後、遅くなりましたがアンケートありがとうございました。個人的には猫好きゆえ、エンスがぶっちぎりの一位になると思っていたので、シルキが一番票を獲得したのがちょっと意外でした。
あまり特徴のない主人公ですが、気に入ってもらえて嬉しいです。
とりあえずアンケート結果を参考にしつつ、キャラの出番を増やしたりしたいと思います。
アフィアを後ろに従えて、エンスは台所へとやってきた。中に入ってからくるりと振り返り、質問をする。
「甘い物なら、何が一番好きなんだニャン?」
ゆらゆらと揺れるシッポを目で追っていたアフィアだったが、声を掛けられて我に返ると大きな声で答えた。
「私、トルテが大好きです!」
「ニャーン、トルテ……」
直ぐに頭に思い浮かべたのは、キルシュトルテ。お城のお姫様が大好きで、何度も運ばされたお菓子だ。コックが作っている様子も何度も見ているので、何となくだが作り方も分っている。
だが、菓子は料理と違って「何となく覚えている」では作れない。ちょっとでも分量を間違えれば、生地が膨らまなかったり柔らかくならなかったりする。トルテが好きだと言うくらいだから、普段からよく食べているのだろう。そんな相手にうろ覚えで作る菓子など出せない。
加えて材料も揃ってなければ、作る時間もそこまで確保できない。リクエストに応えるのは諦めることにする。
(聞かなかった事にするニャン)
エンスはそのまま何事もなかったかのように、小氷室と呼んでいる木の箱を開く。二段の箱の中にはブリキの板が貼られていて、上の段に氷を置いておけば、下の段に置かれている食物を冷やしたり保存ができる優れ物だ。村にはあちこちから水が湧き出ているので、魔術師としても優秀なステリアに銀貨八枚払えば一月に何度でも氷を作ってくれるし、更に四枚追加すれば家まで届けてくれる為、村人の何割かはステリアに氷の製造を頼んでいるとか(魔術を使える者は、自分で作っているらしい。とはいえ、商売できる程の魔力を持っているのはステリアくらいだが)。
「ニャーン」
根野菜や肉など、色々収まっているが菓子作りに使えそうな材料に限定すれば、あるのはカスタードクリームとチーズだ。後はテーブルに置かれているリンゴ。コレらを使ってできるお菓子というと。
「アップルパイニャン?」
コテリと首を傾げながら自問自答してみる。これならシルキと一緒に何度か作っているので、失敗することはないだろう。だが、アップルパイならアフィアも何度も口にしているハズ。それも、プロが作ったモノを。敵わないとは分かっているが、やっぱり比べられるのはいい気分ではない。どうせなら、余り食べたことのないようなモノ―――。
(閃いたニャン!)
その時、エンスにある菓子が浮かび上がった。此処にある材料を使って、なおかつお金持ちのお嬢様がまず食べないようなモノが。
「アフィアちゃん、トルテはちょっと無理だけれど、代わりにリンゴを使ったおやつを作るニャン」
「アップルパイですか!? 私、パイも大好きです」
「違うニャン。ボクが作るのは」
「焼きリンゴニャン!」
* * *
「まずは、ヘタの周りをくり抜くニャン」
何時もはシルキが使っている椅子にアフィアを座らせると、エンスは自分の椅子を隣に置いてテーブルに上がっていたリンゴを手に取り、ナイフで円を描くようにしてヘタの周りを切り取っていく。あっという間にテーブルに置かれていたモノと持ってきたモノ、計四個のリンゴが綺麗にくり抜かれた。
「凄い、次はどうするんですか?」
「今度はスプーンを使って、芯を取り出すニャン。危なくないからアフィアちゃんもするかニャン?」
「はい、やります!」
エンスからスープ用のスプーンを受け取ったアフィアは、手近にあったリンゴを手に取ると慎重な手付きで先端を芯の周りに埋め込み、芯を掻き出すようにして取り除いていく。
「底まで掘らないように気をつけてニャン。でも、塞ぐ事は出来るから、心配しなくても大丈夫ニャン」
「合点承知、こんな感じでいいですか?」
「それで問題ないニャン」
底は抜けることなく、無事に四個のリンゴの芯がくり抜かれる。アフィアが身を乗り出し、真ん中が大きくくり抜かれたリンゴを覗き込むようにして見ていると、エンスが絞り袋にカスタードクリームを詰めて戻ってきた。
「今度はこのクリームをリンゴに詰めるニャン」
「やりたいです!」
「じゃあ、どうぞニャン」
アフィアは今度は立ち膝で、リンゴの中にクリームを流し込んでいく。
「エンスさん。焼きリンゴは、リンゴにクリームを入れて焼くお菓子なんですか?」
