鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-082 宿敵の残滓』

 シメロン星系の天の北極ゼニス点ジャンプポイントに、混成傭兵連隊『SOTS』の航宙艦5隻が、次々とジャンプアウトする。各航宙艦は、艦首をシメロン星系の恒星に向けると、直系1km前後ある巨大な傘の様な帆を展開し始めた。この「ジャンプ帆」で星系の主星から放射されるエネルギーを受け取り、連盟標準時での1週間前後の時間をかけて再度のジャンプのためのエネルギーをチャージするのである。

 本当であれば重要な星系か、あるいは運の良い星系には、星系の天の北極ゼニス点か天の南極ナディール点に、航宙艦にエネルギーをチャージするための補給ステーションが存在する。その様な場合航宙艦は、補給ステーションがあらかじめ溜め込んだエネルギーを譲り受ける事が可能であり、長くても1日前後の時間でエネルギーチャージが完了するのだ。

 かつての星間連盟期には、主要な星系にはかならず補給ステーションがあったと言うが、今現在のこの星系には補給ステーションは存在していない。おそらくは第1次か第2次の継承権戦争あたりで破壊されてしまったのだろう。そのため『SOTS』の航宙艦群は、こうやって自前のジャンプ帆を張ってエネルギーチャージを行っているのだ。

 その『SOTS』航宙艦群の1隻、マーチャント級クレメント号のブリッジで、『SOTS』連隊長のキースはこの艦の主、アーダルベルト・ディックハウト艦長に出発の挨拶をしていた。

 

「では艦長、我々はこれより惑星シメロンに降下開始する。」

「うむ、気を付けてな。……しかし、ここゼニス点のジャンプポイントに『チェックメイト騎士団』の航宙艦も、敵ドラコ連合の航宙艦もおらんとなると、おそらくは両方とも主星を挟んで反対側のナディール点ジャンプポイントに居るんだろうな。」

「たぶん、な。だがそうなると、向こうの居心地の悪さは想像し難い程だな。ジャンプポイント付近での戦闘は御法度だとは言え、敵味方が近場の宇宙空間に浮いてるんだ。」

 

 キースがそう言うと、アーダルベルト艦長も嫌そうな顔になる。

 

「船舶コードを偽造したりジャミングで姿を隠したりしても、限界はあるからな。いつまでもジャンプポイントに浮いてれば正体は知れる。私にも経験があるよ、攻める側になった事も、護る側になった事も。だからジャンプポイントで敵の航宙艦と鉢合わせになった事も1度や2度じゃないな。

 航宙艦への攻撃は条約違反だが、条約を守る相手ばかりとは限らない。それに航宙艦を直接攻撃せずに、接舷して乗り込んで乗組員を殺して艦を奪うって手もあるしな。屁理屈に近いが、これなら「航宙艦」を攻撃した事にはならんと強弁できる。

 正直な話、敵艦とジャンプポイントで出くわすのは、可能なら避けたいね。心臓に悪い。」

 

 第1次や第2次の初期の継承権戦争では、数多くの貴重な航宙艦が失われた。航宙艦を全て喪失してしまえば、星々の間の交易は止まり、文明は退行する一方になるだろう。その状況に危機感を持った各継承王家は、条約で航宙艦への攻撃を厳禁した。更にジャンプポイント近傍で戦闘行為を行えば、航宙艦への被害が出るのを止められない事から、ジャンプポイントの近場では戦闘は御法度になっている。

 だがアーダルベルト艦長が言った通りに抜け道は無くも無いし、そもそも相手が条約を守らなかったら意味は無い。

 

「……いや、降下の前に妙に時間を取らせてしまったね。では……。無事のお帰りをお待ち申し上げております、隊長。」

「うむ。必ずや隊員たちを無事に連れて、ここジャンプポイントに戻って来るよ。では行って来る。」

 

 敬礼と答礼を交わし、キースは踵を返すとフォートレス級降下船ディファイアント号へ向かって早足で急いだ。

 

 

 

 5日間の航宙の末、『SOTS』降下船群は惑星シメロンの軌道上までやって来た。キース達は、てっきり敵の気圏戦闘機による航空戦力が迎撃に上がって来る物と思っていたのだが、何も軌道上には現れる気配も無い。キースが座るS型バンシーの操縦席では、通信用の小スクリーンの中で、マテュー大尉待遇中尉が怪訝な顔で呟いていた。

