星系のジャンプポイントから惑星オケフェノキーへ降下する1週間の旅の途中、キースは惑星上に支社を置く総合商社であるレンツ通商に、惑星上の深宇宙通信施設を通じて通信を送り、今回の発掘における戦利品の一部の売却交渉を試みていた。とは言っても、売却する品目は価値ある物でこそあったが、3027年現在でも比較的普通に見られる物に限られていた。
要は、遺失技術の産物などは今回売らないと言う事だ。売るのは若干価値のある合金のインゴットであったり、比較的今の時代でもありふれた、技術レベルの低い電子部品類である。キースたち『SOTS』は、こう言った物品を降下船の余剰スペースに、みっちりと詰め込んで持ってきた。惑星オケフェノキーでは、こう言った代物であっても高い技術の産物として、ある程度でこそあったが高値で売れる……と言うか、価値ある資源と交換できるのだ。
だがキースたち『SOTS』が今必要としているのは、現金であって資源ではない。そこでこの惑星の住人達と取引がある商社のレンツ通商に、これらの物品を売却しようとしていたのだ。レンツ通商はキースたちから買った品を惑星の住民に転売と言うか、物々交換して大量の石油資源を確保し、惑星外へと輸送するのである。
キースは降下船のブリッジで、データ通信で送られてきた通信文を見遣り、満足げに頷いた。
「……ふむ、交渉はほぼ纏まったな。恒星連邦中央の惑星に持って行くよりも、高値で売れる事になる。払いも、Cビルおよび水と食料……農産物だ。」
「水と農産物、ですか?」
怪訝そうな顔で聞いて来るのは、キースが乗っているこのフォートレス級降下船ディファイアント号の、マンフレート船長だ。キースは頷く。
「ああ。この惑星は、中央の様な文明社会じゃない。物々交換が主流なんだよ。金が使えるのは、惑星首都オケステンぐらいだろうな。だから、自分たちで食料品を集めようとしたら、えらい手間がかかる事になる。田舎までトラックを出してこちらの商品を見せて、相手が出して来る農産物なんかを見て、そして交換レートの交渉……。ちょっとばかり、やってられんよ。
それよりは、レンツ通商に依頼して水と食料を集めてもらった方が楽だ。現地住民との伝手も、彼らにはあることだしな。下手な事して現地住民から攻撃されて、反撃したら虐殺だとか言われて無法者になるのは、はっきり言って御免だからな。貴官らもできれば宇宙港から、最悪でも首都から出ない様にな。現地住民はよそ者に対してあまり良い感情を持っていないらしい。」
「……私たちが最初に会ったドリステラⅢもド田舎だと思いましたが、それより田舎があったんですね。」
「あー、惑星に降りたら田舎だとか思っても口に出すなよ?……今のうちに、隊員たちにも周知徹底しておいた方がいいな。……ふぅ。」
キースは溜息を吐いた。
惑星オケフェノキーの首都、オケステンに隣接した小規模な宇宙港オケポートは、14隻の降下船で満員状態になっていた。内11隻が『SOTS』の船である。そして2隻が商船としてこの惑星に来たと思われるミュール級商用降下船。残り1隻が、この惑星に駐屯している傭兵部隊『ハヤタ防衛団』のレパード級降下船であった。
何故相手の傭兵部隊の名前が判ったかと言うと、相手の方からキースたちの所へ挨拶に来たからである。相手からすれば、辺境ぎりぎりの田舎惑星でのんびり駐屯任務をこなしていたら、突然1個連隊――相手からはそう見える――規模の部隊がこの惑星に降下して来ると言うのである。この惑星ではせいぜいが海賊相手だろうと高を括っていた『ハヤタ防衛団』は、最初パニックになったらしい。すぐに敵でない事が分かって、気が抜けたらしいが。
だが万一『SOTS』が変な気を起こしたら、『ハヤタ防衛団』の命は風前の灯火だ。それ故に、腰を低くして挨拶に出向いて来たらしいのである。『ハヤタ防衛団』の隊長、テツロウ・ハヤタ中尉は、当初引き攣った顔をしていたが、今はすっかり寛いでいた。部隊司令室のソファに座ったテツロウ中尉は、ジャスティン少尉の淹れたコーヒーを飲みながら言う。
