道具屋さん、始めました   作:飛沫

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よく考えたらコレ、蜘蛛の捕食の仕方じゃないですね。
まあいいや。


チョコへのお土産

 裏市場を楽しんだ後はコピアさんの手伝いをし、片付けやらなんやらを終えて宿に戻ってきたのは、夜中の三時を廻った頃だった。その後ベッドにダイブして目が覚めたのが九時手前。宿を出て、後は村に帰るはずだったのだけれど。

 

「どうだシルキ、アキュニスの背に乗るというのも中々気持ちいいだろう?」

 

「ハイ、トッテモカイテキデシタ」

 

 どこか得意気に語りかけてくるマクナベティルさんに、私は首をブンブン振りながら片言で返す。

 こんな状態になっているのは、決して乗物酔いで吐気をこらえているからではない。

 マクナベティルさんの後ろに控えているアキュニスちゃん(今は村の中なので、ブラック・ドッグになっているけれど)がおっかなくて、変な事を口に出さないよう神経を張り詰めているからだ。

 

*  *  *

 

 そもそも、何故マクナベティルさんに送ってもらう状況になったのか。原因は私がもう一度コピアさんの店によったことから始まる。裏市場での買物をした結果、いくつかコピアさんの店で買い足したい品が出てきたのだ。なので、夜の内にお邪魔したい事を伝え、朝一でそれらの品を買いに向かう。

 その中にひっくり返したり零したりすると、空飛ぶ絨毯に悪影響を及ぼしそうなのが一つあった。ほうき便でそれだけ後から送ってもらおうか、と考えていた時。買取でマクナベティルさんがお店にやってきたのだ。

 マクナベティルさんは甕を抱えている私を見ると、目を丸くしてどうしたんだと聞いてくる。私も私で、あまり深く考えずにこの甕を買ったこと、買ったはいいもののひっくり返すと大変だからコレだけ別口で送ってもらおうと思っていると素直に答えてしまった。すると人のいいマクナベティルさんは、だったら俺が運ぼうかと提案してくれ、私も眠かったのでありがとうございます助かります、と頭を下げて送ってもらうことになったのだが。

 そうしたら黒竜ーアキュニスちゃんの機嫌の悪いこと悪いこと。ここでようやく、マクナベティルさんの背後には、ヤキモチ焼きの恐ろしい存在がいることを思い出したのだが時すでに遅し。

 マクナベティルさんはすっかり準備を整えていて、「あ、やっぱりいいです」と断る言葉が出なかった。多分断れば断ったで「手間かけさせてどういうつもりだ」とアキュニスちゃんは怒っただろうし。

 というわけで約二時間程の空の旅は、相変わらず生きた心地のしない恐怖の旅だった。ううぅ、次からは軽率にお願いしますなんて絶対に言わないようにしよう。

 

「じゃあ、俺たちは帰るとするか。またなシルキ」

 

「あ、マクナベティルさん。ちょっと待ってもらえます?」

 

 背を向けて村を出ようとするマクナベティルさんを引き止めて、私は一度家へと入る。そして、台所からまだ手を付けていない塊のチーズを取り出し、軽く包んでから外に出た。

 

「あのコレ、良かったら食べてください。村のチーズで、結構人気のあるやつなんです」

 

「そんな、気を使わなくてもいいんだぞ。送ることは俺が言い出したことなんだし」

 

「いや、そうは言っても往復考えればそれなりの時間を割いてもらっているわけですし、これ貰い物でたまたま家にあったものなので。私も出した以上はもう引っ込められないですし……」

 

 言いながらも、チラチラと目を向けるのはアキュニスちゃんの方向。ちゃんとお礼しますよ! 厚意に甘えることばっかりはしませんよ! と物と視線で訴えれば、若干ながらも圧力は弱まっているような。

 

「そうか、そうだな。ならばありがたく頂いていくとしよう。ありがとう、シルキ」

 

「いえいえ、本当にありがとうございました」

 

 必死の訴えは通じたようで、マクナベティルさんはひょいとチーズを抱えると「また手伝えることがあったら気軽に声をかけてくれ」なんて優しい言葉をかけてから、アキュニスちゃんと一緒に村の外へ出ていった。姿が完全に見えなくなってから、私は長い長い安堵の息を吐く。

