鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-081 忙しない新年』

 3028年1月1日、恒星連邦国王の宮殿であるロイヤル・パレスの大広間にて、キースはジョナスと共に、大勢の貴族、貴人、お偉いさんなどに挨拶回りをしていた。キースは年末パーティーに続いて、新年パーティーへの招待状も貰っていたのである。年末パーティーの時と同じく、これは事実上の出席命令であった。ちなみに招待状を貰ったのがキースだけで、他の『SOTS』メンバーは出席できないのも前回と同じである。

 

(やれやれ……。コネのある人物は、これで全員回ったかな。)

「疲れたかね?ハワード中佐。」

「はい。いいえ大丈夫です、伯爵閣下。」

 

 ジョナスへの返事とは裏腹に、キースはそこそこ精神的に疲労していた。ジョナスもそれは理解している。戦場での心理的な重圧と、パーティーの様な政治的なショーでの心理的圧迫とでは、やはり違う物だ。ジョナスは器用に両方に対応できているが、キースは単に慣れで誤魔化しているに過ぎない。キースの本領はやはり軍人であり、政治家は向いていないのだ。まあ、ある程度誤魔化せる程には慣れてはいるのだが。

 ここでジョナスが、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべてから直ににこやかな笑顔に戻し、キースに向かい言った。

 

「ハワード中佐、陛下はやはり貴官を気に入られた様だな。そろそろ時間も頃合いだ。陛下に新年の挨拶をする者達も一通り終わっただろう。それを見計らって、貴官を連れて来る様に言われているのだよ。」

「それは光栄ですな、伯爵閣下。まいりましょう。」

 

 ジョナスの本心は、疲れているキースを休ませてやりたいところだろう。一瞬申し訳なさそうな顔をした事で、それは知れている。だが国王陛下のお召しとあらば、そう言うわけにもいかない。キースは疲れた精神に鞭打って、ジョナスと共に歩き出した。まあ肉体的には充分な余裕があるので、まだまだ頑張れるだろう。

 その後キースはジョナスと一緒に、長々と国王陛下ハンス・ダヴィオンとの会話に付き合わされる事になる。それだけならばまだ良かったのだが、キースはハンス国王の瞳に、こちらの事を推し量ろうとする様な輝きがあるのを、その超絶的な勘で気付いていた。それ故に、キースの精神力はごりごりと音を立てて削られて行くのだった。

 

 

 

 キースとジャスティン少尉、それに手伝いに来たマテュー少尉、ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉はフォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、人事書類の山に埋もれていた。要は、ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉が手配してくれていた、メック戦士候補他の第二陣が、正月早々到着したのである。

 その第二陣の面々は、基本的には星系外からやって来た者達だ。年末年始を降下船の中で過ごしてでも、『SOTS』に加わりたいと言う熱意は、何やら凄まじい物を感じさせた。既に実際にそれらの人材との面談も終わり、彼らは無事に『SOTS』の一員となっている。

 だが、今回部隊に加わったのはそれだけでは無い。今現在、部隊の教育担当官はヴァーリア・グーテンベルク少尉1人だけだ。そうなると、学生たちが複数の降下船に分乗した場合など、彼らの授業に支障が出る。それ故に教育担当官を更に増員すべくキースやサイモン老の伝手をたどって探したところ、6名もの人材が応じてくれたのだ。ヴァーリア少尉は今後1階級昇進して中尉になり、その6名のリーダーとなる予定だ。

 更に惑星学者ミン・ハオサン博士にも助手を付ける事になった。民間大学にいた物の、学内の権力闘争、派閥抗争に嫌気がさして辞職してきた惑星学者が4名、ハオサン博士に惚れ込んでそのチームに入る事を希望してくれたのだ。キースはハオサン博士を少尉待遇から中尉待遇に格上げし、新たなチーム員たちを少尉待遇として迎える事にした。

 その他にも、武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹の補佐役も数名付ける事になった。整備兵や歩兵他の兵種を兼任している軍医たちも、腕は極めて良いが忙しくて大変なので、専任の医師チームを雇ってキャスリン軍曹の直下に付けてやった。パメラ軍曹以下のコンピュータ技師も色々忙しそうなので、専任のコンピュータ技師チームを雇用、パメラ軍曹の下に置いた。

