ウォリック城城門前での戦いは、なおも続いていた。
戦闘開始直後、キースは敵が城門前に固まっていた陣形をあまり崩さずに向かって来たのを見て、いきなりの気圏戦闘機隊ビートル中隊およびカバラ中隊の投入と、弾薬が残り少ない間接砲の戦力投入を決意。気圏戦闘機隊B、C中隊により、密集していた自分たちへの地上掃射を受け、あげくにスナイパー砲とロングトム砲による連打を浴びた『第13アン・ティン軍団』A、C大隊は急ぎ散開しようとするが、キースはそれを見越して敵の左右に高機動メックを半数ずつ展開。キース機を含む鈍足のメックが正面から攻撃するのと合わせ、3方向からの砲撃によって、敵が部隊を散じるのを阻止した。
無論、敵も撃たれっぱなしでいるわけは無い。気圏戦闘機隊ビートル中隊とカバラ中隊は濃密な対空砲火により12機のうち8機が痛撃を浴びて、被撃墜こそ免れたものの離脱して上空における高高度待機に回らざるを得なくなった。それに推進剤も心もとなく、もうB、C中隊は地上攻撃に参加させられない。
更に新人たちのうちで足止め部隊との戦いが初陣だった者達のバトルメック数機が、経験の無さ故に機動回避のタイミングを誤り痛打を受けて、キースの指示で後方に後退せざるを得なかった。まあそれら70tアーチャーも65tカタパルトも40tウィットワースも、主武器に遠距離攻撃が可能な長距離ミサイル系の武器を搭載している機種であったため、後方に下げたところで完全に戦力外にはならないのが救いか。新人故に遠距離での命中率に不安はあったが。
その上に『SOTS』機甲部隊の戦車が、想像以上に今回の戦いでは役に立っていない。キースはある程度は覚悟の上だったが、予想以上に戦車の砲手が新兵になったのは厳しかった。それでもたまに、まぐれ当たり気味に命中弾を送り込んでくれるので、完璧に無駄とも言えないが。各々の車長は熟練兵であるため、味方撃ちなどもやらかしてはいない。
まあそれを言うなら『第13アン・ティン軍団』のメック戦士も、けっこうな割合で新人が混ざっている。砲撃命中率も機動回避技術もそう言う者たちは今一つであり、カモも同然である者すらも多く存在していた。
双方ともにストレスの溜まる戦いをしばし続けていた『SOTS』と『第13アン・ティン軍団』であったが、ここで転機が訪れる。『SOTS』側は間接砲の残弾が、『第13アン・ティン軍団』側は自分たちの機体の実弾兵器の弾薬が、共に底をついたのだ。キースは決断する。
(よし、バトルマスターとサンダーボルトでの斬り込み隊を突っ込ませるのに良いタイミングだな!近接支援に、ハンチバックもそのすぐ後ろに付いていかせようかね。それと気圏戦闘機隊のアロー中隊を投入しよっか。あの後ろにいるストーカーが総大将で、やや前に出て来てるブラックナイトが次席指揮官かなあ?アロー中隊にはストーカーを集中攻撃させよう。)
キースは命を下す。
「ヒューバート少佐!アーリン少佐!ジーン大尉!斬り込み隊を率いて敵陣に突貫せよ!ヴァーリア・ゲーリケ軍曹、貴様のハンチバックは斬り込み隊の近接支援として付いていけ!
マイク大尉、アロー中隊の出番だ!その最大口径オートキャノンで、敵の総大将機と思われる85tストーカーを袋叩きにしろ!」
『『『『了解!!』』』』
『了解っす!任せといてください!』
バトルマスターとサンダーボルトの一団が、ハンチバックを引き連れて敵陣に突入する。だが同時に敵陣からもブラックナイトを先頭にして、ウォーハンマー、ドラゴン、ウルバリーン、シャドウホーク、K型クルセイダー、ハンチバック、おまけでジェンナーなどが突っ込んで来る。特にドラゴン、シャドウホーク、K型クルセイダーなどは、弾切れのために後は格闘戦に望みを託すしかないと出て来た模様である。
両者のタイミングは偶然合致した。結果、両者は自陣と敵陣の中央で激しくぶつかり合う。キースは敵本陣へ斬り込み隊を突入させる思惑を外され、小さく舌打ちした。まあ相手がキースの狙いを読んで妨害したわけではなしに、純粋に偶然だったのだが。しかしもう1つのキースの狙いは、きちんと成功した。敵総大将のストーカーが、気圏戦闘機隊アロー中隊の最大口径オートキャノン連打に叩きのめされ、両腕両脚を千切り取られて大地に伏したのだ。
「今だ!敵は浮足立ったぞ!左右の高機動メックは敵本陣を狙って集中砲火!支援メック及び機甲部隊は斬り込み隊を遠距離支援だ!彼らを自由に動ける様にして、敵本陣へ斬り込ませるんだ!
