鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-070 髑髏の顔のメック』

 指令室の主スクリーンで、上昇して行く『SOTS』所属ユニオン級降下船ゾディアック号、および同級エンデバー号を見ながら、キースは感慨に耽った。

 

(うーん、ユニオン級の各船長……アリー船長、エルゼ船長、オーレリア船長には頭が上がらないなあ。彼らが商用航宙で頑張ってくれるからこそ、うちの部隊は予備メックや予備部品を切り売りしないで済んでる。いや、それを言うならば航宙艦のアーダルベルト艦長、イクセル艦長、ヨハン艦長も同じ事か。彼らも商用降下船を運んで小金を稼いでくれたり、商用航宙に出たうちのユニオン級を運んでくれている。)

 

 ゾディアック号とエンデバー号は、これから1ヶ月半の商用航宙に出る。いつもは1ヶ月単位なのに今回1ヶ月半なのは、約2ヶ月後の3027年4月26日に、『SOTS』はこの惑星ソリッドⅢを撤退するからである。キース自身は今回の商用航宙は1ヶ月で切り上げて、残り1ヶ月は撤退準備期間にしようと言ったのだが、ゾディアック号のアリー船長とエンデバー号のエルゼ船長は、できる限り長い期間を稼ぎに使い、部隊の予備費を充実させる事を提案したのだ。

 

(彼らの稼いでくれた資金のおかげで、ストーカーとオウサムも予備部品は少ないけれど、一応ちゃんと満足に動く様に修理はできた。S型バンシーを含めて、遊ばせて置くのは勿体なさすぎるなあ。これらの機体は一様に足が遅い……。部隊のあちらこちらに分散して配備するよりかは、全部の機体を1個小隊に纏めるべきだよな。

 となると……。元々貴重な希少な強襲型バトルメックだし、腕の悪い者たちには任せられないなあ。となると各中隊の指揮小隊クラスが最低ラインだよな?その中でも一番技量的に高いって言ったら……。俺たち第1中隊指揮小隊、かあ?)

 

 ここでアーリン大尉が指令室に入って来る。彼女はキースに敬礼する。キースも彼女に答礼を返した。

 

「そろそろ交代の時間ですよね、キース中佐?」

「む?もうそんな時間か。では後は頼んだ、アーリン大尉。ジャスティン少尉、司令執務室へ行って、書類仕事だ。」

「了解です。」

 

 司令席をアーリン大尉に明け渡し、キースは指令室を出る。ジャスティン少尉がその後に付き従った。キースは歩きながら、第1中隊指揮小隊の編成表を思い浮かべる。

 

(第1中隊指揮小隊を強襲メック小隊にするならば、指揮官である俺が墜とされ難くなると言う利点もあるよなあ。だけども誰にどの機体を与えるか……。

 80tオウサム……。これは文句なしにアンドリュー曹長で決まりだろ。アンドリュー曹長のライフルマンは、今まで部隊の対空射撃の要だった。だけど実のところ、隊の航空戦力が充実してきた後は、対空攻撃要員としての意味合いは薄くなってるし。その上に第3中隊火力小隊が「対空小隊」として発足した今、俺とほぼ同格の射撃技量を持つアンドリュー曹長をライフルマンに乗せておくのは、オウサムがある以上もったいないよね。ライフルマンも悪い機体じゃ無いけどさ……。

 85tストーカー……。俺とアンドリュー曹長以外だよね。アンドリュー曹長は能力的にオウサムとの相性が良すぎるし。俺は部隊を指揮する必要があるから、S型バンシーか今のままマローダーに乗り続けだし。となると……。機体の運用法からして、エリーザ曹長かな?ストーカーは遠近両方に対応できる火器を装備してるし、近距離火力はウォーハンマーを首ひとつ上回ってる。)

 

 キースは色々考えながら、司令執務室へと向かった。ジャスティン少尉が忠実に後に付き従う。やがて司令執務室の扉が、廊下の向こうに見えて来た。

 

 

 

