フォートレス級降下船ディファイアント号の船倉に置かれた、2台リンクのシミュレーター筐体で、モーリス・キャンピアン訓練生が教官からマンツーマンで訓練を受けている。ちなみにキースは、一応様子は見に来ているが、本日の教官ではない。更に言えば、イヴリン軍曹たちが教官役をやっているわけでもない。本日の教官は、気圏戦闘機隊指揮官マイク中尉だ。
『なにやってるっすか!この○○○!気圏戦闘機はバトルメックと違って、ダメージコントロールの面で厳しいっす!徹底的に動いて、相手の射界から逃げるんすよ!そして相手の死角に滑り込むっす!気圏戦闘機の武器は、圧倒的な機動力っす!わかったら返事をするっす、この×××!』
『は、はい!!了解です教官!!』
訓練生たちは、キースの教育方針変更により、バトルメック操縦技能だけではなく、気圏戦闘機の操縦技能をも習得させられる事になったのだ。今頃他の訓練生たちも、気圏戦闘機乗りの航空兵を教官にして、各ユニオン級降下船にあるシミュレーターで猛特訓を受けている頃合いだ。
キースがなぜその様な方針変更をしたかと言うと、今モーリス訓練生がシミュレーターで使用している機体にその答えがあった。実機が点検整備中だったものでシミュレーター訓練をしようとやって来たものの、筐体が埋まっていたために見学に回っていたイヴリン軍曹が、言葉を漏らす。
「……50tのフェニックスホークLAM、ですか。今は気圏戦闘機モードですね。」
「うむ。奴ら訓練生はバトルメックの実機に乗り始めてまだ日が浅い。それに若い、と言うより幼いのだが、それ故に柔軟性があるからな。独特の運用をせねばならんLAM機に、上手く適応してくれる事を期待している。
正直な話貴様ら先代の訓練生たちもLAM機が多数手に入った以上、LAM機搭乗員として再訓練する事を考慮しなかったと言えば嘘になるが……。だが貴様はお父上の遺してくれたサンダーボルトを降りるつもりなど、無いだろう?」
「は、はい!!それはもう!!」
キースは笑って、イヴリン軍曹に言う。
「だろうと思っていた。それにエドウィン伍長もエルフリーデ伍長も、偵察小隊隊員として替えの無い人材に育って来ている事だしな。まあ偵察小隊はともかく、『機兵狩人小隊』の編制は、いじるつもりは無い。」
「そうですか……。」
「安心したか?」
「はいっ!!」
元気よく応えるイヴリン軍曹に、キースは頬を緩めた。彼は内心で思う。
(いや、サラ中尉待遇少尉が頑固なんだよなあ。彼女だったら大尉……に一気に昇進させるのは問題があるだろうから、大尉待遇中尉にでもして中隊を任せたいところなんだけどさあ。いくら「将来的に『機兵狩人小隊』はイヴリン軍曹が指揮する様に取り計らう。」って言っても、そうなったら自分はイヴリン軍曹の下に入りたいって……。気持ちは分からんでも無いけどさ。
通常のバトルメックが20機発掘されたから、予備機や訓練中隊のメック数を加えると2個中隊は更に編制できるよね。中心領域に帰還したら新たにメック戦士を募って、遊んでる機体をある程度減らさないとなあ。予備機は必要だけれどもさ。でも中隊長候補が……。)
「……どうかなさいましたか?」
「ああいや、取らぬ狸の皮算用をしていたところだ。辺境から中心領域に帰還したら、メック戦士を新たに雇用して部隊を拡張せねばならんと思ってな。それで部隊編制に悩んでいただけだ。だがまだ、帰還したわけでも無いしな。
さて、俺はそろそろ部隊司令室へ戻る。貴様はどうする?」
「はっ!自分も戻って座学の予習でもしようかと!」
「そうか。」
キースはシミュレーターの制御卓から、筐体内へ繋がる通信回線を開く。
「あー、マイク中尉。俺はそろそろ部隊司令室へ戻る。後は任せていいな?」
『了解っす!任せてくだ……。何をやってるっすか、このフニャ○○野郎!隊長の前で恥ずかしい所見せるんじゃないっす!』
『も、申し訳ありません!!』
『まったく……。あ、失礼したっす。それではご苦労さまっす。』
「あー、うむ。頑張ってな。」
通信回線を閉じると、キースはイヴリン軍曹に向き直る。イヴリン軍曹はキースに敬礼をし、キースは答礼を返す。
「うむ。では次会うのは座学の時間だな。」
