道具屋さん、始めました   作:飛沫

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魔法少女(少女?)誕生


魔術を覚えよう

「魔術を覚えてみようと思うんだけれど」

 

 モグモグと昨日残ったサラダを挟んだサンドイッチを口にしながらそんなことを言えば、エンスはビックリしたような顔で私を見る。

 

「シルキちゃん、急にどうしたんだニャン。冒険者になりたくなったのかニャン」

 

「そんなわけないじゃない。冒険者になるつもりなら、おじいちゃんが死んで一人になったときにさっさと村を出てるわよ。空飛ぶ絨毯を使うためにね、覚えておいたほうが得かなって思ったの」

 

「そういうことかニャン」

 

 あの便利な絨毯が手に入ってから、私たちがダンジョンの町に行く頻度は格段に上がった。前は数カ月に一度だったのが、今や半月に一度になっている。

 馬車を丸々一台借りて行っていた頃に比べれば、凄く楽になったしお金も節約できているのだけれど、問題……と言う程のモノではないのかもしれないけど、一つあった。それが魔力だ。

 空飛ぶ絨毯を操る為には魔力がいる。絨毯自体に色々と魔術が掛かっているから、使う魔力はそれほど強くなくていいのだが、私は今まで魔術の必要性を感じなかったので全く使えないのだ。

 勿論、魔力が無くても魔石があれば絨毯は使える。けれどアレは道具作りの材料として買っているものだから、出来るだけそっちの方に回したい。もし魔力が使えるようになれば、元手はかからなくなる。無料、なんて素敵な言葉だろう。

 それに魔術が使えるようになれば、作れる道具の幅も広がるだろうし。なんちゃって魔導具から卒業できるかも。

 

「てことは、ステリアちゃんに教えてもらいに行くのかニャン」

 

「そーねー」

 

 コップの牛乳を一気に飲み干してから、どうしようかと考える。魔術を使うにはまず魔力が必要で、魔術師とか魔術が使える人に付いて、魔力の溜め方とかそういうのを教えてもらうのだ。たまに生まれつきとか何かのきっかけで、自然に魔力を解放できる人もいるけれど、そういう人は魔術関係でそこそこ有名になれるような人だけ。多分だけれど魔力の量が多くて、勝手に溢れちゃうんだろう。

 そういえば、ステリアちゃんも小さい頃から魔術が使えていたわね。気がついたら使えていたって言っていたから、生まれつき派なんだろうな。それを考えると凄い子と幼馴染してるのね、私って。

 

「ステリアちゃん、今忙しいからなぁ」

 

 村で簡単な魔術が使える人は皆ステリアちゃんから教わっているけれど、この時期は狩りで出払っている時の方が多い。冬に備えて動物たちの行動範囲が広くなるから、追っ払う為にあちこちと呼ばれているからだ。それに今の時期の鳥や鹿は脂肪を蓄えているから、獲って売るには丁度いい。この前のウズラも、美味しかったもんな。

 私の中では、ステリアちゃんにお世話になる気はほぼ無かった。暇ならともかく、稼ぎ時の邪魔はしたくない。それに教えてもらわずとも、魔術を使えるようになる方法はいくつかある。とりあえずこの時点で一番手っ取り早い手段は……よし。

 

「エンス、今度お店休む時にダンジョンの町に行くわよ」

 

「ニャーン? もう無くなった材料があるニャン?」

 

「買い物もあるけれどね。あの町のダンジョン、入ってみるわよ」

 

 魔力を使えるようになる方法の一つに「魔力が溢れている空間に滞在する」というのがある。あのダンジョンは強い魔力に溢れているから、入口辺りでもモンスターが狂暴になってるってダンジョン付近で誰かが教えてくれたっけ。一階辺りでもウロウロしていれば、魔術が使えるようになる……筈!

