鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-071 背後の敵たち』

 3027年3月9日、キースたちはアル・カサス城の城外演習場で機種転換訓練を行っていた。機種転換訓練を行っているのは、キース、マテュー・ドゥンケル少尉、アンドリュー・ホーエンハイム曹長、エリーザ・ファーバー曹長の第1中隊指揮小隊の面々と、第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』小隊長代理のサラ・グリソム中尉待遇少尉、第3中隊火力小隊のメアリー・キャンベル伍長である。

 彼らの乗るメックは、第1中隊指揮小隊が各々マローダーからS型バンシー、サンダーボルトからアトラス、ライフルマンからオウサム、ウォーハンマーからストーカーに、サラ少尉がD型フェニックスホークからマローダーに、メアリー伍長がシャドウホークからライフルマンに変更されていた。なおサラ少尉とメアリー伍長は単純に機種転換訓練ではなく、この後各自の小隊の面々との新たな連携方法についても訓練予定である。

 ちなみに今頃、サンタンジェロ城においても第4中隊中隊長のケネス・ゴードン大尉と、火力小隊のアルベルト・エルツベルガー中尉、アレックス・キャンベル少尉が機種転換訓練を行っているはずである。彼らも以前自分が搭乗していた機体よりも重い機体に乗り換えて、戦力アップを図っていたのだ。

 機体の乗り換えについては、アンドリュー曹長やエリーザ曹長が少々気乗りしない様子であり、若干の説得を必要とした。しかし最終的には機体交換の必要性を理解し、同意するに至る。またサラ少尉も、困惑と躊躇、遠慮をにじませてはいたが、要請を断る事はなかった。

 この機種転換訓練を行っている中ではメアリー伍長が最も苦労している。これまでの乗機に近い運用のできる第1中隊指揮小隊の面々に比して、これまでの乗機に比べ性質の大きく変わった機種を与えられたが故の苦労であった。

 

『……しまった!また機体が過熱を!』

 

 今の叫びは、メアリー伍長である。彼女はシャドウホークと言う過熱の心配がまったく無い機種から、一転してライフルマンと言う最も過熱が激しい部類の機体に乗り換えたのである。ただし、これは第3中隊火力小隊が、対空小隊として編制されている以上仕方のない事だ。対空性能に優れたライフルマンを、その小隊で集中的に運用する事で、圧倒的な対空戦闘能力を持たせる腹積もりなのである。

 

『……。』

 

 一方、一切無駄口を叩かずに黙々と訓練に勤しむ者もいる。その人物は、サラ少尉だ。彼女は機動力重視の万能型D型フェニックスホークから、火力重視の支援メックたるマローダーに機体を交換した。その運用方法は、180度違うと言って良い。だが火力小隊『機兵狩人小隊』の編制から言えば、他はサンダーボルト、シャドウホーク、エンフォーサーと言う物であり、これに支援専門の機体を加えて置く事は、そう悪い判断でも無いだろう。

 

『あー、メアリー伍長。ライフルマンは、大口径レーザー2門を一度に撃っちゃ駄目だぜ?ましてや中口径レーザーまで一緒に撃つなんて、言語道断。中口径レーザーは、あくまで近寄られた時の保険だ。

 大口径レーザーが両手に1門ずつ装備されてるのはだな。ほれ、その状態から機体上半身を捻ってみろや。』

『あ、はい!』

『ほれ、足を踏みかえて機体の向きを変えなくとも、どの方向にある標的にも、最低限片腕についてる中口径オートキャノン1門と大口径レーザー1門は撃てるだろ?足踏みかえると、機体の制御に気を取られたり、機体の振動なりで、どうしても射撃精度が落ちるからな。1歩も動かずにどの方向でも撃てる、それがライフルマンだ。』

 

 アンドリュー曹長は、メアリー伍長にライフルマンの正しい使い方を説明してやっている。自分の直弟子ではないので、注意する口調も柔らかい。一方キースは、マローダーの扱い方をサラ少尉にレクチャーしようかと考えていたのだが、サラ少尉はその必要性を見せなかった。

 

「ううむ、サラ少尉は機体の動かし方が慎重だな。」

『……あの動き、戦場での隊長の動きをコピーしてるわよね。どの標的にも、決して機体の左側は向けてない。下手な移動をして、包囲状態に置かれる危険は冒さない。左脇腹にある、中口径オートキャノンの弾倉への被弾を、徹底的に避けてるわよね。』