 今日もキースは、イヴリン軍曹と共にアル・カサス城の城壁内側を周回でランニングしていた。アル・カサス城は惑星ネイバーフッドのオーバーゼアー城よりも規模がかなり大きいため、周回数は少な目だ。やがて彼らはランニングを終え、クールダウンのストレッチに入る。

 ここでキースは、イヴリン軍曹に問いかける。

 

「イヴリン軍曹、エルンスト曹長の様子はどうだ?」

「え?は、はい!経過は順調で、来月には現場復帰できそうだとの事です!……何故エルンスト曹長の事を?」

「いや、貴様を含めて『機兵狩人小隊』の面々は、よく見舞いに行っていると聞いたのでな。俺も郎党のサイモン中尉を助けてもらった事だし、見舞いに行きたいのだが……。いざ行こうとすると、何かしら用事が入って予定が潰れてしまう。結局見舞いに行けたのは、怪我した直後の1回ぐらいだな。」

 

 イヴリン軍曹を含む、第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』は、元々独立傭兵小隊であった。エルンスト曹長はその当時から『機兵狩人小隊』に、偵察兵として所属していた人物である。『機兵狩人小隊』が『SOTS』の一部となってからは、彼は『SOTS』のため誠心誠意尽くしてくれた。

 現在エルンスト曹長は、ニンジャ部隊が簡易遺跡基地を襲撃した際に、同時攻撃してきた人間爆弾の自爆に巻き込まれて負傷し、入院中である。『機兵狩人小隊』の面々は、昔からの仲間である彼を心配し、よく見舞いに行っていたのだ。

 

「もしかして、エルンスト曹長に桃缶を差し入れしたのはキース中佐ですか?」

「む?ああ、確かに持って行ったが……。本当は缶詰ではなしに普通の果物を持って行きたかったんだがな。この惑星では青果物は高級品で、馬鹿みたいに高い。食料自給率が低いからな。それで恐縮されてもと思ってな。星系外からの輸入品の缶詰の方が安価なんだ。……食べたかったのか?」

「あ、いえ!曹長から御相伴にあずかりましたから!美味しかったです!」

「そうか。」

 

 キースは朗らかな笑みを浮かべる。いつものニヤリ笑いとは違い、歳相応の笑いだった。普段30歳を超えている様にしか見えない彼だが、今は妙に若く見える。いや実は本当に若く、今現在17歳、あと1ヶ月ちょっとで18歳になるのだが。イヴリン軍曹はそれを見て、少々どぎまぎする。

 と、キースはある事に気付いた。

 

「そう言えば、貴様はつい先日が誕生日だったな。13歳になったか。」

「はい!『機兵狩人小隊』の皆に、祝ってもらいました!」

「そうか……。連盟標準時で2月27日だったな。俺がちょうど、色々忙しくしていた時期だったか。しまったな……。」

「?」

 

 イヴリン軍曹は怪訝そうな顔になる。キースが「しまった」と言った意味が分からなかったのだ。キースはイヴリン軍曹に言う。

 

「シャワーを浴びて着替えたら、司令執務室まで来い。ちょっとばかり用事がある。」

「はっ!了解です!」

「では解散!」

「はっ!」

 

 イヴリン軍曹とキースは、敬礼と答礼を交わし、各々シャワー室まで急いだ。

 

 

 

 キースは司令執務室で、イヴリン軍曹を待っていた。今ここには副官のジャスティン少尉も、出かけていていない。やがて机上の内線電話が、インターホンモードで鳴った。キースはそのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『イヴリン軍曹です。』

「入室を許可する。入れ。」

 

 イヴリン軍曹が入室して来て、敬礼する。キースは答礼を返すや、ごそごそと机の引き出しを漁り始めた。

 

「?」

「む、あったあった。イヴリン軍曹、これを受け取れ。」

「は、はい!」

 

 キースが差し出す箱を、イヴリン軍曹は受け取る。キースはにやりと笑うと言った。

 

