復旧なったケーブルテレビでキースとジャスティン大尉待遇中尉は、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下のテレビ演説を見ていた。ケーブルテレビの回線も、電話線同様『第13アン・ティン軍団』の手によって切断されていたのだが、サイモン老の弟子たちの手で復活したのだ。
『……かくして、ドラコ連合クリタ家の侵略の魔の手は打ち払われた!優勢な敵に勇敢に立ち向かい戦った惑星軍、最後の首の皮一枚で惑星を守り通してくれた恒星連邦の駐屯軍、および絶体絶命の窮地に間に合ってくれた同じく恒星連邦の救援部隊には、このドウェイン・ベックリー、この上無い感謝を贈る物である!そして武運拙く喪われた兵士たちに、最大限の感謝と共に哀悼の意を……。』
「惑星首都へ戻ったばかりだと言うのに、精力的に働いてらっしゃるなあ。」
「他の惑星のお貴族様には、政治をすべて配下や議会に投げて、ご自分の趣味の世界に耽溺している方もいらっしゃるんです。ご立派な方だと思いますが。」
「俺もそう思う。そう言う方だからこそ、最前線で政情不安なこの惑星を任された、と思うのは俺の考え過ぎかな?いや、ご自分で中央に対する政治力が無いと仰っておられたからなあ。いやまさか、押し付けられたかな?」
2人がそう言っている間に、テレビ演説は終了して惑星上のニュースを報道するニュース番組が始まった。このニュース番組も、惑星シメロン防衛成功のニュース一色である。キースはテレビを切った。
「さて、仕事に戻るか。と言うか、閣下のテレビ演説を見て内容を把握して置くのも、仕事の延長みたいな物だがな。」
「了解です。」
キースとジャスティン大尉待遇中尉は、連絡士官リアム大尉を通して恒星連邦の傭兵関係局へ提出するための書類を書き始めた。ところで、本来であれば駐屯契約期間中だけの暫定的な物とは言え、ここウォリック城の主は恒星連邦惑星シメロン駐屯軍指揮官であるマイケル少佐だ。
しかしキースはマイケル少佐よりも階級が高く、任務を受けた先も『チェックメイト騎士団』がMRB仲介であるのに対し、『SOTS』は恒星連邦政府からの直接依頼だ。だからキースたちはその気になれば、マイケル少佐の意向を無視して行動しても構わない。だがキースは、年長者であり駐屯軍指揮官であるマイケル少佐に敬意を払う形で、連絡士官リアム大尉とも協議の上、関係書類は皆マイケル少佐にも回すか、最低限そのコピーをマイケル少佐の下へ送っていた。
無論マイケル少佐側も、自分たちの書類仕事で忙しい。だからキースたちは、マイケル少佐に回す書類は最低限サインだけ貰えば良い様に仕上げてある。ここまで気を遣うと、相手によっては下手をするとキースたちが舐められるかもしれない。だがキースたちとて、相手を見て行っている事だ。現にマイケル少佐はキースたちの腰の低さに好感を抱きこそすれ、舐めてかかる様な真似はしなかった。
閑話休題、キースたちはしばらく黙々と書類仕事を続けた。だがそれも、サイモン老がキースの居室にやって来るまでの事だった。キースの卓上の内線電話機が、インターホンモードで鳴る。キースは電話機をスピーカーモードにしてスイッチを入れた。
「こちら救援部隊部隊司令室、キース大佐。誰か?」
『ぼっ……隊長!上級整備兵、整備中隊長サイモン大尉ですわ!入室許可、願いますわい!』
「妙に慌ててるな?入室を許可する。……もしや、そう言う事か?」
サイモン老は入室すると、敬礼をしてくる。キースとジャスティン大尉待遇中尉は答礼を返した。そしてキースは口を開く。
「サイモン大尉、で、鹵獲メックのうちの何機が元『BMCOS』の機体だったんだ?」
