鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-080 慌ただしい年末』

 鮮やかな朝日を浴びて、連盟標準時の3027年12月23日04時21分、惑星の現地時刻で07時12分に、『SOTS』所属の降下船であるフォートレス級ディファイアント号は、惑星ニューアヴァロンの首都アヴァロン・シティーより南に約30kmの地点にある、NAIS……ニューアヴァロン科学大学の専用宇宙港離着床に着陸した。ディファイアント号の船長や副長の操舵の腕前は見事な物で、着陸位置にわずかなずれも無い。

 更にディファイアント号を追う様にして、これも『SOTS』所属である2隻のオーバーロード級降下船、フィアレス号とサンダーチャイルド号が着陸する。これもまた、素晴らしい腕前を披露して見事な着陸を見せた。

 着陸した3隻の降下船に、宇宙港所属の冷却車輛が群がる。その後ろには、船体の冷却を待っている推進剤補給車輛が、エンジンをアイドリングさせたまま停車していた。その様子をディファイアント号の船窓から、キースはジョナス、科学技術省副大臣ブリジット・ギャヴィストン女史、軍務省副大臣ブライアン・ランプリング氏と並んで眺めていた。

 

「流石に規模はアヴァロンポートには敵いませんが、設備はあちらに負けないほどに充実していますのよ。」

 

 そう言うのは、ブリジット女史である。彼女は科学技術省副大臣であるが故に、NAIS及びその関連設備に関しても深い関わりがあるのだ。キースは同意する。

 

「確かに。着陸してから冷却車輛が来るまで、ほとんど間がありませんでした。設備だけでなく、人員の練度もかなりの物と見えますね。」

「NAISには、この専用宇宙港を使用するか、あるいは直通の地下鉄を使うかしか出入りする方法は無い。様々な極秘プロジェクトが進行しているから、保安体制を厳しくするためにも、そうやって人員の出入りを管理している。

 中佐、此度の貴官らのここ専用宇宙港への着陸は、非常に例外的な出来事なんだ。警備上少々窮屈な思いをさせるかも知れないが、堪忍して欲しい。」

「はっ。それは重々承知しております、伯爵閣下。どうかお気になさらず。」

 

 ジョナスの言葉に応えると、キースは推進剤補給車輛の更に後方を眺め遣る。そこには多数の歩兵と、2個中隊のバトルメックが存在していた。彼らは『SOTS』降下船群の警備と言う名目で、万が一のための監視任務に就いているのは間違いない事だろう。如何にジョナスの保証があったとしても、立場上キース達『SOTS』は外部の傭兵部隊なのだ。相手からすれば、仮にキース個人が信じられたとしても、その部下の下っ端1人1人までことごとく信頼できるとは言えないのである。

 やがて船体が充分に冷え、推進剤補給車輛が冷却車輛と入れ替わりで配置に着く。ディファイアント号、フィアレス号、サンダーチャイルド号のメックベイ扉が開き、傾斜路と化した。そして周囲を取り囲むメックの壁の向こうから、幾台もの重量物輸送車輛がやって来て各船の船倉を兼ねた格納庫へと入って来た。

 ジョナスがキースに向かい、言葉を発する。

 

「さて、事前に知らされた通りならば、今この船に入って来た重量物輸送車輛の1号車に、NAIS側の今回の責任者であるハーマン・マクウィリアムズ博士が乗っているはずだ。中佐、ギャヴィストン副大臣、ランプリング副大臣、行こうか。」

「はっ!了解です。では船倉までご案内いたします。」

「わかりましたわ。」

「うむ、行きましょうジョナス卿。」

 

 彼らはキースを先頭に歩いて行った。

 

 

 

 船倉には混沌が溢れていた。キース、ジョナス、ブライアン軍務省副大臣は唖然とする。しかしブリジット科学技術省副大臣は少々失笑しただけであった。彼女はこの手の混沌には慣れていたのだ。船倉で待っていたジャスティン少尉が、キース達に敬礼をする。キースとジョナスは答礼を返し、副大臣2人は片手を挙げて略式の礼を返した。キースはジャスティン少尉に問いかける。

 