『かと思うと、その問題のオートキャノンの砲弾を使い切ったら、おもむろに前に出ますね。そうなってからなら、包囲下に置かれる事も必要ならば躊躇してないです。』

 

 エリーザ曹長とマテュー少尉が、サラ少尉のマローダーの扱いを批評する。概して高評価だ。キースもサラ少尉の機体の扱いに、感嘆する。

 

「今までD型フェニックスホークに乗っていた時の癖は、出ていない様だな。性格が慎重なのだろうな。」

 

 そう言いつつキースは自機S型バンシーに、大口径オートキャノンの模擬弾と粒子ビーム砲2門を撃たせる。それは見事に火器の最大射程ぎりぎりにある標的に突き刺さり吹き飛ばした。そしてキースは機体に溜まった熱の排熱が済むと、近場にある別の標的に駆け寄り、6連短距離ミサイルの模擬弾、中口径レーザー2門、小口径レーザー2門を発射し、なおかつキックを見舞う。また同時に背後の標的にも、背面の中口径レーザー2門を撃ち放った。それらは全て命中し、標的を粉砕。だが彼の自己評価は辛い。

 

「遠距離への砲撃は、今までマローダーで慣れていた事もあり充分だ。だがしかし、近距離に近づかれた際の対応は、まだまだだな。後、背後の標的に対して背面レーザーを撃ってみたが、これなら機体を捻って、パンチ1発送り込むのでも良かった気がするな。全武装の全開射撃もあくまで念のために確認しておきたかったが、弾薬爆発の危険があるからな。やりたくともやれん。」

『熱い~。全弾発射は弾薬爆発の危険があるから絶対に避けろって話だから、やらなかったけど……。それでも近距離で使用可能な武器全部の一斉発射を試してみたら、エンジン-シャットダウン予告の警告サインが出るんだもん~。しかもマイアマーが熱ダレして、排熱するまで1歩も動けなくなるし~。』

「……エリーザ曹長、大口径レーザー2門は近距離でも使用可能だと言うだけで、近距離用武器じゃないぞ?まあ、一か八かの賭け時には、使う必要もあるだろうが……。それを使わずともストーカーの近接攻撃力は、ウォーハンマーのそれを上回るんだ。無理はするな。」

『了解~。あくまで訓練だし、試して置く必要があると思ったから、やっただけよ~。熱い~。』

 

 キースは、部隊の者たちに冷却パイロットスーツを買うように奨励しようかと考える。特にマテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長など古参中の古参は、充分に余裕で冷却パイロットスーツが買えるだけの金が貯まっているはずだ。だが彼らはキースに遠慮してか、冷却パイロットスーツを買わないでいる。

 キースはその巨体が故に、身体に合うサイズの冷却パイロットスーツが発掘されないのだ。それ故に、彼はメックに乗る時、Tシャツにトランクスで乗り込んでいる。冷却パイロットスーツは、星間連盟期に作られた貴重品、と言うか希少品だ。サイズもそう種類があるわけは無い。ましてや群を抜く巨体の、キースの身体に合うサイズの冷却パイロットスーツが発見される可能性は、極めて低かった。

 それはともかくとして、マテュー少尉のアトラスが20連長距離ミサイルの模擬弾を撃ち放ちながら、走行移動で機体を前進させて行く。それを援護する様な形で、アンドリュー曹長のオウサムが走行移動で前進しながら、粒子ビーム砲を3門撃って2門撃ち、また3門撃っては2門撃つ、の繰り返しを行っている。恐るべきことに、その粒子ビームの砲火は1発たりとも標的を外さない。

 マテュー少尉が少々気落ちした声で言う。

 

『アンドリュー曹長、申し訳ないがもう少し手加減してくれませんかね。連携訓練なのは分かってますし、有効な戦術なのもその通りなのですが、私が撃つ標的が近寄る前に無くなってしまうんです。私の訓練にならないんですよ。』

『あー、でも今度は俺の訓練にならなくなるしなあ。んじゃ俺が隊長と交代するか?』

『いえ、隊長でも同じ事になるでしょうね……。』

 

 キースはその光景に、溜息を吐く。

 

(はぁ……。標的の強度じゃあ、バトルメックの壊れ難さを表現するには至らないからなー。本番ならマテュー少尉にもちゃんと出番が来ると思うけどさ。いや、オウサムの圧倒的破壊力からすれば、出番来ないかもなあ……。

