Tales of Trust -信じることを知るRPG- 作:keim
うるせえ!!
なんだよ、工事か!!
それとも下でパンでも作ってんのか。
ふざけんじゃねえ、寝れないだろうが!!
さっきから耳障りな音がして、眠気が薄れていく。
渇いた木材に何かをぶつけるの音。
つまりあれか。
勢いよくドアを誰かがノックしてんのか。
これは文句を言わないと気が済まない。
人の安眠を邪魔するとか、万死に値する。
布団を勢いよくはね除けて飛び起きる。
「今、何時だと思ってんだああああああ!!」
ドアまで一気にダッシュ。
「9:30だボケえええええええ!!」
勢いよくドアがあいた。
目の前に星が飛んだ。
ドアと顔面が追突事故を起こしたらしい。
痛い痛い痛い。
これ、鼻とか折れてない?
鼻血とか出てない?
思わず鼻を押さえて踞る。
「天罰よ」
冷たい声が上から降ってきた。
視線だけを上に向けると、アンネが冷めた目を向けてきていた。
こんにゃろう。
なーにーがー天罰だ。
「まずなぁ、聖女見習いが"ボケ"はないだろ」
「ボケにボケって言って何が悪いのよ」
口が悪い。
未来の聖女様予定らしからぬ口振りだ。
こいつに会うまで、聖女見習いって虫も殺したことない大人しくて可憐な女の子ばっかりだと思ってた。
とんでもない勘違いだ。
虫どころかボアぐらいなら手で捻り潰しそうなくらい逞しくていらっしゃる。
「口悪いなぁ、おい。
てるてる坊主みたいな見た目してるくせに」
聖職者が外に出てるときに着てるローブ。
あれ、裾が妙に長くてヒラヒラしてて、ついでにフードがついててさ。
俺、ずっとてるてる坊主みたいだと思ってたんだ。
「馬鹿にするなー!!」
アンネがペチペチ叩いてくる。
聖女見習いってなんだっけ。
聖職者ってなんだっけ。
こんな暴力振るっていいんですか、女神様。
「で、俺に何の用?」
「……あんたねぇ、私……9:00に聖堂に来てって言ったじゃない」
そんな事もあったなぁ。
たしか、晩飯のこと考えてて適当に聞き流した気がする。
「ソウダッタソウダッタ」
「……気になんないの、結果」
あー。
試験の結果な。
「そりゃ、通ってるに決まってるだろ。
俺ほど有能な男はそうそういねえからな」
アンネが呆れたような目を向けてくる。
その上、思いっきりため息をつく。
なんだそれ。
その、残念なものを見るような目は。
「この先が思いやられるわー」
「先があるってことは通過してたってことだな。
よし、朝飯食いに行こうぜ」
「なんか……もやもやする」
「細かいこと気にすんな。
老けるぞー」
「誰のせいでもやもやしてると思ってるの!!」
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ここのサンドイッチは美味しい。
レタスが美味しいのか、パンが美味しいのかなんなのかよくわからないけど。
これにツナとかそういう系のが入ってたらさらに美味しいと思う。
「ツナサンド食べたい」
「え」
「なんだよ」
アンネがあり得ないといった顔をする。
「……いや……私、魚嫌いだから……」
「子供みたいだな」
「うるさい。
……私がいた修道院、北方のほうでさ。
冷凍の不味い魚しかなかったのよ」
傷んだ魚は確かに不味い。
腐ってなかったら食うけど。
「……こんど俺の故郷に来たらいい。
新鮮な魚、食わせてやる。
新鮮なヤツは旨いぞ」
故郷……っていうか、まあ……故郷か。
俺が長らく住んでたのは港町から近い村だ。
よく新鮮な魚が来ていた。
肉よりも魚の方が食卓に並ぶ回数は多かった。
「……まぁ、期待しないで待っとくわ」
「そこは期待しろ」
「だって嫌いなものは嫌いだもーん……」
もーん……って子供かよ。
小さい子どこもか。
アンネ自身もそう思ったようで、恥ずかしそうに咳払いする。
「あー、あと明日。
よろしくね……頑張ろう」
「ん? あ、ああうん」
そういや、明日最終試験だったな。
……これで良いのかって思うことはあるけど。
でも、これで良いんだよなって悩むのは俺らしくない。
「私、ずっと聖女になりたくってね。
誰の助けになりたい、役に立ちたいって。
そりゃ今の私だって色々、人のために出来ることはあるけどね。
でも、聖女になって力を授かったらもっといろんな事が出来る」
少し頬を赤く染めて、アンネが話す。
気恥ずかしさってより、ちょっとした興奮だと思う。
何て言うか、純粋なやつだなーって思う。
人のために何かしたい、か。
それを堂々と言えるって、素晴らしいよな。
俺には到底できない芸当です。
「ま、頑張ろうや」
「うん」