「ジャスティン少尉、これは一体何事だ?」

「はっ。サイモン大尉待遇中尉が、重量物輸送車輛から降りて来た白衣の一団に、なんと言いますか……。その……。拿捕されました。彼らが何を言っているのか、専門用語ばかりが飛び交っておりますので、自分には解りかねます。」

「サイモン中尉が、か。」

 

 キースが見遣ると、興奮し発奮しエキサイトする白衣の集団の中に、確かに自分の郎党である大柄な老整備兵の姿が確認できた。その周囲には、サイモン老の弟子であるジェレミー少尉、パメラ軍曹、キャスリン軍曹の姿も見えた。彼ら4名の整備兵たちは彼らを取り囲む白衣の集団に対し、書類を示し、ホワイトボードに図を描き、時折機械部品の実物を手に取って、何やら解説している。

 ブリジット副大臣は困った物だと言う様な笑顔を浮かべて言う。

 

「まあ、あの方たちはいつもああですから……。研究の事しか頭に無いんですのよ。ほら、警備の歩兵の方々もどうして良いやら困ってらっしゃいますわ。」

「たしかに困った物だ。ハワード中佐の部隊に不心得者がいるとは思えんが、にしても不用心が過ぎる。万が一のテロの可能性ぐらいは考慮すべきだろうに。ギャヴィストン殿、科学者たちは貴女の管轄でしょう。なんとかしていただけませんか?」

 

 ブライアン副大臣の要請に、しかしブリジット副大臣は首を左右に振った。

 

「あの方たちが、とりあえず満足するまでやらせるしかありませんわ。特に今回の責任者であるハーマン博士は、いったん火が付くとどうにもならないお人ですのよ。もし下手に止めようものなら、玩具を取り上げられた子供の様に不機嫌になりますわ。天才的な科学者ではあるのですけれど……。」

 

 キースとジョナス、ブライアン副大臣は、酢を飲んだ様な顔になる。やがてしばしの時を経て、質疑応答の嵐は止んだ。白衣の集団のリーダーと思しき男性……おそらくはハーマン博士と思われる人物は、非常に元気いっぱいだった。一方、質問の集中砲火を受けたサイモン老とその弟子たちだが、サイモン老はまだ比較的元気であったが、ジェレミー少尉、パメラ軍曹、キャスリン軍曹の3名は精根尽き果てた様子である。キースは彼らに声をかけた。

 

「あー、大丈夫か、貴官ら?」

「隊長、わしは大丈夫ですがのう……?」

「あ、た、隊長。な、なんとか大丈夫、です。」

「た、たいちょ、う、わたし駄目かも……。」

「隊長……。私が死んだら遺灰は宇宙葬にしてください……。」

「……駄目そうなのが約2名いるな。」

 

 サイモン老は見た通り元気であったし、ジェレミー少尉はそれでも気力を奮い立たせてやせ我慢をして見せるが、パメラ軍曹とキャスリン軍曹はちょっとばかり台詞が怪しかった。キースは溜息を吐いて頭を振ると、気を取り直してハーマン博士らしき人物に向かって歩み寄った。

 

「ハーマン・マクウィリアムズ博士ですか?」

「うむ。貴殿はどなたかな?」

「自分は混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード中佐です。」

「おお、貴殿が!いや、今貴殿の部下のサイモン大尉待遇中尉と話をさせてもらったのですがな。すばらしい部下をお持ちですなあ。いや、あの方が書いた、発見物に関する概略を読ませていただきましたがな。素晴らしい発見です!それらの品々を恒星連邦政府に売却すると言う決断を下した貴殿にも、礼を言いたいですな。貴重な研究材料と高度な機材類をもたらしてくれて、感謝いたしますぞ!」

「いえ、どういたしまして、マクウィリアムズ博士。と、それよりもその「機材」や「研究材料」の移送を行わねばならないのですが……。」

 

 ハーマン博士は一瞬きょとんとしたが、すぐに我に返る。

 

「しまった!そうでしたな!」

(……忘れてたのかよ。)

「ええと、先に頂いている資料によりますと、この船には主に遺失技術を利用したバトルメックやその部品類が積んであるとの事でしたな。我々が乗せてもらって来た、重量物輸送車輛へ、それらを荷造りします。その作業自体は、こちらの人員が行いますので、積み荷の場所だけ指示していただければ……。」

