レパード級降下船ヴァリアント号のエンジン音を背景に、キースのマローダーの操縦席にはアル・カサス城とヴァリアント号の通信設備を介し、気圏戦闘機隊からの報告が届いていた。
『アロー1、マイク中尉!敵コルセア戦闘機を撃墜っす!』
『アロー2、ジョアナ少尉です!敵コルセア戦闘機をビートル3と共同撃墜!』
『アロー3、ミケーレ少尉機!敵コルセア戦闘機をアロー4と共同撃墜!しかし当機も損傷を負いました!』
『こちらアロー1!アロー3、気圏戦闘機隊指揮官の権限を持って、離脱を命令するっす!おっと、アロー1、敵コルセア戦闘機を撃墜!』
『アロー3、了解!離脱します!』
さしもの強敵ニンジャ部隊の気圏戦闘機とは言えど、『SOTS』の気圏戦闘機隊の古株相手には分が悪かった様だ。敵機は残り2機にまで撃ち減らされている。だがそれでも、これまでにアロー3、ビートル2、ビートル4、ビートル5が離脱を余儀なくされていた。内、アロー3とビートル2は歴戦の古株だ。
『アロー1、マイク中尉機っす!敵コルセア戦闘機を撃墜!アロー5、6、ビートル3、6!改めて命令っす!敵降下船を狙うっすよ!』
『こちらアロー4、コルネリア少尉!最後の敵コルセア戦闘機を撃墜しました!ですが相討ちで機体損傷!離脱許可を求めます!』
『アロー1、了解っす!アロー4は離脱、残りアロー2、ビートル1は敵降下船を!……!?報告するっす!敵レパードCV級、エンジンを噴かして離脱軌道に入ったっす!ユニオン級は、強引に降下軌道へ!これより気圏戦闘機隊はユニオン級を追撃するっす!』
「マイク中尉、深追いは避けろよ!」
『了解っす、隊長!』
これまで必死で戦って来た気圏戦闘機隊だ。無事な機体でも、皆そろそろ推進剤がやばいはずである。と、ここでブリッジからイライダ副長の声が響く。彼女はスペードフィッシュ号船長に異動したイングヴェ中尉に代わり、ヴァリアント号副長となった人物だ。
『部隊司令、あともう少しで着きますよ。……ところで、なんでカイル船長やスペードフィッシュ号のイングヴェ船長は、部隊司令のこと隊長って呼ぶんですかね?』
「あー、『SOTS』でも一番古株の、かつて小隊規模だった頃から一緒の者たちは、俺の事を当時の呼び方のままで、隊長と呼ぶんだ。」
『なるほど。……っと、第2中隊から緊急通信です。現在降下してきた敵と戦闘中で、指揮小隊以外が旗色悪いらしいです。話をしてる余裕も無いみたいで、通信切れました。』
キースの表情が引き締まる。第2中隊は、指揮小隊はニンジャ部隊相手でも十二分に渡り合えるだろう。しかし火力、偵察の両小隊はそうはいかない。キースは第1中隊の偵察小隊小隊長、ジーン中尉とスペードフィッシュ号ブリッジに通信回線を繋いだ。
「ジーン中尉、イングヴェ船長、無茶な頼みがある。スペードフィッシュ号で敵上空を突っ切って、その際に偵察小隊はジャンプジェットで飛び降りて強襲して欲しい。全機がジャンプジェットを搭載しているのは、偵察小隊のみだ。敵を倒せとは言わん、引っ掻き回して混乱させるだけで良い。
敵を混乱させさえすれば、ヒューバート大尉の事だ。俺たちが近場に着陸して降下船から出撃するまでは、持たせてくれるだろう。」
『わたしは構いませんがね、隊長。ジーン中尉はどうでしょうか?』
『自分も了解です。』
「無理をさせて悪いな。」
そしてブリッジのイライダ副長から連絡が来る。
『船長は、戦場の近場に強引に着陸かますそうです!出撃準備願います!』
「了解だ!偵察小隊は!?」
『こちらジーン中尉、今から飛び降ります。偵察小隊各員、強襲降下用意!10、9、8、7、6、5……。』