 

「はー、タダより高い物はないって本当ね」

 

「いいのかニャン? アレ、シルキちゃんが大好きなチーズニャン。しかも結構いいお値段のヤツだニャン」

 

「うぅぅ、そりゃあ惜しいわよ。あのチーズ凄く美味しいやつだし、そう簡単に手に入る物じゃないし。けれど、ありがとうございまーすだけじゃあ、アキュニスちゃん絶対勘弁してくれなそうだったし。背に腹は代えられないわ。何であんなに私の事を目の敵にするかなぁ」

 

「そりゃあ、マクナベティルさんが気を遣ってくれるからじゃないかニャン」

 

「でも、マクナベティルさんは完全に親切心だけでやってくれて、下心なんてこれっぽっちも無いわよ。それくらい分かってると思うんだけれどなー」

 

 ま、愚痴ったところで何かが変わるわけでもないから、この辺で止めておこう。

 荷物を足元に纏め辺りを確認しながらチョコを呼べば、ハーブの葉っぱの影からチョコが姿を現し、こっちに駆け寄ってきた。あぁ、やっぱり怖かったのね。

 

「ただいまチョコーってわぁ、食事中か。食べ終えちゃいなさい。今日はお土産があるのよ。気に入ってくれるといいんだけれど」

 

 両手に抱えた青虫を見て、手で早くとジェスチャーを送れば、チョコは口を大きく開けて頭から齧り付いていく。あっという間にペロリと平らげて、口元をゴシゴシと擦ると終わった言わんばかりにこっちを見る。

 

「まず一つ目、非常食を買ってきたわよ。これで冬がきても安心ね。この村の冬は雪が深いから、春までコレ食べてなさいね」

 

 言いながら、裏市場で買ってきたナメクジ入りの瓶を見せると、チョコはあからさまに嫌な顔をした。え、コレ食べなきゃなの? って言わんばかりだ。

 

「シルキちゃん、思いっきり嫌な顔されてるニャン」

 

「え!? 味は保証するわよ、本当に美味しいんだから!」

 

「でもやっぱり、見た目って凄く大事だと思うニャン」

 

 うーん、喜んでくれるかと思ったのに。当てが外れたわ。

 

「どうするニャン、塩を撒くかニャン?」

 

「いや、でも味は悪くないのよ。……もう少し使い方考えるわ。せっかく買ったんだし」

 

「ボク、シルキちゃんのその貧乏性だけは直したほうがいいと感じるニャン」

 

「もったいない精神といって。じゃあコッチはどうよ。ほら、出てきなさい」

 

 と、腰のポーチのボタンに手をかけて蓋を開ければ、ヒョコリとチョコサイズの男の子が顔を出す。

 この子は、裏市場でレイスさんに譲ってもらった生き人形。机の上で踊ったり掃除したりと見ていて飽きないので、それなりに人気の商品なんだとか。こんな大きさでも生き人形なので、金貨七枚となかなかの品だ。この大きさでこの値段なら、あのジュエルドールは金貨何百枚分なんだろう。

 

「お、こっちは気に入ったみたいね」

 

「美系だからニャン。正直ニャン」

 

 さっきのナメクジとは打って変わって、チョコが生き人形に近寄ってきた。生き人形の方も怯える素振りもなく、目の前に立つチョコをジッと見つめている。

 お互い嫌がっている素振りはないから、コレは仲良くできそうね。そういえば生き人形って呼び辛いわね、名前つけないと。えーと、チョコの相棒(になるかもしれない)から。

 

「チョコ、この子はトリュフという名前の生き人形よ。一緒にいる相手の行動を見て学習するらしいから、お手本になるように頼むわね」

 

 そう紹介すれば、任せろという感じの視線を向けていた。私の言ってることをどこまで理解しているかは分からないけれど、とりあえず預けて大丈夫そうだ。

 家の中に戻っていくチョコとトリュフの姿を見送ってから、私とエンスも荷物を抱える。

 

「シルキちゃん、この甕はどうするニャン」

 

「それは其処に置いたままでいいわ。これから使うし、ひっくり返すと面倒だし。何しろ入ってるのスライムの酸だから、身体についたりすると火傷まではいかなくてもヒリヒリして痛いわよ」

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