道具屋さん、始めました   作:飛沫

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珍しくタメ口な主人公。

基本的に
年上・自分より地位(金)が上そうな人
お客さん(になりそうな人)
今後長い付き合いになりそうな人
には敬語使う感じで書いてます。


裏市場での買い物

 下ろしていたフードを被り直して、私は散策を始めた。「雰囲気出るから」と貸してもらったフードだけれど、ただでさえ暗いのに横の視界が遮られて正直歩きにくい。コレ被らない方がいいわね。

 結局数歩進んでから、フードは外すことにした。視界が広くなったので、軽く辺りを見回してみる。

 こうやって見ると、空気が結構独特だ。普通の市場は声を張り上げて商品を勧めたり、歩いている人の気をひこうと呼び止めたりしてくることがよくあるけれど、この市場はそういう勧誘がほとんどない。皆静かに商品を磨いたり配置を変えたりして、お客さんが来るのを待っている。

 夜だから大きな声を出せないというのもあるかもしれないけれど、それだけ商品に自信があるのだろう。ひょっとしたら、固定客とかがついているのかもしれない。と、思っていたら。

 

「姐さん姐さん、見ていかないか? 珍しい物が沢山あるぜ」

 

 不意に声をかけられた。立ち止まって右を向けば、私よりも少しだけ若そうな男の人が手招きしている。

 特に欲しい物や買いたい物も無かったので、冷やかし半分で誘われてみることにした。

 

「こんばんは。呼び込みするなんて珍しいのね」

 

「ハハハ、オレは毎回この市に参加してるわけじゃないからね。馴染みのお客さんがいるわけでもないし、こうやって呼び止めないと見てもらえないんだ。それに誰かが足を止めてくれれば、他の人も覗きやすくなってくれるしさ」

 

「この町の人じゃないんだ?」

 

「あぁ、生まれはココから随分離れた砂漠のオアシスの町だよ。船に乗ってアチコチ旅をしながら商売をしているんだ。今日はたまたまやってきたら、変わった市場をするって聞いてギルドの人に頼んだら、飛び込みで場所を貰えたんだ。姐さんはこの町出身?」

 

 言われてみれば確かに。彼の肌は、このちょっと暗めの所でもはっきりと判るくらいいい色に焼けている。彼の話すとおり、暑い国や海上に反射する陽射しで焼けた肌の色だ。

 

「違うわ。私もたまたま町によったら裏市場をするって聞いたから、知り合いの人に連れてきてもらったの。私はココから馬車で一日かかる村の出身よ。チーズやヨーグルトが美味しいから、機会があったら足を延ばしてみて」

 

「あぁ、そうさせてもらうよ。それじゃ、オレの自慢の商品を見てくれ。今日は海に関する品を色々持ってきたぜ」

 

 机に視線を向ければアコヤ貝の貝殻に真珠や珊瑚等を中心とした海の宝石や素材が、いっぱいに置かれていた。

 おー、コレはイッカクの角ね。確かユニコーンの角と同じ材質で出来ていて、効果も一緒なんだっけ。

 

「んー、そうね……」

 

 声をかけてくるだけあって、品質は凄くいいのは分かった。けれどコレは私のようななんちゃって職人よりも、貴族様や魔術師の方が喜びそうだ。鱗や髪なら、父さんに頼めば送ってもらえるし。

 そんなことを考えながらも、琥珀の欠片は混ぜて使うのにちょうどよさそうだったので買おうかな、と思っていたら机の端に置かれた赤い粉末の小瓶が目に入った。おや、何だろう。

 

「ねぇ、コレは何?」

 

「あぁ、それは人魚の血液を乾燥させた物だよ」

 

 気になる品を指差して訊ねると、彼はソレを手にとって軽く振ってみせた。サラサラと瓶の中で揺れる赤い粉。へー、これが人魚の血ねぇ。

 

「使い方は簡単だ。この粉を水に溶いて飲むか患部に塗るだけ。海の生き物だから、ひょっとしたら塩水の方が効果が高いかもな。傷なら何でも治せるぜ」

 

「傷なら……何でも?」

 

「あぁ、治せない傷なんてないさ。凄いだろ?」

 

「その割には、目玉商品にはなっていないみたいだけれど?」

 

 指摘してみると、彼は「そこなんだよな」苦笑いする。

 

「まぁ、ちょっと問題点があってさ。人魚ってのは元々呪われた生き物らしいから、そういう生き物の血肉に触れると、呪いまでもらってしまうんだ。呪いとはいっても腕や脚に鱗が生える程度で、解呪の道具なんかで簡単に祓うことができるんだけれどね。」

 

「あー、傷は大抵回復魔術でなんとかなるから、解呪の道具を使ってまで治す傷となるとかなり限られてくるわけか」

 

「そうなんだよ。オマケに冒険者たちは戦いでついた傷は勲章みたいなモノだと思っているだろ? となると、欲しがる相手ってのは火傷とかした貴族のお嬢様方ぐらいしかいないけれど、まず火傷なんてしないし」

 

「そーねー」

 

 でも『傷なら何でも』ってのはやっぱり惹かれるわね。ものは試しに買ってみよう。

 

「じゃあコレとコレ、下さいな」

 

「まいど!」

 

 とりあえず教えてもらった人魚の血の粉末と、目をつけていた琥珀の欠片を彼に渡す。すると、机の下から籠くらいの大きさの白い椀みたいのを取り出して、それに商品を入れて差し出してきた。コレ……卵の殻? 大きいわね。

 

