鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-067 大佐は危険物』

 キースとジャスティン少尉が首都ソリッド・シティからアル・カサス城に帰還した時、彼らの乗ったミニバスは何台もの大型6連トレーラートラックとすれ違った。それらのトレーラートラックは、移動方向からして首都へと向かっている様だった。キースは呟く。

 

「ああ、なるほど。レパルス号とゾディアック号が、商用航宙から帰還したな。」

「あ、そう言えば深宇宙通信施設より、マーチャント級航宙艦クレメント号からの帰還報告と今回の航宙の収支報告が到着していましたね。」

「5日後には、今度はエンデバー号とレパルス号で1ヶ月の商用航宙に出るんだ。商品の買い付けと積み込みに、今は大忙しだろうな。……おっと。」

 

 アル・カサス城の城門前まで来た時、帰還の申告を守衛所に入れる前だと言うのに、城門が開いた。その理由は簡単である。中からメック部隊第2中隊が出て来たのだ。彼らはこれから、仮設遺跡基地へと向かい、1週間の遺跡都市駐留に入るのである。

 と、先頭に立って歩いていたヒューバート大尉のオリオンが、キースの乗ったミニバスに気付いたのか敬礼をしてくる。キースもいったんミニバスを降りて、答礼を返した。続く第2中隊のメックもヒューバート大尉のオリオンに倣い、敬礼をしつつ通り過ぎて行った。

 第2中隊が遺跡都市へ向かった後、キースはミニバスに戻った。運転席のジャスティン少尉が、既に搭載されている通信機で城門の守衛所へ連絡を入れたらしい。城門は第2中隊が出て行ったまま閉じないでキースたちの入城を待っている。ミニバスは、アル・カサス城の城内へと乗り入れた。

 

 

 

 やがて、いつもの司令執務室まで戻って来たキースとジャスティン少尉は、行き帰りの行程も含めて丸3日ばかり放置せざるを得なかった書類と、ユニオン級ゾディアック号のアリー船長、同級レパルス号のオーレリア船長に迎えられた。まあ書類は溜まっていたとは言っても、以前の一時期よりはずっと少なかったが。

 アリー船長、オーレリア船長が今回の商用航宙について、キースに報告する。

 

「今回は幸い降下船の事故も、商品相場の急落事故も無く、地味ですがそこそこの儲けを上げられましたな。」

「同じくですね。今回は充分な黒字を上げられたわ。まあ、わたしはすぐにまた1ヶ月商用航宙に出るんだけど。今、金属工業製品を大量に買い付けてるところよ。」

「エンデバー号のエルゼ船長も、今は商品の買い付けに大忙しだろうな。なんにせよ……。」

 

 キースは手元の決算報告書を見ながら称賛する。

 

「よくやってくれた!この調子で順調に稼ぎ続けられれば、部隊の予備費も更に潤う事間違いなしだ。隊の皆にボーナスも出せると言う物だ。ライラ共和国に来たためにDHビルが使えなくなるとか色々苦労をかけたからな、ちゃんと報いねば申し訳が立たん。」

「いえいえ、これも隊のためですからな。」

「ボーナス出るんですか!?」

 

 2人の船長は対照的な反応を見せる。キースはそれに苦笑した。アリー船長とオーレリア船長は、笑みを浮かべて言った。

 

「さて、それでは部隊司令も書類仕事に戻らねばならんでしょうからな。この辺で退出してもよろしいでしょうか。」

「わたしも商品買い付けと荷積み作業の監督があるので、いかないとだめね。」

「うむ、退出を許可する。ご苦労、船長たち。」

 

 アリー船長とオーレリア船長の敬礼に答礼を返し、キースは司令執務室を出て行く2人を見送った。

 

 

 

