道具屋さん、始めました   作:飛沫

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『』がやけに多い。
市場のブースのイメージはデザフェスです。広さはサンクリぐらいを想像してもらえれば。


潜入、裏市場

 夜の九時過ぎ。私とエンスはコピアさんに連れられて、町の広場までやってきた。

 何時もは、冒険者たちの情報交換の場所として使われている広場。夜は閑散としている様しか見たことがなかったけれど今は違った。

 

「うわ〜……」

 

「綺麗ニャン」

 

 ため息をついてから被っていたフードを外して、空を見上げる。広場には数十匹もの蝶が淡い光を放ちながら、羽ばたいていたからだ。当然、魔術で造られたモノなのだろう。白や赤、緑や青など様々な色の蝶が蛍のように光を発しながら空を舞う姿は、普通では見ることのできない夢のような光景だ。

 

「これもひょっとしてコピアさんがやったんですか?」

 

「そーよー。四千枚の紙に魔力を込めたの。一人でね。これだけ大きい町なのに魔女は私だけしかいないから、この仕事はいっつも私の所にくるの。……まぁ、お金は悪くないからいいんだけれど」

 

*  *  *

 

 『魔女』は生まれつきの特技というか、資質の一つだ。こればっかりはどんなに努力しても手に入る力ではない。ちなみに、この資質は持っているのが男の人でも『魔女』と呼ばれることになるが、一応理由はある。

 そしてどういう人が『魔女』と呼ばれるか。だいたいは「割と豊富な魔力があるのに魔術が使えない」人を指す。魔力を持っている人は得意不得意はあれど、呪文を唱えれば魔術を使うことができる。まぁ、中には相性の悪い属性を持っている人もいるけれど、必ず得意な属性というのは存在する。『魔女』にはそれがない。どんな呪文を唱えても失敗というか、ポシュンという気の抜けた音がする以外何も起きない。

 魔術が使えない『魔女』だけれど、代わりに凄いことができる。魔力そのものを物に流し込んで生き物のように動かしたり、純度の高い魔力の結晶に更に魔力を注ぎ込んで人形たちの魂の元を作ったりすることができるのだ。

 物に命を吹き込む。それが『魔女』の能力。扱える魔力が多ければ岩に命を与えてゴーレムを作ったり、生き物そのものを作ることだって可能だ。この町のダンジョンに封じられているという魔王みたいに。

 百年以上前に君臨していた『魔王』も、元は『魔女』だったと言われている。というか、それまで場所によって『御子』とか『神の執事』とか色々呼び方が異なっていた存在が『魔王』の出現によって『魔女』に統一されたのだとか。『魔王』が男の人だったら別の呼び方になっていたのかもね。

 

「へー、四千枚ですか。凄いですね。最終的にはそれが皆飛ぶんですか?」

 

「どうかしら。三千くらいはいくかもしれないけれど、流石に全部はないんじゃない? それよりハイ、これが許可証よ。コレを出すと受付で腕輪と交換してくれるわ。後、さっきも説明したように名前と住所を書かさせるけれど、嘘書いちゃ駄目よ」

 

「承知しました」

 

 差し出された紙を受け取って眺める。私たちがこれから参加するのは『裏市場』と呼ばれるちょっと変わった市。基本は、この町の商人ギルドに一定の会費を払った人以外は参加することが出来ないイベントで、余所者は私みたいに条件を満たした知り合いがいないと入れてもらえない。

 

「すいません、受付お願いします」

 

「はい、それでは此方が参加者用の腕輪になりますので、ちゃんと嵌めて下さいね。そして、此方にお名前とご住所をお願いします」

 

 木の腕輪と一緒に赤い紙を渡されたので、言われたとおりに名前と住所を書き込む。

 

「はい、確認させてもらいますね。あら、町の方ではないのですね?」

 

「あ、コピアさんから連れてきてもらって」

 

「コピアさんからの紹介ですか。失礼しました。どうしましょう? もし、次回以降も参加されるつもりでしたら、お手紙を送りますが」

 

「あれ? 会費払っている人以外は駄目なんじゃ?」

 

「出店されたい方は会費を払っていただく必要がありますが、買う目的でくる方は大丈夫ですよ」

 

「でしたらお願いします」

 

 せっかく簡単にここに来られる手段が手に入ったのだ。もらっておいて損はないだろう。

 

「かしこまりました。それでは、本日は『裏市場』を楽しんで下さいね。貴女にとって素敵な商品が見つかりますように」

 

 受付の人が紙にチェックを入れると紙はパタパタと勝手に折り畳まれていき、やがて蝶の形になるとヒラヒラと夜空に向かって飛んでいった。おお、こんな風になるんだ、面白いなー。

 

「コピアさん、お待たせしました」

 

「お帰り。ちゃんと腕輪を貰えてきたみたいね」

 

「はい。でもあの紙、適当な事書いたらどうなるんですか?」

 

「その為に腕輪があるのよ。この腕輪はナナカマドの木で作られていて、一面にホオズキの花が彫られているんだけれど、嘘ついたりすると花が光る仕様になっているの。この市場は『売り手と買い手の存在が明確になっていれば何を売ってもいい』がモットーだから、そしたら参加不能よ」

 

「なるほど」

 

 コピアさんが嘘を書くなって言っていたのはそういう意味だったのか。

 

「じゃあ私も受付済ませてくるからちょっと待ってて」

 

 駆け出したコピアさんを見送ってから、エンスを撫でたり顔のマッサージをしてやって待つこと数分。腕輪を嵌めたコピアさんが戻ってきたので、案内される方に向かって歩き出す。今回出店する場所につくまでに、コピアさんから『裏市場』の歴史を軽く教えてもらった。

 裏なんて付くから物騒な成り立ちなのかと思いきやその逆で、要は「変な所で危険な品物を売買されるくらいだったら、いっそのこと両者に責任を持たせた上で取引させた方がいいんじゃないか」で始まったのだとか。まぁ今はお客さんの層も変わってきて『危険な品物』よりも『ちょっと高額な珍品・貴重品』が多くなってきたらしいけれど。

 

「さて、着いたわ。ここが今日の私のお店よ。いっぱい売れるといいんだけれどね」

 

「準備なら私も手伝いますよ」

 

「ありがとう。じゃあこの敷布、その机にかけてくれるかしら?」

 

「コレですね。エンス、そっち持ってー」

 

「ニャーン」

 

 三人で手分けしながら、店開きの準備を進めていく。ええと、コピアさんが売る品は精霊の魂に惚れ薬に鴆毒とかの強い毒薬か。……結構物騒なのもあるな。

 

「色々ありますねー」

 

「精霊の魂や惚れ薬はコッチに出したほうが売れるのよ。ほら、錬金術師とかの人って冒険者じゃないし。鴆毒とかも、大抵はダンジョンの魔物用に冒険者たちの人が買っていってくれるんだけれど、かなり強い毒だから万が一を防ぐ意味でコッチで売るの。売った相手の名前さえ残れば、あんまり責任とらなくていいし」

 

 確かに。

 

「さて、準備はこれで終わり。開始は十時だからそろそろね。後は私がやっておくわ」

 

「でしたらちょっと辺りを回ってきますね。エンスはどうするの?」

 

「ボクはここで招き猫になるニャン!」

 

「ん。じゃあコピアさん、エンスをよろしくお願いします」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 コピアさんたちに見送られて、私はその場を後にした。

 とりあえず何処から見てみようかな。

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