑星公爵の能力や功績を正しく評価し、それを担ぎ支える人物と言う点からも申し分ない。能力的にも人格的にも、傑物と言ってよかった。
「レイトン大佐、こちらは中佐でそちらは大佐でいらっしゃる……。丁寧語や敬語は必要ありませんよ。」
「いや、こちらはしがない情報武官です。実戦部隊の長でいらっしゃる貴官に敬意を表するのは当然ですとも。ははは。」
デイモン大佐は笑う。しかしその眼は笑っていない。キースをしっかりと見定めようとしているかの様だ。キースもにやりと笑う。
「そうですか、ありがとうございます大佐。」
「いえいえ。……ところで、少々内密のお話をいたしたいのですが。」
「了解です。どちらで?」
「あちらに、公爵閣下からお部屋をお借りしています。」
キースはヒューバート大尉たちに声をかける。
「俺はレイトン大佐と話があるので、ちょっと外すが……。大丈夫、か?」
「まあ、我々だけで固まっていれば、なんとか。」
「お早いお戻りを切実に、切実に!お待ちしてますね。」
「いってらっしゃい、キース中佐。」
「……なんかキース中佐がいなくなった瞬間に、どっと押し寄せてきそうなのは、気のせいっすかね?」
デイモン大佐に付き従って、キースはホール脇の小部屋に入った。デイモン大佐はキースにソファを勧める。キースは頷いて、それに腰掛けた。デイモン大佐もその向かいに座る。
「……さて、来る1月15日、ライラ共和国首都惑星ターカッドより、遺跡都市……。いえ、はっきり言ってしまいましょう。メック倉庫発掘のために技術者、歴史学者、偵察兵等々が送り込まれて来ます。公爵閣下から伺ったお話では、そちらの部隊の技術者、偵察兵も派遣していただけるとの事でしたが……?」
「はい。我が部隊の技術者は、非常に優秀な人材です。必ずやお力になれると存じます。」
「そうですか、それは有難い。ですが、それに関し少々問題が起きまして……。」
「?」
デイモン大佐は難しい顔で言った。
「ターカッドより来訪する予定の技術者たちの名簿が、流出した模様なのですよ。以前そちらの部隊へ潜入しようとしたスパイの情報を頂いた事がございましたな。」
「ああ!ええ、臨時雇いの歩兵を雇用しようとした時に、それに紛れ込もうとしたスパイ3名がおりました。それから引き出せた情報は、惑星政府経由で報告いたしましたが。」
「その情報を元に、敵のスパイ網を調査しておったのです。で、尻尾を捕まえかけたと言いますか、捕まえ損ねたと言いますか……。間一髪で逃走されましてな。ですがスパイどもの拠点に残っておりました情報を調査したところ、送信済み情報に、ターカッドから来訪する技術者の名簿が入っておったのです。」
キースは眉を顰めた。デイモン大佐も、苦々しい顔をしている。
「技術者たちを何処かで襲撃して、それと入れ替わりで新たなスパイをこの惑星に潜入させようと言うのかとも考えましたが……。ターカッドはこの惑星よりも護りは堅いですからな。それならば直接にスパイをこの惑星に送り込む方が楽です。」
「となると……。ターカッドから送られて来る技術者は精鋭のはず。それに対するテロを計画しているのかもしれませんね。あるいは拉致して脅迫し、自陣営に取り込もうとでもしているのか……。優秀な技術者は貴重です。」
「いずれにせよ、厄介ですな。」
いったん瞳を閉じ、キースは考えに沈む。そして目を開けた彼は、おもむろに言った。
「遺跡に送り込む我が方の偵察兵たち、及び遺跡都市に駐留させておく部隊に対テロの警戒を強化する様に命じましょう。駐留部隊の歩兵も、半数は雇用したばかりの新兵でしたが、発掘期間中はその全てを精兵である第1中隊に切り替えます。」
「惑星軍の歩兵部隊も遺跡都市に駐留させ……。いや、避けた方が良さそうですな。その部隊が敵スパイの汚染からクリーンであるとは断言しきれません。口惜しいですが、惑星軍内部にもスパイ網が根を張っている疑いが捨てきれないのです。特に歩兵部隊は、首都を取り戻した後に人員の損耗を回復させるため、急遽増員しましたから……。」
