道具屋さん、始めました   作:飛沫

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これにてこの話は完結です。
長い間お付き合い下さり本当にありがとうございました!!
とりあえずおしまいですが、何か小咄を思い付いたら更新したいと思います。

そして、またアイテムのネタが浮かんだら、続編を書きたいと思うので、その時はよろしくお願いします。


ウサギ&ライチョウの足 ターコイズ付き

「エンス、そろそろ休憩にしましょう。鍋の方も温まったみたいだし」

 

「分かったニャン」

 

 呼び掛けると、持っていたシャベルを雪山に突き刺してエンスが傍までやってきた。座る場所に濡れてもいいぼろ布を敷いてから、私はかけていた鍋に指を入れて温度を確認する。うん、だいぶいい感じ。持ってきていた火箸で、鍋の中に突っ込んでいた火竜の琥珀珠を取り出したら、厚手の布にくるんで胸元に仕舞う。あー、温かい。

 冷えた身体が少し温かくなったので、今度は琥珀珠をエンスに渡してから、木でできたコップを二つ準備する。鍋の中で保温していたのは牛乳と蜂蜜。牛乳は人肌くらいの温かさになっているし、蜂蜜もトロリと柔らかくなっているから、直ぐに溶けてくれそうだ。

 

「はい、エンス。蜂蜜は好みで入れてね。これ飲んでもう少し頑張りましょう」

 

「ありがとうだニャン」

 

 コップを渡せば、エンスは直ぐに息を吹き掛けて牛乳を冷まし始めた。その間に私は蜂蜜を入れちゃおうと、スプーンで掬ってかき混ぜる。雪掻きして疲れたから疲労回復の意味も込めて、少し多めに入れたんだけれど……ちょっと甘過ぎたわね、コレ。どうしよう。

 チラリと鍋の中を見れば、もう牛乳は残っていない。仕方がないのでそのまま飲み干し、口に残る甘ったるさは新雪を食べて調整することにした。ようやく口の中がサッパリしたので、ふぅと一息ついていると、遅れてエンスも飲み始める。そのまま十分くらい身体を休めていると、エンスが申し訳なさそうな顔つきで話かけてきた。

 

「シルキちゃん。ボク、もう少ししたら夕飯の準備をしないとだから、家に戻らないとだニャン。残りはお願いしてもいいかニャン」

 

「大丈夫よ。頼まれていた雪掻きもかなり片付いたから、これくらいだったら私一人で終わらせられるわ。何だったら、休憩終わったらそのまま戻ってもいいし。あ、戻るなら鍋一式持っていってくれる?」

 

「それぐらいお安い御用ニャン。じゃあボク、帰るから後はお願いだニャン」

 

「ええ、転ばないよう気を付けなさいよー」

 

 鍋を抱えて走るエンスの後ろ姿を見送ってから、私もソリに雪を載せて決められている雪捨て場所へと向かう。疲れるけれど、私の胸元くらいまでしか背丈のないエンスと私だったら、明らかに私の方が早く終わらせられる。とっととやって、お風呂でゆっくり疲れをとろう。

 それから一時間程で、頼まれていた箇所の雪掻きは終わる。家の人にそれを伝え代金を貰うと、一緒に塩漬けの肉と大きめのチーズを渡された。

 

「いいんですか? こんなにいただいて」

 

「ああ、シルキにはこの冬の間、何度も世話になるだろうからな。チーズ好きなんだろ? エンスと食べてくれ」

 

「じゃあ遠慮なくいただきます。人手が欲しい時は、気軽に声かけて下さいね」

 

 深々と頭を下げてから、上機嫌で家へと向かう。こういうオマケが結構あるから、冬の仕事は大変だけれど嫌いではない。

 玄関の扉を開ければ、暖められた空気が全身を包んだ。こういう時、誰かがいてくれるのは本当にありがたい。家に帰ってからまた一仕事って、地味に悲しくなってくるからね。

 

「お帰りニャン。今日は温かいシチューにしたニャン」

 

「ありがとー。やっぱり寒い日には熱々のスープが一番ね。チョコ、トリュフただいま。外は凄く寒かったわよ」

 

 コートに積もった雪を払っていると、モコモコに着こんだチョコとトリュフが出迎えてくれた。チョコは思っていた通り寒さに強くないので、部屋が暖かくないと手袋の中からは出てこない。ただ、冬眠はしないみたいだ。トリュフは人形だから寒さは全く気にせずに動いているけれど、チョコが作ってくれたからか毎日律儀にセーターを着て、机の上を箒で掃いたり雑巾がけをしてくれていたりする。小さい人形が精一杯頑張っている姿は、結構な癒しだったりする。

 

「そういえば、明日もお仕事あるニャン?」

 

「ええ、厩舎の雪降ろしが待ってるわ。それやったら二日はお休みにしているから、一日は家の掃除をして、もう一日はゆっくりしましょう」

 

「じゃあその日はボク、お布団から出ない事にするニャン」

 

「だったらご飯は宿屋で摂ることにしよっか。そんなに混んでないといいけれどね」

 

 皆でテーブルを囲って食事をしながら、今後の予定を話し合う。普段なら行商人さんで賑わう村唯一の宿屋兼食堂は今、近隣の村から来た子供達の宿舎になっている。畑が雪に埋もれてすることが無いからと、家畜の世話や除雪作業の手伝いにきてくれているのだ。