「はっ!」
「予習がんばれ。ではな。」
キースは部隊司令室に向かい、その場を歩み去る。その背中にイヴリン軍曹の視線が向いているのを、キースは何とはなしに感じ取っていた。
数日後、キースはフォートレス級ディファイアント号のブリッジで、マテュー少尉の100tアトラスの装備する深宇宙通信アンテナから中継されて来る、データ通信による報告書を受け取っていた。脅威の100tメックであるアトラスには、高指向性の深宇宙通信アンテナが装備されており、単独で宇宙船との通信が可能なのだ。まあさすがに地上の固定局よりは効率も精度も落ちるが、便利である事は疑いない。
キースに、ディファイアント号のマシュー副長が訊ねて来る。
「例の星系内の別ポイントに派遣した、ゾディアック号からの通信文ですか?」
「ああ、エルンスト曹長からの定時連絡だ。指定されたポイントに到着したらしい。宇宙基地らしき構造物を確認、どうやら降下船や航宙艦のための0G乾ドックらしいとの事だ。外観からは攻撃を受けたらしい痕跡が認められるらしい。詳細な調査はこれからする様だ。」
「0G乾ドックですか!?」
マシュー副長の言葉に、キースは頷く。
「ああ。もし乾ドックに修理中でもいいから航宙艦が残っていれば、サイモン中尉とジェレミー少尉を派遣して修理再開させるんだがな。修理用の資材ごと、艦が残っていればだが。」
「航宙艦用の修理資材ですか……。残っていれば、これまた一財産ですけどねえ。」
「残骸状態でもかまわんから、航宙艦が形だけでも残っていてくれれば良いんだがな。そうすれば、うちで専属契約している3隻の航宙艦の予備部品が助かると言う物だ。」
キースがそう言った時、ブリッジの主スクリーンにバトルマスターの姿が映る。これはアーリン大尉の機体ではなく、発掘されたバトルメックだ。乗っているのはヒューバート大尉である。キースは部隊全体の戦力強化を行うべく、各中隊の中隊長と語らって部隊のバトルメックの一新を図ったのだ。結果、ヒューバート大尉の乗機は75tのオリオンから85tのバトルマスターへとパワーアップしたのである。
機体を交換したのはヒューバート大尉だけではない。主スクリーンに映る映像では、ときどき引っ掛かる様に動きが鈍くなる、発掘されたメックや再配置されたメックの姿が見える。これらは皆一様に、機種転換訓練中の部隊員である。
「皆、まだまだ慣れない様だな。だがヒューバート大尉は流石だ。既に手足の如くバトルマスターを操っている。」
「このパールクⅣにいる間に、機種転換訓練を全部終わらせられればいいんですけどね。」
「そうだな。」
キースとマシュー副長が話していると、ブリッジにマンフレート船長が上がって来る。彼はキースの姿を認めると、敬礼を送って来た。キースとマシュー副長、それに手が空いているブリッジ要員が答礼する。マンフレート船長は溜息まじりに言った。
「ふぅ……。いや、今惑星上にいる各降下船の船長たちと協議を重ねて来たのですが、オーバーロード級フィアレス号にはうちの船から船員を分ける事になりました。それで足りない分の船員を、助整兵を借りて素人船員として使う事になったんですが……。まあ『SOTS』の助整兵は他所とは段違いの技術教育を受けていますから、安心と言えば安心です。」
「本職の船員には負担をかけてしまうな。」
「はい。まあ、降下船基地に発掘に来る予定でしたから、見習い船員の名目で惑星ロビンソンで各船合計20人ちょっとばかり雇用してはいましたが……。3隻も降下船があって、しかも内1隻がオーバーロード級だとは予想外でした。ユニオン級が2隻も見つかればいい方では、と言う予想で見習い船員を雇いましたからね。
何を他人ごとの様な顔をしているのだね、マシュー副長。各降下船の船長たちと協議を重ねたと言ったろうに。結果、オーバーロード級フィアレス号の船長には君を推薦する事になったのだよ?」
「ええっ!?」
マシュー副長の顔が引き攣る。一方キースは、なるほどと頷いた。
「ふむ、となると貴官は中尉昇進だな。俺としては船の事は必要最小限しか分かっていないからな。船長会議の決定ならば、よほどの事が無ければ退けはせんよ。」