「へ?……流石に鋭いですなあ、隊長は。」
「サイモン大尉がそれだけ慌てるんだ。条件にあてはまる事柄はそれほど多く無い。そのうちの1つにヤマをかけただけさ。」
悠然と構えるキースに、サイモン老は感嘆の溜息を吐く。
「はあ……。では……鹵獲バトルメックのうち、9機が元『BMCOS』の機体でしたわい。機体胴体部の骨格の、製造番号が一致しもうした。これで『BMCOS』の物だったバトルメックはほぼ全て隊長の手に戻った事になりますのう。」
「と、さて……。こうしてはいられないな。マイケル少佐と面談して、メック戦士の捕虜の内でその9機に乗っていた者たちの扱いを「通常の捕虜」から「戦争犯罪の被疑者」に変更して再逮捕しないと。ジャスティン大尉待遇中尉、司令執務室に連絡して面談のアポイントメントを取り付けてくれ。」
「りょ、了解です。」
この9名の捕虜にはドラコ連合軍の工作員として、正式な休戦期間中に『BMCOS』の基地を襲撃し、歩兵や料理人、助整兵などに変装して『BMCOS』隊員たちを家族諸共に皆殺しにした疑いがかかっている。この場合、他にも様々な問題はあるが、特に問題となるのは「休戦破り」と「変装」だ。「休戦破り」の方は言うまでも無いが、「変装」は自軍の所属が明らかになる軍服などを着用せずに戦闘行為を行った事が問題になる。それを行えば、非合法の工作員としての扱いを受けても言い訳できない。いや、元から非合法の工作員ではあるらしいのだが。
マイケル少佐の承諾を得て行われた尋問と、他の捕虜たちへの聞き取り調査によって判明した事であるが、やはり彼ら9名は『BMCOS』襲撃のメンバーであったらしい。他にも「休戦破り」と「恒星連邦への裏切り」を働いた元『アルヘナ光輝隊』のメンバーがいる可能性も高かったが、少なくとも捕虜の中には見つからなかった。まあ、名前を変えて若干の整形手術を施した可能性は否定できなかったが。何にせよ、問題のバトルメックに乗っていたメック戦士9名の捕虜は、改めて逮捕されて収監される事になった。
3028年2月9日、この日……と言っても惑星の現地時刻と連盟標準時が大きくずれてているため、連盟標準時では昼間なのだが現地時刻では夕刻に、惑星公爵私邸にて『チェックメイト騎士団』『SOTS』のメック戦士や航空兵を招待して、ささやかな祝宴が開かれた。惑星政府や惑星公爵自身としては、派手なパレードなども行いたかったのだが、現状の惑星の財政状況でそれを行うと、極めて大きな負担となってしまう。それ故、せめて祝宴だけでもと、ささやかながら開催した、と言うわけだ。
ちなみにこの祝宴は、『チェックメイト騎士団』の送別会の意味もある。『チェックメイト騎士団』は駐屯任務遂行能力を喪失しているため、任務契約を解除して後方惑星で改めて休暇を取り、バトルメックの修理と再編制を行う事になっていた。なおその費用は、例の降下船9隻を鹵獲した報奨金の『チェックメイト騎士団』の取り分である半分で、充分に賄える。
なお報奨金の支払いは、鹵獲品や捕虜を引き取りに来るはずの恒星連邦の船は未だ到着していないが、既に確定している。惑星公爵が恒星連邦貴族としての肩書で、鹵獲品を接収してくれたのだ。形式的な意味しか無いが、これで「恒星連邦が鹵獲品を接収した」との体裁は整う。後で何か事故――接収品が奪還されるとか破壊されるとか――があっても、それは恒星連邦側の責任であり、雇用された傭兵部隊には戦闘報酬は変わらず支払われる。
宴席で、連れだって挨拶に行ったキースとマイケル少佐に――おそらくは主としてマイケル少佐にだと思われるが――惑星公爵ドウェイン閣下は言ったものである。
「せめてもの恩返しよ。わしにできる事は、このぐらいしか無いわ。すまんな。」
