簡易遺跡基地から送信されてきた、メック部隊第2中隊中隊長であるヒューバート大尉からの報告書を読みつつ、キースは息を吐いた。
「ふう……。メック倉庫から発掘された、遺失技術を用いたバトルメック中の24機と遺失技術パーツ類は、第1陣としてユニオン級2隻でターカッドに向けて送り出された、か。残るは今回積み切れなかった遺失技術パーツ類と、遺失技術バトルメック16機。これも降下船が来しだい、ターカッドへ送られる、と。
膨大な数の通常型バトルメックと通常パーツ類はこの惑星の輸出産業として、徐々に星系外へ送り出される事になる、か。遺失技術メックの対価は、あえて取らずにターカッドへの貸しにする……。惑星公爵オスニエル閣下はやはり大胆な決断ができるお人だな。近視眼的な人物であらば、ここぞとばかりに何か共和国へせびっただろうに。
おそらくは、いずれたっぷり貸した分の利子を取るおつもりなんだろう。」
「隊長、奴はどうしましたかの?」
敵ニンジャ部隊から鹵獲したバトルメックや、損傷した部隊のメック、気圏戦闘機の修理状況を報告するため、司令執務室へ来ていたサイモン老が訊ねて来る。キースはサイモン老に不機嫌になられては困る事もあり、サイモン老にとっての吉報を口にした。
「キバヤシ研究員なら、遺失技術メック第1陣と共にターカッドへ帰ったよ。静態保存状態にあったバトルメックを動かせる様に再稼働整備するのは、ウィルフレッド・カーニー博士以下その他の研究員たちでも可能だからな。」
「そうですか!!いやあ目出度い!!二度と会う事の無いよう、祈りますの!!」
(……ほんとにモリ大佐、サイモン爺さんに何やったんだ。)
サイモン老のあまりの喜び様に、キースは少々引いた。まあだが、キース自身も、モリ大佐にはあまり会いたくはなかったのだが。キースはこの話を打ち切り、本題へと戻す。
「あー、それでだ。部隊のメックと気圏戦闘機、それに鹵獲機の件なのだが。」
「おお、失礼しましたの。まずは部隊の中で、損傷が一番大きかったアロルド軍曹のD型フェニックスホークですがの、残骸の中から拾って来た部品と部隊の予備部品で綺麗に直っておりますの。ヒューバート大尉のオリオンも、新規購入したオリオン用操縦席と部隊の備蓄で完全に直っておりますわい。
次は鹵獲機ですわな。アラン中尉とレノーレ伍長に貸与するために、腕と脚が無くなった達磨状態の鹵獲フェニックスホーク2機に、うちの部隊の爆散したフェニックスホークの、拾って来た腕と脚を取り付け申した。これ以上無いぐらいに、綺麗に直りましたでの。
そしてオストソルを失ったアーデルハイト中尉のために70tウォーハンマーを、ウルバリーンを壊されたグレーティア少尉のために65tサンダーボルトを、それぞれ部隊の備蓄部品と購入した部品で修理いたしましたわい。既に全機、第2中隊に引き渡しておりますわ。」
「ほとんどが、部隊の備蓄部品で何とかなったのは喜ばしいな。オリオン、ウォーハンマー用の操縦席は新規購入だが……。メック倉庫にそれらの機種の部品が数多くあったんで、それを共和国の備蓄部品と同条件で購入できたのは、ありがたかった。共和国に注文すると、届くまでに時間が物凄くかかる。公爵閣下には感謝だな。」
キースの表情は、だがしかし優れない。
「が……。部隊の備蓄部品を大量に今回の修理で使ってしまったため、サンダーボルト、ウォーハンマー、フェニックスホーク用部品群が心許ない。いざと言う時のために購入しないといかんのだが、現金が輪をかけて心許ない。ライナーが電卓を弾いて、引き攣ってたよ。
サイモン中尉、流用が利かないオストソル用部品群、うちに無い機種のメック、たとえば爆散したカタパルトの手足の部品とか、あとはユニオン級の自爆跡から拾ってきた色々な物品群。売れる物は全部売り払える様に、分別して手入れしておいてくれたか?」
「それは今やっておる最中ですわ。しかし、オストソル用やカタパルト用部品でも流用が利く物は残しますでのう。あまり高く売れる物は、それほどは……。」
「そうか……。俺のマローダーも、右脚がひどくやられてたからな……。放熱器が2基ともやられたし。たぶん備蓄部品でなんとかなる範囲だと思うが……。操縦席とかジャイロとかよりは高くつかないと思うんだが……。」