「難しいところですね。」
キースの台詞に、デイモン大佐は頷く。デイモン大佐はソファから立ち上がった。キースもやや遅れて立ち上がる。
「対テロ警戒の強化、よろしくお願いします。お話ししに来た甲斐がありました、感謝します。」
「いえ、情報を与えていただき、こちらこそ感謝しております。メック倉庫発掘には、我が部隊の技術者も関わるのです。諸共にやられてしまったら、たまった物ではありませんからね。」
「なるほど、確かにそうですな。……さて、それでは自分はこれで失礼させていただきます。ドラコ連合クリタ家の好きにさせぬよう、互いに頑張りましょう。では。」
「はっ。では。」
デイモン大佐とキースは会談をしていた小部屋を出ると、そこで別れる。キースはヒューバート大尉たちのいた方へと戻って行く。パーティー客は、いかにも自然な様子で彼の行く手から離れて行く。微妙に悲しくなったキースだった。
(俺はヤーさんか?……雰囲気は似たような物かも知れんか、やれやれ。)
「あ、キース中佐!助かりました!」
「よかった、戻って来てくれた!」
「おかえりなさい、キース中佐。」
「あー、助かったっす、キース中佐。」
キースが来た事で、人だかりから解放された『SOTS』高級士官たちが、大喜びで彼を迎えてくれる。虫除け扱いであっても、歓迎してくれる仲間たちに、ちょっとだけキースは癒された。
キースはいつもの司令執務室で、一時期よりは格段に少なくなった書類を処理していた。当面の敵も、指揮下に置いていた別の傭兵大隊『アリオト金剛軍団』もいなくなったため、書類仕事は随分と楽になったのである。と、そこで机上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れる。
「誰か?」
『大隊副官、ジャスティン少尉です。キース中佐宛の船便の荷物を受け取って参りました。中身は複数の記録媒体と目録、それに手紙です。』
「む?入室を許可する。」
ジャスティン少尉は荷物を載せた台車ごと入室してくると、敬礼してくる。キースは答礼して、口を開いた。
「ジャスティン少尉、荷の送り主は誰だ?」
「ジョエル・ボールドウィン……となっておりますが。」
「ジョエル・ボールドウィン……。おお、あの歴史学者か!」
キースはジャスティン少尉より手紙と目録を受け取った。彼はまず手紙を開封する。
「……ふむ、惑星カーチバッハで発掘した遺跡は、かなりの当たりだったと。貴重なメック部品や気圏戦闘機の部品が大量に、そして1個航空小隊を含む1個中隊のバトルメックと気圏戦闘機が隠されていた、か。礼の言葉がくどいほど書き連ねてある。……むう、発掘した現品は、当地で売り払って金に換えた様だな。」
「カーチバッハ、ですか?」
「ドラコ連合の惑星だ。1個中隊程度なら、全体としては誤差と言えるが……。その1個中隊がこちらに来ない事を祈りたいな。ふむ、同時に技術資料も発掘されたが、それは隠匿してライラ共和国で正規軍に売り払うつもりだと書いてある。……本当にそうしてくれると、ありがたいな。契約通り、その技術資料全ての写しを送る、とある。」
キースは次に目録の封筒を手に取る。彼は封筒を開けて、中の文書を読み、目を見開いた。
「!?」
「どうなさったんですか、キース中佐!」
「凄いぞ……。かなりの当たりどころじゃない、大当たりだ。」
その目録には、フェニックスホーク、シャドウホーク、グリフィン、ウルバリーン他と言った、星間連盟期に原型機が開発された中量級バトルメック多種の整備マニュアルが、ずらりと載っていた。無論、ハチェットマンなど近代に開発された機種や、エンフォーサーやヴィンディケイターなど一部の継承国家でしか造られていない機種のマニュアルは入っていない。しかしそれでもこれは宝の山であった。
キースは叫ぶ。
「サイモン中尉とパメラ軍曹を呼べ!この記録媒体を、すぐにバックアップを取らせるんだ!万が一失われでもしたら、えらい損失になる!」