「ありがとうございます、部隊司令。」
「ありがたくありませんよ!」
「給料も上がるぞ?マシュー副長。」
キースの台詞に、マシュー副長は反論する。
「ユニオン級ぐらいならば、よろこんで引き受けましたとも!ですがオーバーロード級ですよ!?その責任の重さはユニオン級の比じゃありません!しかも半分がた素人船員ですよ!?」
「副長、我々船長たちが君しかいないと判断したのだよ。次点はゾディアック号のレオニード副長だったのだが、ゾディアック号は今惑星上にいないからね。本音を言えば、私も優秀な副長を引き抜かれるのは痛いと思うが、やむを得ない事なのだよ。」
「素人船員たちを訓練する時間は、まだ充分ある。引き受けてくれんか?」
マンフレート船長とキース、2人がかりの説得に、マシュー副長も折れた。
「はぁ……。了解しました。……で、何時からその辞令は発行されるんですか?こうなったらもう、なるべく早くして頂きたいです。素人船員を最低限使える様に、訓練しなければなりませんからね。」
「少し待ってくれ。マンフレート船長、レパードCV級アーコン号と、トライアンフ級トリンキュロー号の船長は?」
「アーコン号は、レパード級ゴダード号副長のセルマ・ルンヴィク少尉が。トリンキュロー号は、ユニオン級エンデバー号副長のエレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ少尉が。あとは各船から機関士を各々の発掘した降下船に異動させる様にしたいと考えております。これより各員に同意を取った上で、申請書類を部隊司令室にお届けに上がります。」
「そうか……。申請書類が来しだい、辞令の作成に入る。なんとか今日中に各員に辞令を渡せる様にしたい。これでいいかな?マシュー副長。」
マシュー副長は頷く。
「了解しました。今日中に辞令が発行されるのであれば、明日から即席の船員を選抜し、選抜が終わりしだい最低限役に立つように訓練開始します。」
「そうか、感謝する。」
「いえ、気にせんでください。」
「船長、何故貴方が言うんですか。」
「君の気持を代弁してみたのだが、間違っていたかね?」
その場の全員が笑った。何はともあれ、キースはいつでも辞令作成が可能な様に、部隊司令室へと戻ることにする。敬礼で見送るマンフレート船長とマシュー副長、それにブリッジ要員たちに答礼を返し、キースは急ぎ下層ブロックへと戻って行った。
エルンスト曹長から、サイモン老、ジェレミー少尉、パメラ軍曹らの精鋭整備兵と、助整兵多数を乗せて降下船を追加派遣して欲しいとの要望が届いたのは、それから24時間後の定時連絡の時であった。
フォートレス級ディファイアント号のブリッジから、キースはレパード級スペードフィッシュ号と同級ヴァリアント号へ通信回線を開いた。
「こちらキース・ハワード中佐。ヴァリアント号カイル船長、スペードフィッシュ号イングヴェ船長、お客たちを安全に目的地まで届けてくれよ?」
『こちらヴァリアント号カイル船長だ。大丈夫だよ隊長、ジャンプポイントまで行って助整兵の即席乗組員を届けて、代わりに向こうから航宙艦副長やら機関士やら熟練乗員やらを連れて、例の0G乾ドックまで届ければ良いのだろう?タクシー代わりだ、楽なもんだよ。』
『こちらスペードフィッシュ号イングヴェ船長。サイモン中尉、ジェレミー少尉、パメラ軍曹、他大勢の助整兵たちは、必ず0G乾ドックまで送り届けますよ。心配しないで下さい。』
「そうか、2人とも頼んだぞ。」
キースは頷く。この2人は、時折無茶もやるが結果は今まできちんと出して来ている。こうして請け合ってくれた以上、心配はいらないはずだ。
今回人員を派遣する原因となったエルンスト曹長からの報告は、期待した以上の物があった。かの古文書から発見された、星系内の惑星パールクⅣとは別の座標は、やはり星間連盟期の0G乾ドックを指した物であった。0G乾ドックは、これもおそらくはドラコ連合軍の攻撃を受けて、かなり損傷していた。だが、その一部はかろうじて無事であったのだ。
キースは何度か読み返した、データ通信で送られてきた報告書兼要望書を眺め遣る。