「わかりました。サイモン中尉!ジャスティン少尉!マクウィリアムズ博士に積み荷を引き渡してくれ!」

「「了解!」」

 

 キースに向かって会釈をするハーマン博士に、キースも会釈を返した。そして彼はジョナスや副大臣2人の所へ戻る。

 

「ご苦労、中佐。」

「はい。いいえ、大した事はありませんよ、伯爵閣下。」

「まあ、後は私たちは「品物」の引き渡しに立ち会うだけで良いんだがね。ああ、後は何かあった場合に責任を取らなければならないか。」

「まあ、いざと言う時の責任のために、我々2人は来た様な物ですからな。」

「そうですわね。まあ、天才故に突発的に変な事をやるお人ではありますけれど、責任感が無いわけではありませんわ。手綱さえ上手く取っていれば、きちんと仕事をしてくれる方ですから大丈夫かと思われますわ、ハーマン博士は。」

 

 キース達4人は、その後しばらくその場で作業を監督していた。まあ監督と言っても、実際何もすることは無かったのだが。まあ責任者の仕事は、責任を取る事である。居るだけでも、意味は無くは無いのだ。

 そして様々なお宝、特に何よりもバトルメックや気圏戦闘機の自動整備施設およびそれらの製作施設と言う「爆弾」を全て引き渡したキース達は、再び降下船3隻でアヴァロンポートへと取って返した。なお別れ際にキースは、ハーマン博士より一通の書面を受け取った。キースはそれを見て驚いた物だ。それは今回引き渡した品々についての預かり証であり、その末尾にあるのは恒星連邦国王、ハンス・ダヴィオン陛下のサインだったのである。

 国王のサインが入っている書類をロイヤル・パレスの宮廷外に出すと言う事は、非常に大きな事だ。もし悪用しようとすれば非常に大きな力を振るえる事になる。無論、下手に悪用すれば身の破滅にもなる様な書類だ、と言う事でもあるが。キースは国王のサイン入りのその預かり証を、ディファイアント号の部隊司令室の金庫に、しっかりとしまい込んだ物である。

 

「やれやれ……。やっと何時もの口調で話せるよ。」

「そうだな。お疲れ、ジョナス。」

「お互い様さ。キースもお疲れ。」

 

 恒星連邦政府の公用車で、一足先に副大臣2人が帰って行った後、キースとジョナスはディファイアント号の部隊司令室にある応接セットのソファに腰掛け、談笑していた。キースがほっとした様な笑いを浮かべる。

 

「しかし、ようやく「爆弾」を手放す事ができたよ。国王陛下のサインが入った預かり証を渡されるとは思わなかったけどな。まあ、でも「爆弾」の現物よりはまだ気が楽だ。」

「陛下のいたずら、だろうなあ。「結婚式」の準備で忙しい今の時期に、恒星連邦の利益になるとは言え、でかい面倒ごとを持ち込んだんだ。ま、ちょっとした稚気だよ。そこまで気にする事は無い。第一これは国王陛下にとっても大きな利益になる事なんだから、別に気を悪くされてはおられないはずだよ。」

 

 キースはジョナスが「結婚式」の単語を、ややアクセントを強めて強調した事に気付いた。おそらくはジョナス自身で気付いていない事だろう。だがキースは「結婚式」の意味を知っていた。

 

(……結婚披露宴で、メリッサ・シュタイナー=ダヴィオンはハンス・ダヴィオンにウェディングケーキを1皿と、1個連隊のバトルメックの永遠の奉仕を贈った。そしてハンス・ダヴィオンはメリッサ・シュタイナー=ダヴィオンに、ウェディングケーキを1皿と、なんとカペラ大連邦国を贈ると言い放った。それが第4次継承権戦争の開始の合図だった。

 それとほぼ同時にラット作戦が発動され、カペラ大連邦国の9つの惑星に電撃的に恒星連邦軍の第1波攻撃が開始された……んだったよな。そっか、ジョナスはやっぱりハンス国王の計画を、全てかどうかはわからんが、一端なりとも知ってたかあ……。)