 実際の戦場じゃ、攻めのパターンでは俺とアンドリュー曹長機の支援のもと、突貫するマテュー少尉機を盾にしてエリーザ曹長機が突入するんだもんな。長距離兵器を撃ちながら。守りのパターンでも、全員の長距離兵器による先制の一撃の後、アトラスとストーカーが立ち塞がって近距離兵装で叩いてる間に、オウサムとS型バンシーが中~遠距離から乱打する……。

 逆に俺がこの小隊を敵にするとしたら……。被害は免れんなあ。サンダーボルトやバトルマスターで足止めして、アーチャー他で長距離ミサイルの雨でも降らすしか思いつかん。あとはスナイパー砲やロングトムⅢの使い方が鍵になるよな。)

 

 更にキースは考える。

 

(間接砲撃に対処することも考慮しないとな。うちの小隊は全機足が遅い。ある意味で動きを読みやすいと言う事だ。気圏戦闘機隊のうち射撃戦闘が苦手な者を選んで、常時爆装させて置いて、間接砲を発見しだいに爆撃させるか?ちょっと訓練が終わったら、考えておこう。)

 

 やがて第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』の残りの面々と、第3中隊火力小隊の残りの面々が、自分たちのメックと共に城外演習場へと出て来る。これから、先に演習場へ出て機種転換訓練をやっていたサラ少尉やメアリー伍長との連携訓練を行うのだ。機体に敬礼をさせる彼らに、自分もメックと自分自身の両方で答礼を返し、キースは第1中隊指揮小隊と共に城内へと戻って行った。

 

 

 

 数日後、第1中隊指揮小隊に限った話ではあるが、機種転換訓練は一段落ついた。ちなみに機種転換組の他の面々だが、未だ訓練中だ。サラ少尉は、ぱっと見では充分にマローダーを乗りこなしていたが、自分では満足がいっていないのか今も自主的に訓練を続けている。メアリー伍長はシャドウホークに慣れ過ぎていたせいもあってか、未だにときどき機体を過熱させており、同じ小隊のライフルマン乗りであるハーマン・カムデン少尉やアナ・アルフォンソ伍長から特訓を受けていた。

 そんなある時、キースに外部から電話が入った。惑星軍との直通電話である。ちょうどキースはそのとき、指令室でオペレーターたちを監督していた。オペレーターの1人が電話を取り次ぐ。

 

「キース中佐、惑星軍からの直通電話が入っております。」

「む?了解だ。今そちらへ行く。」

 

 惑星軍との直通電話は、機密保持などを考慮してなのだろう、司令席や司令執務室などに回線を回せない。直通電話を設置してある指令室片隅のブースへ、キースが自分で向かうしか無いのだ。

 

「こちらライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。」

『こちらは惑星陸軍情報2課長、デイモン・レイトン大佐です。』

「レイトン大佐でしたか、緊急事態でしょうか?」

 

 デイモン大佐は肯定する。

 

『はい。実は5日前より、ドラコ連合スパイ網の摘発作戦を隠密裏に行っていたのですが、追い詰めたはずの内通者が、軽メック小隊を逃走の時間稼ぎに繰り出して来たのです。現在ストライカー軽戦車1個小隊と歩兵2個小隊が抵抗しておりますが、持ちそうにありません。至急、惑星守備隊メック1個小隊の出動を要請します。戦闘報酬は規定通りで。』

 

 戦闘報酬が規定通りだと言う事は、相手が正規の部隊であった場合には戦闘報酬と鹵獲、撃破ボーナスを、不正規の部隊や無法者であった場合は戦利品の権利を認めると言う物だ。キースは即答する。

 

「了解です。敵陣容をお教え願えますか?」

『20tスティンガー1機、20tワスプ1機、30tジャベリン1機、35tファイアスターター1機です。』

「なるほど、それでは下手に重いメックを繰り出して逃げに徹せられた場合、難しいですね。第3中隊偵察小隊を送りましょう。レパード級で急行させて、上空からジャンプジェットで強襲させます。敵の位置座標をお教え願います。」

『はい、座標は……。』

 

 キースは直通電話の受話器を置くと、司令席に駆け戻り卓上の通信設備を起動する。彼は第3中隊偵察小隊とレパード級降下船ゴダード号乗員に呼び出しを掛けた。

 

「第3中隊偵察小隊!緊急発進だ!敵は20tスティンガー、20tワスプ、30tジャベリン、35tファイアスターターの4機編制1個軽メック小隊!現在惑星軍の戦車1個小隊および歩兵2個小隊と交戦中だ!レパード級降下船ゴダード号を使ってXT-343地点へ急行、戦場上空よりジャンプジェットによる強襲攻撃を敢行せよ!