サイモン老が慰める様に言う。
「大丈夫ですわ。放熱器はさほど高価な部品ではありませんからの。あとは交換用マイアマーが多少と、装甲板だけで修理できましたわい。」
「いや、他にも気圏戦闘機があるからな。かなりの機体がボロボロだったそうだが……。」
「それも大丈夫でしたわい。危険なほど装甲をやられてはいましたが、逆に言えば装甲だけで済みましたからのう。長い時間単機で敵から逃げ回らざるを得なかったビートル2のトランスグレッサー戦闘機以外は、装甲板の換装だけで済み申す。」
「ビートル2、は?」
キースの問いかけに、サイモン老の頬がぴくりと僅かに引き攣った。それを見逃さず、キースは溜息を吐く。
「はぁ……。遠慮なしに言ってくれ。」
「……備蓄部品では足りずに、部品発注が必要ですわ。」
「そうか……。」
重い沈黙が満ちる。それに装甲板や交換用マイアマー……疑似筋繊維が安い物の様に言っているが、それはあくまで比較問題である。操縦席やジャイロなどと言う高額部品に比して安いと言うだけであり、装甲板などは1tにつき1万Cビルも必要だ。あげくに装甲板もマイアマーも、大量に必要な類の品である。
「……忘れるところだった。たしかこの辺に……。」
キースは書類の束から、武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹の報告書を取り出す。そこには交換用の予備弾薬が残り少なくなっている事が書かれていた。
「正規の戦闘行動と認められないってのは、辛いもんだなあ。いや、戦利品のおかげで総額的には儲けてるんだが。」
「あー、気圏戦闘機隊は、今回の戦いで最大口径オートキャノンの砲弾を完全に撃ち尽くしてますからのう。」
「他にも俺のマローダーとアンドリュー曹長のライフルマンが、中口径オートキャノンをほぼ弾切れになるまで撃った。実弾兵器を載せてるメックは、他にもまだ沢山ある。」
正規の戦闘行動と認められるのであれば、契約によって損耗した装甲板や消耗した弾薬は、ライラ共和国側から支給される。だがこの前の戦いは、相手が正規部隊ではなかったどころか、何処の誰ともわからない相手との戦いであった。いやキースには、その正体はおおよそ検討は付いていたのだが。このため、前回の戦いは正規の作戦行動とは認められなかったのだ。
なにはともあれ、前回の戦いにかかった費用は、すべて『SOTS』側の持ち出しとなっていたのだ。無論この様な事態に備え、『SOTS』では部品も装甲板も弾薬も、きちんと備蓄してはいる。してはいたのだが……。備蓄はそれほど大量にあるわけでは無い。何度も同じような事態が起きれば、足りなくなるのは目に見えている。
「とりあえずあと2回は全力戦闘が可能だ。そのぐらいの備蓄はなんとかある。最大口径オートキャノンの弾薬は、優先して買い集めていたからな。マローダーも中口径オートキャノンが撃てなくとも、さほど戦闘力は下がらん。現金が入るまで、中口径オートキャノンの弾薬は、全部ライフルマンとシャドウホーク用に取っておくとしよう。
なに、あと1週間ちょっと何事も起こらなければ、現金が入る!エンデバー号とレパルス号が、商用航宙から戻って来る!現金が入ったら即座に予備部品と弾薬、装甲板の予備を共和国から購入すれば、届くのに更に2週間はかかるが部隊の備蓄も余裕ができる!計3週間の我慢だ!いや、この惑星のメック倉庫内の部品で使える物があれば、それを購入すればもっと早く済む可能性もある!」
「そうですの!最短1週間、最長でも3週間ですのう!」
「うむ!……あとは85tストーカーと80tオウサムだが。」
キースの台詞に、サイモン老は再びテンションが落ちる。その2機種は、今のところ修理を行われずに、整備棟の片隅で放置されていた。
一応その2機の修理に必要な部品のリストアップは終わっている。その必要部品も幸い、この惑星のメック倉庫から入手が叶う可能性が高い。メック倉庫の主コンピュータにあったデータでは、ストーカーもオウサムも少数ばかり倉庫に収められている模様だ。つまり、それ用の部品もある可能性が高い。