「……?どうしたんだい、キース?」

「ああいや、国王陛下の結婚式かあ……。盛大な式になるんだろうなあって思ってさ。」

「うん。僕も陛下に付き従って、参列する事になる。」

(ふうん……。となると、ジョナスの『第9ダヴィオン近衛隊』は、ラット作戦の第1波には含まれないんだろうなあ。いや第2波にも下手すると含まれないかも?だがジョナスの連隊は、恒星連邦政府にとって極めて信頼でき、信用できる重要な部隊だし。かならずラット作戦には投入されるはずだよなあ。)

 

 キースが1人で自分の考えに頷いていると、ジョナスはくすくす笑った。

 

「……?……俺、何かおかしな事言ったかな?」

「ああいや、そうじゃない。そろそろロイヤル・パレスの宮廷では、パルジファル作戦が発動されてる頃だと思ってね。」

「パルジファル作戦!?」

 

 キースの前世の記憶では、バトルテック世界でその様な名前の作戦が行われた事は無いはずであった。つまりこの作戦は、キースの干渉によって発生した可能性が高い。ジョナスは笑いながら言った。

 

「もう言っちゃってもいいだろうさ。パルジファル作戦は、ガラハド作戦や第2次ガラハド作戦の補完として行われる、航宙艦による艦隊演習さ。」

「……。あー……。!!……もしや艦隊の行き先はパールク星系か!?」

「流石にわかるか。その通りだよ。」

「なんとまあ……。確かにそう言う演習の名目ならば、多数の航宙艦を一時に動かす理由にはなるだろうけど……。あー、これ以上は聞かないでおくべきだな。」

 

 キースはそう言うが、ここまで聞いてしまえばこの作戦が、パールク星系から航宙艦用の0G乾ドックを運び出し、恒星連邦領域内に運び込むための回収作戦だと言う事は理解できる。だがそれをあえて口に上らせないだけの自制心は、ちゃんとキースにはあった。ジョナスは苦笑する。

 

「ああ。そうしてくれると僕としても助かる。ごめんよ。」

「ははは。いや、構わないさ。ジョナスの立場も、俺はわかってるつもりだからな。話せる事と、話せない事があるだろう、って事ぐらいは理解してるさ。」

「そう言ってくれると、気持ちが楽になるよ。……さて、僕もそろそろロイヤル・パレスに戻らないといけないんだ。車が迎えに来る時間だ。またすぐ会う事にはなると思うけれどね。」

 

 ジョナスの台詞に、キースは笑ってソファから立ち上がる。

 

「そうか。じゃあ乗降ハッチまで送るよ。」

「うん、頼むよ。」

 

 ジョナスもまたソファから立ち上がり、2人は並んで部隊司令室を後にした。

 

 

 

 そして翌日の早朝の事である。ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉よりキース達が借り上げているアヴァロン・シティー内の宿に電話連絡があった。内容は、深宇宙通信施設を介した通信で、ゼニス点ジャンプポイント補給ステーションから通信があったとの事だ。キースには通信の中身に心当たりがあった。

 果たして、通信の中身は予想した通りであった。恒星連邦所属のミュール級降下船ヘリン号が、『SOTS』の航宙艦マーチャント級ネビュラ号と同級パーシュアー号、同級クレメント号が積んで来た貨物を受け取り、あらかじめキース達が恒星連邦政府に渡してあった目録に記載されていた通りの物資がある事を確認した、と言う物だ。

 ちなみにマーチャント級航宙艦は、1隻あたり3つの貨物ベイを持っている。その貨物ベイは1つあたり200tの容量を持っており、『SOTS』の3隻のマーチャント級は1隻あたり600t、3隻合わせて1,800tの貴重な航宙艦用修理資材などを、目いっぱい積んでいたのだ。無論これらの物資は、パールク星系で発掘された物である。

 ランドル大尉は電話口の向こう側で語る。

 

『その知らせが宮中……ロイヤル・パレスに届きまして、早速にGOサインが出されました。』

「GOサイン?」

『は。今回引き渡された物のうち、既に査定ができている物品類の代価を、ごく一部を現金……Cビルにて、そして一部をメックなどの物納にて『SOTS』に引き渡すための、GOサインです。ですが今回そちらに引き渡されるのは、あくまで一部です。本番の報酬の前の、言わば手付金代わりであるとの事です。未だ査定ができていない品なども多いですからね。