 レパード級降下船ゴダード号ヴォルフ船長以下乗員!聞いた通り、緊急発進だ!第3中隊偵察小隊が搭乗後、XT-343地点まで送ってもらう!

 繰り返す!第3中隊偵察小隊!緊急発進……。」

 

 キースが現在このアル・カサス城にいる第1、第3両中隊の偵察小隊のうち、第3中隊の偵察小隊を選んだのは、そのメックの編制による。第1中隊の偵察小隊には戦闘能力の低い35tオストスカウトが含まれており、戦闘能力よりは純粋に偵察能力に重きを置いていた。そのため今回の様な戦闘任務主体の作戦には、第3中隊の偵察小隊の方が向いていたのだ。

 幾ばくもなく、指令室主スクリーンには城の滑走路から轟音と共に飛び立つ、レパード級降下船ゴダード号が映し出された。そして司令席の通信設備からはゴダード号のヴォルフ船長の声が聞こえて来る。

 

『こちらレパード級降下船ゴダード号ブリッジ。アル・カサス城指令室へ、現在順調に飛行中。』

「こちらアル・カサス城指令室、キース・ハワード中佐。なるべく急いでくれ船長。惑星軍の歩兵や戦車が戦闘中だそうだが、持ちそうにないらしい。1分1秒でも早く第3中隊偵察小隊を現場に届けてくれ。」

『了解だよ、部隊司令。任せてくれたまえ。すっ飛ばして行く。交信終わり。』

 

 キースはしばらくそのまま待っていた。主スクリーンは惑星軍の対空レーダー基地からのレーダー情報に切り替わっている。それに映し出されたレパード級降下船ゴダード号の反応が、高速で目標地点へと向かっていた。やがて再びゴダード号からの連絡が入る。

 

『こちらレパード級降下船ゴダード号ブリッジ、船長のヴォルフだ。今しがた第3中隊偵察小隊を投下した。その後は上空待機して戦闘終了を待っているのだが……。いや強いね、うちの偵察小隊は。だが……。

 残念ながら、敵メック、たぶんファイアスターターによる物だと思うがね。惑星軍が大損害を受けておるよ。』

「……こちらアル・カサス城指令室、部隊司令キース中佐。ファイアスターターが敵にいる以上、それは予想済みだ。いくらかでも救えたならば、それで満足しなければならんだろう。」

『うむ……。戦闘終了の様だ。偵察小隊からの通信回線を中継するよ。』

 

 そして第3中隊偵察小隊小隊長、アルマ・キルヒホフ中尉の沈んだ声が、司令席の通信設備から流れ出す。

 

『こちら第3中隊偵察小隊小隊長、アルマ・キルヒホフ中尉です。敵メック全機を倒し、メック戦士全員を降伏させました。ですが、惑星軍が……。』

「こちらキース中佐だ。……よくやった。よく頑張ったな。数はそう多く無いだろうが、救えた者もあったのだろう?」

『は、はい。』

「ならば、まずはそれを誇れ。誰が認めなくとも、俺が認めてやる。貴官らはよくやった。気にするな、とは言わん。犠牲を気にしないのは無理な話だからな。だが救えた者は確かにいるんだ。」

 

 キースはアルマ中尉以下、第3中隊偵察小隊の面々について思う。

 

(たぶん、歩兵部隊が火炎放射器で焼かれた、その凄惨な遺体を目の当たりにしたんじゃないかな。彼らは生身の人間を殺した事なんて無かっただろうから、そう言う事に抵抗力が無かっただろうに……。城に帰還してきたら、軍医キャスリン軍曹にカウンセリングを頼まないとな。)

 

 世の中には、歩兵をメックで踏み潰す事をお気に入りにしているメック戦士もいる。キースは仲間たちにそこまで行って欲しくは無い。だが潰れてしまわないために、もう少しは図太くなって欲しいとも思っている。

 

「とりあえずは、戦利品は持って帰ってこい。だが捕虜は惑星軍に引き渡せ。惑星軍は詳細は機密事項だが、重要な捜査中だったんだ。その捕虜どもは重要参考人、あるいは被疑者だ。」

『はっ!了解しました!』

「よし、早目に戻って来い。交信終わり。」

 

 キースは通信回線を閉じた。

 

 

 

 さらに数日経過した後、キースはデイモン大佐からの電話による報告を、惑星軍との直通電話で受けていた。

 

