ベルダール星系の天の北極方面ゼニス点ジャンプポイントで、ジャンプ帆を張って停泊――この星系には、補給ステーションは存在しなかった――していた3隻の航宙艦が、その直径1km弱から1km強のジャンプ帆を畳み始める。どうやら中核装置へのエネルギー補給が終了した模様だ。この3隻の航宙艦はジャンプ帆を畳み終えると、次々に超空間へ突入して最長距離ジャンプに入った。
そしてこの3隻はパールク星系のジャンプポイント、ゼニス点で一斉にジャンプアウトする。そして3隻はゆっくりと恒星パールクへと艦首を向けると、その巨大なジャンプ帆を展開し始めた。その内の1隻、マーチャント級クレメント号のブリッジでは、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令たるキースが今しがた、重力デッキより上がって来たところである。
アーダルベルト・ディックハウト艦長以下ブリッジ勤務の面々は、敬礼と笑顔でキースを迎えた。キースも答礼を返す。アーダルベルト艦長は主スクリーンを指さしながら、キースに話し掛けた。
「隊長、あれを見てごらんよ。この星系の補給ステーションだ。だが太陽エネルギーを受けてコンデンサーにチャージするための「帆」がずたずたに破れてしまっている。既に動いていない模様だね。」
「む……。だが補給ステーションが、かつてこの星系にあったと言う事は、ある意味期待大だな。そうだな……もしかしたらあの補給ステーション自体にも、何かいい物が残っているかも知れん。」
「それはこっちで、イントレピッド号のイクセル艦長や、ズーコフ号のヨハン艦長と相談して調査するよ。隊長たちは、惑星……パールクⅣ、でいいのかな?それの調査をしっかり頑張りたまえ。ところで星系内にある、惑星パールクⅣとは別座標のポイントには、まだ調査隊を送り込まないんだったね?」
アーダルベルト艦長の台詞に、キースは頷く。
「ああ、とりあえずは惑星パールクⅣの調査をざっと済ませてからだな。それが済んだら、降下船を1隻派遣してそこを調べる。おそらくは宇宙基地か何かがあるんじゃないかと思うんだが……。だとすると、そこはそこで宝の山だな。……既に誰かに発掘されていなければ、だが。
さて、それではちょっと行って来る、艦長。」
「うむ、頑張ってな。それでは……ジャンプポイントまで、ご無事のお戻りを願っております、隊長。」
「うむ。」
敬礼してくる艦長たちに答礼を送り、キースは宙を泳いで降下船連結部へと向かう。これよりこのクレメント号にドッキングしているフォートレス級降下船ディファイアント号を切り離し、キースたちは惑星パールクⅣへと降下するのだ。
そしてフォートレス級降下船ディファイアント号が、マーチャント級航宙艦クレメント号より切り離される。それとほぼ同時に、インベーダー級航宙艦イントレピッド号、ズーコフ号から、ユニオン級降下船3隻とレパード級降下船3隻が切り離された。そして各降下船は、惑星パールクⅣに向けて1G加速で降下を開始したのである。
連盟標準時で8日後、『SOTS』の降下船群は惑星パールクⅣの軌道上に到達した。キースは降下船ディファイアント号のブリッジに上がり、船長や副長に問いを投げかけているところだ。
「……つまりこの惑星は、第1次か第2次の継承権戦争の際に、散々に叩かれたらしい、と?船長。」
「はい、部隊司令。惑星首都や主要都市と見ゆる場所を軌道上から望遠観測いたしましたが、酷いもんです。生々と軌道爆撃の跡が、各々の都市の市街地中心部に残ってますな。一部では地形が変わる程叩き込まれた様で。これでは当時都市部には生存者はおりますまい。」
「そればかりでは無いよ、中佐。」
そう言ったのは、いつの間にかブリッジに来ていた惑星学者ミン・ハオサン博士だ。彼はブリッジの一画を占領して、色々と何やら作業をしている。
「核兵器も遠慮なしに使われた様だね。大半は雨で流された様だが、ごく一部の地域からは弱い放射線が観測されておる。BC兵器はわからんがね。」
「使われた可能性を鑑みて、メック以外で船外に出るときは、劣悪環境スーツの着用を推奨するとしましょう。ありがとうハオサン博士。」
「いやいや。しかし、第1次や第2次の継承権戦争はひどいもんだねえ、中佐。軌道爆撃も核兵器も、アレス条約違反なのに。」
