道具屋さん、始めました   作:飛沫

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前回のナメクジ食いは、正直ブクマ下がるだろうなーと覚悟していたのですが、気がついたら増えているという予想外の展開に。
アレ?意外とナメクジ君人気者?


今年最後?のご新規様

 リンゴジャムのパンとミルクたっぷりのコーヒーの朝食を終え、エンスと一緒に食器を片付けた後、私は地下に降りずせっせと編み物に勤しんでいた。

 そろそろ雪が降って行商人さんが訪れなくなるため、商品を補充する必要がないのだ。なので今はあるだけの品で対応し、足りないようなら作って後で改めて取りに来てもらう、という流れをお願いしている。使用期限のある品の在庫抱えたくないしね。

 

「シルキちゃん、そろそろお店開けるかニャン」

 

「そうね、すぐにお客さんが来ることはないでしょうけれど、時間だから開けとこうか。あ、その前にエンス、手を出して」

 

「ニャーン」

 

 差し出された手に、今編んでいる手袋を当ててみる。この前、長靴が入らなかったのでひょっとしたらと調べたら、手の方も多少大きくなっていて窮屈になっていた。なのでちょうど村の人から、今年刈った羊毛で作った毛糸をもらったので、空いた時間で作ってみたのだが。

 

「んー、少し大きいかしら。ちょっとはめてみてくれる?」

 

「確かにおっきい感じだけれど、ぶかぶかってほどでもないニャン。外でお仕事するには、不都合は無いニャン」

 

「そっか。じゃあ、編み直さなくてもいいわね」

 

 それなら私の分を編んで、残った毛糸の量をみてマフラーでも作ればいいか。

 

「チョコ、貴女も新しい毛糸いる?」

 

 鳥かごの中にいるチョコに今ある毛糸を見せながら訊ねれば、しばらく私の掌にある毛糸の塊を見つめてからゆっくりと首を振る。そして、足元に置かれている手袋の毛糸を解す作業に戻った。

 チョコが解しているのは、去年殆ど使わなかった私の手袋。チョコが冬に強いのか解らなかったので(ダンジョンは温度が一定だし)、暖をとれるようにと手袋を一組、鳥かごの中にいれてみたのだ。するとチョコは、手袋の右手を布団代わりにして潜り込み、左手はほどいて自分とトリュフのセーターの材料にし始めた。まさかの行動に少し驚いたけれど、チョコやトリュフサイズの服を作れるほど私は器用ではないから、自作してくれるのはありがたい。

 

「ふーん。まぁ、足りないようなら教えてね。直ぐに分けるから」

 

 コクコクと頷くチョコを眺めてから、トリュフの姿を捜してみる。いつもチョコの傍を離れないから、近くにいると思うんだけれど―――あ、見っけ。

 鳥かごの裏に、トリュフはいた。いつの間に捕まえたのか、羽虫を一生懸命針に刺している。これはチョコの朝御飯かしら? やはり夏に比べると、虫が貧相だ。ベーコンの切り落としがあったから、それをプラスしておこうかな。

 立ち上がって食材を持ってくるついでに、店の鍵も開けておく。そうして、カウンターまで椅子を引っ張って編み物の続きに取り掛かる。開店と同時にお客さんが来るほど私の店は繁盛していないし、雪で来られなくなる前に買いだめしておこうと、行商人さんたちの方も酪農家の人の方を優先させるし。なので最初のお客さんがくるのも、三十分ぐらい後だろうと思っていたのだが。

 

「あら」

 

 十分ぐらいで扉のベルがなったので、顔を上げる。珍しい事もあるものだ、と思っていたら。

 

「やぁ、姐さんおはよう。オレのこと、覚えてる?」

 

 入ってきたのは以前裏市場で買い物をした、砂漠のオアシス生まれだと言っていた青年だった。

 

*  *  *

 

「ええ、覚えてるわよ。あの日以来ね。態々来てくれたんだ?」

 

「半分正解。あの市場で一仕事した後は、他を色々回っていてさ。また、こっちにくる用事が出来たから、姐さんの言葉を思い出して足を延ばしてみたんだ」

 

「ふーん」

 

「で、折角だから姐さんのお勧めの乳製品を買い付けようかと思って、村に来て直ぐにここに来たんだ。いやぁ、広々としたいい村だね」

 

「え? よくお店が解ったわね。村の誰かに訊いたの?」

 

 私の店は解りやすい村の入り口ではなく、もう少し奥に引っ込んだ所にある。まぁ、看板はあるし村自体それほど大きくないから、ちょっと探せば見つかるけれど、来て直ぐってのは難しいんじゃないかしら。

 

「ああ。ちょうど向かい側から歩いてくる人がいたからね、教えてもらった」

 

「ふーん」

 

「藍色の長い髪の凄く綺麗な人だったよ。この村は美人さんがいていいね。また来る理由の一つになる」

 

「藍色の髪……ねぇ」

 

 パッと頭の中に数人の候補が浮かぶけれど、会いに来たいほどの美人となると。

 

「その人、私と同じくらいの歳で狩人の格好していた?」

 

「そうだな。姐さんの友達?」

 

「ええ、幼馴染みのステリアちゃんよ」

 

「へぇ」

 

「言っておくけどステリアちゃん、もう結婚しているからね」

 