「り、了解!」
ジャスティン少尉は急いで内線電話機に飛び付いた。飛んできたサイモン老とパメラ軍曹も、この記録媒体の内容に驚き、大興奮になった事は言うまでも無い。
3027年1月15日、キースは副官のジャスティン少尉、そしてサイモン老、ジェレミー少尉、パメラ軍曹など遺跡都市へ派遣する予定の整備兵や、同じく遺跡都市へ派遣予定の偵察兵であるエルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹を引き連れて、惑星首都の隣にある宇宙港ソリッドポートへとやって来ていた。目的は、ライラ共和国首都惑星ターカッドからの客人たちを出迎えるためである。
ちなみにここには、惑星ソリッドⅢ陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐も、情報部の精鋭を連れて出迎えに来ている。やって来る客人たちとは無論のこと、遺跡都市にある封印されたメック倉庫の封印を解放するための、技術者や偵察兵、軍属の歴史学者たちだ。
デイモン大佐が呟く。
「軍用のユニオン級降下船2隻で降りて来るらしいですが……。メックは積まずに来る様ですね。対宙監視レーダーによれば、もう間もなく降りて来るそうですが……。」
「ああ、見えましたね。」
キースの台詞の通り、2つの西瓜の様に丸い影が上空に見える。それは下に向けて炎を吐きだし、その噴射でゆっくりと宇宙港の離着床へと降りて来た。非常に丁寧だが、軍用降下船には似つかわしく無い、とことんの安全運転ならぬ安全操船であった。
やがて宇宙港の付属バスで、そのユニオン級の乗客が、宇宙港のターミナルへ向かってくる。そして入国審査などを経て、彼らはキースたちが待っている宇宙港の待合所へとやって来た。
「ようこそソリッドⅢへ。自分はあなた方の案内を任されております、惑星軍のデイモン・レイトン大佐です。」
「ありがとうレイトン大佐。私はターカッドより派遣されたこの一団の代表、工学博士の肩書を持っております、ウィルフレッド・カーニーです。こちらの方々は?」
「はっ、自分はライラ共和国惑星ソリッドⅢ守備隊司令官、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐です。この者たちは私の副官と、貴方たちのお手伝いをさせていただく当部隊所属の技術者及び偵察兵たちです。」
「そうでしたか。よろしくお願いしますよ、ハワード中佐と部下の方々。さて、デイモン大佐……。」
ウィルフレッド博士とデイモン大佐は、何やら話し始める。だがキースはそれどころでは無かった。彼はウィルフレッド博士の後ろに控えている、1人の人物に目を引き寄せられる。
「……俺に何か用かね?ハワード中佐、だったか。」
「いえ……。雰囲気が徒者では無いと感じただけです。軍人の方ですか?」
「ふ、俺は一介の研究員に過ぎんよ。」
「……お名前を伺っても?」
その黒髪黒目、モンゴロイド系の男は答えた。
「……キバヤシだ。ヒデオ・キバヤシ。」
「失礼しました、キバヤシ研究員。タマラー協定領のご出身ですかな?惑星コウベあたりの?」
「その様なものだ。」
そしてキバヤシ研究員は黙りこくってそっぽを向く。キースもまた、自然さを装って他の方向へ目を向けた。だがその頭の中は、盛大に回転している。
(……なんでこの男がここにいる!いや、漫画絵風のイラストと、実際の人間の顔じゃ大違いじゃないか!だがその雰囲気が似すぎてる!……もしこの男が「あの男」だとしたら、何故ここに?そうか……。「あの男」は強力なメック戦士であると同時に、極めて優秀な研究者でもあったな……。)
「隊長?」
「キース中佐?」
「あ、ああサイモン中尉にジャスティン少尉。何か?」
「いえ、様子がおかしかった物でしたからの。」
キースはとりあえず惚ける。