恐縮するマイケル少佐を見ながら、キースは内心安堵していた物だ。
ドウェイン閣下に挨拶に行った後は、普通に楽しい会食になった。惑星政府や議会の高官などは必要最小限しか呼ばれておらず、彼らも純粋にお客に楽しんでほしいと言う惑星公爵の意をくんでか、キースやマイケル少佐への挨拶は最小限に切り上げて行った。まあ、キースの前では内心の怯えが面に出てしまい、早く立ち去りたいと言う感情があらわになっていた者が半数程度いたが。半数しかいなかった事を褒めるべきか、それともその半数が内心怯えていてもきちんと挨拶をして行った事を褒めるべきか、キースはちょっと悩んだ物である。流石は前線の統治が難しい惑星を切り盛りしている者達だった。
(ま、とりあえずマイケル少佐はじめ『チェックメイト騎士団』の主だったメック戦士には挨拶したしなあ、後は食いまくるかね。せっかくの公爵閣下の心遣いだしさ。)
テーブル上に並んでいる料理は、他のもっと繁栄している惑星のパーティーで見た料理には流石に一歩譲るものの、比較的質素な食材を手を尽して豪勢に仕上げた立派な物だった。
(あ、これ美味え。どうやって調理したんだろ?レシピ聞いても教えてくれないだろーなー。
ん?この気配は……。エリーザ准尉とイヴリン曹長か。)
「あ、隊長。ここに居たんだ。ちょっとあたしが料理取ってくる間、イヴリン曹長見ててくれるかな?」
「む?ああ、かまわんぞ。」
「よ、よろしくお願いします大佐!」
「うむ。……あー、そんなに硬くなるな。今日はせっかくの宴の席だ。ま、無礼講とまでは行かんが、公爵閣下の心づくしでそう堅苦しい席でもない。肩の力を抜け。」
必死になって肩から力を抜こうとするイヴリン曹長を見て、キースは思う。
(あー、エリーザ准尉が良く俺とイヴリン曹長を2人っきりにしようと画策するのは、まあ……そう言う事なんだろうなあ。だが、俺自身の気持ちの方はどうなんだろ?う~ん、まあ、まだ妹、だよなあ。……マテ、「まだ」だって?将来的には変わるって事かよ!?)
キースが人知れず混乱していると、イヴリン曹長が話しかけて来た。
「あ、あの……。キース大佐、もしかしてご迷惑だったでしょうか?」
「む?何故そう言う考えになる?」
「いえ、ご視線が泳いでいたので。」
「あー、それは関係ない別の事でちょっとばかり考え込んでいただけだ。貴様といて、迷惑に感じる事は無いな。それどころか、疲れてささくれた精神が癒されるぐらいだ。」
「え……。」
イヴリン曹長の表情が、ぱっと綻ぶ。キースもまた、微笑んだ。
(まあ、今のところは「まだ」妹だな。それでいいだろ。後々の事は、後々考えりゃいいさ。)
「あ、何か飲みませんか?」
「そうだな。ボーイさんを呼ぶか。ああ、君。私と彼女にジンジャーエールをくれないか?」
「は、ただ今。」
2人はその後、旺盛に飲み食いして楽しんだ。イヴリン曹長も、日頃の訓練その他で大量にカロリーを消費するので太る心配は無い。ちなみにエリーザ准尉はなかなか戻って来なかった。しかしこっそり物陰からチェシャ猫笑いを湛えた視線がキースとイヴリン曹長を監視しているのを、キースはちゃんと感知していたりする。まあ、既にキースにとっては慣れっこになっているので、気にするほどの事はなかったのだが。
翌日の3028年2月10日、この日は『チェックメイト騎士団』が惑星を撤退する日である。キースはウォリック城の司令執務室で、マイケル少佐から最後の挨拶を受けていた。
「ハワード大佐、今回は本当にお世話になりました。貴部隊は、今後代わりの駐屯軍が到着するまで?」
「ああ。それまでは留守番部隊として、この惑星に留まり続ける事になるな。あくまで留守番だから、形式上は駐屯軍司令官の座も引き継がない。この部屋と執務机の鍵は預かるがね。」
