道具屋さん、始めました   作:飛沫

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今回は作るのよりも主人公の生い立ち話です。
相変わらず大した設定ではないですが。

平成最後の投稿に間に合ってよかったです!


ハルピュイアのブーツ

 お店を閉めたあと、数カ月に一回の割合で置いてある全ての商品の在庫を確認する。よく売れる商品は暇があれば確認して作るけれど、中にはあまり出ない商品もあったり、出なさ過ぎてすっかり忘れている商品もあったりする。そんな商品を頼まれたら在庫切れだった―――なんてうっかりを防止する為にも、たまにやる在庫確認は結構重要だったりする。

 

「ええと、まずはー」

 

 とりあえず、一番手近な棚から見ていく。ここに置いてあるのはユニコーンの水薬やアラクネの糸など、よく出る商品が多い。

 水薬は、まだ半分くらいあるから大丈夫かな。とはいえ、出る時は一気に出たりするから、これ以上減るなら作らないとだけれど。店の売上の三割くらいは、この水薬が支えているし。アラクネの糸はチョコの頑張り次第なのて、とりあえず放っておこう。

 その勢いのまま、どんどんと周りの棚を整理していく。ザントマンの安眠香も前に比べると出るようにはなったけれど、この量なら作らなくても平気だ。雷帝の抱擁は……あー、随分と少なくなってる。明日辺りに作ったほうがいいかな、コレは。……あんまり気が進まないけれど。清水のショールも、残りが数枚になってる。縫い付ける石の方はまだ残っているから、また村の人にお願いしてショールを作ってもらわないと。

 

「それじゃ今度はこっちー」

 

 調べ終えたら、次は反対側の棚を調べていく。こっちはエンスが作ったジャムやジュース、ハーブの砂糖漬けなんかの食品や裏の畑の薬草を使って作った傷薬なんかが商品として置いてある。

 こっちも急いで補充しなきゃってのは無さそうだ、と思っていたら。

 

「あ」

 

 一番下の棚。少々埃を被ったブーツが、一足だけ残っていた。

 

「あー、あったなこんなの」

 

 屈み込んで引っ張り出してみる。シャフトの部分に数枚の風切羽と、小さな宝石を埋め込んだこのブーツはハルピュイアのブーツ。名前の通りプーカという妖精の革で作ったブーツに、ハルピュイアの羽根と宝石をあしらった物だ。

 プーカは化けるのが得意な妖精で、冒険者達の防具の修復の素材としてよく使われている。外見どころか性質までそっくり化けてくれるから、ちょっとした破損や綻び程度なら買い直すよりずっと安く仕上がってくれる。

 このブーツも、そんなプーカの能力に目をつけて作ってみた品だ。流石に羽根の本数が少ないので、能力の完全コピーとまではいかないけれど、羽根の軽さと風を起こす性質は持っているから普通のブーツよりも軽く、多少早く歩くことが出来る。

 個人的にはなかなか悪くない商品だと思うんだけれど、馬に乗って商売にくる行商人さんが多いので残念ながら売上はイマイチ。とはいえ使ってくれた商人さんたちの評判はいいし、腐る物でもないから、切らさない程度には作っている。革素材に宝石も使っているから、売れればいい額になってくれるしね。

 

「コレも作っとこうかな。まだ材料が残っていればいいんだけれど」

 

 二階に上がって確認をしていると「シルキちゃん、帰ったニャーン」と買い物に出掛けていたエンスの声が下から聞こえてきた。返事をして降りれば、エンスは誰かを連れている。

 

「こんばんは、シルキさん」

 

 そう言って頭を下げてきたのは紺色のローブに同じ色の三角帽子を被り、左脇に箒を携えた私と同じくらいの歳の女の人。ほうき便の魔女さんだ。

 

「あ、こんばんは。どうかしました?」

 

「シルキさん宛の手紙がありまして、届ける途中にエンス君に会ったんです。そのまま渡してもよかったんですが、お店にエンス君が作ったジャムがあると聞きまして。ついでだから、買いにきちゃいました」