「いや、美味いですな。一流の傭兵部隊は、コーヒーも一流ですな。」
「いえ、銘柄は普通の軍用レギュラーコーヒーですが……。」
「え゛っ!?そ、それでこの味が出るのかね、少尉!?」
ジャスティン少尉の言葉に、驚くテツロウ中尉。キースは茶菓子を勧める。
「ハヤタ中尉、茶菓子でもどうかね?コーヒーにはよく合うぞ?」
「これは恐縮です。いただきます。」
テツロウ中尉は遠慮なしに茶菓子を食べる。当初はキースの迫力に圧倒されていた彼だったが、あっと言う間に慣れてしまった。肝が太いのだろう。テツロウ中尉は茶菓子のクッキーを齧りながら言う。
「しかし最初は驚きましたよ。こんな辺境ぎりぎりの田舎惑星に、こんな大部隊が……。
いやしかし、恒星連邦でドラコ系の日系人は辛いですなあ。こんな田舎の駐屯任務ぐらいしか、受けられる仕事が回って来ません。けれど、ドラコ連合に雇われていた時よりはまだマシな扱いだと言うのが何とも……。」
「ドラコ連合に雇われていた事が?」
「ええ。あまりのひどい扱いに、逃げ出して来たのですよ。誠心誠意勤めても、クリタ家は働きに見合った金も補給も出してくれませんからな。あげくに使い捨ての様な任務を振られるし……。本物のサムライは、何処に行ったやら……。
恒星連邦はきちんと金も払ってくれますし、その金で注文した補給物資は遅れることはあっても、きちんと届く。今までドラコ連合に雇われていた身を、そのまま対ドラコ戦線に置く事もしない。おかげで壊れかけていたメックも直せる。ありがたい事です。」
キースは微笑んだ。笑いが引き攣っていないと良いと、そう思う。テツロウ中尉は、皿に盛られたクッキーをきっちり半分食べると立ち上がる。
「さて、ごちそうになりました。いや、美味かったです。そちらの目的が旅の途中の物資補給と骨休めである事も理解いたしました。」
「うむ、ハヤタ中尉。この惑星にいる間、問題を起こさない事を約束しよう。」
「ありがとうございます。そのお言葉、信じさせていただきます。では中佐殿、これにて失礼いたします。」
テツロウ中尉は見事な敬礼をする。キースも答礼を返し、ジャスティン少尉に命じる。
「お客様のお帰りだ。乗降ハッチまでお送りしろ。」
「了解です。行きましょう、ハヤタ中尉。」
「うむ、頼むよ少尉。」
テツロウ中尉は、ジャスティン少尉に連れられて部隊司令室を出て行った。キースはそれを見送りつつ、感慨に耽る。
(なかなかの人物だなあ……。最初こそ俺に気圧されていたものの、あっと言う間に慣れてしまったよ。ああ言う人材を逃がしちゃうドラコ連合、いやタカシ・クリタか……。もったいないことするよなあ。ああいや、恒星連邦サイドとしては嬉しいけどさ。)
キースは皿に残ったクッキーを摘まみ上げ、齧った。
そして2週間が飛ぶ様に過ぎ去った。『SOTS』はこの間、とりあえず足りない船員を雇用する。幸いなことに、この星の石油油田の話を聞いてやってはきた物の、現地住民との摩擦や軋轢に辟易した者たちが多く応募してきた。彼らには学もそこそこあり、鍛えれば充分物になると思われる。
『SOTS』がこの惑星に来ている事は分かるはずが無いので、スパイを送り込まれる心配はまず無かった。それでも一応の思想調査や、ついでに能力テストを行って合格者だけを雇ったが、充分な数が集まった。これで素人船員となっている助整兵を解放してやれると言う物だ。
ちなみに旧来の隊員たちは、レンツ通商に当たり障りの無い物資を売り払った金から出たボーナスを受け取り、その金額に最初は大喜びだった。だが、この惑星ではあまり金の使い道が無い事に気付くのも早かった。早く恒星連邦中央部に戻りたいと、彼らは願う。
そしてそれに応えるかの様に、キースがHPG施設から送った超光速メッセージの返答が届いたのである。部隊司令室でそのメッセージの返答を受け取ったキースは、即刻『SOTS』全部隊に対し出立準備を命じた。