「開けて見ろ。」

「はっ!……これは銃!?」

「普通の銃じゃない、音波麻痺銃だ。相手を殺傷せずに気絶させる事が可能だ。俺から大事な弟子への誕生日プレゼントだ。護身用に、メックに乗るときは持っておけ。まあ、それが役に立つ日など来ない方が良いのだが。だがいつかそれが貴様の身を守ってくれるやも知れん。保険だ、保険。

 ……本当は当日に渡すつもりで選んで置いたのだが。遅れてすまんな。ああ、そうだ。確実に命中させるためには拳銃の扱いに慣れる必要があるからな。射撃訓練を、訓練カリキュラムに組み込んでおくぞ?」

「は、はいっ!ありがとうございます、大切にします!」

 

 キースは実は、殺傷能力のある銃器か、高速振動剣でも贈ろうかと考えていた。イヴリン軍曹は、既に敵を殺す覚悟も身に着いていることだし、その方が音波麻痺銃よりも確実に敵を無力化できるはずだからだ。重量的にも、通常の拳銃には音波麻痺銃よりも軽い物もある。だが何とはなしに、まだ早いと言う気になったのだ。

 

(……殺傷能力のある銃器は、14歳の誕生日に贈るとしようかね。と言うか、生身戦闘なんて本当はさせたか無いんだけどなあ。でも、万一に備えておかないで、後悔するはめにはなりたく無いよね、うん。)

 

 キースは音波麻痺銃を収めた箱を嬉しそうに抱きしめるイヴリン軍曹を、柔らかい微笑みで見つめていた。

 

 

 

 3027年3月5日、キースはこの日サイモン老とジャスティン少尉を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号に乗って、遺跡都市はカーディフ基地まで出向いて来ていた。理由は、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下からの呼び出しである。それによると、ようやくの事で遺跡都市奪還およびメック倉庫解放に対する、褒賞を兼ねた謝礼を譲渡する用意ができた、との話だった。

 惑星軍メック部隊が必死になって造った滑走路に着陸したレパード級の、そのタラップを降りながらサイモン老がキースに訊ねる。

 

「いったい何を寄越してくれるんでしょうのう。これまでの話からして、倉庫内のバトルメックを譲渡してくれるんだとは思うんですがの。レパード級で来いと言っておりましたしのう。」

「さすがに俺にもわからんな。ただS型バンシーのときに、インパクトが薄れてしまったと残念がっていたからな。そこまで非常識な物では無いのではないか?」

「80tのゴリアテとかはどうでしょうのう。あれはそこそこインパクトがありますぞ?」

「いや、ゴリアテは充分非常識だろう。四脚メックだぞ。」

 

 と、そこへ送迎用と思しきミニバスがやって来る。ミニバスはキースらの手前で停まった。その扉が開き、運転手が降りて来る。運転手は敬礼をした。キースたちは答礼を返す。

 

「自分は惑星陸軍メック部隊第1中隊整備兵小隊、バーナビー・マクフィー軍曹であります!本日は『SOTS』の皆様方のご案内を申し付かって参りました!」

「ご苦労軍曹。自分はライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐。こちらの者たちは、『SOTS』上級整備兵サイモン・グリーンウッド中尉と大隊副官ジャスティン・コールマン少尉だ。」

「はっ!ではこの車輛にお乗りください!メック倉庫までご案内いたします!」

 

 キースたちが乗り込んだミニバスは、滑らかに発車すると遺跡都市の奥へと走った。やがてある場所まで来ると、元交差点であっただろう場所のど真ん中で、ミニバスは停車する。運転手のバーナビー軍曹は、車載の通信機でどこかと話している。

 と、突然地面そのものが地下へと沈み始めた。ジャスティン少尉は目を丸くする。だがサイモン老は動じていない。キースはサイモン老に訊ねてみる。

 

「ここの地面がエレベーターになってる事、知っていたな?」

「はい。人間用の、主コンピュータ室に繋がる出入り口は別の場所でしたがの。メック倉庫本体へと出入りするのであらば、メック用のこのエレベーターを使った方が早いですわな。」