 

 右手を物凄い勢いで動かしてエンス撫でながら、魔女さんは左手で手紙を差し出す。コレはエンスを構うのが目的で、手紙を渡すのがついでと見た。まぁいいや。魔女って基本的に猫好きらしいし、手紙が来たのは本当みたいだし。

 

「そうなんですね、態々すみません。えっと、ジャムはいくつ必要ですか?」

 

「二つでお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 手紙を受け取ってから、ジャムの瓶を二つ手に取る。包んでいると、相変わらず右手を忙しく動かしてエンスを撫で回しながら、魔女さんが話しかけてきた。

 

「そういえば、シルキさんには定期的に荷物が届きますね」

 

「ええ、本を送ってもらうんです。私、物語読むのが好きなので。後は、海の魔物の素材とかですね。この辺じゃあ手に入らないですし」

 

「いいですねえ、大事にされていて。恋人ですか?」

 

「……え?」

 

 思ってもいなかった言葉を言われて、魔女さんを凝視してしまう。

 

「アレ? 私変なことを言いました?」

 

「いや……送り主見てないのかなって」

 

「ああ、私の担当はこの辺りなんですよ。その手紙はかなり離れた港町から送られてますよね? 其処の担当から渡されただけなので、お相手の方は見ていないというか」

 

「あー、そういうことですか」

 

 ならば、さっきの質問が飛び出たのも納得。

 

「いや、これ父さんからの手紙なんです」

 

「え、お父さん?」

 

 今度は魔女さんが素っ頓狂な声を出す。

 

「え、へ? シルキさんてこの村出身じゃないんですか?」

 

「違いますよ。私はここから馬車で二週間くらい掛かる港町の生まれです。この村に来たのは四歳くらいですかね」

 

「覚えていないんですけれど、その頃に母さんが病気で死んでしまって。商船の航海士をしていた父さんは、私を船に乗せながら育てようと考えていたらしいんですが、乗物酔いが酷いんですよ私。それで父さんも船に乗せるのは諦めて、この村で画家をしていたお祖父ちゃんに預けてそのままって感じで」

 

「へぇ、画家さん」

 

「私といた時は風景画ばっかり描いてましたけれど、元は王都で貴族様たちの肖像画を描いていたとか。そこそこ有名だったらしいので、どっかの貴族様のお屋敷にはお祖父ちゃんの絵が残っているかもしれないですよ」

 

「そうなんですねー」

 

「ええ。それじゃあこれ、エンスのリンゴジャムです。ハーブの砂糖漬けも付けときましたのでよかったら食べてください」

 

「あ、ありがとうございます。何かすみません。オマケしてもらった挙げ句に、色々失礼な事訊いちゃって」

 

「お構いなく。手紙届けてもらいましたし、生い立ちだって隠しているわけじゃないですし。じゃ、銀貨一枚に銅貨二十枚になります」

 

「はーい」

 

 こんな会話をしたのが五日前の事。

 そして今日、私は例の魔導具を作る為に道具一式を持って地下へと来ていた。

 

*  *  *

 

 作業台の上に置いたのはプーカの革で作ったブーツ。勿論私が作ったのではなく、村の靴職人さんに革を渡して作ってもらった物だ。流石に私程度の腕じゃ長旅に耐えられるような立派な靴は作れないし、この村は人口の割には職人さんが多くいるので利用しない手はないだろう。

 

「えっとそれで、付ける羽根の本数と位置は……」

 

 とりあえずこのブーツに関して私がすることは羽根の調整くらいなので、残っている一足を眺めながら膠液を使ってハルピュイアの羽根と宝石を固定したあと、糸を使って縫い付ける。

 ……そういえばコレって、どうやって性能確かめていたっけ。履いた靴を売り物として出すわけにはいかないし。

 

「前回どうしたっけ?」

 

 作り終える前に思い出せればいいんだけれど。

 ま、最悪一足自分用にするしかないか。勿体無いけれどね!

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