 アル・カサス城の指令室にて、キースは遺跡都市へ派遣されたサイモン老からの通信を受けていた。なお、今指令室の主スクリーンには、轟音と共に離床していくユニオン級降下船エンデバー号と同級レパルス号の姿が映っている。この2隻は、これから1ヶ月半の商用航宙に出て、部隊の運営費用の足しにすべく小金を稼いで来るのだ。

 キースはオペレーターに命じ、響く轟音をカットさせる。

 

「オペレーター、通信中だ。主スクリーンの音声をカットしろ。」

「了解です。……カットしました。」

「うむ、通信終了後に戻して置くのを忘れん様にな。……サイモン中尉、待たせたな。」

『いえいえ、このぐらいはかまいませんですわい、隊長。』

 

 サイモン老が通信回線の向こうで笑っているのが、なんとなくキースには分かる。サイモン老は話を続けた。

 

『それで、ですがの。遺跡都市のメック倉庫入口と思われる場所に、案内されましたがのう。どうやらわしらが調べた結果、特別な回路を組み込んだ、カード状の「鍵」が必要である事が判り申した。それが無しで無理矢理に開けた場合、メック倉庫が自壊する可能性がありますのう。どれほどの規模で破壊されるかは、ちょっとまだ判然としませんがの。』

「その「鍵」とやらは見つかっていないのか?」

『デイモン・レイトン大佐によれば、公爵家にもそれらしい物は伝わっていない模様ですのう。仕方ないので、今現在パメラ嬢ちゃん……軍曹が、障りが無い程度にコンピューターをハッキングして、情報を取りましてな。

 その情報を元に、わしとジェレミー少尉、そしてキバヤシ研究員が3人がかりで「鍵」の等価回路のハードウェアを組んどるところですわ。カードサイズじゃなしに、弁当箱大ですがの。』

 

 キースは自分でも気付かずに、ふっと笑う。

 

「ほう、キバヤシ研究員が……。彼はどうかね?」

『人間的には、少々気に食わん男ですわな。何処かしら高慢でもありますし、お近づきにはなりたく無い人物ですわ。しかしながら……。その能力、才能は認めざるを得ませんの。技術者としては、超のつく一流ですのう。また、指揮官としての訓練もきっちり正式な物を受けておるようですわ。他人を使うのが、妙に上手いですわい。』

「そうか……。」

 

 キースはキバヤシ研究員……モリ大佐について考える。

 

(モリ大佐か……。俺の前世で、メックウォリアーRPGリプレイおよびその小説版、バトルテックノベルの独立愚連隊シリーズでの敵役として登場した人物だけども……。俺が生まれ変わったこの世界では、小説版ではなしにリプレイ版の様だよな。なんと言ってもモリ大佐、無事に生きてる上に、ライラ共和国の研究員やってるんだからなー。

 しかし厄介な人物だよなあ。きっと未だに野望を捨てちゃいないんだろうなー。だけども、今はまだ雌伏の時だろ。とりあえず今すぐこの惑星を舞台に何かやらかすって事は、考えなくてもいいだろな。それより考えなくちゃいけないのは……。)

 

 サイモン老の報告はまだ続いていた。

 

『キバヤシ研究員について、ちょっと気になる事があるんですがの。周囲にいる他の研究員……どうも研究員にしては、妙に知識が無い男たちなんですがの。それらが、キバヤシ研究員の一挙手一投足を見張っとるみたいなんですわ。』

(あー、さもありなん。おそらく共和国の情報部員かなんかだろ、ソレ。モリ大佐を見張ってるんだろなー。)

『いったい何者なんですかのう……。』

「あー、あくまで何の根拠もない想像だが、キバヤシ研究員がドラコ連合からの亡命技術者って線はどうだ?」

『ありそうですわな。』

 

 キースはここら辺で話題を変える。

 

「それはとりあえず置いておこう。もう1つ大事な事がある。メック倉庫発掘も大事だが、共和国から送られてきた技術者たち相手に対し、テロが行われる可能性が無きにしもあらず、と言ったところなのは覚えているだろう?」

『無論ですわい。』

 