 ちなみに教育担当官以下の人材は、12月の時点より色々伝手をたどって集めていた人材たちであった。それがいきなり集中して雇用が成立したため、部隊の中核士官、基幹将校たちの手も借りて、書類仕事に励んでいるのだ。

 

「しかし、あと2、3日後にはまたメック戦士候補たちの第三陣が到着するんでしょう?それでとりあえず最後とは言え、大忙しですなあ。」

「今を乗り切れば、色々楽になる。後で楽をするために、今忙しくなってる様なもんだ。」

 

 ヒューバート大尉に苦笑しつつ応えるキース。更に彼は続ける。

 

「それに俺たちよりも、エリオット大尉、テリー大尉待遇中尉、ヴィクトル少尉、ジェームズ少尉、アイラ軍曹、ベネデッタ伍長、フィリップ伍長、ソフィーヤ伍長らの方が大変かも知らん。エリオット大尉たち歩兵部隊指揮官は表側から、アイラ軍曹たち偵察兵は裏側から、色々新規部隊員の内偵監査をやってくれているからな。」

「幸いな事に、問題のある……スパイの疑いのある新人は、入ってきませんでしたね。ほっとしました。」

「アーリン大尉、まだ安心できるわけじゃありませんよ。さっきもヒューバート大尉が仰った様に、新人はまだまだ入って来るんですから。

 あと戦車兵と歩兵、それに臨時雇いじゃない、常時雇用の助整兵も数が足りないんです。今のところは臨時雇いの助整兵で数合わせしてますけどね。それらの雇用の際にも、新入りに毒が混じらないか調べてもらわないとなりません。」

 

 マテュー少尉の言葉に、ばつが悪そうな顔になるアーリン大尉。更にケネス大尉が溜息を吐く。

 

「ふう……。しかし戦車兵に歩兵、助整兵ですか……。予定よりも集まってませんね。この惑星を出て行こう、などと言う者はそうそう存在しませんでしょうからね。首都惑星ですし。」

「まあ、それでも徐々に集まってはいる。なんとか歩兵部隊も戦車部隊も助整兵も、定数の半分は行きそうだ。とりあえずそれでお茶を濁して、部隊を再編しよう。」

 

 そう言った後、新たな人事書類を手に取りつつ、キースは言葉を続ける。

 

「さっさと書類を片付けて、新入りのメック戦士たちや戦車兵たちに訓練を付けてやらねばならん。今はサラ中尉待遇少尉やジーン中尉ら、小隊長格の者達が見ててくれるが。」

「気圏戦闘機の航空兵たちは、マイク中尉たちが見ててくれてるんでしたね?」

「ああ、アーリン大尉。さすがジョナスの所のランドル大尉が選んでくれただけあって、皆有能だと報告が来ている。まあ、流石にそれでも古株には全然敵わんのだがな。」

 

 2枚の人事書類に、両手で別々に自分のサインを書き込みつつキースは言った。この特技のおかげでキースの書類処理速度は、他の人間よりも速い。彼らはもりもりと書類の山を片付けて行った。

 

 

 

 数日後、第三陣のメック戦士候補や航空兵候補、それに郎党の整備兵などを『SOTS』へ受け入れて部隊を再編したキースは、ついに大佐に昇進した。そして今夜はそのお披露目を兼ねた祝賀パーティーである。アヴァロン・シティー内のパーティー会場を貸し切りにして、この祝宴は開催されていた。

 まあ、何処かの惑星に恒星連邦派遣の部隊として駐屯しているわけではなし、今夜のパーティーは政治家とかもまず来ない、素直に飲み食いできる普通の宴会だった。もっともキースやサイモン老のコネがある貴族や高官などからの祝電披露はちゃんとあったりしたが。幸い国王からは祝電は来なかった。来たら怖い物がある。

 なお、この祝宴では『SOTS』部隊員たちは、正式な『SOTS』の軍服を着用していた。この軍服は、ようやく先日、自由執事ライナーと総務課長ケイト女史他総務課員たちが頑張ってデザインなども決め、今日この日に間に合ったのだ。まあ、色々発掘品を恒星連邦に売却したため、資金に余裕ができたのも軍服を揃えられた理由の1つではある。

