鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-079 恒星連邦首都惑星』

 フォートレス級ディファイアント号の船窓に、乗員が鈴なりになっている。船員しかり、歩兵しかり、整備兵や助整兵しかり、偵察兵しかり、あげくにメック戦士までが我先に、と眺めの良い場所を占領して、感嘆の声を上げていた。

 ここは恒星連邦首都惑星ニューアヴァロン、その惑星首都アヴァロン・シティーに隣接した巨大宇宙港、アヴァロンポートである。混成傭兵大隊『SOTS』所属の降下船群は、今このアヴァロンポートに到着したばかりであった。

 アンドリュー曹長とエリーザ曹長が、感慨深げに言葉を発する。

 

「すっげぇ広いぜ……。しかも設備の充実ぶりも、並じゃねえや……。」

「惑星ロビンソンのブエラーポートも大したものだと思ったけど……。さっすが恒星連邦の首都惑星ニューアヴァロン、その更に首都であるアヴァロン・シティーの宇宙港、アヴァロンポートよねえ……。」

 

 おのぼりさん達のその様子を眺めて思わず失笑しつつ、キースは徐に言った。

 

「やれやれ……。まあ気持ちは解るんだがな。幼い頃にはじめてニューアヴァロンに来たときは、俺も同じだったし。」

「隊長は、以前にもニューアヴァロンにおいでになった事が?」

 

 苦虫を噛み潰した表情で、指揮下の歩兵たちの様子を見遣っていたエリオット大尉が、キースの台詞に反応する。キースは頷いた。

 

「ああ。俺の出身部隊であった『BMCOS』が、まだ健在だった頃に、な。俺の父親が、部隊の中では交渉役だったんだ。色々と恒星連邦のお偉いさんたちにコネを持っていてな。その中でもかなり親しい間柄だったのが、ジョナスのお父上だ。

 だから父親や母親と共に、何か事あるごとにニューアヴァロンには来ていたからな。その都度ごとにジョナスのところにはお邪魔したもんだったな。ジョナスがアルビオン士官学校に入学してからは、なかなかそう言う機会も無かったんだが……。

 ふふ……。もう昔の話だ。」

「……。」

 

 エリオット大尉は言葉に詰まる。キースの過去は、『SOTS』初期メンバーの内では有名な話である。キースの出身部隊『BMCOS』が味方の裏切りが原因で全滅した事も、キースの両親がその際に喪われた事も、『SOTS』の中では古参であるエリオット大尉ならば、幾度か聞いた事があった。

 キースは苦笑する。

 

「ああ、すまんなエリオット大尉。気にすることは無い。貴官らの助けもあって、俺は無事に本懐を遂げる事ができた。貴官らには感謝しているんだ、心底な。俺の中ではもう決着もきちんと付いている事だしな。重ねて言うが、気にするな。」

「はっ!了解です。……しかし、見ていられませんな。いくら何でもたるんでいます。少し気合いを入れて来ましょう。」

 

 エリオット大尉は船窓に集っている兵員たちに向かい、のっしのっしと歩いて行く。背後から見るキースにも、その迫力が感じられた。

 

「総員、気を付け!!」

「「「「「「!?」」」」」」

「貴様ら、何をブッたるんでいるか!!間もなくオーベルト号より、隊長のご友人であらせられるバレロン伯爵ジョナス・バートン閣下がお見えになるのだぞ!?隊長の大事なお客人に、無様な姿をお見せするつもりか!!さっさと配置に戻れ!!総員、解散!!」

「「「「「「り、了解!!」」」」」」

 

 兵員たちは、泡を食って散じる。身分が上のはずのメック戦士ですら、エリオット大尉の迫力には抗しきれずに、慌てて自分に割り当てられた船室へ走った。キースはにやりと笑いながら、エリオット大尉に頷く。

 

「すまんな。俺が怒鳴らねばならん所を、貴官にやらせてしまった。」

「いえ、お気遣いなく。では小官も戻ります。」

「うむ。ご苦労。」

 

