期待していた方がいたら申し訳ありません。
予定外の買い物を終えてから、私たちはコピアさんのお店『すわ、一大事!』にやって来た。うん、ちゃんと営業中の札が掛けてある。コピアさんも一人でお店を開いているから、たまに買い物や、配達なんかで留守になる時があるのだ。お客の出入りを見ている限り、私の店よりずっと儲けていそうだから、店番を雇っても良さそうな気がするのだけれど。
早速店内にお邪魔すれば、コピアさんはどこかの冒険者グループの持ち込み品を品定めしている所だった。
私たちに気付いてくれたので、笑顔で軽く頭を下げてから店内を見回すことにする。とりあえず買う物は決めているけど、何か掘り出し物があると面白いかも。
手を後ろに組みながら、置いてある踏み台に乗って上の棚を覗いていたら、掌にムニッと柔らかい感触が。触り慣れたこの感触は、と視線を下げれば肉球でニギニギしているエンスがいた。
「シルキちゃん、コレなんかどうだニャン」
突き出してきたのは、小さな箱。長いこと棚にでも置かれていたのか色は褪せていて、開ければ中身はオルゴール。箱の外にはキチンとネジも付いている。専門ではないから詳しくは分からないけれど、多分作り自体はオーソドックスな物だと思う。ただ、気になるのはシリンダー部分と櫛歯が金属ではなく黒い石みたいな材質で出来ている所だ。可能性としては、魔物の身体を使って作った魔導具の一種なんだろうけれど、どんな効果なのか想像もつかない。まぁ、この様子からみるに効果は微妙で売れなかったのだろう。話を聞いて、興味が湧いたら買ってみようかしら。
とりあえずオルゴールはエンスに持っていてもらって、他に買う物をカゴに入れていく。コレとコレでしょ、後はコッチにコイツに……魔石は今回は要らないわね、ダンジョンでしこたま拾ってきたし。しっかしダンジョンのあちこちに転がっている景色はある意味壮観だったわ。安いとは言え、お金が落ちているようなものよアレ。
一通り買う物も揃ったので、お金が足りるかどうか計算してみる。……何とか足りるわね。予定外の出費はあったけれど、用心してお金を多めに持ってきて良かった。
後は冒険者グループとの話し合いが終わるのを待つだけなので、先にお金を準備しておこうと財布を取り出していると、冒険者たちの方も上手いこと話が纏まったらしい。ありがとうございます、また来ます、なんて言いながら出ていった。
「ごめんなさいね、シルキちゃん。お待たせして。今日はこれだけで良かったかしら?」
「はい、とりあえずこれで。ちょっと気になるのが一つあったんですが、それはまた後でにするんで」
「解ったわ。あら、また珍しい物を買うのね」
カウンターに欲しい物を広げると、コピアさんは目を丸くする。今回は何時もの素材の他に二品程、系統の違う物があるからだ。
一つは、魔術書。基本中の基本の呪文が書かれている、入門書みたいなもの。魔術が使えるようになった人は、まずはこの本を買う。そして、書いてある魔術を唱えたりして得意・不得意な魔術を調べるんだとか。感覚で解るのかな。
そしてもう一つは『底無しの袋』。冒険者や重い荷物を扱う行商人さん必須の道具で、文字通り物が大量に入る袋だ。見た目は普通なんだけれど、小さな小屋なら丸々一軒入るくらい中が広くなっている。麻と一緒に風の魔術を封じ込めたアラクネの糸を織り込んで作るんだとか。糸には妖精の粉もまぶしてあるので、重さもほとんど感じないとか。お値段は少し高めだが、一個買えば二年は持つから元は充分とれる筈。
「さっきダンジョンに連れて行ってもらって、魔術が使えるようになったんです。ほら、前に言ったじゃないですか、空飛ぶ絨毯で来てるって。絨毯を操る魔力ついでに簡単な呪文も覚えてみようかなって」
「なるほどね」
お会計をしてもらえば、手元に残ったのは銀貨七枚と銅貨二十枚。これで足りるかどうか微妙だが……訊いてみよう。
「あと、コレって何ですか?」
エンスに預かってもらっていた小振りのオルゴールを見せれば、コピアさんは丁寧に説明してくれた。
この小さなオルゴールは『夢魔のオルゴール』という品物で、バジリスクの瞳を使って硬化した夢魔の爪を、シリンダーと櫛歯に加工して作った物だとか。魔力を込めながら、或いは魔石を箱に入れた状態でネジを回すと、必ず夢が見られるらしい。
んー? 中々面白そうな品だけれど?
「結構前に持ち込みで買い取った魔導具なんだけれどね、冒険者の皆からの評判はイマイチで。シルキちゃんが買ってくれるのなら、安くするわよ」
「それは非常に助かりますけれど……なんで評判悪かったんですか? 必ず夢が見れるってかなり良いと思いますけど」
「見られる夢が楽しい夢とは限らないのよ。買った冒険者の人たちが全員こう言ってたわ『夢の中でもダンジョンに潜って、魔物に追いかけ回された。疲れた』って」
「あぁー……」
印象に残っている出来事が夢に出てきやすいんだ。まぁ、私は日常的にダンジョンに行く事はないからそういう夢を見ることは無いから、関係ないけれど。
「一応注意はしたけれど。どう、買う? 買ってくれるなら銀貨一枚でいいわよ」
「その値段なら買います」
提示された格安価格に、私は速攻で購入を決定する。でも絶対にKAERUが出てくるから、今日は使うのは控えておこう。
代金を払って品物を受け取ったら、早速袋の出番だ。ポイポイ放り込んでから持ち上げてみると、確かに重みは感じない。これだったら絨毯に乗せても大丈夫ね。良かった。
さて帰ろうかと隅に置いていた鳥かごの所に行けば、チョコは微動だにせずコピアさんを見つめている。ん、これは……コピアさんを覚えているのかしら?