『はてさて、例の内通者に雇われていた軽メック小隊ですがね。「自分たちは惑星政府の要人に個人的に雇われただけの用心棒だ。自分たちも騙されただけだ。」と強弁しておりましてな。』

「なるほど……。スパイ組織とは何ら関係が無いと?」

『はい。残念ながら、何も情報を持っておりませんでな。押収した書類も、つい先日に正規に雇われた傭兵である事を示す証拠にしかなりませんでしたよ。……素行の悪い、札付き傭兵ではありましたがな。惑星軍との戦闘ですらも、金払いの良い雇用主の命令ならば躊躇わないほどの。

 ですが残念ながら、ぎりぎりかろうじて無法者とまでは行きません。いや、陰では何をやっているのか分かった物では無いんですがね。』

 

 忌々しそうなデイモン大佐の言葉に、キースも溜息を吐きたくなる。

 

「それで内通者は、まんまと?」

『ええ、追跡調査を行ったのですが、偽造した身分で民間のミュール級商用貨客降下船に乗って、惑星をさっさと逃げ出してしまいました。ただ、相手にも不測の事態であったらしく、惑星内の財産は隠し財産なども含め、ほとんど差し押さえる事ができましたがね。』

「今回の惑星軍の人的被害からすると、慰めにはなりませんな。」

『まったくです。』

 

 デイモン大佐は、申し訳なさそうに続ける。

 

『様々な事情を考慮した結果、今回の戦闘は正規の戦闘と認められる事になりそうです。やつらのメックは、共和国預かりとなりますな。そちらには正規の戦闘報酬とバトルメックの鹵獲ボーナスと言う事で。

 正直、やつらからメックを没収してそちらに進呈したいぐらいなのですがね。ただ、やつらは惑星軍と戦闘を行った実行犯なので、刑事訴追されると共に民事でも訴えられます。明らかにこの惑星の法に違反しておりますが故に。

 部隊はおろか、メックを維持できなくなるぐらい搾り取ってやりますよ。罰金も賠償金も。その上で投獄してやりますとも。可能ならば終身刑で。』

「……なるほど。やつらには「快適な」「別荘暮らし」が待っているわけですね。」

『そう言う事ですな。』

 

 そう言ってから、デイモン大佐はおもむろに言葉を続ける。

 

『これで終わるつもりはありません。ドラコ連合スパイ網の摘発は、第2次作戦を近日中に予定しております。その際、軍事的衝突が発生した場合は、是非にお力添えを願います。』

「無論です。我々惑星守備隊にとっては、当然の任務ですからね。」

『ありがとうございます。今回は、これにて失礼します。ではまた後日。』

「はい。では。……はぁ~。」

 

 電話が切れた後、キースは大きな溜息を吐いた。どうやらドラコ連合スパイ網の摘発作戦は、不首尾に終わった様だ。一応のダメージは敵にも与えたものの、今回の作戦で捕らえようとしていた大物にはぎりぎりかろうじて手が届かなかったらしい。

 ふとキースは思う。

 

(もしかして、オスニエル公爵閣下は焦ってらっしゃるのかな?妹様、ミシュリーヌ様と仰ってたっけ?その方にできるだけ綺麗な状態で、この惑星と惑星公爵の地位を渡したくて?となると、万一とか言ってらしたが、下手をするとオスニエル公爵閣下の惑星公爵としての地位は、思ったより危ないのかな?

 いや、それは憶測に過ぎないよなあ。大丈夫って言ってたんだしー。それに俺が第1に考えなきゃあならないのは、『SOTS』の事だよね。『SOTS』の惑星撤退までには、もうあと1ヶ月と半分無いんだし。安全に任期を終える事を考えなきゃあ……。でも、ちょっとばかり公爵閣下には情が移ったと言うか、感情移入しちゃったしなあ……。)

 

 キースはサイモン老、自由執事ライナーなどの腹心に、ちょっとばかり相談してみようと決心した。

 

 

 

 ここはいつもの司令執務室。ここでキースは、仕事中の負傷で入院していた偵察兵、エルンスト・デルブリュック曹長から復帰の報告を受けていた。

 

「退院と職場復帰、おめでとうエルンスト曹長。貴様がいない間、偵察兵分隊はけっこう大変だったらしいぞ。」

「まあ『SOTS』の偵察兵は、能力的には素晴らしいですが数がおりませんからな。私程度でも、1人欠ければやはり大騒ぎでしょう。」

「謙遜するな。貴様は貴様自身が「暫定」を外すことを固辞しているとは言え、偵察兵分隊の分隊長なんだ。……復帰祝いと言う事で、「暫定分隊長」から「暫定」を外すつもりは無いか?」

