黒髪金瞳の美人さん。APP18。年齢は26。
胸に剣がぶっ刺さっている状態で封印されている。
封印されている部屋は魔力が充満しているので、あらゆる種類の花が分単位で咲いては枯れのカオスと化している。魔物もこの部屋から生まれ、ある程度育つとダンジョンへ巣立っていく。
封印の部屋の扉には「永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ。果て知らぬ永劫ののちには、死もまた死ぬる宿めなれば」のパクリっぽい文書が刻まれている。
魔物が凶暴なのは、大好きだった冒険者(英雄たち)の一人に剣で止めをさされたから。こんなに好きなのに。酷い、憎い、絶許。でも好き。相当なヤンデレ。
出した手紙の返事が来た。予想通りの承諾の内容だったので、私は早速明日は休みますと書いた紙を店の入り口に貼って、地下室に籠もる。
「今回のも試作品だから、材料は適当に有るものでやってみよっと。基となる宝石はどれがいいかしら」
錠前がついた小さな木箱を開いて、代金として受け取った宝石を物色した。試しに作るだけだから、質は二の次。大事なのは大きさと形だ。
「うーん、これがいいかな」
手に取ったのは、親指サイズの紫水晶とカンラン石。両方とも丸みを帯びた縦長な形が、作る形にちょうどいい。
次に準備するのは、ちょっと大きめの魔石。コレをトンカチで叩いて、砕けた欠片の中から欲しい形を二つ選ぶ。ちょうど三角っぽい尖ったのがあったからコレにしよう。
そして、ポケットからリボンのように細くて長い白い布を取り出す。コレは、チョコが半端に残ったアラクネの糸で作った布だ。繋ぎ合わせて大きな布を作ってみようと考えた事もあったけれど、実現するには年単位になりそうだったので、近いうちに染めてエンスの尻尾用のリボンにでもするしか使い道がないかと思っていたけれど……良かった。無駄にならなくて。
その布を鋏で四等分にしてから、宝石と魔石を繋ぐように貼り付けてみる。この長さの半分でも大丈夫かな。布だってそんなにあるわけではないから、節約出来るのはありがたい。
さて、長さを確認したら、次は布を使って二つの石をくっつける作業だ。だけどその前に、呪文を唱えないとね。
「エウクレイデス」
布の上に右手を翳し空間を広げる風の魔術を唱えれば、中指に嵌めている指輪が小さな閃光を放つ。コレで布に魔力を込める事が出来た。後は糊で石をくっつけてから、妖精の粉を塗したアラクネの糸で、くっついている箇所をぐるぐる巻きにしてみる。ん、ちょっと不格好だけど……こんなもんかな。
そして最後の仕上げに、チカトリスの瞳で布と糸を補強する。触ってみれば布というよりも皮のような感触になっていた。これなら、動くのにも支障のない硬さだと思う。剥がすのも簡単だろうしね。
とりあえず、思い描いていた形に作ることは出来た。その後は何時ものように、少なくなっている商品を作ってからお店に出る。
「シルキちゃん、そろそろお店開けるかニャン?」
「そうね。ところでエンス、コレ何に見える?」
作った品を補充しながら、ポケットからさっき作ったばかりの試作品を取り出して、見せた。エンスはちょっと考えてから「魚?」と答える。ああ、良かった。ちょっと形が悪かったけれど、ちゃんとそう見えて。
「これが袋の代わりになるアイデアニャン?」
「そ。こっちの方が底無しの袋作るよりも安上がりで、簡単に準備できるからね。とはいえ効果の方がまだ分からないから、実際問題使えるかどうかは、はっきりしないけれど」
この前見た奇妙な夢を参考にして作った魚モドキの原理はこうだ。まず空間拡張の魔術を付与したアラクネの布を、宝石と魔石にピッタリと貼り合わせる。指輪の宝石で多少は強化されている空間拡張の魔術と、糸に塗した妖精の粉は、胴体部分の宝石に反応して本来以上の効果を発揮する、筈。