 真剣な声音で、キースは続けた。

 

「エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の3人に、貴官ら『SOTS』の整備兵を最大優先して守るように伝えてくれ。余裕があれば、他のライラ共和国からの技術者たちも守って欲しいが、あくまで余裕があればでかまわん。共和国からすれば技術者たちは至宝とも言える存在だ。しかし貴官らの方が、ぶっちゃけ大事だからな。

 なお第1歩兵中隊指揮官のエリオット大尉には、あらかじめ対テロの防衛体制を整える様に厳命してある。そちらに駐留中のメック部隊第2中隊、交代要員の第3中隊にも、同様の指示はしてある。」

『了解ですわ。』

「まあ、伝えたいことは以上だ。そちらからは何か無いか?」

『いえ、特には。メックや気圏戦闘機の状態も、キャスリン軍曹がいれば何とかしてくれますでの。』

「そうか、では以上だ。交信終わり。」

 

 キースは通信回線を切ると、オペレーターに言った。

 

「あー、オペレーター。もう主スクリーンの音声を戻していいぞ。」

「了解。音声戻します。」

 

 まあ、もうとっくにユニオン級降下船2隻は離床を終えて、静けさが戻って来ているのだが。主スクリーンには、残されたユニオン級ゾディアック号とフォートレス級ディファイアント号、滑走路脇のレパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号、そしてぽっかり空いた2つの離着床が映っているだけだった。

 

 

 

 数日後、仮設遺跡基地から通信が入った。通信をして来たのは、サイモン老である。緊急通信では無かったが、サイモン老は非常に慌てていた。司令執務室にて書類仕事をしていたキースは急遽呼び出され、副官のジャスティン少尉を従えて指令室に飛び込む。キースはオペレーターに命じた。

 

「司令席に回線を繋げ!……サイモン中尉、何があった?」

『やりましたわ、隊長!メック倉庫の入り口を開け、内部の管制をしている主コンピューターにパメラ軍曹がアクセス成功いたしましたわい!現在メック保存のため倉庫内部を満たしていた不活性ガスの排除を、主コンピューターを操作してパメラ軍曹が行っておりますでの!

 ちなみに惑星公爵閣下へのご報告は、レイトン大佐が行っておりますわい。それでわしは、隊長へのご報告を、と。』

「……そうか!!やったか!!」

 

 キースは思わず叫んだ。サイモン老は続ける。

 

『今は「代用鍵」の「弁当箱」が上手く働いておりますがの、正式なカード鍵と違っていつまで持つかわからんもんで、ジェレミー少尉、ネイサン軍曹の2人が指揮してメック倉庫自壊用の爆薬を取り外しておりますわい。未だ不活性ガスが抜けておらん場所での作業だもんで、軽環境用スーツと呼吸器やボンベが重いと、文句たらたらでしたがのう。』

「あー、充分に彼らを労ってやってくれ。」

『はい。それでパメラ軍曹が主コンピューターから取り出した情報をプリントアウトした物が、今手元にあるんですがのう。MASC装備のマーキュリー、ビーグル・アクティブプローブとCASE装備のマングース、エンドウスチールとフェロファイバー装甲装備のヘルメス等々……。遺失技術を用いたメックが、30~40機はある模様ですな。

 ただしあくまでコンピューターのデータ上の話ですがの。もしかしたら、実数を数えたら幾つか持ち出されていたとか、逆にもっと持ち込まれていたとか、あるやも知れませんがのう。あと、それらの交換部品。無論、遺失技術の部品ですな。XLエンジンやら、長射程型粒子ビーム砲やら……。それらが多数、倉庫内に収められておるようですわい。』

 

 思わず絶句するキースだった。サイモン老は更に続ける。

 

『通常技術のバトルメックは、もっと数多くある模様ですのう。それら用の部品群も。ヘスペラスⅡのメック倉庫には及ばないと言う話でしたし、事実及んでおらんのでしょう。しかし充分に大規模なメック倉庫ですわい。』

