道具屋さん、始めました   作:飛沫

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久々の失敗話。なので作成パートは、メチャメチャあっさりです。

そしてヒロイン力皆無の主人公。
今さらですが、少しくらい萌え要素つけとけばよかったなと思ってます。


火竜の琥珀玉(失敗作)

 地下室からゴリゴリと何かを磨り潰す音が響く。音を出しているのはエンスだ。白い前脚とピンクの肉球が、乳棒と乳鉢を抱え一生懸命動いている。

 

「シルキちゃん、ドラゴンの角はこれくらい砕けばいいかニャン?」

 

「どれどれー。ん、そうね。これぐらい細かくなっていれば問題ないわ。じゃあ次、そこに人魚の血の粉末があるから、混ぜてくれる? ちょっと量が多いけれど、残しても仕方がないから全部入れちゃって」

 

「了解だニャン。……大丈夫かニャン?」

 

「うん、平気。範囲が広いだけでそれ自体は重症って訳じゃないから。エンスが作ってくれる人魚の薬飲めば、痕も残らず治るわよ」

 

 心配そうな顔で覗き込んでくるエンスに、シルキは苦笑いを浮かべながら答える。何故、何時もは一人でやっている調合をエンスに頼んでいるかといえば理由は簡単。

 右手の掌をいつくもの水ぶくれができる程火傷してしまい、物を掴めなくなっていたからだ。

 

*  *  *

 

「さて、そろそろコイツを使って何か道具を作りたいのだけれど……問題があるのよね」

 

 それは半月ぐらい前の事。私はあちこち欠けたり、薄くなったりしてボロボロになった数枚の鱗を、扇のように広げながら悩んでいた。これは火竜の鱗といって、名前の通り火竜の身体に張り付いている鱗だ。この鱗はそのまま使うなら防火や防熱の効果を発揮するが、砕いたりして粉状にすると発熱や発火の効果を発揮するという真逆の特徴を持っている。なので冒険者たちは鱗のまま使うなら防具、粉にしたら鍛冶屋さんに頼んで製鉄時に混ぜてもらい、炎を放つ武器にしてもらうって寸法だ。

 まぁ、使い道は圧倒的に前者が多いけれど。

火を放つ剣ってカッコイイ事はカッコイイんだけれど、魔術で代用できちゃうからね。炎を出すにしても、剣に魔力流さないと駄目だし。

 そんな事を言いつつも、私が作ろうと考えているのは後者の使い方だ。こんなボロボロの鱗じゃ防火効果を十分に発揮できないだろうし、冒険じゃ発熱効果は大して役に立たないかもしれないけれど、日常生活ならばそんなことはない。

 

「何が問題なんだニャン?」

 

「んー? この鱗なんだけれどさ、粉にして他の材料と混ぜる時に熱を出すらしいのよ」

 

 私が今考えているのは、粉状にした鱗と宝石を混ぜて作った石を載せた指輪だ。これから冬に突入すると、村は身長以上に降り積もる雪のせいで陸の孤島と化す。なので私は仕事がなくなり、春になるまでご近所さんの雪掻きや牛等の世話をしてお金や食料を稼ぐのだが、手袋を着けたままで細かい作業はやりづらいと常々思っていた。だから何枚か手に入ったこの鱗を使い、発熱効果を持った魔導具でも作って手袋いらずの状態にしたかったのだけれど。さっき言った通り、大問題があるのだ。

 

「熱を出すとなると、アラクネの糸が使えなくなるからね。どうしようかと」

 

 調べたところによると、発熱の温度は100度近くになるらしい。お湯に混ぜただけで溶けて消えてしまうアラクネの糸は、一瞬で影も形もなくなるだろう。私は基本、宝石を混ぜ合わせて何かを作る場合は、粉にした宝石と混ぜたい材料に細かくしたアラクネを糸を繋ぎとして使う。そしてコカトリスの目玉で石にし直すという感じだから、それか使えないとなるともうお手上げだ。

 

「じゃあ、宝石を溶かして直接混ぜるしか無いニャン」

 

「普通の家の火力で、宝石が溶ける訳ないじゃない。ああいうの溶かすのって、多分鍛冶屋さんにあるような炉が必要よ。私の家の鍋で宝石転がしたところで、煤がついて黒くなるか変質して価値がなくなるかのどっちかになるわ」

 

「なら専門家に訊けばいいんだニャン。レイスさんとかどうかニャン」

 

「そこまで考えが及ばなかったわ。アドバイスありがとうエンス。だったらダンジョンの町に寄った時、レイスさんに相談してみよっか」

 

 そしてこの前、宝石魚の件でコピアさんのお店に行った時に、レイスさんの所にも寄って質問してみた。少し唸ってから、レイスさんは教えてくれた。

 

「そういうことだったら、琥珀を使ったらどうじゃ?」

 

「琥珀ですか」

 