そして凄まじい横方向のGと縦方向のGが交互にかかる。しかしキースの頑強な身体は、それにあっさりと耐えた。バトルメックの固定を解除し、開いたハッチからキースはマローダーを発進させた。隣のハッチからは、アンドリュー曹長のライフルマンが飛び出して来る。ヴァリアント号反対側のハッチからは、今頃エリーザ曹長のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトが駆けだしている頃合いだろう。
キースは叫ぶ様に命令を下す。
「第1中隊指揮小隊!全機全力疾走!火力小隊『機兵狩人小隊』も、可能な限り急げ!」
『『『『『『了解!』』』』』』
第1中隊の指揮小隊は、本来の最高速度を超える猛速で、メックに全力疾走をさせた。そのスピードは、86.4km/hに届く。これはシャドウホーク、グリフィン、ウルバリーンなど比較的高機動のメックの走行速度と等しい。卓越した操縦技量を誇る、第1中隊指揮小隊の面々だからこそ可能な芸当だった。
そしてやがてキースたちは戦場へと辿り着く。そのキースの目に映ったのは、格闘戦でヒューバート大尉のオリオンと敵の黒塗りのオウサムが、互いにパンチで相手の頭部を潰し合うところだった。キースは叫ぶ。
「ヒューバート!」
だがヒューバート大尉は、かろうじて機体からの脱出に成功していた。擱座するオリオンの足元に降り立った彼は、必死に走って安全圏へと移動しようとしている。とりあえず安心したキースは、指揮下の各機に命令を下しつつ、周囲を確認した。
「指揮小隊、全力疾走解除!……!?く、ひどくやられたな。」
見ると、第2中隊指揮小隊のウルバリーン、同偵察小隊のフェニックスホーク2機が、おそらく弾薬爆発したのであろう、四肢と頭部を周囲に四散させた残骸と化している。また、第2中隊火力小隊小隊長機のオストソルは、滅多撃ちにされてエンジンを破壊されたらしく、これも手足を周囲にばら撒いて爆散していた。恐るべきニンジャ部隊の実力である。
だがそれと引き替えにしたのであろう、黒塗りの敵のフェニックスホーク2機が手足を折り取られ、地面に横たわっている。また何機かの敵が爆発したと見ゆる痕跡が、そこかしこにあった。1個中隊12機はあったはずの黒塗りの敵バトルメック数は、7機にまで減少していた。
その残り7機の間を、先に降下していた第1中隊偵察小隊機が縦横に疾走し、ジャンプして攪乱している。さすがにその状態で敵に命中弾は与えられない様ではあるが。いや、隊長機のジーン中尉のグリフィンだけは、時折粒子ビームを命中させていた。流石の技量である。
キースは攻撃命令を下す。それと同時に彼は、第2中隊の残存機体の中で、最も序列の高い火力小隊副隊長機、ワンダ・エアハルト少尉のエンフォーサーに通信を繋いだ。
「第1中隊指揮小隊!この黒スケどもを叩き潰すぞ!まず狙い頃なのは……。右近場にいるクルセイダーだ!」
『『『了解!』』』
「ワンダ少尉!損害報告を!」
『は!アーデルハイト中尉のオストソルが破壊、グレーティア少尉のウルバリーン、アラン中尉とレノーレ伍長のフェニックスホークの3機が爆散いたし、中隊長のオリオンが敵オウサムと相討ちになった他は、軽度の損傷があるだけです!敵は単機ずつ集中砲火により仕留める戦術を用いましたので!ですがメック戦士は全員が脱出を確認しております!』
キースはクルセイダーに粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門を送り込みつつ、内心一安心していた。メックが4機も完全破壊されたのは痛いが、一応貧弱だとは言え予備メックは4機存在する。メック戦士が無事ならば、それはそれで諦めもつく。第1中隊指揮小隊からの集中砲火を浴びた黒塗りのクルセイダーは、左胴の装甲を食い破られて15連長距離ミサイルの弾薬が誘爆、胴体を上下に分割される形で吹き飛んだ。