「……あー。キバヤシ研究員はどうしてる?」

『彼奴は冷静ですな。冷静にパメラ軍曹が主コンピューターから抜き出した資料を調べとりますわい。星間連盟時代の、技術資料の様ですがの。わしが見たところ、遺失技術に関する資料は少数で、普通のバトルメックに関する物が大半では無いかと思われますのう。』

「……それでも大した物だろう。」

『ですのう。先日送られてきた、中量級の整備マニュアルの山を見ておらなんだら、わしも大興奮しておったでしょうな。』

 

 キースは、ふと思った事を口に出した。

 

「……キバヤシ研究員以外の技術者たちは、どうした?代表者のウィルフレッド・カーニー博士とか?何か今まで聞いていると、キバヤシ研究員以外はうちの整備兵たちばかりが活躍している様だが?」

『あー、まあ……。役には立ってはくれもうしたがの、役には。だがせいぜいその程度ですわい。キバヤシの奴が来ておらねば、事実上わしらだけが働く事になっておったやも知れませんの。気に食わん男ではありますがのう。』

「……そうか。」

 

 サイモン老が、ここまで他人を悪く言うのも珍しい。ましてや相手は、彼が自分で認めるほどの技術者だ。モリ大佐とサイモン老は、どうやら相当に馬が合わない模様だった。

 

『まず不活性ガスの排除が終わりしだい、主コンピューターのデータと実機の数、部品群の備蓄状況をつき合わせて確認いたしますわ。その後で、遺失技術を用いたバトルメックから順に、再稼働整備を行う予定になっておりますわい。』

「わかった。以前惑星公爵閣下から電話で伺った話では、技術者たちが乗って来たユニオン級2隻を直接そちらの近くに降ろし、とりあえず遺失技術のバトルメックとその部品を積めるだけ積んで、ターカッドの研究施設に送るそうだが。」

『レイトン大佐より、同じ話は聞いておりますわい。ただ、資料通りの数があったとすれば、1回では運びきれませんの。』

「それはそうだろうが、おそらく後で追加の降下船を送って来るんだろう。」

 

 キースはサイモン老に、他の用件は無いか尋ねた。

 

「サイモン中尉、あとは何か無いか?不便な事があるとかでも良いぞ?」

『いえ、キバヤシの奴が気に障るぐらいですのう。』

「そ、そうか……。」

『まあ、以上ですな。ではまた後で、定時連絡しますわい。交信終わり。』

 

 仮設遺跡基地からの通信は切れた。キースは内心で物思う。

 

(……モリ大佐、サイモン爺さんに何やらかしたんだ。)

 

 その答えは、今のところ出そうになかった。

 

 

 

 さらに数日後の話である。司令執務室にて、キースは惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下からの直々の電話を受けていた。

 

『ハワード中佐、この度の技術者派遣、本当にご苦労だった。ありがたく思うよ。デイモン大佐の報告では、やはり共和国からの技術者たちは、まるっきり役に立たないと言う事も無かったようだが、さりとて彼らだけでは何ともならなかったらしいね。』

「は。いえ、1名凄腕が含まれていたとも聞いております。」

『ああ、キバヤシ研究員、だったかな?うん、それも聞いているけど、君らの部隊の技術者がいなければ、大変だっただろうとも聞いてるよ。』

 

 オスニエル公爵は、楽しげに続ける。

 

『しかしメック倉庫の中身は、中々凄かったらしいね。君たちに対する報酬も、期待してくれていいよ。とりあえず手付代わりと言っては何だけど、発掘された技術資料、遺失技術に関する物は除くけれど、それの複写を私の権限で許可しよう。もちろん、君たちに対する報酬をそれでお茶を濁すつもりは無いから、安心してくれていいよ。』

「よろしいのですか?重量級や強襲メックの整備マニュアルなどが発見されたと聞きますが。貴重な資料だと思いますが、それをこうも簡単にコピーさせていただいて、よろしいのでしょうか。」