だがコンピュータのデータにあった目録と、実機の数には若干の食い違いもあったため、油断はできない。遺失技術を使用したメック数はコンピュータのデータ上では36機であったが、実際には40機あった。多ければ問題は無いのだが、逆に少ないか存在しない可能性もある。遺失技術メックとそのパーツの調査を優先したため、通常技術メックやパーツの検品は後回しにされているのが現状だった。
「とりあえず、その2機の修復は現状見合わせておいてくれ。欠損している操縦席周りの部品は、値段が高い事もあるし。」
「ですなあ。了解ですわ。それでは、以上ですかの?」
「そうだな。それでは作業に戻ってくれ、サイモン中尉。」
「は。了解ですわい。」
サイモン老とキースは、敬礼と答礼を交わす。退出するサイモン老を見送り、キースは1人思う。
(直したとして、誰に使わせるかも考えないといけないよな。さて、どうするか……。)
キースの物思いは、副官のジャスティン少尉があちこちの部署から書類を取り纏めて受け取り、この部屋に戻って来るまで続いた。2機の強襲メックを誰に使わせるか、結局結論は出なかった。
キースはオスニエル公爵に、惑星首都ソリッド・シティの隣にある宇宙港、ソリッドポートへと呼び出されていた。惑星公爵曰く、レパード級降下船1隻を空荷で伴ってくる様に、との仰せである。同時に整備兵も、できるならば優秀な者を連れて来る様に、とも言われていた。キースは当然ながらサイモン老と副官ジャスティン少尉を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号でソリッドポートへと赴いた。
ヴァリアント号がソリッドポートに到着したとき、その離着床には2隻のユニオン級降下船が着陸していた。多数の冷却車輛や推進剤の補給車輛が、その周囲に群がっている。キースは宇宙港の施設に向かうべく、ヴァリアント号から積んで来たジープを降ろさせようとした。と、ここでヴァリアント号ブリッジから、船室のキースにインターホンで連絡が入った。
『隊長、こちらカイル船長。宇宙港管理官より、しばしそのままヴァリアント号乗降ハッチ付近で待つように、だそうだよ。ジープを降ろすと言ったが、必要ないと言われた。何やら迎えが来るらしい。』
「迎え?……了解した。乗降ハッチから出た場所で、待機するとしよう。」
『そうしてくれたまえ。以上。』
「……サイモン中尉、ジャスティン少尉、行くぞ。」
自分でステアリングを握る機会を逸したサイモン老とジャスティン少尉は、少々残念そうであった。ちなみに彼らは先ほどまで、どちらがドライバーをするかで、じゃんけんをしていたのだが。
キースたちは乗降ハッチから伸ばされたタラップを降りる。彼らはそこでしばし待った。やがて、馬鹿でかくて黒い高級車が彼らの前に停まる。どうやら惑星政府か何かの公用車の様だ。そしてそれから4人の人物が降りて来る。2人は、キースほどでは無いがサイモン老程度にはがっしりした身体つきの、おそらくは誰か要人のSPであろう人物だ。1人は見るからに執事然とした人物……惑星公爵の執事、ウィリアム・フロックハート氏であった。そしてそれから分かる通り、当然最後の1人は言わずと知れた人物である。
キースたち3人は、急ぎ敬礼をした。
「ああ、楽にしてくれて良いよ。」
その人物……惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、落ち着いた声で言う。キースたちは敬礼を解いた。サイモン老はともかく、ジャスティン少尉は流石に緊張している。キースは口を開いた。
「お呼びにより、参上いたしました、閣下。」
「うん、よく来てくれたね。ささ、乗ってくれ。目的の場所に案内するから。」
キースたちは、促されるままオスニエル公爵に続き、車に乗り込む。よく見ると、車に小さなライラ共和国の旗が立っていた。それからすると、これは惑星政府の公用車ではなしに、公爵がライラ共和国貴族として行動する際の公用車なのだろう。公用車は静かに発進した。
オスニエル公爵は、キースに向かい言葉を発する。