「……アンドリュー曹長!総大将っぽいストーカーを狙え!俺も奴を狙う!マテュー少尉とエリーザ曹長は、敵のウォーハンマーだ!……追い付いてきたな、『機兵狩人小隊』!そちらから近場にいるカタパルトを頼む!ジーン中尉、偵察小隊はそのまま敵陣を引っ掻き回せ!第2中隊は黒塗りシャドウホークに集中砲火を加えろ!」
キースたち指揮小隊から見て、敵のストーカーとウォーハンマーは丘陵陰の部分遮蔽状態にあった。キースたちは丘の稜線をガイド代わりに用い、そこから姿を現している敵機の上半身を狙い撃った。
アンドリュー曹長機の撃ち放った中口径オートキャノン2門が、ストーカーの頭部に連続して着弾し、それを吹き飛ばす。エリーザ曹長機の粒子ビーム砲が、敵の同型機たるウォーハンマーの頭にぶち当たり、その装甲を貫いてメック戦士を死亡させる。ほぼ同時に行われた敵の砲撃は、キースのマローダーを集中して狙った。キース機の機動回避により、その3割程度しか命中弾は無い。だがその攻撃は、キースのマローダー右脚に集中してぶち当たった。
「!!……放熱器を2基やられたか。あと1発でも右脚を撃たれたら、折れるな。」
『隊長!下がって指揮に集中してください!』
『マローダーの火力は惜しいけど、隊長が墜とされでもしたらまずいわよ!』
マテュー少尉とエリーザ曹長が口々に叫ぶ。キースは頷いた。
「わかった。前線構築は頼むぞ。」
キース機はゆっくりと後退する。その時、敵の黒塗りカタパルトとシャドウホークが、爆炎を噴き上げた。弾薬に直撃をくらったのであろう。
「……俺、下がる必要無かったかもな。」
残る敵機は、黒塗りのサンダーボルトと黒塗りのアーチャーだ。が、そのサンダーボルトも、ジーン中尉のグリフィンが後ろから撃った粒子ビームに、頭を貫かれる。と、突然キースは叫ぶ。
「全フェニックスホーク、その機動力で敵アーチャーの動きを止めろ!奴は死ぬ気で任務を果たすつもりだ!仮設遺跡基地を守れ!」
はたして敵のアーチャーは、突然に全力疾走を行った。前に回り込んだアロルド・エリクソン軍曹のD型フェニックスホークが、全力の86.4km/hの体当たりを受けて跳ね飛ばされ、右腕と右脚を失う。反動で自機も大きく損傷を受けながら、それでも敵アーチャーは全力疾走をやめない。
「くそ!第1中隊指揮小隊!全開射撃!なんとしても、やつを止めろ!」
言うと同時に、キースは自機を全速で前に出させた。そして届く武器全てでの、過熱覚悟の全開射撃を行おうとする。片脚の放熱器2基を失っているキースの機体では、それは多大な負担になるが、他に方法が無かった。
黒塗りのアーチャーは、射撃位置として適切な場所に着くと、動きを止めた。そしてその2基搭載されている20連長距離ミサイル発射筒を、遺跡基地のある1点に向けた。キースはそこにモリ大佐がいるであろう事を、直感的に悟る。
(スパイかなんかが、ビーコンでも仕込んだか!?くそ、中れっ!!)
キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を、アンドリュー曹長のライフルマンが中口径オートキャノン2門を、エリーザ曹長のウォーハンマーが粒子ビーム砲2門を、マテュー少尉のサンダーボルトが15連長距離ミサイル発射筒を、それぞれ撃ち放つ。他にも部隊のメック戦士たちが、当たり目があると思われる武器を集中砲火した。
しかしこの距離で中る可能性が高いのは、第1中隊指揮小隊だけだ。それも、可能性が高いとは言っても敵が全力疾走して射程距離ぎりぎりの上、自分たちも走っているためになんとか五分五分程度だ。後の者は、せいぜいが5%前後の確率があるに過ぎない。キースは精神を集中させて、アーチャーの背中を狙う。
(墜ちろーーー!!)