 本日14:00時に、アヴァロンポートにて『SOTS』にそれらを引き渡します。その際には、当部隊の部隊司令ジョナス・バートン大佐が伯爵……恒星連邦貴族としての資格で、自ら赴くとの事です。』

「うむ、了解した。ありがとうランドル大尉。ジョナスに待っていると伝えてくれるかね?」

『了解いたしました。それでは失礼いたします。』

「うむ。」

 

 電話は切れた。キースはジャスティン少尉と共に、宇宙港アヴァロンポートの降下船ディファイアント号まで向かった。

 

 

 

 ジョナスは時間よりもやや早目に、フォートレス級ディファイアント号までやって来た。キースはジャスティン少尉と出迎えに赴く。

 

「やあキース、話は聞いてるよね?」

「ああ、そちらにいるランドル大尉から電話を貰ったよ。さてジョナス、船内へ……。」

「いや、もうすぐ引き渡す品物を載せた降下船がやって来るから、ここでそれを待とう。キース、物資を搬入するための人手は?」

「サイモン大尉待遇中尉に指示してある。整備兵の半数と、この惑星で臨時雇用した者含めた助整兵全員が待機しているから、いつでも呼び出して仕事に当たらせられる。」

 

 ジョナスは頷いて、自分の副官の方に顔を向けた。

 

「ああランドル大尉、今のうちに書類を引き渡してしまおう。」

「はっ!」

 

 ランドル大尉が、手に持っていたアタッシュケースをまるごとジャスティン少尉に手渡すと、頷いて言った。

 

「中身をご確認ください。」

「ああ、ありがとうランドル大尉。ジャスティン少尉?」

「はっ!」

 

 ジャスティン少尉がアタッシュケースを開けると、中には複数の書類ケースがぎっしりと詰まっていた。キースはジャスティン少尉が差し出す書類ケースを1つづつ手に取ってそれを開け、ぱらぱらと書類の表題だけを確認して行く。キースは溜息を吐いた。

 

「はぁ……。たいした量だなあ……。現金の『SOTS』口座への振り込み証明書に書かれた額も、仰天したけれど……。カメレオン練習機が数機入ってるけど、それ含めてバトルメックが39機に気圏戦闘機が8機かあ……。そして中古とは言え、ユニオン級降下船ミンドロ号が1隻。これが手付金代わりか……。」

「それも恒星連邦に引き渡した物品や情報のうち、査定ができた分だけだからね。メックや気圏戦闘機は、遺失技術機体はその2倍の重量の通常型機体が相場っぽいからねえ。

 正直に言えば、君が昨日NAISに引き渡した遺失技術機体の価値に、遠く及んでいないんだよ、メックや気圏戦闘機だけじゃね。君に報酬として渡すために、可能な限り急いでかき集めた機体だから、中古機体や鹵獲メックも多く混じってるし。中量級や軽量級も多いし。

 だからその足りない分を、今回宇宙で引き渡された航宙艦修理用資材なんかの分も加味して、これも中古品で申し訳ないけれどユニオン級ミンドロ号で埋め合わせて、それでも足りない分を現金で、って事だよ。」

「しかも査定ができた分だけで、これだろう。査定ができてない分の報酬が、何で渡されるか、考えるとちょっと怖くなるな。」

 

 キースがそう言った時、空の彼方に球形と長球形の影が見えた。ジョナスがそちらに目を遣って、口を開く。

 

「ああ、来たね。例のユニオン級ミンドロ号と、残りの荷を運んできたオーバーロード級ウォルベリン号だ。」

「うーん、また船員を再配置して、足りない船員を雇わないとなあ。」

 

 キースは頭の中で、ユニオン級ミンドロ号の新船長は、今現在同級レパルス号で副長をやっているダーナ・フィリップス少尉あたりになるんじゃないかな、と当たりをつける。まあ船の事は、実際に決めるのは船長会議であり、キースはその人事を追認するだけだ。餅は餅屋、降下船の事は船長たちに任せるのが一番良いのである。