 ちなみにこの祝宴には、ジョナスも無理矢理時間を空けて都合を付け、連隊副官ランドル大尉と共に出席していた。ジョナスがキースに向かい、祝福の言葉を述べる。

 

「大佐昇進、おめでとうキース。これでようやく対外的な肩書も、内実に追いついたかな。」

「ありがとうジョナス。しかしとうとう年貢の納め時か……。本音では、あんまり偉くなりたく無かったんだがなあ……。」

「ははは、それは無理だろう。第一、今まで混成傭兵大隊を名乗っていたけれど、実情は混成傭兵連隊と言ってもおかしくは無かったんだよ?正直、中佐では無理があったよ。」

 

 親友の言葉に、苦笑するキース。ここでジョナスがふっと笑う。

 

「ところでキース、そちらで君の事をちらちらと見ているお嬢さんがいらっしゃるけれど?」

「ああ。気付いてはいたんだが、話しかけて来なかったからなあ。まあ、大佐になった俺とジョナス……伯爵閣下が話をしているところに割り込んでこられるほど、面の皮が厚い者は……。けっこういるかもな、うちの部隊には。どれ、紹介でもしようかジョナス。」

 

 キースは彼を見ている少女に手招きする。その少女は一瞬どぎまぎするが、意を決して近寄って来た。出来上がったばかりの軍服に着られている感じが、何とも言えず愛らしく微笑ましい。彼女……イヴリン曹長はキースとジョナスに敬礼をする。キースとジョナスも答礼を返した。

 ちなみに彼女はこれまでの功績や技量の向上を評価され、キースの大佐昇進に合わせて曹長に昇進していた。これは彼女に限った話ではない。『SOTS』旧来の部隊員たちの、かなりの割合の者が今回昇進していた。

 

「ジョナス、これがうちの若手のホープ、イヴリン・イェーガー曹長だ。幼いながらも努力家で、将来を嘱望されている。俺の弟子とも言えるな。

 イヴリン曹長、こちらが『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長、惑星ウィロウイックはバレロン大陸の伯爵にして、スルバラン市の男爵と言う2つの爵位を持っている、ジョナス・バートン閣下だ。そして俺の親友でもある。

 挨拶を、イヴリン曹長。」

「はっ!メック戦士、イヴリン・イェーガー曹長です!お見知りおき下さい、閣下!」

「よろしく、イヴリン曹長。キースに何か話があるんだろう?僕にはかまわないから、言うと良い。」

「はっ!あ……。その……。」

「イヴリン曹長、お言葉に甘えろ。いや、この様な場合ならば、ご厚意を謝絶する方がご無礼に当たる。覚えておけ。」

 

 キースの言葉に、イヴリン曹長ははっきりした声で返答する。

 

「はい!了解です!キース大佐、昇進おめでとうございます!これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます!」

「うむ、イヴリン曹長。貴様も昇進おめでとう。最近は苦手な科目の勉強も、随分と改善が為されていると教育担当官から報告が上がっているぞ。軍事関係の座学も、なかなかだ。今後奢らずに努力を続ければ、士官任用試験に合格して少尉昇進も、そう遠くない未来の事だろう。」

「ありがとうございます!」

 

 微笑ましくキースとイヴリンの様子を見ていたジョナスだったが、ここでキースに声をかける。

 

「あー、僕は少し空腹になったな。いつもはパーティーと言うと、挨拶回りとかばかりで、あんまり食べられないからね。こう言う心置きなく飲み食いできるパーティーは珍しいんだよ。ちょっと行って、食べて来るよ。」

「あ?ああ、わかったジョナス。」

「じゃ、ごゆっくり。」

 

 ジョナスはイヴリン曹長に笑いかけると、色とりどりの料理が載っている長テーブルの方へ歩いて行った。キースと会話中少し離れていた副官ランドル大尉が、さりげなく立ち位置を変えてジョナスの後を追う。キースは小さく笑った。

 

「くくく、ジョナス……。イヴリン曹長に気を使ったかな?」

「は?」

「ああいや、なんでもない曹長。それより俺たちも、何か飲みにでも行くか?」

「あ、はい!」

 

 キースはソフトドリンク類のサーバーが並ぶドリンクバーの方に、イヴリン曹長を連れて歩いて行く。その間、彼はちょっとばかり考え事をしていた。

 