「今日会いに来たのは、惑星政府の上に立つ惑星公爵としてではなしに、ライラ共和国側のこの惑星における代表として来たんだよ。君たち混成傭兵大隊『SOTS』に、共和国からボーナスが出たんだ。」
「はっ。ありがとうございます。ですが……ボーナス、ですか?」
「うん。見たら驚くよ、保証する。」
そう言っている間にも、公用車は離着床に着陸していたユニオン級の一方へと向かう。そして公用車は、そのままメック用ハッチから船内に乗り入れた。公用車が停まると、オスニエル公爵はフットワーク軽くさっさと降りた。SPたちが急ぎ降りてその両脇を固める。ウィリアム執事に促され、キースたちも公用車を降りて公爵を追った。
ユニオン級の船内には、大量の食料品のコンテナが幾重にも重ねて詰め込まれていた。オスニエル公爵は語る。
「自分たちの降下船を商用として使ってる、君らの真似をしてみたんだけどね。せっかくこの惑星に来るのに、軍用降下船だからって言って、荷物を積まないなんて勿体ない。まあ……この惑星は、食糧自給率低いからねー。帰りには遺失技術メックを積んで行くけれどね。
ああ、あとは人も運んでもらったよ。ライラ共和国正規軍から、惑星軍へ予備メック戦士を整備兵ともども移籍してもらったんだ。予備メック戦士12名、整備兵12名。彼らにメック倉庫から出たメックの一部を宛がって、惑星軍メック中隊を新設するのさ。そしてメック倉庫を守らせる。技量はまだまだだけど、士気は高いよ。「これで新たに家を興せる!」ってさ。
今の様に、君たち惑星守備隊を分散させて各拠点を守ってもらうのは、どうにも君たちに負担が大きいからさ。少しは惑星政府としても働かないと。今の私は共和国貴族としての肩書で動いてるけど、元々惑星公爵でもあるからねえ。そっちの事を考えないわけにも行かないんだよね。」
「はっ。ご苦労様です。我々の負担まで考えていただき、ありがとうございます。」
「何、君らが全力を発揮できる態勢を整えるのは、共和国側の仕事だよ。私は共和国貴族としての立場もあるし。……あー、共和国としての利害と惑星の利害が万一ぶつかったら、私はどうしたもんだろうねえ、はっはっは。」
全然笑いごとじゃない事を口走りつつ、惑星公爵はメックベイの1つに辿り着く。そこには全高10数メートルの巨大な人型の影、バトルメックが鎮座していた。キースはそれを見て、呟く。
「これは……。BNC-3E、バンシー……?いや、左胴のインペレーターA中口径オートキャノンが無い。代わりにインペレーターB大口径オートキャノンが。右肩にハープーン6連短距離ミサイルが装備されているし、右胴のマグナ・ヘルスター粒子ビーム砲の下に、マグナMk.Ⅰ小口径レーザーが追加されている。右腕にはマグナMk.Ⅱ中口径レーザーが2連で装備されているし、左腕がそのままウォーハンマーのごとくドーナル粒子ビーム砲と化している。放熱器も増量されている様だ。」
「ははは。さすがだね、ハワード中佐。更に背面にも2連のマグナMk.Ⅱ中口径レーザーがあるよ。ここからじゃ見えないけどね。……BNC-3S、S型バンシーだそうだよ」
「!!」
キースは驚きを顔に出す。仲間内で無い場所でこれは、けっこう珍しい事だ。その様子に、オスニエル公爵は鷹揚に頷いた。
「これが共和国からのボーナスだそうだよ。……やっぱり驚いたね。」
「はっ。正直驚きました……。この様な数少ないと言う言葉ではとても表現できない希少機体を……。」
「ま、何かしら思惑があるんだろうけど、貴官は気にする事は無いさ。くれるって言うんだから、貰って好きなように使えばいい。それこそ好き勝手に、好き放題に。これの開発計画には、ダヴィオン家から派遣された科学者も参画してたって噂だし、貴官がこれを恒星連邦に持ちかえれば、ある意味里帰りだね。」
キースはS型バンシーを見上げ、溜息を吐く。オスニエル公爵は、しかし残念そうに言った。
「しかし、まいったね。これでは私が貴部隊の遺跡都市奪回、メック倉庫解放への助力に対して、褒賞もしくは謝礼として準備していた品のインパクトが薄れてしまったよ。しかもまだ用意は終わってないんだ。もう少し待っていてくれるかな?」
「……はっ。了解です。」