「なるほど。では司令執務室と、執務机の鍵をお預けします。……名残は惜しいですが、ではこれにて失礼します、キース・ハワード大佐。」
マイケル少佐は敬礼を送って来る。キースもそれに答礼しつつ、応えた。
「うむ、留守はしっかり預かる。ゆっくりと休んで、部隊と隊員の傷を癒してくれ、マイケル・アダムソン少佐。」
「はっ!」
マイケル少佐は、踵を返すと部隊司令室を出て行く。キースは直後、軍服の襟を緩めながら、バトルメックの格納庫へ急いだ。そして彼はTシャツとトランクスだけの格好になるとS型バンシーの操縦席に飛び込み、機体を発進させる。行き先は、ウォリック城の降下船用離着床だ。そこには既に、『SOTS』バトルメック部隊のうちキース直卒のA大隊第1中隊と、第4戦車中隊の稼働全車輛、そして独立歩兵中隊……つまりは今ウォリック城に来ている、フォートレス級ディファイアント号に搭載されている全戦力が集まっていた。なお他の戦力は、臨時の拠点として借り上げている惑星軍第2海軍基地に帰還している。
3隻のユニオン級降下船がエンジンを噴かし、ゆっくりと夕焼け空に舞い上がって行く。キースは号令を発した。
「礼砲、撃て!『チェックメイト騎士団』に対し、敬礼!」
そこに集っている全戦力が、エネルギー兵器もしくは空砲で、礼砲を打ち上げる。そして歩兵部隊を除き、全メック、ハッチから身を乗り出した全戦車兵が、上昇して行く3隻に敬礼を送った。キースは心の中で、『チェックメイト騎士団』にエールを送る。
(部隊、きちんと立ち直ってくれよー。資金的には問題ないだろうけど、メック部品調達が上手く行くか、だな。契約内容からすると、ウチの部隊みたく恒星連邦の備蓄を定価で買えるってわけでも無さそうだしなあ。となると、部品取り寄せに時間がかかるか、さもなくば割増の値段で入手するのが一般的、かあ。
ホントに頑張ってくれよー、マイケル少佐。)
まあ、バトルメックや気圏戦闘機の部品調達を急がねばならないのは、『SOTS』も同じ事だ。予備部品はあらかじめ潤沢にあるものの、むやみに使っていては何時かは尽きる。特に今回は、新人のメック戦士たちや航空兵たちの機体が、かなりのダメージを負っている。
書類の提出が契約期間中であるならば恒星連邦の備蓄を定価で購入可能だが、契約期間は引継ぎの駐屯軍が到着するまでだ。部品購入の書類を、急いで作ってしまわねばならない。こちらはもう少し後でもかまわないが、消費した弾薬の補填請求書も必要だ。
『チェックメイト騎士団』の降下船群が空の向こうに見えなくなってから、キースは部隊を撤収させた。これから彼には膨大な書類仕事が待っている。
(さて、俺も頑張るか。契約内容的には、『SOTS』はかなり恵まれてる方だし。ああ、他にも歩兵、戦車兵、助整兵を募集しないと。募集要項を惑星上の職安に出すのはライナーと総務にやってもらおうかね。この惑星なら、惑星を出て一旗揚げようって人間は多いだろうし。
ああ、やる事が級数的に増えて行くよ……。)
キースは気力を奮い起こして、格納庫にS型バンシーを戻した。
留守番部隊とは言え、その扱いは正規の駐屯軍と大差ない。キースはウォリック城の損耗した地雷原を、自分たちの持って来た振動爆弾で復旧させる。無論この分は、消費した弾薬扱いで後日恒星連邦に請求するため、書類にしっかり残して置く。この作業には、この惑星に来る前に雇った新入りの常時雇用助整兵を主に用い、仕事に慣れさせるのと同時に、将来の上級助手整備兵候補として教育する事も目論んでいる。