 エリオット大尉が歩み去るのを見送ると、キースは自室へと歩を進めた。

 

 

 

 そしてここは、ディファイアント号のキースが使っている士官用船室……つまりは部隊司令室である。そこに設えられた応接セットのソファには、キースと来客であるジョナスの2人が腰掛けていた。その傍らに、キースの副官であるジャスティン少尉、ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉の2名が直立し、影の様に付き従う。ジャスティン少尉がこの部屋の金庫から取り出して来た書類束を、キースに渡した。キースはそれを検めると、ジョナスに手渡す。

 

「これがパールク星系の星間連盟座標、および惑星パールクⅣの星系内座標、そして肝心の0G乾ドックの星系内座標だ。それにうちの整備兵……サイモン大尉待遇中尉が製作した資料……。例のバトルメックと気圏戦闘機の自動整備施設と製作施設の資料だよ。後は遺失技術メックや遺失技術部品他の貴重品の目録とか、各種設計データや整備・修理マニュアルなんかの概要や抜粋。」

「いいのかい?先に航宙艦用0G乾ドックの座標情報を渡してしまって。0G乾ドックの位置座標は、まだ内密にしておいた方が良かったんじゃ?」

「その辺は、ジョナスを信じてるからな。それに情報の現物がなければ、ジョナスも交渉が難しくなるだろう?」

「わかった。信頼にはかならず応えて見せるさ。ランドル大尉……。」

「はっ!」

 

 ランドル大尉がジョナスから書類を受け取り、厳重な鍵付きの書類ケースに入れて、更にその書類ケースを頑丈なアタッシュケースに収めてその上から鍵をかけた。ジョナスはそのアタッシュケースを、鎖で自分の身体に繋ぐ。ジョナスは鎖と錠前の具合を確かめて、笑う。

 

「うん。僕はこれから宮中に参内して、「上」に他の「爆弾」の件や売却物の件と共に、ニューアヴァロンへの旅の途上で練っていた、0G乾ドックの回収計画を奏上するよ。」

「うん、頼んだよジョナス。」

「ああ、それとあとは……。キースは確か、部隊の兵員の追加募集を行う予定だったよね?」

「ああ、そのつもりなんだが……。基本的に歩兵や助整兵、戦車兵、偵察兵になるかなあ、この惑星での募集は。メック戦士と航空兵、それに整備兵は難しいからなあ。ユニオン級を1隻ばかり、傭兵の星ガラテアに送り出して、メック戦士他の募集をやらせようかと思ってるんだ。まあ、それでも満足に兵員が集まるかどうかは分からないけどね。」

 

 ジョナスはキースの台詞を聞くと、少し怒った様な顔をしてみせる。眼が笑っているので、本気で怒っているわけでは無いのは分かるのだが。

 

「キース、水臭いじゃないか。」

「え?」

「言ってくれれば、僕がメック戦士や航空兵、整備兵を紹介できるのに。」

「あ、だけど今回の件で既にいろいろ頼んでしまってる事だしなあ……。」

 

 ジョナスはやれやれと首を振る。

 

「キース、それが水臭いって言ってるんだよ。メック戦士や航空兵の候補者を推薦するのは、僕にも利益があるんだ。僕の配下や派閥のメック戦士や航空兵の家系には、機体を相続できない3男4男や3女4女とかがごろごろいるし。中には当主の嫡男が成人するまで代理で機体に乗っていたと言う、実戦経験がある人間だっているんだ。

 そう言った家の人間を、僕の推薦で今名前が急速に売れて来ている『SOTS』に紹介できるとあれば……。そう言った人間が、正規のメック戦士や航空兵になれるとあらば、それらの家に恩を売りつける事になるんだよ。僕はそれらの家々からのより一層の忠誠が期待できるし、君は裏切る心配の無いメック戦士や航空兵を雇用できる。それに僕からの推薦だと言う事実が後押しするから、各家では整備兵の郎党とかを付けて寄越す事も期待できる。いい事尽くめじゃないか。」

「あ……。」

 