更に尾びれの代わりにしている魔石が魔力を供給してくれるので、少量の布でも広がった空間を留めておく事ができる……と思うのだ。ぶっつけ本番だから、どこまで上手くいくか分からないけれど。
要は底無しの袋の中に水を入れるんじゃなくて、瓶の水の中に袋と同じ効果を持つ道具を入れて、空間を広げようって作戦だ。理論としてはそう悪くないと思うんだけれど、どんなものだろう。
「でも、広げるってもコイツ多分沈むだけだからそう上手く……あ、だからコピアさんからお手紙がきたニャンか!」
「はい正解。後はコピアさんにお願いするって寸法よ」
そう、この魚モドキはこれで完成というわけじゃない。あの夢の時みたいに動き回ってくれないと意味がないので、魔女のコピアさんに命を吹き込んでもらって自由に動けるようになってようやく本領発揮になる。
「うーん、でもお値段が心配ニャン。高かったらどうするニャン」
「そりゃないんじゃないかしら。裏市場の時に、コピアさん言ってたでしょ『四千枚の紙に、一人で魔力を込めた』って。四千枚が全部使われるわけじゃないらしいから、いい値段するなら予備作るほど頼んでこないと思うのよね」
あ、でも『いいお金になる』とも言っていた気が。ちょっと心配になってきた。
「そんなわけで明日は起きたら、直ぐに絨毯に乗ってダンジョンの町に行くから。早めに寝なさいよ」
* * *
「お早うシルキちゃん。手紙をもらって、用事は分かっているわ。さ、どうぞ入って」
「おじゃましまーす」
「ニャーン」
次の日、コピアさんの元へ訪れると、出迎えてくれたコピアさんが「お店だとじっくり話す事もできないから」と二階の自室へと招いてくれた。
「飲み物持ってくるから、少し待ってて。触らなければ、その辺見て回っても構わないから」
一旦下へ戻るコピアさんを見送ってから、私はお言葉に甘えさせてもらい、室内を観察させてもらうことにした。うーん、広い。自室と工房を兼ねている部屋ね。あ、扉発見。棚に置いていない品物は二階から持ってきていたから、この扉の向こうが倉庫になっているのかしら?
「なんか、見ただけじゃ使い方が分からない道具があるニャン」
「それだけ本格的な工房ってことなんでしょ。私の地下室と比べるのは失礼よ」
だいたい私の作る魔導具は、作り方さえ分かれば誰でも作れるようなモノしかない。使っている器具だって、普通に売っているのばかりだしね。
グルッと一周し終えると、タイミングよくコピアさんがお盆にジュースらしきものを載せて戻ってきた。
「遅くなってごめんなさいね。オレンジジュース嫌いじゃないといいんだけれど。エンス君も平気かしら」
「大丈夫ニャン」
「良かった。それじゃあ話に入りましょうか。命を吹き込むって事なんだけれど、料金としては」
「コ、コピアさん。お店の方はいいんですか? 私はお昼とか休憩時間の合間に相談するのでも、十分ですけど」
「ああ、それは心配いらないわ。最近ね、一人雇ったのよ」
おう、それなら安心だ。でも、人が雇えるくらいの余裕があるのはちょっと羨ましいな。
「買取とかはまだ全然だけれど、接客とお金の計算には問題ないから、任せても大丈夫。対応できない事があれば呼んでって伝えてあるしね」
「男の人ニャン、女の人ニャン?」
「女の子よ。元は回復系の魔術が得意な冒険者だったんだけど、大人しすぎる性格で冒険稼業は合わなかったんだって。彼女がいた冒険者チームから相談受けてね、話をしてみれば確かに大人しかったけれど、内気過ぎて何も言えないってわけでもなかったから私の所で働かない? って誘ってみたの」
「じゃあ、彼女にとってはラッキーでしたね」
「そうだといいんだけれど。で、料金の話に戻るんだけれど、生きているように動かすだけなのよね。動ける日数によって前後するけれど、その大きさなら二匹で銅貨一枚ってところかしら」
「え、破格じゃないですか。そんなに安くていいんですか?」