『君たちが今後どこの継承国家に雇われるにしろ、それはまず間違いなくライラ共和国か恒星連邦のどちらか、だろう?思想的な物の調査はこれでも一応やっているからね。その2国以外に技術資料の内容が流れなければ、かまいはしないさ。』

「は……。」

 

 キースは心の内で思う。

 

(やっぱりこの惑星公爵閣下は、けっこうなやり手だよね。惜しいなあ。この方の妹にも代官になりそうな人物にも、この方の真似はできないよ、きっと。まあこの方自身が只の学者に戻る事を、切望とまではいかなくても希望されてらっしゃるしなあ。それにその方がこの方の能力を活かせるのかもね。)

『ああ、あとライラ共和国本国でも、君たちの事は高く評価しているらしいよ。何やら特別報酬も考慮されてるって話を、友人筋から仕入れたんだけどね。あと、何やら恒星連邦に返すのが惜しいとか言う話も聞こえて来るよ。ははは。』

「は。それは……。」

 

 キースは少々慌てた。彼は恒星連邦への帰還を望んでいる。多少ライラ共和国への派遣期間が長くなるぐらいは構わないが、帰れなくなるのは望むところでは無い。

 

『大丈夫だよ。無理を強いて、向こうとの関係にヒビを入れたくはないらしいからね。個人的には、返すのが惜しいとは私も思うけどさ。』

「……ありがとうございます。」

 

 ライラ共和国内部へのコネを、彼自身が持っていない事について、キースは今更ながら失敗したと思う。どうせ恒星連邦へ所属を戻すのだからと、彼はそちらの事はサイモン老に頼り切りでいたのだ。だがサイモン老は今、もうしばらくは遺跡都市に行きっぱなしだ。これではいざと言う時に、情報収集などを頼りたくとも頼れない。

 その後2、3の事柄を話した後、電話会談は終了した。その内容を反芻しつつ、今からでもライラ共和国内部にコネクションを作っておこうと、キースは考える。サイモン老がアル・カサス城に戻って来たら、第1に相談するべき事だった。

 

 

 

 3027年2月2日、仮設遺跡基地には現時点で第2中隊が駐留している。そして彼らとは別に、仮設遺跡基地には第1歩兵中隊が警備担当部隊として半常駐状態にあった。仮設遺跡基地は、現在遺跡都市の地下深くにある星間連盟期のバトルメック倉庫を発掘するための拠点になっており、そのために各種装備類が持ち込まれて様々に拡張されている。具体的には、崩れかかった建物を取り壊し、その跡地にプレハブ仕立ての仮宿舎を建てたり、発掘物を一時的に収めて置くための倉庫代わりの巨大天幕が建ててあったりした。

 一方、アル・カサス城とサンタンジェロ城はいつもと変わりない。サンタンジェロ城には第4中隊と第2歩兵中隊の第7、第8歩兵小隊が常駐している。そしてアル・カサス城には第1中隊と、第2中隊と交代で戻って来た第3中隊、それに第2歩兵中隊の第5、第6歩兵小隊、機甲部隊戦車中隊、気圏戦闘機隊全機が常駐していた。ただし気圏戦闘機隊は、CAP……戦闘空中哨戒に出ていて、いつも忙しい。

 このCAPは、ライラ共和国が寄越した技術者たちが到着した直後より、キースが特に命じて行わせた物だった。まあ普段でももっと頻度を少なくして、『SOTS』は気圏戦闘機を警戒に飛ばしてはいたのだが。しかし技術者たちが到着してからは……特にその中にモリ大佐がいると知ってからは、キースは本格的なCAPの計画を練って気圏戦闘機を飛ばし、数段厳重な警戒態勢を取っていた。

 そして今、キースは指令室の司令席にて、オペレーター陣を監督していた。と、副官席よりジャスティン少尉が声を上げる。

 

