夜闇が迫る中、キースは薄暗い操縦席でカロリーバーをかじって空きっ腹を満たし、水筒の水で喉を潤していた。ついでに先ほど、拠点にしている惑星軍第2海軍基地とウォリック城の中間地点でトイレ休憩を取った際に、彼も含めて全部隊員に支給された、眠気覚ましのカフェイン錠剤を呑む。その間も彼のバトルメック、95tS型バンシーは足を止めない。
今、キース率いる混成傭兵連隊『SOTS』は、降下船を除いたそのほぼ全戦力をもって、この惑星シメロンの防衛拠点の1つ、ウォリック城へと進軍していた。ウォリック城では友軍である恒星連邦の駐屯軍、傭兵メック大隊『チェックメイト騎士団』が現在絶望的な状況下で籠城しており、そこには惑星公爵ドウェイン・ベックリー及び惑星軍の残存戦力の全てが逃げ込んでいた。
そのウォリック城を攻めているのが、敵性国家ドラコ連合の正規軍、最近編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』だ。『チェックメイト騎士団』1個大隊が護っていたこの惑星を攻略するために、ドラコ連合は必勝を期して1個連隊の部隊を送り込んだのだ。だがドラコ連合の……正確にはその大統領タカシ・クリタの目的は、編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』の訓練にあった。この惑星がいらないと言うわけでは無いが、ほぼ確実に勝てる相手を叩き潰す事で、この連隊に実戦経験を与え勝利の味を教える方が、重要な目的であったのだ。
味気ない夕食を終えたキースは、機体の上半身を旋回させて進軍する自らの部隊を確認する。と、S型バンシーの操縦席の主スクリーンに機動ロングトム砲の姿が映った。機動ロングトム砲は、バトルメックの行進速度について行くために、通常の50%増しの速度で突っ走っていた。まあそうは言っても元々の速度が極めて遅いので、たいした速度では無かったが。その様子を見て、キースは機動ロングトム砲のハンドルを握っているのがサイモン老である事に気付く。
(あー、サイモン爺さん……。若い者からハンドル奪ったな?)
サイモン老は、超人的技術者であり熟練の砲兵でもあるが、もう1つの顔も持っている。それは彼がスピード狂であり、練達のドライバーであると言う事実だ。彼の腕前であれば、プロのドライバーに混じってスピーダーのレースに出ても、けっこう良い所まで行くほどである。キースは機動ロングトム砲の運転席の様子を脳裏に描き、苦笑する。その想像の中でサイモン老は、引き攣った顔の若手を尻目に安全速度をブッチ切って車輛をブン回していた。
(ま、サイモン爺さんなら車体を壊しゃしないだろ。それに普通の巡行速度で行かれたら、機動ロングトム砲が射撃位置に着く頃にはウォリック城が陥ちてるしなあ。)
その後彼らは、ウォーハンマーやライフルマン等、一部のメックに搭載されているサーチライトに助けられながら、真っ暗な闇の中を進んでいった。
やがて彼らは、ウォリック城への行程で最大の難所に差し掛かった。この道は渓谷の底に存在し、その左右は50~60mほどの切り立った崖になっている。歩兵たちを運ぶ装輪APCや、機動病院車MASH、スナイパー砲車輛、機甲部隊の戦車などは、やや速度を落とす。左右にうねった道を高速で突っ走り、崖の壁面に突っ込んだりしては危険だからだ。更に言えば道なりに進んで行っても、かなり急な坂道が連続したりしている。
キースはスナイパー砲車輛の後ろを走っている、機動ロングトム砲へと個人回線を繋ぐ。
「サイモン爺さん、頼むからここでは少し自重してくれよ?」