「うん、きっと満足してくれる物を用意するから、楽しみに待ってて欲しいね。さて、とりあえずこれの予備部品とかは、そっちの緑のコンテナ5つに入ってるそうだから。S型バンシー共々、君らのレパード級に運ばせよう。いや、自分でやるかね?」
キースは即座に頷いた。
「はい、是非乗って見たく思います。」
「わかったよ。じゃ、早速乗って見るといい。メックの神経ヘルメットの暗号は、このメモにあるから。後で変更しておくのを忘れないようにね。あとそのメモは燃やすか何かしてね。火はウィリアムが持ってるから。」
公爵閣下は、手書きのメモを手渡して来る。キースはメモを何度か読み返して記憶すると、ウィリアム執事が差し出したライターの火でそれを灰にする。そしてキースはオスニエル公爵に敬礼すると、メック乗降用のタラップを登って行った。
2月も下旬に入った頃、商用航宙に出ていた『SOTS』所属降下船であるエンデバー号とレパルス号が、無事惑星ソリッドⅢに帰還。それにより部隊の経済状況は、順調に回復の途上にあった。そんなさなか、3027年2月26日のことである。遺跡都市のメック倉庫より最後の遺失技術メックおよびパーツが運び出され、遺跡都市の脇に着陸したライラ共和国所属のユニオン級降下船2隻に分けて積み込まれた。キースはその様子を、自分のマローダーから眺めている。
彼と彼の乗機がいるのは、同じく遺跡都市脇に着陸したフォートレス級降下船ディファイアント号の、メック乗降用傾斜路をメックの足で1歩外に出た場所である。何故ディファイアント号がここ遺跡都市に来ているかと言うと、それは簡易遺跡基地の撤収のためであった。
『SOTS』は、けっこう長い間ここに簡易とは言えど基地を設営していたため、メック用修理作業台などの大物を始めとして、様々な備品が遺跡都市に運び込まれていた。それをアル・カサス城に一気に全部持って帰るために、わざわざディファイアント号を持ってきたのである。
『いいメックばかりですね。』
「マテュー少尉のサンダーボルトも、いい機体じゃないか。」
『ああいえ、そう言う意味じゃなしにですよ。マローダーにクルセイダーにウォーハンマー2機が指揮小隊。アーチャー2機にグラスホッパー、ギロチンが火力小隊。グリフィン2機にウルバリーン、シャドウホークが偵察小隊ですか。ざっと見たところ、動きからして腕前の程は……。』
「それを言っちゃあいけない。」
マテュー少尉のサンダーボルトから、隊内通信回線で声が入って来る。サンダーボルトの頭部が向いている方向では、今マテュー少尉が述べた機体12機が、ここに恒久的基地を建設するために土木工事を行っていた。このメックたちは、ライラ共和国正規軍より予備メック戦士他の人員を移籍されて新設された、惑星軍メック中隊である。今後、この遺跡都市……正確にはそこに隠されているメック倉庫は、基本的に彼らが防衛の任に当たることになっている。
無論、ライラ共和国より派遣された惑星守備隊は、ここが襲撃されたときに遊んでいていいわけではない。彼ら惑星軍メック中隊が必死の遅滞戦闘を繰り広げている間に、救援部隊として飛んで来なければならないのだ。だがここに惑星軍メック中隊が駐屯していると言う事は、平時はそこに惑星守備隊の戦力を張り付けておかなくて済むと言う事である。
『これでアル・カサス城には第1中隊と第3中隊、サンタンジェロ城には第2中隊と第4中隊を置く事になるわけですね。不便な簡易遺跡基地じゃなしに、ちゃんとした城に入っていられるのは、いい事です。』
「今まで、第2中隊と第3中隊にばかり迷惑をかけていたからな。基本的に指揮中隊である第1中隊は、本部であるアル・カサス城を動くわけにはいかなかったし、設備の整っていない所に比較的未熟な第4中隊を置くのは少しばかり怖かったとは言え。
だが先頃の襲撃時に、万一第4中隊がここにいたらと思うと、背筋が寒くなるよ。第2か第3中隊でなければ、あの敵には時間稼ぎもできなかっただろう。」
『……第4中隊より、更に未熟な彼ら惑星軍メック中隊では、より一層時間稼ぎすらも不可能では?』
キースは苦笑した。モリ大佐がターカッドに帰還した以上、あれほどのレベルの敵が来ることはまず無いと言って良い。だがそれを話すわけにもいかず、キースは少しばかり困った。