「コイツはロック鳥の卵の殻さ。結構丈夫だし見た目の割には軽いから、買ってくれたお客さんには入れ物代わりにあげてるんだ」

 

 へー、何か使えそう。

 

「ねえ、お金払うからこのロック鳥の殻、もう何枚かくれない?」

 

「別にいいけれど……そんなモノ欲しがるなんて変わった姐さんだな」

 

 銅貨十枚で、ロック鳥の殻を更に五枚程譲ってもらうことにした。売買した商品とそれぞれの名前と住所を紙にしたためれば、受付の時と同じように紙は勝手に折り畳まれると一匹の蝶になって、私たちの周りをフヨフヨと飛び始める。

 

「さっき初めてみたけれど、綺麗で凄いわよね」

 

「聞いた話だと、市が終わる時間になると自分で受付の方へ向かうらしいぜ。市の開催中は灯りの代わりになって、終わったら自動で主催者の元へ戻る。便利だよなー」

 

 そんなやりとりをしているうちに、数人の人がやってきて机の上の商品を眺め始めたので、邪魔にならない内に退散することにした。

 

「さて、次はどこに行こうかしら?」

 

 蝶の数はだいぶ増えて、最初の頃より広場は明るくなっている。たまに挙動不審な人を見かけるが、そういう人は大抵腕輪が赤く光っていた。あーあ、嘘ついたのか。アレだけはっきりバレちゃうと、もう買い物は無理だろうな。

 横目でやっちゃいけない事をした人の姿を追っていると、しかめっ面をした男の人が文句を言いながら、嘘をついた人を店から追い出している場面に遭遇した。嘘をついてまで何を購入しようとしていたのか。興味を持った私は、ついでにその店を覗くことにした。

 

「こんばんは」

 

「あぁ、いらっしゃい」

 

「前の人、追い返していたみたいだけれど何をやらかしたの?」

 

「見てたのか。……ダンジョンの魔物を仕留める為に強い毒を持った虫を売ってくれと頼まれたんだが、紙に名前を書く時に腕輪が光ったんだ。あの女、多分殺しで使うつもりだったんだろ。ふざけやがって」

 

 舌打ちしながら、竹の虫籠に入った蜂を見せられて理解した。なるほど、この人は蟲使いか。

 蟲使いはその名の通り、蟲に魔力や専用の餌を与えて訓練できる魔術師の事を指す。膨大な知識と特殊な技術が必要なので、一代限りでなれるものではない。大抵は蟲使いの家系に生まれた子か、或いはその一族に弟子入りして修行した人がなる、ちょっと珍しい職業だ。……数が少ない分、かなり稼げるらしいけれど。

 

「そういうのを防ぐためにこの市場を利用している訳か。蟲使いってのは大変なのね」

 

「それもあるし、虫は生き物だからな。普通の店に卸しても需要が噛み合わないと売れないから、こういう場所で売買した方がいいんだ。たまにオーダーを頼まれる時もあるし。そういう時は虫を訓練させて、次の市で渡すって感じだな」

 

「ほー」

 

「君は……冒険者じゃなさそうだな。僕が扱うのは主にダンジョンの道案内や、戦闘時のサポートができる虫だが、アクセサリーにできる蝶も少しはいるよ。ほら」

 

 そう言われて見せられたのは、光沢のある緑や黒、青い色をした数匹の蝶。へー、こんな綺麗な色の蝶がいるんだ。でも、私の店でアクセサリーなんて需要が無いし。あ、そうだ。

 

「ねぇ、美味しい虫っていない?」

 

「……その注文はなかなかないぞ。一体どうした」

 

「いや、知り合いから掌サイズの成体のアラクネを譲ってもらってね、育てているんだけれど冬の餌をどうしようかと考えてて。肉も食べられる娘なんだけれど、虫の方がいいかなーって思って」

 

「それ本当にアラクネか? 掌サイズの成体なんて初耳なんだが。まぁ……一応要望に応えられるのはいるぞ。食べられて自力で増やせるのが」

 

 と、出されたのは瓶に入った数匹の……ナメクジかな?

 

「食用で作ってみたんだ。売れたことはないけれどな。勿論味は保証する、試しに一つどうだ?」

 

 ほら、と一匹スプーンで掬って突き出されたので口に含んでみる。ん! 凄い濃厚なトマト味!

 

「野菜の味が凝縮されて、美味しいわねコレ……って何でそんな顔してるの?」

 

「いや、本当に食べるとは思わなかったからさ」

 

「そう? こう暗いと姿がよく見えないから気にしないわよ。それにほら、プルプルしてゼリーみたいだし」

 

 とりあえずコレは買っても損はないと、私の勘が囁いている!

 四匹の食用ナメクジを買って、私は蟲使いの彼のお店を後にする。味は食べさせた物によって変化して、増える速度はそんなに早くないらしいし、増え過ぎたら塩でも撒けば溶けて消えると教えてもらった。管理がしやすいのはありがたい。やっぱりその辺は職人ね。

 その後はレイスさんがお店を出しているのを見つけて生き人形を譲ってもらったり、初めて魔導具を作ったという女の子の店で石化予防のお守りを半額くらいの値段で買ったりと、いい買い物をさせてもらい、残りの時間はコピアさんの店で売り子の手伝いをした。

 あんまりにも専門的な質問をされて困惑したり、売り物と勘違いされて怒り狂うエンスを宥めたりと忙しかったけれど、村のお店じゃ絶対に経験できない事が沢山あってなかなか楽しめたのは事実だ。

 珍しい品も手に入ったし、帰ったらどんな道具を作ろうかしら。ワクワクしてきたわ。

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