「ジャスティン少尉、宇宙港の当局に明日早朝の出航届を提出してくれ。後は深宇宙通信施設に……ああ、いや。『SOTS』のアトラスの深宇宙通信アンテナ使った方がいいな。マテュー少尉、アトラスを起動してくれ。ジャンプポイント、ゼニス点の航宙艦群に連絡して、出発の準備をさせるんだ。」
「了解です、キース中佐。」
「こちらも了解です、隊長。行先はどこの惑星ですか?」
「中央付近にある、ウィロウイックと言う惑星だ。そこにジョナス……バレロン伯爵の領地がある。バレロン伯爵の執事、ロベール・マクファーソン氏からのメッセージによれば、ウィロウイックに11月末から12月初頭に来て欲しいとの事だ。明日にでもこの惑星を発てば、最短で11月の27日には到着できる。」
ここで、惑星学者のミン・ハオサン博士が口を挟む。
「ウィロウイックかね。農業惑星ではあるけれど、充分に都会だよ。まあ、ここと比べれば何処も大概は都会だけれどね。少なくとも、遊ぶ場所は充分にあるとも。」
「ほんとか、ハオサン博士!いやー、アイラと出かけようにも遊ぶ場所が無くて、参ってたんだ。金はあるのによ。」
嬉しそうに言うのは、アンドリュー曹長だ。エリーザ曹長もそれに同意する。
「ここの食べ物は、あまり美味しく無いのよね。同じ材料でも、船の食堂の方が美味しいんだもん。外出する意味が無いわよ。」
「食ってばっかだと、太るぞ。」
「てい!」
「ぐえ!」
余計な事を言ったアンドリュー曹長が、エリーザ曹長の一撃を食らう。まあ、仲間内のじゃれ合いで、本気のど突き合いでは無い。ちなみに何故部隊司令室に第1中隊指揮小隊の面々やハオサン博士がいるかと言うと、ジャスティン少尉のコーヒーを飲みに来ていたのだ。そこはかとなく、ジャスティン少尉のコーヒーは部隊員に大人気であった。
まあ気軽に飲みに来れるのは、キースに対しそれこそ遠慮が無い『SOTS』初期メンバーか、ヒューバート大尉やアーリン大尉と言った『SOTS』上級士官、それにハオサン博士の様なキースから立場を超えた尊敬を受けている人物などである。それ以外では、自由執事のライナー・ファーベルクぐらいだろうか。
まあそれはともかくとして、『SOTS』は驚くほどの速度で出立準備を整える。夕刻頃には、翌朝に『SOTS』が出立する事を知らされた『ハヤタ防衛団』のテツロウ中尉が、慌てて菓子折を持って別れの挨拶に来たりもした。お返しの品に、フォートレス級ディファイアント号専属コックが作ったパウンドケーキを持たされて、テツロウ中尉が恐縮しつつも嬉しそうだったのがキースの印象に残った。
そして翌日の早朝、『SOTS』の降下船群は惑星オケフェノキーを離れたのである。
3027年11月27日、惑星ウィロウイックはバレロン伯爵領の都市ヴァグジェルの、南に隣接して造られている宇宙港ヴァグジェポートに、『SOTS』の降下船群11隻が着陸した。ヴァグジェポートは、ジョナスの連隊の降下船、オーバーロード級2隻とユニオン級3隻を着陸させるための離着床が、他の民間用貨客降下船などを停泊させる以外にも必要なので、充分な大きさを持ってはいる。しかしそれでも『SOTS』の全降下船を着陸させると、流石に手狭になっていた。
宇宙港備え付けのバスが往復し、『SOTS』隊員を降下船から宇宙港施設へと送る。また、冷却車輛が退いた後に推進剤補給車輛が集まり、『SOTS』の降下船に推進剤を補給していた。そんな中、キースはサイモン老の運転するジープにジャスティン少尉と共に揺られ、首都ヴァグジェルの中央部にあるジョナスの邸宅へと向かう。キースがジョナスと秘密の会話をしたいと望んだところ、ジョナス側から彼の邸宅を指定されたのだ。
「……ジープで良かったんですかのう?ご領主の邸宅に行くんですから、何かもっと良い車をレンタルした方が……。」
「ジョナスもロベールさんも、構わないそうだ。見栄えより実を取るらしい。」
「なら良いんですがの。」
