道具屋さん、始めました   作:飛沫

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そういえば書いてなかったのですが、この世界のお金の感覚は

銅貨=二十円くらい
銀貨=五百円くらい
金貨=一万円くらい

な計算で書いてます。


貴族様のお願い

「俺も色々と、珍しい物を探してはみたんだかな。しかし、あの爺が持っていないとなるとなかなか見つからねーんだ」

 

「はぁ」

 

「悩んでいた時に天使が教えてくれたんだ。天使が俺と出会ったパーティーに持っていったハンカチは、姉たちから教えてもらったある商人から買ったのだが、少しばかり不思議な力を持っていて、天使曰くそんなハンカチは、売っている商人以外からは見せられたことがないってな」

 

「はぁ」

 

「天使が言っていた商人に会って脅……頼み込んだ。向こうも最初は渋っていたが、ちぃとばかし怒鳴……強く頼んで話せばお前のことを聞かせてくれた」

 

「はぁ」

 

「奴はお前のことをこう話していたぜ。『彼女が作る品は、少しばかり魔力が籠もっている。そして何より、彼女が扱う品は他に作る人を見たことがない』と」

 

「はぁ」

 

「……おい、聴いてるんだろうな?」

 

「あぁ、大丈夫です。ちゃんと聴いてますのでご安心下さい」

 

 あまりにも気のない返事を繰り返していたせいで不機嫌そうに訊ねられたが、すぐさまそんな事はないと首を振って否定する。

 これでもお客様あっての商売だ。流石に話を聞き流すなんて無礼はしない。ただ、話を聴いている内に段々と話が脱線してきた(彼女が可愛いとか天使とか)ので、いい加減な返事をしてしまっただけだ。

 

*  *  *

 

「とりあえずお話を聞かせていただいて、貴方様が頼みたい『仕事の内容』は理解できました」

 

 向かい合って座っている相手に対し、知っている限りの丁寧な言葉で対応する。

 目の前にいる上等な服を纏った人は、いわゆる貴族様という奴だ。お名前はザベル・シグクシア。子爵様の次男で、結構乱暴な話し方だが、歳は十九と私より五つも下だったりする。

 で、ザベル様の話を纏めるとこうだ。

 一ヶ月ほど前、ザベル様は富裕層が集まるパーティーに参加。その時に、私が作ったワイン染めのハンカチを持った商家のお嬢様といい感じになったらしい(しかし話を聞いた限り、お嬢様が落としたハンカチを拾って云々なので、ハンカチの効果は発動していない。というか、お嬢様はハンカチを買ったものの使い方を理解していないような?)。

 貴族様とはいえ次男では家は継げない、商家のお嬢様も、長女と言うわけではないのでそこまで結婚相手に拘る必要はない。寧ろ、子爵とはいえ貴族様とコネクションが出来るのは悪い話ではない。うまい具合に両者の思惑が重なり、さぁお付き合いになるかと思いきや。

 その話に待ったを掛ける人物が現れた。お嬢様の祖父だ。お嬢様を溺愛している祖父は、ザベル様にこう注文したそうだ。

 孫と付き合いたいのならば、世界を旅した儂が見たことの無いような、珍しい物を持ってこい、と。

 当主を退いたとはいえその商家は祖父の手腕で今の地位を築いたらしく、未だ発言力は相当なものだとか。

 そんな訳で、王都の店をあちこち回ったものの『見たことの無い珍品』とやらは見つからず。お嬢様のアドバイスを聞いたザベル様は、とりあえずハンカチを売っていた商人さんを締め上げて私の情報を入手。

 たまたま、領主様の息子さんと知り合いだったので、それを利用して村まできて接触。しかし、その時の私はワインを何杯か煽っておりとてもじゃないけれど仕事が出来る状態じゃなかった。

 なので昨日は一旦引いてもらい、今日改めて店に来てもらって詳しい話を聴かせてもらった訳だ。

 

「で、どうなんだ? 出来るのか、出来ねえのか」

 

 青紫の瞳から、刺すような強い視線が向けられる。出来ますって言わなきゃ殺されそうだ。タレ目で、どうやればこんな凶悪な目つきになるのやら。

 というか、貴族様でこんなに口の悪い人は初めて見た。口調だけ聞いていれば、ダンジョンの町でたまに見る盗賊紛いの冒険者そのものだ。格好や立ち振る舞いに品があるから、かろうじて「あぁ、この人はいい家柄に生まれたんだな」と理解する。……天使と呼ばれるお嬢様は、ザベル様の何処にときめいたのだろう。

 

(顔かな、やっぱり)

 

 睨みつけてくるザベル様の顔をまじまじと眺めながら、そんな事を考える。

 私はこの世界で一番綺麗な顔をしているのはフェルクスさんだと思っていたけれど、目の前にいるザベル様も恐ろしいくらいの美人だ。

 ただ、タイプが違うか。優しそうで穏やかな、まるで物語に出てくる理想の王子様のようなフェルクスさんと違って、口と態度は良くないくせに、立ち振る舞いは紳士的なザベル様はアンバランスで危険な魅力がある。何というか、たまにゾクゾクするような格好よさがあるのだ。

 

(危険な香りのする男の人が、自分だけを『天使』って呼んで大切にしてくれる……あぁ、そりゃあ箱入りのお嬢様にはたまらないくらい刺激的な恋だわ)

 

 納得できた。

 

「確かに、私向けの仕事と言えば仕事ですね」

 

「ということは出来るんだな」

 

 ニヤリと笑って、ザベル様が身を乗り出してくる。悪い顔だけれど、綺麗だ。私はフェルクスさんの陽だまりような笑顔の方が好きだけれど、ギラギラとした強い意志を宿す瞳に惹かれる人もいるだろう。

 好みがフェルクスさんで良かった、と本気で思った。もし、こういう悪い男が好みだったら、私は速攻で首を縦に振っている。挙げ句「お金はいりません」とまで言うかもしれない。フェルクスさんは、この前キチンと払ってくれたけれど、ザベル様のような解っている人は悪い笑顔で感謝の言葉を言うだけで、本当に払ってくれないだろうから。

 

「そうですね……」

 

 頷きながら、何を作ろうか考える。提示されている条件は『珍しい物』だけ。有用性や価値の高さは無し。隙間産業で生きている私にはピッタリだ。

 

(んー、それならアレを作ろうかな)

 

「エンスー!」

 

 窓に向かって叫べばリンリンという音と共に、エンスが窓辺にやってくる。持っているカゴの中には、バジルやらの数種類のハーブと小さな虫を詰めたガラスの瓶が入っている。チョコ用かな?

 

「シルキちゃん、どうしたニャン」

 

「悪いんだけれどさ、私これからもう一仕事するから店番お願い。後、お昼なんだけれど―――」

 

 それまで言って、ザベル様の方を見る。

 

「どうします? ついでに何作るか見学します? それならお昼も用意しますけれど」

 

「あ、いいのか? 基本的に魔導具の制作は秘密だって聞いてるが」

 

「今回はお店に出す品物じゃないですから、構いませんよ。……アレを態々作ろうと思う物好きもいないと思いますしね」

 

「なら、見せてくれ。天使に丁度いい土産話が出来る」

 

 決まりだ。

 

「エンス、お昼は三人分で。王都からのお客様だから、村の美味しいミルク使ったシチューでお願いね」

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