道具屋さん、始めました   作:飛沫

1 / 66
猫が出てるのは趣味です。
猫大好き!


第一章
ユニコーンの水薬


 とある農村にある小さな一軒家。

 一匹の真っ白い猫が、チリンチリンと鈴を鳴らしながら階段を上っていた。尻尾の半ばくらいに結ばれた赤いリボンに鈴が付いており、猫が動いたり尻尾を揺らすたびに、チリンチリンと可愛らしい音が辺りに響く。

猫は身につけているエプロンを翻しながら階段を上り終える。着いた先は屋根裏部屋だ。

 掛かっているカーテンのせいで部屋は薄暗いが、猫にはしっかり中の様子が見えていた。

 数冊の本が開かれたまま置かれている机。

 服が掛けられた椅子。そして膨れたベッド。

ベッドの傍によれば、布団から濃い灰色の髪がはみ出している。確認してから猫は尻尾を振ってみる。

 

 リンリン

 

 軽やかな鈴の音が室内に鳴り響くが、ベッドの主は起きる気配がない。

 そもそも身じろぎ一つしていないので、熟睡して耳にも入ってないのだろう。

 猫は尻尾を振るのを止めてベッドをジッと見つめる。そして、腹部辺りの見当をつけると、そこ目掛けて勢いよく飛び跳ねた。

 

「起きるニャーン!」

 

「ごばはぁっ!」

 

*  *  *

 

「ゴフッゲハッ……ちょっとエンス。もうちょっと優しく起こしてって何度も頼んでるじゃない。この起こし方だといつか絶対に内臓が飛び出るわよ」

 

「ボク、ちゃんと鈴鳴らしたニャン。シルキちゃんが起きなかったんだニャン」

 

 上手く息ができず、むせ込みながら抗議をしてみるものの、飛び乗ってきた猫は悪びれもせずに涼しい顔をしている。

 この子はエンス。ケット・シーと呼ばれる猫の妖精で、二年前にわぁわぁ騒ぎながら川に流されていたのを助けてから、料理や掃除等の一切の家事をやってくれている。

 今だってきっと、朝食が出来たから起こしに来てくれたのだろう。

 エンスがいてくれるお陰で、私はギリギリまで寝ていられるのだから、強く文句を言える立場ではない。「分かったわよ」と起き上がる。

 

「今日の朝はシルキちゃんが好きな目玉焼きとソーセージニャン。早く支度して一緒に食べるニャン!」

 

「はいはい」

 

 ……何時も思うんだけれど、私の好物はチーズとベーコンなのに、なんでエンスは間違えるんだろう。

 

*  *  *

 

「さぁてと。お腹も膨れたことだし、仕事を始めますかね」

 

 朝食を食べ終えた後、私は仕事道具を抱えて地下室へとやってきた。

 この地下室は、上の家の規模に比べればそこそこ広くて立派な作りをしている。逆をいえば地下室に力をかけ過ぎて、家が小さくなったんじゃないかと思う。あくまで想像だけれど。

 抱えていた道具を机の上に置いてから、銀の燭台に火を灯す。

 銀には退魔と浄化の力があるとか。まぁ、私がこれから作るモノは、そこまでする必要はないのだけれど。この燭台を使うと、なんか空気が変わったような感じがして気合が入るから使わせてもらっている。

 手元が明るくなったので、持ってきた水を沸騰させる為の準備をする。

 使うのは村のあちこちから湧いている湧水だ。

 特別な力があるわけでもない普通の水だけれど、綺麗な水だから濾過とかの手間がないのは楽でありがたい。

 そもそもこの村の主要な産業は、豊かな水を使って牛や羊や山羊を育てる酪農だ。チーズやバター、ヨーグルトを作っていれば、色々な商人が買い付けに来てくれるので、充分に生活できる。

 それをあえてせずにこうやってせっせと道具なんかを作っているのは、女一人と猫一匹じゃ育てられる動物の数なんて限度があるし、私がやってるモノ作りは他にしている人がいないので、そこそこ商売が成り立つからだ。隙間産業万歳。

 そんなことをぼんやりと考えながら、乳鉢を引っ張り出す。すり潰すのはユニコーンの角の欠片だ。

 ユニコーンの角は病気や毒、うまい使い方をすれば死者すら蘇らせられる万能薬だが、万能だけあってお値段は非常に高い。たいていはどっかの王様やお金持ちの貴族様の持ち物だ。