キースの射撃は、全弾が命中した。しかしその着弾は散り、敵機に致命傷は与えられない。指揮小隊の射撃の約半分が、確率通りに命中した。敵アーチャーは左腕を吹き飛ばされる。だがまだ黒塗りのその機体は立っていた。勝ち誇った様にも見えるその黒いバトルメックは、照準を遺跡基地に合わせて長距離ミサイルを射撃しようとする。距離的には長距離ミサイルの射程ぎりぎりだが、このメック戦士の技量ならば間違いなく命中させるだろう。
(駄目か……!頼む、外れてくれ!サイモン爺さんたち、せめて巻き込まれないでくれ!)
そしてキース機の中口径オートキャノンにより装甲が剥げていた敵機背中左側に、長距離ミサイルが命中する。黒塗りのアーチャーは、弾薬に直撃をくらって大爆発を起こした。
『あ、え!?あ、中った!』
「……よくやった!イヴリン軍曹!」
それはイヴリン軍曹のサンダーボルトが放った、15連長距離ミサイルの一撃であった。彼女は第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』中でも、最も技量が低い。この遠距離射程での命中率は、3%にも満たなかったであろう。しかし彼女はその低確率を突破し、見事敵アーチャーを撃墜してみせたのだ。
キースは叫ぶ。
「よくやった!ボーナス物だぞ、期待しておけ!」
『え、あ、は、はい!!』
『隊長、イヴリン軍曹にはボーナスよりももっと良い物があるんじゃないかな?』
エリーザ軍曹が、楽しげな様子で突っ込みを入れる。だがキースは聞いていない。キースは今しがた叫んだ直後、とんでもなく嫌な予感に襲われていたのだ。その予感は的中する。レパード級降下船ヴァリアント号を介して、マイク中尉からの通信がキース機に届いたのだ。
『隊長!マイク中尉っす!気圏戦闘機隊、推進剤と、特にアロー中隊機は弾薬切れっす!敵ユニオン級降下船が、強引に遺跡都市方面に降りて行ったっすよ!』
「!?……レパード級ヴァリアント号!同級ゴダード号!同級スペードフィッシュ号!申し訳ないが、もう一働きしてくれ!敵ユニオン級を牽制、可能であれば撃沈するんだ!」
『了解だよ、任せてくれたまえ隊長。』
『ふむ。やってやろうじゃないかね、部隊司令。』
『ちょっとばかり、やってやりましょう隊長。』
3隻のレパード級降下船が発進する。既に空の彼方には、球体状のユニオン級降下船の影が見えていた。キースは檄を発する。
「『SOTS』全機!対空戦闘用意!叩き落とすぞ!」
『『『『『『了解!!』』』』』』
キースは『SOTS』第1、第2中隊機の内で動ける機体を率い、敵ユニオン級の降りて来る方へメックを走らせた。ユニオン級はキースらの上を射撃しながら通り過ぎようとする。目的はやはり、モリ大佐のいる簡易遺跡基地中央部なのであろう。
レパード級3隻が、粒子ビーム砲や20連長距離ミサイル発射筒より砲火を放ちながらユニオン級の周囲を飛び回った。まるで気圏戦闘機である。
『いいいやああぁぁっほおおおぉぉぉ!!』
『うむ、これだよ、これ!この感じこそ戦いだ!』
『ひゃっほーーー!!』
レパード級3隻を操る初老の紳士方の叫びが聞こえて来る。とても紳士とは思えないが、普段は紳士なのである。背後から副長たちの悲鳴が聞こえて来るが、気にしてはいられない。キースは命を下す。
「各機、機動回避!目標、敵降下船下部エンジン部!撃て!!」
『『『『『『了解!』』』』』』
粒子ビーム砲が、中口径オートキャノンが、長距離ミサイルが、大口径レーザーが、各々発射されて敵降下船底部にぶち当たる。マイク中尉たちの健闘でずいぶんと装甲が弱っていたそこは、それでもしばらくの間持ちこたえた。キースたちのバトルメックにも、若干の命中弾が来る。