マテュー大尉待遇中尉、アンドリュー准尉、エリーザ准尉、俺たちも前進する!マテューはすまないが先頭に立ってくれ!エリーザ准尉はそのすぐ後ろでマテューを近接支援!アンドリュー准尉は俺と並んで、粒子砲を撃ちながらその後ろだ!狙うのはブラックナイト!」
『先頭に立つのは、一番装甲が厚い私の仕事ですからね。了解です。』
『俺も了解だ。皆の背中はまかせとけ!』
『あたしも了解。マテュー大尉待遇中尉の陰から、がんがん撃たせてもらうわね。……大尉待遇中尉って、長くて言いづらいのよね。隊長、早目に大尉に昇進させたげて。』
「そうしたいのは、俺も山々なんだが……。早くても、今回の任務が終わってからだな。」
そしてキースたちは前進した。
戦いの終わったウォリック城城門前で、『SOTS』の機体は歩兵たちの助けを借りつつ、倒れた敵機から捕虜を取っているところである。味方には酷く叩かれた機体は出た物の、倒れたバトルメックは幸いな事にいなかった。足や下腿の駆動装置をやられて脚を引き摺っている機体や、胴体部の装甲板を全損し内部構造までダメージを受けて危うくエンジンやジャイロに損傷を負いそうになった機体は存在していたが。
そんな中、キースのS型バンシーの操縦席にある通信用小型スクリーンには、アンドリュー准尉の少々複雑そうな顔が映っている。
『はぁ……。こいつら、聞いた話では新兵が多いって事だったよな。腕前を見るに、それは確かな情報だと思うんだけどよ。でもそれにしちゃ、最後まで士気崩壊せずに、最後の1機が倒れるまで戦ってたよな。おかげで、致命傷こそ避けられたけど味方機のダメージも、決して軽くねえし。
……なんで途中で降伏とかしなかったんだ?取り囲まれてたから、逃亡はできなかったのは解るけど、よ。』
「たぶん、だがなあ……。今回の出兵が、ドラコ連合大統領のタカシ・クリタ御大の鶴の一声で決まったって情報があったからな。それが事実なら、奴らにとって「無様」な真似は絶対にできまいよ。戦力が残ってるうちの降伏も、敵前逃亡もな。そんな事をすれば、後が怖いだろう。タカシ・クリタの顔を潰したとなったら、将来が断たれるどころじゃなく、切腹させられてもおかしくない。
俺が思うに……。奴らを支えてたのは勇気とか忠誠とか以前に、「恐怖」じゃないのかね。後方の「味方」に対する。いや忠誠が無いとまでは言わないが。」
『恐怖で縛られてた、ってわけかよ……。』
「さて、俺たちはそろそろ戦利品と『チェックメイト騎士団』の取り残されたメックを拾って、入城するとしようか。」
キースたちは自分の機体それぞれにパンパンに膨れ上がった戦利品回収用の網を、両手があるメックの助けを借りて背負わせてもらう。キース直卒小隊でまともに両手があるのは、マテュー大尉待遇中尉のアトラスぐらいだ。そのキースたちを先頭に、荷物を背負った『SOTS』のA、C両大隊はウォリック城に入城して行く。ちなみにヒューバート少佐率いるB大隊は、足止め部隊であった敵B大隊の損傷メックと捕虜を拾いに戻っている。
ウォリック城に入城したキースたち『SOTS』は、大歓呼で迎えられる。惑星軍の残存部隊が、城の職員が、そして何よりも『チェックメイト騎士団』の部隊員たちが、歓喜の表情で迎え入れてくれた。
ウォリック城の司令執務室で、キースは『チェックメイト騎士団』のマイケル・アダムソン少佐と面談していた。ちなみに惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下には、つい先ほどこの面談に先んじて、挨拶とご機嫌窺いに行って来たばかりだ。流石に恒星連邦の駐屯軍司令官とは言え結局は一介の傭兵である。公爵閣下よりも優先する事はできない。
応接セットのソファに座すマイケル少佐は多少やつれてはいたものの、笑顔でキースに話しかける。歴戦の傭兵部隊の司令官だけあって、キースの迫力に物怖じしている様子は無い。
「いや、おかげさまで命拾いいたしましたよ、ハワード大佐。この御恩を、いったいどうやってお返ししたら良いものか……。」
「いやいや、こちらとしても任務だったからだ。そう気にする必要は無いとも。それに私たち『SOTS』側……と言うより、私個人か?貴部隊と貴官には恩義を受けている。」
「我々が、ですかな?」
怪訝そうな顔で問うマイケル少佐に、キースは笑って言った。
