でも、50話くらいまでには上手く纏めて終わらせたいですね。
今日は定休日。お客さんの入り用によっては暇な時間が出来てゴロゴロできるから必要ないような気がするのだけれど、やっぱり休みは欲しいから、十日に一度の割合でお店は閉めている。どうしてもということで対応する事はあるが、お医者様や産婆さんと違って命に関わるわけではないから、そんな事は基本的に稀と言ってもいい。今回ものんびりとした休日を過ごせるハズだったんだけれど。
「ねーシーちゃん、構って構ってよー。退屈ー」
「煩いわねぇ。そう言うから、こうやってポーチに入れて話し相手になってやってるじゃない。干し終わったらちゃんと向き合ってあげるから、それまで待っててよ」
地下室の端に紐を通し、其処にハンカチを干す。勿論コレは以前作ったことのある、マンドラゴラのエキスが詰まったワインで染めたハンカチだ。三日後に舞踏会があるとかで、夕方のほうき便までに乾いてくれるかしら。単価が高いのはいいんだけれど、このハンカチは効果が一週間しか保たないから作り溜めできないのが残念よね。
そして私の腰のポーチに収まってやいやい騒がしくしているのは、ワイン浴をさせていたマンドラゴラ。大抵は酔っ払うと予言というもおこがましい、いい加減な占いもどきを口にしてそのまま眠るんだけれど、たまに喋り上戸というか、話し相手になれなれと煩くなる時があるのだ。
「おし、これで陰干し終わり!」
二十枚程のシルクハンカチを干し終えて手を軽く叩く。そして作業所の椅子に座ってから、半分ほど身体を出していたマンドラゴラを机に置いてやる。
「で、何を構えって?」
「何でもいいよー。お話ししよー」
そうは言うものの、基本的にマンドラゴラってお酒に漬けた時は意識があるけど、それ以外は冬眠というか意識が無い状態だから最近のこと話しても、噛み合わないのよね。どうしよう……あ、そうだ。
「そういえば、アンタの占いこの前大当たりだったわよ。ラッキーアイテムのトウモロコシで、高級アイテムが手に入るってヤツ」
「ふふん、そうでしょそうでしょ。私凄いんだから。何でもお見通しなんだよー」
「フーン、じゃあエンスの緑チョークで手に入る高級アイテムってどんなの?」
「えー? そんなの言ったっけー?」
「言ったわよ。憶えているもの」
「記憶にございませーん」
まったく。都合のいい事。それから十五分も喋っていると、マンドラゴラの声が小さく途切れ途切れになってきた。
「ほら、無理して起きてないで寝ちゃいなさい」
「ううー、シーちゃん。またお話ししようね。おやすみなさーい」
マンドラゴラ用に使っているシルクのハンカチでクルクルと包んでやると、グゥグゥと寝息が聞こえてきた。これで一つ仕事が片付いたわ。
ハンカチを抱えて、一階に上る。厨房にある棚にマンドラゴラをしまってから、お店の方に向かう。そういえば朝食以来、エンスを見ていない。洗濯物は終わったかな?
お店の方にエンスはいた。日が当たってちょうどいい温もりなんだろう。カウンターの上で丸くなって眠っている。落ちないとは思うけれど、一応声は掛けておこうか。
「エンス。気持ちいいのは分かるけれど、危ないから別の場所で寝たほうがいいわよ」
背中を撫でながら囁くと、返事の代わりに尻尾を揺らして鈴を鳴らす。イエスかノーか。当然、私には分かるわけがない。
「リンリン音立てても何言ってるか分かんないわ。ホラ、落ちると悪いから別の場所行きなさい」
「うーん、シルキちゃんに運んで欲しいニャーン」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、エンスはそんな事を言ってきた。勿論目は瞑ったまま。コイツめ。すっかりお休みモードに突入か。かと言ってこのままにしておくのも何だし。仕方がない。
私は一度二階に行き、クローゼットの中からエンスのシーツに使おうと思っていたタオルを取ってくると、それでエンスを包んで抱き上げる。
「ニャーン、シルキちゃん何するニャン」
「何って運んでるのよ。ついでに寝床のシーツも新しいのに変えてあげる」
「やだニャンやだニャン。シルキちゃん、ボクのこともっと大事に扱うニャン」
「嫌ーよ。着替えたばっかりの服、毛だらけにしたくないもの。あ、コラ暴れないの。落っことしちゃうでしょ」
初めはモゾモゾと蠢いていたエンスだったが眠気には勝てなかったらしく、十数秒でゴロゴロと大人しくなった。ベッド代わりにしている大きい木箱に着いたら、宣言通り中のシーツを交換してやる。この毛の量は叩いても、簡単には落ちそうにないわね。かと言ってそのまま捨てるのは勿体無い気がする。灰にして、リンゴの木の肥料にでもするのが一番納得できる方法かな。
時間もある事だし庭の隅で燃やしてしまおうかと外に出ると、畑の方で身を低くしながらゆっくりと歩いているチョコを発見した。トリュフに至っては匍匐前進している。完全にチョコの兵隊と化しているわね。生き人形ってのはどちらかと言うと観賞目的で作られるモノで、こんな肉体労働をする事はないのだけれど……。トリュフはチョコについていくのを嫌がる素振りは無さそうだからとやかく言うことはしないでおく。元々チョコの友達というか相棒のつもりで買ったわけだし、本人たちが納得しての行動なら問題ないし。
それにしてもアラクネは基本は大人しい魔物なハズなのに、チョコはかなり積極的だ。まぁ、狂暴かと問われれば違うと答えられるけれど。この虫取りひょっとしてコピアさんが仕込んだのかな。
やがて、チョコたちの動きがピタリと止まる。ここからじゃ見えないが、虫を見つけたのだろう。その間に火をつけようと「消えない松明」を取りに行き、戻ってくると既に狩りは終わったらしい。目が合うとどうだ! とばかりに得意げな顔で走り寄ってきて、糸や針を使って仕留めた数匹のバッタを見せられた。害虫を退治してくれるなら何よりだ。
「凄いわね。ありがとう」と言えば早速チョコは食事を始め、トリュフはその場に座って食事風景を眺めている。
二人を踏まないように足元に注意しながら、私はシーツに「消えない松明」を押し付けて火をつける。パチパチと燃えるシーツを確認してから
とりあえずこれで、今日やらないといけないことは終わり。後は夕方のほうき便に、ハンカチ届けてもらうのを忘れないようにしないと。
それまでは何をやろうかな。食糧店で美味しそうなチーズやベーコン、ワインを物色してもいいしエンスのリボンを新調するのも悪くない。牛乳に蜂蜜混ぜたモノでも飲みながら、午後からの事を考えようっと。