そっと鳥かごの口を開けてやると、チョコは一直線にコピアさんの元へ移動した。自分が吐いた糸を使いながら器用にカウンターをよじ登ると、コピアさんの前に立つ。注がれる視線にコピアさんも気がついたようだ。「あらチョコ、久しぶり。その様子だと元気にしていたみたいね。シルキちゃんの村の暮らしはどう?」と声を掛けながら頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。ちゃんと最初に面倒見てくれた人は覚えているのね。
帰る準備は一旦ストップして、私は再び辺りを見回す。そんなにちょこちょこ連れて来られるわけじゃないから、もうちょっと感動の再会をさせておこう。ボーッと視線を彷徨わせていたら、さっきの冒険者たちから買い取ったであろう品物が見えた。他に見る物もないし、ちょっと盗み見させてもらおうっと。
一番数が多いのは、大きめの魔石かな。それに魔力を帯びてぼんやりと光っている鉱石とか、薬に使われそうな植物とか。後は魔物の素材も少し。ダンジョンよっては魔法属性が付与された武器防具が出たりもするらしいけれど、この町のダンジョンから手に入れられるのは基本的に素材だけ。武器防具は素材を持って鍛冶屋さんに作ってもらうか、コピアさんみたいに素材を買い取ったお店が鍛冶屋さんに依頼した物を買うかのどっちかになる。
そんな感じで眺めていたら、あるものが目に入って一瞬ギョッとなった。人の腕があったからだ。直ぐに尖った爪や大きさからして、小型の妖精だと気づいたけれど……びっくりしたなぁ。何に使うんだろう、アレ。
「あの、コピアさん。あの小さな腕みたいのって、何ですか?」
「ああ、コレ? イタズラ妖精の右腕よ」
「イタズラ妖精の……右腕?」
何でも、あのダンジョンにはそんな呼び名を付けられている小さな妖精がいるんだとか。戦闘能力はそれ程高くはないけれど、冒険者たちからは見つけたら直ぐに退治される魔物になっているそうだ。理由は名前の通りの『イタズラ』のせい。手に入れた素材を別の物にしたり、持ち込んだ食料や飲水を腐らせたりと、中々質の悪いことをしてくるらしい。ダンジョンに行ったことのあるコピアさんも、何度か被害を受けたことがあるらしく、やられる度に「本気で殺してやろうと思った」との事。
そんなイタズラの中でも、一番困るのがダンジョンの強制離脱だそうだ。イタズラ妖精が冒険者たちに向けて右腕を振り上げるとあら不思議。一瞬の浮遊感を味わった後、ダンジョンの入口に立っているんだとか。
「一瞬でダンジョンから出られるとか、話だけ聞いてると凄く便利そうなんですが」
「タイミングにもよるわよね。強敵を倒して素材を集めている最中だったり、やっと新しい階層にやってきたばかりだとコンニャロって思っちゃうわよ。さっきのグループの人たちもね、新しい階層でようやく欲しかった素材を採ってる最中で戻されたらしくて。オマケに袋を少し離れた場所に置いていたから、荷物はその階層に置き忘れた状態になったらしくて」
「あぁ〜、そりゃあキレない方がどうかしてますね。……荷物大丈夫だったんですか?」
「大騒ぎしながらそこの階層まで降りたって言っていたわ。今までの最短時間だったって。で、無事に荷物は残っていてくれて安心していたらまたその妖精がやってきたらしくて」
「先手を取って退治したのかニャン」
「そのついでに腕も斬り落として持ってきたみたい。たまにいるのよ、イタズラ妖精に酷い目に遭わされたから腹いせに腕持ってきたって冒険者」
「へー。で、その腕って使い道あるんですか?」
質問にコピアさんは、苦笑いしながら首を振る。
「欲しいって人は現れたことないわね。多分だけれど、買い取ってるのも私の店だけじゃないかしら。私の店は『どんな品でも買い取ります』を信条としているし、売りに来る冒険者達も『断られたから持ってきた』って人が多いし」
ふむ、となるとこの腕の使い道というのはまだ分かっていないんだ。腕を振ると戻るって言うのなら……うーん、失敗するの覚悟でちょっと作ってみようかな。
「あ、コピアさん。その腕も売ってくれませんか? 他にも残っているのなら、それも」
「いいわよ。誰も買っていかないから、本数が溜まったら骨にして、スープの出汁にでもしようかも思っていたくらいだし。何か良いもの出来そう?」
「パッと思い付いたから、失敗するかもしれないですけれど。あ、それでもし考えていたのと同じ効果が得られたら、コピアさんのお店で売ってもらうことって可能ですかね?」