また、訓練がてら軽量級気圏戦闘機であるダート中隊とエッジ中隊、そして気圏戦闘機モードの降下猟兵隊をローテーションでCAP(戦闘空中哨戒)に送り出す。CAPに送り出さなかった新人航空兵の最重量級気圏戦闘機隊カバラ中隊は、アロー、ビートル両中隊の先任航空兵たちに模擬空戦演習で扱いてもらう。更にバトルメック部隊も、ウォリック城に駐留しているA大隊第1中隊以外の、現在第2海軍基地に仮住まいしている分の部隊は、ヒューバート少佐とアーリン少佐に監督してもらって、これも徹底的に演習で扱かれている。
キースは可能な限りウォリック城と第2海軍基地をフェレット偵察ヘリコプターで往復し、両者の面倒を見ていた。しかしそれが可能であったのも、1週間後に歩兵、戦車兵、助整兵の応募書類の山が一気に届くまでであった。
キースはぼやいた。
「なんだこの10歳の戦車兵志願者は。こっちはこっちで75歳の歩兵志願者?サイモン大尉よりずっと年上じゃないか。応募資格を満たして無いぞ。なんでこんなのが第1次の書類選考に残ってるんだ?ライナー!」
「すいません、新人の総務の娘がミスをした様です。私もチェックが漏れてました、申し訳ありません。」
「むう……。第2海軍基地の方の事務処理を任せるために、総務課長ケイト女史を向こうに置いて来たのが痛いな。ああ、そこまで気にするなライナー。ミスは誰にでもある。大事に至る前に発見できたんだ。ただ、この書類の一山は差し戻して再チェックさせてくれ。」
「了解です。」
書類を一山差し戻したキースは、別の書類の山に向かう。隣の机ではジャスティン大尉待遇中尉が、その隣に持ち込まれた机ではマテュー大尉待遇中尉が、反対側の隣の机ではサラ中尉待遇少尉とルートヴィヒ・フローベルガー中尉が、それぞれ書類の山に向かっていた。
普段なら、ヒューバート少佐とアーリン少佐が手伝ってくれているのだが、彼らは今のところ第2海軍基地に常駐している。ちょいちょいとウォリック城まで手伝いに来るのは無理だ。それ故に、火力小隊『機兵狩人小隊』のサラ中尉待遇少尉と、偵察小隊のルートヴィヒ中尉が戦力として引っ張り出されたのだ。
また、忙しいのはキースたちだけではない。エリオット少佐率いる表側からの監査チーム、アイラ曹長率いる裏側からの監査チームも大車輪で働いている。と言うか、彼らの方が忙しいやも知れない。いや、これからの方がもっと彼らは忙しくなるのだ。『SOTS』にスパイの類が入り込む危険性は、以前よりもずっと高い。彼らの役目は重大であった。
採用者の書類を捲りながら、キースは厳しい目で言う。
「歩兵119名、戦車兵72名、常時雇用の助整兵121名、か。充足率は一気に上がったなあ。まだ完全じゃ無いが。そして……スパイの疑いがある者が15名。内7名は疑いが軽度のため、要注意人物として惑星軍に通達。6名は疑いが濃いため、これも惑星軍に通報、監視が始まる、と。そして残り2名はスパイ確定したために逮捕、尋問後に銃殺、か。」
「流石ですね、これだけ狙われるとは。一介の傭兵部隊への扱いじゃありませんよ。」
「褒められてる気がしないんだがね、リアム大尉。」
キースの言葉に、連絡士官リアム大尉は苦笑を返す。
「充分褒めてますとも。これだけ狙われると言う事は、それだけ評価されてるって事でもあるんですから。まあ敵手からの高い評価は、危険でもありますがね。」
「キース大佐、こちらによけた4通の書類は、あの子らの物ですね。幾多の歩兵志願者の中から、特別に大佐とライナーさんが面接した。」
ジャスティン大尉待遇中尉の言葉に、リアム大尉が妙な顔をする。流石にこれだけ部隊が大きくなると、キース自身が1歩兵志願者の面接に出て来る事は無い。いや、無いと言うよりも忙しくてできない。それを曲げて、キース自身が出張ったのだ。リアム大尉が奇妙に思うのに、無理は無い。
