道具屋さん、始めました   作:飛沫

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発売日以降、ずっと聖剣伝説3のリメイクばっかりしてました。
トロコンして現在五周目に突入しているのですが、一向に飽きる気配がありません。つまり素晴らしいリメイクってことです。
幸せ!!
そのうち聖剣伝説の小説も書きたいです。


宝石魚(試行錯誤編)

「ホラ、こっち終わり。じゃあエンス、今度は反対の手見せて」

 

「ニャーン」

 

 お客さんもいない暇な時間を持て余した私は、エンスをカウンターに座らせ出された腕の肉球を押し出すようにして触った。すると、当然ムニュっと爪が出てくるので、傍に置いていたヤスリを手にして削りにかかる。

 

「随分伸びたわねー」

 

「だって切ってないニャン」

 

「まぁね」

 

 ゴリゴリと音を立ててヤスリをかければ、多少時間はかかるが爪先は丸く、短くなっていく。本当の事を言えば切ったほうが時間がかからないのだけれど、爪切りだと折角掃除した床に切った爪が落ちてしまうので、ヤスリを使って削っているのだ。それにお客さんもいないから、時間をかけた方がいい暇つぶしになるし。

 

「そういえばシルキちゃん、あのミント臭い飴の評判はどうだニャン」

 

「ミント臭いって、なんかおかしくない? うん、この前来たコピアさんからの手紙だと、ポツポツ売れているみたいよ」

 

 馬鹿売れという程でもないけれど、いくつかの冒険者グループが人数分買ってくれているらしい。

 というのも私は知らなかったんだけれど、転移魔術というのは中々使いづらいんだそうだ。回復魔術や攻撃魔術と違い、行きたい場所というのをしっかりと意識しないと全然違う場所に飛ばされたりするのに加え、グループ全員を同じ場所に転移させるとなると、魔術師全員ができるわけではないんだとか。

 後、マクナベティルさんの方もアキュニスちゃんの体格の関係上降りられる地点が限られているらしく、ダンジョンに潜った冒険者が町に戻る為に利用するには、乗せてもらった場所まで戻らないと駄目らしく。

 転移魔術が苦手な冒険者グループが、緊急用で買っていってくれるそうだ。

 

「あのドラゴン、怒ってないかニャン?」

 

「マクナベティルさんの運び賃が、一人につき銀貨二枚に対して、蛙キャンディはコピアさんへの委託代も含めて銀貨三枚。とりあえず値段に関しては対抗してないから向こうの仕事を横取りしてる事にはなってないわ。それと手紙によると、マクナベティルさんは逆に感謝してくれているみたいよ。帰りに拾ってやれない冒険者が減るのは、何よりだって」

 

 確かに転移魔術を使えない冒険者が、魔物に襲われてマクナベティルさんの元に戻れなかったら待っているのは死だ。あのダンジョンの町は立派な教会があるから、寿命ではない不慮の死に対しては蘇生をする事が可能だけれど、高価なユニコーンの角が必要だし、遺体の条件も『死後二日以内の損傷が軽度な物』と厳しめだ。直ぐに別の冒険者グループに拾われたらラッキーだろうけれど、一階でもあんな狂暴なKAERUがいるくらいだ、深層で全滅したらあっという間に魔物の腹の中に収まってしまうだろう。冒険者たちがある日から姿が見えなくなって、しばらくしたらボロボロになった装備品が見つかったっていうのは……顔馴染みには少しクルものがあるわよね。きっとマクナベティルさんの言葉は本心なんだろう。

 

「四十個作ったうち十五個は売れたみたいだから、そのうちまた作らないとね。行商人さん用に作った只のミントキャンディも、眠気覚ましにはピッタリらしくて評判いいし。売れる商品が増えるのはいい事ね」

 

「あんなミント臭いキャンディがいいなんて、皆鼻がおかしいんだニャン」

 

 因みに、蛙キャンディもミントキャンディも、材料に虫を使ってますと表示はしてある。魔物の肉を平気で平らげる冒険者たちは気にせず買ってくれるみたいだが、やっぱり行商人さんたちは一瞬身構える人が多い。それでも、実物を見れば皆安堵して買っていってくれるけど。まぁ、虫がそのままの形で入っているわけじゃないからね。やっぱり見栄えは大事ということだ。