『坊ちゃん、さすがのわしでもこの状況じゃあスピードは出せんですわい。と言いますかの。前がつっかえてますからのう。前を走っとるスナイパー砲車輛の運転手は、今日はフィリップの奴でしたかいな。運転の筋はいいと思ったんですがの……。もうちょっと度胸が欲しいところですわな。もちょっとばかり、スピード出してもいいと思うんですがのう。』
「まあ、ここら辺ではメックも速度を落とさざるを得ない。無理に速度を上げることはないさ。んじゃ、後はよろしくな。先に言ってた通りに、渓谷を出たらスナイパー砲車輛と機動ロングトム砲は進行方向を変えてXXD-44296地点に向かってくれ。歩兵たちの一部も、そちらに護衛として回すから。」
『了解ですわ。では。』
キースはサイモン老との個人的な通話を終える。と、ここで指揮車輛のジャスティン大尉待遇中尉から、通信回線の接続要求が来た。キースは即座に回線を繋ぐ。
「ジャスティン大尉待遇中尉、何が起きた?」
『ウォリック城に派遣している偵察兵アイラ曹長が、海軍基地の通信設備を介してこちらに連絡を入れて来ました。先ほどの件です。』
先に進発していたアイラ曹長たち偵察兵の面々は、キースたち『SOTS』ウォリック城救援部隊の位置を正確には知らない。今彼らが行軍している進軍路は、偵察兵たちが出発した後で決められた物だからだ。だからアイラ曹長たちが用いている高指向性で遠距離まで電波が届く通信装置では、逆に高指向性過ぎてキースたちの本隊にアンテナの照準が合わせられないのである。
それ故に、アイラ曹長は一度海軍基地へと連絡を入れ、そこからキースたちの本隊に通信を中継してもらったのだ。おかげで、若干の音質の劣化はあるものの、アイラ曹長とは問題なく通信ができていた。キースはジャスティン大尉待遇中尉に向かって言う。
「先ほどの件とは、敵の偵察兵と思しきやつらが、今俺たちが拠点にしている第2海軍基地方面へ散った、と言うアレだな?」
『その通りです。ネイサン曹長とアレクセイ軍曹の偵察兵分隊が、その後を追ったけれど、アレクセイ軍曹のチームは敵偵察兵を見失ってしまったらしいです。ネイサン曹長からの連絡は、依然ありません。』
「……了解した。後は無いか?」
『はっ。今の所はありません。』
「了解。また何かあったら、すぐに知らせてくれ。以上だ。」
キースは考え込む。敵偵察兵の能力次第ではあるが、こちらは急ぐだけ急ぐために姿を隠していない。敵には容易に発見されるはずだ。キースはA大隊第1中隊偵察小隊の副隊長、ノア少尉のバトルメック、35tオストスカウトに回線を繋ぐ。
「ノア少尉、パッシヴセンサーだけじゃなしに、アクティブセンサーも使ってかまわん。全力で索敵をしてくれ。」
『了解しました、大佐。』
「スキマーの様な小型の車輛や、あるいは電波発信している対象……偵察兵が使用している小型通信機の様な代物にも注意してくれ。」
『はい、任せてください。』
「以上だ。」
そして1時間が何事も無く過ぎる。キース達『SOTS』の主力は、いまだに渓谷の中を進んでいた。キースはメックを歩ませながら、考えに沈む。
(うーん、とりあえずは今の所問題なく来れてるよね。ウォリック城は危険な状態だけど、報告ではまだかろうじて持ちこたえてる。……ウォリック城に行くのに降下船を使わない以上、これ以上は早くはならないしなあ。
降下船を使えばあっという間に到着できたんだろうけど、ウォリック城の近くには降下船を安心して降ろせる場所が無いんだよな。せめてウォリック城内に直接降ろせれば、話は違ったんだろうけどなあ。城内には当の『チェックメイト騎士団』の降下船があって、うちの船まで入らねーってば……。いや、ウォリック城の付属宇宙港は小規模だから、元から12隻もの降下船は入らねーし。)