「人の言葉を理解して言うことを聞かせるとか、ある程度の意思を持たせたいってなると魔術も複雑になってくる分金額もかかるけどね、動かすだけならこんなモノよ」
「ニャーン」
「で、ホムンクルスとか生き人形になると、精霊の破片使って魂を作らないとだからもっとお金がかかるわね。手間かかるし面倒くさいし」
なるほどね。
「となると魔王って名前の通り、凄いんですね」
「凄いってものじゃないわよ。精霊の破片無しに魂作れるわ、肉体も魔力だけで作れるわってもう完全に規格外よ。しかも一日に何十、何百だからね。一体何代掛け合わせたらそこまでになるんだか」
肩を竦めるコピアさんの話を聞いて、昔お祖父ちゃんから教えてもらった事を思い出す。魔女は突然生まれるものだけれど、魔女の力を持つ人が結婚して子供が出来ると、必ず魔女の力を持って生まれるんだとか。そして魔女同士が結婚すると、必ず両親よりも力の強い子が生まれると。
魔王もそうやって生まれた子らしく、お陰で世界は滅ぶ寸前まで陥った。だから今じゃ、魔女は結婚してはいけないことになっている。
「さて、お喋りはこれくらいにしておいて、早速その魚ちゃんを動かしましょうか。動ける日数、どれくらいがいい?」
「とりあえず実験なんで、三日も動けばいいですかね。あ、因みに大きさ的にはどれくらいまで大丈夫です?」
「大型犬くらいまでならいけるかしら。私、大きい物に命吹き込むのは苦手なのよ。ゴーレムとかは一度も成功したことないし。その代わり、一度に作れる数ならそれなりにこなせるから」
「分かりました。ありがとうございます」
「じゃあいくわよ。ヤルダバオート!」
呪文を唱えると、すぐさま宝石魚がビチビチと尾ビレをくねらせるようにして動き出した。早速持ってきた小さな瓶に魚を移し、一緒に持ってきていたワイン瓶に入れていた水を注いでみる。
お、おおお! なんか手品みたい、絶対に溢れる量入れてるのに水が全然溢れないなんて! なんか楽しくなってきたわ!
ちょっとワクワクしていたら、例の店員さんに呼ばれてコピアさんは降りていった。やがてワイン瓶は空になるけれど、小瓶の方はまだ余裕がありそうだ。持ってみても全然軽いし、妖精の粉もキチンと効果を発揮しているみたい。後は家に帰って、限界を調べるだけね。
「おし、お金払ったら帰ーるのは勿体無いわね。上手くいったお祝いに美味しい物食べて、ちょっと寄り道してから戻ろうか。何食べたい?」
「さっきチラッとみたんだけれど『ハーピーの肉入りました』って張り紙があったお店があったニャン。そこ行きたいニャン!」
「ハーピーかぁ。ならそこ行きましょう。初めてね、ハーピーって」
その後家に戻って調べてみたら、親指サイズの大きさでも、六十リットル程度は容易に収納できる事が解った。これだったらもっと大きいサイズ―――例えば掌ぐらいの宝石を使えば、商売として成り立つわね。
「でもシルキちゃん、宝石は高いニャン」
「水晶系なら、そこまで値段張らないわよ。それに宝石っていってもピンキリだから、質の悪いのだったら安いのあるでしょ。魔術に関しては『宝石』ってのが一番重要だからね」
「……ネコババされたらどうするニャン?」
「そんなことする連中には、二度と売ってやらなきゃいいだけの話よ。まぁ、やりとりするのは村長だから、誓約書みたいの書いてもらうんじゃないかしら。私の仕事は、儲けになりそうな方法を考えるまでだから、そこまで心配する必要はないわ」
「ニャンかー」
そして次の日、店の張り紙を見て何かを察した村長がやってきたので、宝石魚の水の収納っぷりを実践してみれば「これならいける」と無事採用になった。宝石を買う初期費用はかかるけれど、買えば永久に使えるというのも気に入ってもらえたポイントのようだ。
誤魔化した税金も、目を瞑ってもらえたし。……次からはもうちょっと上手くやろう。