(今年の春先、と言うか2月末でイヴリン曹長も14歳か……。早いもんだな。俺の勘違いじゃなければ、好意を持たれてるッポイんだけど……。確たる自信は無い、よなあ……。それに俺の気持ちも、妹みたいなもん……なのかな?いや自分の気持ちほど分からん物は無いしなあ……。

 うん、とりあえず彼女の誕生日プレゼントだけは用意しとこう。今年のはレーザーピストルにでもするかねー。)

 

 はるか後方で、エリーザ曹長のチェシャ猫笑いとサイモン老の柔らかい笑顔が、温かく見守っていた。無論のこと、恋愛関係はともかくとして、そう言う方面の感覚は妙に鋭いキースは、見られている事に気付いてはいたのだが。

 

 

 

 ここは惑星軍から借りた演習場。第8中隊偵察小隊の小隊長、テリー・オルコット中尉待遇少尉の怒声が、キースの乗機であるS型バンシーの操縦席に、隊内回線を通じて響く。

 

『チャールズ伍長!貴様の機体はD型とは言え、フェニックスホークよ!フルにジャンプした直後に全力射撃なんか、やるんじゃないわ!熱量計をちゃんと見なさい!』

『も、もうしわけありません!以後注意いたします!』

「……うーん、単純な操縦技量は充分なんだが、今まで訓練で乗ったことがあるのがスティンガーだけだったらしいからな、チャールズ・アーロン伍長は。スティンガーはどこか壊れてない限り、熱が出ないからなあ。」

 

 キースは苦笑する。それと同時に彼は、新人たちについて、物思う。メック部隊も気圏戦闘機隊も、なんとか数だけは完全充足とは行かなくとも、そこそこに揃えられた。メック部隊は第9中隊が、気圏戦闘機隊はE中隊……エッジ中隊が、それぞれ幾分足りないだけである。しかし、新人のうちでも実戦経験の無い面々は、単純な技量はともかくとして、新たに貸与された機体の癖に戸惑ったり、戦闘における勘所を押さえていなかったりなど、行き届いていない部分が大きい。

 

(まあ、実戦を1回かそこら潜り抜けて生還すりゃ、どうとでもなるレベルなんだけどなー。でも、第4次継承権戦争まで7か月と半月無いからなー。それまでに何処かで実戦経験を積ませられるかなあ?)

 

 今度は第5中隊偵察小隊の小隊長、ジョーダン・アディントン中尉待遇少尉の怒鳴り声が聞こえる。どうやら彼の小隊員も、D型フェニックスホークでジャンプ直後全開射撃した様だ。

 

『こんのクソ馬鹿野郎ども!さっきのテリー小隊の様子見てなかったのか!?同じ失敗を、よりによって大佐の見てる前でやりやがって!実機演習終わったら、泣くまで腕立て伏せだからな!』

『『りょ、了解!!』』

「今度はヘイデン・ラッセルズ伍長にイザドラ・フルード伍長か……。書類では、彼らもワスプやスティンガーなど、加熱の心配の無い機体にしか乗った事なかったみたいだしなあ。」

 

 キースの小隊内回線でのぼやきに、マテュー大尉待遇中尉が慰めを言う。

 

『まあ、最初のうちだけですよ、きっと。それにもう機体に慣れて来ています。』

『さすがバートン閣下のところのランドル大尉が選別しただけの事ぁ有るわな。』

『あたしたちが初陣の時よりも、下手をすれば腕だけはいいんじゃないかしら?ま、腕だけで戦術とかは、あの時のあたしたちの方が上だけどね。』

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉も、一応程度に新人たちを褒める。キースは機体の上体を捻り、別方向を眺め遣った。

 

「……機甲部隊戦車大隊は、やはりまだまだ、か。」

『今までの熟練兵たちを各車に車長として配して、なるべく全体的な能力の維持を図ったんでしたか。』

『けどよ、射撃命中率や運転技術が今までの戦車隊からガタ落ちしてやがんな。』

『最低限、味方撃ちはやらない程度の能力が欲しいわね。ま、車長はベテランだから大丈夫かな。』

 

 徐にキースは、脳裏に戦車大隊の編成表を浮かべる。

 