 子供だから出来ることには限度があるので、貰える金額はそんなに多くない。大人の出稼ぎに比べれば半分くらいだと思う。

 けれど宿と食事代を引いても、一冬働けば子供にとっては大きな額のお金が貯まるらしく、宿屋は子供達で満室だ。因みに一日働いた子たちは結構な量のご飯を食べるから、宿屋で食べる時は混み具合の他に食材の残り具合も気にしないといけない。下手するとみんな食べ尽くされて閉店、って可能性もあるからね、その辺は気を付けないと。

 

「シルキちゃん、今日は疲れただろうから後片付けはボクがやっておくニャン。お風呂に入ってきていいニャン」

 

「いいの? ならお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

「任せるニャン。だから明日も頑張ってニャン」

 

「了解。エンスも夕飯の支度頼むわね」

 

 じっくりお風呂に浸かって疲れをとった後は、もう眠るだけになるのだが一仕事しようと自室の机に向かう。この時季の地下室は寒すぎて、とてもじゃないが短時間でもいたくないのだ。

 

「よっと」

 

 縛られていた巾着の紐を解いて机の上に広げる。転がり出てくるのは沢山のウサギと少量のライチョウの足だ。これはステリアちゃんに頼み、一年かけてコツコツと貯めてもらったもので、掃除と消毒は済んでいるから、後はもう加工するだけ。やっぱり持つべきものは親友だ。まぁ、こっちもステリアちゃんのお願いには融通をきかせたり、多少のオマケはしたりと出来る限りの便宜は図ったんだけれどね。

 とりあえず近くに転がっていたウサギの足を手に取り、巾着と一緒に用意していた小箱を引き寄せる。開ければ箱一杯に入っているのは、ブローチの留め具。村の鍛冶屋さんに頼んで作ってもらっていたのだ。

 幾つか箱から取り出してからウサギの足に宛てがってみて、カーブや当たり方が微妙に異なる中から、一番しっくりくるのを探しあてたら貼り付けるための準備にうつる。木の器に半分くらいの粉を入れてお湯と混ぜれば、糊のように粘った状態へと早変わりだ。

 

「チョコにトリュフ。見にきたの? これはね、ダンジョンにいる大蜘蛛の糸を乾燥させて粉にした物よ。粘着性の強い糸らしくてね、お湯に入れると簡単に接着剤になるの」

 

 本来の糸は、大人の冒険者の動きを鈍らせる程らしいから、かなり強いのだと思う。けれど一度乾燥させたからか、そこまでの粘着力は無くなっている。とにかく、お湯に入れるだけで使い勝手のいい糊になってくれるので、私としては非常に楽でありがたい。膠もいいんだけれど、冬だと使い勝手悪いからね。

 留め具にこの糊を塗って、グーッと数分押し付ければ、ウサギの足のブローチが出来上がりだ。そしてピンの部分に、小さなターコイズを付けたチェーンを通して完成。安物故に色は褪せて白に近いけれど、石がターコイズであれば品質に問題はない。

 こんな感じで、ブローチを二つ作ってから片付けをしていると、チョコが不思議そうな顔で私をみる。もう終わりなのか、と。

 

「これは春になったらお店に出す品だから、急いで作らなくていいのよ。雪が溶けるまでまだまだかかるから、少しずつ作っていくの。さ、もう寝ましょ。お休みなさい」

 

 ランタンの火を消してベッドに向かえば、チョコは手袋の中に潜り込む。基本こんな毎日で、たまに買い物を頼まれ絨毯でダンジョンの町に出かけるを繰り返している内に暖かくなって、人の往来が可能になるくらい雪も少なくなってきたので、お店を再開する。一番最初に来てくれたお客さんは、兄弟で行商をしているお得意様だった。

 

「やぁ、久しぶり。冬の間はどうだった?」

 

「毎日、身長以上の雪相手に頑張ってましたよ。お二人さんは?」

 

「こっちも雪の少ない町や村を渡り歩いてたよ」

 

 数ヶ月ぶりの雑談話を交えた商売は、やはり楽しい。それに久しぶりだからか、買ってくれる量も種類も多いし。

 

「あ、忘れるところだった。シルキちゃん、ラビット・フットのブローチある?」

 

「ありますよー。この時期の目玉商品ですからね」

 

 言いながら、カウンターの下にしまっていたケースを取り出して二人に見せる。しばらくの間、どれにしようかと色々手に取り悩んでいたが決まったようだ。

 

「じゃあ、俺はコレ」

 

「僕はコッチで」

 

「ありがとうございます」

 

 代金を受け取って、それぞれにブローチを渡す。このウサギとライチョウの足のブローチは、春から本格的に商売を再開させる行商人さんたちにとって、幸運のお守りとしてそこそこの需要がある。何より。

 

「ん、じゃあ交換な」

 

「あいよ、兄さん」

 

 チェーンに繋がったターコイズは、怪我の身代わりになってくれるのだ。この小さな石でも、落馬程度の怪我なら一度だけだが無かったことにしてくれる。しかも、ターコイズは人に贈られる事によってパワーが上がるらしい。こうやって交換するだけで、褪せた色も鮮やかな水色に戻るのだ。だからこの時期は、中のよいグループでやってきてお買い上げしてくれる事が度々ある。

 お二人を見送ってから、私は次のお客さんを待つべくカウンターへと戻る。この一年も良い年になりますように、そんな願いを胸に抱きながら。

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