「あ、サイモン中尉。突き当たった幹線道路を左折して西進してください。」
ジャスティン少尉のナビゲートに従い、サイモン老がジープを走らせる。やがてジョナスの邸宅が見えて来た。キースの記憶にある、恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンのバレロン伯爵役宅よりも随分と小さいが、それでも上品な造りの立派な邸宅であった。門で門衛に用件を告げると、門衛は電話で何処かに確認を取る。そして門衛は失礼を詫びると、すぐに開門して通してくれた。キースたちはジープのまま乗り入れ、広い前庭を少々走ると邸宅前に停車した。
ジャスティン少尉が感嘆した様に言葉を漏らす。
「大きなお宅ですねえ……。」
「これでもニューアヴァロンの役宅より小さいんだ。本宅の方が役宅より小さいのはどうかと思うかも知れないが、バレロン伯爵……ジョナスはあまり領地には帰って来られないんだ。『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長として首都惑星ニューアヴァロンの守りに就いているか、あるいは政治関係の仕事であちこちの惑星を飛び回ってるからな。それでも領民たちに権威を示すために、けっこう立派な造りにはなっているが、さほど使わない物に金をかけるのもな。」
キースはそう言いつつ、ドアに近寄りインターホンを鳴らす。返事はすぐにあった。
『はい、キース様でございますな?正門門衛から連絡を受けました。今すぐお迎えに上がります。』
「はい、待たせていただきます、ロベールさん。」
響いてきたのはジョナスの執事、ロベール氏の声だった。やがて両開きのドアが開き、数人の人影が現れる。ロベール氏、メイド数名と、当のジョナス本人だった。ジョナスはキースたちに向かって言う。
「やあ、いらっしゃいキース、半年ぶりかな。それにジャスティン少尉に、サイモン・グリーンウッドさんだったかな?例の発掘は大成功だったみたいだね。オーバーロード級が2隻も降りて来たって聞いた時には、正直驚いたよ。あと他にも2隻増えてたみたいだね。」
「ああ、他にも色んな物が見つかったよ。運べる物は、あらいざらい持ってきた。それの事で、ジョナスに相談があって来たんだよ。」
「……そうか。じゃあ、奥へ行こう。」
キースの言った「相談」の一言で、ジョナスの眼が鋭くなる。わざわざ会って話したいと、HPG通信を使ってジョナスに時間を空けさせたのだ。よほどの事態が起きたとジョナスは理解しているのだろう。ジョナスはキースたちを誘って、奥の応接間へ案内する。
応接間に入ると、キースたちはジョナスの勧めに従い、ソファに腰を下ろす。ジョナスはキースの正面に腰掛けた。執事のロベール氏が、メイドたちに命じて茶とお茶請けを用意させる。そんな中、ジョナスはずばりと斬り込んで来た。
「キース、何を見つけたんだい?僕に何を望んでいる……いや僕に何ができる?」
「降下船を掘りに行って、とんでもない物を見つけてしまったよ。いや、まったく……。ジャスティン少尉、目録の写しを。」
「はっ!了解です、ただ今。」
ジャスティン少尉がパンパンに膨れ上がった書類ケースから、書類束を取り出す。キースはそれを手に説明を始めた。
「まずオーバーロード級降下船が2隻。トライアンフ級降下船が1隻。レパードCV級降下船が1隻。通常型のバトルメックが24機。通常型の気圏戦闘機が12機。これも通常型のLAM機が12機。そして重戦闘車輛が44輛に機動ロングトム砲が1門、雑多な車輛類が8輛。そしてマーチャント級航宙艦2隻。莫大な交換部品や資源を含む雑多な物資。ここまでだったら全然問題無いんだ。俺たちが全部使う予定だし。」
「マーチャント級航宙艦2隻は、正直予想外だよ。降下船基地としか、キースからは聞いてなかったからね。でも、そうか。それが無かったら降下船を全部運べないか。」
「うん。それはともかく……。次が第1の問題だよ。」
「第1の?」