 唖然としたキースは、やがて肩を落とした。

 

「そうか……。ジョナスの利益にもなる、か。また俺は、変に遠慮をしていたか……。」

「ああ、そうだとも。……だから遠慮しないで、頼ってくれると僕の側でも嬉しいね。」

「うむ……。よし、ジョナス。頼めるかい?」

「ああ。と言っても僕自身は宮中に詰める事になると思うから、実務はこのランドル大尉に頼む事になるね。頼むよ、ランドル大尉。」

 

 話を振られたランドル大尉は、深く頷くと力強く言う。

 

「お任せ下さい、閣下。キース中佐、必ずや粒よりの人材を集めてみせます。ご期待下さい。」

「ありがとうランドル大尉。ジャスティン少尉、必要人員のリストを用意して、後でランドル大尉に渡してくれ。」

「了解です。」

 

 ふとキースは、やらなければならない事を思い出した。彼はそれを口に出す。

 

「……ああ、そう言えば兵員たちの半舷上陸の指示を出さないといけなかったな。ただ歩兵たちには申し訳ないけれど、警備の人員が足りないからなあ。半分ずつじゃなしに、ざっと計算すると、1/8ずつ交代でしか休暇をやれないなあ……。」

「ああキース、降下船は『第9ダヴィオン近衛隊』の歩兵部隊に警備させるから、君の所の歩兵部隊にもゆっくり休みをやってくれ。と言うか、こっちでは最初っからそのつもりでいたんだけど。」

「え?それはありがたいんだが、いいのかい?」

「かまわないさ。うちの部隊はニューアヴァロンにはしょっちゅう来る、って言うか此処が任地だからね。大事なお客の船を護るのも、仕事のうちさ。」

 

 キースはまた自分が下手に遠慮をしようとしているのに気が付いた。それは逆に、相手の迷惑にもなりかねない。しかも部隊としても、この話を断ったりすれば、歩兵部隊に大変な負担をかける事になるのだ。正直な話、降下船の隻数すなわち警備に必要な歩兵数は、以前とは全く違うのである。彼は口元に右手をやり、眉を顰めた。

 ジョナスがその様子を不審に思ったか、訊ねて来る。

 

「……どうしたんだい、キース?」

「いや、また自分が無意味で尚且つ有害な遠慮をしようとしていたのに気づいてな……。激しく自省していた所さ。」

「あはは。なら大丈夫だね。」

「ああ。警備の件、歩兵の派遣をお願いするよ、ジョナス。」

 

 キースの言葉に、ジョナスは笑って頷いた。

 

 

 

 混成傭兵大隊『SOTS』が惑星ニューアヴァロンに到着した翌日、キースはサイモン老に連れられて、現在この惑星にいるサイモン老の伝手がある貴族や高官を訪ね歩いていた。目的は、サイモン老の持っているコネをキースに受け継がせる事である。

 ちなみにジャスティン少尉は、今日は来ていない。今日行く場所は安全で、ボディーガードの必要性は無いからと、たまには羽を伸ばさせるべく休暇を与えたのである。ジャスティン少尉以外も、『SOTS』の兵員たちは半舷上陸し、惑星ニューアヴァロンでの休暇を楽しんでいた。アンドリュー曹長などは、郎党であり恋人でもあるアイラ軍曹を連れて、張り切ってデートに出かけて行った。

 サイモン老が今回、彼のコネをキースに受け継がせようとしている理由であるが、それは彼が自分が歳を食った老人である事を、痛いほど理解しているからなのだ。いつかそう遠くない未来、彼がキースの役に立てなくなる日がやって来るのは間違い無い。だからこそ、様々な技術を後進に伝え、弟子を育て、キース自身にはコネを受け継がせる事でその時に備えているのだ。まあもっともサイモン老には、そう簡単に朽ち果てるつもりは全く無いのだが。

 