アレス条約がようやくまともに守られる、と言うか表立って破られる事が無くなったのは、第3次継承権戦争からだ。あまりに巨大な被害に各継承国家が音を上げて、これ以上の戦争による文明後退を避けるため、アレス条約を守る様になったのだ。無論こっそり生物兵器の開発を行うなど、裏では条約違反をしている継承国家は多いはずだが、少なくとも表向きにおおっぴらに破る事は無い。なお破った実行犯は無法者とされて、法の加護の外に置かれてしまうばかりか、積極的に攻撃を受ける運命にすらある。
「さて、とりあえず全降下船を「降下船基地?」の地点へと降下させよう。マンフレート船長、マシュー副長、全降下船に降下指示を出してくれ。ただし降下後にうかつに外に出ない様に申し送り付きで。」
「了解です、部隊司令。では部隊司令とハオサン博士は、船室へ戻ってシートベルトで身体を固定していただけますかな?」
「了解だ船長。」
「わたしも了解したよ。では行きますかな、中佐。」
キースとハオサン博士は、連れだってブリッジを出て行った。
そして『SOTS』降下船群は、惑星パールクⅣの地上に降り立った。ここは解読した暗号文に、「降下船基地?」の注意書き付きで記されていた惑星内地理座標のポイントである。確かにここは降下船の基地の跡であり、幾つもの離着床や滑走路、ひび割れ崩れかけた建造物などが多数存在していた。おそらくはこの近辺に行われた、軌道爆撃の余波を浴びたのだろう。
船窓から外を眺めていたアンドリュー曹長が、ぽつりと漏らす。
「……残骸ばっかじゃん。あんま期待できねーかもな。」
「いや、まだ使える部品が残っている可能性もありますよ。ざっと見たところ、形を保っている倉庫らしき建造物も数多い。」
そう言ったのは、マテュー少尉だ。しかしアンドリュー曹長の言った事も確かで、幾多の離着床や滑走路脇には、朽ちたユニオン級やレパード級と思しき降下船の残骸が転がっていた。バトルメックの残骸と思われる物体も、あちこちに転がっている。頑丈な降下船が、卵が爆ぜたかの様に残骸を晒しているのは、これも軌道爆撃の余波によるものであろうか。
キースの脇で外の様子を眺めていたサイモン老が、口を開く。
「まあ、徹底的に調べ回ってからですのう、結論を出すのは。一見朽ち果ててはおりますがの、回収できる部品を集めれば、ここに来た元ぐらいはとれるんでは無いかと思いますわい。」
「今、とりあえずハオサン博士以下数名が、劣悪環境スーツ着用の上で外の環境を調査している。それが終わったら、この基地の調査だな。」
キースが現状での方針を示した事で、とりあえずこの場はお開きとなる。その場に集まっていた者たちは、三々五々散って行った。
結局のところ、BC兵器による汚染の心配は無い事が判明した。と言うか、化学兵器は使用されたのだがあくまで即効性の物であり、環境中に放たれてから分解されるまでの時間が短い物であったらしい。地表に残されていた残留物を調査したところ、そう言う結果が出た。
『SOTS』の偵察兵、整備兵および助整兵たちは降下船より外に出て、調査を開始した。歩兵たちもその手伝いをする。やがて基地建造物、特に形を保っていた倉庫から、多数の部品群が見つかる。ネジやボルト、電子部品と言った一般的なものから、小型や中型のコンピュータ、メック部品や弾薬に至るまでかなりの量が発見された。また、降下船の残骸やバトルメックの残骸からも、幾多の使用可能な部品が回収される。金銭的には元は取れそうだ。
しかし元は取れそうだとは言っても、期待が大きかっただけに隊員たちは少々気落ちしてもいる様である。どうにか士気を高める必要がありそうだとキースは考えるが、さりとて方法が見つからない。フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室でキースが唸っていると、誰かがインターホンを鳴らした。
「誰か?」
『偵察兵分隊暫定隊長、エルンスト曹長です。キース中佐、少々お話が。』
「入室を許可する。」
入室して来たエルンスト曹長は、紙束を抱えていた。彼はそれを置くと、敬礼する。答礼を返したキースは、エルンスト曹長に訊ねる。
「その紙束は?」