キースは目録の1部をジョナスに渡す。
「遺失技術を使用したバトルメック、星間連盟期の実験機が14機。同じく遺失技術使用の気圏戦闘機の実験機が6機。遺失技術を使用したLAMの実験機が2機。そして星間連盟期の遺失技術を使用した部品群が山ほど。まったく呆れ返る量だったよ。」
「……それも想定内ではあったけど、それほどの数と言うのは驚きだね。確かにそれを処分したいと言う事であれば、僕に連絡を取ってくれたのも理解できるよ。実験機と言う事は、自分たちで使う気にはならなかったんだろう?でも研究材料として恒星連邦政府に売れば、大きな見返りが望めるからね。
それに、僕の事も考えてくれたんだろう?それだけの代物の売却を仲介すれば、僕にとっても大きな手柄になる。」
「だが、これで終わりじゃないんだ。」
「!?」
ジョナスは驚きの表情を隠さない。キースは続ける。
「最後に巨大な爆弾が幾つかあるが、それは最後に取って置こうか。まずは通常型メックや気圏戦闘機、遺失技術機に関する事の続きだね。各種継承王家オリジナルの物を除いた、各種メックや気圏戦闘機の設計データが遺跡のコンピュータから回収された。遺失技術メックの設計データも含まれている。それらのメックの整備・修理マニュアルなんてものもあったなあ。
そして遺失技術に関する詳細技術資料、研究資料が大量に発見されているし、航宙艦や降下船の整備・修理マニュアルや多数の修理用資材なんて物も発見されてるよ。これらは今の時代、とんでもないお宝だと思う。現物よりも、ある意味貴重だろう?」
「もう言葉も無いよ。だけど、まだ爆弾が残されてるんだろう?」
「ああ。第1の爆弾は、バトルメックと気圏戦闘機の自動整備施設さ。分解してコンテナ詰めにして持ってきた。設計図を主コンピュータに登録しておけば、内部に収めておいたバトルメックや気圏戦闘機を自動的に修理や整備して、完全な状態に復旧、維持してくれる。全自動で稼働するし、必要部品類の備蓄さえあれば……いや、一部は原料状態の資材からでもバトルメックや気圏戦闘機を完全修復できるんだ。ここにいるサイモン中尉の言葉によれば、星間連盟期の技術の粋だと言う事だよ。
第2の爆弾は、バトルメックと気圏戦闘機の製作施設さ。ああいや、「工場」じゃない。どちらかと言えば「職人の工房」に近いイメージを持ってもらえるとありがたいかな。あくまで少数のサンプル機や、実験機、試作機をハンドメイドに近い形で「製作」するための施設なんだ。「製造・生産」じゃあないんだよ。
効率もそんなに良く無いんだ。既にありものの機体を改造したり、骨組みだけでもあればそれにありものの部品群を組み付けて、機体をでっちあげるだけならば非常に早くできる。でもゼロから造る場合、サイモン中尉ほどの練達の技術者でも、重量級を2年に3機が精一杯なんだ。強襲型メックならば、もっと時間がかかる。……これも分解してコンテナ詰めにして、持ってきた。」
キースは言葉を切る。ジョナスは言葉も無い。
「……最後の爆弾は、これらが発掘された星系の座標そのものさ。その星系にはね、航宙艦の修理が可能な0G乾ドックが2基、稼働可能な状態で残っていたんだ。これは流石に持ってはこれなかった。だが満足に動くシップヤードがあると言うだけで、この情報に意味がある事ぐらい、ジョナスなら分かるだろ?」
「……ああ、分かるよ。キースが僕のところに話を持ってきた理由がね。下手なところに話を持って行ったら、3つの爆弾のどれでも、命取りになりかねないよ。バトルメックや気圏戦闘機を自動修理できる施設、同じくバトルメックや気圏戦闘機を効率が悪いとは言え製作できる施設、あげくに稼働する0G乾ドックの情報……。」
「あとは俺たちが見つけ損ねた、探し残しのお宝も、その惑星にまだ存在するやも知れない。」
深く頷いて、ジョナスは応える。
「うん。……通常型メックや気圏戦闘機、降下船、航宙艦、それらの部品や資材以外の、言わば「危険物」については全部僕を通して、恒星連邦政府に売却すると言う事でいいのかな?」