キースは眉間の皺を揉み解しつつ、言葉を発する。
「その4名か……。書類見て、体力測定データ見て、変だと思ったらやっぱりそうだったんだ。実機に乗った事があるのはアーシュラ・リーコック1人だけだったが、残りのルーシャン・パートランド、グレン・ヤングハズバンド、アリシア・ディーコンの3名も、バトルメックに搭乗する事を前提とした訓練を受けて来ていたんだ。シミュレーターだけなら、飽きるほど乗ったらしいな。」
「ほう?なるほど、話が見えて来ましたな。」
「アーシュラ・リーコックはメック戦士一族の4女で、一応予備の予備のまた予備ぐらいの扱いでメック操縦訓練を受けたらしい。だが結局はコムスターの僧院送りにされそうになり、反発して家を逃げ出したそうだ。で、商用降下船の調理師補助として宇宙を渡り、この惑星に来たらドラコ連合の惑星襲撃に巻き込まれて、惑星を逃げ出した商用降下船に置いていかれたそうだ。
他3名は、失機者の一族の出だ。メック戦士の地位を取り戻すため、幼少時からメック操縦の訓練ばかりして育ったらしい。ただ、いつかメック戦士の地位を取り戻したら、などと夢みたいな事ばかり語る親に愛想をつかし、家を出た。あとはアーシュラ・リーコックと似たような形でこの惑星に流れ着き、戦いに巻き込まれて身動き取れなくなった様だな。」
一旦話をとめ、キースは一拍置いて再び話し出す。
「で、だ。歩兵で駄目ならば助整兵でも戦車兵でも、それこそ降下船の調理師補助でもいいから雇ってくれ、この惑星では職にありつけない、と言われてな。だからメック戦士訓練生として受け入れると言ったら、泣かれてなあ……。ああいや、嫌だったわけじゃあなく、職に就けたうれし泣きだったらしいんだがな。本人たちの言う事には。」
「メック戦士訓練生ですか。そう言った係累の無い子供は、現地徴用スパイにもってこいなんですがね。大丈夫ですか?」
「アイラ曹長たちに裏を取ってもらったから、大丈夫だ。そうでなければメック戦士訓練生になど、怖くてとてもとても。」
リアム大尉にキースは首を竦めて答える。ここでジャスティン大尉待遇中尉が疑問を呈した。
「ところで、あの子たちにはメック戦士の地位への拘りとか憧れとかが無いみたいですね、話を聞く限りでは。それをメック戦士訓練生にして大丈夫でしょうか?」
「親たちに対する反感が、そのままメック戦士の地位への無関心に繋がった様だな。だが最初歩兵として入隊しようとしていたからな。命令に従って戦う事への忌避間は、無い模様だ。だから今後の教育しだいだろうよ。」
キースはそう言って、書類を机上に置いた。ちなみに後日、メック戦士訓練生として採用した4名を実機に乗せてみたところ、流石に実戦経験者には及ばないものの、かなりの技量を見せたのである。
新規隊員を迎え入れたすぐ翌日の事である。深宇宙通信施設よりウォリック城に、ジャンプポイントからのメッセージを受け取りに来る様にと、連絡が入った。キースはもし機密性の高い情報であった場合の事を考え、総務課員ではなしに連隊副官のジャスティン大尉待遇中尉を派遣する。そしてそれは正解であった。
そのメッセージの内容は、ジャンプポイントに交代の駐屯軍である傭兵大隊『流星鉄騎団』、傭兵大隊『エルドレッド聖戦士隊』、傭兵大隊『雷撃巨砲隊』の降下船を乗せた、インベーダー級ムラトーリ号他2隻が到着した事を告げる物であった。メッセージは、ムラトーリ号が発した物だったのである。
だがメッセージはそれで終わりでは無かった。キースはメッセージの続きを読む。