その時である。突然キースのS型バンシーの操縦席に、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛を介さず、直接に回線接続要求が入った。同時にノア少尉のオストスカウトから、報告が入る。
『大佐!たった今、部隊先頭近辺の崖上に、ごく小規模の金属反応を捉えました!同時にそこから暗号化がかかっている通信電波も傍受!それとその近辺より、友軍のコードが付随した電波発信を確認!』
「了解だ、ノア少尉!」
キースはノア少尉に応答すると、入って来た回線接続要求に応えて通信回線を開く。すると即座に緊迫した声が飛び込んで来た。
『隊長!こちら第2偵察兵分隊分隊長のネイサン曹長!説明してる暇がないんで、即座に進軍を一時止めて下さい!以上です!』
ネイサン曹長からの通信は切れた。キースは全部隊に対し、隊内回線を繋ぐ。彼は叫んだ。
「全部隊、緊急停止!別命あるまでその位置を確保せよ!隊列前方、特に最前列にいる者は、崖上の挙動に注意するんだ!何者かが崖上に潜んでいる可能性がある!」
『『『『『『了解!』』』』』』
すかさず了解の返事が返って来る。部隊はキースの命令に従い、緊急停止した。更にノア少尉からの報告が入る。
『キース大佐!崖上でレーザーと思われるエネルギー兵器が使用されました!規模は極小、メックや戦車用ではなく人間用の小型レーザー火器と思われます!繰り返します、崖上で人間用レーザー兵器の使用反応有り!』
「ご苦労、ノア少尉!降下猟兵隊、エアメック形態に機体を変形させておけ!場合によっては崖上まで飛んでもらい、そこでの戦闘に介入してもらう!」
『『『『了解!』』』』
キースは、そうは言ったものの崖上まで彼らを飛ばせる事は無いだろうと予測していた。崖上はかなり険しい地形で、メックなどが立てる場所がほとんど無い。エアメック形態を維持して浮遊する様に飛行を行えばなんとかなるかも知れないが、経験の浅い降下猟兵隊に高度な操縦技量を要求されるそれを強要することは避けたい。
やがてノア少尉が再度の報告をして来る。
『崖上のエネルギー兵器反応、無くなりました。』
「了解した。む?」
再度ネイサン曹長からと思われる、回線接続要求が来る。キースはそれに応じ、回線を開いた。
『こちらネイサン曹長。隊長、こちらの騒動は無事終了しました。第2偵察兵分隊は、私を含めて負傷者はありません。』
「ネイサン曹長、こちらキースだ。何があった?」
『敵陣から出た敵の偵察兵4名が、渓谷の底を歩いている隊長たちを発見し、今私がいる所……隊列の先頭付近の崖上に先回りして来ていたんです。で、奴さんたちは崖上の各所に、プラスチック爆薬を仕掛けていました。人工的に崖を崩落させて、隊長たちの進軍を止める、あるいは遅らせるために。
相手が欲をかいて、先頭の数機のバトルメックを岩の下敷きにしようとタイミングを計っていたらしいんですがね。そのおかげで我々がそいつらを排除する時間的余裕ができましたよ。相手が欲をかかずに最初から崖を崩されていたら、間に合わないところでした。』
「ネイサン曹長、よく敵の企みを阻止してくれた。ボーナス物だ、期待していてくれ。」
キースはネイサン曹長を称賛する。だが当のネイサン曹長は、多少暗い声で言う。
『ありがとうございます。しかし……。敵が高指向性の無線機を現場に設置しておりまして、隊長たちがウォリック城救援に向かっていると言う情報は、既に敵陣へ送られている模様かと……。そちらは阻止できなかったのが、残念です。』
「いや、気にする事は無い。敵がこちらの事を知らないと仮定して動くのと、知っているとわかって動くのでは、大きく事情が違う。それでは我々は再度移動を開始する。あとはそちらからは無いか?」
『は、こちらからは以上です。通信終わり。』