「基本はシナモンシュガーとバターを入れて、焼くニャン。けれど、必ずコレを入れなきゃいけないっていう決まりは無いから、何入れたっていいんだニャン。大抵美味しくなるから問題ないんだニャン」
リンゴ二個目でカスタードクリームは空になってしまった。残りのリンゴには何を入れるのかと、期待のこもった瞳でエンスを見つめているとチーズを手にして一口サイズに切り、クルミと一緒に詰め込んでいく。
「チーズとリンゴって合うんですか?」
「チーズ狂いなシルキちゃんのオリジナルだけれど、ボクは結構好きだニャン。後は蜂蜜を使うんだけれど……無かったんだニャン。うーん」
少しばかり悩む仕草をしてみたあと「アフィアちゃんは好き嫌いあるかニャン」と訊ねてきた。「私、食べられるものなら何でも食べますよ!」という元気のいい答えが返ってくるとエンスはコクリと頷いて、瓶に入っていた水を数滴垂らす。黒胡椒を振りかけたら完成らしい。温めておいた竈の中にリンゴを収めると、椅子を竈の前に引っ張ってきてお喋りを再開した。
「そういえばアフィアちゃん」
「はい、何でしょう?」
「そういえばザベル様、以前から気になっていたことがありまして。今お尋ねしてもよろしいですかね?」
「別に構わないが、何だ?」
「「どうやって天使ちゃん(ザベル様)とこんな関係になったんですか(ニャン)?」」
「えっとですね、お姉様が呼んだ商人さんから、ハンカチを買ってもらったんです。パープルピンクの綺麗なハンカチなんですよ。けれど、それをパーティーで落っことしちゃって。ザベル様が、拾ってくれたんです」
「視界でチョロチョロしてた小さいのが、ハンカチ落としたのに気づかなかったみたいでな。渡してやったんだ。その時は別に何も思わなかった」
「ザベル様を初めて見た時、本の中の王子様が出てきたのかと思っちゃいました! お礼を言いたかったんですが、ザベル様は王子様だから、綺麗な女の人がずっと隣に居てなかなか傍に行けなかったんです」
「その後も小さいのがチョロチョロしていたのは分かっていたんだが、俺も色々と予定があったから、気にも止めてなかったぜ。一通りまた約束や頼み事をして、一息つこうと思ったら、その小さいのがやってきてよ」
「ずっと見ていたら、ザベル様が何にも食べていない事に気がついたんです。だから私、きっとお腹が空いていると思って。メイドさんにおすすめのお料理を教えてもらってから、ソレを持ってザベル様の所に行って一緒に食べたんです。とっても美味しかったです!」
「どうも俺の行動をずっと見ていたらしくて腹が減ってないか、良かったらコレを食べてくれって食事を差し出してきたんだ。言うと同時に向こうも腹を鳴らしてな。流石に一人で食べるわけにもいかないから、連れて共に食べることにしたんだよ。それがまぁ、いい食べっぷりでな。大口開けて食べる姿見てたら、なんかイイなと思えてよ。それが切っ掛けか」
「ニャーン(王子様……詐欺師の間違いニャン)」
「そうだったんですか(いっぱい食べる子が好きなのか。ロリコンじゃなくてよかったわ)」
互いに同じような会話をしている間に、焼き上がりの時間になったようだ。エンスが取り出して切り分けて差し出すと、アフィアは目を輝かせながらナイフとフォークを手に取る。美味しいと笑顔で食べ始めていたアフィアだったが、チーズ入りの焼きリンゴを口に入れた瞬間、ハッとした表情となりエンスを見た。
「エンスさん、これお花の匂いがします!」
「うん、コレは花の蕊を利用して作った砂糖水を使ったんだニャン。ボクたちは蜂蜜代わりに使っているんだけれど、どうかニャン?」
「凄いです! 初めて食べました。お花の匂いも良い匂い。私、この甘味大好きになりました」
「良かったニャーン」
上機嫌でリンゴを頬張るアフィアの姿に、エンスも嬉しそうだ。そして自分も誘われるようにナイフとフォークを取ると、焼きリンゴを手にとった。
* * *
人魚の丸薬の話をしたらザベル様は興味を持ったようで、欲しいと言ってきた。何でも、騎士の中に女の人にひどい振られ方をして女性不信になっている人がいるらしいので、その人に使ってやりたいのだとか。
エンス専用に作ったので作り置きは無いですと答えれば、急ぎではないから作ったら送ってくれと言われた。そんなに時間はかからないんだけれどな。ザベル様と天使ちゃんの滞在時間を聞いて、直ぐに帰らないようなら折を見て作って渡してしまおうか。
と、ここで天使ちゃんとエンスの姿が無いことに気がつく。何処にいったのかとキョロキョロしていると、台所に繋がっている扉が開いて天使ちゃんとエンスがやってきた。