 

『……もしかして『チェックメイト騎士団』が頑張ってくれていて、それで気圏戦闘機をCAP(戦闘空中哨戒)に出す余裕が無いんでしょうか?』

「むう……。だが事前情報では、『チェックメイト騎士団』はウォリック城に、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下および惑星軍と共に籠城しているとの事だ。その状態で、敵の妨害をできるとは思えないな。そして『チェックメイト騎士団』が諦めず籠城していると言う事から、敵の目にも増援の可能性がはっきりしているはずだ。現にこうして俺たちが来ている。

 となると……。俺が敵指揮官の立場だったら、2つの選択肢があるな。1つは気圏戦闘機隊をCAPに回して、敵増援つまり俺たちが降下する前に軌道上で叩き、残りの戦力でウォリック城を攻略する。もう1つは全戦力をウォリック城攻略に回し、俺たちが到着する前にウォリック城を陥とす。」

 

 キースはそう言うと、通信回線をブリッジに繋いだ。

 

「……こちら部隊司令、キースだ。地上の望遠観測結果は出たか?」

『こちら副長のガイです。今ご連絡しようとしていた所ですよ。幸いなことに晴れていたため、鮮明な絵が撮れました。ウォリック城はバトルメック連隊の包囲下に置かれています。敵は気圏戦闘機を対ウォリック城の爆撃に使用しておりますな。ウォリック城からそう遠くない惑星軍の海軍基地、こちらが降下ポイントの候補に一応入れていたF地点ですが……。それが占拠され、気圏戦闘機の拠点として使われている様です。

 敵降下船群は、今現在は惑星首都とウォリック城の中間にある平野……。こちらが降下するポイントの候補として考えていたC地点に、9隻のユニオン級が降りています。敵降下船に動きはありません。』

「そうか、ありがとうガイ副長。……敵は全戦力をもって城攻めする方を選んだか。俺たちの惑星到着は、ほんとぎりぎりだったかもな。いや、ここで選択を誤ると逆に、ぎりぎりで間に合わなかったって事になるかも知れんな。」

 

 キースは少々考え込む。当初は敵の隙をついて、ウォリック城の近傍の適切な地点――実際に降下する可能性が高い方から、A地点、B地点、C地点と言う様に符合を振っていた――に降下殻を被ったバトルメックで強襲降下し、味方降下船の降りる場所を確保するつもりであった。

 無論、強襲降下するのはそれが可能な力量を持った者達だけである。具体的にはキース直卒のA大隊第1中隊、ヒューバート少佐率いるB大隊第4中隊、アーリン少佐直属であるC中隊第7中隊の3個中隊だ。これらの中隊は、可能な限り混成大隊時代の『SOTS』部隊員を集めて編成されており、また若干の割合で含まれる新入りたちも実戦経験有りの腕の良い者を選抜している。よって強襲降下作戦に不安は無い。

 

(だけどそれじゃあ間に合わないかも知れないよな……。敵は気圏戦闘機まで含めた戦力を、ウォリック城攻略に回してるし。だからと言ってさ、1個連隊が包囲している場所に強引に強襲降下したところで、降下できるのは3個中隊に加えて降下猟兵隊4機だけじゃんか。いくら何でも3倍の戦力のところに突っ込んでくのは、それが『SOTS』内で精鋭部隊だって言っても無理無茶通り越して無謀と言う物だし。

 だからって、当初の予定通りA地点でもB地点でも確保した地点に味方降下船を降ろして、そこから全戦力をゆっくり出撃、進軍させていたりしたら、気圏戦闘機の爆撃でウォリック城が更地にされかねないよ。……気圏戦闘機の動きを封じる事ができれば、ウォリック城もあと少しだけでも保ってくれるかなあ?くっそ、ウォリック城の今の様子が分かりゃあなあ。)

 

 しばし顔を伏せて考えに耽っていたキースだったが、やがて決心して顔を上げる。キースは全部隊、全降下船に回線を繋ぐと、決然として言った。

 

「こちら部隊司令のキースだ。これよりA大隊第1中隊、B大隊第4中隊、C大隊第7中隊の3個中隊および降下猟兵隊の4機のフェニックスホークLAMを用い、強襲降下作戦を行う。目標はF地点、シメロン惑星軍第2海軍基地だ。気圏戦闘機隊は同時に全機発進して、強襲降下部隊の支援を行ってもらう。