「いや、さっきのキバヤシ研究員だが、徒者ではないと感じたのでな。気のせいとは思えん。ちょっと注意が必要かもな。」
「……わかり申した。エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹にも伝えておきますわ。」
「自分も注意しておきます。」
「ああ、頼んだ。」
ひとまず誤魔化して、キースは考えに耽る。
(この男が「あの男」だとして……。時期的には合うよな。となると、この世界は小説版ベースじゃなしにリプレイ版ベースって事になるなあ。小説版の描写で、「あの男」が生き延びているとは思えないからなー。
ならばこの世界では、シャドウセイバーは無しでストームプリンセスがある事になるのか。まあシャドウセイバーは小説版のクライマックスでヤマタノオロチに突撃して爆散したんだから、どっちにせよ存在しないか。)
ターカッドからの客人たちは、デイモン大佐に連れられて歩き始めている。よく観察すると、キバヤシ研究員の周囲の人物はキバヤシ研究員を護衛しているかにも見え、あるいは護送しているかにも見える。と、キースはターカッドからの客人たちのうち、もう1人にも何処となく見覚えがある事に気付いた。
(……あの歴史学者の情報部員まで一緒に来たかよ。ますます間違いなさそうだなあ。目的はこの男の監視、かな?……近いうちに、歴史学者の情報部員も名前を訊いておかないとなあ。うっかり聞いてないうちに名前を呼んじまったら、えらい事になりかねないよ。アルバート・ウィーナーだったな。……アルバートか。アルバート中尉と同じ名前か……。)
キースは自分の部隊の者たちを引き連れて、ターカッドからの客人たちの後を歩く。アルバート中尉の事を思い出し、キースは少し感傷的な気分になった。
その後、ターカッドから来た技術者たちと偵察兵、歴史学者は、その装備ごと大型のヘリコプター数機に分乗して遺跡都市へ向かった。サイモン老たち『SOTS』の整備兵と偵察兵もまた、そのヘリコプターに便乗して遺跡都市へと赴く。キースとジャスティン少尉のみが、サイモン老たちを首都まで送って来たミニバス――アル・カサス城に備え付けの物――で、アル・カサス城へと帰還するのである。
だがとりあえず、この日はキースとジャスティン少尉は首都に宿泊する事になっていた。首都とアル・カサス城はけっこう距離があるため、ミニバスでは時間がかかり過ぎるのだ。今日そのまま首都を出たら、日が暮れてしまう。その様な理由で、キースたちは首都のビジネスホテルに泊まる事にしたのだ。
キースはベッドに横になって、今日の事を考える。
(まいったね。まさか「あの男」や情報部員ウィーナーが出て来るとは。しかし、キバヤシ……ねえ?なんでキバヤシって偽名にしたんだろうな。キバヤシ、キバヤシ……。木林……。
あ。)
思わずキースは飛び起きる。あまりにその考えが間抜けすぎたからである。
「木に林を足したら、「森」じゃんかよ……。馬鹿か俺は。やっぱりあの男、モリ大佐か。」
キースは脱力した。
(なんてこったい……。間抜けすぎる……。
それはともかくとして、モリ大佐は今、ライラ共和国の研究員として働かされてるってわけだな。となると、やっぱり小説版じゃなしにリプレイ版の世界線か。……待てよ?キバヤシがモリ大佐だって事、本当にドラコ連合に……クリタ家にバレてないのか?整形手術とかしてないのに?
今回ターカッドから来る技術者たちの名簿、スパイの手を通してドラコ連合に流れてるんだよな。ひょっとすると、ひょっとするぞ?)
ベッドの傍らに備え付けてある机にキースは手を伸ばし、そこにある電話機を手に取った。そして彼は、アル・カサス城に電話を掛ける。万が一彼の想像が当たっていたら、それは即座にではないにせよ、大きな危険をはらんでいる事になるのだ。
ついに満を持して、稀代の悪役NPC、モリ大佐出現です!まあ、このお話では事が終わった後で、ライラ共和国の研究員にまで身を落としてるんですけどね。
でもたぶん、野望は捨ててない。