しかしついに限界が訪れた。ユニオン級のエンジンの1つが火を吹き、緊急停止した。巨大なユニオン級がぐらりと傾き、地上へと降りて……いや、落ちて来る。敵のユニオン級降下船は、斜めになって地面に落着した。それでもそのユニオン級は、必死に武器を撃ち応戦する。だがその火線はこれまでの半数にも満たない。船体が斜めになっているためか、射撃の精度も極めて低かった。
(降伏する様子は無さそうだよな……。これがニンジャ部隊って言う物かよ。)
『隊長、どうします?』
マテュー少尉の問いに、キースはマローダーの粒子ビーム砲になっている腕を掲げて答えた。
「やると言うんだから仕方ない。こちらも徹底的にやるしか無い。……いや、待て!全機一時撤退!急げ!」
『へ?』
『あ、え?』
「急げといったろうが!敵が自爆する可能性がある!」
『『『『『『了解!!』』』』』』
キースたち『SOTS』第1、第2中隊機は全力でメックを下がらせた。空のレパード級3隻も、高高度へ上昇して距離を取る。そしてキースの予想通り、ユニオン級は大爆発を起こした。周囲に爆風が吹き荒れる。かろうじてキースたちはその影響外へ出る事に成功した。
(これがニンジャ部隊か……。恐ろしいもんだなあ。ぶっちゃけ、もう2度とこう言う手合いの相手は御免だよ。まあ、降下船を残して置いて、航行データから何処から来たのかとかバレるわけにいかないのもわかるけど……。
メック戦の戦場からは充分離れてるから、脱出したヒューバートたちには影響は無いとは思うけどさ……。大丈夫だろうな?)
『うわぁ……。』
『な、何考えてるんだ……。』
隊員たちは、貴重な降下船をあっさりと爆破した事に驚きあきれ、恐怖した。キースは簡易遺跡基地に通信を入れる。
「こちらキース・ハワード中佐。簡易遺跡基地、応答せよ。」
『こちら簡易遺跡基地、エリオット大尉。キース中佐、今アル・カサス城より自分の判断で、軍医キャスリン軍曹をフェレット偵察ヘリコプターで来させるように命じました。』
「誰か怪我人でも?いや、もう手は打ってあるんだな。なら、時系列順に出来事を報告してくれ。」
エリオット大尉は報告を開始する。キースは静かにそれを聞く。
『はっ。メック部隊による襲撃と時を同じくして、数人の狙撃手が現れました。狙撃手の狙いは、研究員たちであった模様です。狙撃手の排除は我々第1歩兵中隊により、速やかに行われました。全員射殺し、捕虜はおりません。……ですが、その後に問題が。』
「……続きを。」
『狙撃手の排除に我々歩兵小隊が手を取られている間に、爆弾を持った工作員……。いえ、人間爆弾7名1個分隊が地下の下水道跡より潜入し、これも研究員を狙って突撃をかけてまいりました。エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹ら偵察兵3名により人間爆弾は射殺され、脅威は排除されたのですが……。1人の人間爆弾が自爆し、エルンスト曹長が重傷を負いました。
幸い、第2歩兵小隊小隊長ラナ少尉は、キャスリン軍曹には及ばないものの医療のエキスパートです。応急処置に成功し、現状命には別状有りません。設備の整った場所に運びしだい手術の必要はある様ですが。キャスリン軍曹の意見も聞きたいところではありますが、ラナ少尉によれば後遺症も残らない物と思われるとの事です。』
キースは大きく息を吐いた。
(あぶないところだった……。エルンスト曹長が死ななくてよかったよ、ほんと……。)
『キース中佐、どうされますか?』
「ああ。2個小隊を派遣してくれ。メックは倒したが、メック戦士が生きている機体がいくつかある。捕虜に取れるかどうかはわからないが……。ああ、第1歩兵小隊は避けてくれ。貴官にはそちらの指揮を頼みたいからな。」