「うむ。アレは正確には松脂みたいなモノで石じゃあないが、使えば宝石と同じ効果を発揮するからの。木の樹液だから融点はそれほど高くはないだろうし、火にかければ臭いはキツいかもしれんがお前さんがしたいことは出来ると思うぞ」

 

「ほうほう」

 

 これは良いことを聞いたわ。琥珀なら前に欠片を買っているし、お店の木箱にも幾つか入っていた筈。早速試してみましょう。

 

「ありがとうございます。帰ったらやってみます。あ、その内買い物にもきますのでよろしくお願いします」

 

「おお、そうか待っとるぞ。何を作るかは知らんが、思ったのが出来るといいの」

 

 お礼を言ってから、絨毯に乗って村に向かう。そして、時間があった今日に琥珀を溶かして、中に砕いた魔石と火竜の鱗を混ぜてみたのだ。

 エンスがいたら騒ぎ立てそうな悪臭と戦いながら、何とか卵ぐらいの大きさの琥珀玉が完成する。手をかざすと周りの空気がほんのりと暖かかったので、コレは上手くいったと直接掴んだのが不味かった。

 というか私は宝石を使った混ぜ物に魔石を入れるクセがついていて、それを失念していたのが失敗だった。

 僅かながらも魔力を放ち続ける魔石に、魔力に反応して熱を発する火竜の鱗。加えて、魔力の効果を何倍もあげてくれる宝石の琥珀。何が起きたかは明白だろう。

 

「熱っっ!!」

 

 握って数秒後、ジュッという音がして掌全体に燃えるような熱さと痛みが走る。反射的に琥珀玉を離したけれど、もう遅い。

 こうして迂闊な私は、右手の掌全体を火傷するというヘマをやらかしてしまったのだった。

 

*  *  *

 

「シルキちゃん、完成だニャン」

 

「助かるわ。じゃ、苦いの我慢して飲んじゃうか」

 

 エンスに指示して作ってもらった人魚の丸薬と、水の入ったコップを前にして、私は覚悟を決める。

「よし」と呟いてから、左手で丸薬を摘まんで口の中に放った瞬間だった。エンスが「あ!」と悲鳴を上げる。

 

「ステビア入れるの忘れたニャン!」

 

「ちょ、そういうのはもうちょっと早くいいんんん!?」

 

 咄嗟に口を固く閉じて、手で塞ぐ。何コレ!? 苦い通り越して喉が嚥下するの拒否するレベルなんですけれど!?

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛!」

 

 あまりの刺激にじわりと涙が浮かぶ。ヤバイ。このままじゃ、一分以内に吐き出しちゃう。でも人魚の血はもう在庫がないから、なんとしても飲み込まないと!

 私は急いで、近くの水槽に駆け寄る。そして、中にいる一匹のナメクジをつまみ上げると同時に口の中に押し込むようにして突っ込み、思いっきり奥歯で噛む。

 ブチュ、という感触がして口全体が甘くなる。うぅ苦味と甘味が合わさってこれまた微妙な味だけれど、なんとか、なんとか、飲み込めるわ!

 

「んぐっ!」

 

 後は口直しにもう一匹摘まんで、口のなかで転がす。安堵の息を吐いていると、耳をへたらせたエンスがやってきて謝ってきた。

 

「すっかり忘れてたニャン。ごめんニャン」

 

「いや、私も指示し忘れていたからいいわよ。しっかし苦さに血の味が合わさると、あんな最悪な味になるとわね。ステビア混ぜる選択は間違ってなかったわけだ」

 

「それにしても、さっきの凄い絵面だったニャン」

 

「ええ、お客さんなんかには絶対見せられないわ」

 

「……ところで、あの玉はどうするニャン?」

 

 エンスに指差されて、放り投げて転がったままの琥珀玉の事を思い出す。うーん、そうだなぁ。

 

「そのままじゃ熱くて使えないから、布で何重か包んでお風呂にでも入れて保温材にでもするしかないかな。今のところそれぐらいしか思いつかないわ」

 

「作り直さないニャン?」

 

「んー」

 

 魔石入れないで琥珀だけで混ぜて作っても、魔力流せばあの熱量になるのならば、指輪として使うのは無理よね。琥珀じゃなくてガラスにすればマシかしら。でも、ガラスってそう簡単に溶かせるのかな。さっぱり解らない。

 

「再チャレンジするとしても、しばらくは無しかな。鱗は全部使っちゃって、代替案も浮かばないし」

 

「じゃあ、今回は失敗作だニャン」

 

「久々のね。しかも治ったとはいえ、火傷するオマケつき。ちょっとへこむなー。肉球ムニムニして、お腹モフモフしないと元気でないかも」

 

「しょうがないニャン! せっかくだから、オヤツも作ってあげるニャン!」

 

「やった!」

 

 冗談めかして我が儘を言えば、ヤレヤレと肩を竦めながらもエンスも乗ってくれた。やっぱり失敗すると、落ち込んで気分も良くないけれど、関係ないお客さんには見せられない。

 ガッカリしたことは二人だけの秘密にして、今日も何時も通りに頑張りますか。

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