「私の元々の出身部隊が、『鋼の勇者隊』、略称『BMCOS』だと言えば分かるかね?」
「!!」
「貴官とその部隊には、今私の部隊の自由執事となっている、『BMCOS』全滅時に偵察兵であったライナー・ファーベルク……当時は軍曹だったが、彼を保護していただいたと言う御恩がある。」
「なんと……。メック戦士の生き残りがいたのですか。」
マイケル少佐の言葉に、キースは頷く。
「私は当時、ロビンソン戦闘士官学校で就学中――卒業間際ではあったが――と言う理由があり、部隊を離れていたのだよ。卒業後、私は傭兵部隊を組織し、そして様々な幸運と、何より仲間の助けによって奪われた『BMCOS』のバトルメック他の装備を奪還し、その後も色々な事があって部隊規模を先日に現在の連隊規模に拡張したんだ。
ちなみに今回の敵『第13アン・ティン軍団』も、実は元々『BMCOS』を滅ぼした仇がその大本を創った部隊だ。仇そのものは、私たちの手であの世に送っているがね。そいつらの遺産と言うわけだな、『第13アン・ティン軍団』は。」
「なんとまあ……。因縁深い物がありますなあ……。ああ、先ほどファーベルク軍曹を保護した恩と申されましたが、それについてはこちらこそ恩義を感じていますよ。彼が片腕片脚を失ってまでこちらの部隊まで通報しに来てくれなかったら、惑星タンクレディⅡはクリタの手に落ち、駐屯軍の一部であった我々も諸共にやられておったでしょう。
ファーベルク軍曹は、『チェックメイト騎士団』全員にとっての恩人です。できるならば、我々がこの惑星上に居るうちにもう一度会って礼を言っておきたい物ですな。……いや、我々『チェックメイト騎士団』は、はっきり言いまして駐屯任務の遂行が不可能な状態です。可能な限り早急に代替の部隊を用意してもらって、惑星撤退せねばならんでしょう。会う機会があるかどうか……。」
「……何なら、我が部隊の整備兵をこちらへ呼ぶための降下船に同乗してもらい、ウォリック城へ呼ぶが?確認してみたところ、非空力型降下船のための離着床が1つだが空いていたな。今こちらが奪還して一時的拠点としている惑星軍第2海軍基地から、フォートレス級ディファイアント号を呼ぼうと思っていたんだ。」
「おお、それならばぜひ!」
キースとマイケル少佐は笑い合う。キースは、自分の笑顔が不自然になっていなければ良いと、そう思った。『チェックメイト騎士団』の今回の損害は桁外れな物だ。そして任務遂行不可能で依頼中断ともなれば、報酬がどれだけ支払われるかは判らない。おそらくは相当に目減りするはずである。『チェックメイト騎士団』の経済状態は、一気に悪化するはずだった。下手をすると、破産と言う最悪の事態も想定しなければならない程に。
キースの脳裏に、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下の言葉が蘇る。
『なあ、救援部隊指揮官キース・ハワード大佐であったな。……なんとか『チェックメイト騎士団』を救ってやる方法は無い物かな。いや貴官と貴官の部隊には感謝はしておるのだ。だが、今まで身体と命を張って、わしを護ってくれたのはやはり『チェックメイト騎士団』なのだよ。このまま見捨てるのは心苦しい……。
しかしわしは、この様なドラコ境界域外れの価値の低い、しかして危険度だけは高い、辺鄙な惑星の支配者に過ぎん。わしがボーナスを払ったとて、大した額にはなりはせん。いや、現在の惑星の財政状況から言えば、その様な些少なボーナスとて払えるはずも無いのだ。誰か恒星連邦の中央に繋ぎを取って手を貸してもらおうにも、わしにはそんな政治力も無いのだよ。悔しい事にな。
なあ……。なんとかできぬ物かなあ……。いや、貴官に言うべき事でも無かったな。所詮愚痴だ。ふう……。』
ふとキースは、妙なことに気が付いた。今の会話とは、基本的に何も関係が無い事柄である。それは敵の降下船群の事であった。まあ、今しがた降下船ディファイアント号の事を話題に出したから、それから連想が跳んだのかも知れない。
(……敵の偵察兵は、崖を崩して俺たちの進軍を邪魔しようとした奴らは全員あの世逝きだってネイサン曹長言ってたよなあ。けど、報告では他にもけっこう数がいて、そいつらは行方知れずだって話だよな?当然だけど、敵の降下船にも何人か逃げ込んでてもおかしくないよね?