『了解しました。第3、第4歩兵小隊を送ります。』
「以上だ。交信終わり。」
その後、キースは擱座したバトルメック、破壊されたメックの散乱した部品、ユニオン級の残骸などの回収を麾下のバトルメック部隊に命じた。予想通り、敵メック戦士の捕虜は取れなかった。全員が服毒して自害していたのである。
キースは簡易遺跡基地にて、ヒューバート大尉より事情の聞き取りと説教をしていた。ヒューバートは被撃墜時のダメージで、体中に包帯を巻いている。キースは懇々と言い諭した。
「……あの時点で、敵バトルメックのうちでも絶大な火力を持つ80tオウサムを何とかしておかねば、また被撃墜者が出る可能性が高かったのは理解できる。そのために一撃必殺の可能性を持つ格闘戦を選んだのもな。しかしだな、ヒューバート大尉。貴官は中隊指揮官だ。あえてその役割を部下に任せ、指揮を継続するべきでは無かったか?事実、相討ちの形で貴官は撃墜された。」
「はっ!軽率でありました!申し訳ありません!」
「反省している様だからな。これ以上は言わん。しかし始末書は書いてもらうぞ?」
「はっ!了解です!」
キースは頷く。そして肩を落としている4名のメック戦士に顔を向ける。彼ら彼女らも、包帯だらけだ。
「さて……。アーデルハイト・エルマン中尉、アラン・ボーマン中尉、グレーティア・ツィルヒャー少尉、レノーレ・シュトックバウアー伍長。」
「はっ!自分の至らなさで貴重な機体を失い、まことに申し訳ありませんでした!」
「この償いは、いかようにも……!」
「あー、違う違う。そうではない。よく生きて戻ってくれた。これはヒューバート大尉にも言える事だ。本当に5人とも、よく生きて帰って来た。」
「「「「!?」」」」
ヒューバート大尉以外の4名は、目を丸くして驚く。ヒューバート大尉だけは、頬を緩めていた。キースは続けて言う。
「機体を失った事は、確かに残念だ。だがあれは貸与した機体だからな。損したのは俺だ。貴官らや貴様が損したわけではない。だからそんなに気に病むな。それにヒューバート大尉の証言で、貴官らや貴様に被撃墜の責任が無かった事は理解している。俺が貴官らや貴様の実力を疑う事など無い。」
「は、はあ……。」
「いえ、しかし……。」
「ですが……。」
「え、えと……。」
キースはにやりと笑う。
「今回の敵は、ぶっちゃけた話、正体不明だ。正式な戦闘と認められるかも怪しい。で、アル・カサス城にいるMRB管理人のウォーレン・ジャーマン氏に確認を取ったところ……。駄目だと言う話だ。戦闘報酬も弾薬も装甲板も支給されん。」
「「「「ええっ!?」」」」
「で、だ。契約ではこう言った相手との交戦の場合、鹵獲品は全て接収可能だ。フェニックスホーク2機、サンダーボルト1機、ウォーハンマー1機、オウサム1機、ストーカー1機の計6機。それと爆散した機体の残骸から回収したパーツ類。自爆したユニオン級の残骸から取って来た、なんとか形が残っていた物品類。全部うちで接収できる。
強襲型の2機は部品取り寄せに苦労するが、その他の機体であらば修復して貴官らと貴様、計4名に新たに貸与するのに何ら問題は無い。フェニックスホークに乗っていたアラン中尉とレノーレ伍長は同一機種を貸与される事になるが、他の2名は機種転換訓練で苦労してもらう事になる。ま、そのぐらいは我慢してくれ。」
キースの寛容さに、4人は思わず落涙する。キースはくすぐったい雰囲気に耐えきれず、退出命令を下した。
「あー、以上だ。退出してよろしい。……ゆっくり休んで、傷を癒す様に。」
「「「「了解!!ありがとうございます!!」」」」