「ああ、後は技術資料の類はコピーを取って手元に置き、原本をそちらに渡すよ。」
「うん、遺失技術バトルメックや遺失技術気圏戦闘機、及び遺失技術部品群については比較的早目に査定ができると思う。それでも莫大な価値があるからね。金銭での買取は現実的じゃないね。バトルメックや気圏戦闘機及びその補修用パーツなどでの物納になると思う。けれど、いったい何機分と査定される事やら……。遺失技術メックは中量級1機で強襲メック1機が最低ラインと思われるし……。キースたちの降下船の搭載機数がどれだけ空いてるかの問題もあるからねえ。
けれど、その他の設計データを含む技術資料類、それに爆弾3つについては、かなりの時間が欲しい。報酬を何にするかで、相当もめると思う。」
キースは了承する。ジョナスの言う事に、間違いは無いだろう。
「わかったよ、ジョナス。とりあえず査定ができるまで、追加人員の募集やら何やら、やる事があるから、それをやってる事にするよ。」
「それとキース、「荷物」を持って、僕と惑星ニューアヴァロンまで来てくれないかい?引き渡し先は、間違いなくNAISになるだろうからね。その方がいいだろう。これだけの価値のある物品に情報だ。慎重に事を運ぶ必要がある。HPG通信での連絡も一瞬考えたけど、やはり直接僕が向こうに行って「上」に奏上するよ。人員募集とかは向こうでやってくれるとありがたい。」
「うん、わかった。そうしよう。出発はいつだい?」
「早くて3日後、遅くても1週間以内だよ。」
「ああ、わかった。正確な日程が決まったら教えてくれ。」
ジョナスとキースは、右手を差し出して握手をする。キースたちが発掘してきた遺物を恒星連邦に売却する窓口になる事は、ジョナスにとっても非常にありがたい事だ。これにより、ジョナスの立場は更に強化されることは間違い無かった。一方キースたち『SOTS』にとっても、下手をすれば身の破滅になりかねない重要過ぎる品を、安全に始末できる上に多大な利益に結び付くであろう事は、正直ありがたかった。
ジョナスとの会見の4日後、『SOTS』の降下船群はこの星系のジャンプポイント、ナディール点に向かい出立した。同時にジョナスが乗り組んでいるユニオン級降下船オーベルト号も、宇宙港ヴァグジェポートを出航する。この船は、キースたちの航宙艦に便乗して惑星ニューアヴァロンへと向かう予定だ。本当であれば、12月上旬のうちは領地でゆっくりするはずであった親友を、忙しく急き立てる結果になってしまい、キースは少々申し訳なく思った物である。
ちなみに惑星ウィロウイックでの休暇を切り上げられた『SOTS』の面々は、さぞかし文句を言うであろうとキースは考えていた。だが行先が恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンであると言う事で、文句は全然出なかった。『SOTS』の面々は、文明の香りに飢えていたのだ。アンドリュー曹長などは言った物だ。
「いや、ウィロウイックも悪くないけどよ。ニューアヴァロンに比べりゃあなあ。恒星連邦の首都を見に行くのは、初めてだぜ!」
そう、大概の『SOTS』メンバーは、惑星ニューアヴァロンには行った事が無い。皆が皆、おのぼりさんであったりするのだ。ニューアヴァロンまでは2週間強、12月半ば過ぎに到着予定だ。うきうきと期待に胸を膨らませる部隊員たちを連れて、確実に向こうでは仕事漬けになるであろうキースは、これも指揮官の孤独か、などと内心溜息を吐くのだった。
なんやかんやで、休暇切り上げで『SOTS』は恒星連邦首都惑星の、惑星ニューアヴァロンへ。でも欠片も文句は出ません。だって首都惑星ですから。
それはともかく、主人公たちは恒星連邦に、爆弾をいくつも持ち込みました。いえ、比喩的な意味で。ああ、弾薬もたくさん持ってるから、直截的な意味でも爆弾たくさん持ち込みましたけどね(笑)。