 

*  *  *

 

 そうして次の店休日。私たちは宣言通り絨毯に乗ってダンジョンの町までやってきた。宿屋に絨毯を預かってもらってからダンジョンの近くにあるという、冒険者が集まる酒場目指して歩き出す。

 中に入ると何組かの冒険者のチームが、テーブルを囲んで飲んだり食べたりしていた。うーん、酒場っていうからもっとお酒の匂いが強烈かと思っていたけれど、そんなでもないわね。どのグループも比較的静かに飲食しているしって、よく考えれば当然か。これからダンジョンに向かうってのに、具合が悪くなるほど飲んだり食べたりするわけ無いわよね。

 そのままカウンターに向かうと、マクナベティルさんには負けるけれどかなり大柄で強そうな人が、お玉と小皿を手にスープの味見をしていた。犬の刺繍がついているエプロンが、なんとも可愛らしい。袖を捲った左腕に一文字の傷がある所をみると、怪我で引退した冒険者で此処に酒場を作ったんだろうな。

 私達に気がつくとマスターは不思議そうな顔で見つめてくるが、魔術を使えるようになりたいから一緒にダンジョンに連れて行ってくれる冒険者のグループを紹介して欲しいと頼む。

 前、コピアさんに言っていたのよね。どうしても欲しいアイテムがある時は、ダンジョン前の酒場に行って欲しい物を取ってきてくれという依頼を出すか、そのアイテムが出やすい階層に行く冒険者のグループに入れてもらうかって。すると、合点がいったと言う顔で紙を渡してくれた。

 

「そういう事だったら、この紙に書いてそこのボードに貼りつけておきな。やってくれる冒険者がいたら、教えるぜ」

 

 なるほどなるほど。依頼書を作って待つわけか。

 用件や人数、日時の項目にどんどんと書き込んでいって依頼書は完成した。報酬の額でどれくらいにすればいいか分からずに少し固まっていたけれど、マスターが相場を教えてくれたのでその金額にしておく。手数料として銀貨二枚を渡せば、私の依頼書は無事にボードに貼ってもらえた。後は声を掛けてくれる優しい冒険者のグループを待つだけだ。

 待っている間にどうだと、マスターからメニューを渡されたのでペラペラと眺めてみる。むう、どれもこれもそそられるけれどこれからダンジョンに連れて行ってもらうとなると、お酒は駄目か。料理もな、煮込み料理がお勧めみたいだけれど、いつ声を掛けてもらえるか分からないとなると限られてくるわね。

 仕方がなく、柘榴のジュースにナッツとドライフルーツの盛り合わせを頼んで待つことにする。エンスと互いに手にしたものを食べさせあいながら時間を潰していると、頭上から声が降ってきた。

 

「シルキ? ここで何をしているんだ?」

 

 顔を上げれば、驚いた顔をしたマクナベティルさんが。私達はボードを指差して魔術を覚えたいので、魔力が濃厚なこのダンジョンに潜って魔力が使えるようになりたいのだと説明する。

 

「そういうことか。なら、これからダンジョンに皆を運ぶから一緒に来るか?」

 

 マクナベティルさんの後ろには、ゾロゾロと何グループもの冒険者たちが並んでいた。皆ゴツゴツというか重厚そうな鎧や武器を携えていて、どの人も腕に自信があって強い事が、装備品だけで察せられる。

 ありがたい提案だけれど、こんな人たちが挑む階層なんかについていったら、簡単に死んじゃいそうな気がするわ。教会での蘇生って色々条件があった気がするし、まず死にたくないから辞退させてもらおう。

 

「うーん。誘ってくれるのは嬉しいんですが、ダンジョンの奥に潜るのは怖いので遠慮しておきます」

 

「アキュニスの背中に乗ったままなら、大丈夫だぞ」

 

「そうなんですけれど、やっぱり初めてのダンジョンは怖いんですよね」

 