通信は切れた。キースは全部隊に対し、再度の進軍を命じる。無論降下猟兵隊は、再度バトルメック形態に変形させるのも忘れない。やがて朝日が昇る頃に、キースたちのウォリック城救援部隊は渓谷を抜けた。ここでサイモン老たち間接砲部隊の砲兵は、本隊とは別行動を取る事になる。機動ロングトム砲とスナイパー砲車輛、それに護衛の歩兵部隊1個小隊を載せた装輪APC数台が、本隊の進行方向から2時の方角へと向きを変えて去っていく。
『では隊長、わしらはXXD-44296地点へ向かい、そこから砲撃しますでの。』
「頼んだ、サイモン大尉。では無事でな。」
『了解ですわ。ではまた後程。』
そしてキースは、ジャスティン大尉待遇中尉に命じてウォリック城と連絡が取れるかどうか、交信を試みさせる。
「ジャスティン大尉待遇中尉、指揮車輛の通信システムならばそろそろウォリック城と交信できないか?」
『やってみます。少々お待ちください。』
指揮車輛の屋根の上に装着されているパラボラアンテナが、進行方向に向けられるのがキース機操縦席の主スクリーンに映った。やがてジャスティン大尉待遇中尉の声が、通信回線から再度流れ出す。
『キース大佐、向こうと繋がりました!今、回線をそちらに回します!』
「そうか、頼んだ。」
『……。こちらウォリック城、恒星連邦駐屯軍指揮官、傭兵大隊『チェックメイト騎士団』部隊司令のマイケル・アダムソン少佐。』
ウォリック城からの通信が、キース機の操縦席に響く。キースは城がいまだ何とか持ちこたえていたらしい事を知り、人知れず安堵した。
「こちら恒星連邦惑星シメロン救援部隊指揮官、混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード大佐。アダムソン少佐、そちらの状況は?」
『来援を感謝します、大佐。状況ですが……悪いの一言ですな。地雷原と3門あるスナイパー砲の助けを借りて、なんとか防戦に努めておりますが……。地雷原もかなり薄くなり、スナイパー砲の砲弾も底が見えて来ました。
我々メック部隊も、未だに1個半中隊はなんとか稼働できる状態を保っておりますが、残り1個半中隊は……。完全破壊された機体こそ無いものの、半数が敵に鹵獲され、半数が稼働不能なまでに痛めつけられております。また稼働機ですが、こちらも外面の装甲板は張り替えた物の、中身がずたずたの機体が多く……。』
「あと半日足らずで、そちらに到着できる。それまで保たせられるかね?」
『正直わかりませんな。ですが、何とかやってみます。部隊員たちにも味方の来援を伝えれば、士気向上は……。む、何だ?』
マイケル少佐は、通信機の向こう側で何者か……おそらくは彼の大隊副官と話をしている模様だ。やがてマイケル少佐は通信に戻って来た。
『大佐、敵の一部が……。城の周りを固めていた敵部隊のうち、B大隊と思われる1部隊が、急遽城の周囲を離脱して行きました。離脱方向は、城より北西です。』
「その方角は……。間違いなくこちらだ!そのB大隊とやらは、こちらの部隊の足止めを狙っているのだろう。たぶんまともに戦う気は無く、だらだらと遅滞戦闘を繰り広げて時間稼ぎをするつもりだな。その間に、残りの部隊でウォリック城と貴官ら『チェックメイト騎士団』を撃破、惑星公爵閣下の身柄を押さえるつもりだろう。
……そうはさせるか。」
『キース大佐!ジャスティン大尉待遇中尉です!お話し中申し訳ありませんが、こちらの拠点第2海軍基地から緊急連絡です!敵の1個大隊がウォリック城を離れ、こちらへ向かって来ています!気圏戦闘機エッジ中隊、およびアイラ曹長の偵察兵分隊両者から、同じ報告が入ったとの事!その向かって来る敵の陣容は、今しがたデータ通信で着信中です!』