 

「エンスは本当にミントの匂いが嫌いなのね。はい、こっちの爪も短くなったからおしまい」

 

「ありがとうニャン。ついでに足の爪はどうするニャン」

 

「足はいいでしょ、床に爪跡もないし。あ、足で思い出したけれど、冬用の長靴の確認しておきなさい。壊れてたり大きさが合わなかったら、靴屋さんで買わないとだから」

 

「解ったニャン」

 

 元気よく返事をすると、エンスはピョンとカウンターから飛び降りて奥の方へ駆けていった。それを見送ってから、私はこの前買った『底無しの袋』を手に取る。

 

「うーん、どうしたものかしらねぇ……」

 

*  *  *

 

 悩みの原因は、五日前に村長がお店にやってきた時に持ちかけられた『相談』にあった。

 

「やぁ、シルキ。今、ちょっと時間があるか? 話したい事があるんだが」

 

「えっと……お客さんいないから大丈夫ですけれど……どうかしました?」

 

 何でもない風を装いながらも、心臓はちょっと落ち着かない。この前支払った税金を、少し誤魔化したのがバレたのかと思ったからだ。去年代替わりしたこの村長は私より六つ歳が上で、子供の頃からしっかりしていたから気が付かれてもおかしくない。

 とりあえず、お客さんに対応できるようにと扉を開けたまま奥の部屋に案内する。ミルクと紅茶を用意しながらどうやって言い訳しようか考えていたら、村長が口を開いた。

 

「話ってのは……四年前にも親父から言われていた品の事だ。覚えているか?」

 

「四年前……いえ、すいません。ちょっと記憶には」

 

 四年前と言えば、私がこの店を始めたばかりの頃になる。今よりもまだ魔物の素材や魔術に関して知識が乏しかったから、頼まれても出来なかったんだろうけれど……駄目だわ。さっぱり思い出せない。

 

「村の湧水について、覚えてないか?」

 

「湧水……あ! 思い出しました!」

 

 それまで示してもらって、ようやく記憶を引っ張り上げることに成功する。そうだ、四年前と言えば雨の日が少なくて、あちこちの村や町で水不足が発生していた。そのせいで、村にある『水の宝珠』を盗もうとする人が絶えない時期があったのだ。幸いにも大した被害は無かったし盗む側の事情が事情だったから、前の村長が同情して私に『大量の水を持ち運びできる魔導具は無いか』と相談しにきたのよね。結局、いい案が浮かぶ前に纏まった雨が何回か降ってくれたおかげで、話は有耶無耶になっちゃったけれど。

 

「ひょっとして『大量の、水を持ち運び出来る魔導具』についてですか?」

 

「あぁ、それだ。覚えててくれたんだな」

 

「まぁ、ヒント出してもらえましたし……。でも、そこまでして需要ありますか?」

 

 あくまで湧水は只の水。教会で祝福され邪や魔を祓う聖水でもなければ、快癒の魔術が込められた薬でもない。冷たくて美味しいけれど、なんの効力もない水なのだ。事実、四年前の水不足の時以来、宝珠泥棒はやってきていない。そこまでして欲しがる人がいるかな。

 と、私は懐疑的だったけれど、村長は違う考えの持ち主だったようだ。「探せば色々とあるだろう」と言ってくる。尤も、具体的な案は教えてくれなかったけれど。

 

「……まぁ一番の理由は、タダみたいな資源があるのだから、有効活用できないかって思ったからなんだがな」

 

「確かに、放っておいてもジャンジャン湧き出てますからね。元手が掛からない状態でお金を稼げれば最高ですし」

 

「そうだろう! 成功したらその金で、村をもっと整備したいんだ。この村は周りの村や町に比べれば、多少は裕福だろ? 規模に対して、職人もいるしな。整備して住みやすくなれば、移住してくれる人間が増えるかもしれない。俺は村をもっと大きくしたいんだ。目指すは町だな」

 

「大きな夢ですねー」

 

 そうはいうものの、酪農はかなり大変だから移住は難しい気がするけれど。でも、もし村民が増えてくれたら、私にとっても美味しい話だ。乳製品を作る人が増えれば、それだけ行商人さんもやってくる。ついでにとウチで買い物してもらえれば、絨毯を買う資金を貯めるのも楽になるだろう。

