道具屋さん、始めました   作:飛沫

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世界観みたいのを軽く説明しています。
かなり適当な設定ですが。


町へ買物・上

 ゴトゴトとリズミカルな音を立てて、馬車は森の中を走っていた。

 少々薄暗いが木々の間から差す光は荘厳で、何処か神秘的な雰囲気を森に与えていた。

 山賊や獣の気配もせず、景色を楽しむには絶好の状態なのだがあいにくと私はそんな気分になれず。

 

「うぇっぷ、気持ち悪い」

 

「シルキちゃん、しっかりするニャン」

 

 エンスに膝枕されながら、込み上げてくる吐き気と必死に戦っていた。

 

「エンス、その辺の袋に、ユニコーンの水薬が入っているから、ちょう、だい」

 

「分かったニャン!」

 

 目を閉じたまま指示を飛ばすと、ゴソゴソを荷物を漁る音が聞こえてくる。しばらくすると、見つかったのだろう。「口を開けるニャン」と言う声が降ってくる。

 

「あー」

 

 言われた通りに口を開けば、ポトリと水薬を落とされた。そのまま噛みしめれば、味わいなれた苦味が口内に広がっていく。

 飲み込んで数十秒、ようやく吐き気が収まってきた。この薬は怪我以外なら効果があるので、こういう使い方もできるのだ。かなりもったいないけれど。

 

「はぁ、本気で戻すかと思った。これでしばらくは平気だわ」

 

「というか、毎回毎回こんな目に合うくらいなら、態々行かなくてもいいんじゃないかニャン? 薬ももったいないニャン」

 

「んー、行商人さんに頼むのも手なんだけれど、やっぱり自分の目で見て気に入ったのを買いたいのよねー。掘り出し物があったりもするし」

 

 それに何より、買物は楽しいのだ。これから向かう町はこの辺りで一番大きいだけあって、村では見ないような品物がわんさかあるし、夜でも開いている店が沢山ある。

 日が沈んだら眠るか読書をするか、或いはエンスをモフモフするしか選択がない村とは大違いだ。まあ、あんまりにも賑やかだから、暮らすのならそれはそれで大変なのかもしれないけれど。数カ月に一度行くには、最高に楽しめる所なのだ。

 

「それにしても、今回もいっぱい頼まれたニャン」

 

「うえぇ、アンタよくこの揺れの中で読んでいられるわね」

 

 エンスが袋から取り出した紙を広げ始めたので、私は起き上がって外へと視線を向ける。読み始めたのは、村の皆から頼まれた買物リスト。

 町へ出掛ける時は馬車を使うから、ついでに買うものは無いかと聞いておくのだ。馬車だから荷物が増えた所で問題は無いし、向こうも気を使って多少のお駄賃をくれる。

 多少といっても集まればそこそこの額になるので、馬車や宿代に充填させてもらう。私にとっても村の皆にとっても、悪くない話なのだ。

 

「今回の頼まれものはー、青と赤の布と靴に使えそうな革。それから鉄と珪砂がーーー」

 

 エンスの声を聞きながら、ぼんやりと森の緑を眺める。

 このまま進めば夕日が沈み切る前には、町へと着けるだろう。肝心の買物は宿をとって一泊した後になる。村に戻れるのは、おそらく明後日の夕方だ。

 往復の馬車代と二日分の宿代。それだけでも結構な出費になる。馬を借りて、エンスと一緒に乗って行けば、かなりの節約になるのだろうけれど。

 

(熊とかに遭うと嫌だしなぁ)

 

 この辺りで追い剥ぎが出るという話は聞いていないけれど、熊や猪を見たという話は何度か耳にしている。

 野良犬一匹にすら勝てるかどうか怪しい私達には、やっぱり馬での旅は不安だ。

 

(まぁ、安全第一で行くのが一番か)

 

 ガタン!