 またレパード級ヴァリアント号、ゴダード号、スペードフィッシュ号の3隻は、高機動性を活かし他の降下船に先んじて海軍基地近傍へ降下。それらに搭載されているジーン大尉の第3中隊は、強襲降下を行った部隊の後詰として海軍基地の占拠に加わってもらう。

 あえてF地点の海軍基地を狙う理由だが、そこが敵気圏戦闘機隊の拠点として用いられているからだ。そこを強襲降下作戦で叩き、敵気圏戦闘機の行動を掣肘する。そうしないと敵気圏戦闘機の爆撃で、救援すべき友軍のいるウォリック城が早期に陥落しかねない。」

 

 ここで一旦、キースは言葉を切る。そして部隊の全員が彼の言葉を飲み込んだ頃合いに、再度話し出す。

 

「敵の狙いはおそらく……いや間違いなく、ウォリック城に逃げ込んでいる惑星公爵閣下の身柄もしくは首だろう。もしくは公爵閣下が『チェックメイト騎士団』と共に惑星を脱出してしまえば、それでも敵の勝利条件は満たされる。それを許せば、敵は勝利宣言をしかねない。その場合、我々は「悪いメックの後に良いメックを投入する」事を避ける意味でも、同じく撤退せねばなるまい。そしてこの惑星は、ドラコ連合の手に落ちる。

 その様な事態を避けるためにも、海軍基地に存在する気圏戦闘機を叩いた後は、全軍で速やかにウォリック城に進軍を開始する。最低限の弾薬補充は行うが、機体修理はしている時間が無いと思ってくれ。場合によっては、損傷の大きい機体は降下船と共に占拠した海軍基地へ残して行かねばならないだろう。その場合、損傷機の乗り手には一時的に予備メック、予備気圏戦闘機を貸与する。

 何か意見、質問は?」

『偵察兵小隊の暫定小隊長、エルンスト・デルブリュック少尉待遇曹長です。自分たち偵察兵は、降下直後メックや気圏戦闘機が弾薬補充などをやっている間に、先に進発した方が良いかと。』

「む。その通りだな。せっかく全員分のスキマーを揃えたんだ。軽量級気圏戦闘機で高高度偵察も行うつもりだが、貴様たちは本隊に先駆けてウォリック城および敵降下船群着陸地点へ向かえ。そして城を包囲している敵と、敵の降下船について、地上からの精密な偵察をしてくれ。偵察兵小隊の誰々をどちらに向かわせるかは、任せる。」

『了解です。』

 

 キースはその後、意見や質問が無いのを確認すると、命令を下す。

 

「各船船長に副長、準備ができ次第、第1、第4、第7中隊及び降下猟兵隊の強襲降下開始だ。速やかに降下猟兵隊のフェニックスホークLAM4機と、降下支援の気圏戦闘機隊稼働全機を発進させてくれ。

 気圏戦闘機隊総隊長マイク大尉、降下猟兵隊の降下完了までは、そいつらの指揮を貴官に任せる。しっかり面倒を見てやってくれ。降下完了後は、降下猟兵隊の指揮をこちらで引き受ける。それと、降下中の俺たちの命は貴官らにかかっている。頼むぞ。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 ユニオン級エンデバー号から、4機のフェニックスホークLAMが気圏戦闘機モードに変形して出撃する。更に気圏戦闘機の稼働機を載せている各降下船から、気圏戦闘機隊が次々に発進。そして若干の待ち時間の後、ディファイアント号のブリッジより、マンフレート船長、ガイ副長の声が通信回線を通して聞こえてきた。

 

『副長!バトルメック部隊A大隊第1中隊の射出急げ!目標はF地点、惑星軍第2海軍基地だ!』

『了解!カウントダウン開始します!ご武運を、部隊司令!……60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 そしてキース達の搭乗したバトルメックは、降下殻に包まれた姿で大気圏上層部に射出された。

 

 

 

「60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、降下殻パージ!」

 

 キースの駆る95tバトルメック、S型バンシーは降下殻を分離し、降下用の制動ジェットを噴かして遥か下の大地へと降りて行く。彼が降下しながら周囲を確認すると、同じように機体の各所に制動ジェットを装備した『SOTS』のバトルメックが何機も確認できた。彼らは一様に見事な腕前を見せ、下に小さく見える海軍基地へと降下して行った。