(戦車大隊は第1中隊が完全充足、第2中隊が1個小隊弱の欠員はあるがほぼ充足、第3中隊が欠員だらけだが4輛が稼働、ディファイアント号に載せてる第4中隊も欠員だらけだが3輛が稼働、か。つまりは合計で2個中隊強、定数の半分ちょっとの戦力が整ってる。)

『隊長?』

「ああ、うむ。あとは歩兵の訓練についても、後でエリオット少佐に話を聞かねばならないな。」

『歩兵部隊はA大隊が欠員42名で充足と言うにはちょっと足りず、B大隊は欠員だらけ、そのかわりフォートレス級ディファイアント号所属の独立ジャンプ歩兵中隊は完全充足してるんでしたね。総勢では、1個大隊強と1個中隊、合計500名ちょっとですか。』

「ああ、その通りだ。先月……昨年末に危惧していたよりは、集まってくれたな。なにせあの時は、このままじゃいざと言う時に警備の歩兵が足りんと、『SOTS』上層部の面々が蒼白になってたからなあ。」

 

 そしてキースは、機体の顔を空に向けさせる。そこでは50tのライトニング戦闘機、75tのトランスグレッサー戦闘機と60tのスティングレイ戦闘機が、100tのスツーカ戦闘機、30tのスパローホーク戦闘機、25tのセイバー戦闘機を追い回していた。最重量級のスツーカ戦闘機は機動性が鈍いから追い回されるのも仕方ないが、軽量級のスパローホーク戦闘機とセイバー戦闘機は桁外れの機動性を持っている。それが数段機動力の劣るはずの先任の機体たちに、あっさり後ろを取られている。

 徐にキースは呟いた。

 

「マイク大尉、ヘルガ大尉、やってるなあ……。」

『あ。降下猟兵隊のフェニックスホークLAMよ。』

『あいつら、一応伍長に昇進したんだよな?訓練生は一応卒業って事で。』

「まだ仮免で、一応でしかないんだがな。」

 

 エリーザ准尉の言った通り、気圏戦闘機モードの50tフェニックスホークLAMが4機、大空での実機演習に参加した。LAM機とは、気圏戦闘機にも変形可能な、特殊な高機動バトルメックである。フェニックスホークLAMは変形機構を搭載している分、機体容積が圧迫されて、気圏戦闘機としては決して強力な機体ではない。されど単純に技量だけはそこそこの物になっている新任伍長たちは、新人航空兵たちの乗る気圏戦闘機を圧倒的でこそ無いものの、かなり有利に押しまくる。

 無論これにはタネがある。降下猟兵隊には今の所、暫定的な措置として隊長が置かれていない。それ故にこの演習に置いては、気圏戦闘機隊を預かっているマイク大尉が降下猟兵隊の指揮権を預かっているのだ。熟練の指揮官の指示により、4機のフェニックスホークLAMは演習空域を縦横に飛翔し、新人航空兵たちを追い詰めている。

 もしこれが、降下猟兵隊4機VS他の新人航空兵の機体4機と言った勝負であったとしよう。その場合、戦術能力と機体性能に劣る降下猟兵隊が、間違いなく敗北しているはずだ。マイク大尉の指揮があってこそ、降下猟兵隊のフェニックスホークLAMは有利に戦えているのだ。

 

「うん、命令に従って動くぐらいの事は、普通にできるようになってるな。」

『降下猟兵隊は重要だから、そのぐらいにはなってもらわないと困りますけどね。』

『LAM乗りの指揮官も欲しいわよね。』

『あいつらじゃあ、ちょっとばかし指揮官はまだ無理だろー。』

 

 キースの台詞に反応し、マテュー大尉待遇中尉、エリーザ准尉、アンドリュー准尉が口々に言葉を発する。キースは天空で行われている模擬演習から、地上へ視線を戻した。そこでは機体を貸与された新人メック戦士たちが、一刻も早く貸与されたバトルメックに慣れようと努力している。慎重にミスの無いように動いている者もいれば、あえて限界近い機動を試みて以前の癖を払拭しようとしている者もいた。だが一様に言える事は、皆が希望に燃えている事だ。

 

(さもありなん。メック戦士の道を諦めなければならないか、と思っていた所に降って湧いたチャンスだもんなあ。俺自身、父さんがグリフィンを持たせてくれてなければ……。ジョナスがグリフィンの相続に関して手を回してくれなければ……。下手すると失機者扱いだった可能性もあるもんな。気持ちは分かるよなー。