「……本日は我々のためにお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。」

「そうですのう。まっこと閣下にはいつもお世話になり申して……。」

「いや、私も有意義なお話ができて、ありがたかったよ。」

「そう言っていただければ幸いです。」

「ありがとうございますわ。ではこれにてお暇いたしますわい。またお会いできる日を、主共々待っておりもうす。」

「うむ。ハワード中佐、サイモン殿を大事にな。サイモン殿、貴殿ももう若く無いのだから、無理はいかんぞ。ではまたな。」

 

 キースとサイモン老は、ロラスム侯爵ケヴィン・ギブソン閣下役宅を辞すると、レンタルして来た車で次の場所へと向かう。

 

「サイモン爺さん、次は誰と会うんだ?」

「次はそう偉い人物ではありませんでの。そう気を張らずとも良いですわな。ただ、油断のならない人物ではありますの。ダヴィオン情報部のヴィンセント・ケイ氏ですわ。」

「気は抜けんな。」

 

 キースはこの後数日間、サイモン老のコネの人物たちの役宅などを訪ね歩く事になる。今まで惑星公爵などと会話した経験が活きたか、そこまで精神的に消耗はしないで済んだ。まったく消耗しなかったかと言うと、そうでも無かったりもするのだが。

 

 

 

 ここはアヴァロンポートの離着床に着陸している、『SOTS』の降下船フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室である。キースは一応アヴァロン・シティーの街中に、部隊員のための宿を借り上げてそこに自分の部屋も確保してはいる。確保してはいるのだが、そこは流石にセキュリティとかの面で問題もあるので、キースはほぼ毎日書類仕事のためにディファイアント号まで出勤して来る形を取っていた。

 キースは惑星ウィロウイックから惑星ニューアヴァロンまでの旅の途中で行った、部隊員の目ぼしい者に受けさせた、士官任用試験の結果を眺める。その顔が、若干にやけた。副官ジャスティン少尉がコーヒーを淹れてくれつつ、問う。

 

「その書類は自分もチェックしましたが、そこまで良い結果だったでしょうか?試験に落ちた者もそこそこいた様に思いますが。」

「ああ、コーヒーありがとう。ああ、いや……。確かに落ちた者もいたが、そいつらは基本的に無理を承知で、試しに受けさせて見た者達だからなあ。ネイサン軍曹とか……。だが、予想外に良い結果を出して合格してみせた者が、結構な人数出たんだ。特に歩兵部隊や戦車部隊。

 これだけの数が合格してくれたなら、歩兵部隊や戦車部隊に新しい人員を迎えた際に、小隊長職に就けられる人材が一気に増えると言う物だ。これで歩兵部隊や戦車部隊の拡張に弾みがつくぞ。」

「なるほど……。了解です。」

 

 と、そこへ卓上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『隊長、エリーザ曹長です。連れが1名。入室許可、願いまーす。』

「あー、許可する。」

 

 扉が開き、エリーザ曹長とイヴリン軍曹が入って来る。彼女らは敬礼を送って来た。キースとジャスティン少尉も答礼を返す。キースが要件を問う前に、エリーザ曹長が声を上げた。

 

「隊長!ちょっとジャスティン少尉を借りていいかしら?って言うか借りるわね!」

「あ、ちょ、待……。」

「じ、自分にはまだ仕事が……。」

「ではエリーザ曹長、退出しまーす!」

「そ、曹長!当たってる、当たってますって!」

 

 まだ退出許可も出していないのに、エリーザ曹長はジャスティン少尉の腕を胸元に抱え込んで引っ張って行ってしまった。唖然とするキース。ちなみにジャスティン少尉は、年上女性の胸の膨らみが腕にもろに当たっていた事で、顔を赤くしていた。キースはしばし呆然とする。

 

「……あー、イヴリン軍曹。貴様がどんな大人になるかは分からん。しかし可能であるならば……。せめて、ああはならん様にしてくれるか?少なくとも慎みは持ってくれ。」

「は、はい……。了解です。」

「あー、ところで貴様は今日は何の用だ?」

 

 イヴリン軍曹もまた、エリーザ曹長の勢いに圧されて呆然としていた様だが、キースの台詞に我を取り戻す。

 