 ついでに言うと、もう二児の子持ちだったりする。旦那さんは十も離れている元狩人で、結婚する切っ掛けも、この旦那さんが怪我で狩人を辞めると言ったからだ。

 元々、旦那さんに狩人の仕事を教えてもらっていて、彼に好意を抱いていたステリアちゃんはその言葉をきくやいなや「だったら私が養うんだー!」と叫んで家に突入。その後も毎日の日課のように猛烈なアタックを仕掛け、遂に旦那さんが白旗を上げる事になった。ちなみに、プロポーズもステリアちゃんからするという徹底っぷり。旦那さんは女顔でも華奢な訳ではないけれど、あの時ほどステリアちゃんが漢らしく見えた日はなかった。

 

「そうなんだ。あぁ、別にあの姐さんを口説いてどうこうってつもりはないぜ」

 

「ステリアちゃん綺麗な見た目とは裏腹に、知り合い以外には結構容赦ないから変な気を起こしても、冷たくあしらわれるだけよ。あんまりにもしつこく迫って、魔術食らってた人もいたしね」

 

「そうはならないから、安心してくれ」

 

 なら、いいんだけれど。

 

「それで、用件は何かしら? 乳製品なら、私の店じゃなくて直接作っている人の元へ行った方が早いし安いわよ」

 

「いや、どうせなら姐さんのお勧めの味を教えてもらおうかと思って。姐さんの紹介って言えば、向こうさんともスムーズに交渉出来そうだしさ」

 

「それもそうね。だったら、チーズは---」

 

 とりあえず、私が懇意にしている何人かを教えておいた。簡単な地図を描いて渡したので、迷うこともないだろう。

 一通り話をした後、彼は私が作っている商品にも興味を持ってくれたので、軽く説明すれば「へぇ、便利そうだ! 買わせてもらうぜ」と色々お買い上げしてもらえた。こっちも在庫が捌けてくれるのは非常に助かるので、期限の近いユニコーンの水薬をオマケしておく。

 私も人魚の粉末が欲しかったので訊ねてみたのだが、アレは大して売れないからあんまり持ち歩いてなく、裏市場で買ったので最後だったらしい。というか、売り物が全部捌けて在庫が空になったから、仕入れにこの村にきたんだとか。うーん、残念。

 でも、全く収穫がなかったわけではない。そのまま彼---クヴァンジュ君の故郷、砂漠の話になったのだけれど、水場の関係で町や村の距離が凄くあって交流が大変な分、転移魔術や移動の魔導具が凄く発達しているのだとか。

 空飛ぶ絨毯もクヴァンジュ君の町で作っている魔術師が何人もいて、頼めば多少融通をきかせてくれると言うことだ。

 

「その代わり見た目がちょっとアレな、訳あり品って奴だぜ。性能には問題ないから、その辺を気にしないでくれるなら承るよ」

 

「乗るのなんて私たちくらいだから、そこまで煩く注文付けませんよ。じゃあ、その時は宜しくお願いしますね、クヴァンジュさん」

 

「長い付き合いになると解った途端、あからさまに口調が変わるんだな、姐さん。ま、そういうの嫌いじゃないぜ」

 

 その後もダラダラと世間話をしていると、あっという間に三十分くらいが過ぎていく。

 

「これ以上いると、他のお客さんが入れないだろうから、失礼するぜ。姐さんまたな。春になったらよらせてもらうよ」

 

「ありがとうございましたー」

 

 クヴァンジュ君が買った物を底無しの袋に積めていると、彼の服から小さな袋が落ちた。だが、クヴァンジュ君は気づいてない。

 

「何か落ちましたよ」

 

  カウンターから出て、拾ってみる。ん、柔らかいわね。中身は何かしら?

 首を傾げていると、気持ちが伝わったのか袋の口が開いて『中身』が見える。

 『ソレ』は目玉だった。真っ赤な目玉が、ジッと私を見つめている。固まっていたら、ソレはズルリと袋から出てきた。

 イメージをしてもらうなら、蜘蛛が近いだろうか。真っ赤な目玉からは、両脇に黒い繊毛に覆われた脚がついているのだ。もっとも蜘蛛と違って、この目玉に付いている脚は十二本だけれど。

 相変わらず固まっていると、それに気づいたクヴァンジュ君が「ゴメンゴメン」と謝りながら袋を回収する。すると、目玉の化け物も袋の中に引っ込んだ。

 

「ビックリさせて悪かった。コイツは蟲使いの幼馴染みがくれた、幸運のお守りなんだ。コイツがいるからか、商売も結構順調でさ。今じゃ大事な旅のお供だよ」

 

「フ、フーン」

 

「でも姐さんが叫び声上げたり、放り投げないで本当によかった。コイツ、自分に酷いことする人間には仕返しするんだ。怪我させたり、不幸な目に遭わせたりさ」

 

「よ、良かったニャン。シルキちゃん」

 

「じゃ、オレ行くよ。姐さんも元気で」

 

 軽く手を挙げて、クヴァンジュ君は出ていった。扉がしまったのを確認してから、ボソリと呟く。

 

「コレが異文化コミュニケーションってヤツになるのかしら」

 

「あんなお化けが幸運のお守りだなんて、世界は広いニャン。それにしても、不幸のお裾分けがなくてよかったニャン。解ってて、何もしなかったのかニャン?」

 

「ううん、単純に衝撃的過ぎて動けなかっただけ」

 

 結果的にそれが吉と出てくれたけれど。

 

「まぁ、最後のカルチャーショックはビックリだったけれど、面白い話が色々聞けたのは収穫だったわ。新しい商品も閃いたし」

 

「ニャン? 早速作るかニャン?」

 

「そうね。売るのは来春になるだろうけれど、今年最後の新商品、明日にでも作ってみるとしますか」

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