 あ、そうだ。今第5中隊の中隊長になってるグレーティア大尉待遇中尉、第4中隊指揮小隊のロタール少尉にカーリン少尉、気圏戦闘機隊B中隊隊長ビートル1のヘルガ大尉、ビートル2のアードリアン中尉の5人。『SOTS』最初期から居たメンバーほどじゃないけれど、入隊もヒューバートとほぼ一緒で、初期の方だしなー。ロタール少尉とカーリン少尉は更にそれより入隊早いしな。……メック戦士になったのは同じぐらいの頃合いだけど。)

 

 S型バンシーの操縦席で、キースは腕組みをする。

 

(彼らは勤めてくれた期間も長いし、功績も貢献度もたいした物だ。うん、そろそろ良いよな!)

 

 そしてキースは、ヒューバート少佐とアーリン少佐の機体に個人回線を繋いで話しかける。

 

「ヒューバート少佐、アーリン少佐。演習が終了したら、幹部会議を開きたいんだが。」

『了解です。議題は何ですか?』

『同じく了解。そろそろ新しい任務についてかしら?』

「あー、いや違う。グレーティア大尉待遇中尉、ロタール少尉、カーリン少尉、気圏戦闘機隊のヘルガ大尉、アードリアン中尉の事なんだ。今は部隊から、彼らに機体を貸与してるよな。それなんだが、今彼らが使ってる機体をそろそろ下賜しようかと考えてな。それの可否を幹部会議に掛けたいと思ったんだ。」

 

 ヒューバート少佐とアーリン少佐は、声を上げた。

 

『それはいいですね!奴ら、喜びますよ!』

『そうね!これまで充分に部隊に尽くしてくれたんですもの、いいご褒美になるわね!』

 

 更にヒューバート少佐は、その事の別な側面にも言及する。

 

『それに、誠心誠意部隊に尽くせば、かならず報われるって良い証明になります。この話が広まれば、機体を貸与されてる他の連中や、今回入って来た奴らの士気や忠誠心が高まりますよ。』

『なるほど、確かにそれは言えるわね。』

 

 そして演習終了後、ディファイアント号の部隊司令室にて『SOTS』幹部会議が開かれた。そこでの結果は全員一致で可決。翌日にはバトルメック部隊のグレーティア大尉待遇中尉、ロタール少尉、カーリン少尉、気圏戦闘機隊のヘルガ大尉、アードリアン中尉の計5名に、彼らが今現在使用している機体を下賜される事が通達された。彼らは非常に喜び、元失機者であったヘルガ大尉などは感動の余りに落涙したほどであった。

 なお、その話は彼ら付き整備兵などから、口コミで広がって行く。これを聞いた機体を貸与されている者達は、いつか自分も、とやる気を高くしたのだった。

 

 

 

 そして3028年1月9日の朝、つい一昨日に幹部会議が開かれたばかりであるのに、再度『SOTS』幹部会議が行われた。参加するのは大隊長以上のメック戦士、気圏戦闘機隊総隊長、機甲部隊戦車大隊の大隊長、偵察兵小隊の暫定小隊長、整備中隊中隊長、歩兵部隊総隊長、各降下船船長、オブザーバーとして自由執事と連隊長直卒小隊の副隊長、更に発言権は無いが連隊長および大隊長の補佐として連隊副官と各大隊副官である。

 連隊長であるキースが、今回の議題について発表を行う。

 

「皆、集まってくれてありがとう。今回会議を招集したのは、次の任務についてだ。率直に言って、急な話だ。バレロン伯爵ジョナス・バートン閣下を通して、恒星連邦の傭兵関係局が俺たち『SOTS』に、MRBを通さない直接依頼を持って来た。バレロン伯爵閣下を通して来たと言う事は、俺と閣下の友誼を計算に入れてあるんだろう。そうすれば俺がこの任務を受けると踏んだ、とかな。」

「やっかいな任務、ですか?」

 

 ヒューバート少佐が訊ねて来る。キースは頷いた。

 

「厄介で無い、とは言えんな。任務の種別は、救援任務だ。攻められたのは、ドラコ境界域の端の方にある、惑星シメロン。この惑星シメロンはそれほど重要な惑星ではない。ないんだが、他を攻める橋頭保として使えなくもない微妙な位置にある。そのため恒星連邦では、1個大隊の傭兵メック部隊『チェックメイト騎士団』をそこに駐屯させていた。」