惑星の地図を脳裏に描き、一瞬でキースは決断する。彼はまずマイケル少佐に向かい、声を発した。
「マイケル少佐!なんとかもう少しだけ頑張ってくれ!こちらは足止め部隊を叩き潰して、一刻も早くそちらへ到着できるようにする!迂回路を探す事も考えたが、地形図からして結局は叩き潰した方が早く着けそうだ!」
『了解しました。できるだけ粘ります。ですが、そう長くは無理です。長くて1日保てば御の字ですね。短ければ、今にも陥落してしまいそうです。そうなった場合、残念ですが我々は惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下をお連れして、降下船で惑星を撤退します。』
「了解した。できる限り最速でそちらへ向かう。以上、通信終わり。」
次にキースは、指揮車輛のジャスティン大尉待遇中尉に第2海軍基地への通信中継を命じる。
「ジャスティン大尉待遇中尉、第2海軍基地へ通信を中継してくれ!」
『了解です!今繋ぎます!』
『……こちら第2海軍基地、司令官代理のカイル・カークランド船長。隊長かね?』
「カイル船長!気圏戦闘機隊A、B、C中隊の発進を命令する!目標地点は惑星マップ上のXXD-44008地点!到着時刻が今から3時間後になる様に、調整して発進させてくれ!それと気圏戦闘機D、E中隊のうちで今そちらに戻っている者たちから、充分休んだ2名を選んで今すぐ緊急発進、先ほど言った地点へ高高度偵察に飛ばしてくれ!」
『了解したよ、隊長。偵察機はすぐに飛んで行かせる。攻撃隊もちょうどいい頃合いに発進させるよ。』
「頼んだ。通信終わり。」
そして更にその次に、キースは砲兵隊のサイモン老へも通信を入れた。
「こちらキース!サイモン大尉!今どの辺だ!?」
『こちらサイモン大尉、XXD-44250地点を通過中ですわ。』
「よし、そこで一時停止!どうやら目的地に着く前に、1戦交える羽目になりそうだ。XXD-44008地点かその周辺で会敵する可能性が高い。予定は3時間後だ。サイモン大尉はそこから間接砲撃による支援を頼む。」
『サイモン大尉、了解!』
「以上、通信終わり。」
キースは敵B大隊に、時間稼ぎなどさせる気は無かった。だからこそ、本来は敵本隊に取っておきたかった気圏戦闘機隊や砲兵隊の戦力まで使って、ごく短時間で敵B大隊を叩き潰すつもりだったのである。敵本隊に当たる前に戦力を消耗することになるが、まずは急ぎたどり着く事が先であった。
混成傭兵連隊『SOTS』の「目」であるノア少尉のオストスカウトが、敵B大隊の存在を察知する。気圏戦闘機D中隊のうちの、ロブ・ギャロウェイ少尉とクラーラ・フィオラヴァンティ少尉の機体、スパローホーク戦闘機2機からも、敵を発見したとの報告が入っている。それはキースが予測したXXD-44008地点であった。
やがてキースたち『SOTS』がその地点に到着した時、敵は既に陣を張って準備万端整えて待ち構えていた。ちなみにキースたちは歩兵部隊の装輪APC、機動病院車MASH、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛などを、ここよりやや後方の地点に待機させている。キースは檄を飛ばした。
「お客さんをお待たせしてしまった様だな。お詫びの品を受け取ってもらおうじゃないか。叩き潰すぞ!スナイパー砲はXXD-44008-C12、XXD-44008-C22、XXD-44008-C14、XXD-44008-C23、XXD-44008-C31に連続して、ロングトム砲はXXD-44008-C19、XXD-44008-C17、XXD-44008-C15に連続して砲撃開始だ!風向と風力はWNWに3単位!撃て!