(何々?「コウタイノブタイトウチャクゴ、イップンイチビョウデモハヤク、ワクセイニューアヴァロンヘキカンセヨ。ヨウヘイカンケイキョクキョクチョウ、ゴドウィン・ヒンシェルウッド。」……。「交代の部隊到着後、1分1秒でも早く、惑星ニューアヴァロンへ帰還せよ。傭兵関係局局長、ゴドウィン・ヒンシェルウッド。」……か。1分1秒でも早くとは、一体何事なんだろな。
まあ、何にせよ惑星公爵閣下と今のうちにお別れの挨拶をしておいて、惑星撤退の準備をしておいた方がいいんだろうなあ。)
メッセージの印刷された用紙をシュレッダーにかけると、キースは惑星公爵ドウェイン閣下への謁見を申し込むために、公爵私邸へと電話をかけた。
この日ウォリック城の離着床に、『流星鉄騎団』、『エルドレッド聖戦士隊』、『雷撃巨砲隊』の各傭兵大隊の、それぞれの第1中隊を載せたユニオン級降下船が着陸していた。この3隻以外の6隻のユニオン級降下船は、今頃は惑星軍から借りた他の基地に着陸しているはずだ。そして3隻のユニオン級に乗って来た新たな駐屯軍の指揮官たちは、ウォリック城の司令執務室でキースの前に並んで立っていた。
3名の指揮官中で最年長で、かつ最も軍歴の長い『流星鉄騎団』アレグザンダー・エインズワース少佐が代表して口を開く。
「惑星シメロンへの留守居役、ご苦労様でした!混成傭兵連隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大佐!」
「うむ、着任を歓迎する。傭兵大隊『流星鉄騎団』部隊司令、アレグザンダー・エインズワース少佐。傭兵大隊『エルドレッド聖戦士隊』部隊司令、アントニー・エルドレッド少佐。傭兵大隊『雷撃巨砲隊』部隊司令、コーディ・エヴァレット少佐。
書類によると、エインズワース少佐がこの駐屯任務中は一時的に大佐待遇となり、3つの傭兵大隊をまとめた連隊の総指揮を執ると言う事であったが……。相違ないかね?」
「はっ!間違いありません!付け加えますと、現状では惑星シメロンに1個連隊規模の駐屯軍を置きますが、後々は徐々に削減し、半年後には1個大隊規模に戻す事になっております!」
キースは頷くと、懐から鍵束を取り出した。
「これがこの司令執務室の鍵と、執務机の引き出しの鍵だ。受け取りたまえ、惑星シメロン駐屯軍新司令官、アレグザンダー・エインズワース大佐待遇少佐。この惑星の事を、頼んだぞ。」
「はっ!……ハワード大佐、大佐は今後どの様に?」
「私は恒星連邦傭兵関係局から、早急に帰還する様に命令を受けている。1分1秒でも早く、とな。何か用事でも申し付かるのだろうさ。お互い使い走りは辛いな。
そんなわけで、私は自分の部隊と共に即座に惑星撤退だ。もう準備はできているんだ。では、また会う事があればその時はよろしく頼む。貴官らの武運を祈っている。では、また会おう。」
敬礼と答礼をもって、キースは3人の傭兵大隊部隊司令と別れ、ウォリック城の司令執務室を立ち去った。
軌道に向けて上昇するフォートレス級降下船ディファイアント号の部隊司令室で、キースはシートを倒してそれに身を預け、上昇時のGに耐えていた。今頃は『SOTS』の他の降下船も、軌道上に向けて惑星軍第2海軍基地を出立しているところだろう。ディファイアント号は軌道上でそれらの降下船群と落ち合い、シメロン星系の天の北極、ゼニス点ジャンプポイントへと向かうのだ。
惑星ニューアヴァロンで、自分を何が待っているのか、今のキースには知る由も無かった。
『チェックメイト騎士団』は、司令官の器量しだいですが、まあまず助かったと言えるレベルまで落ち着いて、惑星撤退しました。そして主人公たち『SOTS』もまた……。
はてさて、昔からの読者の方は既に知っておられるでしょうが、急遽首都惑星であるニューアヴァロンへ呼び戻された彼を待っているのは、いったいなんでしょうね(笑)。