でも、気圏戦闘機ダート中隊のスパローホーク戦闘機や、こちらの偵察兵連中の報告じゃあ、敵降下船群は惑星から逃げ出そうとしてないって話だけど……。いくらなんでも、これだけの大敗北を喫したんだ。普通は逃げ出すだろ?偵察兵が逃げ込んだとしたら、敗北の報は伝わってるだろお?
何でだ?何で奴らは惑星から逃げないんだ?まさか偵察兵が逃げ込んでない?それこそまさかだよなー。)
とりあえずキースは、まだやれる事、やるべき事、やらなければならない事が残っている事に気付き、気持ちを引き締め直した。そして彼はマイケル少佐と少々談笑した後に司令執務室を辞して、まずは海軍基地より整備兵満載のディファイアント号を呼び寄せたのである。
ここはウォリック城内の、キースに割り当てられた部屋である。現在、敵『第13アン・ティン軍団』の手により寸断されていた、ウォリック城と外部を繋ぐ電話線を、サイモン老が応急処置ではあるが復旧させる事に成功。かろうじて復旧した電話で、キースは惑星軍第2海軍基地にいるジェレミー中尉と、気圏戦闘機隊の損傷と復旧状態について話していた。
「……なるほど。ビートル1、2、4、6は無傷で補給も完了し、ビートル3、5にカバラ1、2、4、5は修復完了間近なんだな?」
『はい、しかしカバラ3とカバラ6は損傷度合いが酷く、もうしばらく修理に必要です。到底、仰られる作戦には出せません。』
「何、目標の対象数は9だ。ビートル1、2とカバラ中隊機なら単機でも大丈夫だが、ビートル3から6までの機体は60tでちょっと足りん。もともとそう言った場合は2機1組で行わせる予定だった。2機1組ならば、50tのライトニング戦闘機で構成されているアロー中隊機でも可能だしな。
となると、ビートル1、2にカバラ1、2、4、5の6機は単機で。ビートル3と5がペアで。これで目標を7個叩ける。あと2個の目標をやらねばならんが、それはアロー3と4、アロー5と6のペアでやってもらおう。アロー1と2には全体的な指揮とその補佐をしてもらう。」
『了解です。ではビートル3、5、カバラ1、2、4、5が修理完了次第にアロー3、4、5、6、ビートル1、2、3、5、及びカバラ1、2、4、5に爆装させ、アロー、ビートル、カバラ各中隊の稼働全機に発進準備を整えさせます。』
「頼んだ。それでは以上だ。」
キースは電話を切ると、今度はウォリック城の司令執務室へ内線電話をかける。電話を受けたのは、大隊副官のクリストファー・アダムソン少尉の様だ。
『こちらウォリック城、恒星連邦駐屯軍司令執務室。誰か?』
「こちら恒星連邦惑星シメロン救援部隊指揮官、混成傭兵連隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード大佐。アダムソン少佐はおいでかな?」
『こ、これはハワード大佐。失礼いたしました。今、替わります。』
『お電話替わりました、マイケル・アダムソン少佐です。ハワード大佐、いったい何の御用でしょうか?』
そしてキースはいきなり核心に入る。
「アダムソン少佐。儲け話があるんだが、1つ乗らないかね?」
『!?』
驚くマイケル少佐に、キースはにやりと笑った。いや、普通の電話なので相手からは見えないのだが。
そして3028年02月04日、キース達『SOTS』の全バトルメック、全戦車と、『チェックメイト騎士団』の現在稼働する全てのバトルメックは、IR偽装網を被って惑星首都とウォリック城の中間にある平野にやって来ていた。それらのバトルメックは、IR偽装網の下の装甲はピカピカに磨き上げられ塗装され、部隊マークも美麗に描き直してある。……ただし、立派なのは見た目だけだ。
95tS型バンシーの操縦席にある、通信用の小型スクリーンに映るマイケル少佐の顔は、何処と無しに不安そうである。彼はキース機の隣に自分の75tオリオンを持ってきて、互いの機体間に直通ケーブルを張って有線通信で話していた。これは無線封鎖されているためだ。彼はキースに向かい、必要も無いのについつい声を低めつつ言った。