A大隊第1中隊指揮小隊。俺たちはこの距離でも命中させられるだろう。狙うのは敵指揮官機と思われる通常型マローダー!前進しつつ攻撃開始だ!他の者たちは、まずは高機動メックは敵陣を迂回し、その背後に回り込んで敵の退路を断て!残りの者は主戦機を前衛にして前進、命中が見込める距離になり次第攻撃せよ!機甲部隊の戦車隊は、最後尾より支援射撃!」
『『『『『『了解!』』』』』』
『SOTS』のメック部隊が、前進を始める。D型と通常型が混じったフェニックスホークの群れを先頭に、6機のウルバリーン、13機のグリフィン、5機のシャドウホーク、2機のスパイダーが敵陣を迂回して後背に回り込むべく、全速で疾走する。同時にエアメック形態になった4機のフェニックスホークLAMが、これもまた敵陣の後ろ目指して離陸した。ただし敵中に1機だけ確認できたライフルマンの近傍には、可能な限り近寄らない。ライフルマンはエアメックの大敵なのだ。
キースの95tS型バンシーを始めとして、彼の直卒小隊の面々が駆るメックから絶大な砲火が吐き出され、敵指揮官機の森林迷彩塗装のマローダーに突き刺さる。20連長距離ミサイル、10連長距離ミサイルが2門、5本の粒子ビーム束、大口径オートキャノンの砲弾、大口径レーザーの光条が2閃、それら全てを一身に受けたマローダーは、全身の装甲板を綺麗に剥がされた上に、頭部に大口径オートキャノンの直撃を受けてメック戦士が緊急脱出に追い込まれる。
『す、すげえ……。』
『あの距離で全部当たった!?』
『無駄口を叩くんじゃない!ユーイン伍長!エルトン伍長!そんな暇があったら、前衛のメックを支援しろ!貴様らの技量なら、100発100中とはいかないが、中距離にまで踏み込めば静止射撃でなら命中が見込める!』
『『は、はい、中隊長!』』
第8中隊の中隊長、リシャール大尉待遇中尉が、自分の隊の新入りメック戦士たちを叱責する。一方敵陣だが、指揮官があっという間に撃墜されたことに驚愕したのか、一瞬動きが止まった。しかし指揮を受け継いだ次席指揮官が有能な人物なのか、すぐに気を取り直してゆっくりと後退しつつ、砲火を『SOTS』に向けて放ち出す。そしてその中から高機動メックが出て来て、後背に回り込もうとする『SOTS』高機動メック群を妨害せんとの動きを見せた。キースは叫ぶ。
「高機動メック隊!ジャンプジェットで妨害者を飛び越えろ!A大隊第1中隊指揮小隊、移動を妨害する敵の高機動メックを狙え!目標選択は任せる、撃て!」
『了解です。』
『任せろ隊長!』
『撃つわよー!』
再び絶大な砲火力が発揮され、フェニックスホーク、グリフィン2機、K型フェニックスホークが大地に倒れ伏す。ことに1機のグリフィンは、粒子ビーム砲で操縦席を焼かれてメック戦士を喪っていた。泡を食った敵方の高機動メックたちは、それでも『SOTS』高機動メックに一撃を加えんと一斉に砲撃を行う。ジャンプ移動距離の短いシャドウホークたちが若干のダメージを受けるが、大半の『SOTS』高機動メックは一撃も貰う事無く相手を飛び越えて、敵陣後背に至る進路を確保した。
ここで、キースが指示していたスナイパー砲の第1射目が着弾する。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
その砲弾は、高地を占拠して周囲に支援射撃を行っていた敵のライフルマンに降り注ぐ。たまらず敵のライフルマンは高地を捨てて平地に降りて来る。そこへアーリン少佐直卒の第7中隊の火力小隊、対空小隊として知られている彼らが、集中射撃を見舞った。敵機もまた応射するが、4機のライフルマンに1機のライフルマンでは歯が立たない。また技量も、『SOTS』の対空小隊の方が高い。あげくにライフルマンに限らず敵部隊のメックは、城攻めをしていた際のダメージがそのまま残っている。結局敵ライフルマンは、片足を折り取られてぶざまに転倒する事になった。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