「作成したばかりの、この降下船基地の地図ですな。キース中佐、これを見てください。」
「どれ……。む?」
「やはり、お気づきになられましたか。基地の一部の土地が、やけに広く空いてるんですね。それで地下施設の存在を疑ったんですよ。無論、何か建物の建設予定地として確保してあっただけと言う可能性もありますが……。
そこで、爆弾による人工地震を起こして、伝わる振動の波形を観測する例のやり方で、地下施設の存在を確認したいと思いまして。パメラ軍曹をお借りできないかと。」
キースは即断する。
「問題無いとも。即刻始めてくれ。それと基地施設の更に丹念な調査も頼む。地下施設があるなら、その入り口が何処かにあるはずだ。」
「では作戦開始と行きましょうか、中佐。ではこれにて失礼いたします。」
「うむ、退出を許可する。吉報を待っている。」
敬礼と答礼を交わし、エルンスト曹長は足早に部隊司令室を出て行く。キースはいったん萎みかけた期待が、再び膨らむのを感じた。そして2時間後、降下船基地跡地の地下に、何らかの施設の存在を確認。更に数時間後には、地下施設への入り口が発見される。しかし既に時間が遅い事、働きづめの隊員たちが疲労している事などを考慮し、キースは地下施設の発掘作業は明日に回す事を決定した。
そして次の日の昼時、フォートレス級ディファイアント号の士官食堂で食事を終えたキースが、同じく食事を終えた副官ジャスティン少尉を従えて部隊司令室に戻って来ると、そこには偵察兵の中では未だ下っ端なれど、最近そこそこの実力を備えて来たヘルムート・ゲーベンバウアー伍長が扉の前で待っていた。彼はキースに気が付くと、敬礼して来る。キースとジャスティン少尉は答礼を返す。キースは彼に問い掛けた。
「ヘルムート伍長、どうした?何か報告か?」
「はい!実は……。」
「ああ、いい。中で聞く。入室を許可する、入れ。」
キースはヘルムート伍長を促し、ジャスティン少尉と共に部隊司令室へ入る。ヘルムート伍長は慌てた様に彼らに従って入室して来た。キースは席に着くと、ヘルムート伍長に話し掛ける。
「さて、報告を聞こうか、伍長。」
「はっ!ネイサン軍曹とジェレミー少尉の手により、降下船基地地下施設への入り口が解放されました。偵察兵分隊がジェレミー少尉以下4名の整備兵を護衛しつつ、内部の調査を行っております。なおパメラ軍曹が地下施設のコンピュータにアクセスを行い、地下施設の概要を入手いたしました。自分はその内容について、ご報告に上がったしだいであります!」
「うむ。つまりは地下施設のシステムは、まだ生きていたと言う事だな。続けてくれ。」
「はっ!ではまず……。」
ヘルムート伍長の報告によれば地下施設の探索中に、1室でこの基地の最後の生き残りと思われる上級士官――少佐の階級章を着けていた――の朽ち果てた遺骸を発見、その手記を入手したそうだ。それによれば、この惑星は第1次継承権戦争中の2790年に、クリタ家の軌道爆撃や核攻撃、化学兵器散布を受けて滅んだ模様だった。
更にとんでもない事も、その手記には書かれていた。この惑星は、星間連盟期のバトルメックや気圏戦闘機の実験場であったらしいのだ。そして地下施設の兵器庫――不活性ガスを満たしてモスボール封印されているらしい――には、通常型バトルメックに加えてその星間連盟期の実験機も多数……と言っても数はわからないのだが、幾つも隠されているらしかった。
また地下施設には降下船もまた数隻ばかり封印処置されているらしい。具体的な船種と隻数はわからないものの、それらが手に入れば『SOTS』は大儲けである。大儲けではあるのだが……。
「……実験場惑星、か。かつて駐屯していた事のある、ドリステラⅢを思い出すな。となると、複数の降下船が手に入ったとすれば、この星系から撤退する際にはピストン輸送が必要になるかな。まあ、まだ取らぬ狸の皮算用であるのだが。」
「あ、いえ。まだパメラ軍曹からの、コンピュータから取った情報のご報告が……。」
「おお、それがあったな。」
「はい、それによると決して取らぬ狸の皮算用では無い様です。おそらくは3隻の降下船が、地下施設に存在する模様でしたから。」
キースは唸る。ジャスティン少尉がヘルムート伍長の分も合わせて、彼お得意のコーヒーを淹れてくれた。
「ああ、ありがとうジャスティン少尉。」