『目標構造物は、やはり0G乾ドックと判明。複数のドックのうち幾つかは完全に破壊されております。しかし一部のドックは完全な形で残っており、同行した整備兵によれば、修理設備すら稼働する模様です。
2つ残っていた航宙艦ドックにて、修理完了間際のマーチャント級航宙艦ネビュラ号、およびこれも修理完了間際の同級パーシュアー号を発見。また降下船ドックはいずれも破壊されておりましたが、1つのドックに入っていた1隻のオーバーロード級降下船サンダーチャイルド号が、奇跡的に損傷軽微で充分稼働できる状態でした。
サンダーチャイルド号は、おそらく惑星パールクⅣに荷を降ろした後であったものと思われ、搭載物は若干しかありませんでした。バトルメックが4機、気圏戦闘機が6機搭載されていただけです。バトルメックと気圏戦闘機の機種については、別紙にて報告いたします。
なお、その他のドックは完全に破壊されており、中身の航宙艦や降下船も使い物にならない状態です。ほとんどが溶融しており、ごく一部を除いて部品取りにも使えません。ただし、この乾ドック自体の備蓄倉庫は一部が無事で残っており、航宙艦修理資材や推進剤の類が幾ばくか発見されております。
同行した整備兵によれば、発見された航宙艦ネビュラ号とパーシュアー号は、彼らでは修理を完了させる事は困難だとの事です。そこで、サイモン大尉待遇中尉、ジェレミー少尉、パメラ軍曹ら3名の急派を願います。それとこちらはゆっくりでもかまいませんので、これらの航宙艦および降下船サンダーチャイルド号を動かす人員の派遣もお願いいたします。』
要は、修理できそうな航宙艦2隻と無事なオーバーロード級降下船を発見したので、修理人員と動かす人間を送れ、と言う事である。キースはこの報告を受けた時、はっきり言って目を疑った。事実だと理解した時、キースの頭の中は物凄い速度で回転を始めた。臨時の即席の素人船員として、助整兵のほとんどを航宙艦と降下船の運用に割くことにはなる。しかしそれをするだけの価値があるのも確かだった。
キースは決断した。そしてその決断の結果、ヴァリアント号はジャンプポイントを経由して0G乾ドックへ、スペードフィッシュ号は直接0G乾ドックへ赴く事になったのである。これで航宙艦の修理が完了しさえすれば、全ての降下船が一度に運べる事になる。本当に2隻のマーチャント級が修復可能な状況であるかどうかは、未だ不明である。サイモン老であれば修復できるであろうと言うのは、先に送り込んだ一段実力の低い整備兵たちの見立てでしか無いのだ。
「む……。」
キースが唸ると同時に、轟音を立てて滑走路よりヴァリアント号が、そして続けてスペードフィッシュ号が飛び立って行く。あとはサイモン老たちの力量に賭けるしかない。キースはその間、パールクⅣの地上でできる事をやっておく事にした。
3027年09月01日、『SOTS』がパールクⅣに到着してから、1ヶ月と1週間が経過していた。降下船基地跡の離着床に、轟音と共に盛大な噴射炎を噴きつつ、巨大なオーバーロード級降下船が降りて来る。これが0G乾ドックで発見された降下船、サンダーチャイルド号である。
助整兵が臨時の即席の素人船員を務めていると言うのに、サンダーチャイルド号はわずかなズレも無く、見事な離着床への着陸を見せる。キースはジャスティン少尉の運転するジープでその近くへとやって来た。ここには冷却車輛などと言う気の利いた物は無いので、降下船の下部近辺――推進機の噴射ノズルから近い――は、暑いなどと言うレベルではない熱気が満ちていた。キースたちは、オーバーロード級に120基搭載されているはずの放熱器が、船体の熱を逃がし切るのをじっと待つ。
やがて船体が充分冷えた頃、船体下部の乗降ハッチが開き、そこからぞろぞろと船員たちが下船して来た。そのうちの1人……上級船員らしき人物が、キースたちの方へと歩いて来る。彼は、本来はユニオン級降下船ゾディアック号の副長をしている、レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉だ。レオニード少尉はキースたちに敬礼をした。キースたちも答礼を返す。レオニード副長は口を開く。