 目標となった海軍基地には砲台が存在している。だが敵にとっては残念なことに、それは既に動いていない。と言うか、おそらく砲台を壊したのは侵略者であるドラコ連合の軍勢であるはずだ。自業自得と言えば言える。

 海軍基地の滑走路脇には、6機の65tシロネ戦闘機が露天駐機されている。そして今その滑走路に着陸しかけた1機の80tスレイヤー戦闘機が、エンジンパワーを戻して再度大空へ舞い上がった。海軍基地の周囲に空中待機していた他のスレイヤー戦闘機や35tのショラガー戦闘機が、降下してくるキース達のメックを攻撃しようと寄り集まって来る。

 そこへ味方の気圏戦闘機隊が割って入った。マイク大尉の喜声が通信回線から響いて来る。

 

『ひゃっほおおおぉぉぉ!!入れ食い状態っす!!気圏戦闘機隊、全機ブレイク!各個に敵を狩るっすよ!けどダート中隊とエッジ中隊は軽量だから、スレイヤー戦闘機は荷が重いっす!両中隊は同じく軽量の、ショラガー戦闘機を相手にするっすよ!

 降下猟兵隊はエアメック状態で着陸!その後は隊長……キース大佐の指揮下に戻るっす!』

 

 キースは滑走路からさほど離れていない場所に、士官学校の教本にでも載せたいぐらいの、良い意味で教科書通りの着陸を見せた。彼は隊内通信回線を開き、叫ぶ。

 

「オストスカウト以外の全機、対空射撃!味方の気圏戦闘機を援護しろ!オストスカウトは無理に攻撃に参加するな!ノア少尉、貴官のオストスカウトはセンサー情報を味方に送る事と自機を生き残らせる事に専念しろ!」

『こちらノア少尉、了解!』

 

 そしてキースはノア少尉からの返事を聞くと、降下した全員の無事を確認する。

 

「対空攻撃と同時に、各小隊点呼!その後直属の上官に結果を報告せよ!マテュー大尉待遇中尉!アンドリュー准尉!エリーザ准尉!」

『こちらマテュー大尉待遇中尉、降下完了。今、壮絶に撃ちまくってます。』

『こちらアンドリュー准尉、こっちも撃ちまくってるぜ!ショラガー戦闘機、1機撃破!』

『こちらエリーザ准尉、あたしも無事。おっと、ミケーレ中尉機のライトニング戦闘機に、狙ってたスレイヤー戦闘機、取られちゃった。』

 

 少し時間を置いて、今度は各小隊長から報告が入る。

 

『火力小隊、サラ中尉待遇少尉。『機兵狩人小隊』、全員無事。現在対空攻撃中です。』

『偵察小隊、ルートヴィヒ中尉!偵察小隊は完全な状態にあります!』

 

 そしてヒューバート少佐、アーリン少佐からも報告が来る。

 

『こちらヒューバート少佐。第4中隊、全機異常なし!順調に対空射撃中!』

『こちらアーリン少佐です!第7中隊は全員無事に降下しました!全機対空攻撃中!特に火力小隊……対空小隊が、流石にライフルマンだけを集めた小隊だけあって、圧倒的な戦果です!』

 

 更に降下猟兵隊からも報告が来た。

 

『こちら今週の降下猟兵隊暫定指揮官、ジャクリーン伍長です!ただ今より、大佐の指揮下に入ります!』

 

 キースが見遣ると今ちょうど、エア・メック形態と言うバトルメックと気圏戦闘機の中間形態に変形した、50tフェニックスホークLAM4機が降りて来た。キースは彼女らに命じる。

 

「ジャクリーン伍長、貴様ら降下猟兵隊のLAMは、バトルメック形態に変形してこの基地の管制塔のある本部棟を包囲しろ。対空射撃にはとりあえず参加しなくてよろしい。それよりも、基地の人員に対して降伏勧告を行うんだ。」

『了解!』

 

 ちなみにキースはそのやりとりをしている間にも、味方の気圏戦闘機に低空に追い込まれてきた、1機のショラガー戦闘機を撃ち落としている。味方側にとって圧倒的に有利な状況であった。おまけと言ってはなんだが、ここで更に駄目押しが来た。

 

『こちらレパード級ヴァリアント号、船長のカイルだ。ゴダード号、スペードフィッシュ号共々、お客さんを連れて来たよ、隊長。』

『キース大佐!ジーン・ファーニバル大尉以下、A大隊第3中隊ただ今到着しました!』

 