「は、はい!部隊の皆が休暇を楽しんでおりますが、キース中佐は毎日お仕事だと聞いております!先日出かけたのも、結局はお仕事の延長の様な物であったとサイモン大尉待遇中尉よりお聞きしました!それで母、い、いえ失礼しました、チェンバレン=イェーガー総務課長やエリーザ曹長より、何か差し入れでもしたらどうかとアドバイスを、い、いえ、その、あの……。」

「む、差し入れか?それは有難いな。」

 

 キースは一瞬いっぱいいっぱいになりかけたイヴリン軍曹に、そっと助け船を出してやる。イヴリン軍曹はほっとした顔になり、差し入れの品を差し出した。

 

「アヴァロン・シティーで有名な菓子店の、焼き菓子のセットです!」

「ほう!『ディオン・フェレール』か、一流店じゃないか!高かったろうに。いや、しかし美味そうだな。早速頂くか。貴様も一緒にどうだ?」

「あ、は、はい!」

「あー、しかし……。しまったな、エリーザ曹長にコーヒー名人を連れていかれてしまったからなあ……。」

 

 イヴリン軍曹は、少々迷っていたが、意を決して口を開く。

 

「こ、紅茶でよろしければ自分がお淹れします!」

「む?では頼むとしようか。」

「はい!了解です!」

 

 イヴリン軍曹は中々の手つきで紅茶を淹れる。まずカップを温め、沸騰したお湯を注ぎ、ティーバッグを入れる。次に受け皿で蓋をして、茶葉を蒸らす。最後にティーバッグを軽く数回振ってから、カップから取り出す。これがティーバッグしか無い場合の美味しい淹れ方らしい。

 

「中々の物だな。いい香りだ。焼き菓子にも良く合う。」

「こ、光栄です。」

「くくく、見ていないで貴様も食べたらどうだ?美味いぞ?」

「あ、はい。……あ、美味しい。」

 

 イヴリン軍曹の顔が綻ぶ。キースも柔らかく微笑んだ。エリーザ曹長の策に嵌るのは何となく癪な気もするが、たまには良いだろうとキースは茶を楽しんだのだった。

 その後イヴリン軍曹が退出してしばらくしてから、ジャスティン少尉が戻って来た。何があったのか、ちょっと目が虚ろだったのがキースの気にかかったが。まあ何はともあれ、その後彼らは士官任用試験合格者たちの少尉昇進に関する書類を仕上げて行った。2、3日中には彼らの昇進処置が行える事だろう。目が死んでるのに、ジャスティン少尉の仕事効率が妙に高いのが、やはり若干気になったが。

 

 

 

「ううむ、歩兵と戦車兵の集まりはあまり良くないな。」

 

 人事書類を眺め遣りつつ、キースは唸る。その愚痴にジャスティン少尉が答えた。

 

「おそらくそれは、他所の後進惑星と違って「この惑星を出て一旗揚げてやるんだ!」などと考える人材が少ない事が、理由の1つでしょう。惑星ニューアヴァロンは恒星連邦の首都ですし、先進惑星もいいところですからね。」

「む、なるほど。まあ多少でも集まっただけ良いか。もう少し募集を続けるとしよう。一方で、偵察兵志願者は結構多いな。皆新兵だが、最低限の資質は備えている者が多い。鍛えるまでに時間がかかるだけが問題か。

 それと正規雇用の助整兵はやはり集まりがさほど良くないが、そうでない臨時雇用の助整兵は充分に集まったか……。あとでエリオット大尉、テリー大尉待遇中尉、アイラ軍曹、ベネデッタ伍長が報告に来るんだったよな?何時になっていた?」

「は。14:00時から予定が入っております。」

「流石に首都惑星であるニューアヴァロンで、スパイの類が入り込むのは難しいと思うが、用心に越したことは無いからな。彼らによる内部監査には、いつも助けられてる。……内部監査の要員を、もっと多く増やさないとな。せめて倍増程度に。彼らが来たら、内部監査要員の推薦も頼まないと。」

 