「なるほどな。」

 

 やがてエレベーターは地下深くまで降りて停止する。ミニバスはヘッドライトを点灯すると、再度走り出した。周囲には、10数メートルの身長を持つ巨人機械バトルメックが、見える範囲だけで1個大隊以上鎮座している。見たところ、この辺にあるのは右側がスティンガー、左側がワスプである様だ。ジャスティン少尉が溜息を吐く。

 

「はぁ……。凄い数ですね。」

「20tの軽メックとは言え、これだけ数があると壮観だな。」

「ですのう……。」

「この辺のメックは売り先が既に決まっておりまして、比較的早期に再稼働整備が終わっております。これを出荷するために、滑走路や離着床を真っ先に造りました。」

 

 運転手バーナビー軍曹が説明してくれる。やがてある位置まで来ると、再度ミニバスは停まり、そこから別のエレベーターで更に地下へ降りて行く。降りきったところで、ジャスティン少尉が呟く。

 

「この辺は何も無いですね。」

「まあのう。この辺には、遺失技術を使用したメックが置かれていたんじゃの。だから真っ先に再稼働整備されて、真っ先に運び出されたわけじゃわい。」

 

 サイモン老の言葉に、キースとジャスティン少尉は頷く。だがサイモン老は怪訝そうな顔をする。

 

「はて?遺失技術メック以外で、この辺にあったメックと言えば……?」

 

 やがてミニバスのライトの灯りに、数人の人の姿が浮かび上がる。ミニバスが停まると、キースたちは急ぎ降車して敬礼を送った。相手の内、1名が答礼を返して来る。残りのうち1名が言葉を発した。その人物こそ、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下である。

 

「ああ、楽にしてくれて良いよ、ハワード中佐。」

「はっ!」

「こちらは知っているね?ライラ共和国からいらした、ウィルフレッド・カーニー博士。それとそちらが惑星陸軍メック部隊第1中隊中隊長、フィランダー・レイク大尉。」

 

 その他の紹介されなかった人物は、執事のウィリアム・フロックハート氏及び、いつぞや見たSPだ。フィランダー大尉は額に汗を流して緊張している。今現在はお貴族様オーラが全開状態の惑星公爵と、常に尋常でない迫力を放っているキースと言う2人の前だから、已む無い事であろう。

 オスニエル公爵は、キースに向かい言葉を紡ぐ。

 

「さてさて、ウィルフレッド博士の尽力によって、君たち『SOTS』に進呈する代物の再稼働整備がようやっと終わったよ。」

「そうですか。ありがとうございます、カーニー博士。」

「いや、私の力などそこにいらっしゃるサイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉の実力に比べれば、微々たる物ですよ。キバヤシ君にも敵わない。工学博士を名乗っておるのが、恥ずかしくなりましたよ、ははは……。はぁ……。」

 

 キースはウィルフレッド博士を慰める言葉が出なかった。前に宇宙港で会った時よりも、随分と老け込んだ様にすら見える。オスニエル公爵も、気まずい雰囲気を感じたのか話を強引に戻した。

 

「まあ、それはともかく。こちらにある隔壁の向こうに、その代物は置いてあるんだけどね。来てくれたまえ。」

 

 公爵閣下は率先して先頭に立って歩く。キースたちはその後を追った。オスニエル公爵は、隔壁を回り込んだ位置で振り返った。公爵閣下は執事に声を掛ける。

 

「ウィリアム、頼むよ。」

「はっ。」

 

 ウィリアム執事が何かしら手元のリモコンで操作すると、天井のライトが点灯した。フィランダー大尉の感嘆の吐息が漏れ聞こえる。サイモン老とジャスティン少尉も息を飲む。キースの口から、思わず声が漏れた。

 

「なんと……。たしかにインパクトはありますね。これは凄い……。いや、これはまずいのではありませんか?いくらなんでも……。価格にして、ざっと967万Cビル……。シャドウホークだったら2機買えます……。スティンガーだったら6機分です。しかも実力差はシャドウホークとスティンガーがそれだけいようが、どれだけいようが絶対に勝てませんよ。」