 海軍基地の外には草原が広がっているが、そこに3隻のレパード級が強引に着陸をかました。そして各船のメックベイ扉が開き、第3中隊のバトルメックが次々に飛び出して来て戦列に加わる。この時までに、スレイヤー戦闘機が4機、ショラガー戦闘機が5機撃ち落とされていた。

 ちなみにライフルマンを集めて結成した第7中隊火力小隊……対空小隊は、今回大活躍をしており、スレイヤー戦闘機を1機、ショラガー戦闘機を3機墜としている。まあ味方の気圏戦闘機隊が、自分たちで撃墜するよりも低空に相手を追い落とし、メック部隊と連携を取る戦術を採ったためであるが。

 と、ここで敵の残ったスレイヤー戦闘機2機とショラガー戦闘機1機が、次々に機動力がガタ落ちになる。どうやら推進剤が切れたようだ。こうなると、機体外から大気を取り込んで推進剤代わりに使う低速巡航飛行以外は不可能だ。空戦機動など論外である。故に残りの敵3機は信号弾を打ち上げて、降伏の意を表した。

 

「……この戦力差で逃げなかったのは、推進剤が足りなくて逃げ切れない、と思ったための様だな。少なくとも今飛んでいた12機はウォリック城攻撃から帰還したばかりで、補給のために戻って来たところだったんだろう。

 降伏を受諾する!滑走路に順に降りて、機体から離れろ!」

 

 一般回線に切り替えて、キースは叫ぶ。そして今度は隊内の回線に切り替え直すと、先ほど到着した第3中隊へ通信を送る。

 

「ジーン大尉、基地の本部棟は今降下猟兵隊が包囲して降伏勧告を行っているが、貴官の中隊は小隊単位にわかれて海軍基地の目ぼしい施設をそれぞれ包囲してくれ。残敵がいたら降伏勧告を。」

『了解です。』

「俺たちは撃墜したり降伏させた敵機から捕虜を取る。頼んだぞ。」

 

 やがて天の彼方から、球形や長球形、そして航空機型の影が見えて来た。『SOTS』の残りの降下船群である。キースはそれらの船を着陸させるべく、全降下船に回線を繋いだ。

 

 

 

 敵の航空兵は、地上施設にいたシロネ戦闘機の操縦士も含めて全員が生きていた。そして地上施設の運用を行っていた若干名の整備兵と助整兵が加えて捕虜となった。

 キース達は味方各機に弾薬と推進剤の補充をする時間の間に、捕虜に対する若干の尋問を試みる。尋問官であるエルンスト少尉待遇曹長が、一足先に偵察兵小隊を率いてウォリック城及び敵降下船群の偵察に行ってしまったので、実際の尋問はパメラ曹長によって行われた。

 そして今、キースはフォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、尋問結果をパメラ曹長より聞かされていた。

 

「……ほう?敵の正体が判明したか。」

「はい。敵は『第4アン・ティン軍団』のD大隊を母体にして拡張、編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』です。」

「……奴らか。何か奴らと『SOTS』とは腐れ縁でもあるのか?」

 

 キースは元の仇敵が中心になって設立された『第13アン・ティン軍団』に、複雑な思いを抱く。まあもっともその怨敵は、キース達自身の手で地獄へ送っているのだが。逆に相手からすれば、『SOTS』に対してそれこそ複雑な思いを持っているやも知れない。

 

「それで他に判った事は?」

「奴らの目的も、判明しました。いえ、この惑星を獲る事も最大の目的なんですが……。わざわざ1個大隊で護っていたこの惑星に、1個連隊なんて規模のものを持って攻めて来たのは、訓練の総仕上げだそうです。」

「は?」

「ですから訓練です。『第13アン・ティン軍団』は出来上がったばかりで、訓練途上です。一部のメック戦士こそは熟練ですが、その半数以上、多く見積もれば6~7割が実戦経験の無い者で占められているんです。だから1個大隊規模の敵のいるこの惑星に、タカシ・クリタの鶴の一声で送り込まれて来た模様です。実戦経験と、勝利の味を教えるために。」

 

 唖然としたキースが立ち直る前に、パメラ曹長の報告は次の情報に移っていた。

 