 やがて轟音と共に、『SOTS』降下船群の近場の離着床に、ミンドロ号とウォルベリン号が着陸した。

 

 

 

 連盟標準時の3027年12月25日、恒星連邦の宮殿であるロイヤル・パレスの大広間にて、年末パーティーが開催された。キースはこの催しに際し、正式な招待状を受け取っている。これは事実上の出席命令であった。ただしキースのみ、である。流石に他の『SOTS』の面々は、いかにメック戦士や航空兵であるとしても呼ばれる事は無かった。

 ちなみにここニューアヴァロンの宮廷では、キースの迫力に気圧される様な、やわな神経の軟弱者はあまりいなかった。流石は恒星連邦の中枢である。キースは何とはなしに感嘆していた。

 そしてキースは今、とある大貴族と会談していた。

 

「……あの時は、公爵閣下のおかげでドリステラⅢの惑星政府議会への工作が上手く行きまして。」

「いやいや、貴官の部下であるサイモン殿には、色々借りがあるからな。少しずつでも返していかねば。サイモン殿にはよろしく伝えておいてくれたまえ、中佐。」

「はっ。戻り次第サイモン大尉待遇中尉には、必ずや伝えておきます故、ご安心ください。」

「うむ。では済まぬがこの辺での。他にも挨拶に回らねばならん。やれやれ、忙しないことだ。」

「はっ。ではこれにて失礼いたします、公爵閣下。」

 

 キースは恒星連邦ダヴィオン家政府高官でもあるダルゾナル公爵アレックス・キャンベル閣下の前から辞する。彼はこのパーティー会場にて、サイモン老から受け継いだコネの相手や、彼が以前から持っていたコネの相手への挨拶回りで、大忙しであった。そこへジョナスが現れる。ここは公式な場所なので、2人とも口調は公人としての物だ。

 

「やあ、探したよハワード中佐。」

「はっ、伯爵閣下。」

「君に紹介しておきたい相手が何人かいらっしゃる。ついて来たまえ。」

 

 ジョナスはキースを、『第2南十字星部隊』連隊長である王族ジャクソン・ダヴィオンや、それにモーガン・ハセク=ダヴィオン――ハンス・ダヴィオン国王の政敵であるマイケル・ハセク=ダヴィオンの息子ではあるが、ニューアヴァロンの宮廷との関係は良い――と引き合わせる。また、ジョナスはその他の様々な貴族にもキースを紹介した。

 そしてジョナスは腕時計を見遣る。

 

「さて、そろそろいいかな。さっき私も一度ご挨拶に伺ったが、一言二言声を交わすだけで精一杯だった。貴官を紹介する余裕など無かったからな。もうそろそろ空いている頃合いだろう。」

「伯爵閣下、どちらへ?」

「ふふふ、来ればわかるとも。」

 

 釈然としないながらも、キースはジョナスに付き従い歩き出す。そしてある人物の近くで、彼らは立ち止った。その人物は多数の共の者を引き連れて、他の偉そうな高級官僚らしき者と、談笑していた。やがて会話が終わり、高級官僚らしき者はその場を去る。ジョナスは残ったその人物に話しかけた。その人物の右目近くには、小さな、しかしやや目立つ傷跡がある。キースには、多数の共を引き連れたその人物が誰であるか、見当がついていた。

 

「陛下、先ほどは挨拶もそこそこに、大変失礼をば。」

「いや、かまわないともジョナス卿。そちらが貴公の友人にして、此度の功労者だな?」

「はっ。ハワード中佐、自己紹介を。」

「はっ!了解です。」

 

 キースは即座に了承を返す。同時に彼は、失礼にならない程度にその相手……恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンを観察した。一見してハンス国王は、友好的で陽気な様子を身に纏っている。だがその瞳の奥にはこちらを見通す深い洞察力がある事を、キースは前世において読んだことのある、ハンス国王の紹介文で知っていた。

 だがこれほどまでに対人交渉能力に長けた人物に対し、腹芸で相手をしても意味は無いどころか有害である。キースはこの相手に、下手な小細工はしない事を選択する。彼は口を開いた。