『本当に大丈夫でしょうか?我々のメックは皆、動いているだけの張り子の虎です。装甲板こそ張り替えましたが、中身はボロボロですが……。』
「いや、うちの部隊のメックにも、同様の状態の機体は何機もあるとも。相手を包囲しているかの様に見せる、ハッタリが必要なのだよ。そのために、数が要るんだ。と言うか、ハッタリ以上はこの際必要無い。失敗したら、さっさと逃げ出すしか無いがな。
だが上手く行けば、貴官の部隊の捕虜になった隊員たちや鹵獲されたメックを取り返す事もできるぞ。」
『それは解ります。……そうですね、一か八かもう賭けたんでしたな。既にルビコン川を渡っていてオマケに賽子まで投げていたのでした。』
マイケル少佐の瞳に、力が戻る。キースはそれに頷いて見せた。
「さて、じゃあ配置に就いてもらうぞ。いつでも逃げ出せるようにだけはしておいてくれ。じゃ、作戦通り目標を取り囲む様に移動してくれ。通話用ケーブル、切るぞ?」
『了解です。ではまた後程。』
通話用直通ケーブルを切り、マイケル少佐の機体が離れて行くのを見ると、キースはS型バンシーのハンドサインで作戦決行を味方に指示する。それを見た各大隊長機が今度は各中隊長に、各中隊長機が各小隊長にと、ハンドサインの連鎖で情報が伝達されていった。そして『SOTS』と『チェックメイト騎士団』はこそこそと、平原のど真ん中にある「目標」を取り囲む位置に移動して行った。また随伴してきている歩兵部隊と機甲部隊の戦車もまた、同様に配置に就く。
そしてキース達はじっと待った。やがて待っていた物が、大空の彼方から現れる。それは『SOTS』所属の気圏戦闘機隊であった。動きはいつもよりも、ずっと鈍い。それも道理、彼らは重い爆弾を大量に抱えていたのだ。「目標」に動きがある。その球状の船体に装備されている中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル発射筒、大口径レーザー砲、中口径レーザー砲、粒子ビーム砲が、一斉に大空の『SOTS』気圏戦闘機隊へと向けられる。
キースは叫んだ。
「無線封鎖解除!第1段階開始!」
『『『『『『了解!』』』』』』
そして『SOTS』の機体のうち、「張り子の虎」でない物がIR偽装網を脱ぎ捨てて立ち上がり、「目標」……『第13アン・ティン軍団』のユニオン級降下船9隻の方へ走り寄った。また機甲部隊の戦車たちも同様だ。各自が遠距離射程に入り次第、一斉に射撃する。中らなくても良いのだ。この攻撃は、あくまで囮である。だがキース直卒の小隊員たちや、ヒューバート少佐、アーリン少佐などは、それでも命中させていたりしたが。
そう、目標は『第13アン・ティン軍団』をこの惑星まで運んできた、ユニオン級降下船である。キースは当初、これを放置しておけばジャンプポイントに逃げ帰り、ドラコ連合の領域に脱出するであろうと思っていた。だが一向にこれらは動く様子を見せなかった。それ故に、これらの船に攻撃を仕掛ける事を決定したのだ。
ユニオン級降下船9隻は、慌てて地上のバトルメックへ照準を合わせ直して発砲する。しかし距離が遠く、目標メックが全力移動しているため、全く命中しない。そこへ『SOTS』気圏戦闘機隊が襲い掛かった。
「マイク大尉!第2段階だ!」
『了解!こちら気圏戦闘機隊総隊長マイク大尉!全機予定通りに所定の目標の着陸脚付近の地面に爆弾落とすっすよ!』
ユニオン級9隻の足元で、大爆発が起きる。気圏戦闘機隊による爆撃の結果だ。それは過たず目的通りの爆撃ポイントに命中していた。そして9隻のユニオン級が、ゆっくりと傾いでいく。これでは相当腕の良い降下船船長であっても、離陸させる事は不可能だ。更に射撃管制室が斜めになったせいか、射撃の精度ががくっと落ちる。