「奴らの司令官は、ウォリック城に籠城している友軍『チェックメイト騎士団』に、援軍が来る可能性は極めて高いと判断していた模様です。それで気圏戦闘機隊まで戦力を注ぎ込んで、一気呵成に陥落させようとしていたらしいですが。ですが実際に爆撃を行えたのは、1回程度だそうです。補給して再出撃しようとする直前に、我々が天から降って来ましたから。」

「……奴らは、俺たちの到着に気付いていなかった模様だが?」

「はい。惑星軍の対宙監視大型レーダーを接収して使おうとしたのですが、惑星軍が基地を放棄してウォリック城に逃げ込んだ際に、重要部品を幾つか抜いていったらしく、動かなかったとの事です。奴らの技術者では復旧させられなかったらしいですね。

 ですが我々がここに降下してきた際に、援軍が到着した事は無線通信で、敵の部隊司令部に送信済みだとの事です。」

 

 腕組みをして、キースは考え込む。影の様に付き従っていたジャスティン大尉待遇中尉が、そっとコーヒーのお代わりをマグカップに注いでくれる。キースはそれを1口啜ると、卓上の内線電話機に手を伸ばし、サイモン老のいるメックベイに内線を繋いだ。数回のコール音の後、相手が電話口に出る。

 

「こちら部隊司令室、部隊司令キースだ。サイモン大尉は今、手が空いてるか?」

『こちらキャスリン曹長です。サイモン整備中隊長は、今ちょっと手が離せません。私でよければ代理で聞きますが。』

「そうか。気圏戦闘機隊の弾薬と推進剤の補充はどうなっているか分かるか?それと対空小隊のライフルマン始め、弾薬を使った機体の弾薬補充の進行具合についても聞きたい。後は重大な損傷を受けた機体は無かったはずだが、問題を抱えた機体はあるか?」

『気圏戦闘機隊、特に軽量級D、E中隊は最優先だと言う事でしたので、完了していると報告を受けています。弾薬補充は今最後の機体をやってる最中ですので、あと10分もあれば終わります。若干の損傷を受けた機体はありますが、幸いな事に重装甲の機体でしたので戦闘参加は可能です。』

「良く分かった。感謝する、サイモン大尉にはよろしく言っていてくれ。では。」

 

 キースは頷いて、内線電話を切る。そしてパメラ曹長に退出の許可を出した。

 

「ご苦労だった、パメラ曹長。退出して通常の業務に戻る様に。」

「はいっ!失礼します!」

 

 続けてキースは、ジャスティン大尉待遇中尉へ声をかける。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉!俺の命令を、気圏戦闘機隊に通達してくれ。気圏戦闘機ダート中隊のスパローホーク戦闘機は、敵降下船群の着陸場所を、気圏戦闘機エッジ中隊のセイバー戦闘機は、ウォリック城を包囲している『第13アン・ティン軍団』を、それぞれ高高度より低速巡航で偵察、監視する様に、と。偵察、監視は2機編隊1個小隊で行い、一定時間ごとに同一中隊の別の小隊と交代させろ。無理をして疲労を残さない様に注意する旨、伝えてくれ。」

「了解!」

「それとこの惑星の地図をもう一度出してくれ。」

 

 キースはジャスティン大尉待遇中尉が、内線電話でキースの命令を通達している間、広げた地図で進軍路の検討をしていた。だが最速で行くのならば、選択肢はあまり無い。

 

(道は大きく分けて2つかあ……。一直線だけども難所を通り抜けるルートと、平坦だけど多少回り道になるルート。……時間が惜しいよなー。一直線のルートで行くとしようか。)

 

 進軍するルートを決断したキースは、再度ジャスティン大尉待遇中尉に命令した。

 

「整備中隊から弾薬補給完了の報告が来たら、即座にメック部隊出撃だ。ジャスティン大尉待遇中尉、貴官も指揮車輛で同行してもらうぞ。ここの海軍基地に置いて行く降下船群との通信を維持してもらわなければならない。他にも、ウォリック城近辺にはこちらの偵察兵がいるはずだ。それとの連絡役も頼む。」

「はっ!お任せ下さい。」

「捕虜の監視のため残して行く若干の歩兵の他は、降下船を除く全力出撃で行く。砲兵隊も連れて行く。スナイパー砲車輌には間接砲撃手ボールドウィン軍曹以下数名、機動ロングトム砲には間接砲撃手サイモン大尉以下十数名。気圏戦闘機は基本ここの海軍基地で待機してもらい、こちらからの出撃要請で来てもらう事にする。