 

「自分は混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令キース・ハワード中佐、メック戦士であります。」

「よく来てくれた、中佐。流石、少し調べただけでも貴官の戦歴は物凄いな。それに物腰の端々から、凄みが伝わって来る。……まだ20歳にもなっていないとは、とても思えんな。」

「はっ。光栄です。」

「ははは。貴官がライラ共和国へ一時出向してさえいなければ、対ドラコ連合の奮闘を称えて今頃は、ドラゴンスレイヤー・リボン章を与えられていたに違いないんだがな。」

 

 ドラゴンスレイヤー・リボン章とは、ドラコ連合との戦いに際しての手柄を表彰する勲章である。ライラ共和国と恒星連邦の両国に、その勲章は存在してはいるが、今の段階では2つの国家は別国家である。キースの部隊である『SOTS』の功績は、半分が恒星連邦に対する貢献、半分がライラ共和国に対する貢献であるため、全部合わせれば充分に勲章に値する功績ではあるのだが、1国に対しては若干……と言う話であるらしい。

 

「それにしても、貴官が中佐か……。聞いた話では、充分に連隊規模はあると言う話だったがな。」

「陛下、中佐は奥ゆかしい所がございまして。」

「うむ。だが流石に年貢の納め時だろうよ。こちらの得た情報では、発掘品の通常型バトルメックや気圏戦闘機だけでもかなりの数になったそうだな。しかも今回発掘品のうちの貴重品を恒星連邦に引き渡した報酬の手付として譲渡された機体群……。大佐でなくば、部隊の格とつり合いが取れまいな。」

 

 キースは驚いていた。国王が色々と『SOTS』について知っていた事にではない。いまだに国王との話が続いている事について、驚いていたのだ。当初は一言二言短い言葉を貰っておしまいだろうと、そう考えていたのだが。

 

「中佐、貴官が大佐になる時は祝宴ぐらいは開くのだろう?なんなら私も出席しようかね?」

「陛下、お戯れを……。第一陛下にはその様な時間の空きはございませぬ。」

 

 ハンス国王の共の1人、おそらく侍従と思われる人物が、流石に口を挟む。

 

「む、なら祝電ぐらいは打とうか。」

「それもお止め下さい。下々の者には、かえって重荷になり申す。」

「は。ここでこうして親しくお言葉を頂いているだけで、充分に光栄にございます。」

 

 キースは侍従に目礼し、感謝の意を伝える。侍従も目線だけでそれに応えた。

 その後、位の高そうな他の参列客が国王と話をしに来るまで、キースとジョナスは国王の話につき合わされた。宴席上での非公式な物とは言え、恒星連邦国王との謁見は、なかなかに精神的な耐久度を削る物であった。

 

「……陛下がハワード中佐を連れて来るようにと言っていたんだが、どうやら、気に入られでもしたかな?」

「有難くも、恐れ多い事です。」

 

 ジョナスの言葉に、真面目な顔でキースは返答する。その顔は、ちょっとだけ引き攣っていたかも知れない。ジョナスの労わる様な申し訳ない様な、そんな視線がキースに投げかけられる。キースは思わず苦笑した。

 

 

 

 年末パーティーも終わり、3027年の暮れももう近い12月27日、キースは惑星軍から借りた演習場にて、バトルメック部隊と機甲部隊の実機訓練を行っていた。これは新規に雇い入れたメック戦士や戦車兵たちに、新たな機体や車輛に慣れてもらうためである。同じく新入りの航空兵たちについては、気圏戦闘機隊A中隊中隊長のマイク中尉の指揮のもと、当局に飛行許可を取って徹底的に扱いている最中だ。

 キースは徐に、自分の乗機である95tの強襲メック、S型バンシーの操縦席で思いを口に上らせる。

 

「ふむ、もう皆が新しい機体に慣れてきている。中々の素質を持っているな。だが……。実戦経験のある者と無い者の格差が大きいのは気にかかるな。」

『それは仕方ないでしょう、隊長。何、これだけの力量があれば、充分合格ラインです。実戦を1回潜り抜ければ、一人前になるでしょう。』

 