4人のメック戦士たちは、仮の司令室を退出して行く。キースはこの部屋に彼とヒューバート大尉だけになったのを確認すると、頭を抱えた。
「あー、どーすんだよ。商用航宙からエンデバー号とレパルス号が帰還するまで、まだ20日はあるんだぞ?気圏戦闘機隊も、メック部隊第1中隊も第2中隊も、大損害だよ。鹵獲機で収支それ自体はプラスだけどさあ……。メック完全修理したら、今ある現金がごっそり減っちまうよ。強襲型2機の修復を断念して先に回しても、充分痛い。先頃、部隊員にボーナス出したからなあ……。
かと言って、ボーナス出さないなんてのは、あまりにもあんまりだろ。金がある時に出しておかないと、駄目だろ。あー、早く今回の契約終わらないかなあ。契約が終われば、後払いの契約金ががっぽり入って来る。」
「申し訳ないな、キース。俺が脱出するはめになってさ。」
「恨むぞー、ヒューバート。操縦席は高い。Cビルで20万もする。ライラ共和国の備蓄をSHビルで買えるから、18万2000SHビル……。それがヒューバートのオリオンと、あとサンダーボルトとウォーハンマーの3機。他にも細々した部品。
フェニックスホーク2機は手足が無くなってるけど、あれは爆散したフェニックスホークの腕と脚を拾って来てあるから、なんとかなるが。ああ、でもアロルド軍曹のD型フェニックスホーク、右腕と右脚破壊されてるんだよなあ。散らばったのを拾って来たパーツと予備部品で、直ればいいんだが……。サイモン爺さんに聞いてみないと。
そうだ、サイモン爺さんと弟子たちにも、アル・カサス城に帰って来てもらわないと。もうメック倉庫は開いたから、いいだろ別に。それとそのうちには、オウサムとストーカーもきちんと直さないと……。あれも頭飛ばしたから、操縦席を更に2機分……。しかも強襲型だから、制式部品がなかなか手に入らない……。あと気圏戦闘機隊……。青息吐息で帰還してきたそうだけど、損傷がかなり……。」
キースはがっくりと凹む。ヒューバート大尉は、キースの人の良さに苦笑すると共に感謝する。オリオンはヒューバート大尉の個人所有機であり、他の傭兵部隊だと下手をすれば修理代を自分で払わねばならないのだ。
キースは溜息を吐いて言葉を紡ぐ。
「ふぅ……。まあ死者が出なかっただけ、運が良かった。今回の敵は、並じゃ無かったからな。ヒューバート、いやヒューバート大尉。とりあえず一時的に俺と第1中隊が仮設遺跡基地に詰めるから、戦利品と損傷メックを担いでアル・カサス城に帰還してくれ。サイモン中尉は俺のところに残すが、弟子たちを連れて行くのを忘れずにな。
あとは……。ユニオン級の自爆跡から拾って来た物品類。爆散したメックのばら撒いた部品のうちで、うちの部隊では使い道の無い物。うちの部隊からは無くなった機体……60tオストソルだが、それの予備部品のうち他機種に流用できない物。そう言った物を売れるだけ売り払ってしまおう。可能ならCビルで。
まあ、それは俺がアル・カサス城に帰ってからだな。とりあえずは、当面アーリン大尉と相談してアル・カサス城の指揮を頼む。」
「は。了解です。」
「それと俺が戻るまでに始末書を仕上げて、副官のジャスティン少尉に預けておく事。」
「……は。了解です……。」
最後にオチをつけるキースとヒューバート大尉だった。
キースは仮設遺跡基地にいる間に、ライラ共和国から派遣されてきた技術者たちの様子を見に行ってみた。間近で戦闘が行われ、狙撃手や人間爆弾に狙われた事もあり、技術者の半数は少々調子を崩している模様である。だが半数は、平気な顔をしていた。
(あー、たぶん平気な顔してるのは、モリ大佐の監視役の人員だなー。研究者てぇのは、あくまで表向きなんだろ。その実態は、強面の情報部員てえ所、か。……ん?)