「部隊司令、オーバーロード級降下船、サンダーチャイルド号の惑星パールクⅣまでの回航を完了いたしました。」
「うむ、ご苦労だった。慣れない船と素人船員で、大変だっただろうな。」
「いえ、貴重な経験であったと自分では思っております。」
レオニード副長は微笑んで言った。
「これは素晴らしい船ですね。何より力強い。この様な船を、一時でも指揮できたのは良い経験でした。」
「そんなに気に入ったかね?」
「はい。」
「なら……。ジャスティン少尉。」
「はっ!」
ジャスティン少尉は、ジープの座席より書類ケースを取り上げ、中の書類と金属片をキースに手渡した。キースはレオニード副長に向かい、言葉を紡ぐ。
「レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉!」
「はっ!」
「本日ただいまをもって、貴官を中尉とし、オーバーロード級降下船サンダーチャイルド号船長へ異動とする!」
「はっ!……は?あ、あの?」
「これが辞令と、新しい階級章だ。」
レオニード副長――いや既に船長である――は、目を白黒させる。キースは続けて言った。
「この人事は、ユニオン級降下船ゾディアック号のアリー・イブン・ハーリド船長も承知の事だ。貴官の出世を、我が事の様に喜んでいたぞ?」
「え、え?じ、自分がこの船の……船長、ですか?」
「そうだ。……荷が重いと思うかね?」
キースはレオニード船長の目を見つめる。レオニード船長はごくりと唾を飲み込んだ。だがやがて、決然と言い放つ。
「いえ、光栄です!!」
「……うむ。今後とも、頼りにしているぞ。さて、それでは副長の人事だが、早急に相応しい人物を選抜して、俺に推薦してくれ。餅は餅屋、船は船乗りに任せるのが順当だからな。よほど変な人事でなければ、その推薦のまま通すつもりだ。できれば今日中に推薦書が欲しいな。」
「はっ!了解しました!」
微笑んだキースは、指示を続ける。
「そしてもう1つ仕事があるんだ。バトルメック、気圏戦闘機の自動整備施設と製作施設を既に分解、荷造りしてある。これをオーバーロード級フィアレス号とサンダーチャイルド号に分けて積み込む予定だ。発掘したバトルメックや気圏戦闘機、LAM機も同時にな。フィアレス号のマシュー・マクレーン船長と相談して、荷積み作業を行ってくれ。まあ副長人事の方が優先だから、荷積みは明日からでいいぞ。」
「全部積み込めますかね?」
「一応計算では、少しだけだが搭載量に余裕が出るぐらいのはずだ。誤差が出て容積が足りなくなったら、ユニオン級レパルス号にメックベイが1機分空いてるから、そこも使う。」
「了解です。」
その時、少し離れた離着床に轟音と共に、ユニオン級ゾディアック号が着陸した。これもまた冷却車輛がこの場に無いため、まだ熱い。しかし徐々に冷えて、近寄れる程度の温度になると、乗降ハッチが開いて船員たちが降りて来る。レオニード船長はキースに向かって言った。
「では自分はゾディアック号に帰……ではありませんね。ゾディアック号に赴き、アリー船長と話をして来ます。船員を何人かサンダーチャイルド号へ正式に移籍してもらわなければなりません。まあ、今サンダーチャイルド号に来ている船員をそのまま貰おうと思っていますが。その中から、副長を選ぶとしましょう。」
「うむ、ではまた後ほど。」
「はっ!では失礼します!」
レオニード船長は敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼を行い、ゾディアック号へ向かうレオニード船長を見送った。ふと目を滑走路に向けると、レパード級ヴァリアント号とスペードフィッシュ号が着陸するところである。これで『SOTS』の降下船は、全て惑星パールクⅣに集結した事になるのだ。
フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、キースはサイモン老と話をしていた。ジャスティン少尉の淹れてくれたコーヒーの、良い香りが漂う。
「サイモン中尉、となると0G乾ドックには、今の時代では貴重かつ希少な、航宙艦用の修理、整備のための資材などが遺されていたんだな?」