「あー……。さすがにあのレベルの敵を、そうドカドカ送り込んでくるわけにも行くまい。一度撃破した以上、まず大丈夫だろうさ。……何処所属のどんな部隊かは分からなかったが。と言うか、たぶん、あくまでもたぶんだが、ドラコの不正規部隊ではないかと思うんだがな。」
『来ないと良いんですが……。』
と、そこへぎくしゃくとした未熟な動きで、惑星軍のオリーブドラブのマローダーが歩いて来る。そのマローダーは、どうにかこうにかキースたちに向かい敬礼をした。キースとマテュー少尉も、こちらは極めて滑らかに答礼を返す。惑星軍のマローダーからキースのマローダーに、通信回線の接続要求が来る。キースは回線を繋いだ。
『じ、自分は惑星陸軍メック部隊第1中隊中隊長、フィランダー・レイク大尉です。貴官らはライラ共和国惑星守備隊の方々ですか?』
「自分はライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。隣のサンダーボルトは、自分の隊のマテュー・ドゥンケル少尉だ。」
『ちゅ、中佐!し、失礼しました!』
フィランダー大尉は、慌てる。キースはそれを宥めた。
「ああ、気にしなくて良い。それより、何用かね?」
『はっ!こ、ここ遺跡都市基地改め、カーディフ基地の守備任務の引継ぎをしたいと思っておったのですが、ここに駐留している最高責任者は大尉だと聞いておりましたので……。』
「ああ、自分が来たのは最後だからだ。普段は大尉クラスの人間がいたのだが、今日は特別だ。……マテュー少尉、こちらの積み込みは全て終わったのだな?」
マテュー少尉は肯定する。
『はっ。簡易遺跡基地の撤収は完了しております。あとは引継ぎを済ませて、アル・カサス城へ戻るだけです。』
「そうか、では……。着任を歓迎する、カーディフ基地新司令官、フィランダー・レイク大尉。これからは、ここは貴官が護る事になる。いざと言う時は自分たちもすぐに駆けつけるから、大船に乗った気で気楽にやると良い。必要書類だけは旧基地施設の隊長室にあるし、そこは既に惑星軍歩兵に引き渡してある。もし万一不備があったら、アル・カサス城へ連絡をくれるとありがたい。では武運を祈る。」
『了解!ありがとうございます、キース・ハワード中佐!こちらも『SOTS』の御武運をお祈りしております!』
フィランダー大尉のマローダーと、キースたちのメックは敬礼と答礼を交わし、キースたちはディファイアント号ハッチの中へと機体を進ませる。と、ここで轟音……降下船のエンジン噴射音が響き渡った。貴重品を積み込んだ2隻のユニオン級が、離陸してこの星を離れて行くのである。
「……これで惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、ターカッドにでかい貸しが作れたわけだ。そう言う判断ができる以上、徒者では無い証拠だ。なのに周囲の人間のほとんど……。惑星政府の人間のほとんどは、閣下の事を武勲が無いからと言って惑星公爵にふさわしくないなどと考えている。一応血筋に敬意は払っている様だが……。
まあ、所詮俺たちはこの惑星にとって客人に過ぎん。だから口を出す事でもないのだが……。だが、何か腹立たしいな。閣下自身は地位には執着しておられんし、学者生活に戻りたいとも願っておられる様だが……。」
『惑星政府の要人は、妹様を惑星公爵位に推して自分が代官に座りたい、と考えているんでしょうね。』
「まあな。だが、あの公爵閣下のことだ。代官の選出は慎重に、かつ狡猾におやりなされるだろうさ。あの様な根性無しどもに権力を持たせてみろ、大変な事になる。それを看過なされる方では無いさ。そうしてから、妹様に地位をお譲りなされるだろう。……つまり俺の心配は、意味を持たん事になるな。ははは。」
やがてディファイアント号のメックベイのハッチが閉じる。キースたちは発進に備え、メックを固定する作業に入った。こうして簡易遺跡基地は撤収を完了した。この後『SOTS』は、基本的に2つの城のみを護る事になるのである。惑星撤退まで、残り2ヶ月を残す日の事であった。
そろそろこの惑星での任期も、残り少なくなってきました。ですが、心配事はまだ尽きない様で。