 

 突然、馬車が大きな音を立てて揺れた。窓から身を乗り出して前を見ると、デコボコな道が広がっている。

 

「ごめん、これ以上起きているとまた酔いそうだから寝るわね。町に着いたら起こして」

 

 ゴロリと横になると、頭を持ち上げられて膝枕された。

 お礼を言おうと口を開くと、それより先に「ボクがシルキちゃんを気持ちよくさせてあげるニャン!」と言われる。は? と思う間もなく

 

ムニュウ

 

 エンスの前足が顔に押し付けられる。

 ……気持ちよくするってコレのこと? まぁ、確かに肉球の感触は悪くないけれど。

 

「シルキちゃん、どうニャン?」

 

「生ぬるい」

 

*  *  *

 

 その後、エンスの癒し効果?もあってか、酔いに襲われることはなかった。

 日が沈む前に目的地にも着くことが出来たので、泊まりたかった宿も取ることができたし。

 

「やっぱり賑やかね、この町」

 

「色んな人がいるニャン」

 

 キョロキョロと田舎者丸出しで、私達は広場を眺める。横切るのは甲冑やローブを着込み、剣や杖を手にした戦士、魔術師といった人たちのグループ。そう、この町は近くにある大きな山がダンジョンになっていて、そのダンジョンを探索する冒険者たちのお陰で栄えているのだ。

 今はこういうダンジョンや遠い沖・高い山ぐらいにしかいない魔物だが、百年以上も昔はあっちこっちにウロウロしていて、遠出の買物は命がけで行われるくらい危険な行為だったらしい。平和になったのは『英雄たち』と呼ばれる冒険者一行が、魔王と呼ばれていた魔物たちの支配者を倒したから。以来、魔物はダンジョンや人のいない僻地に住み着くようになったという。

 噂によればこの町のダンジョンで、魔王と英雄たちの最後の戦いが繰り広げられたとか。倒された魔王はこのダンジョンの奥深くに封印され、実際に最深階には開かずの間があるとか。

 加えて魔王はまだ死んでいなくて、再び地上に出ようと魔力を使って魔物を生み出し、ダンジョンが魔物で溢れたら魔王が目覚める時、なんて言われていたりする。

 けれどまあそれが本当の話だとしても、毎日何組もの冒険者たちがダンジョンに潜り、ドラゴンやマンティコアなんかを倒していたりするので、復活するのは当分先になるだろう。

 魔王の噂話は沢山あるけれど、英雄たちのその後の話はあまり聞かない。新天地を目指して旅立ったとか、それぞれ故郷に戻り幼馴染の恋人と結婚して幸せな余生を過ごしたとか、そんな程度だ。話が事実なら、多分前者なんじゃないかと思う。だって「英雄の子孫です」と言い出す人見たことも聞いたこともないし。

 とまあ、そんな訳で本来なら危険極まりないダンジョンが隣にあって恐れられる筈の町は、強力な武器防具や魔導具の素材を手に入れられる貴重な町として栄えている。魔物がお金になるって。平和って凄い。

 

「さってと、どこでご飯食べようかしら?」

 

「ボクお肉がいいニャン!」

 

 予約を入れた時間が遅かったので、宿で夕飯は出せないと言われてしまったが問題は無い。

 食事処は沢山あるし、何よりーーー。

 

「あ、ここ良さそうじゃない?」

 

「本日のオススメはキマイラのお肉って書いてあるニャン! シルキちゃん、ここにするニャン!」

 

 ここには珍しい魔物の肉を食べさせてくれる店があるのだ!

 ちょっとクセのある味だけれど、香草や香辛料で煮込むと、そのクセがまたいいアクセントになってーーーあ、考えるだけでお腹が減ってきた。

 

「じゃあ、決まりね! いっぱい食べるわよ!」

 

「ボクも色々食べて、レシピを覚えるニャン!」

 

 無事に店も決まった事だし、今日はここで食べ明かそう。

 ウキウキとした気分のまま、私たちは勢いよく店の扉を開いた。

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