「ザベル様、焼きリンゴです。美味しいので温かい内に食べてください!」
天使ちゃんが喋る度に、花の香りが辺りに漂う。それに気がついたザベル様が固まった。私も慌ててエンスに元へ向かう。
「ちょっと、エンス。アレ使ったの? 駄目じゃない、ちゃんと許可とらないと」
「ボクちゃんと訊いたニャン。好き嫌いはないかって」
「……そんな質問じゃ許可とったなんて言えないわよ。ちゃんと話して了解を得ないと」
「おいシルキ!」
「ほら、こういう面倒くさいことになるんだから」
こめかみに手を当てながら、私は返事をして振り返る。てっきり文句を言われるかと思いきや、ザベル様は天使ちゃんの傍に行くとワシワシと頭を撫でながら早口で捲し立ててきた。
「どうなってやがる。天使がさっき嗅いだ蘭と同じ匂いさせてるぞ。いや、天使が話すたびに蘭の匂いがしやがる。何したんだ、マジで天使が天使になったのか。このままじゃ勘違いした精霊共に天に連れて行かれちまうぞ、どうしてくれる」
あ、ザベル様は興奮すると私と同じタイプになるのね。とりあえず称賛されているみたいだから、咎められる心配はなくなったからよかったわ。
「えーとですね。さっきフェルクスさんにも売ったんですが、飲むと花の香りをさせる甘味料を作ったんです。効果は半日程度でなくなりますし、別に副作用とかはないんで安心して下さい」
「なる程、蜂蜜か砂糖代わりにして使ったのを天使が食べたわけか。で、さっきエンスに許可がどうの言っていたが、それはどういう意味だ」
あ、それはちゃんと聞いてたんだ。うーん……納得してくれるかしら。
「使っている材料がちょっとアレなんですよ。毒物とか使うのが禁止されている物じゃないんですが見た目が……。とりあえず実物を見せますね」
断りを入れてから地下室へ行き、目的の物を持って上がる。
「それ……ナメクジか?」
「正解です」
嫌そうな顔をするサベル様に構わず、私はスプーンに乗せた半透明の白いナメクジを目の前に突き出す。
「このナメクジは、蟲使いの人から買った食用ナメクジなんです。そこにいるアラクネのチョコにと思ったんですが、絶対食べないって拒否されまして。仕方がないから私達で食べてたんですよ」
「魔物すら食いたがらないの食うってどういう神経してんだ。お前大丈夫か?」
「シルキちゃんは貧乏性だから、仕方がないんだニャン」
……何でここまでボロクソに言われなきゃなのかしら。
「そうは言いますけれど、コイツ上手く育てれば濃厚で美味しいんですよ。で、なんかいい方法は無いかと色々試してみたんですけど」
「見た目は大事って改めて知るだけの結果になったニャン」
遠い目をするエンスを見ながら、思い返す。
食用ナメクジは食べた物の味を何倍も濃厚にするという特徴があったので、以前ダンジョンの町で食べた洞窟キノコの濃厚パスタを再現しようとキノコを食べさせて、夕飯に出してみた。
結果「これならカビ臭かったあっちの方がマシニャン」とエンスに言われるくらい、パスタの中で蠢くナメクジはグロテスクだった。食べたら、美味しかったけれど。
その後も懲りずに挑戦してみたが、やっぱりどれも食べる気が失せる物ばかりで。あの時平気な顔して食べられたのは、薄暗かったからだと思い知らされた。
「で、もう仕方がないから塩撒いて処分しようとしたんですよ」
するとどうだ。このナメクジ、てっきり縮こまって動かなくなると思っていたら、溶けて大量の水になったのだ。ならばと再び挑戦した結果。
「花を食べさせて砂糖で溶かすと、蜂蜜風味のいい味の水になる事が判明しまして。甘味料として使うことにしたんです」
「そこまでして使うか。もはや執念だな」
「シルキちゃんは元が取れないと悔しさのあまり、頭がパーンってなって夜眠れなくなるから、必死なんだニャン」
だから、何でそこまでボロクソに言われなきゃなのよ。材料にさえ目を瞑れば、数輪の花で蜂蜜並に甘い甘味料が作れるんだから凄くお得なのに。
匂いだって、味に比べればほんのり香るくらいだから不快なものではないし。ザベル様なんかがこの匂い使って女の人でも口説けば、絶対皆落ちると思うんだけれどな。
とは思うものの、ザベル様の反応はイマイチなので勧めておくのはやめておいた。
焼きリンゴも最初は食べるのを渋っていたけれど、天使ちゃんに「あーん」をされると躊躇なく口に含み。
更に息が良い匂いだと天使ちゃんが大はしゃぎすると、苦手意識は綺麗さっぱり無くなったみたいで、人魚の丸薬と一緒にお買い上げとなった。
恋の力は偉大ねー。
焼きリンゴの作り方は、グレーテルのかまどを参考にしました。月曜日の密かな楽しみです。