「ですのう。ですが、そればかりではありませんでしたわ。降下船や航宙艦の整備・修理マニュアルなんて代物まで見つかりましたでのう。コンピュータの扱いにかけては、パメラ嬢ちゃんの右に出る者はおりませんわい。あの娘っ子がいなければ、見つからなかった代物ですわな。」
「むむ、ボーナスを出さねばならんな。……で、2隻のマーチャント級の方は、定時連絡であった様に問題無しか?」
サイモン老はにやりと笑って言った。
「2隻とも修理は万全ですのう。整備・修理マニュアルが見つかったおかげですの。それのおかげで完全に修理できたと、自信を持って言えますわい。……まあ、マニュアルが無くとも何とかなったかも程度は、自分の腕に自信はありますがの。
それで2隻とも、0G乾ドックで発見された物資を、1隻あたり3つの貨物ベイいっぱいに詰め込んでジャンプポイントに向かいましたわ。明日にはジャンプポイントへ到着予定ですのう。発見された物資全部積み切れず、少しだけ積み残したのが残念と言えば残念ですがの。それでも貴重品から順に、大事だと思った物は全部詰め込みましたわい。」
「それも売れば大層な値が付きそうだな。」
「金で売るのは勿体ない気もしますのう。メックなりを物納で買うべきでは?」
キースはサイモン老に頷く。
「うむ。だがとりあえず、比較的かさばる物を金銭で売り捌いて、現金を作ろう。できればCビルで。惑星パールクⅣの遺跡からは洗い浚い引っ剥がしたからなあ。降下船の残骸とかからも徹底的に。これだけぼろ儲けしたんだから、隊員にボーナスを支給しないといかん。」
「ですな。ジャンプポイントのクレメント号でも、補給ステーションの残骸から色々資材などを貨物ベイいっぱいに手に入れたんでしたな?」
「通信で、そう報告を受けている。物資の貴重さから言って、補給ステーションで手に入れられた物資から先に売り飛ばすべきかな?」
キースの言葉に、サイモン老は考え込んだ。やがてサイモン老は、結論を先延ばしにする事を提案する。
「うーん、それは今決めずとも良いでしょう。どの物資が自分たちで取って置きたい品で、どの物資が売り飛ばすべき物なのかを、作成した目録をつき合わせてじっくりと検討すべきですわ。どうせ旅には時間がかかりますからの。」
「そうだな。だがそれとは別に、さっさと手放すべき物品も数多い。遺失技術を使ったバトルメック、気圏戦闘機に、あとはバトルメックや気圏戦闘機の自動整備施設、製作施設だ。特に自動整備施設と製作施設は、手元に持っているだけでも怖い。ジョナスを介して恒星連邦政府に売り払うつもりなんだが、引き渡すまでは所有している事を秘匿しておかなくては……。誰にとは言わんが、絶対に狙われる。」
「個人的には、製作施設は惜しい気もしますがのう。」
「それは済まんと思うが、持っているだけで危険なんだ。価値があり過ぎると言うのは、それはそれでまずい。それに今は分解してコンテナ多数に積み込んでいるが、設置する場所が無いしな。持っていても宝の持ち腐れだ。まともに使えもしない上に、危険を引き寄せるとあれば、俺たちが持っていても荷物になるだけだ。」
キースの真剣な言葉に、サイモン老は真摯な危険を感じ取ったのか、何度も頷く。
「了解ですわ。いや、確かによく考えると危険ですわな。さっさと手放すのが吉ですのう。」
「とりあえず荷積み作業が完了したら、惑星オケフェノキーまで行ってそこのHPG施設を通じて、ジョナスかその執事のロベールさんと連絡を取れないか、やってみよう。」
そう言いつつキースは帰還直後、直接はジョナスに連絡がとれず、ロベール・マクファーソン氏を介しての連絡になるだろうと考えている。理由は恒星連邦で行われている総合防衛演習、第2次ガラハド作戦だ。キースは考え込む。
(今は第2次ガラハド作戦の真っ最中だからなー。ジョナスの率いてる第9ダヴィオン近衛隊も、忙しくてたまらないだろうなあ。となるとロベールさんだな、連絡を取るのは。惑星オケフェノキーに到着するのが10月上旬。HPG施設から連絡を入れたとして、返事が返ってくるまで早くて2週間。それから惑星オケフェノキーを出立したとして、ジョナスに会えるのは11月に入ってからだ。