「おや?気に入らなかったかい?」

「そうではありません、これでは貰い過ぎだと言っているのです。このAS7-D、アトラスは!」

 

 そこにあったのは、髑髏の顔を持つ重量感溢れる、おそるべきバトルメックであった。その重量は、なんとバトルメックとしては最大の100t。おまけに深宇宙通信アンテナまで装備されていたりするのだ。オスニエル公爵は、笑顔を崩さず言葉を発する。

 

「グリーンウッド大尉待遇中尉がやってくれた事は、それだけの価値があったんだよ。キバヤシ研究員の助力もそこそこ大きかった様だけどね。キバヤシ研究員を送り込んで来た共和国には、既に借りは返したどころか十二分に貸しまで作っている。

 でもグリーンウッド大尉待遇中尉と彼が所属する『SOTS』には、まだ充分返し終えてないからね。ここで一気に返して置こうと思っただけさ。グリーンウッド大尉待遇中尉のおかげで、無事メック倉庫が開けられたから、それで惑星の復興費用が賄える。発掘したメックの輸出産業でね。」

「下手に手を出していれば、メック倉庫は爆弾の爆発で地下深く埋もれてしまい、掘り出せなくなってしまっていたでしょうな。いやもし掘り出せても、保存状況が劣悪な状態になるために、満足な性能を発揮できる状況であるかは不明。掘り出す費用で、売却価格が完全に食われてしまう事も有り得たでしょうな。」

 

 ウィルフレッド博士が肩を落としながら言う。どうやら劣等感に苛まれている様だ。だがそれでサイモン老やモリ大佐を逆恨みしないだけ、人間が出来ているのかもしれない。

 惑星公爵は、噛んで含める様に言った。

 

「サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉、貴官はこの惑星の救い主だよ。ああいや、過大な表現でも何でもない事実だ。この惑星は、どうにかこうにか青息吐息で、継承権戦争の痛手から復興するための費用を捻り出していたんだ。だがそんな矢先、クリタ家の奴らに惑星が攻撃され、一時は首都までも奪われてしまった。

 おかげで生き返りかけていた産業は、大打撃だ。奴らが民間目標を攻撃しなかったとかは問題じゃあないんだ。奴らに奪われたと言う事実だけで、ピンチだったんだ。契約を交わしていた荷物、工業製品が出荷できなくなって違約金を取られる事になるからね。輸送用の降下船も来ないし。

 このままでは、この惑星の民は食べていけなくなるところだった。それを何とかするための資金を、惑星政府と惑星公爵家は、バトルメックの輸出で得ることが叶った。降下船も来るようになった。貴官に勲章でも贈りたいところだけど、欲しくも無いだろう?だから、メック倉庫の中で一番価値がありそうな、遺失技術メックじゃないメックを貴隊に贈るよ。

 それでも貰い過ぎだって言うんであれば、ちょっとだけ貴官と貴官の主人、2人の伝手を使って手を回して欲しい事がある。それで全部清算って事でどうかな?」

 

 サイモン老は、キースに顔を向ける。キースは頷いた。と言うか、彼は頷くしか選択肢が無かった。流石にここまで言われて断ったら、失礼になると言う物だ。サイモン老はオスニエル公爵に問いかける。

 

「発言をお許し下さい、閣下。閣下はわし、いや自分に何をお望みですかの?」

「貴官はライラ共和国中枢に、色々伝手があるね。で、貴官の主人であるハワード中佐も、その紹介で共和国に伝手を作りつつある。かかる工作費用はこちらで面倒を見るから、妹ミシュリーヌが公爵位を継承した際に惑星へ置く代官を、共和国政府が惑星ソリッドⅢ政府に紹介、と言う押し付けをする形を取って欲しいんだよ。その工作を、2人がかりでやってはくれないかね。