 

「とりあえず急ぐものではないが、方法を考えておいてくれないか。いい案があれば報酬に加え、お前が誤魔化した税金も見なかった事にしておいてやる」

 

「あー……承知しました」

 

 クソ、やっぱりバレてたか。ま、大した金額じゃないから、払えと言われれば払ったけれど。用件を伝えると、紅茶を飲み干して村長は帰っていった。そしてその日以降、暇な時には考えを巡らせているのだが。

 

*  *  *

 

「思いついたものの、どうもパッとしないのよねー」

 

 手にとった袋の口を開いて頭を突っ込みながらボヤいていると、エンスの声が聞こえてきた。袋から頭を抜いて視線をそっちに向ければ、私の名前を呼びながらエンスが戻ってくる。

 

「シルキちゃん、長靴は壊れてなかったけれど、ちょっと小さくなってたニャン」

 

「じゃあ新しいの作ってもらわないとね。はい、これだけあれば足りるでしょ。余ったら、そのまま夕飯の材料でも買ってきて」

 

 私は袋から金貨を一枚取り出すと、エンスに握らせた。エンスの長靴は足が足な分特注になってしまうので、値段が張ってしまう。流石に金貨は多すぎだとは思うけれど、まぁ用心に越したことはないだろう。

 

「ニャン。今日は魚でいいかニャン?」

 

「おまかせするわ」

 

「じゃあ魚ニャン。ってシルキちゃん、また袋とにらめっこしてるニャン」

 

「村長に頼まれた話、一応案は浮かんでいるんだけれどね。どうも気に入らないから、もっと良いのがないか考えていたのよ」

 

 今、考えているのは『底無しの袋』を改良するという案だ。半分麻、半分アラクネの糸で作られているこの袋を全部アラクネの糸にして、空間を広げる風の魔術と、水を弾く風の魔術を掛ける。そうすれば、大量の水を持ち運べる袋の完成だ。ただ、色々と問題があって。

 まずはお金だ。いくら私がチョコを飼っていて、アラクネの糸に不自由していないとはいえ、魔術がかかった純度百パーセントのアラクネの糸の製品というのはいい値段になる。私が全部一人でできればもう少し安く抑えられるかもしれないけれど、空間を広げる魔術はともかく防水の魔術は覚えていないから人に頼まないと無理だ。加えて袋を織るとなると、道具屋を営んでいる私では時間が足りない。そもそも機織り機が家にないから無理だ。結局これも人に頼む事になり、お金がかかる。詳しい見積もりを出せば、いい金額になってしまうだろう。

 そしてもう一つの問題が、欲しがってくれる客の数が未知数だということだ。水の売買を始めたらひっきりなしに注文がくればいいが、宝珠泥棒が来ないことを考えれば、あまり期待はできないと思う。『底無しの袋』の使用期限は約二年。私が考えている袋の寿命も多分それくらいになるだろう。その間に注文がどれくらいきてくれるか。少なければ、商売としては成り立たない。

 

「今思いついている方法だと『需要と供給』の関係が釣り合わなそうなのよね。村長が考えてる旨味のある商売には、ほど遠いわ」

 

「フーン、大変なんだニャン」

 

「とはいえ、至急の仕事ではないからね。これから冬に入る事を考えれば、やり始めるのは春以降だろうし。もうちょっと私らしい方法がないか探してみるわ」

 

「頑張るニャン。じゃあボク、靴屋さんに行ってくるニャン」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 と、見送っていたのだか、エンスは扉を開けたかと思ったら直ぐに閉めて戻ってきた。

 

「ちょっと、何で戻ってきてるのよ」

 

「雨降ってたニャン」

 

「傘させばいいじゃない」

 

「結構いい降りだから、傘あっても濡れるニャン。昼寝して、雨が収まったら行くことにするニャン」

 

 そう言うとエンスは、この前買った夢魔のオルゴールを持って寝床の方へと行ってしまった。全く、濡れるの本当に嫌いなんだから。

 けれどエンスの言うとおり、いい降りのせいか以降お客さんは来ず。

 結局その日は早目に店を閉め、大きな傘を持ってエンスと一緒に店を回ることにした。

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