なんだ、会えるまでに第2次ガラハド作戦終わりそうじゃないか。だいたいこのスケジュールでいいだろ。HPG施設から送るメッセージには、詳しい事は書かない方がいいよな。単に「早急に会いたい」とだけ書こう。)
「ん……っと。ぷはあ、ジャスティン少尉のコーヒーは美味いですのう。これがいつでも飲める隊長が羨ましいですわい。」
「ははは、だが代わってやるわけにもいかんな。」
「それは当然ですのう。それではわしは、作業に戻りますわ。とは言っても、整備兵がやるべき事はメックや降下船の日常点検ぐらいで、重要な仕事はもうほとんど終わっておるんですがの。コーヒー、ごちそうさまでしたわい。」
「うむ、退出を許可する。仕事、無理しない様にな。」
サイモン老とキース、ジャスティン少尉は、いつもの様に敬礼と答礼を交わす。そしてサイモン老は部隊司令室を退出して行った。
各降下船に最後の荷物が積まれた翌日の早朝、『SOTS』所属の全ての降下船が一斉に惑星パールクⅣの降下船基地跡を飛び立った。オーバーロード級フィアレス号、同級サンダーチャイルド号が轟音と共に離床する。フォートレス級ディファイアント号、ユニオン級ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号がその後を追うかの様に次々と飛び立つ。
滑走路からは、発見された戦車などを満載したトライアンフ級がまず最初に飛び立った。そしてそれに続けてレパードCV級アーコン号、レパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号が連続して離陸して行く。
キースはいつも通りフォートレス級ディファイアント号に搭乗して、部隊司令室として使用している士官用船室でシートを倒し、発進時にかかる高Gに耐えていた。彼の鍛え上げられた頑健な身体は、楽々とGに耐える。キースは身体にかかるGを物ともせずに、色々と考えを巡らしていた。
(まず惑星オケフェノキーに着いたら、重くてかさばる、あたりさわりの無い種類の物資を選んで売り払おう。そして部隊員にボーナスを出したら、降下船と航宙艦の船員募集だなあ。整備兵や助整兵、歩兵も増やしたいところだけど、人選は吟味しないといけないもんな。そう大勢を短期間に一度に増やすわけにもいかないよ。まず最低限必要な船員からだ。船員は、絶対欲しい。
そう言えば、隊員にボーナス、かあ。素人船員を使わせる事で負担をかけた本職船員と、慣れない船員としての仕事をさせた助整兵には、ちょっとばかり色を付けてやった方がいいな。降下船の各船長たちにも、航宙艦の艦長たちにも、だな。ああ、発掘で頑張ってくれた偵察兵や整備兵にも多めに出しとこう。ちょっとばかり経済的負担は大きめだけど、その負担を補って余りある結果が出た……出してくれたんだ。きちんと報いないと。
あ、そう言えば各降下船の飲料水や食料も買い付けないと。予定より若干長くパールクⅣに居たからなあ。まあ、まだ余裕はあるけれど、オケフェノキーに着いたら買い込まないと。船の食堂で野戦糧食が出される事態は、可能な限り避けないとね。)
色々考えているキースを含めた混成傭兵大隊『SOTS』は、この日惑星パールクⅣを離れた。目指すは恒星連邦惑星オケフェノキー。恒星連邦の辺境ぎりぎりにある惑星だ。辺境ぎりぎりにしては人口も多めで、2億8000万を超える。熱帯性気候でジャングルと広大な沼地の惑星であるが、その沼地の底に莫大な石油資源が発見されて以来、外部資本の流入が起こっている。
その外部資本ならば、キースたちが持ち込んだ物資を買い取る事も可能だろう。まあ、貴重な希少な品は、まだ売るつもりは全く無いので、比較的一般的な代物だけなのだが。上手くすれば、外部の星系から来た技量の高い船乗りも雇えるかも知れない。あるいはこの惑星を出て行きたがっている、才能ある現地住人の若者でも良いだろう。
『SOTS』の降下船群は、船団を組んで深宇宙へと飛び立って行った。
またもお宝ザクザクです。そしてそのお宝を運ぶ術も手に入りました。それ自体がお宝なのですが。
でも、他にもこの星系にはお宝が……。いえ、既に見つけている物ですがね。持って行ける物じゃないってだけで。