 代官として目を付けてる人物は既にいるし、そちらへ話を通すのは自分でやるからさ。」

「そこまで事態は窮迫していたのですか?その様な気配は無かったと思っておりましたが……。」

 

 キースの問いかけに、オスニエル公爵は苦笑して答えた。

 

「窮迫してる、と言うほどの事でも無い。けれどバトルメックの輸出産業が金になるのを見て、甘い汁を吸いたい輩がこっそり蠢動を始めている。そう言う輩が自分たちの伝手を使って共和国に働きかけてるんだよ。ミシュリーヌこそが惑星公爵の地位にふさわしいってね。そしてそう言った連中の全員が全員、事が成った暁には仲間たちを出し抜いて、自分こそが代官になろうって言う腹なのさ。」

「どちらかと言えば、代官の選定に口を挟むよりも、その工作に対処する工作を行った方が良いのでは?」

「いや、そちらは既に裏で動いてる。だからまあ、今の時点で惑星公爵を降りる事は無いつもりだけど、万が一には備えないといけないよ。万が一今の時点でミシュリーヌに公爵位を譲ったら、自分こそが代官の地位に就いて実質的権力を握ろうとする者が相争って、惑星政府が麻痺しかねない。そんな真似はさせちゃいけない。そう言う奴らを粛正する準備もしているけれど、万が一、億が一に備えておかなけりゃいけない。」

 

 惑星公爵は、苦々しい笑いを浮かべた。

 

「ミシュリーヌは、軍人であって政治家じゃないからね。いつかは妹に地位を譲るつもりだけど、今の大変な時期にそれをやるわけにはいかないよ。ミシュリーヌも惑星の市民も、不幸になるだけだ。もう少し厄介事を片付けてからじゃないと、あの娘に重荷を背負わせるだけだ。

 幸い惑星軍は味方だからね。デイモン大佐は知ってるね?彼も私の仲間さ。」

「なるほど、それで惑星陸軍メック部隊のフィランダー・レイク大尉がいらっしゃるのですね。」

「惑星軍の中でもメック部隊は、新設ではあるけれどもメック戦士12名、一大勢力さ。」

 

 キースはオスニエル公爵を安心させるように頷くと、承諾の意を返す。

 

「わかりました、自分とサイモン中尉は伝手を使って共和国政府に働きかけをします。」

「そうか、助かるよ。さて、これで遠慮は無くなったよね?アトラス、持ってってくれたまえ。」

 

 そう言えば、最初はその話だった。キースは頷いて言う。

 

「ありがたく、頂戴させていただきます。」

「うん。いや、肩の荷が1つ降りたよ。」

 

 100tメック、アトラスの髑髏顔が、キースたちを見下ろしている。キースは頭の中で、どの伝手の人物が一番頼りになるかを考え始めた。

 

 

 

 アトラスと幾多の部品をアル・カサス城に持ち帰った後、キースは部隊のバトルメックの編成を本格的に考慮し始めた。まず彼は、第1中隊の指揮小隊を司令執務室へ呼ぶ。マテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長は入室して来ると敬礼をして来た。キースも答礼を返す。

 キースは早速本題に入る。

 

「あー、お前たち。お前たちが今のメックに愛着を抱いてるのは知っている。だが、部隊全体の都合から言って、やはりもっと強力な機体が手に入った以上、乗り換えてもらわねばならんと言う結論に達した。」

「「でぇっ!?」」

「あー、了解です隊長。」

 

 悲鳴を上げたのは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長、あっさり承諾したのはマテュー少尉だ。まあマテュー少尉は以前にも機体を乗り換えている経験があるから、あっさりした物だ。キースはアンドリュー曹長とエリーザ曹長に、機体交換の必要性を説く。

 

「アンドリュー曹長、お前がライフルマンに並々ならぬ思い入れがあるのは理解している。エリーザ曹長も、ウォーハンマーをとても大事にしているのもな。だがうちの小隊は第1中隊の要であり、第1中隊は全部隊の要だ。被撃墜は絶対に避けねばならない。聞き分けてくれんか?」

 