スナイパー砲の第2射が、今度は別の高地にいたK型アーチャー2機を叩く。それらのK型アーチャーはその高地を捨てて後退した。しかしそこには降下猟兵隊のフェニックスホークLAM4機が、エアメック形態で回り込んでいる。
「降下猟兵隊!下手に戦果を上げようと思うな!エアメック形態で飛び回って、ちくちくと嫌がらせ程度の攻撃を繰り返せ!敵を今の位置から後退させない事だけ考えろ!そのうちに味方の高機動メックがそこへたどり着く!」
『『『『了解!』』』』
キースの命令通り、エアメック4機は全力で飛び回り命中弾を避け、ちくちくと嫌がらせ攻撃を繰り返す。そして味方の高機動メックのうちフェニックスホークの一団が、敵陣の後背を断つ位置に到着した。これで敵は容易には後退できない。本当であれば、じわじわと後退しつつ味方の被害を抑えて徹底した遅滞戦闘を行い、『SOTS』に牛歩のごとき歩みを強要するつもりだったのだが。
更にスナイパー砲の第3射とロングトム砲の第1射が、予定通りの後退ができずに動きが取れなくなっている敵陣に着弾した。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
敵のK型アーチャー数機、K型クルセイダー数機が巻き込まれて損傷する。そして通信回線より、お調子者だが頼りになる、鋼鉄の猛禽たちを率いる『SOTS』最古参航空兵の声が聞こえた。
『マイク大尉以下、気圏戦闘機隊アロー中隊、ビートル中隊、カバラ中隊、ただ今参上っす!!』
「マイク大尉!B、C中隊は敵後衛に地上掃射を!A中隊は逃げ出す敵を優先し、その最大口径オートキャノンで大物狩りを頼む!」
『了解っす!聞いていたっすね、お嬢さんがた&野郎ども!アロー中隊ブレイク!ビートル中隊、カバラ中隊は中隊ごとにトレール(縦一線)形態を組んで、敵後衛に地上掃射っす!』
とうとう敵は遅滞戦闘を行う事を諦めたか、『SOTS』指揮官機と彼らが判断……と言うか勘違いした、マテュー大尉待遇中尉の100tアトラスに向かって全力で前進して来た。『SOTS』指揮官を倒す事で、九死に一生を得ようと言うのだろうか。
だがそれよりも早く、ヒューバート少佐、アーリン少佐、ジーン大尉の3機の85tバトルマスター、それにケネス大尉、第6中隊の方のルートヴィヒ中尉、カーラ中尉待遇少尉、ヴェラ少尉、イヴリン曹長、ティアナ軍曹、アンヘラ伍長の7機の65tサンダーボルトが、一塊になって敵中に斬り込んだ。余談だが、ルートヴィヒと言う名前の中尉は現在、『SOTS』メック部隊に2人存在している。非常に紛らわしいが、これだけ部隊が大きくなっては、名前や姓が被る事は避けられない。
これで勝負はほぼ付いた。敵が最後に後退による遅滞戦闘を諦めて積極的攻勢に転じた事で、『SOTS』側のメックも新入りたちの機体を中心に、そこそこはダメージを受ける。だがさほど問題になる損傷では無い。それよりも問題となるのは時間である。敵は遅滞戦闘による時間稼ぎができないと悟った時点で、それでもせめて可能な限りの時間を稼ごうと、最後の1機が戦闘不能になるまで勇敢に戦い続けたのだ。
キースは内心で、苦々しく呟く。
(ちっくしょう。一応予想の範囲内だけどさあ、その予想の範囲で目いっぱい粘られちゃったよ。気圏戦闘機隊の推進剤も、かなり使っちゃったしなあ……。今から海軍基地に帰して補給させると、ウォリック城の救援に参加させられないよ。……仕方ないか。このままウォリック城上空で低速巡航モードで高高度待機させて、ここぞと言う時に短時間だけ投入するしか無いなあ。
サイモン爺さんとボールドウィン軍曹の間接砲も、残弾が心もとなくなってるなあ。足止め部隊の撃破を優先して撃ち過ぎたなあ……。)