「!!」

 

 キースの話を聞いて、自由執事のライナーが目を見開く。しかしライナーはオブザーバーであるため、特に発言はしなかった。実はライナーはかつて、傭兵大隊『BMCOS』の偵察兵をやっていた。そして味方の裏切りにより『BMCOS』が全滅した際に、彼はキースの父であるウォルト・ハワード大尉の遺命により、今話に出た『チェックメイト騎士団』へ逃げ込んで、傭兵大隊『アルヘナ光輝隊』の裏切りを通報したのである。ちなみにその逃亡劇の際に彼は左腕と右脚を失い、偵察兵を引退していた。

 

「その『チェックメイト騎士団』だが、隊員たちの疲労が激しく士気が落ちていた事もあり、休暇を兼ねてここの駐屯任務を受けたらしい。本当なら、本格的な休暇を取るならば安全な後方惑星へ行くものだが、是非にと頼まれて仕方なく受けた任務だったそうだ。敵が襲って来る危険性も低いと言う話だったそうだしな。

 しかし恒星連邦当局の予測は外れた。惑星シメロンは先ほども言った様に微妙な位置にある。獲ってもそれほど得をしない。獲られると損ではあるが。言ってみれば、鶏肋、かな。だから1個大隊も部隊を張り付けておけば、襲撃される事は無いと踏んでいたんだ。だが襲撃された。しかも敵は1個連隊規模だ。」

「大佐、報酬はどうなっていますか?」

 

 アーリン少佐の言葉に、キースは頷いて見せる。

 

「先ほども言った通り、基本の報酬は救援任務扱いだ。そして戦闘報酬は1個小隊あたり5万、戦闘の勝利につき1個小隊あたり10万、敵機の破壊ごとに敵機の価格の1/100のボーナス、敵機の鹵獲ごとに敵機の価格の1/10のボーナスだ。また戦闘で消耗した弾薬や装甲板は支給してもらえる。ただし事後清算だから、自前の物資を持っていく必要がある。それと契約期間中のメックや気圏戦闘機の維持費も面倒を見てもらえる。

 契約金や戦闘報酬、ボーナスなどは全額Cビル払い。DHビルじゃなしにCビルだ。要求があれば、報酬の一部をバトルメックや気圏戦闘機の部品などで引き渡しても構わないと言う話だ。それと契約期間中に申請さえ済ませれば、恒星連邦の備蓄部品などを定価で購入できる。

 それと敵が無法者であった場合の特別条項として、その場合は戦闘報酬が支払われない代わりに敵の機材……バトルメックや気圏戦闘機、降下船などだが、それらを『SOTS』で接収可能だ。」

「いつもより、条件がいいっすね。」

「いつもはDHビル払いで、報酬の一部を貴重な部品で払ってもいいなんて事は無かったですからね。」

 

 マイク大尉とエルンスト少尉待遇曹長が頷き合う。キースは話を続ける。

 

「バレロン伯爵閣下によれば、可能であればうちでこの任務、受けて欲しいそうだ。今現在、大至急動かせる部隊で連隊規模の部隊は多く無いから、と。だが嫌ならば無理は言わないとも言っていた。最悪、大隊規模の部隊を数部隊かき集めて送るなり方法はある、とな。

 ここで言っておきたい事がある。ニュースソースは開示できないんだが、1年以内、早ければ半年ちょっとぐらいで、大きな戦いが始まる可能性が高い。この事は、皆も他の隊員たちには黙っておくようにな。重ねて言うが、口外厳禁だ。そこで、だ。新たな隊員たちを迎えて実戦経験の無い者が多くなっている『SOTS』を、今のうちに実戦を経験させて鍛え直しておきたい。もしこの任務を受けなくとも、できる限り早急に何らかの、確実に戦闘が見込まれる任務を受けねばならない。」

 

 ここでサイモン老が声を上げた。

 

「隊長、受けてもいいんではないですかのう?たしかに条件が良すぎて、危険も想定されますがの。ですが、受けねば大恩あるバレロン伯爵閣下の顔を潰しかねないのでは?」

「整備中隊長に、自分も賛成ですな。」

「自分も同意いたします。」

 