「し、少尉、恐縮です。」
「いや、気にしないでいい伍長。」
「しかしそうなると、降下船を航宙艦によるピストン輸送しないとならないのか……。これは参ったぞ。」
そこへジャスティン少尉が意見を述べる。
「キース中佐、意見を具申いたします。それは後に回して『SOTS』全体にこの大発見を通達すべきではないでしょうか?『SOTS』隊員のほとんどは、せっかく来た降下船基地が廃墟であった事に消沈しています。地下施設があった事が判明したときも、ぬか喜びになる危険を考慮して一般の隊員たちには教えていませんでした。ですがここまでくれば、ぬか喜びにはならないでしょう。」
「そう……だな。隊員たちの士気を上げるためにも、ここはこの発見を発表すべきだな。うむ、これで下がり気味だった隊員たちの士気も上がるだろう。」
「ではその様に。」
「うむ。手配を頼む、ジャスティン少尉。」
キースはヘルムート伍長に向き直った。
「伍長、他に報告はあるか?」
「いえ、現状はこれで全てです。」
「そうか、では偵察兵分隊に戻り、引き続き探索を行う様に。コーヒーを飲み終わったら退出してよろしい。」
「はっ!もういただきました、ごちそうさまでした!これにて失礼いたします!」
敬礼と答礼を交わし、部隊司令室を退出するヘルムート伍長を見送ったキースは、机上に何枚かの書類を広げる。それはかの古文書に隠された暗号を、解読した文書であった。
(次に近場なのは、この水浄化施設だよな。ここの降下船基地の調査が終わったならば、とりあえずフェレット偵察ヘリコプター2機を飛ばせばいいかなあ。こちらの「詳細不明」2ヶ所も、早目に確認しておきたい物だけど……。まあ時間はある。ゆっくりやって行こう。)
その日が終わる頃には、地下施設に収められている降下船や兵器類のリストアップが完了した。通常の兵器類は、通常型バトルメックが様々な種類で20機、通常型気圏戦闘機の30tスパローホークが6機、80tと95tの超重戦車類が計44輛に95tの機動ロングトム砲が1輛、その他細々とした車輛類が8輛。降下船がレパードCV級降下船アーコン号、トライアンフ級降下船トリンキュロー号、そして仰天した事に、オーバーロード級降下船フィアレス号の3隻が存在した。
だが何よりも驚くべき発見は、遺失技術を用いた超強力な実験機群の存在であろう。軽量級から重量級までの遺失技術バトルメックが計12機、重量級の遺失技術気圏戦闘機が計6機ばかり発見されたのだ。それと同時に、多数の通常型バトルメックに関する様々な技術資料に混じって、幾ばくかの遺失技術に関する技術資料や研究資料も発見された。
無論の事、これらの兵器類に関する補修部品類、予備部品類も多数発見されている。通常のメックや気圏戦闘機の部品だけでなく、遺失技術を用いた部品類も莫大な数発見された。遺失技術部品類は、恒星連邦に持って帰れれば貴重な研究資料となるはずだ。キースは考える。
(これらの遺失技術機体は、強力だけど所詮実験機だしなあ……。よし、持って帰れたら全部売り払おう。ジョナスを介して恒星連邦に売れば、ジョナスの手柄にもなるだろうさ。)
「隊長、大発見ですな。とりあえず全部、再稼働整備開始と言う事で良いですかのう?それと、通常型バトルメックの中に含まれていたノーマルのマローダー2機は、あれもD型に改装してしまっても良いですかの?改装に必要な部品は、発見されたパーツ群に全部ありましたわい。」
報告のため、部隊司令室を訪れていたサイモン老が、方針を訊ねて来る。キースは答えて言った。
「サイモン中尉、その方針でやってくれ。ただし、ジェレミー少尉やパメラ軍曹、キャスリン軍曹あたりの最高レベルの腕利きは、なるべく使わない方針で頼む。彼らには、偵察兵分隊に同行してもらって、他の地点の調査をやってもらうつもりなんだ。それと、今日はそろそろ休んでくれ。再稼働整備とメック改装は、明日以降でいいだろう。」
「了解ですわ。ではわしも休みますわい。」
「うむ、退室を許可する。ゆっくり休んで明日に備えてくれ。」
サイモン老は敬礼をして退出して行く。答礼を返してそれを見送ったキースは、自分も休むべくシャワールームへ向かった。