「キース中佐!惑星陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐からお電話が入っています!緊急だとの事ですが……。」

「司令席へ回せ!」

 

 キースは叫ぶ。すぐに司令席卓上の電話機が鳴った。キースは受話器を取る。

 

「こちら惑星守備隊司令官、キース・ハワード中佐です。」

『デイモン・レイトン大佐です。ハワード中佐、申し訳ありません。本来であらば秘匿性の高い、惑星軍と惑星守備隊との直通電話を使うべきであったのですが……。緊急性が高いと判断し、現場から直接に通常の電話回線を用いて連絡させていただきました。

 緊急事態です。さきほど宇宙港ソリッド・ポートから臨時便の降下船が飛び立ったのですが、それが惑星軍の対宙監視レーダーに映らなかったのです。故障ではありません、おそらくスパイの手による破壊工作です。これが意味する物は1つです。』

「!!……ジャスティン少尉、今地上に降りている『SOTS』の気圏戦闘機全機に、緊急発進の準備をさせろ!オペレーター、CAPに上がっている機体に対宙監視を強化させろ!敵が来る可能性が高い!アル・カサス城の全メック戦士に召集をかけメックに搭乗させろ!仮設遺跡基地の第2中隊およびサンタンジェロ城の第4中隊に緊急連絡、敵襲に備えろと伝えろ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 キースはデイモン大佐との話に戻る。

 

「レイトン大佐、こちらで今の段階で打てる手は打ちました。」

『ありがとうございます。……どこを狙って来ると思われますかな?』

「敵の規模によるでしょう。少数精鋭で遺跡都市を狙う可能性もあれば、大軍をもってして本格的再侵攻の可能性もまだ残されています。」

『了解です。情報2課より陸軍に警告を発し、もしもに備え戦闘準備をさせます。ではこれにて。』

「はい、失礼します。」

 

 電話は切れた。キースはオペレーターたちに向かい、叫んだ。

 

「俺はマローダーへ向かう!指令室とマローダー間に回線を繋いでおけ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 キースは衣類の襟元を緩めつつ、疾走した。

 

 

 

 キースがマローダーの操縦席に着いて10分もしない内に、CAPに上がっていた気圏戦闘機B中隊、ビートル2のアードリアン・ブリーゼマイスター少尉からの連絡が中継されて来る。

 

『こちらビートル2、アードリアン少尉!所属不明のユニオン級降下船とレパード級……否!レパードCV級を発見!所属確認と停船を命じます!……いえ!その必要も無い様です!敵ユニオン級及びレパードCV級より気圏戦闘機隊の発進を確認!敵機総数は8機!救援を要請します!』

「こちらキース・ハワード中佐!ビートル5、キアーラ少尉!ビートル6、アンジェル少尉!軌道変更し、急ぎビートル2の救援に向かえ!アロー中隊全機、およびビートル1、3、4は緊急発進せよ!指令室、オペレーター!各機にビートル2の座標を送れ!」

『こちらビートル2!敵機は50tコルセア戦闘機8機!識別マーク、ありません!降下船2隻も同様に、識別マークまったくありません!確認できないのではなく、識別マークなしです!

 ……!!……この敵機、凄腕です!アロー5、6、ビートル3、4、5、6では太刀打ちできません!アロー5、6とビートル3から6には、降下船を牽制する様に伝えてください!』

 

 キースは唇を噛み締める。そして彼は、即座に命令を下した。

 

「アロー5、6!ビートル3、4、5、6!貴官らは敵降下船を牽制しろ!アロー1、2、3、4!ビートル1!急ぎアードリアン少尉を助けに向かうんだ!