 あ、よく考えればマクナベティルさんに気を遣ってもらうと、アキュニスちゃんに睨まれちゃう。やっぱり、全力で断っておくべきね。

 怖いという事を全面に押し出して、遠慮していれば「そうだな、魔力を使えるようになるだけなら、一階を歩いていても十分か」と頷いてくれたので一安心。でも、これで殆どの冒険者がいなくなっちゃうから、またしばらく待たないとか。

 

「隊長ー。アキュニスの準備が整ったんで、何時でも出発できますよ。今回の冒険者は何グループですか?」

 

「お、いいところにきてくれた。オルアム、ちょっと頼み事を聞いてくれないか」

 

「いいですけれど、一体何ですか。あ、こんにちは」

 

 マクナベティルさんの背後から話しかけてきた誰かは、こっちに来て私たちに気がつくとペコと頭を下げてきた。この人、前ダンジョンの入口にいた時に声をかけてくれた人よね。オルアムって言うんだ。

 

「そう難しい事じゃない。彼女はシルキと言って俺の知り合いなんだが、魔術を使えるようになる為にダンジョンに行きたいらしい。一緒についていってやってくれないか」

 

「ああ、この前の隊長の……。構いませんよ。次の運びまで一時間ちょい暇になりますから。ええと、シルキさん? 早速行きます?」

 

「お、お願いします。じゃあこれ、料金です。そこに依頼として貼ってたんで」

 

「どうもご丁寧に。魔術を使えるようになるんだったら、一時間くらいダンジョンにいれば大丈夫だと思いますよ。なら、隊長たちが出発次第俺たちも出ますかね」

 

*  *  *

 

「どうでした? 初めてのダンジョンは」

 

「いやぁ、カエルってあんなに凶悪な顔と声になるものなんですねぇ」

 

 爽やかに笑うオルアムさんに、げっそりとした声でなんとか答える。エンスも怖かったのだろう。尻尾を丸めたまま、私の背中に顔を埋めて返事もしない。

 前、ダンジョン内では生き物が凶暴化していると教えてもらっていたけれど、想像以上の変貌だった。カラスはまだ分かるのだけれど、カエルとカタツムリは完全に別の生き物と化していたわ。カエルじゃなくてKAERUね、アレは。

 一人で入っていたら、絶対にトラウマになっていたわ。

 でもまぁ、あんな変貌を遂げるくらい濃い魔力の空間にいたんだから、きっと魔術は使えるようになっている筈。ええと、確か一番簡単な炎の呪文は。

 

「プロメテウス」

 

 呟くと、胸の辺りに握り拳くらいの火の玉がポッと現れ、メラメラと燃える。おー! これが魔術。私も遂に使えるようになったのね。

 燃える火の玉に感動していると、オルアムさんも拍手しながら「おめでとうございます」と祝福してくれた。そしてそのまま、ジーッと私の顔を見つめてくる。……何かしたかな、私。

 

「あの……顔に泥か血でも付いてます?」

 

「ああ、いえ。隊長がね、シルキさんが昔いた妹さんに似てるって言ってたんで、つい」

 

「へー」

 

 それであんなに気を遣ってくれるわけか。納得……うん? 昔って……?

 

「え、マクナベティルさんて何歳ですか」

 

「俺も正確な歳は知りませんが、アキュニスが七十なんでもう百いってると思いますよ」

 

「……へ?」

 

 今、なんて言った?

 

「ああ、そうか。この町の人間じゃないからシルキさんは知らないか。ドラゴンライダーってようは竜の眷属になるってことなんですよ。そうすると竜と同じ寿命になるし、外見も眷属になった時点で成長が止まるらしくて。だから見た目よりずっと年寄りですよ、隊長は」

 

 突然明かされる衝撃の事実に、考えが追いつかない。

 ええと、つまり。外見はそのままで凄い歳をとっていると言う事は。

 

「フェルクスさんはドラゴンライダーだった……?」

 

「何でそうなるニャン」

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