彼が足止め部隊の突破ではなく殲滅を選択したのは、敵に戦力を残して置いて敵本隊との交戦中に、背後からちょっかいを出される事を嫌ったためである。ここで、ヒューバート少佐が隊内回線で話しかけて来た。
『キース大佐、戦闘不能になった敵機はいかがいたしますか?』
「歩兵部隊の半数を残して放置だ。テリー少佐待遇大尉に降伏勧告と捕虜の拘束を任せて、我々はそのままウォリック城に急ぐ。致命的な損傷を被ったメックは無いと言う話だったな?ならば残す歩兵部隊以外は、隊列を整え次第に急ぎ出発するぞ。」
『了解です。』
そしてキースは、先ほど歩兵たちの装輪APCや機動病院車MASHと共に現場に到着した、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛に回線を繋ぐ。
「ジャスティン大尉待遇中尉!ウォリック城との通信回線は確保しているな?向こうの様子はどうだ?」
『向こうではマイケル・アダムソン少佐ご自身がメックで出撃してしまったため、今現在大隊副官で少佐の親族であるクリストファー・アダムソン少尉が、代理でこちらとの連絡を行っています。少尉の話では部隊のメックも弾薬の不足と損傷により、継戦能力がほぼ尽きているらしいです。少佐のオリオンも損傷はともかく弾薬切れですが、枯れ木も山の賑わいとばかりに、止める周囲を振り切って強引に出撃なされた模様です。』
「まずいな……。オリオンは弾薬切れすると戦力価値が著しく減退する機種だ。一刻の猶予も無い、急いで出発するぞ!」
装輪APCの一台に通信回線を繋ぎ、キースは早口で言った。
「テリー少佐待遇大尉、後は頼んだぞ。この場は貴官に任す。」
『了解です。お任せ下さい。』
そしてキース達『SOTS』は、再度ウォリック城目指して歩み始めた。
『SOTS』がウォリック城にたどり着いたのは、本当にぎりぎり限界直前であった様だ。城の城壁のあちこちから煙が上がり、3門あったスナイパー間接砲は弾薬切れで沈黙している。そして城の周辺にある『チェックメイト騎士団』のメックの姿は、全て煙を上げて損壊した物だけであった。せめて原型が残っており、修理が効きそうな事だけが救いであろうか。
城門の前には、多数のドラコ連合と『第13アン・ティン軍団』の紋章を着けたバトルメックが集結している。城門を破ろうとしていた所なのだろう。彼らはキースたち『SOTS』の到着に、慌てている模様だった。
ウォリック城から、キースのバトルメック、S型バンシーに通信が入る。
『ハワード大佐、危ういところで間に合ってくださいましたな!今現在、残っているバトルメックとメック戦士、それに何よりも誰よりも、惑星公爵閣下を降下船に乗せ、惑星を脱出する準備をしていたのですよ。ありがとうございます!』
「やれやれ、本当に危ういところだったな。だが、貴官らがぎりぎりまで粘ってくれたおかげで間に合った。こちらこそ、ありがとう。ところでこちらの攻撃に呼応して、城内から打って出る事は可能かね?」
『残念ながら、不可能ですな。申し訳ありません。最も損傷の軽い自分のオリオンですらも、機体の装甲を満遍なく剥がされており、弾薬を使い切っていなかったら爆散していた事間違いなしの有様です。動くことは動くんですがね。』
「そうか……。申し訳なく思う必要は無いよ。無理を言ったのは解っているからな。謝るのはこっちだ。遅くなって済まない。
……さて、では戦闘開始と行こうか。美味しいところだけ貰う様で済まない気がするが、な。『SOTS』、全機攻撃開始!」
キースの檄に応えて、混成傭兵連隊『SOTS』のバトルメック全機と戦車全車輛が、『第13アン・ティン軍団』の集結しているウォリック城城門前目指し、進撃を開始した。
様々な障害を越え、主人公たちはウォリック城の前までたどり着きました。本当にギリギリ、本当に危うい所で。
さあ、これからが反撃です!