「ハワード中佐。」
「何でしょう、キバヤシ研究員。」
モリ大佐は、不敵な笑みを浮かべてキースに相対した。
「単刀直入に言おう。貴官の郎党のサイモン中尉、俺に譲ってくれんか?駄目ならば、その弟子たちの1人なりとても良い。優秀な研究助手が欲しくてな。」
「お断りします。」
「ふ、一刀両断だな。」
キースは笑顔を浮かべて言う。だがその眼は笑っていない。
「彼らは優秀な研究者ではありますが、それ以前に本質として整備兵なのですよ。研究助手としての生活には向かんでしょうな。それに……。はっきり言いますが、サイモン中尉は貴方を嫌っています。そして貴方の提案では、自分およびサイモン中尉、そして自分の部隊に利益が無い。」
「ふむ。だから弟子でも良いと言ったんだがな。それに利益ならば今はまだ無いかもしれんが、将来的には話は違って来る予定なのだが。何なら、サイモン中尉単独ではなしに貴官まるごとでも構わんよ。いや……俺にとっても、その方が良さそうかな?」
「あいにく自分は、近視眼的ビジョンの持ち主なのですよ。長期的利益も欲しいには欲しいですが、短期的な事物を乗り越えられなければ意味が無い。」
モリ大佐は笑顔のままで言った。
「交渉決裂だな。残念だ。」
「自分としては、ほっとしていますがね。」
「……貴官には、今回の件で礼を言うべきかな?」
モリ大佐の言葉に、キースは笑顔を崩さずに応える。
「ライラ共和国からの派遣技術者の皆さんを守るのは、惑星守備隊として当然ですからね。ですが礼を言っていただけるのであれば、受け取りましょう。礼儀ですからね。」
「では、「ありがとう」だな。ふっ。」
「いえ、「どういたしまして」ですね、キバヤシ研究員。」
モリ大佐は踵を返すと、去って行く。キースは小さく息を吐いた。流石にモリ大佐は徒者では無い。相対していた短い時間で、キースは少々精神的に疲労していた。と、そこへ話し掛けて来る者がいる。まあキースは恒例の如く、近づいて来る気配を察知していたので驚きはしなかったのだが。
「あー、もしもし?」
「はい、何でしょうか。」
「モリさんと何かお話しで?」
この程度の引っ掛けには、キースは動じない。
「モリ?キバヤシですよね?」
「ああ、そうです。キバヤシ、キバヤシ。いけないっすねえ。日系の人の名前は、紛らわしいです。」
「そうですか?……ところで貴方は?」
「あー、俺はアルバート・ウィーナーって言う歴史学者っす。今は共和国に雇われて、この惑星ソリッドⅢのメック倉庫発掘の手伝いに来たんす。よろしく、キース・ハワード中佐。」
キースは遠い目になる。
「アルバート……。ああいや、すみません。自分の恩人にアルバート・イェーガーと言う人がいましたので、つい。」
「へえ、その人は?」
「今は故人です。」
「あ、そ、そうですか……。」
キースは心の中で、アルバート中尉にダシにした事を深く深く詫びる。だがおかげで、相手の勢いは弱まった。キースは言葉を続ける。
「キバヤシさんからは、私の郎党の整備兵を研究助手として引き抜きたい、と頼まれただけですよ。無論、お断りしましたがね。」
「あー、そうですか……。」
「あとは皆さんを守った事で、お礼も言っていただきましたよ。別に当然の義務なのですがね。」
「あー、いえいえ。お礼を言うのは当然すね。俺からも、ありがとうございます。」
キースは微笑んで応える。
「どういたしまして。……それでは自分は、メックのところへ戻らねばなりませんので。」
「あ、はい。忙しいところ、失礼したっすね。では。」
「はい、また今度。」
キースは踵を返す。その時、後ろからの小さな小さな呟きを、キースの鋭敏な聴覚は捉えていた。
「……俺の勘も鈍ったっすかねえ?なんかありそうな気がしたんだけど……。」
内心でキースは舌を出し、その場を立ち去った。
というわけで、モリ大佐を消しに来たニンジャ部隊との戦いでした。もの凄い大損害を被って、しかも戦闘報酬なし!
まあその分、戦利品の権利は全て認めてもらえますけれど。でも現金が足りなくなりそう。ぴんちです。
そしてさようならモリ大佐。ありがとう。おかげでストーリーのネタが稼げました。