道具屋さん、始めました   作:飛沫

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ちょっと短いのですが、キリがいいので。
月に二本くらいアップできるよう頑張りたいです。


初めての買い取り・上

 商品の数を確認して在庫を補充していると、カウンターを雑巾がけしているエンスが呟いた。

 

「お客さん来ないニャン」

 

「何言ってるのよ、さっき一時間で三人も来たじゃない。三人よ、三人。凄いことじゃない」

 

 流石に一人も来ないなんてことはないけれど、私の店は一日で二十人も来てくれれば大繁盛になる。正直、多いのか少ないのかは人の判断によるのだろうが、それでしっかり生活できるのだから、私は充分な人数だと思ってる。

 

「でも暇でつまらないニャン。庭に出て夕飯に使えそうなハーブを摘んできてもいいかニャン?」

 

「いいわよー別に。あ、そういえばエンス、また空いてる所にキャットニップとエノコログサ植えたでしょ。庭は傷薬に使う薬草とハーブの為にあるんだから、あんまり趣味に走らないでよ」

 

「……シルキちゃんが何を言っているのか、ボクさっぱり分からないニャン」

 

「とぼけるんじゃないの」

 

 明後日の方を見ながら答えるエンスの頭をガシガシと乱暴に撫でていると、ベルがなって扉が開いた。お客さんかと振り返ると、どこかで見た大柄な男の人が半分だけ顔を出してこちらを伺っている。

 ええとあの人は……ああ、思い出した。この前コピアさんの店にいた運び屋をやっていた人だ。名前は確かマ、マク……マクラ? マクア?

 

「すまん、君がシルキという女性であっているだろうか?」

 

「え? あ、はい」

 

「俺はマクナベティルと言うんだが。覚えているだろうか」

 

「ええ、覚えてますとも」

 

 ああ、そんな名前だったっけ。長い名前だとしっかり覚えてられないのよね。

 

「それで、こんな所までどうしたんですか?」

 

 中に入るように促して、用件を尋ねてみる。

 交易が盛んなあの町から、こんな田舎の村にまでわざわざ足を運ぶ理由が、私には思いつかなかったからだ。

 たまに食道楽みたいな人が、村にまで来てチーズやバターを買いに来ることはあるけれど、それだったら直接牧場の方に行くだろうし。

 

「ああ、コピアが王都に出かけてあの町を留守にしているのは知っているか?」

 

「言ってましたね、そんなこと」

 

 この前買い物した時に、一ヶ月くらい居ないような事を口にしてたわね、そういえば。

 

「それで、コピアから出かける前に言われたんだ。俺が買い取ってもらう商品の大半は、シルキという女性が買っていくと。だから自分がいない間は、直接本人の所に行って買い取ってもらえばいいってな」

 

「か、買い取りですか!?」

 

「え、あ。 な、何か問題があったか?」

 

 思わず大きな声を上げると、マクナベティルさんはビクリと身体を震わせ、私を見つめた。私とエンスなんかを片手で抱えられそうな体格の人が、こんな事でビックリするなんて。見かけほど気が強くないのかな。まぁ、それは置いておくとして。

 

「いえ、買い取りって……そこまでして、元が取れるのかと思いまして」

 

 この村からダンジョンの町までは、馬車でほぼ一日。馬で来ても六時間以上はかかるハズだ。

 時間もかかるし、お金もかかる。それでも単価の高い品ならば、かける価値はあるだろうが私がコピアさんの店で買う品の半分以上は訳あり品みたいなものだ。マクナベティルさんがここまで足を運ぶ程の儲けはないと思うのだけれど。

 お金の心配をする私にマクナベティルさんはキョトンとした表情をするが、直ぐに「それなら大丈夫だ」と返してきた。

 

「俺には、相棒がいるからな。此処に来るのにも連れてきてもらったんだ」

 

「ああ、そうなんですか」

 

 マクナベティルさんて、ダンジョンで運び屋やってたんだっけ。よく考えれば足になる動物がいるか。うーん、でもかかる時間の事を思えばやっぱりもったいない気がするんだけれどなぁ。

 

「二時間もかからなかったかな。いつもダンジョンの中ばかりだから、ここに来る途中の景色は新鮮で時間が経つのを忘れたくらいだ」

 

 なぁ? なんてマクナベティルさんが扉越しにいるであろう何かに話しかける。

 二時間足らずでここに来れる動物ってどんなのだろう。天馬とか?

 好奇心のまま、そばによって外で待機しているのであろう生き物を見てみると。

 いたのは、牛ぐらいの大きさの犬(多分)だった。艶々した黒い毛皮の中で、目玉だけが宝石のように赤く輝いている。コ、コイツは。

 

「シルキちゃん! ボク怖いニャン!」

 

 エンスが私の後ろに隠れてギュウとしがみついてきた。そりゃそうだろう、目の前にいるのはブラック・ドッグ。恐怖心だけで人を殺せる魔犬で、ドラゴンの仲間に分類されるぐらい恐れられている魔物だ。

 ビビりながらも、心のどこかで納得していた。確かに魔物がうじゃうじゃいるダンジョンなんかで運び屋稼業をするのなら、これぐらいおっかない魔物を従えてないと無理だよね。けれど……。

 どうしよう、と腕を組んで思案する。あの町ならそんなに珍しくないかもしれないけれど、ここは魔物なんか無縁の田舎の村。こんな大きくて、人なんか簡単に噛み殺せそうな外見の犬が店の前にいたら大騒ぎだ。てか、牛や山羊が見たら絶対にパニックになる。下手したらショックのあまり乳が出なくなるかもしれない。

 

「あの、ですね」

 

「ん?」

 

「家の裏、小さいんですが庭があるんですよ。天気もいいですし、良かったらそっちで話をしませんか? あ、勿論そちらのブラック・ドッグ様もご一緒に」

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