 メック部隊第1中隊!指揮小隊はレパード級降下船ヴァリアント号、火力小隊は同級ゴダード号、偵察小隊は同級スペードフィッシュ号に乗り込んで、緊急発進に備えろ!おそらく敵の目的地は遺跡都市だ!アーリン大尉、すまんが予測が間違っていた時のためにアル・カサス城で留守番を頼む!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 75tの重量級の機体マローダーが、キースの操縦に従って格納庫を出て、滑走路脇のレパード級降下船ヴァリアント号目指して走り出す。その後を指揮小隊のバトルメックが追い、火力小隊、偵察小隊が更にその後を走る。キースのマローダーに、気圏戦闘機隊ビートル3のオーギュスト少尉からの通信が中継された。

 

『こちらビートル3!駄目です、敵コルセア戦闘機に邪魔されて、降下船を牽制どころか……。あっ!?敵ユニオン級降下船、バトルメックを降下殻で射出開始しました!!』

「無理はするな、ビートル3!」

『こちらアロー1、マイク中尉っす!敵コルセア戦闘機を1機撃墜っす!アードリアン少尉、気圏戦闘機隊指揮官の権限で離脱を命じるっす!』

『アロー2、ジョアナ少尉です!敵コルセア戦闘機1機を撃墜!ビートル3が危険です、支援に回ります!』

『ビートル2、アードリアン少尉!機体損傷、離脱します!』

 

 敵コルセア戦闘機は、かなりの強敵である様だった。歴戦の航空兵であるアードリアン少尉が、味方増援の到着までの間、単機で逃げ回らざるを得なかったとは言え、大ダメージを受けて離脱するはめになったのだ。だが撃墜されるよりはずっとずっとましだ。

 キースはレパード級ヴァリアント号のハッチに機体を乗り込ませ、固定処置を完了させると、叫ぶ様に命令を下す。

 

「レパード級ヴァリアント号カイル船長!同級ゴダード号ヴォルフ船長!同級スペードフィッシュ号イングヴェ船長!緊急発進だ!目的地は遺跡都市!可能な限り、すっ飛ばして行け!」

『了解だよ、まかせておきたまえ隊長。』

『こちらも了解だ、部隊司令。』

『了解ですよ、隊長。かっ飛ばしますよ!』

 

3隻のレパード級は、順番に滑走路にタキシングすると離陸して行く。キースはリアルタイムでもたらされる気圏戦闘機隊の報告を聞きながら、心の中だけで思う。

 

(相手はまず間違いなくドラコ連合のニンジャ部隊だ!機体や船体に識別マークが無いんだ、大方間違いないだろうさ。機体が一般的なコルセア戦闘機なのは、自分の所属を特定されないためだろう……。となると、メックの機種もK型やドラゴンなんかは避けてるだろうな。

 まず相手の目的は、モリ大佐だ。モリ大佐はC3コンピューターの技術をその頭の中に持ってる。それ以外でも、ドラコ連合の機密レベルの技術知識を抱えてるだろうさね。それがライラ共和国の中で研究員やってる状態は、クリタ家としてはなんとしても解消したいはずだよな。そのモリ大佐が、ターカッドからこんな辺地にまで出て来たんだ。奴らにとってはチャンスだろ。けど、奪還するよりも殺害を狙うだろうな、たぶん。

 モリ大佐がどうなろうと構わんけど、『SOTS』の仲間が巻き添えになられちゃ困るんだよ!たぶん奴らは、モリ大佐個人を狙ったと思われる可能性を少しでも減らすため、皆殺し戦術を取るだろうさ!ちっくしょう、間に合えー!!)

 

 キースの内心の叫びを乗せて、3隻のレパード級降下船は遺跡都市目指して飛翔した。




モリ大佐、サイモン爺さんに思いっきり嫌われてます。ソレはともかく。
モリ大佐は、その頭の中にドラコ連合の機密情報を山と抱えたまま、ライラ共和国の捕虜となり、そのまま研究員をさせられています。ドラコ連合としては、この状態はなんとしても解消したいはず……。モリ大佐を消しにくるでしょうねー。
というわけで、ニンジャ部隊です。がんばれ、主人公。

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