 アンドリュー曹長は、しばし唸っていたが、やがて頷く。

 

「わかった隊長。んじゃ、俺は格納庫の端に置いてあったオウサムか?」

「ほう?よく分かったな。」

「て言うか、それしか無いだろ。エリーザもマテュー少尉も、ちょっとオウサムとは合わねえだろうからな。」

 

 次にキースは、エリーザ曹長に顔を向ける。エリーザ曹長は未だに悩んでいたが、最終的に首を縦に振った。

 

「わかったわ、隊長。あたしはどれ?さっき搬入されたアトラス?それともこの間共和国からのボーナスで貰ったって言ってたS型バンシー?」

「どちらも違う。直したばかりのストーカーを使ってもらいたい。」

「んー、まあ了解。」

 

 次にキースはマテュー少尉に声を掛けた。

 

「マテュー少尉には、アトラスを頼みたい。」

「隊長が100tメックじゃなくて、良いんですか?」

「ああ。アトラスは運用法がサンダーボルトと近いからな。それにS型バンシーは通信と探知能力が充実している。だから指揮に向くんだ。俺がS型バンシーを貰う。」

「ではアトラス、遠慮なしにいただきます。排気口が臭いそうですが。」

 

 ここでアンドリュー曹長が問いを投げかけて来る。

 

「よう、隊長。俺の、いや俺のだったライフルマンは、どうなるんだ?あと今まで指揮小隊のメックだった他の機体も。」

「ライフルマンは、第3中隊の火力小隊のシャドウホーク1機と差し替えで、ジェラルド・ハルフォード中尉かメアリー・キャンベル伍長の機体と交換しようと考えている。第3中隊火力小隊は、対航空戦力用の対空小隊として働いてもらう事を期待しているからな。

 サンダーボルトは、第4中隊指揮小隊のケネス・ゴードン大尉機のウルバリーンと差し替えだな。中隊長機が55tと言うのは、少々不安だったんだ。これが中軽量級を集めた偵察中隊だったならまだしも。

 ウォーハンマーは第4中隊火力小隊の小隊長アルベルト・エルツベルガー中尉に貸与しようと思う。そしてアルベルト中尉の乗っていたエンフォーサーを、副隊長アレックス・キャンベル少尉のフェニックスホークと差し替える。第4中隊の火力小隊は、総火力が今一つ微妙だったからな。」

「隊長のマローダーは?」

 

 エリーザ曹長の台詞に、キースは頷いて答えた。

 

「第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』小隊長のサラ・グリソム中尉待遇少尉の機体が、D型フェニックスホークなんだ。いかにも耐久力的にちょっと問題なんでな。あれは彼女の個人所有機なんで、ちゃんと聞いてからになるが、できればマローダーと交換と言う形にしたいな。」

「となると、シャドウホーク1機、ウルバリーン1機、フェニックスホーク1機、D型フェニックスホーク1機が余剰機体になりますね。今の訓練生が卒業したら、彼らに宛がいますか?」

「その判断は、また後日だな。何にせよ、部隊全体で俺たちも含め、9名のメック戦士が機種転換訓練することになる。一時的に戦闘力が下がるが、これは一種賭けだな。今の平和なうちに大手術を済ませておいて、後々に備えるとしよう。」

 

 このキースの決断により、しばらくの間『SOTS』は機種転換訓練で、てんやわんやになるのだった。だがこれで、部隊としての戦闘力は格段に向上することになる。一気に機種転換訓練を済ませてしまうと言うキースの判断が、吉と出るか凶と出るかそれはまだ分からない。だがまあ、この状況でなら決して間違いとは言えないだろう。キースたち『SOTS』は、着実に前へ進んでいた。




とうとうあのバトルメックが、『SOTS』に配備されてしまいました。100tアトラス!!
でも主人公機じゃないです(笑)。
主人公には、前回もらった機体をあてがいます。何故って、指揮管制能力が妙に強力だから。
これで『SOTS』は、更に精強になってしまいました。どうしよう。
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