ユニオン級降下船レパルス号と、同級エンデバー号が離床して行く。これらの降下船は、各々が2ヶ所の「詳細不明」地点へと別れて向かうのだ。それぞれの船には、レパルス号に第2中隊、エンデバー号に第3中隊のメック部隊が一部だけ……それぞれ4機ずつ乗り込んでいる。全機、手が使えるタイプのメックばかりが選ばれていた。必要時には、それらのメックを作業用に用いる予定である。
キースは離床して行く2隻を見上げた。隣には、いつものジャスティン少尉が控えており、更に第2中隊中隊長ヒューバート大尉、第3中隊中隊長アーリン大尉も立っている。キースは呟く様に言う。
「水浄化施設に、推進剤タンクが6基も無傷で残っていて助かったな。おかげで余裕を持って降下船を移動手段として使える。施設本体は既に動かない残骸でしか無かったが。後は報告では、大型の6連タンクローリーが何台かあった様だ。それを整備して往復させ、推進剤をこの降下船基地まで輸送させる。」
「今歩兵部隊が整備兵と助整兵を何名か連れて、推進剤の回収に向かっているんでしたよね。」
「うん、そのはず……。お、あのD型マローダーは、第4中隊指揮小隊のジョシュア少尉だな?」
アーリン大尉とヒューバート大尉が口々に言う。その彼らの視線の先を、75tのD型マローダーが1機、地響きを立てて走行して行く。ヒューバート大尉が言った通り、それはジョシュア・ブレナン少尉の機体であった。彼は50tハンチバックから、あのD型マローダーに機種転換していたため、機種転換訓練に忙しかったのである。
見ると、他にも訓練に励んでいるメック戦士たちが多くいる。訓練中隊に配属された新任少尉たちと、未だ何処にも正式配属に至っていない訓練生の面々である。訓練生を監督しているのは、キース、アンドリュー曹長、エリーザ曹長の直弟子である、イヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長だ。キースは頷く。
「うむ。イヴリン軍曹たちも随分腕が上がったな。新任少尉たちと比較すれば、はっきりとわかる。ロビンソン戦闘士官学校の正式な訓練課程を経て来たやつらと比べても、技量は劣っていないどころか、はるか上回る。」
「今頃、オスカー少尉もロジャー少尉もジョーダン少尉も、テリー少尉もイルヴァ少尉もカーラ少尉も、顔色が蒼くなってますよ。絶対に。」
「なんと言ったって、イヴリン軍曹たち13から15の子供だものねえ……。それが既に実戦を潜り抜けて、厳しいはずの訓練を受けて来た自分たちを、技量的にはるかに引き離しているんだもの……。」
「腐らずに頑張って欲しい物だな。」
見ると、ジョシュア少尉のD型マローダーの周囲に、第4中隊指揮小隊のバトルメックが集まって来ている。どうやらこれより、新しい機体を加えた形でのフォーメーションなどを色々と試し、連携訓練を行う様だ。キースたちはそれを見届けると、踵を返してフォートレス級ディファイアント号へと向かい歩き出す。全ての報告は、ディファイアント号の部隊司令室へ集まって来るのだ。いつまでも油を売ってはいられなかった。
キースは内心で頭を抱えた。レパルス号とエンデバー号から通信が入ったとの連絡を受け、ディファイアント号のブリッジまで上がって来たのだが、その内容が大変だったのだ。まずユニオン級レパルス号に同道した熟練整備兵にしてコンピュータ技師、パメラ軍曹の報告は以下の様な物だった。
『隊長。こちらのポイントなんですが、とんでもない物が隠されていました。以前惑星ドリステラⅢで発見した、バトルメックの自動整備施設とほぼ同じ物です。ほぼ、と言うのはここの施設が気圏戦闘機にも対応しているからです。
ただし、そのコンピュータに記録されている設計データの数が半端じゃありません。ありとあらゆる……とまでは行きませんが、各継承国家オリジナルの機体を除けばほぼ全てのメックや気圏戦闘機の設計データが入っています。更に遺失技術メックや遺失技術気圏戦闘機に関する設計データも登録されていて、この施設で自動的に整備可能です。他にもバトルメックや気圏戦闘機、LAM機に関する技術資料が山の様に発見されました。中には遺失技術に関する詳細資料もある模様です。