そう、ここの平原は地盤強化されていない土地であった。それ故に、重量級気圏戦闘機の爆撃で、地面に降下船がひっくり返りかけるほどの大穴をあける事が可能だったのである。キースはここの平原を、『SOTS』が惑星に降下する際の予定Cポイントとしていた。だがウォリック城から他の予定ポイントよりも若干だけ近いにも関わらず、その候補としての順位は「C」と低かった。その理由が、ここが地盤強化されていない単に平坦なだけの土地であったためなのだ。
「第3段階開始!」
キースの声に、今まで隠れたままになっていた「張り子の虎」メックがIR偽装網を脱ぎ捨てて立ち上がる。そして全バトルメックは包囲の輪を狭めて行く。まれにユニオン級から射撃があるが、その射撃精度は低く、1発も命中しない。キースは更に叫ぶ。
「第4段階!サイモン大尉!ボールドウィン軍曹!予定ポイントにぶっぱなせ!」
『サイモン大尉、了解ですわ!』
『こちらボールドウィン軍曹、撃ちます!』
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
そしてスナイパー砲の砲弾が、ユニオン級の1隻すれすれに着弾する。しばし後に、別のユニオン級すれすれに今度はロングトム砲の砲弾が落ちて来た。キースは一般回線と外部スピーカーを用いて、ユニオン級9隻に向かって言った。
「今の砲撃はわざと外した!次は中てるぞ!貴官らに降伏を勧告する!きちんとアレス条約に乗っ取った扱いをすると約束しよう!
だが降伏しないならば、遺憾ながら貴官らを殲滅せねばならない!バトルメックと戦車で攻め寄せても良いし、先ほどの様に間接砲でそちらの射程距離外から連打しても良い!最後の1兵まで抗戦してもかまわんぞ!その場合はその最後の兵士まで殲滅するまでだ!」
『……こちら旗艦の船長だ。しばし時間をくれないか。各船の船長で会議をする。』
「ほう?その声は……。良いだろう、1時間の猶予を与える。ユニオン級降下船コバヤシ・マル号船長ユウジ・ヨコガワ殿。」
相手の船長は一瞬愕然とする。
『!?な、何故その船名を!?い、いやそれ以前に何故自分の名前まで!?』
「以前にも俺は貴官らと会った事があるからな。その時はドリステラⅢ駐屯軍とその捕虜と言う形だったか。当時は貴官はコバヤシ・マル号の副長であったな。」
『そうか、貴官らだったか……。貴官らなら信頼できるか。あのハリー・ヤマシタの下にいた自分らにさえも公平な扱いをして、身代金と引き換えとは言え船ごとドラコ連合へ帰してくれたものな。
これから各船の船長で会議をするが、自分は降伏に投票しよう。たぶん他の皆も同じ結論に至るはずだ。……前の船長の様に後で更迭されるやも知れんが、部下の命にはかえられん。』
「では1時間後に。」
その後、1時間どころか30分しないうちに、ユニオン級9隻から降伏の使者がキースの下へやって来た。そしてユニオン級の乗員たちは随伴して来た歩兵たちが拘束して行き、『チェックメイト騎士団』の捕虜にされたメック戦士と鹵獲されたバトルメックもまた、取り戻される。マイケル少佐は非常に喜んでくれた。身代金交渉なしで鹵獲されたメックと捕虜にされたメック戦士が戻って来たのだ。
もし敵降下船群に逃げられていた場合――先ほどまではその可能性は非常に高かった――は、身代金交渉がもしもきちんと纏まらなければ、鹵獲されたバトルメックが戻ってこないだけでなく、捕虜たちの未来も明るい物ではない。そして身代金交渉が纏まったとしても、万が一に――『チェックメイト騎士団』ほどの貢献度や信頼度なら、その危険性は低いが――その身代金として支払った額を恒星連邦政府から請求されでもしたら、確実に破産で部隊解散となるのは避けられない。