 戦車大隊のイスマエル少佐待遇大尉、歩兵部隊総隊長エリオット少佐もサイモン老に賛成する。その他の者達も口々に賛意を表す。キースは言った。

 

「よし、決をとろう。この任務を受ける事に賛成の者は、挙手を。」

 

 その場にいる全員の腕が挙がった。

 

 

 

 キースは幹部会議の後すぐに、ジョナスへ依頼を受ける事を伝えた。そしてその日の午後、ジョナスはいつものランドル大尉ともう1人の士官を連れて、ディファイアント号を訪ねて来た。と言うか、そのもう1人の士官は旅支度であった。部隊司令室に通されたジョナスは、口を開く。

 

「今回の依頼、受けてくれてありがとうキース。ちょっと無視できない筋から話を通されてね……。もう少し訓練時間を取りたかっただろうに、申し訳ない。」

「気にしないでくれ、ジョナス。ところで、そちらの大尉を紹介してくれないか?」

 

 キースがその士官を大尉だと見たのは、単に襟に着けられている階級章を見ただけの話である。ジョナスはその大尉を紹介する。

 

「彼はリアム・オールドリッチ大尉。傭兵関係局から派遣された、連絡将校だよ。君たちの感覚で言えば、MRB任務管理人の恒星連邦政府版だと思えば、あんまり違いは無いかな。」

「はじめまして、キース・ハワード大佐。自分はリアム・オールドリッチ大尉です。お噂はかねがね。」

「貴官が「あの」リアム・オールドリッチ大尉かね!?」

「「どの」リアム・オールドリッチかは判りませんが、周囲にはリアム・オールドリッチは私しかおりませんな。ははは。」

 

 キースはリアム大尉について、サイモン老からコネを受け継ぐ挨拶回りの際に、コネの相手から噂話の形で聞いていた。彼は元情報士官であり、対カペラ大連邦国の諜報活動で大きな成果を上げた。しかしその活躍によって、彼の顔が広く知られる事になった。間諜としての生命が絶たれた彼は、軍事諜報局MIから傭兵関係局へ異動したのである。

 ジョナスはリアム大尉について、補足説明を加える。

 

「リアム大尉はメック戦士じゃないけれど、一応バトルメックの操縦能力は持っている。いざと言う時は使い倒してくれて構わないよ。」

「ははは。ご冗談を、バートン大佐。」

「いや、いざと言う時には当てにさせてもらおうかな。ははは。」

「ハワード大佐まで、ご冗談を。」

「「誰か冗談を言ったかな?」」

 

 キースとジョナスの言葉が被った。笑顔の引き攣ったリアム大尉に、キースは真面目な顔で言う。

 

「失礼。だが本当にいざと言う時は、予備メックにでも乗ってもらう可能性も排除しないでくれ。貴官が生き延びるためにもな。今回の任務に限らず、細心の注意を払って事に当たるべきだろう?」

「……了解です、ハワード大佐。」

「ファーストネームでかまわんよ、オールドリッチ大尉。」

「自分もリアムで構いません、キース大佐。」

 

 キースはリアム大尉と固い握手をした。ジョナスはそれを見て頷く。そして『SOTS』は大急ぎで出発準備を整えた。その日のうちにアヴァロン・シティーの宿を引き払い、深夜までかかって各自の荷物などを各降下船の船室へ運び込む。幸いにも物資の類はかなり大量に備蓄があり、無理な補給は必要ない。惑星シメロンの風土病などのワクチンも、その日の内に手配ができ、各降下船に運び込んだ。後は航宙中に、隊員に対して予防接種するだけである。降下船の推進剤などは、最初から満タンである。

 そして翌日3028年1月10日には、ジョナス他数名の見送りの元、混成傭兵連隊『SOTS』は惑星ニューアヴァロンを出立したのである。




主人公、ようやく大佐昇進です。そしてこれもようやく、新たな任務です。
新たな任務は、『SOTS』の母体とも言える『BMCOS』が付き合いのあった、『チェックメイト騎士団』の救援任務。気合いが入ります。
ですが今回は、数こそ多くなったものの、部隊のかなりの部分が新兵になってしまいました。一部は精強な兵が揃っているのですが……。はてさて。
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