 キースは新しい書類を手に取り、検め出す。それはジョナスの連隊副官、ランドル大尉が送ってくれた、メック戦士候補、航空兵候補、その郎党の整備兵たちの第一陣の書類であった。追記されていたメモ書きによると、第一陣はここ惑星ニューアヴァロン上にいた人材たちであり、この後星系外から第二陣、第三陣が到着予定であるらしい。

 しばし時間をかけて書類を確認した後、キースは呟くように言う。

 

「ふむ、士官の資格をもっている人物もそこそこ多いな。書類を見る限りでは、人格的にも信頼できそうだ。さすがジョナスの懐刀、ランドル・マッカートニー大尉の手配だけはある。……一応明日を丸一日使って、メック戦士候補、航空兵候補、その郎党の整備兵たちと面談するんだったよな?」

「は。明朝08:30時から予定が入っています。」

「書類通りなら、問題なく全員を雇用できる。正直ありがたいな。予備メックや予備気圏戦闘機を遊ばせて置くのは、勿体なさすぎる。

 ……しかし、LAM機を使った降下猟兵隊要員は、才能のある素人を集めて訓練した方が良いかもなあ。しばらくの間、降下猟兵隊は欠員だらけになるな。」

 

 キースは溜息を吐く。そして彼は、引き続き書類仕事に戻った。

 そして次の日に、ランドル大尉に引き連れられてメック戦士候補他の人材がやって来る。直接会談して人格を確認したメック戦士候補他の面々は、全員が問題なく部隊の一員となった。彼らは一様に、諦めかけていたメック戦士や航空兵への道が開けた事に感激し、その郎党の整備兵たちも心から喜んでいた。

 

 

 

 メック戦士候補や航空兵候補、郎党の整備兵たちを部隊に受け入れたその日の夜遅く、キースとジャスティン少尉がアヴァロン・シティーの宿に帰ろうかとした時の事である。部隊司令室の内線電話機が、内線モードで鳴った。表示パネルを見ると、ブリッジからの連絡である。キースは受話器を取った。

 

「こちら部隊司令室、キースだ。」

『こちら副長のガイです、部隊司令。』

 

 ガイ・オサリヴァン少尉は、オーバーロード級フィアレス号の船長に異動した元副長マシュー・マクレーン中尉の後任である。今は乗員たちは半舷上陸であるため、船長に代わってこの船を預かっていた。キースはガイ副長に用件を訊ねる。

 

「副長、何かあったのか?」

『部隊司令に今からお客様が来ます。たった今、宇宙港の回線を介して電話がありました。バレロン伯爵ジョナス・バートン閣下と科学技術省副大臣ブリジット・ギャヴィストン女史、軍務省副大臣ブライアン・ランプリング氏が内密にお会いしたいそうです。』

「!?……了解した。電話はもう切れたのか?」

『はい。何やら妙にお急ぎの様でしたので、自分の一存で部隊司令をお待たせしておくとお返事いたしましたが……。』

「いや、それで構わない。船の乗降ハッチまで出迎えに出よう。」

『はい。ではこれで。』

「うむ。」

 

 キースは受話器を置くと、ジャスティン少尉に言った。

 

「急なお客様が来る。ジョナスともう2人、かなりのお偉いさんが今から来るそうだ。俺と共に乗降ハッチまで出迎えに出てくれ。」

「はっ。了解です。」

 

 2人は乗降ハッチまで急ぐ。彼らが乗降ハッチに着いた時、そこには既に豪華な高級車が停まっており、SPと思しき人物がそのドアを開いている所だった。キースは謝罪の言葉を口に出す。

 

「出迎えがおそくなりまして申し訳ありません、伯爵閣下、ギャヴィストン副大臣、ランプリング副大臣。」

「ああ、いや。急に来たのは私たちの側だからね。気にしてはいないとも、ハワード中佐。」

 

 今日は2人の副大臣がいるため、口調が友人としての物ではなく、公人としての物になっているキースとジョナスだった。キースはお客人たちを船内に迎え入れる。

 