 

 エルンスト曹長は慌てた様子を装って、頭を大きく左右に振る。

 

「いやいやいや、それはご勘弁下さい。ネイサン軍曹がもう少し昇進したら、さっさとこの地位を明け渡すつもりなんですから。」

「むう、なんでうちの人間はこうなんだろうな。」

「いや、トップにおられるお方ご自身が、御自分の昇進をさんざん厭っていらっしゃいましたからな。それを見習ったのでは?」

「……それを言うか。俺は結局、ちゃんと昇進したぞ?」

 

 キースとエルンスト曹長は、顔を見合わせて失笑した。そしてキースは、急に真面目な顔になってエルンスト曹長に命じる。

 

「エルンスト曹長。偵察兵分隊を自由に使っていい。この惑星の要人で、オスニエル公爵を追い落とそうとしている人物について調べてくれ。複数名いる模様だ。公爵閣下からすれば、余計なお世話かも知れんが……。放って置くと、寝覚めが悪い。

 ……偵察兵を、もっと増員しなければならんな。駐屯任務となると、惑星の政治と関わらずにはいられん。だが、今いる連中が偵察兵の指揮官クラスとして使える様にならんと、ただ増やしても意味が薄い……。貴様やネイサン軍曹、アイラ軍曹クラスの人材が、切実に欲しいな。」

「はっ。了解です。」

「頼んだ。」

 

 エルンスト曹長とキースは、敬礼と答礼を交わす。そしてエルンスト曹長は司令執務室を退室して行った。キースはひとり考えに耽る。

 

(シュタイナー家の情報部にいるトマ・ドーファン女史から買った情報では、オスニエル公爵の地位は盤石とは言い難いんだよね。あのデュラン公フレデリック・シュタイナーが軍事的な武勲の無いオスニエル閣下を嫌っていて、軽くではあるけど閣下を引き下ろす工作を後押ししてるってんだから。

 幸いなのは、フレデリック・シュタイナーにとってはオスニエル閣下が小物に見えている事だよなあ。嫌っているとは言っても、せいぜい気に食わんと言った程度らしいし。そこまで気にしてない吹けば飛ぶような存在を、わざわざ労力使ってまで退けようとは思わないだろ。

 デュラン公フレデリック・シュタイナー……。たしか、「流血を好み、空威張りばかりをし、軍事的勝利以外の選択肢など考慮できないし、考慮しようともしない」だったかな。それじゃあオスニエル閣下の能力や功績なんか、毛ほども評価しないだろ。ましてや惑星公爵になる以前の、学者としての功績なんか。

 今オスニエル閣下を惑星公爵位から降ろしてみろよ。大変なことになるよ?まず間違いなく惑星政府は場外乱闘の渦になって、機能は麻痺しちまうよ?そうなったらせっかくのメック倉庫も、またクリタ家に狙われちゃうかもよ?逆にドラコ連合に軍事的勝利を献上しちゃう事になりかねないってのにさ……。)

 

 しかも、その時点ではまず間違いなく『SOTS』はこの惑星にはいないのだ。今の内に何かしら手を打っておかなければ、キースにできることは無い。せっかく護った惑星が、内輪もめのあおりで失われるなど、馬鹿らしいにもほどがあると言う物だ。

 

(オスニエル閣下は政敵を粛正する準備もしているって言ってたけどさ。それを早めないと、まずくないか?このままじゃあ俺とサイモン爺さんが頼まれた、次期惑星公爵ミシュリーヌ様の代官を、オスニエル閣下の息がかかった人物にする工作が、本当に役に立っちゃうぞ?そしてその工作が役に立っても、欲深どもはなんとかして実権を握ろうと動くだろさ。そしたら惑星政府麻痺状態は目に見えてる。

 なんとか「この人物が次期惑星公爵閣下の代官なんだ」と周囲に認められるだけの時間を稼がないと駄目だよな。その代官候補が押しも押されもせぬ状況になってからじゃないと、オスニエル公爵閣下は安心して引退できないだろ。本音では、只の学者に戻りたがってるんだろうけどさ。)

 

 キースは自分にできる事、あと1ヶ月強の状況で打てる手を考える。可能そうな方法は、決して多く無かった。




ちょっと主人公には、不得手な領域の戦いに挑む事になりそうですね。ですが、味方が大勢いるので、なんとかなりそうな気も。
がんばれ主人公。君の活躍次第で、この惑星の未来が決まるぞ。
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