 S型バンシーの傍らに立つ100tアトラスから、マテュー少尉の声が小隊内回線で届く。更に80tオウサムからアンドリュー曹長の、85tストーカーからエリーザ曹長の声が、同じく小隊内回線で響いた。

 

『俺が心配なのは、今年の6月に入って来た新任少尉様たちだな。予定通り増員が成れば、奴らは中尉待遇って事で小隊長を任されるんだろ?』

『ああ、あのロビンソン戦闘士官学校組の若手少尉様6人ね。単純な腕前だけはこの半年の訓練で上がって来たけれど……。この半年は発掘仕事だったから、実戦はまだ経験してないもんねえ。』

『実戦の機微は、まだわかってねえだろに。いきなり小隊長は厳しくねえか?』

 

 キースは苦笑しつつ言う。

 

「だが、小隊長を任せられるだけの力量を持つ士官が足りん。奴らには頑張ってもらうしか無いな。何、これまでの半年で見てきたが、期待に応えられるだけの能力はあると感じた。最初のうちは何かとフォローしてやる必要はあるだろうが……。

 その辺は、奴らの小隊を指揮下に収める中隊の中隊長に、内密に頼んでおくとしようか。」

『やれやれ、士官はやっぱ大変そうだな。俺は気楽な下士官で良かったぜ。』

『激しく同意。あたしも士官じゃなくて、良かったー。』

『2人とも、実力的には任用試験を突破できるだけの能力はあるんですがねえ……。』

 

 そんな軽口を叩いている自分直卒の小隊員たちに、キースは真剣な声音で語る。

 

「なあ……。アンドリュー曹長にエリーザ曹長、本気で士官任用試験受けてみないか?いや、冗談抜きで真面目な話だ。マテュー少尉も、もうちょっとだけ昇進して欲しい。」

『『ぐげえぇっ!?』』

『あー、私は構いませんけどねー。』

 

 マテュー少尉以外の2人が、踏みつぶされたカエルの様な叫び声を上げる。キースはひとつ溜息を吐き、理由を説明した。

 

「いや、な。俺はたぶん間違いなく、来月に予定されている更なる増員が完了したら部隊を連隊に格上げして大佐になる。そうなればマテュー少尉は連隊長の直卒小隊の副隊長だ。それが少尉では今一つ格と言う物が足らないからな。これまでの貢献、功績を考慮しても、昇進が妥当だ。

 で、だ。アンドリュー曹長とエリーザ曹長なんだが……。2人の郎党の、アイラ軍曹とキャスリン軍曹の事なんだよ。アイラ軍曹の階級をもう少し上げてやりたい。郎党の方が主人よりも階級が高くなるのは、ちょっとばかり、な。アンドリュー曹長は気にせんかも知れんが、アイラ軍曹の方で気にしないとも限らない。

 で、だ。キャスリン軍曹の方は、もう少し事情が深刻だ。彼女は軍医の中では最も技量が高い。当然ながら、軍医の中ではリーダー格だ。しかし、軍医の中で彼女より階級が高い者はけっこう居るんだ。上官を怒鳴り飛ばすのは、例が無いとまでは言わんが……。今の階級のままでは、キャスリン軍曹もやりづらい事が多いだろう。

 あの2人が気兼ねなく昇進するためだ。アンドリュー曹長、エリーザ曹長、士官になってはもらえんか?」

『うむむむ……。アイラのためか……。』

『ぬぬぬ……。キャスリンには色々迷惑かけてきたし……。でも……。』

 

 とりあえずキースは、頭を振って2人に妥協案を示す。

 

「まあ、とりあえずお前たち2人には、俺の大佐昇進と時期を合わせて、下士官最上位階級の准尉になってもらう。しばらくはこれでお茶を濁すことにする。だが、そう遠くないうちに決断して欲しい。」

 

 そう言ってキースは、視線を訓練中のバトルメックたちに向け直した。アンドリュー曹長とエリーザ曹長は、未だに悩んでいる。大空を100tの最重量級気圏戦闘機であるスツーカ戦闘機が、50tのライトニング戦闘機……マイク少尉機に追われてフライパスして行った。




主人公キースが、お貴族様とか政府高官とか色々相手にして、疲れるというお話でした。
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