それと、この施設に付随してバトルメック倉庫を発見いたしました。自動整備施設の中に入っていた物を含めて、合計14機のLAM機を確保できました。内12機が50tのフェニックスホークLAM、2機が形式不明の遺失技術満載の実験機LAMです。交換部品や補修部品も山の様にあります。』
一方、ユニオン級エンデバー号に乗り込んでいった、サイモン老を除けば最高峰の技術者であるジェレミー少尉の報告は、次の様な物だった。
『隊長!大変です!あ、し、失礼しました。えー、こちらの地点ですが、かつてドリステラⅢで発見されたバトルメックの製作施設を覚えてらっしゃいますか?それと似た様な物が隠されてました。ですがこっちの施設は気圏戦闘機も製作できるようです。大量生産は不可能ですが、実験機などを少数作る場合には、こちらの方が良さそうなのは変わりありません。
それと、エンドウスチールやらフェロファイバー装甲やらXLエンジンやら、遺失技術に関する詳細技術資料が山の様に見つかりました。あとは大量と言いますか、莫大な原料と莫大な部品に、2機の強襲メック……見たことの無い形式の、遺失技術の実験台として製作されたらしい85tと90tのバトルメックが1機ずつ計2機です。
あと、意見を具申いたします。現在改装中のマローダー2機ですが、作業を中断してこちらに送るわけには行きませんか?D型に改装するのは、こちらの設備を使えば数倍の速度で可能になります。』
ちなみにジェレミー少尉の意見具申には了承を返し、サイモン老と改装中マローダー2機に部品群を、レパード級降下船ヴァリアント号に乗せてすぐさま送り出した。その後でキースは、必死に考える。
(見つかったバトルメックは全部で48機……。どうする?降下船に載せきれないぞ。いや、メック以上に価値があるのは、メックと気圏戦闘機の自動整備施設に製作施設だ。絶対にそれを置いていくわけにはいかない。戦車積むのあきらめて、トライアンフ級を全部貨物輸送に使うか?
いや、今のままだとどうせ航宙艦によるピストン輸送は避けられない。先に自動整備施設、製作施設を分解して積み込んで、遺失技術メックと遺失技術気圏戦闘機を積んで、それをジョナスを介して売り払おう。ああ、遺失技術に関する技術資料もコピー取って、ジョナスに原本を渡してしまわないと。そうしてから、再度この惑星パールクⅣに戻って残りの物資や装備、降下船を……。しかし……。)
キースは泥水の様なコーヒーを啜る。ディファイアント号ブリッジでは、副官ジャスティン少尉が淹れてくれる美味いコーヒーは飲めない。
(ドリステラⅢとの共通点からして、ここにそう言う施設や設備がある事は、想定してしかるべきだったかもな。ドリステラⅢも、かつては新兵器の実験場と言う側面があった惑星だったらしい。そしてここパールクⅣも、秘匿技術兵器などの実験場だった様だ。バトルメック、気圏戦闘機の自動整備施設や製作施設か……。)
その時、ユニオン級降下船ゾディアック号が離床して行く轟音が、ディファイアント号ブリッジにまで響いた。ゾディアック号は、偵察兵エルンスト曹長を始めとして、熟練ではあるがサイモン老の直弟子たちにはやや及ばない整備兵たちを乗せて、このパールク星系にあるこの惑星とは別の星系内座標のポイントへと向かうのだ。その星系内座標は、これもまた例の古文書の暗号を解読した結果、見つかった物であった。
(そこに何があるやら……。いや、ここは貪欲になるべきだ。何があろうと、洗い浚い頂いて行こう。……しかし、メック戦士や兵員の確保だけでなく、降下船の搭乗員も色々考えないといけないなあ。中心領域に帰還したら、真っ先に兵員と船員の募集かけないと。
ああ、いや。遺失技術メックやら遺失技術気圏戦闘機やら、自動整備施設やら製作施設やら抱えたままでいるのは、ぶっちゃけ怖いな。まず必要なだけの船員の募集かけたら、後はジョナスを通じてそれらを恒星連邦政府に売り払ってからだ。)
キースはおもむろに泥水コーヒーを飲み下し、マンフレート船長たちに声を掛けた。
「俺は部隊司令室へ戻る。何かあったら、すぐに呼び出してくれ。」
「了解です。では。」
「うむ。」
敬礼と答礼を交わし、キースは踵を返して下層ブロックの士官用船室へと降りて行く。キースは頭の中で、部隊の編制や人員の再配置について、一生懸命に考えていた。
もうお宝ザクザクです。でも、まだ終わりじゃありません。
待て、次回!