正直な話、今現在においても『チェックメイト騎士団』は破産の瀬戸際にいると言っても良い状況なのだ。今回の任務における損害で、バトルメックの大半が大規模な修理が必要であり、その部品代は部隊の予備費を切り崩しても全く足りない。一応恒星連邦にも彼らの支援者はいるから、その様な人物から借金でもできるなら、望みはある。しかしそれが叶わなかった場合、ヤバい筋の金融機関などから借金する羽目にでもなれば、結局は『チェックメイト騎士団』の終焉は避けられないだろう。
だがしかし、恒星連邦シメロン駐屯軍指揮官にして『チェックメイト騎士団』部隊司令マイケル少佐は、後日書類仕事をしていて驚くことになる。『第13アン・ティン軍団』の降下船を拿捕した事による戦闘報酬、ユニオン級降下船9隻の価格の1/10から出た分け前が、『チェックメイト騎士団』と『SOTS』で1対1、きっかり折半になる様に分配されていたのだ。
マイケル少佐は慌ててキースの居室に飛び込んで、何かの間違い、書類ミスではないかと訊ねる。確かに降下船の捕獲に際し、「張り子の虎」とは言えど戦力を出した事から、ある程度戦闘報酬を分けてもらえるのではないかと、マイケル少佐は期待していた。しかしあくまで出した戦力の評価値比率で貰えれば良い方、そしてもし出撃したメックなどの機数割りで貰えるならば非常な幸運だとも考えていたのだ。
それに対し、キースは言ったものだ。
「こちらは貴部隊には、恩があるからな。それを少しでも返したいと思っただけだ。何、うちの幹部会議を通った話だから、気にしないでかまわんよ。まあ……貴官がそれを当然だと思うような人物であれば話は別であったが、そうではない事はこの短い付き合いでも知れている。」
「いえ、しかし以前も言った通り、あの件についてはこちらの方が恩義を受けた物と思っておるのですが。」
「それならば、それでかまわんさ。今度出会った時に、それや今回の件の恩返しをしてくれればいい。そしてこちらは、更にそれをこちらへ受けた恩義だと考えて、いつかまた出会った時にこちらも恩返しをするさ。その繰り返しで、お互いが上手く助け合っていければ理想的だろう。マイナスの連鎖は困るが、プラスの連鎖ならば構うまい?」
マイケル少佐は、この若い――30歳過ぎぐらいに見える――大佐の人間性に、感銘を受ける。だが彼は、キースが未だ20歳にもならない若者である事を知らなかった。増援の部隊である『SOTS』に関する書類は一応見たのだが、部隊の立て直しのための書類仕事に埋もれていた事もあり、見落としていたのだ。『BMCOS』が全滅した頃に士官学校卒業間際であったと言う事は聞いていたので、20代半ば程度かな、老けて見えるのは苦労したからだろうな、等とは考えていたのだが。
後々にマイケル少佐は、キースの実年齢を知って唖然とする事になる。が、それは別の話である。
敵降下船群を降伏させたその日のうちに、ウォリック城のキースに割り当てられた部屋で、キースはエルンスト少尉待遇曹長から捕虜尋問の報告を受けていた。なお、駐屯軍の指揮官マイケル少佐にも、この尋問結果は書類になって届いている。マイケル少佐の部下には尋問を不得手とする者ばかりだったため、『SOTS』の尋問官が代行して捕虜の尋問を行っていたのだ。
「そうか、『第13アン・ティン軍団』連隊長タツオ・ハムラ大佐は惑星上の多数の惑星軍基地を攻略するために、降下船を多用していたのか。バトルメック戦力を効率良く輸送するために。ただ、あてにしていた第1海軍基地の推進剤タンクが、惑星公爵の命によって惑星軍が基地を放棄する際に爆破されてしまった……。」
「はい、それでジャンプポイントにまで到達するだけの推進剤が、敵の降下船には残っていなかった模様です。そのため、一時的に惑星上の何処かへ隠れようと検討中だったらしいのですが、その前にこちら側が急襲したと言うわけでして。」
「やれやれ、敵降下船群が飛んで逃げなかったのは、それが理由か。なんとも世知辛いな。」
エルンスト少尉待遇曹長の説明に、キースはため息を吐く。実のところ『SOTS』でも、降下船を戦略のために戦術的に使用することは珍しく無かったからだ。キースは重々しく言う。