「軍用の降下船ですので、むさくるしい所ですが、お入りください。」

「ではお邪魔するよ。」

「では、わたくしどもも……。行きましょう、ランプリング殿。」

「ああギャヴィストン殿。ではお邪魔する、ハワード中佐。」

 

 キースとジャスティン少尉は、部隊司令室まで彼ら3名とSPを案内する。ジョナスは部隊司令室の前で、SPたちにその場での立哨を命じた。キースは入室を促す。

 

「ではお入りください、お三方。」

「ああ。失礼するよ。」

「はい。」

「ふむ……。質実剛健でなかなか好ましいね。」

「ありがとうございます、そちらのソファにお掛け下さい。」

 

 ジャスティン少尉を除くその場の全員が、ソファに腰掛けた。ジャスティン少尉はキースと客人3人のコーヒーを淹れて茶菓子を用意した後、キースの傍らに直立不動で立つ。ジョナスが口を開いた。

 

「さて、ハワード中佐。」

「はっ。」

「此度の貴官の多大なる功績に、まずは感謝を。」

「わたくしたちからも、御礼申し上げます、ハワード中佐。」

「貴官の発見は、軍事的にも軍事科学分野に置いても、恒星連邦に多大なる貢献をもたらす事は間違い無しだ。」

 

 2人の副大臣も、口々にキースに礼を言い、称賛する。キースは軽く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。ですが、私だけの手柄ではございません。これも優秀な我が部隊の隊員たちの、努力のたまものでありますれば……。」

「それで、だ。ハワード中佐。」

「はっ。伯爵閣下。」

「貴官たち『SOTS』の発見物を……。発掘された遺失技術メックや遺失技術気圏戦闘機、各種技術資料の原本、そして最大の宝であるメックや気圏戦闘機の自動整備施設および製作施設を、NAIS……ニューアヴァロン科学大学まで運び込みたい。それも早急に……。できれば1日~2日のうちに、だ。

 可能かな?」

 

 ジョナスの言葉に、キースは少々考え込むと、ジャスティン少尉に顔を向ける。そしてジャスティン少尉が懐から予定を書き連ねた手帳を取り出して言った。

 

「は。今夜のうちに船員たちに緊急招集をかけて、明朝には「荷物」を積んだ降下船全てが発進可能です。明日からの予定は、後日にずらす気になればずらせる物ばかりです。」

「そうか。……伯爵閣下、可能です。明日早朝には移動開始できます。」

「まあ!助かりますわ!NAISにさっそく連絡を入れて、NAISとその専用宇宙港に受け入れ準備をさせましょう!」

「おお、それは有難い!」

 

 科学技術省副大臣ブリジット女史と軍務省副大臣ブライアン氏は、喜色を顕わにする。ジョナスも柔らかく微笑んで、キースに言葉をかけた。

 

「感謝する、ハワード中佐。」

「いえ、元々こちらからお願いした事でもありますから。」

 

 キースもジョナスに向かい、微笑む。ようやくの事で、下手をすると部隊に破滅をもたらしかねない、価値のあり過ぎる「爆弾」を始末する事が叶うのだ。

 だがキースは気を引き締める。明日にきちんと「爆弾」を引き渡し終えるまでは、まだ危険が去ったわけではない。まず無いとは思うが、省庁の副大臣あたりまで話が下りていると言う事は、もしかしたらその過程で情報漏れが発生する可能性も、まったく無いわけでは無いかもしれないような気もしないでもない。たぶん大丈夫だとは思うが、だが気を抜いて良いわけは無いのだ。

 表情を引き締めたキースに、ジョナスもまた真面目な顔になって頷く。明日、無事に「荷物」の引き渡しを済ませられる事を願いつつ、彼らはやや冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。




今回は、恒星連邦首都惑星であるニューアヴァロンで、お偉いさんたちとの折衝とかお付き合いとか様々な苦労を主人公キースがするのがメインです。
あとジョナスと。
それとイヴリン軍曹(笑)。
がんばれイヴリン軍曹。
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