 けれど、ユニコーンの角は欠片になると途端に価値がかなり下がる。

 欠片だと治せるモノが限定されてしまうし、それを使うくらいなら他の薬で、と、使い道が無くなってしまうのだ。そのくせ、貴重品ということで値段は安くはなるものの、やっぱり他の品に比べれば割高のまま。だから、店の方でも欠片は持て余し気味になる。そこに私は目をつけて、知恵を絞って使い道を考えたのだ。

 

「〜〜〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら欠片をゴリゴリ潰していると、水が沸騰してきた。火を止めてすり潰した欠片を投入して、ガラス棒で掻き混ぜる。

 一度ガーゼで濾してから、冷めるのを待ちつつ陶器でできた仕切り箱を用意する。冷めたら均等になるよう水を注いで、布で包んでいた小さな目玉を取り出した。

 コレは防腐処理の魔法を施した、チカトリスの目玉だ。見た瞬間石になるという成鳥のコカトリスの目玉と違い、幼鳥のチカトリスの石化効果は薄い。見たところでしばらくの間、身体が痺れて動けなくなる程度だ。コレも考えれば、色々と使い勝手のいい道具になる。

 仕切り箱に移した水がすっかり冷めたのを確認してから、チカトリスの目玉を箱の前に付き出す。満遍なく箱を見せてから、ひっくり返して軽く叩いてみれば。

 コロリと、親指くらいの大きさに仕切られた水が箱から転がり落ちてきた。一つ摘んで力を加えてみれば、グニグニとゴムのような弾力を指先に伝えてくる。多少強く押しても、潰れる気配はない。

 そのまま口に入れて噛んでみると、プチッという音と共に膜が破れて、少しばかり苦味のある水が口内いっぱいに広がった。

 

「ん、この味なら配合も完璧ね」

 

 ゴクリと飲み干せば、なんとなくだけれど身体が軽くなった気がする。

 とりあえず完成だ。箱の中に今作ったユニコーンの水薬をしまって、お店を開けるべく上の階へと戻った。

 

*  *  *

 

 道具の陳列をしていると、扉のベルが鳴ってお客さんが入ってくる。

 

「いらっしゃいませ」

 

 立ち上がりながら振り返れば、立っていたのは顔馴染みの行商人さん。村の乳製品を買い付けた後、急いでいなければ寄ってくれるお得意様だ。

 

「久しぶりシルキちゃん、あの水薬あるかな? ちょうど無くなっちゃって」

 

「ああ、今日の作りたてがありますよ。」

 

「そりゃ良かった! じゃあ仲間にも頼まれてるから十二個で。これで足りるかな?」

 

 差し出されたのは親指の爪くらいの大きさのガーネット。行商人の人たちは荷物になるのを面倒がって、銀貨の代わりに宝石で支払う人も結構いる。宝石とは言っても、アクセサリーに出来るほど質のいいものではないけれど。どちらかと言えば扱いは鉱石に近いか。

 

「少々お待ちください……。はい、これなら十二個ほぼちょうどのお値段になりますね。ありがとうございます」

 

「いやぁ、この薬を持っているだけで安心して仕事できるんだよね。助かるよ」

 

 最新の鉱石表で値段を確認してから頷けば、行商人さんは喜んでユニコーンの水薬を十二個分取っていく。

 この薬は値段の関係上、一般家庭ではあんまり需要がないけれど、行商人さんたちの間では好評だ。風邪や食あたり、関節の炎症等何にでも効くから複数の薬を持ち歩く必要がなくなるし、効果も飲んでから数分で出てくる。

 だから、旅の途中で具合が悪くなっても大丈夫、というわけだ。

 

「それにしても一人四個はたまに不安になるんだよね。もう一個ぐらい何とかならない?」

 

「それ偶に言われるんですけれどね。その薬沸騰させて作っているとは言え、安心して飲めるのは二ヶ月くらいだから、四個ぐらいじゃないと無駄になると思うんです。だいたい皆さん、そんなにしょっちゅう具合悪くなる訳じゃないみたいですし」

 

「あー、言われて見ればそうかも。じゃ、今日の所はこれで。次もよろしく」

 

「はい、お待ちしております。良い旅を!」

 

 手を振って見送れば、行商人さんは笑顔で店を出ていく。満足してもらえて何よりだ。

 閉まった扉を見つめていたら、いい匂いが鼻孔をくすぐる。お、と首をそっちの方に向ければ、エンスが木のトレーにコーヒーと牛乳を載せて立っていた。

 

「シルキちゃん、お昼作ったから一緒に食べるニャン」

 

「もうそんな時間か。じゃ、一旦休憩にしよっか」

 

「今日のお昼はシルキちゃんの好きな卵とトマトのサンドイッチにしたニャン!」

 

「……ありがとうねー」

 

 だから、好物違うってば。美味しいからいいけれどさ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。