「むう、我々もまた同じ愚を繰り返す事の無い様に注意せねばならんなあ。我々もこれまで、見切り発車的に降下船を用いる決断をした事が無い、とは言えんからな。後々推進剤を手に入れる可能性に賭けて。」
「確かに……。ですが、今までの例ではやむを得ない事でもあったのでは?」
「確かにそうなんだがな。しかし注意するに越したことはあるまいさ。」
「ですなあ……。」
そして話は、ネイサン曹長の事に移る。
「キース大佐、ネイサン曹長の事なのですが。」
「うん?ああ、彼にはボーナスを支給せねばならんなあ。此度の成功は、彼の活躍のおかげだ。」
「それは無論なのですが、私が言いたいのは別の件です。彼は前回行われた士官任用試験に失敗しておりますが、近いうちに彼に再度の機会を与えてはもらえませんか?」
その言葉に、キースは少々考え込む様子を見せる。
「ううむ、だが彼は優秀な戦士で熟練の偵察兵でこそあるが、指揮官適正はあまり高く無い。分隊レベルの指揮では充分な能力を見せてはいるが……。」
「ですが彼は何やら心境の変化があったと見えて、最近座学にも力を入れております。前回落ちたのは座学の不足による物です。それに確かに中隊、大隊レベルの指揮は無理でしょうが、少尉あるいは中尉として偵察兵小隊を率いるだけの力量は、実務を通して身に着けておりますよ。」
「くくく、そんなに小隊長職が嫌かね?エルンスト少尉待遇曹長……。」
失笑しつつ言うキースに、エルンスト少尉待遇曹長は大きく頷く。
「勿論それもありますな。」
「あるのか……。」
「さっさと自分の肩書から、「少尉待遇」の文字を外して気楽なただの下士官に戻りたい物です。」
すまし顔で言うエルンスト少尉待遇曹長。キースはにやりと悪い笑顔を浮かべる。
「だがその場合、ネイサン曹長を貴様にも支えてもらわねば困る。そうだな、その場合准尉で副隊長格ぐらいが適当かな。」
「そのぐらいでよろしければ、いくらでも。」
「くくく、慌てるかと思ったんだがなあ。まあ、分かった。次の士官任用試験に、受験者にネイサン曹長を押し込んでおく事にしよう。」
頷くキースに、エルンスト少尉待遇曹長もまた頷きを返し、敬礼と答礼を経て部屋を退出していく。キースは小さく笑って、それを見送った。彼は内心で独り言ちる。
(やれやれ、となるとネイサン曹長が士官任用試験に合格するまでは、偵察兵小隊は正式隊長なしかあ。次回でちゃんと合格してくれるといいんだけどなあ。
さて、あとは各鹵獲バトルメックおよびユニオン級降下船9隻分の捕虜と、船そのものを運ぶ航宙艦と航法士や機関士それに船員を、恒星連邦政府が送って来てくれないとなあ。それが来て、恒星連邦政府がそれらを持って行ってくれて、初めて戦闘報酬の鹵獲・撃破ボーナスが確定するんだしー。リアム大尉がHPG通信で状況を中央に送ってくれたけど、急いでくれないかなー、恒星連邦政府……。
万が一、何かの工作員とかに奪還とか破壊でもされたら、目も当てられないよ。流石にこの状況で援軍は送ってこないだろうけどねえ……。スパイとか工作員とかは、怖いよなあ。上手くいけばさ、『チェックメイト騎士団』が何とかなりそうだってのにさあ。)
キースは恒星連邦政府の船が、一刻も早く来てくれる様に祈るのだった。
『チェックメイト騎士団』は、はっきり言って経済的な大ピンチです。主人公たちが報酬を分配してくれなければ立ち行かないところまで来ていました。うまく部隊経営が立ち直ってくれれば、主人公たちは有能な味方部隊を手に入れたことになりますね。
『第13アン・ティン軍団』ですが、タカシ・クリタの怒りのほどが恐ろしいですね。ふがいない(とは言い切れないのですが)味方にその怒りが向けられるか、敵(主人公たちを含む傭兵全般ですね)に向けられるか……。
それでは次回もよろしくお願いします。