 では各員への通達は任せた。」

「了解!」

 

 元気よく応えるジャスティン大尉待遇中尉に、キースは力強く頷いて見せた。

 

 

 

 出撃間際に、連盟標準時における日付が変わった。今は3028年2月1日の午前0時。現地時間ではまだ真昼間なのだが。キースはTシャツとトランクスの上に拳銃のホルスターと、そしてイヴリン曹長より前の誕生日の時に貰った高速振動剣を装備したその上に、ガウンを纏ってディファイアント号のメックベイに居た。出撃準備は万端整っている。そこへ恒星連邦傭兵関係局の連絡士官、リアム・オールドリッチ大尉がやって来た。

 

「キース大佐、間に合いそうですかね?」

「正直なところ、分からないな。敵の気圏戦闘機隊を叩き潰す事ができなければ、今頃はウォリック城が陥ちていたのではないかと思われるがな。

 偵察兵達が、持って行った機材で組み立てた、高指向性の据え置き型無線機で連絡して来た。ウォリック城はズタボロになっているらしい。気圏戦闘機E中隊のセイバー戦闘機からの高高度偵察でも、それは裏付けられている。敵『第13アン・ティン軍団』は、焦った様に自軍の損害も厭わぬ猛攻を城に対しかけている。我々の存在が、危機感を与えたのかも知れん。」

「まずいですな……。いや、気圏戦闘機隊を潰しておかねば城が危険だったのですから……。」

 

 徐にキースは、懐から1枚の紙きれを取り出す。そして彼はそれをリアム大尉に渡した。

 

「これは?」

「万が一に敵がこちらへ来た場合の備えだよ。空からの監視網もしっかりしてるし、まず来ないとは思うのだがね。予備機になってる20tスティンガー1番機と、45tヴィンディケイター1番機の神経ヘルメットの暗号だ。

 敵が歩兵部隊を送り込んで来た場合には、対人戦闘能力に優れるスティンガーで、敵が戦車やメックなどを繰り出して来た場合にはヴィンディケイターを使って、リアム大尉自らと海軍基地、降下船群を守って欲しい。」

「……了解です。」

 

 リアム大尉は暗号を書きつけたメモを何度か繰り返して読むと、ポケットから取り出したライターでそれを燃やす。更に灰を粉々になるまで握り締めて砕くと、彼はキースに向かい言った。

 

「ご無事でのお帰りと、任務を果たされんことを願います。」

「ありがとうリアム大尉。では行ってくる。」

 

 踵を返し、メックの操縦席までタラップを登りつつ、キースは考える。

 

(強行軍で行くしかないなあ。難所は渓谷を通り抜ける狭い道だけども、メックや車輛が通れないわけじゃない。何よりも時間が大事だし。休憩は最小限にして、飯も操縦席内で、カロリーバーかなんかで済ますしか無いかあ……。操縦席の機械類に、カロリーバーの欠片とかこぼさない様に皆に言っておかないとなあ。

 ああ、あと眠気覚ましのカフェイン錠剤のストックが、医療チームの薬物備蓄にあったはずだ。野営してる時間がないから、1回程度取る休憩の時に、同行する全部隊員に支給しとかないとなあ。MASH2台にも付いてきてもらうから、全員分のカフェイン錠剤を運ぶのは大丈夫だな。眠らずに行軍するのは、士官学校での訓練以来だよなー。)

 

 ウォリック城までの所要時間は、おそらく丸1日前後。上手く行けば本日中に、遅くとも明日2月2日には到着できるはずだ。『チェックメイト騎士団』と惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下を救うには、できる限り急ぐ必要があった。




お久しぶりです。ちょっと精神的に変なヤバさげな状態に陥って、更新ストップしてました。なんとか立ち直ってきましたので、更新を再開したいと思います。
さて、『SOTS』も、主人公が大佐になってからの初仕事ですね。ただちょっとばかり、技量が貧弱な者も多数いるので……。ちょっとばかり、ちょおっとばかり……大変かも知れませんねえ。
で、任務は惑星公爵を護る、というか護っている味方ごと惑星公爵を救出せねばならない事。でもってその味方は恩義のある『チェックメイト騎士団』で、敵は因縁のある『第13アン・ティン軍団』。色々ごちゃごちゃしてますねー。
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